I S×GARO   作:navaho

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これまでの分と最新話を投稿します。

今回は、少し冒険をしたかなと思います。事情が事情なので・・・




第拾九話「凶器」

 

 

医務室

「ISの絶対防御も完璧ではありませんわね」

セシリアは胴に巻かれたギブスを見ながらそう呟いた。

先ほどのラウラとの戦いでシールドエネルギーが大きく減少したことでダメージが身体に大きく響いてしまったのだ。

検査でアバラに皹が入っていたことが検査で判明したことにISの絶対防御も完璧ではないと彼女は身を持って知った。

「世の中、完璧じゃないってことだな」

「そうだね。それは私たちにも言えることだね」

「まったく、もぅ~~。口で言って物分りの良い人間が世の中どれだけ居ると思っているの?」

何処となく思うところがある二人?に対して、物分りの悪い人間である鈴は口を大きく尖らせた。

「そうですわね。ワタクシもあまり物分りが良いほうではありませんね」

笑みを浮かべてセシリアは応えた。

「こういうのも何だけど、一夏。篠ノ之さんに魔戒騎士のことと”あの事”を言うの?」

「うん。これ以上、箒を巻き込まないで過ごすというのは出来ない。この間の件も私が箒の気持ちをちゃんと考えられなかったことで起きてしまったことだから……」

「確かに、アンタに相当入れ込んでいるわよ。あの子……でも、話したら話したことで丸く収まるとは限らないわ」

「分かっている。でも言っておかないと、箒はまた同じ事を繰り返してしまうかもしれない。今度は……」

一夏の脳裏にホラーと遭遇し、それに巻き込まれてしまう彼女の姿が浮かんだ。それは一夏自身、許容が出来ないことだった。

「あ、あの事とは一体、何でしょうか?」

ホラーが大量に現れる世界とそれらを狩る魔戒騎士の一夏のこと以外に何かがあることにセシリアは疑問符を抱いた。

「前に聞いたけど、一夏は昔ドイツで厄介なことになってたの……その時に一夏の”身体”の事も知られちゃってるかもしれないわ」

先ほど騒ぎを起してくれたドイツの代表候補生 ラウラ・ボーデヴィッヒが一夏に何をしてくるかわからない。ここで一人でも事情を知る”味方”を得ることが重要だった。

「一夏さんの”身体”?それは”IS”が動かせることに何か、関係があるのですか?」

「えぇ「鈴。私からセシリアに言う。セシリアは信用に値する人だから……」

鈴の言葉を遮って、一夏はセシリアに魔戒騎士以外にも”自身”が抱えている”事情”を伝えるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園 反省室

ラウラ・ボーデヴィッヒは、簡易ベットの上に居た。少し前に、第三アリーナでの対応により此処に入れられたのだ。

織斑一夏により気絶させられた後、教師陣によりここに連れてこられた。

理由は言うまでもなく、彼女の振る舞いが教師陣も耳に入り、それ相応の罰則としてだった・・・・・・・・・

「っ!?!ここはどこだ!!!せ、専用機が!?!」

本人の任意なく外すことのできない待機状態の専用機が外されていた。自分がいる場所もそうだが、自身の専用機がないことへの困惑がラウラにあった。

「専用機ならここに在るわよ。ラウラ・ボーデヴィッヒさん」

気がつくとそこには、白衣を着た黒髪の女性がいた。女性の名は、片瀬 律子。左の泣きボクロが特徴的である。その傍らには護衛と思われる黒服の女性が二人・・・・・・

「お、お前は・・・・・・」

「一応、これでも先生なのよ。お前とは、随分な口調ね」

ラウラの口の利き方に対して、律子は少し冷たい目で彼女を見た。その目にラウラは

「フン。たかが教師如きに礼儀など・・・それよりも私の専用機はどうした!!!外すことなどできるわけがない!!何を企んでいる!!」

口調を改めるどころか、先ほどよりも攻撃的になり、そのまま律子に飛びかからんとしていたが、

「企んでいる?それはあなたの方じゃないの・・・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ」

律子は、タブレット型の端末を操作して、アリーナで行われたラウラの行為を映し出した。

”お前如きにこれを使うはめになるとは……まあいい、ここでお前を叩きのめし、織斑一夏に揺さぶりをかけてやる”

