I S×GARO   作:navaho

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第拾四話「日 常」

 

日本の太平洋の海岸沿いに一人の女性が立っていた。

顔立ちは整っているが、着ている衣服はボロボロでもう何年も放浪したかのように唇は荒れ、髪は艶がなくなっている。

かつて彼女は、国連軍の海軍に所属し、空を舞い、その職務に誇りを持っていた。

だが、10年前に全てが変わってしまった。

世界を大きく変え、歪んでしまったあの事件”白騎士事件”………

あの日、突如 世界中のミサイル基地がハッキングされ、二千発以上のミサイルが日本へ襲い掛かってきたのだ。

これに対抗したのは、これを予期していたかのように現れたのが世界最初のIS インフィニット ストラトス”白騎士”…

ISは、数ヶ月前に篠乃之博士が宇宙での活動を想定して設計がされたマルチフォーム・スーツである。

あまりに突飛な内容なために一部の研究機関で注目がされている程度であったが、ISはあまりにも”力”を持ちすぎていた。

現在の兵器群を遥かに凌駕するその性能は、二千発のミサイルを瞬く間に切り伏せ、白騎士を捕獲しに来た彼女が所属していた国連軍と一戦を交えこれを撃破した。

死傷者はゼロというのが、公式の発表であるが………

”ケイっ!!!早く機体から離れるんだ!!!!”

”コウイチっ!!!!あなたも早く!!!!”

”駄目だ!!!!身体が機体に挟まって、脱出は無理だ!!!”

白騎士によって切断された機体は激しい音を立てて海面に激突し、ケイは投げ出されたがコウイチは衝撃の際に機体の歪みにより身体が挟まってしまったのだ。

”駄目よ!!!!あなたも一緒じゃないと!!!”

”僕に構うな!!!!君は、生き残るんだ!!!!!”

冷たい海水が二人の間を隔てる……国連軍の司令塔がハッキングされたために救助隊が来たのは二日後であった……

彼女の想い人だけではなく多くの兵士に犠牲があったことを世間が知ることはなかった……

あるものは機体の爆発に巻き込まれ、あるものは地上へ落下した際に、切り裂かれた船体の一室に閉じ込められ、そのまま……

この事件の首謀者を言及する動きもあったが、それは果たされなかった……

分かりきっていたことであるが、この件で”IS”の力が注目され、世界はISを認めさせるために、都合の悪い事実を伏せたのであった……

これに反発するものも当然いたのだが、”IS”が女性に使えないという事で既存の兵器では抑止力にもならなかったのだ………

これがISによる”女尊男卑”の始まりだった………

ケイもまた”白騎士事件”を性質の悪い兵器のデモンストレーションであり、立派なテロであったことを訴えたのだが、結局はISの力を得た者達に訴えはもみ消されてしまった……

多くの者達が翼を、誇りを奪われ、去って行った……

ケイもまた、去っていくものだった……

それからは廃人の様に想い人が眠る海だけを眺めていた……海には、回収もされずに残っている翼と想い人が眠っている。

「コウイチ、今の空は、とても酷いわよ。その下にある世界も…何もかも……」

ISの力によって齎された歪みは、酷いものだった。”女尊男卑”……ISが使えるからと行って、兵器で男性を見下す世界。

軍でもそれは顕著らしく、ISを得た代表候補生の少女達は特にそれらの思想に染まっているものが多いという……

気に入らないことがあればISの力をチラつかせ、あろうことかそれで暴力を振るうのだ……国家による制約もあるのだが、厳しい処罰が行われたという話はまず聞かない………

ケイは再び海に眠る想い人に語り掛けるが……

「酷い話だよね。正しいことをしても都合が悪かったら、皆、無かったことにされるんだから」

ふと振り返るとゴシック系の服を着た少女が笑っていたのだ。いつの間に背後に現れたのだろうか?

