何となくですが、シャルルさんの扱いがと思われるかもしれませんが・・・・・・
しっかりフォローは入れますので・・・其の辺はよろしくお願いします。
早朝のIS学園の生徒会長室には、一夏を中心に数人の生徒、教師である千冬の姿もある。
「さてと、此処から先はかなり込み入った話になるが、それでも良いのか?」
一夏の胸元に存在するヴリルが、セシリア、シャルルに問い掛ける。
「あの……一夏さん。昨日のあの怪物は……」
セシリアは戸惑うように一夏を尋ねる。
「アレはな…「ヴリル、私から説明をする」
ヴリルの言葉を遮るように一夏が発言する。
「アレは……魔獣 ホラー」
一夏の言葉に対して、生徒会長 楯無の顔が曇る。ついに学園に現れてしまった”脅威”に対して………
虚は聞きたくないのか、無言のまま室内から出て行ってしまった。一夏は気にすることなく続ける。
「奴らは人間の邪心、欲望という”陰我”に付けこみ、憑依する」
一夏からの説明を聞き、セシリアとシャルルは信じられないといった表情だった。
「一夏さん、そんな”存在”ありえませんわ……つまり、アレは……元々は”人間”だったというのですか?」
昨夜の巨大な怪物はホラーに憑依された人間の成れの果てというのだ。つまり一夏は、昨日自分達の目の前で”人を殺した”という事なのだ……
「……そう人間に限らず、邪心の篭ったモノにだって憑依する事だってあるんだ」
「織斑君…さすがに”IS”に取り付くなんて事は冗談でも言わないでよね……」
楯無が頬を引きつらせながら口を挟む。千冬も口には出さないがそれはないと言いたげである。
「そうでもないんじゃないの?第一、昨日の奴はISに対して執着してたみたいだったし……IS操縦者に憑依して、それを喰らう可能性も十分にあるわよ」
鈴が楯無に対して反論する。可能性は無くはないのだ。
「………………」
話についていけないのかセシリアは何もいう事ができなかった。以前、鈴が言っていた一夏の事についても理解してしまった。
一夏は自分達の知らない想像を絶する世界を生きていることを………
さらにその世界を拡大させてしまっている原因が”IS”であることも・・・・・・・・・
何を発言していいのか分からないセシリアと違いシャルルは、今にも泣きそうな目で一夏と鈴を睨んでいた。
(嫌だよ……どうして、僕がこんなことに巻き込まれるんだよ。普通じゃないよ、こんなのって………嫌なことを無理やりさせられて、さらに嫌なことが降りかかってくるなんて………
どうして僕の周りにはこんなにトラブルが多いんだよ!!!!!!)
元々は一夏の調査の為に大嫌いな父親から命令されてこの場に来ているシャルルにとって”一夏”はある意味自分の不幸の原因ではないかと思うようになってしまった。
「此処”IS学園”には、陰我を呼び寄せる要素が多い。だから、さらに護りを固めなければならない」
「一夏、この間の零にも話をしたよな。ってことは、”アイツ”が来るってことか?」
ヴリルが昨日の件を思い出したように言う。
「ヴリルの言うアイツって?もしかして、あの人が!?!」
鈴の言葉に一夏は、
「うん、魔戒法師のレオさんにお願いして、このIS学園に護りの結界を貼ろうと思う」
元老院
全ての番犬所を束ねる上位機関。ここに所属する魔戒騎士、魔戒法師は名実共に最強を誇るものが大半を占める………
異界に存在する巨大な西洋風の城の中に元老院は存在する。その元老院の廊下を一人の男が歩いている。
男の名は、冴島 鋼牙。魔戒騎士の最高位である”ガロ”の称号を持つ者である……
鋼牙はやがて元老院の奥の間に辿りつく。そこは、上位の神官”グレス”が居る間である。
泉に浮かび上がるように白いドレスを着た女性 彼女こそ元老院の上位の神官である”グレス”である。
『冴島鋼牙、昨日のホラー討伐の件、ご苦労様です』
「全くだぜ、このところ商売繁盛だな」
「ザルバ……少し口が過ぎるぞ」
上位の神官であるグレスに対してため口を聞くザルバを戒める鋼牙であった。
『はい、あの”白騎士事件”からホラーはこれまでに例のないくらい増えています。何故か、あの学園の”陰我”から現れませんでした』