 

気絶したセシリアにさらなる攻撃を加えようとしている光景とその時の言葉だった。

「・・・・・・とてもじゃないけど、ISの国家代表候補生とは思えない振る舞いね」

律子は、侮蔑に近い視線をラウラに向けた。その視線にラウラはさらに睨みを効かせた。軍人である彼女の視線は一般の少女よりも鋭く威圧的である。

傍の護衛二人の女性は態勢を整えるが、律子に睨みは効いていないようだ。むしろ受け流しているようにも見える・・・・・・

「国家代表、国家代表候補生、専用機の所持者は、ISに関わる者にとっては”憧れ”であり”目標”であらなければならない」

正々堂々と戦い、相手を尊重し、自らの国家の誇りにかけて・・・・・・

「・・・・・・・・・それなのに、一般の生徒に対しての振る舞い、気絶した相手をさらに痛めつけるとは・・・・・・ドイツの代表候補生は何を教わったのかしら?」

「うるさいっ!!!私に指図するな!!!!私は、やらなくてはならないんだ!!!」

反省するどころか怒り、目の前にいる律子に飛びかかろうとしたが傍の護衛二人に抑えられてしまった。

「くそっ!!!離せ!!離せ!!!離せえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

「片瀬先生。ここは、私達に任せてください」

「ええ、分かったわ。ラウラ・ボーデヴィッヒさん、専用機は一日の反省の後に返すわ。それまで頭を冷やしなさい」

振り返ることなく律子は、反省室から出て行った。

数十分後の反省室は、見るも無残な様相であった。簡易ベットはひっくり返され、壁のあちこちには様々な凹みや傷が存在していたからだ・・・・・・

 

 

 

 

 

ラウラ

くそっ!?!私が、誇り高き軍人の私がなんという屈辱だ!!!!これも全て、織斑一夏のせいだ!!!!

おのれっ!!!おのれっ!!!!!何故、私が!!!!私がっ!!!!!

”……侮辱するつもりはない。ただ、ISでの戦いは互いに対等な条件が必須だ。ダメージを受け、万全でないお前と戦うのはどちらにとっても非礼に値する”

何がだ!!!私を舐めるのをいい加減にしろ!!!くそぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

ならば、どんな手を使ってでも奴を排除してやる!!!!!そのためには!!!

 

 

 

苛立ったように眼帯を取った。そこには金色の瞳が濁った輝きを持っていた

脳裏に浮かんだのは、千冬の部屋に飾ってあった姉弟の二人の家族の肖像をその手で切り裂いた瞬間・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 そこは、夕暮れ時の道場……

