いやあ、闇を照らす者って面白いものですね~~。
さて、こんな話はさておきまして、今回は少し”白騎士事件”について、思うところとそこから始まったISにおける”女尊男卑”について個人的に思うところを書いてみました。
アレって結局の所、千冬や束だけのせいじゃないかもって・・・・・・
倉持技研の第二棟を進む一夏は、ある一室に佇む一機のIS ”インフィニット ストラトス”を発見した……
「一夏……こいつは……」
「ああ、間違いない。”専用機だ”」
倉持技研で開発された専用機、それの名は”白式”。そう日本政府が織斑一夏の為に用意したものだった……
IS学園に入学した当初、千冬より政府から専用機が用意されると話を聞いていた。理由は言うまでもなく男性のIS操縦者のデータを採取するためである。
その時の千冬の表情を一夏は良く覚えている。あの表情は、一夏をモルモットのような扱いをする政府とどうすることも出来なかった自分への怒りの念があった。
開発された白式は、結局一夏の手に渡ることはなかった。既に篠ノ之 束によって開発された専用機”蒼牙”を所持していたことにより必要がなくなったからである。
白式開発の為に更識 簪の専用機の開発が中断してしまったこともあったが、簪の姉に対する意地により独自に完成させられている。
「しっかし、こいつをどうするよ……元々数が限られているISコアを使っているんだろ?このまんまにするのは……」
「・・・・・・ムドーは新しいモノ好きらしいから、これに取り付くという事も十分に考えられる」
本来なら政府にとっても重要なISの持ち出しはご法度であるが、状況が状況なので一夏はこの白式をこの場で回収することにした。
回収するためにも一度動かさなくてはならない為、装着するが………
「アアアアアアアア」
何処からともなく再び死霊兵の群が至る場所から現れた。異様な邪気が蔓延しているため倒してもまた現れるのである。
「………こんな時と言いたいけど……」
「ああ、この場合は俺達が何やってんだって、番犬所に説教をされる側だよな」
ホラー討伐中にISのフォーマットとフィッティングをするなど番犬所、他の魔戒騎士はどう言うだろう……
「まだISに憑依したという話は聞かない。だけど、取り付かせたくはない」
一夏も当初は、ISに対して他の魔戒騎士に漏れずあまり好意的ではなかった。
だが、ISが兵器としての道を歩んだ”白騎士事件”の真相を知ったこと、ISを通じて空を飛ぶという独特の感覚を好むようになり、ISも魔戒騎士としての使命と同等の誇りを持つようになったのだ。
「実戦で済ませるしかないかもしれない」
「おいおい。実戦の相手がホラーじゃないにしろ、こいつらも十分脅威だぞ」
死霊兵達の虚ろな、恨みがましい視線を感じつつ一夏は纏った白式を鎧代わりに、魔戒弓を構え魔導火を纏わせた矢を数本放ったと同時に白式を加速させ、死霊兵達を蹴散らした。
ISはそれなりの大きさがあるが、この第二棟はISの移動、運用をも目的としているため通路がかなり広く一機のISが自由に動き回れるほどである。
様子を見るために一夏は、白式のディスプレイに現在の施設の状況を映し出させた。
「しっかし、こいつは便利だな。ホラー狩りはそれなりに手間がかかるが、こいつを使えば割とスムーズに行きそうだ」
「そう簡単にいくとは限らない。施設の状況は把握できても何が起こっているかまでは把握できていないから・・・・・・」
ディスプレイには、各施設の異常が示されているが、その原因については”不明”と出ている。かつてホラーに対しISで戦闘を仕掛けた二人も似たようなことがあったのはここでは割愛しておく。
「なるほどな。科学の力もこの辺が限界なのかね」
最近の束の連絡では、科学的にホラーを殲滅は出来なくともその足止めをすることが可能になったと聞いた。魔戒騎士としては興味を引く内容だったが、今はまだ理論の段階で実践には至ってはいないとのこと。
「アリーナまで行ってみよう。そこにムドーがいるかもしれない」
「どうだろうな。そればっかりは行ってみないとわからんな」
