I S×GARO   作:navaho

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第拾漆話「追想」

 

一夏の目の前に居たのは、シャルルによく似た少女だった。

「やっぱり、そうだったのか」

キャンパスから視線を一夏に移し、

「………そうだよ。僕は……二人目の男性のISの適格者じゃない」

少し顔を俯かせシャルルは応えた。

「分かっていたよ、シャルルが女の子だって事は……」

「…………………分かってたんだね」

一夏を責めるような視線をシャルルは向けた。

「自分でも分かっている。今の私の存在……世界で唯一の男性のIS操縦者がどんなものなのかも」

「………だから、僕のようなのは、分かっていたっていうんだね」

おおよそのことは予測が出来ているといわんばかりだった。一夏の冷静な態度がシャルルを少しだけ苛立たせた。

「………何で、そんな風に平然としていられるの?怖くないの?他人に狙われて、自分の好きなこともできなくて……」

”誰も助けてくれない”という言葉をグッと飲み込む。そんなシャルルに対し一夏は

「これが私に与えられた試練だと思うから……それに私は一人じゃない。だから助けは求めない」

「一人じゃないからって……どういうこと?助けは要らないって……」

「私は自分でこの”魔戒騎士”と言う生き方を選んだ。だから、それを後悔したくない」

益々持って訳が分からなかった。シャルルにとって魔戒騎士の一夏は遠い世界から来た宇宙人にも思えた。

「私の、いや、私達の進む道は一本ではなく。いずれ何処かで誰かの運命と重なると教わった」

「……誰かの運命と?」

「うん。もし、そこで助けられるということがあるのなら、それは誰かの運命と重なること。ただ、そうなるには、一人一人がその道を進まなければならない」

闇雲に助けを求めたところで何の解決にもならない。進むべき道を進まない限りは………

「………そういわれると、何だか悔しいよ。まるで、僕がただの臆病者にしか思えないじゃないか」

”一夏も僕を見てそう思うんでしょ”と言わんばかりだった。

「別にそうは思っていない。人は誰でも臆病だし、いつ、道を踏み外してしまってもおかしくない。道を進んでいて、もし、踏み外してもそれを正してくれる人が居る。独りじゃない限り……」

師が教えてくれた。

”一夏。人は決して一人では強くはなれん。誰かと関わり、支えあうことで強くなる。それは、孤独を強いる魔戒騎士も例外ではない”

”花を力強く咲かすには、花の種だけでは足りない。土が、太陽が、水が必要だ。それらが欠けてしまっては花を咲かすことは出来ないのだ”

「シャルルが許してくれるなら、私に経緯を話してくれないだろうか?何が出来るかは分からないが、これは逃げじゃなくて、進むことだと思うから……」

一夏の視線にシャルルは向かい合うように自身の視線を合わせる。

「うん……話すよ。その前に僕の本当の名前を言ってもいい?」

「……構わない」

「やっぱり悔しいな。一夏のそういうところ…僕の本当の名前は、シャルロット。シャルロット・デュノア。母さんがくれた名前なんだ」

笑みを浮かべてシャルル、いや、シャルロットは一夏に自身を取り巻く事情を話すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の反省室で箒は、簡易ベットの隅で蹲っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやに静かな場所だな。そうだ、ここは寮から離れたところに位置しているから、滅多なことでは誰も通らない。

そもそもこんな所に入ってくるような奴がどうかしている。

私は、自分でも知らぬうちに変わってしまったとでも言うのだろうか

いや、私ではなく変わったのは一夏だった。再会した時、あの日と変わらぬものとばかり思っていたのに……

どうして……あんな目をするようになったんだ?あんな化け物と関わるようになってしまったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

私が一夏と出会ったのは、小学校に入る前だったと思う……

覚えている事と言えば、物心付く前から両親は”姉”である”あの人”に掛かりきりだった。

あの人 ”篠ノ之 束”は、生まれついての天才だった。私は知らないが、あの人は私が生まれる前まで”剣道”をしていたらしいが途中で飽きて、”研究”に打ち込むようになった。