使い古された竹刀が立てかけられ門下生の名札が掛かっている何処にでもありそうな剣道場。

道場の名は 篠ノ之道場。ここは篠ノ之神社に隣接する道場であり、道場主は神社の神主である篠ノ之 柳韻。

かの篠ノ之 束の父親である。

道場の隅に一人の少女が別の少女に縋るように眠っている。眠っている少女は 篠ノ之 箒。道場主の二人目の娘であり、束の妹である。

眠っている少女をもう一人の少女が頭を撫でている。座っている所に影が差しており、彼女の表情を伺うことはできない。

箒は何か恐ろしい夢を見ているのか魘されていた。極めつけの”何か”を見た後に目が覚めた。

「あぁ・・・・・・なんだったんだ?さっきの夢は・・・・・・」

怯えたように箒は辺りを伺ったあと自身の傍にいる少女・・・…ではなく、少年 織斑一夏に視線を向ける。

「よかった。一夏は一夏のままだ」

安堵したように箒は、一夏に笑みを浮かべた。対する一夏の表情は影になっていて、それを伺うことは出来ない。

「どうしたの、箒。怖い夢でも見たの?」

「ああ…。一夏が私に黙って恐ろしい怪物と戦う夢だ。夢の中の一夏は怖い目をしていて」

「そう、怖い夢をみたんだね」

夢に怯えている箒をあやす様に一夏は「よしよし」と彼女の頭を撫でる。

「お、おい。お前は男だぞ。なんでこんな事をって……」

撫でられる感触が心地よかったのか箒は、後の言葉をいう事はなかった。

ここに居る幼馴染は自分の知っている女みたいな優しい少年だ。あんな恐ろしい目をするはずなどない。

そんな事を思っていた箒だったが……

”一夏。ホラーが出たわよ”

聞きなれない声が道場に響く。自分達の直ぐ傍に見たことのない服を着た少女が立っていた。

「そう…じゃあ、行かないといけないね。箒、直ぐに戻るから待っていて」

「な、なんだと?私を置いて、お前は何処に……それに何をするつもりだ?知っているんだぞ、お前が私に黙って、何かしていることを」

「箒には関係のないことだよ。私は、ホラーを狩らなければならないから」

影になっていた表情が露となり、箒は絶句した。そこに居たのは、先ほど夢に見た”恐ろしい目”をした織斑一夏の姿があったからだ……

 

 

 

 

 

 

 

「なんて夢だ……夢ならどれだけ良かっただろうか」

反省室の簡易ベットで寝返りを打ちながら先ほどの”悪夢”に悪態をついた。

薄暗い反省室の無機質な灰色の壁は、今の憂鬱とした自分の心情を良く顕していると箒は自嘲気味に自身の状況を重ねた。

「そろそろ三日目の謹慎が解かれるか」

本来なら喜ばしいところであるが、今の彼女は此処から出ることに対して一抹の不安が胸中に存在していた。

言うまでもなく想い人 ”織斑一夏”のことだ。

六年間も想っていた初恋の人。だけど、六年の間に変わってしまった幼馴染、今も変わらない、分からない……

ワカラナイ

「篠ノ之さん。謹慎が解かれました」

胸中の不安を察することなく見慣れた副担任 山田真耶が開けられた扉の前に立っていた。

「はい。荷物はないので直ぐにここから出て行きます」

少し乱れた制服と普段しているポニーテールを解いた箒の表情は今までにないくらいに疲れていた。

今、自分の周りでおこっていることに対して理解が追いつかないためである。

向かい側の反省室が妙に騒がしかったが、今の箒は気にすることなくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 謹慎を終えた箒は一人部屋である自室に戻ろうとした時、部屋の前に立つ見知った人物を目の当たりにした。

