箒
何だったんだ?アレは一体……私は夢を見ていたのか?
私が凰から庇った女が、いきなり化け物になって、黄金の鎧を纏った男がそれを倒した……
さらにその男の関係者が一夏………分からない・・・・・・
一夏……お前に何が遭ったと言うのだ?この六年の間に………
私達は幼馴染で変わらなかったはずだよな……私が知っている一夏なんだよな……
一夏は鋼牙、鈴はシグトらとお互いに言葉を交わした後、IS学園へと戻っていった。
箒が何かを言いたそうな表情だったが、彼女自身は何も言えずにただ、黙って一夏らに付いて行く事しかできなかった。
「篠ノ之さん。どうして勝手に学園を飛び出したんですか?」
IS学園に戻った一夏達を迎えたのは、真耶であった。予め、外出と外泊の許可を得ていた一夏と鈴と違って、無断で飛び出した箒は、校則違反を犯していた。
「…………………」
真耶の言及に箒は無言のままだった。何を言っていいのか分からないといった困惑した表情を作ることしか出来なかった。
「分かりました。それなら、特に何も言わなくて構いません。ですが、違反をしたからには罰則を受けてもらいます」
「……何故ですか?」
”罰則”と言う言葉に、箒は思わず質問をしてしまった。
「この学園にも規則はあります。許可も無しに学園を勝手に抜け出すのは規則違反です。ですから、罰則として三日間、反省室で謹慎してもらいます」
「っ!?!そんなっ!?!私は、ただっ!!!一夏の事が知りたくてっ!!?!」
想い人のことが知りたかっただけなのに、どうして理不尽な罰則を受けなければならないのだと、箒は自身を弁護していた。
「知りたかったから、許して欲しいですか?篠乃之さん。あなたの気持ちは分かりますけど、だからと言って罰則を取り消すわけには行きません」
いつもの副担任とは思えない程、冷たく突き放した声で箒の言葉を真耶は一蹴した。ならば、一夏ならという期待を込めて箒は振り返った。
「……箒。私の事が知りたいから来てしまった事と巻き込んでしまった事については、私の責任だ。だけど……」
一夏は間をいれ
「箒が規則を破ってしまったことまでは、私も庇うことはできない。ここでの私達はただの一介の生徒だから………」
魔戒騎士として夜、IS学園を抜け出すために一応、許可を一夏は貰っている。理由は篠乃之 束関連と書かれているだけで、具体的な内容は記載されていない。
「………一夏も私を責めるのか?私がどんな思いをして、一夏の事を知りたかったか……分かっているのか?」
一夏の言葉に裏切られたといわんばかりに箒は言葉を返す。
「私が原因になってしまったことは、言うまでもないと思う。だけど、箒がした事は本当に私のことを理由に許されるの?」
「……っ!?!」
頭ごなしに説教をしない一夏に対して箒は、俯いてしまった。まるで一人親からはぐれた子供のようだった。俯いた箒に一夏は近寄り、そっとあやすように抱きしめた。
「………ずるいぞ…一夏……なんで、こんな時は、あの時と変わらないんだ」
「前にも言ったけど、今の私は姉さんが言うように昔ほど、優しい目はしていないらしい」
「っ!?!……じゃあ、何だ。今のお前は、あの頃と違うというなら何なんだ?」
「私は私だよ。箒の幼馴染の織斑一夏だよ」
箒はただ泣くことしか出来なかった。変わってしまった幼馴染、変わらない幼馴染……
真耶に伴われて箒は、反省室へと向かっていった。その後姿を一夏と鈴は見えなくなるまで見送っていた。
