I S×GARO   作:navaho

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先程は、キバのところにこちらを更新してしまいました・・・・・・

失礼しました。では、IS×GAROもどうぞ!!


第弐拾弐話 「闘 牙(前編)」

二日後に開催される”タッグトーナメント”に向けてか、IS学園全体が盛り上がっていた。

 

IS”インフィニット・ストラトス”を学び、それを扱う人材の育成を目的としているため、学園から将来有望な人材のスカウトも兼ねて各国政府、さらには企業関係者が訪れることとなっている。

 

その為か、学生達も妥協をせずにこの”タッグトーナメント”に向けて訓練を重ね、それぞれのパートナーとの打ち合わせを行っていた。

 

来年卒業予定の三年生は特に盛り上がっていた。国家代表である現IS学園 生徒会長の更識楯無もまた、賓客を迎えるための準備の為、非常に多忙である。

 

「色々とやらなくちゃいけないことが多いわね~~~」

 

特に楯無は暗部関係もあり、このタッグトーナメントの警備なども行わなければならなかった。

 

予想される脅威もそうだが、IS学園、もしくはそこに訪れる賓客を狙ったテロなどの対策も兼ねて、”荒事”を専門とする教職員との打ち合わせもまた……

 

「お嬢様。志摩先生からの報告にありました”亡霊”の件ですが……」

 

「そっちは、志摩先生も大丈夫だって言っていたわよ。何でも、欧州を中心にIS関連の施設を襲撃、機体を強奪しているらしいわ」

 

「ならば、警戒を……」

 

「向こうもここまで大きな騒ぎのある所には現れないそうよ」

 

楯無は、実家の者達の調べとIS委員会所属の猟犬である”志摩 リノ”達のレポートを横目に自身の結論を述べる。

 

「そうですか……ならば”亡霊”の件は一先ず、置いておいて構わないという事ですね」

 

「えぇ、そうよ。ただ、”コードX”に成りかねないかもしれないわ」

 

「こ、コードXですか?まさかっ!?!」

 

虚の表情が険しくなる。その表情は、IS学園で一夏達を見る”その目”である。

 

「そういう事よ。何でも節操のない厄介なホラーがIS学園の近くに現れたっていうわ」

 

”番犬所”からの警告というのを付け足し、”災厄”という文字を描いた扇子を開きながら楯無は応えた。

 

 

 

 

 

コードX

 

一般には公表することの出来ない事件の処理の為に行われる対策。

 

各国間での陰謀による”黒い事件”等、さらには国家を脅かすであろう事件に対しても行われる。

 

近年多発する”不可解な事件”に対しても、警察組織が用いている。

 

最近では、ホラー ムドーによる”倉持技研”襲撃の件でこの処理が行われた………

 

 

 

 

 

 

 

「また、あいつらっ!?!」

 

最近では、教師として魔戒法師を迎えたことも虚には許せなかった。この学園にホラーによる蹂躙を招きかねないかもしれないのに……

 

「虚、この件に私情だけは持ち込まないでね。個人的な恨みを晴らしたいなら、学園から出て行ってからにしてもらえないかしら」

 

「お嬢様っ!?!ですが……」

 

楯無は、目を細め

 

「……確かに一夏君達は、貴女にとっては許せない存在かもしれない。その私怨で他の子達を巻き込むような事をするようなら……私は貴女を追放するわ」

 

とても十代の少女が発したと思えない威圧感を持って虚に忠告する。

 

(こういうのを言うのもなんだけど、私も一夏君の事を”感情がない殺し屋”みたいに思ってたけれど、人のことは言えないわね~~~)

 

この件に私情は要らない。持ち込んでしまえば、自分をその周りを傷つけてしまうかもしれないのだ。それを自覚し、楯無は再び作業に没頭する。

 

(せめて、簪ちゃん達が何も気にせずに頑張れるように私達がガードしないと……)

 

今までのような冷たい関係ではなく、最近はよく話せるまでに関係が回復したこともあってか、少し無茶をしてでもこの”タッグトーナメント”を守り抜きたいと願う楯無であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生が使うアリーナでは、箒と簪の二人がそれぞれのISを纏って模擬戦を行っていた。

 

簪は自身の専用機を滑らかに扱えているが、対する箒は少しぎこちなさが出ていた。

 

