I S×GARO   作:navaho

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第拾捌話「パートナー」

 

早朝 一年 寮長室

髪を整えた一夏は、制服の袖に腕を通す。カッターシャツの下にある黒いアンダーシャツに千冬は目をむけ

「一夏。そのシャツは少し窮屈ではないか?」

「……最近は少し窮屈に感じるかな……」

実を言えば、最近の一夏もそれなりに成長していたのだ。それを千冬も察していた。

「ならば、これを……「いいよ。私には必要ないから」

千冬の手に持った女性用の下着を見て、一夏は断りを入れた。

「なんだと?お前も女でもあるのなら…そのシャツは良くない。形が崩れるだろ」

一夏が断りを入れるのは、恥ずかしいという気持ちもあるが、何より千冬の持つそれの柄が嫌だったのだ……

浮世絵が描かれた何ともいえない個性的なモノだった……人はそれを”悪趣味”という……

「………姉さんのそれ、派手すぎるから……」

ソッポを向いた一夏に対し千冬は

「お前の好きな花だぞ?何が気に入らない?」

柄は鮮やかな朝顔が描かれている。花は好きだが、身に着けてまで好きと主張はしたくないと思う一夏だった。

「………そこまでして主張したくないよ」

「分かった。だが、いつかはちゃんと………」

何かを言うような千冬に対し、一夏は話題を少しだけ変える。

「それで姉さん、今日は、ここを出るの?」

「そうだ。月末のタッグトーナメントでの調整があってな…ほとんどがお前を注目している。まったく、お前は見世物ではないのに……」

内心、こういう面倒なことをやりたくないという千冬の本音が見え隠れしていた。むしろ、家族を他国の見世物にしてしまうことへの怒りだった……

「姉さんも大変だね。私もそういうのは、少しだけ分かる」

「そういや、そうだったな一夏も番犬所の務めで経験済みだったな」

大規模なホラー狩りの際には他の魔戒騎士と共同戦線を張る際に顔合わせという調整を行わなければならないからだ。

「朝からしゃべるな。不埒モノ……」

ヴリルの登場に千冬は不機嫌そうに表情をゆがめた。

「へいへい。朝の”姉妹”の会話に男の俺は、場違いで……」

「ヴリル……私は、一応、男でもあるのだけれど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん。ボーデヴィッヒの件は、どうするの?」

「………昨日のアレは、私にとって許しがたいことだった。だが、私がラウラにしてしまったことは許されることではない」

千冬が視線をやるとそこには、布がかけられた一枚の絵画があった……

「………私は、謝ればよいのだろうか?あんなことをして……あんなことを言ってしまった」

何処となく辛そうな表情の千冬に対し、一夏は

「やっぱり、私が姉さんに迷惑をかけてしまったことが原因なのかな……」

「違う!!!!お前は悪くない!!!」

一夏の言葉を千冬は否定する。あの時の一夏を襲った件の原因は自身にあったと千冬は返す。

「……でも結果的には、姉さんは……「それはそれで正解だったと思うぜ」

ヴリルが言葉を挟む。

「つうか、姐さんは二連覇の優勝を蹴って一夏を助けに行ったんだろ。それは、人として当然で、姐さんにとって大事な家族を護りたかっただけで、誰かにそれをイチャモン付けられる言われはねえよ」

「……不埒モノ」

「その時に協力してくれたのが、ドイツで、そのお礼で行ったのがあの眼帯のお嬢ちゃんは姐さんの教えを受けられたんだろ。悪い言い方になるが、一夏が巻き込まれなかったら、姐さんにも会えなかったし、教えも受けられなかったわけだしな」

「…………ヴリル」

「要するに一夏を恨むのはお門違いって事だな。逆恨みもいいところだと思うぜ………」

”色々とキナ臭そうだが、ここではあえて言わねえよ”

内心、そんな事を思っていた……

「ここは、腹割って話したほうが互いの為ってもんだ。後に回せば回すほど、それなりに迷惑をかけちまうぞ。織斑 千冬」

普段の”姐さん”という呼び方ではなく、”織斑千冬”と呼んだところを聞く限り、相当真面目に話しているようである……

「分かっている。お前に言われなくともな……不埒モノ。一夏、私は明日には戻る」

そう言ってから、千冬は部屋を後にした。その様子に一夏は少しだけ不安な表情を見せた。

「……少し、姉さんには、まだ辛いのかな」

「俺は姉さんとの付き合いは一夏ほど長くはないが、あの姐さんにもそういうところがあるのか?」

「うん。姉さんは、私を育てるために、たくさん傷ついてきたから……」

 

