続きまして、本編です。
ホラー
闇に潜み、古より魔界に生息し、陰我のあるオブジェより出現し人間を襲い、その魂を食らう魔獣。
ホラーは、我々の世界の生物のどの生態系にも属さないために、古より妖怪、悪魔として伝わっている。
彼らは人間、物に憑依し実体化する。特に人間が憑依される事は”死”と同じであり、その魂は安らぎを得ることなく苦しみ続ける。
陰我
森羅万象に存在する闇。それは、主に人間の持つ負の感情、邪心や欲望である。
此処に宿った”陰我”をオブジェにして、ホラーは我々の世界へ現れ、人間を捕食する。
四月某日
一夏はモノレールに乗っていた。周りには、IS学園の制服を着た女子が自分を見て少し騒いでいた。乗っている乗客は、皆女性である。
「しかしまあ、女の園とはよく言ったモノだ。あ、一夏も一応は…」
女なんだよなと言いたかったが、言えなかった。ヴリルなりに気を使っているのだろうか?
「確かにね。私は今まで、男で通してきたんだ。今さら、女の方に変えるつもりはないよ」
一夏は、少しため息を吐き、そう応えるのだった。正直、人ごみは好きではないが、世界初の男性のIS操縦者として学園に行かねばならないのだ。気がめいってしまう。
今、ヴリルは腕輪ではなくペンダントになっている。理由は、言うまでもなく姉である千冬の目を逃れるためである。
「姐さんは、どうして俺にはめちゃくちゃあたるのかね」
「仕方ないよ。きっかけは、私がお前に応えた事が魔戒騎士入りを決めてしまったんだ。姉さんに相談もなしだったから……」
一夏は、たった一人の肉親である姉の事を想った。
物心つく頃から、両親はいなかった。分かっているのは、姉と自分を捨てて何処かへ行ってしまったことだ。
故に私にとって家族は姉だけで、姉にとっても私だけが家族だった。だからこそ、姉は私を護ろうとした。
十代のまだ、青春真っ盛りのころに学校と仕事に奔走して、ここまで私を育ててくれた姉には感謝しきれない。
そんな姉の気持ちを踏みにじるかのように魔戒騎士として戦う事を選んでしまった。幼いときに彼らに出会い、護りしモノである彼らの生き方に共感し、いつの間にかその修練に明け暮れていた。
姉が仕事に忙しく、めったに家に帰ってこれないのは少しさびしかったが、この事がばれるよりは良かったと思っていた。
一年前のあの日、何故か姉が帰っており、ホラーとの戦いで傷ついてしまった私と鉢合わせしてしまったのだ。
”一夏!!!!!!!!!!!!”
私を見るや、駈け出した姉の顔は今も忘れられない。怒っていて、今にも泣き出しそうな顔を……
”なぜ、私に何も言わなかった!!!!!!!!なぜ、お前がそんなことをやらねばならんのだ!!!!!!!!!”
この事を巡って、初めての姉弟喧嘩を始めたのだ。私は、当然やめる気にはなれなかった。姉には悪いが、もう私は引き返せないところまで関わってしまったのだ。
だからやめられない。姉もまた、私に何度もやり直せる、今から別の生き方を選ぶことができると言ってきかせた。
私ひとりでは、姉とこじれたままだったかもしれない。だけど、一年前のあの日に出会った”仲間達”が私達を支えてくれた。
仲間達は、それぞれが不思議な宿星をもった者達だ。時々仲間の所にはお邪魔させてもらっている。
「しかし、周りの娘っ子達は、何を騒いでいるのかね?と言いたいところだが、やっぱ一夏が姐さんに似ているからか?」
ヴリルの言葉の通り、周りの女生徒達は私の姿を見ては”千冬様?”、”千冬お姉さまにそっくり”と話しているのを聞く。
「そうだね。私は時々、姉さんに間違えられるから」
私が、姉と間違えられたのはかなりの数に上り、そのたびに”人違いだ”と言ってきた。
そう姉は、IS操縦者の中では格別の存在であり、世の女性たちの憧れである。
かつての日本代表にして、ISの世界大会であるモンド・グロッソの第一回 総合優勝者。故に不敗乙女 ブリュンヒルデと言われ、今尚熱狂的な人気を誇っている。