「そのことですが、ホラーは、自分達にとって住み心地の良い”世界”に変えた”織斑千冬”に感謝して彼女の周りに、関係している場所には現れなかったとのことです」
グレスの疑問に鋼牙が答える。ここに来る前に盟友である涼邑零から聞いたのだ。今まで分からなかった事についてグレスは
『それは、蒼天騎士 ジン。いえ、織斑一夏より齎された情報ですか?』
「はい、確かです。一夏もホラーより聞いたそうです」
「ホラーの言う事が何処まで信用できるか、知らないがな」
『ホラーの言う事を真に受けることはありませんが、彼らが私たちの知らない変化を得ている可能性も視野に入れなくてはなりません』
今まで永遠とも言える”時間”の中でこの世界を見てきた彼女は気づいていた。最近になって”ホラー”に僅かながら変化が起こっていることを………
「先日、あの学園をホラーが襲撃しました。以前にも襲撃を掛けたようですが、一夏の手で防がれました」
「ああ、ついでに試練も乗り越えた。そういや、鋼牙、まだカオルの事で礼を言ってなかったな」
「……ザルバ。無駄口が過ぎるぞ」
関係のない話題を持ってくるザルバに対し、鋼牙はまた戒めるのだった。
『そうですか、織斑一夏は良い騎士に育っているようですね』
グレスは微笑んだ後、
『西の番犬所からも依頼がありました。あの学園での”陰我”を防ぐために強固な結界を貼ることについて……私、グレスから命じました』
「元老院、自らがこの件に関わると……」
鋼牙の言葉にグレスは
『はい、今まではホラー同士での”約束事”があったようですが、それを律儀に”守る”者ばかりではないでしょう。それ故に、あの学園に結界を張ります』
「確かにな、未来ある若い娘さん達をホラーの犠牲にするわけにはいかないもんな……」
ザルバの言葉に鋼牙もまた頷くのだった………
『今回の結界の件は、布動 レオに指令を出しました……』
一夏が試練を受けてから数日後、その間にも一夏と鈴は近隣に現れる”ホラー”の討伐を行っていた。
あれからシャルルは、二人に近づきたくないのか顔を合わせても直ぐに何処かに行くようになってしまった。
こちらから声を掛けても酷く怯えるように…………
その日の放課後、一夏とセシリアは中庭に来ていた……
「一夏さんは、どうして魔戒騎士になろうと……あのような戦いを続けられるのですか?」
「……忘れたくなかったからかな。師 闘牙を……」
「一夏さんは、辛くはないのですか?いつもあのように身を削って、誰かの為に戦う事が……」
「辛くないといえば嘘になるよね……どうして、私達は人間らしい暮らしを捨ててまで、ホラーと戦わなければならないのかと考えてしまう……」
ホラーとの戦いが辛いが故に”心”を封印し、その使命を果たそうとした時期もあった。かつての先輩 魔戒騎士たちも同じだった……
それ故に笑う事を禁じたかつての”白夜騎士”。
”俺達、魔戒騎士、”護りし者”の本当の姿は、ただ使命の為だけにホラーを狩る事ではない。心のうちに護りたい者の姿を浮かべ、今、やるべきことの見えているものだ”
様々な戦いを経た”白夜騎士”の言葉が一夏の胸に木霊する。自分にもそういうものが現れるかもしれないという言葉と共に………
「それならばっ!!逃げても構わないのではないのですかっ!!!報われない戦いからっ!!!」
思い切ってセシリアは一夏に想いを伝える。魔戒騎士の戦いは決して賞賛されることはない。
世界の闇は、今や今までにない規模で発生している。かつては細々と現れていたのだが、現在はISによる”女尊男卑”で闇”ホラー”が大量に現れている。
自分達IS乗りはいい気になって空を飛んでいたのだが、自分達の影から”闇”が溢れ出していた事に気がつかなかった……
見下していた男たちがその尻拭いをしていたことにも・・・・・・・・・
「……私がそう生きることは決めたからだ。だからこそ、最期の最期まで”魔戒騎士”として……」
「それは、強がりではありませんのっ!?!辛いのなら、どうして、そうしてくれないのですかっ!?!」
”魔戒騎士”として生きる一夏を姉である千冬は辛そうにしている。当の一夏は……