「ねえ、”ムドー”様の下僕にならない?一つだけ、願いをかなえてあげるよ」

少女の背後に一本の刀が刺さっていた。それは、禍々しい輝きを放っていた……

刀身こそは日本刀のものであるが、拵えは眼球を思わせる奇妙な水晶が埋め込まれた奇怪な容貌をした刀である……

「な、なに?その刀は……」

刀は意思を持つかのように禍々しく輝いたと同時に海面から人影が浮上する。突如、聞こえてきた有り得ない音の正体を確かめるべく振り返ったケイが見たのは……

刀に寄り添う少女の左右に更なる影が歩み寄る……

 

 

「これであの女も……ムドー様の……」

「そうだな、この国はムドー様の大好きな”アレ”があるからきっとお喜びになられる」

 

 

 

二人に呼応するように刀から不気味な笑い声が当たりに響き始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

本日は日曜日であるため、学園では授業は行われていない。だが、ここの生徒達は勤勉で休みの日もISによる訓練を欠かさない……

各アリーナでは、一年、二年、三年が訓練機を用いてアリーナの上空を舞い、時には模擬戦をも行っている。

その中に更識 簪が居た。専用機である”打鉄 弐式”を纏って……

 

 

 

 

 

 

普段の休日なら私は、本音と一緒に過ごすのだけれど、今日は訓練を行っている。

理由を聞かれれば言うまでもない。”強くなりたい”ただそう思っているからだ……

数週間前に私と本音は、ISですら勝つことの出来ない”脅威”に遭遇してしまった。

そして、それを倒す”魔戒騎士”……織斑一夏

彼は、この世界で唯一の男性のIS操縦者。そして、所属はあの篠乃之博士の側である。

織斑一夏は魔戒騎士だけあって、IS戦でも代表候補生、さらには国家代表ですら下す実力を持っている。

この学園では、彼の姉である織斑千冬の弟だけあって、”強い”と認識している。

優秀な姉には優秀な弟……そういう具合で認識しているのだろうか?

いや、彼は、姉の七光りだけではなく、自身の力であの”強さ”を得た……

虚さんは、彼を含める”魔戒騎士”に対して憎しみに似た怒りの感情を抱いている。

本音から聞くと、親友をホラー毎殺されたらしい。あのホラーは、取り付かれたら最期、人間は”死”と同じ状態になる。

魔戒騎士は、ヒーローかといわれると、そういうものではないと思う。

闇に紛れて、闇に潜む”魔獣”を狩る存在。人に恨みを吐かれても決して、立ち止まらずに前へ進む……

私、姉を下した彼 織斑一夏の”強さ”が知りたくて、二日目前に”模擬戦”を申し込んだ

 

 

 

 

 

 

 

二日前

放課後のアリーナの上空に二機のISが対峙している。更識簪の専用機 ”打鉄 弐式”と織斑一夏の専用機”蒼牙”である。

「………織斑君。手加減しないで、全力で来て……」

簪は瞳に怒気にも似た決意を込めて一夏に問う。

「無論だ。相手を侮るほど、私は傲慢ではない」

何を言わせるといわんばかりに一夏は言葉を返した。その姿勢は”戦う者”のそれである。

「わかった……じゃあ、行くね」

簪の言葉を合図に模擬戦が始まる。薙刀を展開させたと同時に”瞬時加速”で一気に”蒼牙”の正面に躍り出て、切りかかるが次に感じたのは、後方へ吹き飛ばされ、蒼牙の姿が遠のいていく光景だった。

「!?!」

簪は、すぐに蒼牙の様子を確認する。最初から展開していた”雪片”でカウンターを返してきたのだ。その証拠に左腕のに部分が破損していた。

態勢を整え、荷電粒子砲を展開させるが”蒼牙”はすでに動いており、その驚異的な加速で一気に”打鉄 弐式”の前に迫り”雪片”でさらに斬りつける。

喰らい付いてきた蒼牙の攻撃は、簪が今までに経験してきたどの相手よりも苛烈であった……

(………っ?!やっぱり、私なんかじゃ勝てない。あの姉にすら勝てる”相手”に……)

代表候補生では相手にはならない。国家代表レベルではないと、織斑一夏には敵わない……

でも、ただでは負けたくないと簪は思った。自分と同じ”天才の姉”を持つ者として…せめて一矢を報いたいと……

「やあああああああああああっ!!!!!!」

薙刀に力を込め、こちらから体当たりをするように瞬時加速を行い、蒼牙を突き放すが。

態勢を崩した蒼牙に対して、打鉄弐式は荷電粒子砲からビームを発射するが……

蒼牙は身体を捻るようにしてそれを回避した。さらに続けて態勢を建て直したと同時に”瞬時加速”を行い、そのまま打鉄弐式のエネルギーシールドを削られた

「勝者 織斑一夏」

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏との戦いは、圧倒的なまでに差が開いていた。元々、あの”魔獣ホラー”を相手にするのならば、あの”強さ”は当然のことだろう……