ヴリル達 魔導具はホラーの気配を感じる能力を持っているが、特定の結界の中にホラーがいる場合その気配を感じることが出来ないのだ。ムドーは武器に取り付き、その中に自身の結界を作り、中に篭ってしまう。
故に魔導具達はムドーの居場所を探し出すことが出来ない。結局は足で探す以外にないのである。死霊兵の群れを相手にしながら、一夏は”ムドー”が潜んでいそうなアリーナへと進んでいった。
管制室でケイは、ディスプレイに映し出された”白式”を纏った一夏を見た途端に表情を強ばらせた。
「・・・・・・・・・白騎士・・・・・・・・・」
革手袋の拳を握り締めると同時に彼女の影が人から歪な”異形”へと変化していく・・・・・・
彼女の脳裏にかつて、遭遇した最初の”IS”白騎士の姿が浮かぶ。
10年前に篠ノ之博士が発表したISによる日本へと放たれた2341発にミサイルを撃破し、さらに白騎士を捕獲の為に派遣された国連軍が殲滅された白騎士事件。
死傷者は0と発表されていた・・・・・・少なくとも公式では・・・・・・
「海の上で飛ばなくなった飛行機がどうなるかぐらい・・・・・・小さな子供にでもわかるわ・・・・・・」
今も映像を映し出すディスプレイに歪な異形の影が重なった・・・・・・・・・それは悪魔に似た姿だった・・・・・・
”白式”を動かしながら、一夏はこの施設の何処かに潜んでいるであろう”ムドー”の捜索を行っていた。
白を基調とした施設はムドーの影響による邪気により、全体的に暗い。
「ムドーの気配は、やっぱり感じられないか?ヴリル」
「ああ、あの野郎は何かに取り付いている時は、気配を感じることは出来ない」
魔導具の探知能力にも引っかからないムドーの気配遮断能力に対して、ヴリルは舌打ちをする。
「それにしても、お前専用に作られたんだろ?その”白式”。何でまた、姐さんの現役時代のアレに……というか、白騎士に似てるよな”白”って所は……」
ヴリルの言葉に応えることなく一夏は、最初のISであり、自身を護ろうとして姉が”白騎士”と名づけたISに対し、少し考えるように目を閉じた。
(……これも何かの因果なのだろうか。姉と同じ色を……私に……)
IS乗り最強である姉に連なる自分にも同様の期待が寄せているのだろうか?一夏も千冬のIS乗りとしての技量の高さは、学園入学後に模擬戦という形で味わっている。
姉である千冬は、接近戦を基本としており、一夏は接近戦と中距離戦を交互に使い分ける戦い方である。
模擬戦は千冬の勝利だったが、この時の彼女は”このまま勝ち続けられるかどうか”という感想を抱いたという。
何度目になるかは分からないが、死霊兵の群が一夏を取り囲み始めた。
戦いの真っ只中であるのに、余計な事を考えてしまったなと一夏は思い、魔戒弓を構える。
「ん?一夏、死霊兵に混じってムドーの配下のホラーがいるぞ」
ヴリルが感知したであろうホラーに警戒しながら、一夏はIS越しにもつ魔戒弓に意識を巡らす。
「・・・・・・あなたのお姉さんには、いつか挨拶をしなくちゃっておもってたのよね」
死霊兵達を掻き分けながら現れたのは黒いスーツ姿の女性だった。目には、ホラーの証明である魔界文字が浮かび上がっていた。
「知っているかしら?あなた達が良くてもこっちが地獄を見たってことを・・・・・・」
笑みを作っているが、声色は怒りの色というよりも恨みの念がはっきりと感じられた。
「世界最初のIS”白騎士”による日本国への大規模テロ攻撃を迎撃した事件”白騎士事件”」
脈絡も無しに黒スーツの女性ケイは話し始めた。昔を懐かしむようにではあるが、その声色は無理やり自身の内から沸いてくる恨みの念を抑えこんでいた。
「素晴らしいわね。突如降りかかってきた危機を何処からともなく救った謎の兵器。そう、まるで子供が考えた夢物語のようだわ…死傷者無しなんてね……」
ケイの抑えこんでいた恨みの念がはっきりとした形で表情に現れていた。嘆き、怒り、悲しみ、憎しみの全てを含んだ表情……
心優しい人間であるのならば、事情を聞こうとするだろうが、一夏は魔戒騎士でありケイはホラーである故に、普通の人間が望むような展開は訪れない。