 

 

”……うっ…くそ……なんで、私と一夏がこんな目に……”

 

 

”いやだ…どうして、私を見てくれないんだ…父さん、母さん…一人にしないでよ”

 

 

”……うぅ…誰が、行くものか……私には、やらなければならないことが……うぅ……”

 

 

夜遅く、暗い部屋で泣いていた姉さん……物心付く前から何となく分かっていた……私を一人で護ろうとして、傷ついてきたことを……

どうすれば姉さんが泣くのをやめてくれるのだろうと分からなかったけど、一人で居るのが悲しいのなら私が傍に居てあげようと、姉さんに抱きついた……

 

 

”なんだ…一夏。お前はもう五歳になるんだぞ…赤ん坊みたいにだきついて……仕方のない奴だ………”

 

 

 

 

顔こそは分からなかったけれど、姉さんは私を抱きしめ、泣くのをやめた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝 SHR  一年一組

 

「み・・・・・・皆さん、今日は……て、転校生というか、みんなの知っている方です。ど、どうぞ」

朝、妙に体を危なっかしそうに揺らしているのは、真耶である。

「おはようございます。シャルル・デュノア、改めまして、シャルロット・デュノアです」

教卓の前に現れたのは、昨日まで少年だったシャルルが少女 シャルロットとして現れたのだった。

「ええと……デュノア君は、デュノアさんでした……」

頬を引きつらせた真耶が何気に一夏に視線を向ける。

「「「「「「えぇっ!?!」」」」」」

クラスメイトが一斉に驚きの声をあげた。鈴、セシリアは特に驚くことはなかった。ラウラは喧騒に耳を傾けることなく、窓の外に目を向けていた。

「デュノア君って女だったの!?!」

「おかしいと思ったわ。美少年じゃなくて、美少女……」

少し騒いだ後にクラスメイトは一斉に一夏を見た。一人目が現れたのなら、二人目も………というわけである。

そう入学当初から性別が疑わしい人物が一人居た。そう、織斑一夏その人である。

「………皆。私は、こういう身なりだが、男性だ。特に誤魔化してはいない」

少し呆れたように、溜息をつきそう応えた。

(正確には”インターセックス”で中性なだけなのよね。一夏って………)

鈴も鈴で、シャルロットが元気になったのは喜ばしいと思ったが、あらぬ疑いを一夏に掛けてしまった事に少しだけ気を重くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真耶

教師生活を続けて、こんな事は初めてです。まさか、男の子と思っていた子が女の子だったなんて………

知り合いの先生曰く、春は男の子だったのに、二学期には女の子になっていたという、今時のデビューをする子が居るそうです………

まさかと思いますが、織斑君に関するあの噂。もしかしたら………

その噂は、織斑君は本当は女の子で、先輩が自分よりも可愛くなるのが気に障って男の子と思い込まされているというモノです。

確かに織斑君は、男の子にしてはかなり女の子っぽいところというか女の子を感じさせることがあるんですが、それでも男の子を感じさせるところがあります。

お花が好きで、何かと気配りが上手なんですよね。裁縫も料理もそれなりにできると聞いています。家庭科の授業の先生がそう言っていました。

女の子の中にも男の子っぽい子は居ますが、それは男の子っぽいだけで男の子というわけではないんですよね。

先輩も男勝りという言葉が似合いますが、先輩も女性らしく気にしているところは気にしています。特にスタイルに関しては織斑君に複雑な気持ちを抱いているみたいです……

今の織斑君を見ていますと女の子ではなく男の子というのは本当のことだと思います。そう思っていますが、織斑君は性別が分かりにくいんですよね……男の子なのか?女の子なのか?