あれでも本人は”まだまだ”と言っている。理由は、専用機を得ても彼のISを動かした時間は、私達代表候補生には、三年間IS学園で過ごしても届く事はないのだ。

だからこそ、私は”強くなりたい”と思う。ただ、相手を倒すだけではなく、私自身が納得が出来るように……

戦いの後に”どうして、強くなりたいのか?”を訪ねた。

彼は既に言葉を決めていたかのように・・・・・・・・・

”私の師がこう言ってくれた・・・・・・・・・・・・護りし者になれ、希望の光となれと・・・・・・・・・”

魔戒騎士としての道を歩むと決めていたからこそ、彼は”強く”あろうとしたのだ・・・・・・

私自身は、この学園に入る前は姉ではない自分自身を見て欲しいという想いから”代表候補生”となった……

あの姉と同じ道を行くのは、かなりの苦痛があった。当然ことながら比べられたりもした……勝手なことを言われた……

引っ込み思案の私が”代表候補生”になれたのは、私だけの”力”ではなく幼馴染の”本音”が応援してくれたからだ。

本音は応援だけではなく、私を支えてくれるためにISの整備の勉強をし、幼い頃から変わらぬ姿勢で居てくれるのは本当にありがたかった……

闇の世界に関わろうとしている姉を助けるわけではないのだけれど、私は私で”できる”事を証明しなければならない……

 

 

 

 

 

 

「一夏、あの更識の妹の方は、修行してた頃のお前によく似ていたな」

「………そうかもしれない。私自身、”あの件”を経ても”師”と”お前”が居なければ、”魔戒騎士”になることは出来なかった」

「あぁ……あの第二回のISの世界大会での件か……お前も災難だったな」

ヴリルの言葉に一夏は、自身のトラウマでもある”あの件”を思い返した……

 

 

 

 

 

 

一夏

思い出すのは、あの件が起こる数日前、普段、中々家に帰らない姉が珍しく早くから帰宅していた……

”一夏、こんな時間まで何をしていた?”

第一声は、夜の七時ぐらいに帰ってきた私に対しての叱りだった。この頃の私は、箒と別れ、本格的に師の”闘牙”から修行を受けていた。

”………友達と遊んでた”

師のことは伝えていない。伝えるとそれはそれで師に迷惑が降りかかるのではと幼心ながら理解していた。

姉にお小言を貰い、姉は私にドイツ行きのチケットを差し出した……

”一週間後に第二回モンド・グロッソが始まる。これは私からの招待状だ”

第一回は、連れて行ってはもらえなかったが、今回は姉自ら、私を招待してくれた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

姉が招待してくれたISの世界大会は、熱狂的な祭り”だった。

開催される国全体が熱気に包まれ、多くの女性達が空を駆る”IS乗り”達を拍手喝采で迎えていた・・・・・・

ISが女性中心なのか、スタッフ観客共にほとんどが女性で占められていた。

ISによって、男が色々と苦労しているのは分かっている。だが、ISによって廃れていいくはずだった武道関係の技術は息を吹き返していた。

最初は、既存の兵器で武装したが姉が一振りの剣で優勝したことが大きな理由だ……

 

 

 

 

 

 

 

姉の関係者であるために私には四六時中護衛が着いていたのは、今思ってもあれほど鬱陶しいと思ったことはない。

決勝戦 間近に私は”何者”かに誘拐されてしまった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”これが、あのブリュンヒルデの身内?本当に男なの。女じゃない?”

”みて、この子。女みたいだけど、男でもあるみたい”

奇妙な薬を嗅がされ、手足を動かすことすら満足にできない私は誰にも見られたくない”胸”を無理やり出されてしまった。

嫌な時間だった。何も出来ずに相手に言いようにされてしまうことにこれほど、恐怖を覚えたことはなかった……

師の付き添いでホラーの恐怖を間近で感じ、大抵のことは怖くないと思っていた。

だけど、最も怖いのは”人間”であると……

”ねえ、やってもいいでしょう?”

”だめよ。この子は、大事な人質。何かあったら上が五月蝿いわ。それにあなた、こういうのが好みなの?”