話によると千冬さんといい勝負ができるのではという・・・・・・真実は分からないが・・・・・・・・・

大人でも解けない問題を解いて見せたり、途方もない理論を見つけ、それを実用化できるという何もかも与えられた人だった。

それ故に、両親は常に掛かりきりで気を使っていた。特に父は勉学で苦労していたらしく、あの人に期待しており、母は母で、周りに合わせられるようにフォローを入れていた。

両親の大きな期待を持ったあの人と違って私は、搾りかすのような物だった。本当に何処にでもいる子供だったのだ。神童であるあの人と違って………

普通の私と普通でないあの人との扱いは、大きく違っていた。あの人は、妹という事で私を認めてくれていたが、それがなかったら私は他の人と同様、何の価値もない石同然に見られていたかもしれない。

あの人がやっていた”剣道”にどうして興味を持ったかは覚えていない。あの人と同じように見て欲しいという幼心だったのだろうか?今となっては思い出せない・・・・・・

そんな時だった。父の教え子の千冬さんが弟の一夏を連れてきたのを……はじめて見た時は、お姫様が来たのかと思うぐらい可愛い女だと思ってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前………

 

”先生。今日は、私の弟の一夏を連れてきました”

”初めまして、おりむら いちかです”

手を引かれていたのは、背中まで伸ばした綺麗な亜麻色の髪をした可愛らしい子供だった。

”この子が千冬君の言っていた…弟じゃなかったのか?この子は、女の子に見えるが……”

”はい…弟です…ただ、少し事情があって……”

千冬の歯切れの悪い言葉に隣に居る一夏は事情が分からないのか少し首を掲げていた。

”………この子は……そういう事か?そういう子が時々居ると聞いているが…君の弟が……”

”ねえさん。わたしがなにかしたの?”

”いや、なんでもないぞ。一夏、そうだ、今日は私のしている剣道を見学するといい。せっかくだから見ておけ”

意気揚々と千冬は竹刀を掲げて、素振りを始めた。その様子に先生でる柳陰もまた……

”張り切っているな、千冬君。そうだ、一夏君はそこに座って見学をすると良い。箒、一夏君に挨拶を……”

柳韻に呼ばれて顔を向けたのは一夏と同年代の少女 箒は少しムッとした表情をしていた。

”……はい……”

”この子が、千冬君の弟の一夏君だ。挨拶を…”

”弟?父上、この子、女の子だよ?”

柳韻の言葉がおかしいと言わんばかりに箒は声を荒げた。

”いや、この子は男の子だ。私も少しびっくりしてしまったがね”

”じゃあ、軟弱者だ。こういう男は、女々しくて弱いんだ”

箒の言葉に、周りが少しだけざわついた。これに早く反応したのは、千冬だった。

”おい、小娘。口に気をつけろ、初対面の相手に対しての礼儀を習わなかったのか?”

先輩風を吹かせ、千冬が二人の間に割ってはいる。

”それをいうなら、二人共だ。箒、初対面の子にそういうのは良くない”

”………父上は、いつも言ってたよ。最近の男は、ヒョロヒョロしていて情けないとか、そういう奴は弱いとか……”

”そ、それはだな。その人による。だから、訂正しなさい”

父親のいう事に納得がいかないのか、箒はムッとしてソッポを向いた。その様子に一夏は

”じゃあ、わたしがあなたに剣道でしょうぶして勝ったら。ていせいしてくれる?”

”なっ!?!”

”一夏!!!何を言っている!!!!”

突然の一夏の言葉に二人は驚いた。今日着たばかりの子が勝負をしようと言ったのだ。これに驚くのは無理もなかった。

”驚いた、そういう事情を抱えていても男子は男子というわけか”

”先生!!!そんな事を言っている場合ですか!!!!一夏も危ない事はよすんだ!!!”

”ねえさん。わたしもおとこのこだよ。だったら、おんなこに情けないなんていわれたくない”

一夏の意思は固かった。千冬は最後まで反対したが結局は、一夏の意見が通ることになった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣道着を着て互いに道場で一礼をした後、互いの構えを取る。正面に構えた箒と違い、一夏は柄を掲げ刃を左腕の甲に滑らすような構えだった。

その構えに箒をはじめとした道場のモノは驚いたが、柳韻はその構えに覚えがあったのか、

”アレは…私が子供の頃に見た……”

彼の脳裏に黄金の鎧を纏った剣士の姿があった……

箒は、適当な構えと思い、竹刀を振り下ろして一夏に一撃を加えようとするが、一夏はその剣を弾き、胴に反撃で一本を取った。

勝負は一瞬で決着を見た。一夏が放った型は誰も見たことのないものだった……

”くそっ!!!もういっかい!!!!”