先輩、まさかと思いますがあの噂。でたらめで信じていいんですよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして、シャルロット・デュノアですが、皆さんに一言、言わせてください」

思考の渦に入っている頃、シャルロットの壇上での言葉にクラス全体が注目する。

「今までの数日間にたくさん、迷惑をかけましたことを謝ります。ごめんなさい!!!」

突然のシャルロットの言葉に再び全体が驚くが

「いつまでもうじうじして、うっとおしくてごめんってこと!!!以上!!!!」

男装をしていた頃は、それなりに礼儀正しくて奥ゆかしい少年という感じだったが、本来の彼女は竹を割ったようにサッパリとしたモノのようである。

言い終えると、シャルロットは席へと戻っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~山田先生。そろそろ、お話を進めていただいてもよろしいでしょうか?」

現実に戻ってきていない真耶にセシリアが声をかけた。

「あっ!?!す、すいません。オルコットさん。そうでしたね、話を進めますね」

気を取り直し、真耶は本日の概要を伝える。

「本日は、織斑先生は急な用事で私が担任の代理を行います。以上です」

SHRは終わり、一限目の授業の準備のためそれぞれが準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ一夏。千冬さん、どうしたの?急な用事って」

鈴は疑問に思ったのか一夏に尋ねる。

「うん。今日はIS学園と政府の調整の会議にでるって…」

「政府と?何のためによ」

「タッグトーナメント開催の為だとよ」

制服の胸元からヴリルが応える。ここで”喋るな”という一夏だったが、最近は諦めが付いたのか、特に何も言わなくなった一夏であった。

「タッグトーナメント?」

「タッグトーナメントとは、2対2のチーム戦によるISの競技の一つですわ」

二人の間に入るようにセシリアが説明をする。

「ワタクシの方にもお話が来ていましたわ。IS学園に本国の政府関係者が来日されると……それだけに調整は必要なことですわ」

千冬はそれなりにIS学園では地位があるらしい。ISの世界大会での優勝者故である。

「千冬さんも偉くなったわね。アタシの中の千冬さん、それなりに怖いと思ったことがあったけど、一夏にベッタリしている”ぐぅ~たらな”イメージしかないんだけど」

腕っ節は強いが、女子力は限りなく残念な千冬の実像を思いつつ鈴は、胡散臭げな思いを抱くのだった。

「………でも、姉さんはやる時はやってくれるよ」

笑みを浮かべて応える一夏に対し、鈴は

「一夏。あんたのそういう所が千冬さんを調子にのらせてんのよ……」

少し呆れ気味に相変わらずの一夏の千冬に対しての甘さに鈴は少し溜息をつくのだった……

「これでも、ちゃんと苦言は行っている方なんだぜ、一夏は・・・・・・」

ヴリルもフォローを入れるが鈴にとっては、千冬を甘やかしているように見えなくもない。

「まあ言いわ。半人前のアタシがとやかく言うのもなんだから、もう何も言わないわ」

言わなけらばならないかもしれないが、”家族”については当人同士の問題ゆえに鈴はこれ以上言及することはなかった。

「話しているところ、ちょっといいかな?」

「デュノアさん」

三人に話しかけてきたのは、シャルロットである。表情は昨日までの暗い表情ではなく、何処か吹っ切れたように清々しいものだった。

「シャルロット」

「そう、シャルルじゃなくてシャルロットね。一夏、僕はあのまま情けないままで終わりたくなかったから」

昨日の件を思い出し、一夏はシャルロットのカミングアウトについて納得するのだった。

「そうか……三年間の間に果たさなければならない事は、楽な道じゃないよ。シャルロット」

一夏の言葉にシャルロットは、笑みを浮かべ

「まあ、その辺は分かっているよ。同じ年の一夏と鈴が頑張っているんでしょ。それなら、僕に出来ないって訳じゃないよね」

一夏にさらに近づき、少し強気な笑みを浮かべた。

「デュノアさん。意気込むのは構いませんわ、あまり自分を過信しすぎるのもいかがな物かと……」

昨日の様子と比べて、セシリアも苦笑せざる得なかった。

「さっきのタッグトーナメントの話に戻すけど、僕のところもあの人の関係者が来るよ。その時に見せてやるんだ、いつまでも言いなりになんかならないって」

誰にかは分からないがシャルロットは、フランスに居るであろう父親に対し”アッカンベー”をするのだった……

「これは、そのための一歩だってこと♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂

シャルルはシャルロットだという事実に対し、一時の波乱はあったものの、その後は特に何事もなかった……

席についているのは、一夏、鈴 セシリア、シャルロットの四人である。

「それにしてもタッグトーナメントね~~~。なんか実感がないというか、あれなんだけど……」

鈴は、今朝から気になっていた事を呟いた。