「アナタも分かるわよね。翼を失い、飛べなくなった飛行機がそのあとどうなるかぐらい……中の人間がどんな目に合ってきたか……」
(話しぶりからして、この人は……白騎士事件の時に現場にいた。そして……)
姉である千冬の手に掛かってしまった”被害者”。ここで姉を断罪するつもりはなく、一夏はケイの言葉を受け入れるつもりはなかった。
「………あの時の白騎士事件が正しかったとは私は言わない。だけど、それを否定することもしない」
「なに?アナタは、どれだけの人間が誇りを?すべてを否定されたと思っているのかしら?」
特に空に誇りをかけていた者達を愚鈍な者に貶め、それ以外にも”資格”があるからと言って、理不尽に振る舞い、様々なものを奪い、傷つける者がこの世界中に害虫のように蔓延っている光景を彼女は見てきた。
「・・・・・・あの時から今の世界が始まっていた。そこから弾かれてしまった人達もいることも・・・・・・」
一夏の脳裏にこれまで魔戒騎士として関わってきた人間の陰我の光景があった。
”全てを失った者”、”復讐の為に力を求めた者”、”資格を得られなかった者”。
以前から変わらなかった陰我もISの登場によりその形を変えていった……
ISの力は”凄まじかった”それ故に様々な陰我が絡み合い、人間達は内なる邪悪な欲望を大きくしたのだった……
「だからと言って、今の世の中を生み出した白騎士に全ての罪があるとは思えない」
「フン。アナタはあの白騎士の正体を知っているから、そうやって庇うのかしら?」
ケイは分かっていた。ISが発表されてから、それに関わった者達が起こした事件が”白騎士事件”であることを…
その者達が厚かましくも日のあたる場所を大手を振って歩いていることに彼女は憎しみを感じていた。
「庇う?そうじゃない、たかだか女の子一人に世界が変えられるなんて不可能だ・・・・・・言葉を返すが、アナタもわかるでしょう。小娘一人の力でどうにかなるほど世の中が甘くないことぐらいは……」
一夏はケイを見据えて……
「根本的な原因はそうだったかもしれない。今の世界を受け入れたのは誰だ?かつての世界を壊したのは・・・・・・たかが一人の力が強いからといって、この世界が変えられるものか」
今の世の中は、一人の少女が世界に戦いを挑んだことから始まった。その戦いは、本来であれば無謀なもの・・・・・決して勝利を得ることなど不可能だった。世界は一人の力で動くほど軽いものではないのだ。
もし、白騎士事件の実行者達に対して然るべき処罰があったのなら、”IS”はこの世に出ることなく封印されていたかもしれない。
だが、ISは封印されることなく認められた。”女尊男卑”の世の中を、ホラーの大量発生の時代を許容したのは、この世界が望んだことの結果・・・・・・
そう、罰することなくその”力”の誘惑によって・・・・・・
望まない者も居ただろう・・・過去に続いていた平穏を願う者も・・・それらの望みは今の世界を覆った巨大な”陰我”により踏みにじられた・・・・・・
「自分達に非がないとでも?そう言いたいのかしら」
「私は全てを忘れて生きられるほど器用な人間ではない。だからこそ、私も白騎士を……姉さん一人を断罪できるものか……」
「っ!?!生意気な口ね。その顔、あの時のアイツそのものよっ!!!」
内側から破るようにケイの身体が変化していく。鳥と人間を掛け合わせた異形へと……黄金一色の目が一夏の姿を捉える。ケイの中で一夏の姿が過去に遭遇した白騎士の姿が重なった。
自分達の乗る戦闘機の左翼をブレードで切り、後続の味方機を荷電粒子砲で真っ二つにした後に次の標的である空母へと下降していく際に頬を吊り上げた笑みを浮かべた白騎士の姿と………
それと同時に施設の天井を突き破り外へと出て行った。
「一夏……一人で背負いきろうとなんて思うなよ」
このケイは過去に姉である千冬と束が引き起こしたあの事件の被害者である……
そして姉をそうさせてしまった原因が自身であることも…だが、そのことをケイは知らない。
「一人で出来ることなんて限られている。私はただ、この役目を全うするだけだ」
今の自分が魔戒騎士としての役目を果たせるだけの”強さ”を得るためにどれだけの人達と関わってきただろうか?