私が何も出来ないことを良いことに好き勝手なことを言っている。今の私は上手く声を上げることもできない上に身を纏う服すらも全て剥がされ、羞恥心と何もできないことへの怒りで今にも泣き出したかった。

どれだけの時間が経ったのか分からなかったが、突然、警報が鳴り響いたと同時に私を監視していた二人が酷く焦っていた。

その瞬間、扉をむりやり専用のISでこじ開けた姉の姿が現れた。

”一夏っ!!!!!”

私の姿を見た瞬間、安堵と共に姉の表情は憤怒の色に染まった。

”貴様らぁあああああああああああああっ!!!!!!!!!一夏に何をした!!!!!!!!!!!!!!!”

ISを纏ったままで、姉は私を監視していた一人を殴り飛ばした。ISの力は、国家の承認が必要な程に強力なものだ。

それを姉は私の目の前で自身の怒りの赴くままに使った。相手は妙な角度で背骨が曲がり、辛うじては生きている。

さらにもう一人に危害を加えようとしていた。

姉の暴力に私は見るに耐えなかった。薬の影響で身体が重かったが、姉の下におぼつかない脚を立たせ

”姉さんっ!!!やめて!!!!この人達は、もう何もしないよ!!!!”

”何を言っている!!!!ここで思い知らさなければ、またこいつらは繰り返す!!!”

”私は、もう大丈夫だから!!!!姉さん!!!だから、やめて!!!!!”

ISに生身の人間が敵わないのは分かっているが、姉の暴力を何としても止めたかった。

”お前を辱めたのだぞ!!!!そんな奴らに情けを掛けるのか!!!”

”そんなんじゃない!!!!姉さん、私を理由にして、それ以上暴力を振るわないでよ!!!!!そんな姉さんに護られたくないよ!!!!!”

知らずに泣いていた私を見て、姉さんの憤怒の色を納め、まるで捨てられた子供のように悲しい色を浮かべ……

”い、一夏。違うんだ……わ、私は……”

”何も言わなくて良いよ。私は何もされていないから……だから……”

”……分かった。だが、人が来る。その格好を見られたくはないだろう”

改めて気がついたが、私は一糸纏わぬ姿をしていたのだ。

”っ!?!”

胸と前を隠すように私は屈んでしまった。その姿をみた姉は少しだけ笑い

”まったく……お前は女でもあるのだな”

姉はISで私の姿を隠すようにそっと抱きしめようとしたが、少し戸惑ったように直前で手を止めてしまった……

”どうしたの?姉さん”

”いや、何でもない……もう終わったことだ。本当に何もないんだな”

”………うん。姉さん”

 

 

 

 

 

 

それから間もなくして、一夏は千冬が決勝戦を辞退して自分を助けに来てくれたことを知った。

情報を提供してくれた”ドイツ軍”への礼として、千冬はISの指導の為に教官職を一年間行うことになった。

その間、千冬は一夏にも一緒にドイツで過ごそうと提案したが、一夏を訓練に参加させることを良しとしなかった……

一夏は一夏で思うところがあるのか日本へ一足先に戻る旨を千冬に伝えた……

”大丈夫か?一夏、一人で先に戻っても”

”うん、此処にいても姉さんの迷惑になるかもしれないから私は先に向こうに戻っているよ”

”わかった。直ぐに終わらせて戻る、今度こそお前を護れるようにここで私はさらに強くなる。楽しみにしていろ”

不敵な笑みで一夏に自身の決意を語る千冬であったが、後年一夏を一人で日本に帰したのを大きく後悔することになる………

 

 

 

 

 

 

 

 

誘拐事件の後、一夏は自身の”弱さ”に嘆いた。魔戒騎士の修行をしていても、いざというときに何も出来ない自分を情けなく思ってしまった……

護られるだけではなく護れる自分になりたいと……

日本に戻った一夏は真っ先に師 ”闘牙”の元へと足を向けた。

もし、一夏一人きりだったら、何処かで諦めていたかもしれない。誰かを護れるようになりたいと願っても、それを叶える事はできなかったかもしれない。

しかし、一夏には師”闘牙”が居た。”闘牙”は、自身の伝えられるものを一夏に伝えた。

”一夏、護るというのは何も目の前に居る敵を倒すことではない。その者の為に出来ることを行うことだ”

ただ敵を倒すことが全てではないと……

”以前に、俺の友であった黄金騎士の話ではあるが、ある画家の絵は、誰かの力になると……”