「ねえ、一夏。あの子、もしかしたら、アタシ以上にアンタに惚れ込んでいるかもしれないわね」
「……そうかも知れない。私は、箒に対してはかなり甘く接してしまうから」
我ながら対応が甘いと一夏は思った。
「そうだな。入学当初もああいう感じであのお嬢ちゃんには接していたもんな」
「想い人同士というよりもアンタが”姉”で、篠乃之さんは”妹”みたいよね」
少し茶目っ気のある笑みで鈴は一夏に言う。
(でも、篠乃之さんは一夏の事をアタシと同じで一人の人間として好きみたい)
一夏は、幼馴染として箒を認識しているが、箒は恋愛対象として一夏を見ている。ここをどう理解しているのか一夏に問いたいが、
「やっぱり、私はそういう扱いなのか?」
「無理もないわよ、女よりも綺麗な顔して抜群のスタイルの一夏にそういう評価以外にどう評価するのよ」
シャルルは学園の自室で怯えるようにベッドの上に蹲っていた。
縋るように捨てきれずに居た自身の絵筆を胸に抱き、
「……どうして、僕がこんな目に……怖いよ。母さん……どうして、死んじゃったんだよ」
自身の身の上にある苦難を嘆き、シャルルは泣いた。味方すら居ない境遇に、自身に降りかかろうとする災厄に対して……
「……怖いよ」
しばらくして一夏と鈴は、寮へと向かった。途中、寮長室で一夏と分かれた鈴は近くに視線を感じそちらへと足を進めた。
「…………誰かさんとは聞かないけど、随分と千冬さんにご執心ね。ドイツの転校生」
言葉を掛けると物陰から自分と同じぐらい小柄の銀髪の眼帯をした少女が睨みながら現れた。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生だ。
「教官の名前を軽々しく口に出すな」
正面に向き合ったと同時にラウラは、鈴の胸倉を掴もうとするが、その手は直ぐに掴まれてしまった。
「お生憎様、アタシは別にいいのよ。千冬さんとは知らない仲じゃないから」
「………少しはやるようだな。だが、お前如きが私と張り合えるとは思うなよ」
「あんたなんかと別に張り合いたくもないわよ。でも、あんたが何か一夏に良からぬ事を考えてるみたいだからね」
先ほどとは違い毅然とした態度でラウラと鈴は向き合う。鈴の睨みに彼女が此処にいる学園の生徒とは違う存在であることを察した。
「フン。ならば、言ってやる。織斑一夏は教官の顔に泥を塗ったのだぞ。二連覇の栄光も夢ではなかったのに……それを……織斑一夏が居なければ教官は、更なる高みへ行けた筈だ」
ラウラの言葉に鈴は、少し呆れてしまった。
「そういうあんたこそ、近いうち千冬さんの顔に泥を塗りかねないわよ。何であの人がISに手を出して、さらに力を求めたのは……千冬さんにとって一夏は必要不可欠だったからよ」
「っ!?!何だと!!!あんな奴の何処にそんな価値が!!!!無様に誘拐された足手まといが!!!!!それに、男とも女ともはっきりしない”種馬”にもなれな……」
突然、寮の廊下に乾いた音が響いた。それはラウラの頬を鈴が平手打ちした音だった。どんな突発的な事態にでも対応できるはずなのだが、何故か鈴の平手打ちに反応が出来なかった。
「………それ以上、言うんじゃないわよ。アンタがどんなにイチャモンつけても、一夏と千冬さんは姉弟であることは事実だわ。千冬さんが世界最強のIS乗りだから、一般人の一夏は釣り合わないから弟して相応しくない?