そう、織斑一夏である。最も会いたくて、最も会いたくない人物。

「箒、お帰り」

今までと変わらない笑みを浮かべて近づいてくる幼馴染。この笑みを箒は嬉しく思った。

だけど…あの恐ろしい目をした光景が脳裏にフラッシュバックする。

「っ!!!」

目の前に居る優しい幼馴染と恐ろしい目をした知らない幼馴染の矛盾に耐えられなかった。

故に此処から逃げだしたかった。このまま誰にも会わずに何処かへ行けたらと思ってしまうほどに……

「あの時は話せなかったけど、箒にだけは話しておきたい。だから、私と一緒に来て……」

逃げ出そうとした箒をいつの間にか包み込むように一夏は抱きしめていたのだ。

「今更、何を言うか…どうして、私に何も言ってくれなかった。最初から言ってくれれば……」

涙を流し、箒はいつかに縋りついた。親を見失った迷子の子供のように縋ったのだ。

「箒を巻き込みたくないと思ったんだ。こうなる事は当たりまえだったのにね」

自嘲気味に笑いながら一夏は縋りつく箒を抱きしめ続けた。

「あぁ…、でも私は護られるだけの女ではないぞ」

泣き笑い顔で箒は応えた。

「分かっている。私が女の子に”気持ち悪い”って言われた時、箒は直ぐに私を助けてくれたね」

「さっき言っただろ、私は護られるだけの女ではないと……」

その後は、箒がその女の子に手を上げてしまい結局は一夏が両方を取り成して終わったのだが……

「何だか懐かしいね。もう随分前のことなのに」

「私にとっては、昨日の事のように思い出せるぞ」

「そう、じゃあ落ち着いたから、箒の部屋でお茶でもしながら話そうか」

「ああって、重要な話なのにお茶をするのか!?!」

「うん。少し重い話になるからね」

ここで改めて気がついたのだが、一夏の足元には少しのお菓子とお茶の葉を入れたティーセットの鞄が存在していた。

「ここは気を張っていてもしょうがないだろ?お嬢ちゃん」

「なっ!?!なんだ、こいつは!?!」

「おっと自己紹介がまだだったな、俺の名はヴリル。一夏の相棒を務めている。よろしくな」

喋るアクセサリーという奇抜な存在に驚く箒に気にすることなくヴリルは自己紹介を終えるのだった。

 

 

 

この後、箒は知ることになる。六年前に別れた後に一夏がどうしていたのかを……

”白騎士事件”の後に陰我が増加し、魔獣 ホラーが現れやすくなった世界の現状を。

ホラーを狩る唯一の存在が”魔戒騎士”であることを

その”魔戒騎士”が一夏であることを…

 

 

 

 

「こんな所だな、一夏の今までの人生って奴はよ」

ヴリルが話を締めるように発言する。テーブルを囲んで一夏と箒は互いにお茶をしていた。

「……私たちの知らないところでそんなことが……あの人は、いや、千冬さんは何を考えて…」

”こんなはずでは”と話してくれた千冬にある程度の理解を示す箒だったが、この事態の根本があの二人だと思うと理不尽な怒りさえ感じた。

「あの時は私もどうして、”こんなこと”をと姉に恨み言を吐きたくなった。だけど、悪意を持っていたわけじゃ・・・・・・」

「そこは分かる。だからと言って、その後が無責任すぎるぞ。二人で私の家族を滅茶苦茶にして、私達以外にも色々と迷惑をかけたのにどうして何もしなかったのだ。子供だからと言って許されることではないぞ」

一夏が話してくれた”白騎士事件”の大まかな内容。二人の少女による変革は、あまりにも無責任なものだった。だが、少しだけ分からないところがある。千冬の一夏に対する思いの強さだ。