「目つきの鋭さも益々似てきたしな」
「それは、よくわからないけど。姉さんの言うように昔ほど、穏やかな顔はしてないみたいだしね」
ふと、視線を向けると反射した窓に姉と瓜二つの貌を持った自分の姿あった。髪は姉よりも短く、目は確かに鋭い。
姉からは、目つきが悪いとよく言われる。この間も”また、悪くなっている”と嘆いていた。
「さて、そろそろIS学園だ。ヴリル、二人きりになるまでは絶対にしゃべらないでよ。私がいいと判断するまでは…」
「ああ、分かっている。しかしなんだ、この学園は、感じたところ、かなりの”陰我”の要素がある。今まで、ホラーが出てこなかったのが不思議だ」
ここに来る前に姉からは、ヴリルを持って行くなと言われていたが、一夏としては一人?にしておくことができなかったので、連れてきたのだった。
「感謝するぜ一夏。楽しい学園生活を送ってこい。俺は、ここで見守ってるからよ」
「ふふ、ありがとう、ヴリル」
私はこれから三年を過ごすIS学園へと足を踏み入れた。
一夏
本当に女子しかいないのか。ISは女性にしか起動できない、それゆえ関係するのは女性が多い。操縦者、その開発にしてもだ。
あらかじめ、聞いてはいたがこれは、男が一人だけだと相当きつい。一応、私も男なのだけれど、女でもあるので特にプレッシャーにはなっていない。
「全員、揃っていますね。SHRを始めますよ~~」
私の席は、真ん中の一番前だ。これは、さすがに目立つし、正直隅っこがありがたかったのだけれど、誰がここにしたのか?
「それでは、次は織斑君………」
ここで先生の声が少しだけ小さくなった。理由は言うまでもなく、私の外見であろう。
「……はい」
少し、考え事をしていたのか自分でもはっきり分かるほど低い声をしていた。まるで怒っているかのような、ついでに言うと目つきも姉曰く相当悪くなっているので、そう取られてもおかしくはないかも……
「ひっ、も、もしかして怒った?あ、う、ごめんね。今、自己紹介をしていて”あ”から始まる人からで、今は”お”なんだよねっ!だからね、自己紹介してくれるかなっ!ご、ごめんねっ!」
「別に謝らなくてもいいですよ。少し考え事をしていただけですから、山田先生」
どうみてもテンパっている山田先生を安心させるために私は、少しだけ笑いかけた後、席を立ち。
「織斑一夏です。世界初の男性のIS操縦者ということですが、まだ皆と比べて分からないことだらけです。迷惑をかけるかも知れませんが、一年間よろしくお願いします」
無難に頭を下げるが、”えっ、ほんとに男?””声がセクシー”、”本当は女の子じゃ”、”千冬様そっくり””織斑って”
色々と囁きが聞こえるが、挨拶はこんなものでいいだろう。なぜか、山田先生は私を見て、呆けている。不思議に思いながら、席に着こうとした時だった。
「なんだ、まだSHRは終わっていなかったのか?」
私にとっては、もっともなじみ深い声がした。ヴリル辺りは、”おおっ、姐さん”と言うだろう。そうだ、姉さんだ。
「あ、織斑先生。職員会議は終わられたんですか?」
「ああ、すまないな。山田先生、慣れないことを押しつけてしまって」
姉は山田先生に笑いかけていた。先生が小声で”織斑君と同じ”と僅かに聞こえた。
「い、いいえ、副担任としてこれぐらいは、当然です」
えへんと胸を張る山田先生は、何処となく微笑ましく見える。
「諸君、私が”織斑千冬”だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。
出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
姉がまるで演説をするように力強く自己紹介をした。言ってる事は、暴力的だが説得力がある。さすがは、ブリュンヒルデと言う所か。
「キャアアアアアアッ!!!!千冬様、本物の千冬様よッ!!!」