そんな訳、あるわけないじゃない」
鈴は静かにラウラを見据える。ラウラは、鈴の言葉を論破することが出来なかった。言うまでもなく一夏と千冬が姉弟であることは間違いなく、千冬は、ラウラの言うように一夏を大切にしていることは事実だからだ。
「くっ!?!だが、私は絶対に教官の目を覚まさせてやる!!!!織斑一夏の存在は、教官には必要ないと!!!!」
「馬鹿いってんじゃないわよ。そんなことしたら、それこそ千冬さんが気の毒だわ。千冬さんにとって一夏はたったひとりの”家族”なのよ!!!!アンタみたいな赤の他人に奪われるのなら尚更よ!!!!」
鈴の言った”赤の他人”、”家族”という言葉にラウラは少し動揺の色を見せたが、背を向けそのまま走り去ってしまった。
背を向けて走り去っていくラウラの姿に鈴は、少しだけ鼻を鳴らしその場を後にした。
「久々に叫んじゃった……アイツ、ただ千冬さんの特別になりたかったのかな?」
シャルルは、ホラーの存在を知ってから周りと壁を作るようになるだけIS学園の誰とも関わらないようにしていた。
なるだけ誰とも話しをせず、授業が終わればそのまま一人部屋の自室に引き上げてしまうの生活を続けていた。
売店で適当な菓子パン類を購入してそのまま俯いて歩いていた時だった……
正面から来る上級生の一団に気がつくことなくぶつかってしまったのだ。
「ちょっと、あなたっ!?!ぶつかっておいて、謝らないのっ!?!」
運悪く上級生の一団とぶつかってしまったシャルルであるが無言のまま立ち去ろうとしているのが不味かった。
「ねえっ!!!あなたっ!!!」
シャルルの態度に対して怒り、上級生達はシャルルを取り囲む。
取り囲んだ上級生達に対して、シャルルは自身もまた”理不尽”な怒りの念を抱いた。
(どうして、僕ばっかりがこんな目に……)
声にこそは出さないが、自分に降りかかってくることに対して理不尽なモノを常に感じていた。
「デュノアさんっ!!!一体どうされたのですかっ!?!」
取り囲んだ上級生達にセシリアと鈴の二人が割って入った。無言のまま鈴は睨みを利かせるように上級生達に視線を向ける。
「……別に、なんでもないよ」
「何でもないって……あなた、私達にぶつかっておいて……」
上級生達はあまりのシャルルの身勝手な発言に対して、更に怒りを露にする。
「あぁ~~っ、ちょっとまって、デュノアが何かやらかしたみたいだけど、アタシ達がキツク言って置くから、ここは勘弁してもらえないかしら」
険悪な雰囲気になっている場を収拾しようと鈴がシャルルに代わって謝罪する。
「世界で数少ない男性のIS操縦者だから、庇っているのかしら?」
棘を思わせる口調で問う上級生に対して
「そうじゃないわよ。悪いことをしたのなら、叱るか注意する。それは常識よ、謝ることも……」
そういってシャルルを軽く小突く鈴。
「ほら、悪いことをしたんなら謝りなさい。アンタにも事情があるのは分かっているけど、今は………」
自分を庇ってくれる鈴に対してシャルルも流石に自身の身勝手な振る舞いに反省するが、
「…………ごめんなさい」
心から反省というわけではないが、謝罪の意があるのならというわけで上級生も納得し、その場は納まった。
上級生達が去った後、二人を睨むようにしてシャルルもその場を去ろうとするが…
「お待ちになってください」
シャルルの細い手首を掴み、引き止める。
「っ!?!別にあの場は、ああするしかなかったんだから!!!もう用は済んだでしょ!!!」
「いえ、最近のデュノアさんは、誰が見ても危ないですわ。転校してからずっと、誰とも関わっていないではありませんか?」
「余計なお世話だよ!!!!誰が好きでもないことをやらされて、怖いことに巻き込まれているのを危ないなんて!!!!当たり前じゃないか!!!!!」
セシリアの手を振り切りそのまま走り去ってしまった………
乱暴に寮の扉を開け、シャルルは乱暴に上着を脱ぎ捨て、さらに自身の胸に着けていた”バストホルダー”を乱暴にベッドの上に叩き付けた後、首飾りの状態で待機している”専用機”を扉に向かって投げつけた。
シャルルの顔は真っ赤になり、目は涙に溢れていた。様々な嫌なことにただ泣き、喚くしかできない自分に情けなさを感じ、それに涙するしか出来なかった……
「……どうして、僕はこんなところに居るの?いやだ、口調まで……皆に嘘ついて、嫌なことばかりで……どうして誰も助けてくれないんだよ……」