軟弱な男に負けたのが悔しかったのか涙目で箒は再戦を望んだ。その様子に一夏は

”いいよ。あなたの気の済むまで”

”わたしは、あなたという名前ではない!!!箒だ!!!!”

一夏のツンとした態度が嫌だったのか、自分の名前を告げる箒だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからだったな。私が一夏を意識するようになったのは、軟弱なアイツに負けたくなくて何度もやっても勝てなくて悔しかった……

同年代の男の子から嫌がらせを受けた時も、一夏は私の傍に居てくれた。アイツの方が虐められそうなのに、虐められなかったのは、あの頃からずっと強かったのだろうな……

私達は、同じ時を過ごした。時々、花を育てるあいつに対して竹刀を振り回して呆れられたりしながら……本当に楽しかったのに……ずっと続くと思っていた……

”白騎士事件”……あの人が作った”IS インフィニット ストラトス”が私達を引き離した……

世界を変えたあの人は、誰にも行方を告げずに行ってしまった……私達家族は、政府の保護プログラムで関係者という事もあり、別々の場所へ離され、常に政府に監視されることになった。

その過程であの人の妹という事で”IS”の適正も図られたが、私の適正値は低くかろうじて動かせる程度のランクだった…その時の政府関係者の落胆のしようは、嫌なものだった…

勝手に引き離して、勝手に落胆して、私を何だと思っているのだと…………これも全てあの人が…無責任に世界を引っ掻き回してくれたせいだ……

 

「篠ノ之。お前も関わってしまったんだな」

 

 

 

気がつかなかったが、一夏の姉である千冬さんが反省室の扉の前に立っていた。

 

 

 

 

 

「どうした?そんな所にうずくまって……ショックだったのは無理もない」

千冬の言葉に箒は自身の心に渦巻くなんかを感じた。

「…………どうして、一夏があんな事を……どうしてですか!!!!!千冬さん!!!!!!!!」

声を荒げ、千冬に問い詰めるように叫んだ。

「………私だって、信じたくはない。どうして、こんな事になってしまったのか……私と束が思い描いたのは……こんなはずじゃ………」

辛そうに言葉を返す千冬だったが、箒にはそれすら言い訳にしか聞こえなかった……

「あの人が!!あんな事を起さなければ!!!!!こんなことには!!!!!あなたは、止められるはずだったのに!!!!どうして、止めてくれなかったんですか!!!!!!!」

知らず知らずに箒の頬に涙が辿っていた。自分の知る想い人が知らない所へ、それも手が届かない遠いところへ行ってしまったことへの悲しみだった……

「それに、あなたは世界最強じゃなかったんですか!!!!」

箒の言葉に千冬の表情は青ざめた。世界最強の座を射止めた彼女であったが、そのせいで一夏を危険な目に遭わせてしまったことと、自身の力が齎した陰我が呼び寄せてはならない怪物をも招いたことを…

「………前にも言っただろ。私の力を超えるものならごまんと居ると……」

「また、言い訳ですか……」

「………そうだな。もうこうなってしまった以上は、何を弁明しても無駄だな……」

暫くして、千冬は反省室から去って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じかな。僕がここに来たのは……」

シャルルは、隠していたことをスッキリさせた事で肩の荷が下りていた。

「スッキリするね。これで僕の荷が取れたから……」

先ほどの少し拗ねた表情とは打って変わって、晴れ晴れとしていた。

「何てげんきんな女だ…」

ヴリルは少し呆れたよう呟いた。

「これから、どうするつもりなの?シャルロットは」

「そうだね。色々と一夏に迷惑をかけたけど、話を聞いてくれたついでにもう少しだけ迷惑を掛けちゃってもいい?」

「………別に構わないよ」

「うん。このままフランスに帰ると政府に拘束されて、檻に入ったら、一生、絵が画けなくなるからさ。三年間はこっちで過ごして身の振り方を考えたいんだ」

「三年間の在校時は、IS学園の生徒はいかなる国家の干渉を受けない」

これは一夏にも言えることだった。男性のIS操縦者であるが故に様々な国家がその身柄を手に入れたいと考えているからだ。

「そういう事だよ、一夏。僕は、三年で身の振り方を決めて、できれば画家になりたいんだ」

「ったく、なんて図々しい女だ」

完全に吹っ切れたのか、自身の身の上を考えた上でやりたいようにやっていくつもりのようだ。

 