「私は”魔戒騎士”だ。”魔戒騎士”は”魔戒騎士”としての振る舞いがある。皆を不安にしては、他の皆に示しがつかない。……だからこそ辛さを表に出すわけにはいかないんだ」
その言葉が一夏の全てだった。”護りし者”としての相応の振る舞い。
鈴は学園の周りを探索するように結界を修繕していた。
壊されたのは一部だけではあるが、これからどのような存在が現れるか分からない。故に結界を強固なものにしなければならないと考えていた。
「う~ん。アタシじゃこんなもんか……」
直した結界を見て鈴は溜息をついた。低級ホラー程度なら侵入を防げるが、それよりも強いホラーが現れれば自分の結界など一瞬で壊されてしまう。
「邪美さん辺りならもっと強い結界を張れるかもしれないのに……」
自身を鍛えてくれた法師達を思いながらも弱気になってはいけないと直ぐに気を引き締める。
”鈴、確かに私達魔戒法師は、魔戒騎士のような力はない。だが、それは私たちが騎士達よりも格下というわけではない。騎士と法師に限らず、人には己の成すべきことが存在する。それを見つけ、受け止めることが出来るのは己自身だ”
修行を始めて、圧倒的なでの自身の力不足を嘆いたが、彼女は頭ごなしに説教をせずに説いてくれた。
「………思えば、一夏は最年少で”魔戒騎士”になったけど、アタシは一人前の法師ですらないから……力不足も当たり前か……」
少しだけ自分は調子に乗っていたかもしれないと思い鈴は新たに決意を固める。
「アタシも負けてられないわね」
半人前ながらも鈴は自身のできる事をと思い、学園の周りにある”陰我”のオブジェを一つずつ封印していく………
その日は、一年一組 副担任の山田真耶は用事で外に出ていた………
IS学園がらみの件である。スポンサーである企業への会議に出席していたのだ。
平日であるために、人通りはそれほど多くはない。
「ちょっとっ!!そこのあなたっ!!!」
突然、誰かに呼ばれたかと思い真耶は振り返った。声のするほうに目をやると一人の女が男に絡んでいた。
「あなたねっ!!!私がしろといったなら、やりなさいよ!!!」
女は脇にある山のような荷物を男に持つように言っている。いや、命令しているのだろう……
「悪いですけど、僕はアナタの友人でもなんでもありません。ですから、断らせていただきます」
古い鞄のような物を背負っている変わった服装の背の高い男性だ。
今時の男に珍しく、女に対して全うな事を言っている。
「なによっ!!!警察を……「そこまでにしていてください」
真耶は居ても立っても居られなかったのか、直ぐ傍まで来て自身が持つ”IS学園のID”を女に対して突きつけたのだった。
「あ、あなた……」
「女の人が全て優遇されている訳ではありません。IS操縦者に対して有利な制度はたくさんありますが、それは、あなたのような人が男の方をいいようにして良い法律ではありません」
静かな怒気を瞳に浮かべて真耶は女を睨みつける。その睨みに屈したのか女は荷物を置いてまま、何処かへと去ってしまった。
「大丈夫ですか?すみませんね、私たちが迷惑を……」
「いえ、貴女があやまることはありませんよ。貴女は先ほど僕を助けてくれました。責めることなんて筋違いです」
男は真耶に対して頭を下げて礼を述べる。
「ああ、そ、そんなっ!!!頭を上げてください!!!」
頭を下げて感謝してほくはない真耶だった……これでは、先ほどの女と同じになってしまうではないかと……
「あ、すみません。こういうのは、貴女に対して失礼ですよね」
男は笑みを浮かべて、真耶を安心させるように言った。
「あ、全然気にしていませんよ。私はIS学園で教師をしています山田真耶です」
「丁寧にありがとうございます。僕は、布道 レオといいます」
その後レオの行き先がIS学園であることを知り、真耶は彼を案内するのだった………
「へえ、レオさんは発明家なんですか?」
「はい。皆の役に立てればいいかと思い、色々と作っています」
モノレールから出た真耶とレオは、互いに雑談をしながらIS学園へと向かうのだった。
受け付けでレオは、”一夏の知り合い”であることを告げた。
「レオさんは、織斑君の知り合いなんですか?」