シャルルの胸はバストホルダーから開放された、彼女自身の豊満な胸が顔を覗かせていた………
この日、一夏はある用事で学園の外に出ていた。学園周辺にあるオブジェの封印のためである。
「まったく、ここ最近は厄介なことが続くな。あのドイツの転校生に続いて、胸糞の悪い”ムドー”まで出てきやがった」
胸元にいるヴリルが吐き捨てるようにムドーの名前を告げる。
「……ムドー。あの使徒ホラーに匹敵する実力をもつホラーだね」
「ああ、使徒ホラーにも色々あるが、現代になってその特性故に厄介な能力がより厄介になった奴もいた」
古の時代に雷鳴と共に現れる”魔雷 ホラー バクギ”なる使徒ホラーは、現代では電気を伝って様々な場所に現れていた。
「ムドーも……」
「奴は昔から厄介だった。アイツは”争いと力を欲する感情”を陰我とする。特にここ数百年の人間の文明の発達は穏便というわけにも行かなかったからな」
ヴリルの言うように人間の文明の発達の先端には常に争いが存在していた。20世紀の二度の世界大戦、さらには白騎士事件によって齎されたISより得られた技術の向上など……
「特にアイツは、新しい物が大好きだ、大昔は剣や斧、世界大戦があった頃は、戦車やら色々と乗り換えていって、最終的にはでかい飛行機に取り付いたな」
「………武器になりえる”モノ”に、それを中心とした”陰我”に憑依、現れるのか……」
「そういう事だ。ただ、あいつは武器に憑依はするが、そいつを使うわけじゃない。そいつを求める人間を弄んで最終的に喰らう。ここん所は、カルマと同じだな」
魔鏡ホラー カルマ。鏡に憑依するホラーであり、鏡にその人が望む欲望を映し出し、それに魅せられた人間を鏡の中に引き擦り込み喰らう。
魔鏡空間という異空間に引き擦り込む。カルマはここから人間世界に出ることはない為、倒すには必ず魔鏡空間に入らなければならない。
ムドーの場合、カルマのように鏡に限定されず、武器という物に分類されるモノに取り付き、自身の魔空間を作り出し、そこで事の成り行きを見守り、獲物を弄び喰らうのである。
「カルマと違って、人間世界に実態を持って出てくることも出来るんだが、奴は喰らうか気まぐれで相手を痛めつけるためにしか出てこない。要するに餌を徹底的に弄んで絶望していく様を見る方が直接襲って喰らうよりも好むんだ」
「………簡単には倒せないホラーってことだね」
「ああ、それに加えて胸糞が悪すぎる奴だぜ。ったく、厄介な事が立て続けに起きているな」
一夏は、手元にある番犬所からの指令に目を通す。内容は……
”その地に ムドーが現れた。元老院より黄金騎士がこの地に派遣される。黄金騎士と協力し、ムドーを殲滅せよ”
「ヴリル、問題は、ボーデヴィッヒやムドーの事ばかりじゃないよ」
「なんだ?他に何かあったのか?」
一夏は、少しため息を吐き
「忘れているのか?シャルルの事だよ。最近の様子は見ていて、少し危なっかしい。アレだとホラーにつけ込まれるかもしれないから」
「あぁっ!!そういえば、あのお嬢ちゃんのこともあったな。つーか、あのお嬢ちゃんの場合は普通の自分勝手じゃなくて普通の反応じゃねえか?」
「………そうかもしれないけれど、此処に居る以上近くであんな風になっているのを見過ごすのはできない」
「どうだかな?一夏、言っておくが人間は自分から手を差し伸べてそれを背負い切れる程、強くはないぜ。自分から首を突っ込むのは相手の不幸も背負うことだ」
ヴリルの言葉に一夏は、少しだけ表情を曇らせた。正直、お節介が過ぎるかもしれないと思ったのだ。
「だが、苦しんでいて、相談ができないようなら話を聞きに行くのは、話は別だぜ」
「……そうだね。今日は、シャルルと話してみるよ」
部屋に戻って行ったシャルルを追いかけ、鈴とセシリアは部屋の前に来ていた。
ロックが掛かっており、扉を叩いても扉が開けられることはなかった。
「ったく、アイツはいつまで逃げるつもりなのよ」
鈴はとりあえず拳で扉を”バン”と勢いよく鳴らした。扉は大きく揺れたがそのまま沈黙してしまった。
「あの……鈴さんなら、この扉を”魔戒法師”のお力で何とか出来るのでは?」
鈴の様子を見ていたセシリアは、法師の力を提案するが
「確かにそうかもしれないけど、師匠の烈花さんから、キツク言われているのよ。絶対にホラー関連以外で魔界の力を使うなって……」