時には今は亡き友の思い出を語り……

”力だけで目の前の障害を払うだけでは、背中に居るものに自身のエゴを押し付けるだけだ。それでは決して、護る者は救われない”

力だけではなく”心”を伴わねばならないことを……

”強くなるのも構わないが、お前が育てた花をもっと見たいという想いも、誰かの力に十分になりえる”

厳しい修行の傍ら、穏やかな優しい景色があった……

 

 

 

 

 

 

 

一夏は、簪との問いであの事件と自身の修行の時間を思い返していた。

「それにしても一夏。今日は、何処へ行くんだ?」

「今日は、久々に家の方を見てこようと思う」

「そうだな、学園に行って以来、様子は見に行っていないからな」

一夏の返事に対してヴリルは、

「久々の我が家へ行こうか」

起用にウインクをするヴリルだったが、一夏がそれを見ることはなかった………

自宅の近くに差し掛かった頃、一夏は覚えのある赤い髪の少女と出会った。

「あ、一夏さん」

「……蘭」

一夏を見た蘭は、驚いたようにそれでいて嬉しそうに話し始めた。

「久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだ。しばらく顔を合わせていなかったね」

一夏も笑みを浮かべて応えた。

「そうですよ、ISを動かしちゃってから、全然、会えなかったじゃないですか。でも……一夏さんが動かせたのって……」

「ああ、そうだ。私の”体質”が原因だ」

蘭もまた一夏の事情を知る人物の一人である。知るきっかけになったのは、一年前である………

「そうか……久しぶりに会えましたから、こうしてもいいですよね♪」

悪戯を思いついた猫のような表情を浮かべて蘭は一夏の腕に抱きついた。一夏も一夏で慣れているのか……

「蘭も好きだね。私の腕に抱きつくのが……」

「えぇ、私、一夏さんのこと”お姉さん”みたいに思っていますから♪」

「お兄さんは無理があるな、一夏は……」

ヴリルの言葉に一夏はムッとしたように目を細めた。

(……確かにヴリルさんの言うように、一夏さんって”お兄さん”っていうのは、ちょっと無理があるかも……)

最近、男臭くなってきた兄と比べると一夏はあまりにも女らしかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が自宅へ向かっている頃、千冬は真耶と二人で寮の自室に居た。

日曜日であるが、IS学園は様々な方面への手回しが必要なので非常に忙しいのだ。

休日であっても仕事というのがほとんどである。とはいっても、今日はそれほど忙しい訳ではなく、軽い打ち合わせ程度なものである。

この部屋で特に目を引くのは、壁に掛けられている一枚の絵”FAMILY”。

当然のことながら、真耶も絵を見て感心する。一夏と千冬の二人を描いており、二人とも見ていて穏やかになれる微笑を浮かべている。

凛々しいイメージのある千冬にしては、少し違和感を感じるものも居るかもしれない……

「本当に一夏くんって、先輩の弟ですね」

「そうか……」

珍しく千冬は微笑を浮かべる。絵の中の一夏ははにかんだように笑い、それを見守るように笑っている自分の姿はまさに自身が抱く理想そのもの……

だが……

「この”悪趣味な腕輪”をしているところなんて……「バシっ!!!」

真耶は、一夏の腕につけられている”悪趣味な腕輪”ヴリルを見てやっぱり 先輩の弟だなと言ってしまった。返ってきたのは、理不尽な拳だった。

「痛いっ!!!何で、ぶつんですか!!!!?」

「………五月蝿い。不埒モノと私を一緒にするな」

千冬は不機嫌な声色で吐き捨てた。

(……そんな事言っても、先輩の私服って……)

真耶の記憶にある千冬の私服は、シンプルなものであるが、Tシャツやジャケットのデザインに髑髏や魔女、般若、さらには良くわからないアフロの男の顔が描かれていたりした……

これは当時の代表候補生達の語り草である”織斑千冬のセンスは、色々と残念”と………本人は凄くかっこいいと思っていたのだが……

最近は自重しているが、下着がその類の柄である…………

女でもある一夏に勧めているが、一夏は一夏で非常に戸惑っている……

微妙な空気が室内に漂い始めていた…………

 

 

 

 

 

 

 