「そうですわね。まだ学園の方では特に発表もまだのようですし」

セシリアも鈴に同意する。イギリス本国から連絡があったが、学園の方ではこれと言った発表がないからである。

今日か明日には正式な発表があると思われる。

「………それ相応にベストを尽くすべきかな」

一夏は、これから行われるイベントに対しての意欲を見せる。姉曰く各国の政府高官が来日するため、恥ずかしくない振る舞いをしなくてはならないのだから………

「ふ~~ん。一夏も随分とISには熱心なものね……」

鈴は一夏の左手首にある待機状態のISに目を向けた。目は少しばかり厳しい色を宿して居る。

「一応は、束さんの所属という事になっている。それにここに居る間は……」

「そういう事ね。ったく、何でISをアンタが動かせたのかしら?」

「……それは束さんでも良くわかっていないんだって………」

二人の会話にセシリアは少し違和感を感じたが、以前から思っていたことを話してみることにした。

「一夏さん、鈴さん。以前から伺いたかったのですが、ISでの競技をどう思っていらっしゃいますか?」

「セシリア。それはどういう意味だ?」

一夏は疑問でセシリアに言葉を返す。

「ええ、あなた方魔戒騎士、法師とホラーとの戦いと違って、ワタクシ達 ISでの競技は少し生ぬるく感じられるのではと……」

セシリアも知ったが、魔戒騎士とホラーの戦いは、所謂殺し合いであり、情け容赦のない戦闘がほとんどである。

相手は獣でありながら、知恵を持つ魔獣なのだ。戦闘が苛烈になるのは致し方がない……

それに比べるとIS同士の戦闘は、ルールで決められた競技を行う。兵器と謳っているが実際は競技用のツール。野球で言うバットとグローブ、F1で言うF1カーのような位置づけである。

実際は、兵器利用、軍事転用に関しては”アラスカ条約”により制限され、決められた競技のルールの範囲内での開発に留められている。

当然のことながら、戦闘行為は禁止され、他国への武力介入などは原則的に禁じられている………故にこれまで、ISが紛争に介入した事例はない。

「そうね~~~。兵器って言うけど、なんかファッションか何かって思うわね」

鈴は、ストレートに思ったことを口にした。実際、国家代表、代表候補生がモデルとしてメディアに出ており、その時に新型のISが紹介される事もある。

「……私はそうは思わない。魔戒騎士とIS乗りもそれぞれの誇りを持って物事に打ち込んでいる」

IS乗りは自身の誇りを持って空に挑み、魔戒騎士は、人々に希望の光を照らすために闇であるホラーとの戦いに挑んでいる。道が違うだけでそれに掛ける誇りに差異はない……

「一夏さん」

「戦闘で命を落とす危険のないISでの戦闘は私達、魔戒騎士との戦いと比べれば”遊び”というのは、あまりにも非礼だと思う」

”女尊男卑”を齎したのは、ISの力に溺れた者達の陰我である。最初にISを戦闘行為に使った人物は、女尊男卑など望んでは居なかったが………

「むしろ、私達がISを遊びだと言ってしまえば、それは、私達が驕り高ぶっていることだろう」

一夏の言葉に鈴は、何となくであるが納得し、セシリアは”そうですかと笑みを浮かべた。

その様子にシャルロットは、少し悔しさを感じたのか……

「一夏って、本当に僕らと同じ年なの?本当は、織斑先生と同じ年齢だったり……」

少しニヤけたようにシャルロットは一夏に尋ねる。その様子に、鈴は

「そうよね。一夏って、年下なのに年上に見られるものね」

これに関しては一夏も何もいえないが、疑問に思うことはある。

「………私って老けているのかな……」

姉には失礼だが、年齢相応に見られず、年上に見られるのが一夏の女としての悩みだった………

「姐さんには黙っておいてやるからな、一夏」

ヴリルの言葉に一夏は”ありがとう”と返すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

第三 アリーナ

 

放課後 セシリアは専用機 ブルーティアーズを展開させ自主トレーニングを行っていた。表情は何処となく嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

 

一夏さんにISが好意的に受け止められるなんて、大変喜ばしいことですわ。魔戒騎士と法師の方々は、ISによる陰我によるホラー激増に対して好意的ではないのは察しますが、

あのようにワタクシ達、IS乗りの誇りと魔戒騎士の誇りに差異はないと言って頂けることは、光栄と受け止めてよろしいのですね。

魔戒騎士に認められるのならば、ワタクシ達も相応に振る舞わなければなりませんわ。”女尊男卑”は、ワタクシ達の驕り高ぶった傲慢そのものですから……

それにけじめをつけられるようにしなくては、騎士と法師の方々に申し分が立ちませんわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ全体を一周するように飛行するセシリアだったが、気になる光景がモニターに映し出されたのだ。

それは、

”なんだ?貴様ら、こんなことも出来ないのか?”