「ヴリル。前向きに考えられるんなら、それでいいんじゃないのかな」

意気揚々とキャンパスに向かうシャルルの様子に苦笑し、邪魔をしてはいけないと思い、部屋を後にするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

「ったく、一時は心配したが、あの小娘……とんでもない根性してやがるぜ」

ヴリルが言っているけど、私にとってはシャルロットはあの方が彼女らしいと思う。

少し我が強いが、自分のしたいように進む。何となくだけれど、カオルさんの姿が重なった……

カオルさんも何処か自由奔放なところがあるから、私にはそういう風に見えたのかもしれない………

だけど、実の父親に関しては思うところがあるようだ。ほぼ他人同然であったらしい……

それで、会社のために実の娘をスパイとしてIS学園に送り込むことは、世間一般で見ても許しがたいことだろう

故に、父親に嫌悪を抱く。亡くなった母親のことについては、今も何処かで納得が出来ていない……

私は特にこのことには口を出さなかった。

 

言うまでもない私は、”両親”というものを知らないからだ。

”両親”は、物心が付く前から居なくて、私にとっての親は姉さん ただ一人……

男女が互いに支えあって、家庭というものを築く。中には築いておきながらそれを放棄し、壊してしまうものも居るという……

これが人の厄介な一面の一つだ。素晴らしいと思う反面、愚かな面も存在する………

シャルロットにとって、父親がどういう存在かは私が口に出すべきではない。助言ぐらいはあってもいいかもしれないが、問題を解決するのはシャルロット本人だ・・・・・・・・・

差し出がましいかもしれないが、銀牙兄さんなら、なんというのだろうか?少し、聞いてみたくなった・・・・・・

姉さんと物心がつかなかった私を置いていってしまった”両親”。

 

顔もよくわからないし、人柄もわからない私にとっては、何も言えないからだ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ

教官は、どうかしている。何故、足手まといにしかならないような奴と一緒に過ごすのだ?

貴方がいるべき場所は空であり、戦場です。あらゆる敵を打破する最強の力を持つ貴方がこんなところにいることなんて、許されないことなのに・・・・・・

聞けば、あの織斑一夏と同室という。なぜだ?どうして、お前は何の隔たりもなく教官の傍に居られる?お前にそんな資格などない。

教官の足でまといになり、栄光をさらなる高みへ行くはずだった道を閉ざしてしまったあんな奴に・・・・・・

本 国からも織斑一夏への接触と報告が指令として出ているが、そんなモノは取るに足らない。優先させるのは、教官をもう一度我が国ドイツへ迎えることだ。

そうすれば、男性の・・・・・・いや、織斑一夏は我が国の調べで、男女の性別がはっきりしない”IS”だということがわかっている。

各国よりも優れた我が国の”諜報機関”ならば、他の国よりも進んだ情報を得られるのだ。だからこそ、織斑一夏は必要ない。必要なのは、教官をもう一度ドイツに・・・・・・

説得をするために私は、寮長室へ足を向けた。

「失礼します。ラウラ・ボーデヴィッヒです」

寮長室には誰も居ないようだ。このままここで待つことにしたが、ふと何を思ったのか、私はドアノブに手をやってしまった。部屋じゃ無用心にも空いていた・・・・・・

失礼と思いながらも私は、部屋に入っていった。部屋はキチンと整頓されていて、住人の人柄がでているようにも感じられる。さすがは教官だ・・・・・・

部屋を見ていると私の目の前にそれは、飛びこんできた。それは・・・・・・

「なんだこれは!!!こんなもの!!!これは、教官なんかじゃない!!!」

私の目に映るのは、戦士とは程遠い、どこにでもいるような女として描かれている教官だった・・・・・・

誰だ!!!こんなモノを描いたのは!!教官を侮辱するのも大概にしておけ!!