魔界の力は、人を傷つけてしまう恐ろしい力。それをしっかりと理解し、私闘などの都合で使ってはならない。
「そうでしたわね。失礼なことを聞いて申し訳ありませんでした」
「良いわよ、気にしていないから……」
これは掟でもあるのだ。法師としての力を使えば、目の前の扉を砕くことなど訳はないかもしれない。
「一応、事情をあいつも知ってくれているけど……」
このまま引き下がりたくないと鈴は思う。シャルルが歩み寄ってくれるのがいいのだが、それすら叶わないのが今の現状である。
そこへ助け船を出すかのように鈴の魔戒魚が跳ねた。その様子に鈴は、魔戒魚が何を言わんとしているのかを理解した。
「っ!?!ああ、そういうことね。アンタやるじゃない」
コミカルに跳ねる姿は、自分に任せろと言わんばかりである。
「じゃあ、お願いね。今は、あんたが頼りだから」
魔界魚は、扉の僅かな隙間を縫って部屋の中へと入っていくのだった。
扉から聞こえてくる声をシャルルは気持ちで聞いていた。
「……他人の僕が心配だなんて、少し図々しすぎるんじゃないかな?二人共……」
声が治まったのを聞き、扉の前に投げ捨てた待機状態のISを拾いに扉の前に来た時だった。目の前にいきなり、淡い光を放つ”魚”が現れたのだ。
「な、なにっ!!?!これっ!!!」
突然の侵入者に対し、シャルルは腰を抜かしてしまった。見たこともない生き物が目の前に現れれば、ある意味当然の反応である。
その魚は、シャルルの周りを遊ぶかのように光の粒子をばら撒きながら周った後、扉の鍵を開けてしまった。
開けられた扉から現れた鈴とセシリアは、腰を抜かしたシャルルによく似た少女を見た。
少女は、不思議そうに見る鈴とセシリアに対し表情を曇らせ俯いてしまった。
シャルル
これで終わった……知られちゃいけなかったのに……でも、これであの人の命令をもう聞かなくていいかもしれない。
だって、あの人と会社はもう終わっているから、このまま僕がここから出ていけば、もうISにもあの怖いホラーにも関わらなくていい。
だけど、僕はこの後、どうなってしまうのだろう?フランス政府を騙してしまった事には変わりない。
僕は命令されただけだから、そんなに罪は被らなくていいかもしれない……
でも、一生、絵は描かせてはもらえないだろう……
そんな事を考えていると、鈴とオルコットさんが少し困ったような表情を浮かべて歩み寄ってきた………
「はは・・・・・・これが僕だよ。嘘つきさ」
自嘲気味に笑いながらシャルルは、自身の身の上を二人に話した。
「デュノアさん。あなたは、どうしたいのですか?ただ誰かに嫌なことを全て押し付けて、ご自分は身が軽くなるおつもりですか?」
身を乗り出すようにセシリアがシャルルに問う。その目は僅かながら怒気を含んでいた。
その目にシャルルは、何で怒っているのと言わんばかりに
「なんだよ?僕に説教しようっていうの?言っておくけど、僕にはもう、何もないんだよ!!!母さんはもう居ないし、居るのは血縁関係があるアイツだけだ!!!独りぼっちなんだ!!!そんな僕にこれ以上、何を言うんだよ!!!」
感情を爆発させ、自身の苛立ちをぶちまけるシャルルに対して、セシリアは彼女に身勝手さを感じるが、グッとこらえ
「………ワタクシも父と母が亡くなってから、独りぼっちで心細い想いをしました」
「それは、オルコットさんには助けてくれる人が居たからでしょ。それに、僕と違って、お金持ちだし…何でも助けてくれ」
事前に知っていたオルコット家の情報を口に出してシャルルは反論するが、
「いえ、誰も助けてはくれませんでしたわ」
迷わずにキッパリとセシリアは言い切った。
「…………両親の残した財産を狙う親類の顔をした浅ましい方々しかいませんでしたわ」
今、思い出しても男女問わずアレほど人が嫌に思えた日々はなかった。自分を心配するのは建前で本当は、両親の成した財を管理するのが目的だった人達。
中には、婚約者を宛がおうとした人もいた。両親の残した財産を護るためにISの代表候補生ともなったが、その過程で”力”に酔ってしまったことは、セシリアにとっては今も反省しなければならなかった……
あのまま、ISの力に酔っていれば自分は、とんでもない恥知らずになっていただろう。さらには、優しかった父を貶める最低の親不孝者に……