「くっ、予想以上に厄介な物だな」

 

訓練用IS 打鉄を纏った箒はブレードを振るい、訓練相手である更識簪に向かって行くが……

 

「箒さん。動きがまだ鈍い」

 

彼女は自身の専用機 打鉄弐式をまとい、箒の繰り出すブレードを薙刀で受け止めそのまま往なし、装甲を切りつけた。

 

切り付けられた為、シールドエネルギーが減り、さらに焦りを感じたのか箒はこのままやられてたまる物かと攻撃を更に続けていく。

 

簪は箒のペースを見定めるようにISを上昇させる。それを追う為に飛び上がるが、攻撃と移動というよりもISの操作になれない為、その状態は非常に不安定であった。

 

(……何という事だ。やはり、剣道とは違う……ここまで足場が定まらないとは……)

 

箒は、ISはイメージによる物だと授業等では理解していたが、実際にそれを行うことの難しさを嫌というほど理解した。

 

人間が行う”武術”と違い、ISでの”戦闘技術”はこの空間全体が戦場となり、上も下も関係がない状態なのである。特に剣道などの武術は足の動作、その裁き方が重要なのである。

 

初めてISを動かした時、素直に剣道の動作を行ったが単なる重い鎧を纏って地を進む鎧武者同然の動きになり、皆がイメージする飛翔するISとは程遠いモノだった……

 

剣などの近接用の武器だけではなく銃などの飛び道具も使うISを相手にするのは今まで行ってきた剣道だけでは、太刀打ちは出来ない。

 

剣道の全国大会で優勝し、同じ条件ならば学園の一般の生徒ならば箒は負ける気はないが、専用機持ちの代表候補生が相手になると勝てる可能性はほとんどない。

 

専用機持ち達は目の前の簪を始め、自分達とは比べ物にならない程の時間ISを稼動しており、例え運よく専用機を手に入れたとしても追いつくことは、難しい。

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

 

箒はラウラについては、とんでもない転校生という認識であり、さらには一夏と千冬との関係においてもそれなりに因縁のある相手であった。

 

先日、剣道場にやってきて道場破りまがいの事をして、自分よりも強い”剣”を扱ってみせた。

 

聞けば、今年の一年生は代表候補生、専用機持ちが多く、ラウラはその中でもトップクラスの実力を持っているとの事。

 

セシリアをトーナメント棄権にさせる程の重傷を負わせたことから、彼女の実力はかなりの物である。

 

ドイツでは、何とISの特殊部隊の隊長の任に就いているとも言うから、自分は何処か別の世界に迷い込んでしまったのではないかと考えてしまった。

 

(いかん、いかん。余計な事を考えては……私には、ISの手足を動かすだけで精一杯なのだから………)

 

実際、箒が操縦するISの動作は単調であり、イメージ通りには操りきれていないのだ。代表候補生達は、素早く武装を展開し、次の動作に流れるように移ることが出来る。

 

上昇した簪を追撃するため、勢い良く突き出す槍をイメージするように箒は打鉄を上昇させるが、簪は容赦することなく荷電粒子ビームを箒に浴びせた。

 

「っ!?!!」

 

実弾兵器とは違う武器の威力に歯を食いしばるが、その勢いを止めることができないまま地表に落下し、シールドエネルギーの残量が0に近くなっていた……

 

<箒さんは、少し正直すぎる。もっと他の戦い方も視野に入れるべきだと思うわ>

 

通信で、パートナー兼コーチの簪から厳しい指摘を耳にし

 

「そうだな。どうも他の武装には手が回らないというか、イメージができないのだ」

 

本当は一杯一杯で、他の戦法に素早く切り替えができない。箒がISに乗る際の悩みであった。何度ISに乗っても結局は剣を優先して相手に接近戦を挑んでしまう。

 

<それなら、私は中距離と遠距離を中心にフォローを入れる。それなら、箒さんもタッグトーナメントで集中できると思う>

 

簪は、二日後のトーナメントでのフォーメーションは箒は接近戦で、自分自身は中距離と遠距離を中心にフォローしていく流れを提案した。

 

「そういうことか……それならば、私も助かる」

 

いつかは、自分もそこを直さなくてはと思いつつ、箒は続いてフォーメーションの訓練を行うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練を終え、箒と簪は食堂でお互いにタッグトーナメントとで重要なフォーメーションの相談を行っていた。