この世界にあるものは決して”一人”では何も出来ないのだ。故に”一人”の力でこの広大な世界を変えることなど………
ケイと対峙した時に”白式”から初期設定が終わったことを知らされた。それと同時にケイが翼をはためかせて一夏に向かって飛びかかった。
白い光とともに初期設定を終えた”白式”は形を、一夏の右耳の白いイヤリングへと変えた。所謂”待機状態”である。
待機状態を確認した後、ケイを追って一夏も外へと出て行く。魔戒弓を構えて、IS戦闘から魔戒騎士への戦闘スタイルへと意識を切り替える。
ホラーと化したケイの攻撃を魔戒弓の刃で迎え撃つと同時に鋭い金属音が辺りに木霊した。
「ISを使っていたのに、解除するなんて。私を舐めているのかしら?」
「そうじゃない。こういう場にISを持ってくるのは規約違反だからだ」
爪を弾きながら一夏は魔戒弓を槍のように刃を突き立てた。
その頃、鋼牙は研究所のISの開発エリアに足を運んでいた。資材を置いていたであろうその場所にそれは突き立てられていた。
奇怪な装飾をもつその刀は、異様な邪気を放っていた。刀と対峙するように近づき、鋼牙は問う。
「・・・・・・貴様がムドーか」
”如何にも・・・・・・お前がこの時代の”牙狼”か”
刀の柄にある巨大な眼球に似た装飾品が怪しく光る。これがムドーが宿る”妖刀”。
両脇からひと組の男女が現れた。顔は奇妙な仮面を付け、赤と青のマントを付けており、体格から二人が男と女と郎じて判別できる。
ISの実験用の施設は、主電源をやられた影響のため非常用の電源に切り替わっており異様に薄暗い。
”フフフフフ・・・・・・そう睨むな。せっかく良い気分でこの世界を見ているのだ。そこを察してはくれないか?”
「・・・・・・お前達の戯言に付き合っている暇はない」
話をするつもりも聞くつもりもない鋼牙は、いつものように牙狼剣を構える。
「あらあら、魔界騎士というものは随分と野蛮のようね」
「立場が違うからさ。彼らにとっては、僕達を斬るのが仕事だ。気にしてたらやっていけないと思うよ」
鋼牙に対して、二人が対峙する。二人は仮面を付けておりその表情は伺えない。口調こそはおだやかだが、声色は冷たい。
「ウフフ、ムドー様。ここは、私達二人にお任せしてもらっても」
”構わん。当代の牙狼の力、見てみたい。そして、今の空を支配するISもな”
「ありがとうございます。ムドー様」
互いに目配せをし、二人は鋼牙へ向かって突進を開始し、マントの中から素体ホラーに似た腕と爪が現れる。
二人は左右それぞれから攻撃を繰り出す。左右からくる爪の一撃目を剣で弾き、二?目は後方に下がり回避する。回避した鋼牙を追撃する二人は、ステップを踏むように飛翔し、爪を繰り出す。
青いマントの男から繰り出された爪を弾くと同時に距離を置くために蹴りによるカウンターが繰り出された。
鍛え抜かれた魔戒騎士の蹴りは相当の威力を持つが、それを物ともせず踏みとどまり再び爪ではなくその腕を変形させ石灰質に似た質感を持つ刃へと変化させた。
「っ!?!」
いきなり腕を刃に変化させた相手に対し、鋼牙も驚いた。だがすぐに持ち直し、これを強引ではあるが生身の拳で叩き落とした後、牙狼剣を青いマントの仮面に突き立てた。
突き立てられた仮面は砕け散り、その素顔が顕になった。
「さすがは、牙狼。僕なんかじゃ相手にならないかな?」
喜色に似た声を上げる男の顔は、鋼牙がいくつか予想していた中の内にあった。顔の半分は人なのだが、もう半分は素体ホラーと同じものだった。片方の頬が裂け、その内側が露となっている。
一般人が見れば思わず生理的な嫌悪感を抱きかねない。吐気を催す醜悪なものには慣れている鋼牙は容赦なく、男を顔ごと蹴り飛ばした。
厚靴底と魔戒騎士の鍛えられた脚力による蹴りの威力は凄まじい。