苛立った私は一緒に描かれている織斑一夏目掛けて、ナイフで傷つけた。教官を侮辱するこの絵はあってはならないんだ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボーデヴィッヒ?貴様!!何をした!!」

部屋にラウラがいることにも驚いたが、千冬は、自分が気に入っていた絵を彼女が切りつけていたことに対し、声を荒げて詰め寄った。

「きょ、教官・・・わ、私は、教官のことを思って・・・・・・この絵は、あなたじゃない!!!あなたを侮辱する絵だ!!!」

自身が行ったことは正しいと言わんばかりに主張するラウラだったが、対する千冬は大切にしていた絵が傷つけられたことに対しての怒りで震えていた。

「そうです!!!教官!!もう一度、我が国ドイツでご指導を!!!ここは、あなたの居るべき場所じゃありません!!」

「・・・・・・・・・・・・ふざけるな・・・・・・お前に私の何がわかっているというのだ!!小娘!!」

千冬の怒りに対し、ラウラは思わず後ずさってしまった。

「私はな・・・・・・、本来なら”ブリュンヒルデ”など、望んでいなかった・・・ただ、家族と平穏に暮らしていたかっただけだ・・・・・・」

「きょ、教官。あなたは、お疲れなのですか?そんな貴方は、貴方らしく・・・・・・」

「・・・・・・何が私らしいだと?たかだか、一年、目をかけてやった分際で、自分を特別扱いか?そもそも、私はISで一夏を護りたかっただけだ……」

(こんな世の中にしたのは、世界がISを悪用してしまったことだ)

千冬は、自分の大切な物を傷つけられたことへの怒りからラウラの細い首に手を掛けた。

「きょ、きょ教官…な、なにを……」

「これ以上、何も言うな。お前や他の者が抱く私は私なんかではない」

力が込められ、ラウラは息が苦しくなるのを感じた。目の前に居る尊敬する人がまるで別の人に見えた………目に何も映っていないからだ………

「姉さん!!」

更に力を込めようとした千冬を制止する声が響く。一夏だった。直ぐに二人の間に割って入り、一夏はあやすように千冬を抱きしめた。

「はぁ……はぁ………はぁ…、貴様…教官に何をした?織斑一夏!!!!」

呼吸を整えた後、責めるようにラウラは一夏に問う。だが一夏は、姉を落ち着けるのが先と判断し……

「ボーデヴィッヒ。今日は、私達を二人にして欲しい。だから、今は、この部屋から出ていて欲しい」

「何だと……くそっ!!」

ただならぬ千冬の様子にラウラは自分では何も出来ないことに悪態をつき、部屋を飛び出していった……

部屋には、一夏と千冬だけが残された。

「姉さん、落ち着いて……絵は私がカオルさんに言って治してもらうから、大丈夫だよ」

「………すまない。私がもっとしっかりしていれば……ボーデヴィッヒにもすまないことを……」

落ち着いてきたのか千冬は先ほどの行動に対し後悔の念が生まれていた。

「大丈夫。今は、姉さんが落ち着かないと……よしよし」

「……一夏。それは、姉である私の役目ではないのか?それに私はもう子供ではないぞ」

少し拗ねたように千冬は一夏に言葉を返した。

「小さい頃も姉さんが、一人で泣いていた時もそういう風に言っていたよね」

「なっ!?それは、お前が何時まで経っても甘ったれだったからだろ。何もないのに、人の布団に潜り込んで…」

「私は、姉さんの妹でもあるから女の私なら、別に変じゃないよね」

笑みを浮かべてさらに千冬をあやす一夏だった……

「そういえば、お前は……そうだったな。ならば、今晩は付き合ってもらうぞ」

 

そういって千冬はベッドに視線を向ける。

「お前が妹でもあるのなら、一緒のベッドで寝ても問題はないな」

姉を落ち着けるために、今日ぐらいは我侭を聞いてあげようと思う一夏だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、不思議なことに一夏に”番犬所”からの”指令”が届くことはなかった………