自分を負かし、大切な人を思い出させてくれた想い人には、感謝しきれない。
「あの時ほど、ワタクシは人の理不尽さを思い知ったことはありませんでしたわ。当然、一人でやろうと思えば、できることとできないことがあって、何度も嫌な思いをしてきました」
その過程で父や母に仕えてくれていた使用人達に助けを求め、乗り切ってきた。思えば、父はこんなことを言っていた。
”セシリア、無理はしなくていい。僕達ができることは本当に微々たるものだ。どうしようもない時は誰かを頼りなさい”
その時は、何を気弱なと思ってしまったが、思えばその言葉があったから、オルコット家の財産を両親の遺産を護ることができた。
身の回りの世話をしてくれたメイドのチェルシー、さらにはたくさんの人が支えてくれたのだ。
「ワタクシの経験から言わせていただきますと、デュノアさんはこの現実をどうしようともせずにただ、都合のいい誰かが責を負ってくれるのをただ待っているしかみえませんわ」
「じゃあ、なに?僕よりも立派ですよと自慢がしたいの?そうだね、君は立派だよ、オルコットさん。僕とは……全然違うよ」
口元を歪ませてシャルルは、セシリアに皮肉を言う。傍で黙って見ていた鈴は”いい加減にしなさい”と言いたくなった。だが、
「………ったく、聞いてみれば親がどうとか、自分には何もないとか言ってるけど…アンタは何がしたいの?夢とか、好きなことはないの?」
突然、突拍子の無い発言をする鈴に、セシリアは
「あの、鈴さん。話が見えないのですが?」
「ごめんね。いきなりで、でもアタシも似たような事が少し前にあったわ。言っておくと、アタシの家族を中国の政府が引き離そうとしたのよ」
鈴の発言にシャルルは驚いた。
「えっ!?!なんで、鈴は一般の生徒なの?」
「本来なら向こうのISの国家代表候補生になってたかもしれないわね。でも、相手が何と言ってこようがアタシの父さんがアタシ達家族を護ってくれたのよ。普通の定食屋がね」
原因は、自分のISの適正値の高さに目を付けた政府が自分を取り込もうとし、中国国籍の母とともに父から引き離そうとしたのだ。
政府が相手では、何もできないと父は半ば諦めていたが、一夏を迎えにきた 銀牙騎士 涼邑 零の言葉で、父は家族を護るために戦ったのだ。
当然のことながら、相手からの嫌がらせや自分や母を勧誘してきたが、それでも屈さずに父は自分達を護りぬいてくれた。
父は”家族と共に過ごしたい”、”平穏を脅かす輩から護りぬく”と心に決め、戦い、勝利した。
「相手が自分よりも格上で力があるから、言いなりになる?冗談じゃないわよ、アタシ達の生き方はアタシ達が決めるわ。シャルル、あんたにもやりたいことがあるでしょ!!!絵が好きなんでしょ!!!!」
シャルルの前に立った鈴はさらに続ける。
「絵が好きなら、大好きなら、言われたぐらいで諦めんじゃないわよ!!!!才能がないのを言い訳にして、自分の好きなことを捨てるのは、それがどうでもいいことだったからじゃないの!!!」
「っ!?!!!違うよ!!僕は、絵が好きだ!!!!画家になりたい!!もっと、もっと、いろんな所へ行って絵を描きたい!!!!!どうでもいいことだなんて、言わないでよ!!」
シャルルは、鈴に対して怒りを込めて反論した。自分の大好きなことをどうでもいいと言われることは、彼女にとって我慢がならないことだったからだ。
「だったら、アンタの好きなことをやり遂げなさい!!!アタシ達に見せてよ!!!アンタのやりたいことを!!」
目に涙と顔を赤くしてシャルルは、絵筆を取り、いつか買っていたキャンパスを手に取り、さっそくだが何かを描こうとしていた。
二人を押しのけ、絵を描き始めたシャルルの様子に鈴は少しだけ、笑みを浮かべ
「まあ、アレならしばらくは大丈夫みたいね」
「鈴さん。これで良かったのでしょうか?」
今の状況に付いていけないのかセシリアが疑問の声を上げる。
「良いのよ、まずは、何をしたいかをはっきりさせないと……シャルルの家ってかなり複雑だし………」
「そうですか。ワタクシ達はこの辺でお暇しましょう。デュノアさんの邪魔にならないように……」
二人は、そのまま部屋を後にした。
シャルル
勝手なことばかり言って、絵を描くことがどうでもいいことだって。
ふざけないでよ!!!僕は絵を描くのが好きだ。これをどうでもいいだなんて誰にも言わせない!!!絶対に!!!!!