 

「箒さんは自分が足を引っ張っているみたいに思うかもしれないけれど、タッグトーナメントで大切なのはお互いに合わせることだよ」

 

「お互いにか……片方がオンブに抱っこになりかねないだろうか?」

 

「そんな事はないよ。片方がただ相手に任せっきりになったら、フォーメーションも何もなくて。勝てるものも勝てなくなるよ」

 

「そ、そうか……難しいモノだ。一人が強ければというのは……」

 

箒は、脳裏に浮かんだ”世界最強”と名高いIS乗り 織斑千冬を浮かべたが……

 

「織斑先生でもそれなりに近い相手が二人一緒に戦ったりしたら、危ないかもしれないよ」

 

内心、簪は”ホラー”のような化け物相手ならば、それも通用しないかもしれないと思ったが口には出さなかった。

 

簪の言葉に箒は少し納得が行かないものもあったが、かつて千冬が自身に言った言葉

 

”私の力を超えるものはいくらでもいる。忌々しいがあの男もその一つだ”

 

かつて見た千冬と剣を交えた二刀流の男……彼については箒も千冬には聞けないでいたが、恐らくは一夏、魔戒騎士関連の者である事は間違いないであろう………

 

「上には…上が居るという事か……」

 

これは千冬に限らず、箒にとっては実感せざる得ない言葉である。彼女はいつか”一夏と肩を並べたい”という願いがある。

 

それを叶える為には、どうしても越えなければならない壁が無数にあり、どれも簡単に一度で越えられるようなものではないのが一つの悩みである。

 

このタッグトーナメントで出来る限り上位を目指すというのも、かなり難しい壁なのだ。いうまでもなく、この壁は、あのラウラ・ボーデヴィッヒかも知れず、彼女を打破するのは至難の業だったからだ……

 

(私だけじゃない…他の者達もこのタッグトーナメントに向けて訓練を続けている。一夏だって…凰 鈴音も)

 

自分の想い人にかなり近い位置にいるであろう少女の事を考えると”何が何でも負けたくはない”と思う箒であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園を囲う海上を二機のISが飛行していた。訓練用の打鉄とイギリスの第三世代IS ブルー・ティアーズである。

 

鈴は学園より訓練用ISの使用の許可が出たため、タッグトーナメントに向けて慣れるために訓練を行っていた。

 

ブルー・ティアーズを纏う今回は出場は出来ないセシリアであったが、戦闘は無理でもこのように飛行を行うだけなら特に問題はないので、鈴やその他の生徒のコーチを行っていたのだった。

 

「慣れると気持いいわね。空を飛ぶって……」

 

「ええ、そうですわね。この感覚は一度覚えると病みつきになりますわよ」

 

本来ならばアリーナ等、限られた場所でのみISの展開は許可されていないのだが、セシリアの要請で限られた時間だけ学園の海上を飛行することが許されていたのだ。

 

「それにしても、鈴さんは覚えが早いですわね。代表候補生とほとんど変わらないじゃないですか」

 

セシリアは、鈴の成長スピードに大きく驚いていた。学習もそうだが、ISに関する知識、技能を修得するスピードが並ではないのだ。

 

自分自身は天才などではなく”努力”型とセシリアは認識している。もしかしたら彼女は”天才”と呼ばれる人種ではないだろうかと……

 

「まぁね。あの件がなかったら、そうなってたかも」

 

実際、自分のIS適正値はAであり、代表候補生として選ばれるには充分な素質があった。それ故に母の母国の政府から、こちらに来るようにと強制されたことがあった。

 

あれほど居心地の良かった家族が険悪になるのは、今、思い出しても嫌な物だった。顔を合わせれば互いに罵り、自棄になった父の小さくなった背中とどうしようも出来ずに酒に半ば溺れていった母……

 

あの時、一夏や零が関わらなければどうなっていたか分からなかった……

 

実際鈴は飛行に慣れていないだけで、戦闘技術の関しては一夏同様とくに問題はなかった。

 

元々ホラーと戦うために修行中の魔戒法師のため,

戦闘に関してならラウラ・ボーデヴィッヒと対戦しても問題はない。

 

不安があるとすれば、専用機ではなく訓練機なので何処まで対抗できるかは彼女次第である。

 