そこに映っていたのは、ドイツの第三世代 IS シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラの前に膝を着く”打鉄”を纏った一組のクラスメイトだった。

”だって…私達はまだ……”

”その低落でISを使うなど、情けない。さっさと降りてしまえ!!!!”

ラウラの言葉に涙目になる女生徒。この光景は、セシリアにとっては許しがたい物であった。

<お辞めなさい!!!ボーデヴィッヒさん!!!!>

女生徒を庇うように シュヴァルツェア・レーゲンの前にブルー・ティアーズが降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ?お前は、織斑一夏に媚を売っているイギリスの候補生か」

「セシリア・オルコットですわ。ラウラ・ボーデヴィッヒさん」

口調こそは穏やかであるが、セシリアの青い瞳には怒りの色が浮かんでいた。

「ふん、お前など覚えていなくともかまわん。どけ、私はその低落に指導しているのだ」

赤い瞳が捕らえるのは、打鉄を纏った女生徒。ラウラの視線に対し、体を強張らせている。

「ならば、それは切り上げてもよいのでは?この方を貴女の理不尽な指導をこれ以上受けさせるわけにはいきませんわ」

怯えている生徒に対し、セシリアは

「心配はいりませんわ。まだ三年あります。それまでに巧くできるよう頑張ればよいのです」

フォローを入れるように笑みを浮かべ

「ボーデヴィッヒさんには、ワタクシが話をつけておきますから」

「私に話をつけるだと?織斑一夏に負け、情けでクラス代表になった負け犬のお前が、私と対等といいたいのか」

レールガンの標準をセシリアに合わせ、睨むラウラの表情は屈辱に歪んでいた。

「負け犬とは随分な言い方ですわね。ワタクシは一夏さんにこの役目を果たせると認められて、代表を務めています。それに、あなたのような傲慢な方と対等とは思いませんわ」

「っ!?!随分と生意気な口を利くな。お前など、私とは比べ物にならん。身の程知らずが……」

さらにプラズマ手刀を構え、セシリアを牽制するが……

「生意気でも構いませんわ。力があるからと言って、相手に都合を強要する事が許されるわけありませんわ。貴女も一度、自分自身の傲慢に打ちひしがれてはいかがですか?」

セシリアの余裕を含んだ毅然とした態度にラウラは、自身の頭に血が上るのを感じた。

「ならば、お前に分からせてやる!!!この身の程しらずが!!!!!!」

一気に加速し、接近戦を仕掛けるべくプラズマ手刀を展開し斬り付けた。金属音がアリーナの一角に響き渡る。

プラズマ手刀の付け根を装甲で覆われている腕の甲で往なし、そのまま強烈な拳を胸の装甲版にたたきつけたのだ。

「鈴さん直伝の拳はいかがなものですか?」

胸に強烈な痛みを抱え、後退するが、直ぐに気を引き締めてセシリアに視線を向けるが、セシリアは遥か上空に飛翔しており、ブルー・ティアーズを展開させていたのだ。

「くっ!?!少しは、やるようだな!!!!」

追撃のためレールガンを構えるが上空から容赦なく降り注ぐライフルのレーザー光線により機体が悲鳴を上げる。

画面が”DENGER”を表示し、シールドエネルギーも僅かだが減っている。レーザーの追撃を逃れるべく、横に飛翔するが前後左右から ブルーティアーズが取り囲み、四方からさらなる追撃を行う。

起死回生のために上空に居るセシリアに近づこうとするが、ブルー・ティアーズに阻まれ、近づくことが出来ない。レールガンもピンポイントで妨害され、中距離のワイヤーも近距離のプラズマブレードは使うことができなかった。