「っ!?!!」
「アハハハハハ。ざまぁないね。アンタ」
女はお構い無しに笑い声を上げた。距離は鋼牙からかなり離れている。
「チっ、仕方ないだろう、相手は牙狼、黄金騎士なんだぜ…」
「言い訳はらしくないよ」
「だったら、お前が一人でやってみろよ」
「いやよ、顔を蹴られたくないし」
頬を押さえながら赤いマントの女は断りを入れた。その様子に第三者は呆れるだろうが、鋼牙は動じることなく一夏から渡された機械を使い連絡を入れた……
”クククククク。お前たち一人ひとりでは勝機はなさそうだな。
ムドーの言葉に二人は互いに頷いた。その様子に鋼牙は警戒を強める。
”この場は、お前たちに任せよう。ここには、あまり良いものは見られなかったのでな”
「おいこら、ムドーてめぇ、逃げるきか!!!」
ザルバの罵声など聞こえていないようにムドーは
”ああ、この二人はそれなりに目をかけているのでな。黄金騎士が相手でも問題はあるまい”
その声に呼応するように青いマントの男と赤いマントの女の二人に変化がおこる。男の四肢が奇妙な方向に曲がったと思えば蜘蛛を思わせる巨大なホラーへと姿を変える。
シルエットこそは蜘蛛であるが、本来脚であるところには巨大な車輪があり、槍のように突き立てられた牙が無尽蔵に生えており、殻を思わせる部分は仮面に似た装飾が施されている。
登頂には馬車の乗り手が乗るであろう台座のようなものが据えられていた。
女は下半身を爆発させ上半身のみとなり、巨大ホラーと成った男の上に飛び乗る。乗るというよりも半身から臓物が飛び出し、巨大ホラーを侵食したのだ。
侵食したと同時に侵食した半身も巨大化する。仮面を思わせる顔の奥にある眼球が鋼牙の姿を捉えた。
「野郎っ!!!とんでもない手下を用意しやがって……」
ザルバの声を聞き流しながら鋼牙は果敢に合体巨大ホラーに向かっていく。飛翔し半身である蜘蛛の顔に牙狼剣を勢い良く切りかかるが、
「ッ!?!」
ホラーの体は恐ろしいほど強固であった。牙狼剣の攻撃に対して傷一つ付いていなかったのだ。
過去に戦った”ハンプティ”よりも遥かに硬い防御力をもっている。
鋼牙に追撃を与えるべく、勢い良く車輪が回り、突撃が開始される。横に跳び突撃を回避する鋼牙であるが、車輪の角度が変わり通り過ぎることなく向かってきた。
防御力だけではなく、三十メートル近い巨体とは思えない程の機動力に対し、鋼牙は苦戦を強いられた。
”ククククク、こんな所で狩られてたまるか。この時代の面白いものはまだ見たりないのでな”
ムドーは、逃亡するために取り付いた刀から一時的に結界を解き、その姿を現した。
”ケイよ。この場から離れるぞ、お前の方は……ほう…そちらも中々面白いことになっているな”
自身が取り付いた刀に手を持ち、その場から離れるのであった。
”離れる前にそちらへ一旦行こう、織斑一夏の顔は一目見ておきたいからな”
結界から現れたムドーの邪気は凄まじく、外周で結界を張っていたレオも感じていた。
「これは!!!まさか、ムドー自身が現れたのですか!!!」
噂に違わない邪気の強さに戦慄を感じるのだった。
ホラー化したケイと一夏の戦いは互いに互角と言った所だった、元々軍人であったケイの格闘能力はそれなりに高いが、魔戒騎士である一夏のそれも恐ろしく高い。
翼をはためかせ、上空から強力な爪による蹴りを加える。鳥類の一種であるヒクイドリのような槍による一撃を思わせる攻撃であるが、それを魔戒弓の刃で切り返し、カウンターを誘うようにその懐へと接近する。
簡単に懐に踏み込まれるケイではなく、一夏が近づくと直ぐに距離を取ってしまう。こういう場面ならば、矢による追撃を行うべきであるが、矢による攻撃を警戒し常に移動を繰り返し、構える暇を与えぬようにその素振りを見せれば……