「そうですか……それでも、貴女は魔戒法師としてのお勉めを選ばれたのですね」

 

セシリアもホラーの恐ろしさを一度だけの遭遇でではあるが、良く理解していた。例えISで対抗は出来ても”ソウルメタル”以外に殲滅する方法がない以上、ホラーに勝てる見込みは無い。

 

ISに関しても危険がないとは言い切れないが、最近は過激な行いを行う”組織”も現れており、様々な思惑、ホラーを呼び込む”陰我”を増しているのである。

 

イギリス本国で開発中であった”サイレント・ゼフィルス”が強奪された事は、セシリアにも知らされていた。

 

「自分で決めたことだし、何より一夏の助けになれればって…我ながら無謀な考えを持った物だと思うわよ」

 

あの頃の自分は少しばかり子供だったけど、その考え、願いは間違いではなかったと、今でも思える。

 

”俺達”魔戒騎士”のやっていることが正しいとは思わん……もしかしたらと悪い方向に物事を考えてしまう。だが、進む以外に俺には何も出来んからな”

 

時折、一夏が魔戒騎士としての修行を傍らで見ながら、”彼”はそのように自分に話してくれた。

 

今の自分を”彼”が見たら、何と言うだろうか?あの”闘牙”という勇ましい名前の割りに線の細かった優男は………

 

「そうですか…その一夏さんは……本日は……」

 

事情を知るセシリアも分かっている。今日は、一夏達魔戒騎士達が月に一度の”動けない”時である。

 

「そういう事。今日一日は、ずっと仮死状態になるわ」

 

普段ならば結界を貼った自宅か、かつての師の家に赴くのだが、今はIS学園の自室 寮長室にいる。

 

「分かっているとはいえ、一夏さんのそのようなお姿を見るのは慣れることは出来なさそうですね」

 

「特に千冬さんは、あの姿を見るのを凄く嫌がっているし……」

 

以前、千冬がその姿を見たときの表情は悲痛なものだった……

 

「でも、そういう生き方を選んだのは、一夏だからね」

 

鈴も少しだけ寂しそうに目を細めた。魔戒騎士が苛烈な生き方であるとは話で聞いていたが、実際に目で見ると直に体験するのでは、まるで違っていたのだから……

 

全く心配をしないというわけではないが、やはり今の一夏の状況は複雑な物であり、自分も何が出来るのかと鈴は悩んでしまう。

 

「鈴さんは、一夏さんがどうし、魔戒騎士としての生き方を選んだのかご存知で?」

 

「一応はね……アタシも途中で時々、一夏の様子を見に修行を見たりはしてたけど…やっぱりあの人の影響かなって思うのよね~」

 

「あの人とは?」

 

「一夏の師匠で 闘牙。前の蒼天騎士 ジンの称号を持つ魔戒騎士よ」

 

まだ自分達がIS学園に来る前、魔戒騎士、魔戒法師となる前の頃、出会った一人の魔戒騎士の事を鈴は懐かしく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、一夏は寮長室のベッドの上で眠りについていた。白い浴衣に似た寝巻きを着用している。

 

普段はつけている自分の乳房を押さえる補整下着は付けておらず、控えめな胸が一夏が女でもあることを主張していた。

 

世間での一夏の認識は、”世界で唯一の男性IS操縦者”であるのだが………

 

男性にしかなれない”魔戒騎士”。女性にしか扱えない”インフィニット・ストラトス”。

 

その両方の力を扱える存在であるのは、一夏自身が”彼”、”彼女”でもない存在である故。

 

一夏達魔戒騎士が、自身の契約している”魔導具”に命を与える日であり、仮死状態となる日。

 

深い眠りの中、一夏は夢を見ていた……それは、幼い頃に出会った 師 闘牙との記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が”師 闘牙”と出会ったのは、両親が私達姉弟の元から居なくなってしまった後だった。

 

両親の事を覚えていない。というか知らないといった方が正しいかもしれない。

 

そういった写真の類は何処にもなく、姉も姉で居なくなってしまった二人と決別するために処分してしまった。

 

だけど、時折一人で泣いている姿を見るたびに幼かった私もこれからたった二人だけで生きていかねばならないとだけは理解できていた。

 