「姉さんが私を護ろうとしたのは、私が他の人と違うことを心配したからなんだ」

「そこが良くわからない。一夏、お前は、他に私に言っていない事があるのではないのか?」

「うん。あの頃、箒にも言っていなかったけれど私はこの体質が原因で”IS インフィニット・ストラトス”を動かしてしまった」

「女しか動かせないISをどうして一夏が動かせたのだ?男のお前が……」

目の前に居る幼馴染は見た目は完全に女である。男と言っているが、そうは見えない外見なのだ。

「そう私は男でもあるのだけれど”女”でもあるから”IS インフィニット・ストラトス”を動かすことが出来た」

一夏の”女”という言葉に箒は、思わず目を見開いた。信じられないと言わんばかりに……

「な、なんだと…冗談はよせ。お前が”女”だと?」

「ううん、完全な”女”じゃない。私はIS ”インターセックス”で、男女どちらでもないんだ」

親しい人以外に打ち明けなかった”真実”を一夏は話した。所謂 カミングアウトである。

「驚いたかな?でも論より証拠、恥ずかしいけど箒…絶対に目を反らさないで……」

「ま、待て!!一夏!!!何を脱いでいる!!?!」

カミングアウトの後に上着を脱ぎ始め、さらにはシャツまで手を掛けた一夏に対し箒は顔を赤らめかせた。シャツを脱いだ一夏の上半身にある女性特有の乳房を見た。

「なっ!?!そ、それは、本物なのか?!」

「うん。これが私なんだ。IS”インターセックス”。男でも女でもない私 織斑一夏だ」

真っ直ぐと箒を見据える一夏。

「………箒。正直に言って構わない、私のことが気持ち悪いと言っても…」

沈黙する箒に対して一夏は自身の正直な気持ちを打ち明ける。カミングアウトした理由は、これ以上箒に対して隠し事をしたくないという一夏の気持ちだった……

自分のことが知りたくて飛び出した幼馴染。ホラー狩りに巻き込みたくないという自身の勝手な都合で遠ざけて寂しい思いをさせてしまったことへの後悔。

鈴に勝負を申し込み、自分の事を知ろうとしてくれたこと……

「何を言う…私を見くびるなよ、一夏」

そのまあ席を立ち、一夏が脱いだ上着を強引に押し付け

「さっさと服を着ろ。女でもあってもそういうのは破廉恥だ。無闇に人前に晒す物ではない」

気の利いた言葉がいえない箒なりの優しさと理解の形だった。

「箒」

「フンッ、言っておくがお前の妙に女っぽい行動にようやく合点がいったんだ。だが、男でもあるなら、私の知っている一夏も男。だから、そんな事を思うはずはない」

ソッポを向き素直になれない箒に苦笑しながら一夏は衣服を再び身につけた。

「今もはっきり言って良くわかっていない。だけどお前から話してくれて嬉しかったぞ」

普段の仏頂面とは思えない程の笑みを浮かべる箒に一夏も笑みで応えた。

「まあ、隠し事をしていて大事になるまで黙って誰かを泣かすよりはずっといいな」

ヴリルの言葉に某 黄金騎士の姿を連想したのはご愛顧というものである……

 

 

 

 

 

 

 まさかと思っていたが実際に本人から告白されると本当に驚いた箒だった。

一夏は悩んでいるが、彼女はそれは悩むほどではないのではと思う。言うまでもなく”IS”は一夏の個性であり、一夏そのものでもある。

それを否定していて、誰が一夏の事を想うのだ。それだけの理由で冷めてしまう恋心など最初から持ち合わせてはいない。

実を言えば、箒も一夏のような”IS”を知っている。そう、まだ中学生の頃に出会ったあの人だ。あの人も綺麗な人だった。

女の箒が何だとと言いたくなるほどに……年上なのに年下に見える雰囲気は頼りなげで、人を怖がっていて、それでいて寂しがり屋のあの人に少し親しみを覚えていた……

一夏とは絶対に途切れない”証”もあの頃に貰っている。だから、箒は一夏を絶対に見捨てないし、見限らない。

もし、傷つける輩がいるのならその時は絶対に味方で居る。魔戒騎士は誤解されやすいし、人に嫌われ、恨まれる職業なら尚更だろう。

「一夏。本当にあの人は……改心できたのか?」

「うん。束さんは、私に”蒼牙”を託し、私自身が他の所に拘束されないように色々としてくれて助かっているよ」

IS学園に入学したのは、身を護るためである。三年後は様々な渦中に巻き込まれることは必須だが、そこから先に関しては束が自身の名前の下で、

「だから、あの人の”所属”と言うわけか……」

姉の事を姉といわず”あの人”と言う箒に対して一夏は特に口を出さなかった。理由は言うまでもなく箒が束に抱く複雑な胸中を察してのことである。

箒はとてもではないが、あの”天災”がそう簡単に改心するとは思えなかった。人を人と見ないで自身の世界に閉じこもる人物が…

血の繋がった家族ですら家族と見なかったのだ。そんな人物がたった一晩で改心するようなことがあるのだろうか?