「はい。一夏さんとは何度か一緒になったことがあります」
もっぱら冴島邸で顔を会わせる事が多い一夏とレオである。
「へぇ~、じゃあ、織斑先生とも……」
「いえ、織斑千冬とは面識はありません」
”織斑千冬”という言葉に対して、レオは少しだけキツイ口調で応えた。
色々と話している内に
「ここまでありがとうございます。レオさん」
一夏が鈴と楯無を伴って現れた。
「一夏さんもここでの”務め”お疲れ様です」
二人は互いに歩み寄り、互いの手を握手するのだった………
放課後の学園の東西南北の四箇所を巡る一夏と鈴、レオの三人とこの学園の協力者である楯無も巡っていた。それぞれの場所に”魔導具”を打ち立て、東の位置に最期の”魔導具”を打ち立てるのだった。
「これが……」
「はい。これが僕が作った結界用魔導具”四聖”です。これは魔戒法師の結界を強化することが出来ます」
「”四聖”による結界の中では”陰我”は発生しません。ですが、定期的に”浄化”しないと穢れがでてきます」
レオの説明を鈴は一言も聞き漏らさんという姿勢で聞く。
四聖は四つのオブジェを持った杭であり、そのオブジェの下にある宝玉が揺らめいている。これが穢れると黒く染まってしまう。
「レオさん。アタシの結界をどれぐらい強化できるの?」
「はい。鈴さんの結界なら30倍ほどは強化できます。ですが、今回は僕がここに結界を張ります」
レオは結界を張るべく魔導筆を取り出し”四聖”の宝玉に”力”を送り込んだと同時に天空に向かって”緑色の鳳凰、虎、竜、玄武”が舞い上がったと同時に東西南北へと散っていく。
学園全体を囲むように”四聖”の結界が張られた。これを楯無は、感心したように見ていた。
「凄いわね。ねえ、これ今度の学園祭でやってくれないかしら?」
「更識のお嬢ちゃん。これは遊びじゃねえよ。大切な儀式だ」
新しい遊びを見つけたかのように言う楯無に対して、一応忠告を入れておくヴリルだった。
鈴は一流の魔戒法師の実力にさらなる憧れを抱いた。
魔戒法師 不導 レオは”元老院”所属の法師であり、様々な魔導具を作り上げる”天才”。
号竜はレオの発明であり、鈴の”ヴォルト”は彼が直々に手を加えた”傑作の一つ”である
「これで一夏も少しは楽になるな」
「でも、油断は出来ない。ホラーよりも厄介な”陰我”が此処には……」
「えっ?織斑君。厄介なのって…ホラーよりも怖いものが居るっていうの?」
楯無の疑問に対して一夏は、視線を近くにある建物に向ける。
「そういう事ですか……鋼牙さんが言うように今の一夏さんの立場は……」
レオも一夏の言わんとしている事が分かった。
「……………ホラーよりも厄介なのは……”人間”ってことね」
一夏と別れた後、レオはIS学園の事を振り返っていた……
レオ
アレがIS学園か。今までホラーが現れなかったのが不思議なくらいの”陰我”があった……
今まで現れなかったのは”織斑千冬”に感謝して、彼女に関係する場所に表れないというホラーなりの感謝……
ハッキリ言って僕は”IS”とその関係者に対して良い印象は持たなかった……
アレはこの世界に”女尊男卑”を齎し、様ざまな物を壊してくれたからだ……
だけど、一夏さんは”IS”は使う人間の”陰我”によって本来の姿を歪められたと………
今日も今時の女性の絡まれましたが、IS学園の教師に助けられるのは本当に驚きました。
本来はあのような方たちが不自由がないように政策が作られたのですが、それを歪めてしまったのは人の”陰我”ですね。
今の社会に対して不満を抱く者は”一夏さん”という”男性のIS操縦者”に対して、”陰我”を抱いてもいます……
”四聖”により外部からのホラーは、大丈夫かもしれません。ですが、あそこで人の”陰我”が災いを齎すことがなければよいのですが……
セシリアは一人ベッドに横たわっていた。
一夏との会話と彼が行き来している”闇の世界”に対して考えていた………
セシリア
鈴さんの言っていた事はこのことだったのですね……
一夏さんが普通と違うこと…それを理由に困らせてしまうことは絶対に許さない………
ワタクシは、何故、一夏さんが気になってしまうのでしょうか?