一人の男がとあるボクシングジムでサンドバックに拳を打ち込んでいる。

彼の名は五反田 弾。短く切り込んだ赤髪に顎鬚を生やしている。一年前の彼は、長髪であったが”ある事”がきっかけでボクシングを始めたのだ。

今の女性中心の社会では、男性のスポーツはあまり日の目を浴びておらず、男性主体のスポーツのほとんどが寂れている。

特に男性が主役の格闘技などは”IS”が出てから、もはや風前の灯である。そんな中、ボクシングを始めた弾は今の世の中ではかなりの変わり者である。逆に女性が主役の格闘技は大きく盛り上がっているが………

「はぁ……はぁ……」

打ち込みが終わり、縄跳びをして練習を終える。終えた後、弾はいつものようにジムを後にした。

「おい、弾。相変わらず練習熱心だな」

気がつけば、いつものように40代前半のトレーナーが話しかけてきた。

「はい。どうしても強くなりたいんです」

「もしかして、女のためか?今なら笑い飛ばされる時代だってのに、よくやるな。お前も……」

これもまたいつもの会話である。

「はい。こんな俺でもやれるんだってことを証明したいんです。俺の試合を誰かが見て元気が出たらって……」

”弾。私がこの間、会った人の言葉だけれど、その人の出来ることを一生懸命に行うことが誰かの力になるって”

そう言ってくれたのが一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田食堂

「あ、お兄ぃ、お帰り」

自宅へ戻ったと同時に妹の声がしたと同時に

「弾、お邪魔しているよ」

久々に見る人物を見た弾は目を丸くして、

「ただいまってっ!!!!一夏っ!!!!」

弾は妹蘭の首根っこを掴み、店の前まで連れ込み

「おいっ……なんで、一夏がお前と一緒に居るんだ?」

「途中で一緒になったから、よってもらっちゃった♪」

悪戯が成功した子供のように笑う妹に対して、兄は脱力したように肩を落とした。

「……ていうか、お兄ぃ。一夏さんにあの事を伝えるんでしょ」

実を言えば、弾は一週間後にプロテストを控えていたのだ。よければ一夏に応援に来て欲しいと思っていた。

「ああ、今日じゃなくて…明日辺りにメールで伝えようと思ってたんだ」

歯切れの悪い兄に対し、蘭は少しだけ溜息を吐き

「……じゃあ、今日伝えなよ。一応、一夏さんは女だけど、男の人でもあるんだよ」

「分かっている。だけど、俺にとって……あいつは……」

「お兄ぃにとっては、一夏さんは女の人なの?」

蘭の言葉に弾は黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

俺に”力”があれば、一夏を守れるのかな・・・・・・

一夏が俺の知らない恐ろしいモノと戦っているのをただ見ているしかなかった俺はそんな事を思っていた。

一夏は・・・・・・魔戒騎士で、護りし者・・・・・・

あいつは、男でも女でもない・・・・・・俺にとっては、少し男らしい女にしか見えない。

時々見せるあいつの微笑みや優しい仕草にドキッとさせられる。

中学時代、学校の裏の花壇を鈴と二人で世話をしていた・・・・・・学校では”女尊男卑”に染まった女達は変に幅を利かせていて、俺は彼女達を好意的に見ることが出来なかった。

今時、花が好きな女は居ない。皆、ISの力に夢中でか弱いものいは見向きもしない。

何か自分に誇れるものをと思って俺は、昔 じいちゃんがやっていた”ボクシング”を始めた。

今時、男が格闘技なんてはやらないかもしれないが、俺は何か自分に誇れるものが欲しかった。

最初は一夏を護れるように”魔戒騎士”になろうかと思った。だけど、俺は騎士の家系でもない上に、あのホラーに対して恐怖だけが先立って何も出来なかった……

鈴は、魔戒法師になるといった。俺と違ってあいつは、何よりも強い。ホラーが怖くないのかと聞いてみた。

”そうね、怖いわよ。あいつら、ISを使ったて倒せないし”

”だったら、何でだよ”

”アタシのやれる事、これからやりたいことが”魔戒法師”だから…それに、一夏の負担を軽くしてあげたいしね”

鈴は筆を誇らしそうに見せて俺に言った。俺は進んでホラーと戦うということを選ぶことができなかった……

いつ、死ぬか分からない恐怖とあの力に対して………

どうして、鈴は…一夏は…そんな恐ろしい生き方を選ぶことができるのか?