「箒、紅茶のお代わり。どうする?」

「ああ、頂く。それにしても美味いなこの紅茶」

一夏が淹れた紅茶に舌鼓を打ちながら箒は、自身の思考を一旦止めた。どう考えても信じられないのだ、姉である束のことが……

今は、想い人が”真実”を打ち明けてくれたことにただ喜びを感じていた。そう、今はそれだけで満足だった………

(そうだ。今はこれで良いんだ、これで……)

 

 

 

その後はティータイムを過ごした後、一夏は箒の髪型を見た。いつものポニーテールではないことに気がついたのだ。

「箒。髪型、やってあげようか?」

「あ、ああ……た、頼んでも構わないだろうか」

突然の申し出に箒は頬を赤らめかせて、俯いた。手馴れたように一夏は箒のお気に入りであるリボンを預かり、彼女の髪をセットする。

近くの姿見にはいつもの姿の 篠ノ之 箒の姿があった。

 

 

一夏が出て行った後、箒は言いようのない幸福感に包まれていた。そう、一夏が自身に”全て”を打ち明けてくれたからだ……

 

 

 

 

 一夏は変わってしまったが、私が思っているほど変わってしまったわけではなかった……

ただ私などの力が及ばない世界に足を踏み入れてしまったのは間違いない。”IS”、千冬さんの”力”ですら及ばない世界。

 人の邪心 陰我を中心とした魔獣 ホラーと魔戒騎士との戦い。私が学んでいた剣など生易しい遊びではないか……

一夏が真実を告白してくれたのは嬉しい。だが今のままでは、一夏にただ護られるだけだ。

護られるだけの女ではないと言ったのに……これでは……

 

 

受け入れてくれた事に喜びを感じる一方で現在の自身の立場、力では一夏の…想い人の支えになれないのではという”現実”に彼女は打ちひしがれるのだった……

箒は知らないが一夏は彼女に一つだけ口を噤んでしまったことがある。それは、

 

 

「タッグトーナメントに合わせて 束さんがIS学園にくること……言えなかったな」

姉に複雑な思いを抱く箒に話すことに対して、一夏の心に戸惑いが僅かに存在していた。

 

 

 

 

 それから四日後IS学園行きのモノレールに一人のスーツ姿の男が乗り込む。彼の名は布道 レオ。元老院所属の魔戒法師。

今回の任務は、現れたホラー ムドーに対する最悪な事態に対して、ムドーが狙うであろう場所の護りを固めるためである。

この度は教師という身分で潜入し、IS学園に居る 一夏、鈴と協力するため。

「まさか、僕が現代文の教師とは」

IS学園はISを学ぶための軍の教育機関のようなものであるが、一般の課目も存在している。

魔戒法師として様々な魔導具を発明してきたレオは、技術的な面でISにはある程度興味は持っている。

本人曰く、”ただの機械は無愛想で面白みがない”

ISは、コアに独自のネットワーク、意思を持っているという面に少なからず興味を抱いていた。

この事はISを心地よく思っていない他のメンバーには大きくいえないのだ………

 

 

 

 

 

一夏は、校舎周りのエレメントの封印を行っていた。少しでもホラーによる被害を防ぐためである。

「……この気配。ボーデヴィッヒ、私に何のようだ?」

振り返った先に、ラウラが一夏を睨みつけていた。視線が交差した時、

「織斑一夏!!!!私と勝負をしろ!!!!」

ナイフを片手にラウラは一夏に向かっていく。動きは正規の特殊部隊の隊員らしくシッカリとした物だった。

一夏は迫る刃を片手で払い、手首を取り彼女の身体を反転させる。

そのまま、身体を地に伏せられたと同時にラウラの手からナイフが一夏の手へと渡った……

「っ!?!貴様っ!!!」

更に駆け出し拳を振るうが、往なされ当たる事はなかった。

「………ボーデヴィッヒ。怪我はさせたくない」

「侮辱するのは、そこまでにしろ!!!!」

蹴りを放つが同じように蹴りで応えられたが、ラウラのほうが勢いがなくそのまま後方へと吹き飛ばされてしまった。

近くの木に背中をぶつけ、さらなる敵意を向け、一夏に向かおうとするが、

「そこまでにしろ!!!一夏っ!!!!ラウラッ!!!!」

その場にやってきたのは、千冬だった。

「………姉さん」

「きょ、教官!?」

驚きの声を上げるラウラと対照的に一夏は冷静だった。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。これ以上の振る舞いはあまりにも目に余るぞ」