あの方は、ワタクシなどでは支えきれない”十字架”を背負っています。
知ってはならないことを知ってしまうという事はこんなにも辛く苦しいことなのでしょうか……
ありえない存在”ホラー”。信じられないことにアレは、ISですら殲滅が不可能な存在……
倒せるのは”魔戒騎士”と”魔戒法師”だけ……
その魔戒法師である凰さん。騎士である一夏さんを支えることが出来る唯一の存在……
そう思うと胸が痛みますわ。ワタクシだってあの方を、一夏さんを想っていますのに、支えることができないことがこんなにも悔しいなんて………
ワタクシは、ただ身をわきまえてあの方から身を引くべくでしょうか?いえ、そんなのは嫌ですわ……
だって、初めて気になる方で”好き”になれた方ですのに………
こんな時に………
ワタクシは、あのクラス代表戦の後に実家から取り寄せた”家族の写真”に目を通しました。
あの後、、父がどのような方だったのかをこの目で見ておきたかったからです……
ワタクシの父 アレックス オルコット。思えばこの髪と目元は”父譲り”ですわね……
優しそうな目をしている父の写真を見ていました……
今のワタクシを見ていたら、あなたはワタクシにどう言ってくれますか?
”どうしたんだい?セシリア”
困ったようにワタクシに尋ねるんですよね……貴方は………
その父の隣に居るのが母 アン・オルコット。私の母であらゆる分野で成功を収めたワタクシの目標となるべき人でした。
そういえば、父は名門貴族である母と違い、没落した貴族だったと聞きました。
名門中の名門である母と父はどうして、一緒になったのでしょうか?父は、母に対してどんな想いをもっていたのでしょうか?
今のワタクシと父は立ち位置の違いはあっても、同じ心境だったのでは……
居てもたってもいられずにワタクシは実家に電話を掛けました………
イギリスのセシリアの実家であるオルコット家の屋敷の一室に一人のメイドが居た。
彼女はこの屋敷のメイド達を束ねる長である。その彼女は、屋敷の主であるセシリアと電話で話をしていた。
「セシリア様。お話については、アレックス様についてですか?」
「はい・・・・・・父はどうして、母と一緒になったのかが気になりまして……」
「そうですね、アレックス様は確かにアン様と釣り合わないとよく言われました。当時、私も第一印象は”冴えない方”でしたから……」
メイド長の言葉にセシリアもあらゆる分野で成功を収めた母と違い、父が成功したのは本当に微々たる物であった。
家庭では厳しかった母と違って父はそんな母を宥めて、自分に優しくしてくれた。時々、母に黙って遊びにもつれて行ってくれた事もあった。
「ですが、あの方は誰よりも真っ直ぐにアン様を見ていました」
「………真っ直ぐにですか……」
「はい。他の方々に対してもアレックス様はどんなに無様な姿を晒しても決して泣き言を漏らしませんでした」
その言葉にセシリアは息を詰まらせた。あらゆる分野で平凡でしかなかった”父”が才能に恵まれた”ライバル”達に向かう姿……
「他の方々は調子が悪ければ、色々な言い訳をおっしゃていましたが、アレックス様だけはそのような事は決しておっしゃることはありませんでした」
たとえ負けても決して弱音を吐かずに………
「アン様にも調子が悪い時はありましたが、アレックス様はただ、黙ってアン様を気遣っておられました」
口下手な彼は下手な慰めよりもそっと身の回りの世話をし、彼女が元気になるまで待ち続けた………
「セシリア様がそちらで気になる方がいらっしゃいまして、その方と自分が釣り合わない、支えられないと思うのは、それは単なる言い訳でしょう」
メイド長の言葉にセシリアは、思わず身体を震わせてしまった。