生活費を稼ぐために夜遅くまで働き、疲れ果てていた姉の力に成れないかと幼いながら考えていた。

 

帰っても家には居ない姉の事を考えていたら、いつの間にか夜になっていたことがあった。

 

誰も居ない公園は昼間と違って寂しく暗く、そのためか子供の落書き、おどけた表情の動物のモニュメントが少し不気味にさえ感じられた。

 

そのモニュメントから笑う声さえ聞こえそうな程、独特の不気味な雰囲気が夜の公園にはあった。親元に帰る子供達を横目に私は、いつも通り独りで家路につくはずだったが、

 

この日だけは違っていた。

 

「こんな遅くまで、何をしているんだ?子供は帰る時間だぞ」

 

そんな夜の公園で私に話しかけたのは、長く伸ばした黒い髪の蒼いコートを纏った男性だった。

 

「………………」

 

「親と喧嘩でもしたのか?」

 

男性は私に視線を合わせるように屈み、笑みを浮かべてきた。

 

「違う……親は居ない。でも姉さんならいる」

 

私の身内、家族は姉だけ……そのことに私は自分でも気づかぬうちに表情を暗くしていた。

 

「そうか、お前達は二人だけなのか」

 

「………………」

 

「帰りは、遅いのか?俺も依頼が既に終わっていてな……」

 

「待つにも一人よりは良いだろう」

 

「………………」

 

「ったく、可愛げのないお嬢ちゃんだな。少しは笑ったらどうなんだ」

 

ここで私以外の声が響いた。しかし、ここにはこの男性と私以外に誰も居ないはず……

 

「ヴリル。お前、何口を出しているんだ」

 

「あぁ、すまねえな。可愛い顔していて愛想のない子供には少し言ってやりたくなってな」

 

全く悪気のない態度で言葉を発していたのは……

 

「驚かせたな、こいつはヴリル。俺の親友の奴と同じで口が悪い」

 

右の裾を捲くるとそこには、狼の被り物をした髑髏のアクセサリーが喋っていた・

 

「口が悪いとは失礼だな、闘牙。あの野郎と一緒にされるのは心外だぜ」

 

「ヴ、リ、ル?」

 

「はは、そうやって驚かされている様をみるのは愉快なもんだ」

 

ヴリルに言われた初めて気づいたが、私は本当に驚いていた。これが、”師 闘牙”との初めて出会いだった。そして、ヴリルとも………

 

この時は、まさか”契約”を交わすパートナーとなるなんて思いもしなかった。

 

「そうか・・・・・・お姉さんがずっと元気がないのか?」

 

いつの間にか私は、闘牙と年の離れた友人のように接していた。

 

「……住む所は大丈夫だけれど、私達が暮らせるようにいつも頑張ってくれている………」

 

今思い出しても、姉さんの頑張りは見ていて不安になることがあった。あの頃の姉さんは、将来のための学業と今の生活のための仕事に打ち込んでいた。

 

時折、姉の同級生達が訪ねて来るときがあったけれど……

 

”織斑さん?居るの……いい加減、あの話ちゃんと考えてくれた”

 

”駄目だよ。織斑さん、今日もバイトだって…だから、こっちには出られないんだって”

 

”やっぱり駄目か………ていうか、よくこういうところに住んでられるよね…”

 

”そうそう、噂じゃ、あの子親無しだって聞いたわよ。何でも、捨てられたって話だから”

 

”あはは。あんな愛想が悪くて、いつも怒っている様な子と一緒に居るのは気が滅入るよね”

 

”だから、何で誘うのよ?そんな気が滅入る子を……”

 

”だってさ、ああいう引き立て役の子が居ないと私達が目立てないじゃん”

 

”あはははは。それはそうかもね、でも、居ないんじゃ、しょうがないよね”

 

人の自宅の前だというのに、言いたい放題言ってくれた。

 

事実、あの頃の姉さんは、成績はそれなりに良いけれど、見た目はいつも髪をボサボサにしていて、目の下に隈を作っていた。

 

溜息をつき、心配していた私を見ては……

 

”大丈夫だ。一夏……私が護ってやる。心配するな”

 

心配なのは姉さんの方だと言いたかった。だけど私には、姉さんにそんな事もいえない程弱かった。夜遅くに帰ってきて、朝早くには出て行く生活の繰り返し……

 