それはIS学園の教師としての顔だった。ラウラが知る教官としての……

「で、ですが……こいつは……アナタを……教官を……」

全ての原因が”一夏”にあるように同意を求めているようだが……

「私も人のことは言えんが……ラウラ、私はお前に自身の力を誇示するためだけに指導したわけではない」

「くっ!?あなたは、私の憧れです!!誰よりも強く、雄雄しいあなたは、最強でなければならない!!私は、アナタに憧れました!!アナタになりたいとさえ!!」

故に許せなかった。世界最強の”ブリュンヒルデ”がたった一人の家族の前では、”一人の姉”であることが認められなかった………

「アナタが最強であるためには、”織斑一夏”を……」

「馬鹿者が!!お前が”私”になりたいだと?誰も他人にはなれん!!ラウラ、お前は、お前でしかなれん!!」

千冬の叫びは、彼女からのラウラへの心からの叫び……

「たった一人で”最強”になって、どうするのだ?”力”をもった所で”必要”とされなければ、何の意味もないのだぞ」

自身がISを駆る前に体験したこと……類まれなる剣の才能を持っていても、それを必要とされなければ何の意味もなかった……

自分はおろか、たった一人の家族を護ることもできなかった……そして、己のあり方を求めた……ISを駆り、たった一人を護るために……

大切な人を護ろうとして、悲しませてしまい、さらなる”力”を求めても、その”力”を越える存在が現れる……

”自分の力を超えるものは、この世界にごまんと存在する”

「………教官。あなたは、やはりおかしくなられています……どうして、私の事を理解して……もっと見ていただけないのですか?」

言葉は伝わらなかった………自分が何を言ってもラウラは受け入れようとはしなかった……

「分かった。そこまで一夏を倒したいというなら、ISで決着を付けろ。これを返す」

千冬が投げてよこしたのは待機状態の”シュヴァルツェア・レーゲン”を渡す。

「………………」

無言のまま専用機を持ち、彼女はそのまま背を向けて去る。

「だが、これまでの行動を繰り返すようなことは教師しても個人としても許さん!!これだけは言っておく、私の顔に泥を塗ってくれるなよ……」

「……教官がそうおっしゃるのならば……」

憎憎しげに一夏を睨んだ後、ラウラは走り去っていってしまった……

 

 

 

 

 

 

「すまない、一夏。お前には迷惑を掛けてばかりで……」

「いいよ姉さん。ボーデヴィッヒは、姉さんを本当に尊敬しているんだね」

「ああ……少し、行き過ぎているところはあるが、慕ってくれるのは悪い気はしないがな」

ラウラの行動は、独りよがりであるが自分を思っての行動であると理解している。だが、それを許容し認めることは出来ない。

「少しだけ、ボーデヴィッヒの気持ちは理解できる。前に姉さんに邪な陰我を持っていた奴がいた時に……私も……」

「そういや、そんなこともあったな」

かつて、千冬に対して陰我を抱いたホラーに対しての戦いは、騎士としての戦いではなかった出来事があった。

「………姉さん。こんな事を聞くのは悪いと思うけど、ボーデヴィッヒは、姉さんと出会う前は一体……」

失礼と承知しているが一夏は聞かなければならないと考えていた。理由は言うまでもなく、自分とラウラは刃を交えなければならないのだから……

「お前が日本に戻った後に出会った……あの頃のラウラは……」

 

 

 