「本当にその方が好きでいれば、相手にとって自分が何をすべきかはわかるはずです。手の届かない場所に居るから自分では何の力にもなれないというのは……その方から逃げていることですわ」
「アレックス様の気持ちは本物でした。あの方はアン様の全てを受け入れ、それ故にその手を取ることができたのです」
メイド長の話にセシリアは、今のこの気持ちが恋なのかと言われるとそうであると思えた。
初恋の相手は、自分ではどうにも出来ない世界の闇と戦っている。ならば、どうすればいいのだろうか……
「アン様は、アレックス様と一緒に居られることが一番安心されるとおっしゃていました」
セシリアの脳裏に一夏の姿が浮かんだ。初めて会ったとき、力に溺れていた自分を戒めてくれ、掛け替えのない”思い出”を思いださせてくれた。
今、話してくれた”父”との思い出。そしてその父が愛した母との触れ合い……
クラスでは、互いに名前を呼び合い、時折、共にISで空を舞った……
普段であれば、誰もが謳歌する日常であるはずなのだが……一夏の本当の姿はあの”蒼い狼”である。
夜の闇を行く”魔戒騎士”。世界の闇に潜む”ホラー”と戦うことを宿命として………
しばらくして電話を切り、セシリアはベッドの上に腰を掛けていた………
セシリア
このことは知ってはならないことだったのですね。ですが、ワタクシはこの事を知らないまま一夏さんに”恋心”を抱いても、一方的なモノだったかも知れません……
いつか知ってしまったとき、ワタクシは一夏さんをどのように思ったのでしょうか?今すぐ、辞めて、普通になって欲しいと懇願したのでしょうか?
いえ、ワタクシはありのままの一夏さんが………そうですね、ワタクシは一夏さんが”好き”なのですね。かもしれないのではなくて………
ですから、ワタクシはワタクシで一夏さんに”想い”を告げて見せますわ!!!たとえ、どんなに無様でも泣き言は決して言いません!!!
ワタクシはアレックス・オルコットの娘ですから!!!!!
母の前には、素晴らしい才能を能力を持った人たちがいましたが、母が選んだのは父だった。
父を選んだ理由は、誰よりも母の事を好いており、母もまた父を好いていたのですから………
なら、ワタクシのすべき事は…………
部屋を飛び出したセシリアの背を見送るように”写真のアレックス・オルコット”が変わらぬ微笑を浮かべていた………
レオと別れた後、一夏は自室で授業の復讐を行っていた。いつもなら、ヴリルが色々と聞いてくるのだが今回は口を挟んできていない。
理由は一夏から少し離れたところで話し合っている千冬が居るからである。話しているのは同じ教師であり学年主任の先生である。
「織斑先生。男子が入学しましたので…部屋を……」
「駄目だ。前にも言ったが一夏には誰にも見られたくない”傷”がある。だから、誰とも一緒にはできない」
新たな部屋割りを思索していた学年主任であったが、千冬は断固として一夏を誰とも相部屋にはしたくないようだ。
(……一夏が女でもあることは、私達以外の誰にも知られるわけにはいかん)
”中性”である事をここで”カミングアウト”することが出来ないのだ。
今の一夏の立場は、現在の”女尊男卑”によって”地位”が低下している”男性”達にとっては一縷の希望なのだ。
事実は男女どちらでもないので、男女のどちらにもつく事ができない。
「それに、最近デュノアの方が一夏を避けているようだが、そこはしっかりと確認したのか?」
「えっ、最近、織斑君と一緒に居ないみたいですけど、喧嘩をしたんですか?」
正確には喧嘩ではなく、一夏が関わっている”事情”に関わりたくないのがシャルルの本音である。
その事情も言う事ができない。
「相部屋もそうだが、前にも言ったように一夏を誰かと一緒には出来ん」
学年主任は千冬の言葉に理不尽を感じつつも結局は折れるしかなかった。当の一夏も流石に自身の事情故に相部屋は遠慮したかった………