”……アレを知ったのもあるけど、アタシももう普通に生きることができなくなっちゃったし”

鈴の言っていることは言うまでなく、ISの適正値が高かったために”中国”に家族を引き離されそうになったことだ。

”それに……この世の中になったのは、一夏のお姉さん、千冬さんが”原因”なの…”

一夏と鈴を闇に追いやって、あの女は俺たち”男”が行くことのできない空の上を飛んでいるというからふざけている。

でも一夏はそれを恨まずにあの女と一緒に居るから。ある意味人生を狂わされたのにどうして……

”一夏にとって千冬さんはたった一人の家族なの。それは千冬さんにとっても……だから、一人にできないのよ”

それを聞くと俺は、何も言えなくなってしまった……

「おいっ!!!弾っ!!!店の前に突っ立ってる暇があったら、さっさとこっちに来て手伝え!!!!」

突然、俺を怒鳴る爺さんの声に俺は急いで厨房へと向かっていった。

「今行くよッ!!!爺ちゃん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田食堂の日常に対して、一夏は微笑を浮かべてみていた。

「まったく…一夏。弾は、お前に惚れているようだが……実際のところはどう思っているんだ?」

ヴリルの言葉に一夏は少し居心地が悪そうにソッポを向きながら

「……確かに弾は感じはいいと思うよ。だけど、私は一応男で通しているから……」

「お前が女ならOKをだしても良いのか?俺と姐さんは多分、OKを出す前にこう言うだろうな。”それなら、私を倒してからにしろ”ってな」

「……結局は、私はそういう扱いなのか?」

「ハハハハハ、まあ、お前は誰もが目を向ける別嬪さんだからな。姐さんも心配なんだろうよ、俺も含めてな」

そういうものだろうかと一夏は疑問に思った。

「そうですよね。一夏さんって女の私から見ても凄く綺麗ですし……」

隣に座っていた蘭は、一夏の髪に手をやる。髪に手をやると黒い髪に混じって一本だけ亜麻色の髪の毛が存在していた。

「あれ?一夏さん……この髪」

「まだ残っていたのか……てっきりこの色はなくなったと思っていたのだけれど」

幼少の頃、一夏の髪は”亜麻色”だった。今では姉の千冬と同じように黒くなっているが………

「えっ?一夏さんの髪って、本当は亜麻色だったんですか?」

「うん、小学生三年の頃には、ほとんど黒くなっていたかな」

当時は髪を腰まで長くしていたのを覚えている。姉がよく当時の髪を梳いてくれた……

一夏は知らないが当時の千冬は一夏の髪を羨ましがっていた……

”自分の髪もこうだったらいいのにと……”

「亜麻色の髪の一夏さんも見てみたいです」

「俺もだな、しかし何で黒くなっちまったんだ?もったいないぜ」

蘭とヴリルの会話を聞きながら一夏は、かつての髪よりも今の黒髪の方が気に入っていると言葉を返すのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、気を利かせた蘭により一夏と弾は二人きりで相席をしていた……