ISへの適正値を上げるために投与された”ナノマシン”の影響により、エリートから落ちこぼれになった一人の少女の話……

武器を持ち、敵を倒すことのみを教えられ、それ以外の事を知らずに育った……

親、兄弟は居らず、周りから強くなることのみを望まれて……期待はずれだったことへの絶望……

 

 

 

 

「姉さんの指導でトップになれたんだね」

「ああ、ラウラは少し躓いてしまっただけだ。人には、それぞれ合っているやり方という物があるだろう」

それに合った指導を行っただけで特別なことはしていない。

「なるほどな……それで一夏に制服を二つも態々、用意していたのかよ。女用と男用の二つを」

「不埒モノ。少しは空気をよめ…」

 

 

 

千冬

 そうだ。一夏が男女、どちらでもやっていけるように私は二つの制服を用意した。

どちらを選んでも一夏は私の家族であることを伝えたかったからだ

人には人の生き方があることは、多少なり分かっているつもりなのだが……認めたくないと思っている時点で私はまだまだ未熟なのだろう…

こんな未熟者が生意気にも”教官”などという不相応なことをしてしまったことが、そもそもの原因だ

ラウラに教えなければならなかったのは”力”ではなく”強さ”だったのに……それを理解せずに・・・

未熟者の尻拭いは、未熟者には出来ない……結局は背負わすことになるとは………

 

 

 

 

 

 

「一夏……すまないが、ラウラの事を嫌わないでくれ。そして……アイツの事を頼めるか」

未熟者であった頃の自分の犯してしてしまった過ちをこうして、関係のない”家族”に押し付けてしまうことに……

「別に嫌ってもいないよ。姉さんの頼みはちゃんと叶えるよ」

「そうか…本来なら私がやらなければならないのだが」

自分がここでラウラを負かしても、それは”力”で押さえ込んだけで根本的な解決にはならない。

伝えたかったのは、”力”ではなく、”強さ”。それは相手を叩きのめすモノではなく自分というものを通すための……

「大丈夫だよ。私も姉さんにちゃんと教わったから”強さ”を……」

篠ノ之道場で剣を学んでいた時に千冬が一夏に伝えたこと……

「剣は人を生かすことも殺すこともその人の心次第だって」

「そうだ。だが、私はいつの間にかそれを忘れてしまったようだ。何がブリュンヒルデだと言いたくなる」

「姉さん。自分を悪く思って気を紛らわせるなんて事をしないで」

「っ、分かった。まったく、手厳しいな一夏は……」

苦笑しながら二人はそのまま校舎へと戻るはずだったが……

「一夏っ!!」

二人に向かって駆けてくるのは鈴とセシリア。

「ムドーが動き始めたわよ!!」

鈴は”番犬所”から指令書を手渡した。内容は、ムドーが手下と共にIS関連の企業に襲撃を掛けたというものだった……

”黄金騎士と共にムドー討伐に協力せよ”

その後ろ姿を見て、千冬は悲しげな視線を向けた。

ああやって、自分の手が届かない場所へ行く一夏の後ろ姿を見るのが・・・・・・

「織斑先生。一夏さんが他の方と違う悩みを持っていても、それを乗り越えられると信じていますわ」

「なにっ?オルコット、どういうことだ…ま、まさか!?!」

セシリアの言葉の意味は、一夏の”秘密”を知っていることだと察したのだ。

それは絶対に知られてはならない”秘密”、IS委員会からもこのことに関しては秘密だったのだが……

「そうも言ってられないわよ。あのドイツの転校生がこの事を知っているかもしれないから…味方を一人でも作っておくほうが都合がいいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 IS学園に到着したモノレールから降りたレオもまた指令書を手に取っていた……

 

 

 

 

 

 







予告

さてと、胸糞の悪いムドーの野郎がよりのよってISにちょっかいを出しやがった。

あの野郎の手にISが渡るのは我慢ならねえぜ。

次回!「共闘」

これはタッグトーナメントまでに終わらせたいよな、一夏。

なに?ザルバ…こいつは、そんなに甘くないってか?


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