「……一夏が一般人ならまだ良かったかもしれんが……流石に”魔戒騎士”の事を知らないと……な」
ヴリルが一夏に囁く。対する一夏は無言で頷いた。
学年主任が部屋からで居ていった後、千冬は一夏の傍にやってきた。
「聞いたとおりだ。窮屈だが、お前は………」
「分かっているよ姉さん。私は、ここではそういう立場だから……」
分かっているといわんばかりに一夏は千冬の言葉に応える。自身のIS絡みによる政治的にも複雑な立場、さらには、宿命とする”魔戒騎士”としての務め……
学習から手を止め千冬と向き合う。
「ああ、せめて、どちらかの重荷が取れればよいのだが……お前は、私が降ろして欲しい”重荷”を降ろすつもりはないのだろう?」
千冬に対して一夏は頷く。
「まったく……お前は、どうしてそんなにも頑固なのだ?私の弟であり妹だからか?」
自身を責めるように千冬は一夏に問う。姉がただ一人の肉親である一夏が”一般人”として生きてくれることを望んでいる。
そのために”IS”の力を得たのに……
「……そう。私は姉さんの弟であり妹だから……かな」
一夏は笑みを浮かべて千冬に応えた。自分を責めているような千冬を安心させるように……
「どうして、お前は……そうやって笑っていられるのだ?今の立場が辛くはないのか?それは、お前に”力”があることへの”自信”からなのかっ!?!」
思わず千冬はデスクの横に立てかけられている”魔戒弓”に目をやる。自分には決して扱うことの出来ない”ソウルメタル”を………
「………私よりもこの立場を上手く立ち回れる人はたくさんいる。だけど、私がこの立場にいることは私に与えられた”試練”だと思う」
一夏が尊敬する先輩騎士である涼邑零は、魔戒騎士は常に”試練”を前にし、それを乗り越えていくのだと語ってくれた。
かつての零は騎士の掟ではなく、復讐を糧に生きていたが鋼牙と出会い、騎士としての第一歩を踏み出せたと……
その時に戦ったのが”全てのホラーの始祖 メシア”降臨をもくろむ 暗黒騎士 キバだった。
このキバこそが零の復讐の対象であったが、結局は自身の手で討たれる事はなく、キバはメシアに喰われてしまった……
その後、キバの邪心が篭った鎧が二度、メシアとの決戦後、サバック決勝戦の時と……復活することがあったが、零は”復讐者”としてではなく”騎士”としてキバと戦った。
「そういう事だ、姐さん。一夏は若いがこれからさき、様々なことに関わっていく。だからこそ、それに備えなくてはならない」
「…不埒モノ。お前にだけは言われたくない……」
そう言って千冬は、零に言われたことを脳裏に思い返した。
”一夏もいつまでも子供じゃいられない。だからこそ、試練を受けなければならない”
だからこそ、反論する。もう少しの間だけでも”子供”で居ても構わないのではないと……
ずっと自分が護って行く、一生家族で居て、傍に居ると誓ったのに……どうして自分の”大切なもの”は自然とこの手から離れていこうとするのかと考えてしまう……
「それに……私は一人じゃないから……」
「ああ、俺が一緒に居るからな」
「ヴリルもそうだけど、私には、たくさんの人達が付いてくれているから……」
笑みを浮かべ、ネックレスである”ヴリル”に視線を、さらにカオルから貰った”絵画”へと向けた後、最近になって机に飾った”写真”にも向けた。
一年前に一夏が出会った”仲間”達と共に写っている。ゴンザの提案でこのときに居合わせた者達でということで……
一夏、ヴリル、鋼牙、カオル、ザルバ、ゴンザ、零、シルヴァ、翼、ゴルバ、邪美、鈴……もう一人の鈴が映っている。彼女は翼の妹である。
この時、翼はあまり乗り気ではなかった……
”兄さん。ちゃんと写って”
”鈴……何故、こんな事を?”