今、描いているモノは僕が衝動的に描いているモノだ。輪郭がはっきりしてくると僕は驚いてしまった。
だって、それは………
「シャルル、ちょっといいかな?」
再び扉から誰かの声が聞こえてきた。それが誰かは考えるまでもなかった、尋ねてきたのは僕が今、描いている”蒼い狼の騎士” 魔戒騎士の織斑一夏だったからだ。
どうして、衝動的にこれを描いてしまったのだろうか?
「いいよ。ただ、絵を描いてるから、手短にね」
この時、僕は失念していた。僕が女だってことは二人以外に知られてはならなかったのに…ましてや、一夏には……
「やっぱり。お嬢ちゃんだったか」
一夏の胸元にあるネックレスが呆れたように声を掛けてきた………
その頃、黄金騎士 冴島 鋼牙は繁華街に居た。街には様々な享楽に委ねるたくさんの人達が闊歩していた。
その中の一つのビルに鋼牙は立ち入り、入った途端中の惨劇に眉を寄せる。
このビルは所謂、”事務所”と呼ばれるところで一般人にはかなり危険な場所である。
当然のことながら、中には何人かの構成員が居るのだが僅かな幽霊のような気配がかろうじて感じられる程度に………
あちこちに切り取ったかのように人の影が壁や、天井、通路に存在している。
「………ザルバ」
「ああ、こいつは、ムドーの仕業だ。どうやら、相手を生きたまま焼いて食ったらしいな」
ところどころに熱を持った切り傷が無数に存在している。どうやら、此処に来て、食事を始めたようだ。
「ムドーは、他のホラーと違うと言うのか?」
「そうだな、アイツは人間で言う調味料を食べ物に掛けるように人間を色々な方法で痛めつけるか、弄んで喰らうんだ」
「どういった方法だ」
「まあ、色々だな。アイツは火を主に使うが、他にも厄介な術を使う。カルマのように人間を下僕のホラーに変えてしまうみたいにな」
さらに奥に進み、ホラーの痕跡を探すが、一向に見つかる気配はなかった。ビルを出た後、鋼牙は再び振り返る。
「っ!!!」
先ほど調査したばかりのところの三階の窓に奇妙な笑みを浮かべたゴシックロリータの少女が居たのだ。再び引き返し、三階に来た時、遠くへ離れていく足音が木霊する。鋼牙も急いで、足音を追いかける。
ビルの屋上に鋼牙はたどり着いた。周囲を見渡すと同時に五感を鋭くし、相手の気配を探す。鋼牙の真上に先ほどの少女が宙を浮いており、ナイフを取り出し、一気に鋼牙目がけて降りる。
寸前で刃が振り下ろされる前に振り返りざまに牙狼剣が火花を散らし、それを防ぐと同時に少女を吹き飛ばした。
勢いよく吹き飛ばされた少女は、おぼつかない足取りで着地し、鋼牙と対峙する。
「………あなた?もしかして、黄金騎士」
いきなり核心を突く言葉に
「ああ、そうだぜ。こいつは、お前達、ホラーが大嫌いな黄金騎士だ。そういうてめえは、ムドーの手下か?」
ザルバの言葉に少女は笑みを浮かべ
「そうなんだ……あなたが、ムドー様と同格の使徒ホラーを七体すべて倒したんだ」
「言うことはそれだけか?こちらから問う、ムドーは、今、何処に居る」
鋼牙は、少女と話すつもりはないのかストレートに問う。だが、少女は曖昧な笑みを浮かべながら鋼牙に歩み寄り、
「ええ?それを簡単に言うと思う。こういうのは、色々と手順を踏むんでしょ、だったら、もう少し……」
ナイフを掲げて勢いよく飛びこむ。だが刃を振うまでもなく鋼牙は手刀でナイフを持った手首に衝撃を与えると同時にそのまま腕を捻り、相手を拘束する。
「お前達、ホラーと戯れるつもりはない。言え、ムドーは今、何処に居る」
「っ!?!!言うわけないでしょ。私達の苦労を分かってくれるムドー様を殺させるわけには……」