「くそっ!?!厄介だな!!!鎌鼬か!!?」
猛スピードで一夏の脇をすり抜けると同時に鎌鼬を発生させて、その手元を狂わせていたのだ。身体能力は人間とは比較にならないほどアップしていた。発生した鎌鼬を横目にヴリルは思わず叫んでしまった。
動作も速く、一夏も対応に追いついていないのである。上空に上がったと同時に隼のように身体を鏃のようにして、勢い良く急降下してくるのだ。勢いを増した力を受けるのは、愚である。例え鎧を召還しても勢いに負け押し返される。
故に回避行動に徹していたのだ。無言のまま一夏は、鎌鼬によって出来た損傷に目を向ける。綺麗な切断面が目に付く。一撃でも生身で食らうと致命傷は必須である。
相手への対応策は一応は生まれてはいるが、それを一夏は実行に移していない。
(……このままアイツの羽に飛び乗ればいいんだけれど、そうするにはさっきからこっちを見ている誰かを何とかしないと無理だ……)
一夏は目の前のホラーに対してもだが、戦いの始まりから自分を見ている第三者の存在を警戒し同時に鋼牙からの連絡にも意識を向けていた。向こうはムドーと遭遇したようであったが……
「……………………」
第三者は無言のままライフルを構え、照準を一夏に向けられていた。少しでも隙があるのならそのまま狙い撃ちしてしまうつもりなのだ。
”コウイチよ、そろそろ此処から移動する。支度を”
刀を構えたその影は能で使われる老人の面に似た顔をしていた。
”アレが織斑一夏か……ケイに見せて貰ったブリュンヒルデによく似て居るわ”
魔戒騎士には滅多に、おそらく一夏以外に例は居ないであろう”女”の魔戒騎士。正確には雌雄同体であるが……
そして、現在世界に蔓延する陰我の中心にいるであろう存在に興味を抱くのだった……
”さて、どれほどの力か?このムドーが見定めてくれようか”
刀を構え、ムドーは一瞬にして遥か離れている一夏の元へ現れ、その刀を振るった。
「っ!?!」
突如現れた老人の面を被った男に対し、一夏は目を見開いた。刀を魔戒弓で受け止めるが、相手の力は凄まじく一夏は吹き飛ばされるように後方へと下がってしまった。
「一夏っ!?!こいつ、ムドーだっ!?!気をつけろっ!!」
相手は途方もない邪気を放ち、自分にはっきりと分かるぐらいの悪意を向けていた。
”ハハハハハ、手荒な挨拶ですまなかったな。…我はムドー。お見知りおきを……織斑一夏”
目尻を下がった老人の目の奥にある赤い光が強烈に輝き始めた。
「ムドー様。何故、この場にっ!?!」
”なに、そろそろこの場を後にしたくてな。面白い物が見られると思ったが、あまり興味を引くものはなかった”
ムドーの脳裏に、襲撃の際に見たISに関する情報が走った。それらは、かつてのモンド・グロッソ、日本の代表、代表候補生に関する物。
さらには、近年多発する各国のIS関連施設を襲撃する”ファントム・タスク”への警告……
「………お前がムドー」
”フフフフフ、黄金騎士も同じことを行っておるわ。まあいい、時間も押している。故に此処から退散させてもらう”
「逃がすと思うか?ここには、レオさんの結界が……」
ムドーは一夏に言葉を最後まで言わせないのか、強力な邪気の塊を上空へと向けて放った。放たれた邪気は一気にレオの張った結界を侵食したと同時に篭っていた邪気が当たりに散らばってしまった。
「っ!?!なんて強い邪気……」
かつて鋼牙たちと共に戦った一年前の”ホラー”達と同様、それ以上の戦慄を一夏は感じていた。
「まずいぞ。この邪気に他のホラーが惹かれる!!」
”フフフフフ、それでは、また会おう。近いうちに我は、お前たち姉弟の前に参上しよう。必ずだ”
ムドーの声に対し、一夏は睨みつけるように魔戒弓を構える。
(こいつは、今私がここで倒さなくちゃいけない!!!こいつを逃がせば、姉さん達が!!!)