「ずっとファンでしたッ!!!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんですっ!北九州からッ!!」
「私、お姉様のためなら死ねますっ!!」
「織斑君と同じ顔っ!!?!」
さすがは、姉さんです。世界の女性から多くの支持を集めているだけあります。ヴリル辺りは、ここで何かを言いたいと思うところだろう。
「………毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
姉さんは、うっとうしそうな顔で一組全体を見回した。
姉さんは、こういうのが苦手だからね。それをいうなら、私もか……
「キャアアアアアアアアアアアアッ!!お姉様ッ!!もっと叱ってっ!!罵って!!!」
「でも時には優しくしてっ!」
「そしてつけあがらないように躾をして~~~~!!!」
普通なら顰蹙ものだが、流石は姉さん。盛り上げています。
あの無愛想な黄金騎士なら、印象最悪かもしれない。
姉は溜息をつきながら額に手を当てる。それすら絵になっているのはすごい。
「それと、一夏。山田先生を怯えさせるな。私の印象が悪くなる」
どうやら、先ほどのアレを物陰から見ていたらしい。別に怯えさせては居ませんが、
「………それは、私の目付きが悪いと言いたいのですか?織斑先生」
「馬鹿モノと言いたいところだが、今は、千冬姉でいい、お前は双子と言っていいほど私に似ている。もう少し、表情を和らげろ」
そんなことを言う姉さんに対して、山田先生は何かを言おうとしているが、会話の波に乗り切れないらしい。
「男一人の状況でどうしろと……」
「戸惑うのは仕方ないが、お前も一応は……」
女と言いたいのですか。でも、言えないんですよね。私も女であることは自覚していますけど、戸籍上は男ですから、
「まあ、これからは学園にいる時は織斑先生で通してもらうぞ、織斑、それと…」
そう言って、私の腕をつかみだした。この腕は、腕輪だった頃のヴリルを付けていた。
「よし。あの不届きモノはいないようだな。この学園に来たからには、お前も晴れて、こっち側だ。向こう側に関わることはない」
そう言いながら、再び、一組全体に視線を向け
「先ほどのやり取りで分かってもらえたが、こいつが世界初の男性のIS操縦者にして、私の弟の織斑一夏だ。私に似ないで目付きだけが悪く、少し硬いが、まあよろしく頼む」
「ええッ、うそ!!!」
「やっぱりっ!!?!」
「いいなあ、変わってほしいな」
クラスメイトがやたら騒いでいる。正直、姉のこれは有難迷惑だ。
「織斑先生。公私を分けた方がよろしいのでは……と私は思うのですが」
「そうだな、先生としては、あまり社交性のないお前にその辺のところを直してもらいたいのだからな」
私をこの席にしたのはあなたでしたか、職権乱用と言いたいところですが、まあいいでしょう。いずれ慣れますから。
確かに私は、友達が多い方ではない……中学の頃は、凰と弾ぐらいしか知り合いがいませんでしたし……
「分かりました」
何故か、姉は嬉々として私をこちら側に染める気満々だ。こちら側の世界。確かにホラーはいませんけど、それなりに”陰我”はあると思いますよ。
”番犬所”からは、まだ通達、連絡は来ていない。これから、どうすべきか……
そういえば、幼馴染の箒が居た。向こうは、私を覚えてくれているかどうかわからないが、私は覚えている。忘れるわけがない。
千冬
これでいいだろう。これで一夏もあちら側の事には気を回せなくなる。
我ながら女々しいが、一夏はあまりにもあちら側に染まり過ぎている。中学時代の私は、一夏を護ろうという一心で、かなり怖い人物だったらしい。
故に時々、怖がらせてしまったこともある。一夏も中学生の頃は、人を寄せ付けなかったという。修学旅行の写真も隅のほうにしか写っていない。昔の恩師曰く”織斑の再来だ”と言っていたが、私はそんなに恐ろしい人物だったのか?