この日の夜に”指令書”を片手にホラー狩りへ出陣する半人前の魔戒法師の姿とそれを見送る友人の姿があったという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、目覚めた千冬の隣には自分を見ている一夏の姿があった……

「起きた?姉さん」

「ああ、今、起きた。お前もか?」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「一夏。そこに座れ」

ブラシを片手に一夏に椅子に座るように促す。その意図を察したのか一夏も笑みを浮かべて椅子に腰をかけた。

千冬は、一夏の髪に手をやりそのままブラシで梳かし始めた。

「本当にお前の髪は綺麗だな…まったく、短くするとは何を考えているのだ?」

セミロング程ある一夏の髪は十分長いのだが、千冬のそれは腰元まである程長い。一年前までの一夏の髪は千冬のそれと同じぐらい長かった。

手に取るとサラサラとして、手触りもいい。千冬にとって、一夏の髪は羨ましかった。自分のそれもそれなりに気に入っているが、少し癖があるため、気になっているのだ。

「あの時は色々と思うところがあったから……」

「……私に黙って”魔戒騎士”等になっていたのだったな。お前は」

一年前、一夏は髪を今のようにセミロングにしてしまったのだ。お互いに思うところがそれなりにあるようである。

「姉さん……私の髪、また伸ばした方がいい?」

「そうだな。私の唯一の楽しみでもあるからな。こんなに綺麗なら、長い方が良い」

幼い頃は、一夏の髪をこうやって梳かしていた。その頃の一夏は”亜麻色”で本当に綺麗な髪だった…いつの間にか、黒に変わってしまった事は残念に思った……

自分もこんな風にと思って、茶色に染めてみたが、一夏のように綺麗なモノではなかったため、直ぐに戻してしまった……

「長くしたらしたで、また女らしさが増すぜ」

「不埒モノめ。二人の時間に口を挟むな」

「へいへい…そりゃあ、悪かったな」

 

 

 

 

 

 

 

千冬

不埒モノももう少し空気を呼んだらどうだ。鏡に映る一夏を見て思うが、皆は私と一夏は良く似ているという。私自身も似ていると思うが、間違われるほどではないと思う……

何故なら、私は一夏のように”綺麗”じゃない。そもそも一夏のようなIS”インターセックス”は、女よりも美しい外見を持つものが多いのだ。

その中でも一夏は、上位のモノを持っている。IS学園の男子用の制服を着ているとその妖しさが浮きだって居る。

女が男装したようなものだからだ……スタイルは私よりも遥かに良いのは複雑だ。弟なのに、どうして姉よりも美人なのだろうか?

ドイツから戻ってきた時に再開した一夏は、一年前よりも遥かに美しく成長していた。同年代とは思えない程、大人びていたから、尚更だ。

私に残された唯一の身内。それなのに……どうして、私の手を離れていこうとするのだろうか?

今、こうして手に触れられるからいい……いつか、私の手に触れられなくなる時が………そんな時が来るのが怖い……

 

 

 

 

 

そうだ……私は、世界最強でも何でもない。ただの臆病者だ……身内一人の戦いを見守ることも、その帰りを待つことのできない程の………

 

 

 

 

 

 

何も変わっていない。父さんと母さんが私の目の前から居なくなったあの時から…………

 

 

 

 

 

 

シャルロットは、自室の姿見に自身の身だしなみをチェックしていた。来ているのは、男性用のモノでなく・・・・・・女性用のものであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

シャルロット

あれから考えてみたけど、僕は男じゃなくて女なんだから、堂々としていよう。怖いことは多いけど、一つは解決したよね。

それは僕が皆に嘘を付いていたことを謝る。だって、あの人の言いなりになるのは、もう嫌だから・・・・・・

鈴にも心配かけたことを謝らないとね。だって、あんな酷いことして迷惑もかけたんだし・・・・・・

三年間は、僕の身の安全は保証される。だけど、三年の間に僕は自分のなりたい者にならなくちゃいけない・・・・・・

それに同じ年齢の一夏があんな風にしっかりしていて、僕だけ情けないなんて悔しい。

だから、僕の前に現れた一夏に堂々とした自分を見せてやるんだ。シャルロット・デュノアは、もう逃げも隠れもしないし、嘘もつかないってね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日のHRで嵐が起こったのは言うまでもなかった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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