無理に身体を捻って、鋼牙の拘束から少女は逃れる。
「逃がすと思うか?」
「いいえ、逃がしてくれるの。だって、ケイさんが迎えに来てくれたもの……」
その言葉と同時に風邪を切るような音がまっすぐ鋼牙に向かってくる。それは、対戦闘ヘリ用の長距離の携帯型 ミサイルだった。
「不味い!!!鋼牙!!!!」
鋼牙は急いで、その場所から近くのビルに飛び移ったと同時に小型とはいえ、ビル一つを破壊する爆音と炎が繁華街の一角に上がった。
「………逃げられたか……」
「ああ、そうだな。まさかミサイルを持ち込んでくるとはな……」
騒ぎが大きくなっており、誰かに見られては厄介になると思い、鋼牙はこの場を後にするのだった
小型ミサイルを放った人物 ケイは傍らにある刀に視線を向けた。
その視線に刀は、妖しく光るだけだった。さらに少し離れたところに、人の形の焼けた影が存在していた…………
IS学園の屋上でラウラは、眼帯を外し苛立ったように手摺を殴りつけた……
「何が…必要不可欠だ。アレは教官にとって……」
ラウラ
私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。識別の記号であり、遺伝子強化試験体 C-0037。
軍の兵士として、生まれたのだ。親などは居ない。人工子宮の中で育てられ、ただ戦いだけを義務付けられた。
物心つく前から、様々な兵器の取り扱いを学び、最高のレベルの成績を残した。
だが、ISの登場で私の立場が急変した。そうISは、他の兵器と違い”適正”というものを必要とする。
私はそれを持たなかった。当初、ISを動かすことができずに、”適正”を高めるためにナノマシンを肉眼へ移植したが、理論上はこれにより適正を得ることができたが
それと同時に異変が起こってしまい、左目が黄金色に変異し、それゆえにトップから落ちこぼれに転落してしまった。
部隊員の嘲笑と侮蔑の視線。私は、ただ悔しかった。”できそこない”と言われる日々が辛かった……
それを救い出してくれたのが教官だった。
”最近、調子が悪いようだが、私が指導する。すぐにトップに返り咲くだろうさ”
教官の教えを忠実に実行することで、私は瞬く間にトップに返り咲き、専用機を得られるまでに至った……
私は、憧れた。教官の強さに……何物にも屈しない堂々とした姿に……
ある日、私は教官の強さが知りたくて、休日に会いに行った。休憩室で教官は、電話で誰かと話していた。
”一夏。今、どうしている?そっちは大丈夫か?ちゃんと、食べているか?困ったことがあったら、必ず私に相談するんだぞ”
今までに見たことのない柔らかい表情で電話の向こうに居る誰かと話していた。
”そうか、ドイツの花が気になるのか?わかった、写真をたくさんお前のために撮ってきてやろう”
”私が強い?ボーデヴィッヒ。私を買いかぶり過ぎだ。私は決して強くはないさ。一夏に比べたら……”
”あの子を危険な目にあわせ、私にああ言ってくれなければ、私はずっと慢心していて、大切なものに気が付けなかっただろうな”
嬉しそうにこの場に居ない”家族”の事を語る教官の表情が憎らしかった……
堂々と凛として何物にも屈しない”力”と”強さ”を持ったあなたが、なぜ、そんな風に笑うんですか?
あなたをそんな風に変えたのは、”家族”なのですか?だったら、あなたがあなたであるためには、足手まといになるような家族は……必要ない。
なぜなら、あなたが輝ける場所は”戦場”であり、あなたは皆の称賛を一手に受けなければならないからだ。
だからこそ……あなたをそんな風に変えてしまう存在を……織斑一夏の存在を認めない………