ISを一夏が動かしたのは、本当に驚いたが、それはそれで、一夏が別の生き方ができると思ったからだ。私としては、魔戒騎士であることを認めたとは言っているが、実を言えば、一夏には今すぐ辞めてほしい。
あのヴリルという不届きモノは、私との相性は最悪だ。私のペースがすぐに乱される。あの不届きモノは、それを面白がっているから始末が悪い。一夏も一夏だ、ろくなモノを持っていない。
ここならば、多少は不自由な思いはさせても、危険な夜の戦いに赴くことはない。実を言えば、ISにもあまり関わってほしくはなかったのだが、魔戒騎士よりはISの方がましだ。
ISは、国家の力に関わる故に扱いには慎重さが求められる。故に女尊男卑という風潮が社会問題になっている。
一部で言っているだけで、大きなというわけではない。唯一の男でISを起動できる一夏の希少性は言うまでもない。正確には、IS”インターセックス”中性”ではあるが。
一夏ならば、一人でもやってはいけるだろう、その希少性を考えると非常に危うい立場だ。男でも女でもない故に、男女どちらにも付く事が出来ず、ISを動かしたことにより、この世界のどこにもまともな居場所すらない。
いや、むしろ私が一夏から離れられないのだろう。どんなに栄光を称賛を浴びようとも、私にとってそれは、一夏以上のものではないのだ。
中学を卒業したら、本格的に魔戒騎士の務めに従事するかと考えていたが、意外にも一夏は進学を考えていた。もし、魔戒騎士の務めに従事するようなら、徹底抗戦も辞さない覚悟をしていたのは、私だけの秘密だ。せめて高校、できれば大学卒業も……
あの不届きモノ曰く
”あれだ、一夏は姐さんの事をそうとう気遣っているんだぜ”
少しでも私を安心させたいのだろうか?あいつの生き方は、常に誰かのためなのだろう。魔戒騎士がそうであるように……
本来なら、見守る事が筋なのだが、私はただ見守ることができない。故に、事あるごとに魔戒騎士とは別の生き方があることを一夏に言っている。
この学園で、一夏がどう過ごすかは私にもわからない。私のこの気持ちを、一夏は分かってくれているだろうか?
お前を危険な場所に行かせたくないことを……
だが、ここならば、”ホラー”が現れることはない、一夏も魔戒騎士とは別の行き方を見つけてくれるかもしれない。
箒
一夏。お前、すごく綺麗になったなって、男に言うことじゃないよな。
最初お前と出会ったとき、女だと思っていた。真実は男だった。
私が男女に対して、お前は女男だった。だけど、お前はその辺の男子よりも男らしく、私を護ってくれた。
あの時は、女そのものだったが、成長すればすごくかっこよくなると思っていたのだが……
なんだ?その華奢な身体は、長い髪は、白い肌は?カッコよくなったとは言えないではないか!!!!
お前が私に綺麗になったと言っても嫌味にしか聞こえんぞ!!!!!
それに目付きは千冬さんによく似ている。千冬さんは、そこは似てないと言っているが……
一種の近寄りがたさを感じるところもそっくりだ。あの頃のお前は、千冬さんとは正反対だと思っていたが、やはり姉弟だから、似てしまうのだろうか?
いやいや、あの人と私が似てしまうのだけは勘弁したい。あんな奴に似たくない。そんな事を考えていたら、いつの間にか一夏が私の前に立っていた。
「い、一夏っ!!?!!」
いつの間にか目の前に立っている幼馴染に対して、箒は思わず声が上ずってしまった。
「どうしたの箒。そんなに慌てて」
らしくない幼馴染の様子に一夏は、思わず苦笑してしまった。
「な、何を言うか!?!い、いきなり話しかけるな!!?!」
反射的に怒鳴ってしまうのは、一夏のよく知る箒像である。
「こ、ここでは何だ、少し外へ出るぞ。付き合え」
どもりながらも箒は、注目を浴びるのが嫌なのか一夏を教室の外へ連れ出すのであった。
「そうだね。私も少し外の空気が吸いたいと思っていたところだ」
一組の教室前には、唯一の男性のIS操縦者を一目見ようと学年中の女子が溢れ返っていた。
まさかここまではと思う一夏ではあったが、表情は崩しては居ない。
”あれが世界で唯一ISを動かせる男子なんだって”
”ええっ、女の子にしか見えないんだけど、ていうか、千冬様そっくりなんだけど……”
対する箒は、少しだけ表情を歪ませた。
(何だ、一夏がそんなに珍しいのか?言っておくが、私は幼馴染なんだ)
周りからちらほらと
”篠乃之さん、抜け駆け?”
”先を越されたッ!?!”