「……で、最近はどうなんだ?IS学園は…」

何処となく歯切れの悪い弾の口調に一夏は少しだけ笑みを浮かべ

「な、何だよ?俺が変なことを言ったのか?」

「いや、弾はやっぱり弾なんだなって思っただけだよ。IS学園での生活はそれなりに上手く言っている」

「そ、そうか…俺はてっきり、酷い奴らがそれなりに集まっているんじゃないかと……」

「いや、IS学園での女性達は、”主義者”よりは遥かにマシだよ。それにそういう人間は、向こうでは上手くやっていけないよ」

IS学園の生徒達は一部を除いては、それなりにマトモである。あくまで凄いのはISであり、それを無しにすれば男が酷く下種という考えは間違いである。

入学当時にセシリアとのやり取りがあったが、セシリアの場合今の風潮に影響されてしまったことであり、本来の彼女は優しく聡明な少女だ……

特に国家代表クラスになると自国の品位を問われるために、世間を荒らしている”主義者”のような考えを持っていれば、例え”実力”があっても放逐されてしまう。

「そうか…お前、行くんなら”女”だってことを言えばよかったんじゃないのか?」

「うん……そういえば楽なんだけど、私は一応男で通していたい。だけど、自分の内面はどちらかで居ようとすると何だか自分じゃないような気がするから」

自身の胸のうちを語る一夏に弾は、どう言葉を返せばいいのか分からなくなってしまった。

ここで男なら悩める女を抱きしめるということをと思いつくが、弾にはそれが出来なかった。そんな事をしても自身の自己満足であることは分かっていた。

男女どちらでもない一夏の事を考えると尚更である……

「まあ、お前はお前でいいんじゃないか…俺は、そっちのほうがらしいと思うぞ」

「フフフ…それは、皆にも言われているよ」

「何だよ?俺に言われるまでもないってことか?」

からかわれたかと思ったのか少し口調を荒げる弾であったが一夏は

「いや、弾がそう思っていてくれると私も良い”ザルバ”を持ったなと思っただけだよ」

「”ザルバ”?何だ?それ…」

「古い魔界の言葉で”友”を意味する」

「……ああ、そういう意味か」

肩透かしをしたように弾は少しだけガックリと来た。これを見ていたヴリルは苦笑い……

「おい坊主。俺から言うのは、何だが一夏を振り向かすには相当の努力が要るぞ」

「ヴリル…私をそういう扱いをするか?お前は……」

「俺にとっちゃ、相棒は仲間であり、俺にとっては子も同然だからな」

ヴリルの言葉に一夏は少し溜息をつくのだった……

鋼牙の相棒である”ザルバ”がお守りなどと言っていた時期もあったが、その事を一夏が知ることはない……

 

 

 

 

 

 

 

それから間もなくして、一夏は五反田食堂を後にするのだった。

「お兄ぃ、結局、言わなかったの?」

「ああ、応援に来て欲しいっていうのは良く考えたら一夏の前で良い格好がしたかっただけじゃないかって思ったんだ」

「ふ~~ん。じゃあ、諦めるの?」

「いや、俺はもっと自分を誇れるようになるまでは……言わないでおく」

兄の奥手な対応に蘭は仕方がないと思いつつ、

「じゃあ、来週のプロテスト受からなくちゃね。お兄ぃ、そんなに力まなくても良いと思うよ」

気楽に考えなよと伝えるが弾は、特に何も言葉を返すことなく店の表へと行ってしまった。自主練を始めるために……

「なんで…男の人ってこうも恋愛にはめんどくさいのかな?好きなら別に資格とかそういうのは必要ないのに……」

兄が想いをひそかに寄せている一夏は一般人とはかけ離れた生活をしているが、人間である以上互いに想いを伝えれば、護れるために”強く”あるのは力みすぎではと思うのだった……

自分に自信を付けるために自身を鍛えるのは好ましいので、妹として見守っていこうと蘭は思う。

それから十数日後、五反田 弾はプロテストに合格する……

 

 

 

 

 

 

翌日のIS学園の一夏が所属する一年一組に真耶と眼帯をした小柄な銀色の髪の少女が居た。

「えーと、皆さん今日は嬉しいお知らせがあります」

ちょうど前に来たとき少女は一夏の姿を見て驚き、近くに居た千冬と見比べていた……

「また一人、クラスにお友達が増えました。ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

「……………」

無言のままラウラは一夏を見ている。その目に好意的とは言いがたい色を浮かべて………

「自己紹介をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ラウラ、私はもう教官ではない。ここでは、織斑先生と呼べ」

千冬の返答に対し、ラウラは少しだけ表情を暗くしたが、そのことに千冬は気がつくことはなかった。

「……了解しました。ラウラ・ボーデヴィッヒだ、以上だ」

「……あの、他にもっと何か……」

真耶がラウラにもう少し話をして欲しいという前に、彼女は一夏の前に立ち…

「っ!!貴様がっ!!!!」

平手打ちをしようと手を挙げた瞬間天地が逆さまになり、気がつけば無様に床の上に転がっていた。

「………随分と手荒いんだね。ドイツの人は……」

自分が返り討ちになったことを理解したと同時に怒りの表情を浮かべ、ラウラは叫んだ。

「認めるものか!!!お前があの人の”家族”だなんて!!!!絶対に認めるものか!!!!!!!」

二人のやり取りに対し、鈴は千冬に視線を向け

(千冬さん……今度は何をやらかしてきたの?また、一夏にあなたの”不始末”を押し付けるつもり)

鈴の視線に対し、千冬がバツの悪そうに反らした事に鈴は溜息を付くしかなかった…

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