”翼……そう無碍にするな。偶にはこういうのも良いであろう”
”そうさ、偶にはこういうのも経験しておくのもいいさ”
妹の鈴、邪美、さらにはゴルバに言われて、嫌とはいえなくなった姿が印象的だった。
一番乗り乗りだったのは、零とシルヴァだった……
”俺達はここだな”
”ゴンザ、ちゃんと美人に撮りなさいよ”
相変わらずだったのが
”…………”
いつものように仏頂面な鋼牙に対して、カオルが笑顔で
”そっちの方が鋼牙らしいね”
”…………”
”おい、鋼牙も偶にはいい顔するぞ。カオル”
”ザルバ、少し黙ってくれ”
翼に続いて印象的だった。
この場に居ない皆とは、会える時に会えている。だからこそ、一夏は今の自分の試練に打ち込む事ができていた。
「……皆、今頃どうしているかな」
思い出したように笑う一夏に対して、千冬は自分の知らない一夏の顔を見て少しだけ寂しくなった……
彼女は気づいていない。一夏の言う皆の中に”千冬”自身も存在していることを……
部屋をノックする音が聞こえてきた。誰かが尋ねてきたらしい………
「ん?今度は誰だ……」
「姉さん。私が出るよ」
一夏が席より立ち、部屋の扉へと歩みを進める。
「織斑ですけど、どちら様ですか?」
『一夏さん。セシリアです、よろしければ、今、お時間を頂いてもよろしいですか?』
尋ねてきたのはセシリアだった……
一夏とセシリアは屋上に来ていた。
「……セシリア。話とは……」
「はい。ワタクシは今でも信じられませんわ。あのような世界があったことを……」
実際に目にしても幻覚か気の迷いが見たモノとして認識されてしまうだろうと一夏は思う。
「一夏さんが居る世界はあの”世界”でここでは、ないんですよね」
無言で頷く一夏に対してセシリアは
「一夏さん、ワタクシは貴方の戦いで共に戦うことはおろか、凰さんのように力にはなることは出来ませんわ。ですけど、ワタクシは貴方と一緒にこの学園で三年間を過ごしたいと思います」
セシリアの言葉に一夏は驚いたように表情を変えたが、彼女はそのまま言葉を続ける。
「だから、貴方は絶対に此処に戻ってきてください。ワタクシは貴方が此処に戻ってくるまで、ずっと待ち続けますわ」
一夏はセシリアの言わんとしている事を察した。そして、彼女が自分に抱いている感情を………
「セシリア……私は………」
「言わなくても分かっていますわ。今のあなたは、誰とも付き合うのが難しい立場にいます。だって、貴方は世界で唯一の”男性のIS操縦者”で、”魔戒騎士”ですもの」
今の一夏は様々なデメリットを抱えている。そんな彼に”恋人”と言う形で重荷を背負わしたくはない。
「ワタクシが貴方に対して、何が出来るかはわかりませんが、ワタクシは貴方とこの学園で三年間を過ごしたいと思います。だから、”魔戒騎士”としての務めを立派に果たしてください」
セシリアの言葉に一夏は彼女の”決意”を見た………
その様子を鈴は屋上の入り口から見ていた。
「オルコットさん。いい顔するわね……アタシも負けてられないから……千冬さんもあんたぐらい物分りがいいんだけれどね」
野暮と思いながらも鈴は番犬所からの”指令”を片手に一歩を踏み出すのだった……
(一夏はまだ、あんたに言っていないことがあるけど……その事は大丈夫よね。それだけの気持ちがあれば受け入れられるわ)
「一夏、ホラーが現れたわよ」
鈴は既に仕事着に着替えていた。鈴に頷き、一夏はセシリアに対して
「セシリア、行って来る。明日もよろしく」
一夏は仕事着に着替えるために一旦部屋に戻るために屋上を後にする。
一夏が行った後、鈴に対してセシリアがここで己の決意を……
「凰さん。ワタクシ、絶対に負けませんわ」
「上等よ、アタシは負けるつもりはさらさないわ。セシリア」
笑みを浮かべた後に、鈴はオルコットではなく彼女のファーストネームであるセシリアと呼んだのだった。
鈴の後姿に対してセシリアも
「ワタクシは絶対に勝利してみますわ、鈴さん」
セシリア
普通なら一夏さんに”魔戒騎士”の務めを辞めて欲しいというところですが、ワタクシが好きになったのは、ありのままの一夏さんですわ。
”魔戒騎士”である一夏さんを認めなくて、何が一夏さんを好きといえますか……
ワタクシは一夏さんに対して、何が出来るかはわかりませんが……好きと言う気持ちだけで、まだこれからどうするべきか…なんて………
ですが、ワタクシはあの方の傍に居たいと思います………小さな望みですがこの学園で三年を過ごしたいと願います………
たとえ想いを遂げられなくても・・・・・・後悔だけはしたくありませんから・・・・・・・・・