”大丈夫、まだチャンスはあるわ”
などと聞こえてくるが、二人はそのまま屋上へと足を向けた。
一夏
「………」
先ほどから箒は、何も喋らない。当然か、私から呼び出したのだ。
「改めて言うね、箒。久しぶり」
「……ああ、そうだな」
私が話しかけると、箒は何処となく緊張したように返事を返してくれた。
「六年ぶりだけど、箒は変わらないね。一目で箒だってわかったよ」
「な、何だとっ!?!わ、私が成長していないとでも言いたいのか!?!」
顔を真っ赤にして、怒鳴られました。そういうわけじゃないんだ。
「いや、髪形と私があげたリボン、まだしてくれてるんだなってね」
箒は、焦ったようにリボンと髪型に手をやる。
「……ああ、これが一番楽だからな」
少しだけ、視線を私から外し照れたように応えてくれた。
「ふふ……そういう所は昔から変わってないね。相変わらずで、何よりだよ」
「何だ、お前は、目付きが鋭く、悪くなっているせに………」
箒は私に仕返しをしたいのか、姉と同様に目つきの悪さを指摘する。
「そうだね…姉さん曰く、昔ほど穏やかな目はしていないみたいだし」
箒
「そうだね…姉さん曰く、昔ほど穏やかな目はしていないみたいだし」
一夏は、何処となく寂しそうな顔をしていた。私が知らない表情だ。いや、六年も離れていたのだ、私が知らない表情があって当然だ。
ここで、気の利いたことが言えればいいのだが、口下手な私にはそんなことは言えない。これが嫌になる。
嫌な沈黙が少しばかり続いたが、
「箒、そろそろ戻ろうか。遅れると姉さんが怖いよ」
ここで一夏が私に手を差し伸べてくれた。素直に取ればよかったのに
「何だっ!?!もう子供じゃないんだぞ!!?!手なんて恥ずかしくてつなげられるかっ!?!」
恥ずかしさのあまり私は、手を取ることなく一夏に背を向けてしまった。
一夏の顔が見れない。恥ずかしくて……こんな自分を見せられない。嫌だ、素直に一夏に触れ合いたかったのに、何故?
自己嫌悪に陥りながら、私は教室に戻っていった。
「だけど、一夏。お前は、あの頃と変わっていないぞ」
私は、自分でも分かるくらい頬が熱かったのを感じていた。その後、クラスメイトから何があったのかを追求されてしまった。
屋上に残った一夏は、箒の背を見送りながら
「……やっぱり、六年も経つと箒も変わるのかな」
と呟いた。
「いや、一夏。そうでもないぞ、変わるものもあれば、変わらないものもある」
ここで一夏の胸に居たヴリルが制服越しに語りかけた。
「何だ、ヴリル。私がいいというまで、喋るなといったはずだけど」
「硬いことは言うな。箒だっけ、鈴の前に一緒だったんだよな」
「……小学四年生までは一緒に居たんだ。これは、前にも言ったはずだけど」
「そういえばそうだったな。あの嬢ちゃんには、間接的ではあったが、この前、会ってたもんな」
ヴリルの言葉に、一夏は少しだけ目元をきつくした。
「ヴリル、確かにアレは、箒が関わったといっても、ほんのきっかけだから、会ってたとはいえないよ」
「ああ、あの時はホラー狩りの最中だし、巻き込むわけには行かなかったからな、俺としては、再会して、剣道の全国大会の優勝祝ってあげてほしかったな」
「……あのときの優勝は、箒にとってはいい思い出ではないよ。あそこで祝っても、箒を悲しませるだけだ」
「わかってるぜ。あの嬢ちゃんは何だか、放っておけないな。かなり危なっかしい」
一夏も同意する。箒は、あまり要領がよくなく、かなり不器用だ。それは、幼い頃から知っている。いじめにもあっていたこともあった。
「まあ、嬢ちゃん以外にも危なっかしいのはそれなりにいる。姐さんには悪いが、ここは、”陰我”を生みやすい要素がかなりある、ホラーが現れる可能性がそれなりにある……」
ヴリルの言う通りである。
世界の軍事バランスを一変させたISは、国家の”力”の象徴であり、その”力”に対する姿勢は、凄まじいものがある。
故に様々な陰謀や欲望が渦巻いている。このIS学園もまた同じであり、国連の思惑により日本政府が運営、管理しており、各国からの留学生に紛れて諜報員が多数紛れ込んでいる。
国の欲望だけでゃなく、個人の欲望もまた存在し、それが負の方向に走れば邪心となり、”陰我”を生むのだ。それは、ISが絶対なる力の象徴であるからゆえである。
「今は、私の存在が”陰我”を生むかもしれない。世界で唯一の男性のIS操縦者であるから」
「確かにな。だが、お前の使命は何だ。一夏」
「分かっている。私の使命はホラーを狩る事、護りし者として戦うことだ」
「よし、それでこそ、一夏だ。そろそろ行くとするか。俺は黙っておくから、安心しな」
丁度、チャイムが鳴り一夏は教室に戻るのだった