「くそっ!?!あの女が、あんな手を使ってくるとは!!!!!」

遠距離での戦闘を主とするブルー・ティアーズが、突発的な接近戦に対応し、ISで拳を放ってくるなどラウラには完全に予想外だった。

ほとんどのISは、装備している武器での戦闘を主とするため、拳を使うという選択肢は 国家代表戦でも行う者はまずいない。

状況が厄介なのは、ブルー・ティアーズは遠距離での戦闘を主とするため高い機動性を有しており、一瞬でも目を離してしまったら、距離を取られ、間合いに近づくのが難しいのだ。

複数のISとの戦闘をメインにしているが、一対一でもかなりの戦闘能力を有している。

「おのれ!!!舐めるな!!!!!」

前後左右から追撃してくるブルー・ティアーズの攻撃を防ぐべく、ワイヤーで一機を押さえ込むが、背後から攻撃を食らい、ラウラは膝を突いてしまった。

「くっ!?!!貴様あああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

膝を突かされてしまったことに対し激情し、上空に居るセシリアに一気に接近した。

急上昇するラウラに対し、セシリアも距離を置くべく回避行動をとるが……突如、機体に負荷が掛かったように動かなくなったのだ。

「こ、これは!?!」

「本来なら貴様如きに使うまでもなかったが、これで終わりだ!!!!」

仕返しと言わんばかりにセシリアの背後に回り、レールガンを至近距離から放った。それにより、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは大半を失ってしまった。

遠距離戦闘を優位に進めるために高い機動性を有しているが、その反面 防御に関しては極端に低いという弱点が存在していた。

「!!?!っ!?!!!」

衝撃に耐えるが、さらにラウラは追撃を緩めることなく執拗な攻撃を加える。

「どうした!!!さっきまでの勢いは!!!!!」

さらにもう一撃 レールカノンを放った。それにより、シールドエネルギーは0になり、強制的にブルーティアーズは機能を停止してしまった。

機能を停止したブルー・ティアーズはアリーナ地表に落下し、衝撃と共にセシリアは気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前如きにこれを使うはめになるとは……まあいい、ここでお前を多叩きのめし、織斑一夏に揺さぶりをかけてやる」

気絶したセシリアをブルー・ティアーズごとさらに痛めつけるべくその機体に足をかけようとした時だった。

「待て!!!ボーデヴィッヒ!!!!」

アリーナ全体に声を響かせ、一機のISがピットから飛び出した。そのISは

「っ!?!織斑一夏っ?!!」

蒼い狼を模した騎士の姿をしたIS 蒼牙。これに対し、ラウラはセシリア以上の敵愾心を燃やし、攻撃を開始する。

「貴様が!!!貴様さえ!!!居なければ!!!!居なければ!!!!!」

あらん限りの声をあげ、ワイヤーを放出し蒼牙を捕らえようとするが、六枚の羽を展開して ”瞬時加速”を行い、雪片でそれらを全て切り伏せる。

雪片への追撃を警戒し、さきほどセシリアを倒すのに使用した”切り札”を使おうとするが、

一夏は、とくに攻撃を加えることなくセシリアの下に向かっていった。

「貴様、私を侮辱するつもりか!?!」

ラウラの叫びに一夏は振り返り

「……侮辱するつもりはない。ただ、ISでの戦いは互いに対等な条件が必須だ。ダメージを受け、万全でないお前と戦うのは、私にとっても、お前にとっても非礼に値する」

「っ!?!!五月蝿い!!!!お前など、この状態でも、十分だ!!!!!!!」

あらん限りの怒りを込めて、ラウラはプラズマブレードで切りかかるが……

「手荒なことはしたくないが……」

プラズマブレードをセシリア同様に手の装甲で防ぐと読んだが、一夏はそのままラウラに踏み込み、雪片の柄で強烈な一撃を彼女の急所に当てたのだ。

「なっ!?!ま、まさか…絶対防御が………」

”絶対防御”をも貫通する衝撃にラウラは、目を見開き、信じれらないものを見るように一夏に視線をやったあと、視界が暗転した……

「ISの防御も絶対ではない。鎧を着た相手に衝撃を与える術も存在する……」

そんな一夏の呟きが聞こえることなく、ラウラは一夏に抱えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室

医務室では、気を失ったセシリアを心配するように一夏と鈴が近くの席に座っていた。

「ったく、あのドイツの小娘。何を考えている?」

ヴリルは、セシリアを心配してか、ラウラに対して辛辣な口調である

「一夏。ちょっとIS乗りを買いかぶりすぎなんじゃない?あんた……」

無言の一夏に対し、鈴は少しイラだった様に言う。

「私は、自分の言った事に、弁明はしたくない」

「あんたの気持ちも分かるわ。でも、これが現実なのよ。あの”力”は、一人で扱うには大きすぎるのに、それを我が物のように使って、力を誇示することが、あいつらの常識になっているわ」