矢を射ろうとした時、強烈な鎌鼬が再び一夏を襲う。致命傷には至らなかったが、僅かに右腕を掠めた。
”焦るな。楽しみはもっと貪欲に味わいたい物でな。さらばだ”
隣にケイを侍らせ、さらにコウイチが追従する。奇怪な魔法円を描くと同時にムドーは赤紫の光と共に姿を消した………
「逃げられた……」
普段見せないような悔しそうな表情で一夏は歯をかみ締めた。
「一夏。あの野郎を一度で仕留めるのは、相当骨が折れるぞ。次で必ず仕留めればいい。大昔の先輩騎士達もそうしてきたんだ」
一度逃がせば被害は大きくなるかもしれない。それでも戦わなくては成らない。そして、必ず殲滅しなければならないのだ。
「次こそは……必ず………」
この場を後にし、一夏は鋼牙の元へ急ぐのだった。何故なら、彼は今、巨大なホラーと戦っている最中である。
「鋼牙!!こいつを一人で仕留めるのは相当骨が折れるぞ!!」
ザルバの悲鳴にも似た声が木霊する。相手を例えるなら凶悪な重戦車と言ったところである。機動力は素早く、車輪は通る道を滅茶苦茶にし、さらには口の牙が障害物を取り込む。
上半身は目ざとく鋼牙を捉え、骨の一部と肺が変化したであろう圧縮空気砲が牙狼剣の及ばない間合いから攻撃してくるのだ。
並みの魔戒騎士、法師なら一瞬して倒される程の力である。だが、黄金騎士 牙狼は決して諦めない。
何故なら、彼は闇を照らす希望であるからだ。だが、彼は、自身こそが希望の光であることとは思っていない。
この闇”ホラー”に挑む者。皆、全てが闇を照らす希望の光であると…………
自分一人ではなく、この場に駆けつけてきてくれた”仲間”がいる事も……
「鋼牙さんっ!!!!」
蒼いコートを靡かせた蒼天騎士 ジンの称号を持つ 織斑一夏が巨大ホラーの上半身の目を一撃で射ったのだ。
それの影響でホラーは身を大きく捩った。それを好機と見た鋼牙は
「一夏っ!!!魔導馬の召還をっ!!!」
「はいっ!!!!」
並び立った二人は互いの武器で輪を描き、鎧召還と同時に契約を交わした魔導馬を召還する。
鳥を思わせる貌を持った一夏の魔導馬 蒼天。
黄金の逞しい体躯を持った鋼牙の魔導馬 轟天。
蹄が大地を蹴ると同時に火花が散り、力強く駆け出す二頭の魔導馬が両脇から巨大ホラーに近づく。
一夏は上半身へと向かい、鋼牙は半身へとそれぞれ向かった。
鋼牙は車輪の間へ入り込みそれを勢い良く牙狼剣で切断する。車輪を切られたホラーは、バランスを崩し、そのまま大きく横転する。
上半身の部分は状況を何とかしようと言うよりもこの場から離れようと無理やり分離するが、近くに居た一夏の蒼天の強烈な突進により吹く飛ばされ、壁に激突したと同時に蒼天の背をけり鎧を纏った一夏の魔戒弓 斬馬の型により一刀両断された。
半身を無くしたホラーに対し、鋼牙は牙狼剣を斬馬の型へと変化させ、正面に突き立て
「オオオオオオオオオオッ!!!」
ホラーの口に剣が突き立てられたと同時に轟天が駆け抜けると同時に左右に身体が分かれたと同時に黒い塵となって消えた……
時は流れ、翌朝……
とある骨董屋の前に一人の少女が佇んでいた。彼女の名は ラウラ・ボーデヴィッヒ。
昨日、織斑一夏とのことで気分が優れず、そのまま学園から飛び出し近くのホテルで外泊をしていたのだ。
「……これは、何だ?刀なのか……」
ショーケースに入れられているのは目玉を思わせる奇怪な装飾が施された一振りの刀である。
何処となく惹かれるものを感じたのか、ラウラは、店へと入っていった……
「いらっしゃい。何か欲しいものでもありましたか?お客様」
店主と思われる黒いスーツの女性は、面白い物を見つけた子供のように笑った……
最近、仕事が忙しく更新が少し遅くなります。予定よりも少し遅れています(汗)
こんなことを最初に言っておきながらアレなんですが、今回の話でありました千冬と一夏の模擬戦の話を書いてい見たいと思います。
一夏と千冬の女子力対決?じゃなくて、ISによる模擬戦の模様を・・・・・・
それでは、いつものように予告を・・・
やれやれ、あの野郎は一筋縄じゃいかなかったか…
今度あったら覚えとけよ。ホラー狩りが終わったら今度は、IS関係か……本当に忙しくてかなわんな。
そして久々にあの人が態々、このイベントの為に来てくれるって……何だかおかしな方向に行きそうだぞ……
次回!「篠ノ之 束」
おいおい、そう殺気立つな姉妹は仲良くな……