だからこそ、”女尊男卑”という傲慢が陰我を生み出したのだ。そのために……

「鈴のいう事は最もだ。だけど、そういう人達だけではないのも確かだ、それにセシリアはそれを正している」

一夏は間を入れ

「私は今が間違いでも、人はそれを正すことでより良い道を選ぶと信じる。あのボーデヴィッヒにもいつかは、分かる時が来る」

捕らえ方によっては甘い考えと批難されるかもしれない。それでも一夏は信じたいのだ。師の言葉を……

人はたくさんの間違いを犯す。それでも正し、いつかはより良い道を選ぶことができることをを……

「人間は絶対に闇には染まらないか……お前の師 闘牙の言葉だな…」

「そういう事ね……信じたくなるけど、不安は多いわね。その教え……」

鈴が笑みを浮かべて応えた時だった………

 

 

 

 

突然、医務室のドアが破られ数人の女生徒 一年生がなだれ込んできた。

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「織斑君!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

「私と組んで!!!」

「私だよ!!!!」

「織斑君、組んで!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

女生徒一人ひとりが持っていたのは、月末に開催されるタッグトーナメント戦のお知らせだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい。一夏と組むのはアタシよ。あんた達」

女生徒達に対し、鈴は勝気な笑みを浮かべて宣言する。一夏は、鈴の意図を把握しかねていた。

ISに対して好意的ではない故にタッグトーナメントには参加しないと考えていたからだ。

「えぇ~~~、それはないよ~~~~」

「そうだよ。こういう機会ぐらいは……」

「織斑君はどうなの?」

不満を口々にいう女生徒達に対し一夏は……

「そうですわね。ワタクシは鈴さんと組まれたほうがよろしいかと思います」

いつの間にかセシリアが起きており、一夏と組むべきは鈴と言うのだった。

「皆には、すまないが私も出るからには、ベストを尽くしたい。ここは、鈴と一緒になりたい」

本人の言葉より大きな発言権は存在しないため、女生徒達は、残念そうな面持ちで医務室を後にした……

 

 

 

 

 

 

「鈴……セシリア」

「そこまでも言わなくていいわ。アタシも思うところはあるけど、ISで見れる世界がどんなところか、見てやろうって思ったの」

「ワタクシは、残念ですが。ISのダメージを察するにトーナメントには出られそうにはありません」

あの時のダメージを考えると、ブルー・ティアーズの損傷はCレベルを超えている。故に開催までの全快は間に合いそうにないのだ。

「分かった。鈴、よろしくお願いする。だが、その前に……」

一夏が気がかりにしている事がもう一つだけあった。

「篠乃之さんの事を気にしているの?」

鈴の言葉に一夏は頷いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元老院 グレスの間

神官グレスと対面するのは、黄金騎士 冴島鋼牙と魔戒法師の 布道 レオ。

「一夏の話によると近々、IS学園で大きなイベントが開かれます」

「そうだな。ムドーの野郎が好みそうなこと、この上ないときた。あの野郎は昼でも夜でも節操がないからな」

『確かにホラー ムドーは、古の時代より争い、もしくは人々の闘争を好みました』

グレスの言葉に緊張が走る。

「一夏さんの話によりますと、最悪な事態も十分に可能性が……」

「その前にムドーを斬る。奴を見つけ出さなくてはならん」

鋼牙は、ホラー ムドー討伐への闘志を燃やすのだった。レオも同じく

「しかし、鋼牙さん。ムドーの居場所は……」

ムドー討伐への意欲を見せるのだが、相手が何処にいるのか分からないのだ。知恵も他のホラー以上に回る上に、前回の使い魔との戦いで黄金騎士へ警戒を強めているから尚更である。

『最悪の事態に備えは必要です。レオ、あなたはIS学園に向かい、織斑一夏 凰鈴音と協力し学園への守りを固めるのです』

グレスから、指令書が手渡された。そこには………

”最悪の事態への備えとして、IS学園の教師として 務めを果たせ”と……

「ぼ、僕がIS学園の教師としてですか?」

この指令には、レオ本人も大いに驚くのだった……

 

 

 

 

 

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