いつも私は、誰も居ない家で姉さんを待っていた。帰ってきた姉さんを抱きしめることしかできないちっぽけで弱く、何も出来なかった私……

 

そんな私が姉さんに何が出来るのだろうかと……そんな悩みに闘牙は……

 

「そういうことなら、これをお姉さんに渡してあげるといい」

 

それは、綺麗な白い花だった。その花はこの近くで見かけることがなかった。

 

「こいつは、蘭。ある伝手で手に入れたものでな」

 

その花は、この辺りでは咲いていない花だったからだ。

 

「俺が育てた奴だ。里子に出そうと持っていて里親を探していたんだ」

 

驚く私に闘牙は花を渡してくれた。その白い花は、まだ描かれていなかった私達の”未来”に影響するあるモノと同じ色だった………

 

そんな未来を知る事のない私は、この白い花をみて笑っていた……

 

「女にはな、花が一番似合う。お前にもな」

 

「………あのね、闘牙。私、男の子みたいなの」

 

「…………………この年頃の子供は、だいたいが……こんな感じかもな」

 

少し顔が引きつった闘牙の顔が印象的で、そして生意気にも目上の彼を呼び捨てにしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも公園で待ち合わせする姉さんから、少し遅くなるから、家に帰るように言われ、闘牙と別れて少し時間が経った時、私は出会ってしまった。私達の知らない”闇の世界に住まう魔獣”に……

 

「おやおや、こんな時間に人間の子供か?最近、子供は喰らっていなかったな」

 

現れたのは薄汚れた上着を着た老人だった。老人は、私が知るそれとは大きく違っているように見えた。

 

”御年寄り”は大切にと言われているが、この老人にそれを行うことはできないと察した。

 

「お嬢ちゃん……おじいちゃんと良いことをしようか?」

 

笑った老人の目に私が今までに見たことのない奇怪な文字を浮かべたと同時に私に向かって飛び掛かってきた。

 

腰の曲がった老人とは思えない動きで私に向かってきたのだ。

 

「っ!?!」

 

あまりのスピードに私は思わず後ずさり、そのまま尻餅を付いてしまった。

 

背は小柄の方でそれほど大きいわけではない体躯なのに、目の前に居る老人が恐ろしく大きく見えた。暗い影に浮かぶ絵本で見た悪魔の姿に私は恐ろしさを覚えていた……

 

この頃の私は、窓の向こうに見える夜の闇には怪物が居ると想像していた。昼間は息を潜めているが夜になると何処からか出てきて、私達に”悪さ”をする為に……

 

何故このような事を想像するようになったのかは、少し前に見た”おばけのとっけび”という絵本に描かれた怖い白い男の幽霊を見て、時折居るはずがないのだが、窓の向こうからこちらにやってくるということを想像していた。

 

絵本と違い、この老人は見た目は完全に人間である。だけど、人間という感じがしなかった。人の皮を被った”何か”だった……

 

「お嬢ちゃん……このおじいちゃんに笑顔を見せてくれんかの?」

 

何も映らない瞳が怪しく笑うと同時に褐色の肌が異様に青白く変化し、ほんもののお化けそのものになってしまった……

 

「ね、姉さん……」

 

いつも私を護るといってくれるたった一人の家族に私は助けを求めてしまった。ここに姉さんは居ない。居るのは、私と正面に居る怪物だけだった。

 

「ほぉ~~う。お姉さんが居るのかい?じゃあ、後で行かなければならんの」

 

口をまるで獲物を飲み込む蛇のように広げて、私を”喰らおう”とした。

 

その時だった。私とこの怪物の間に誰かが割って入り、いつの間にか私は誰かの腕に抱えられていた。

 

「おむぅあっ!!!」

 

奇妙な声を上げて怪物は近くの電柱に叩きつけられていて、私は公園で先ほど出会ったばかりの闘牙に抱えられていたのだ。

 

「大丈夫か?一夏。妙なことはされていないな」

 

闘牙は私をゆっくりと降ろしてくれた。何となくだけれど、嫌じゃなかった……思えば、この頃の私は親というものを知らなかったため、このように抱えられたことなどなかったからだ。

 

「ったく、トンでもねえ色ジジイが居たもんだ。闘牙、さっさとやっとけよ」

 

ヴリルが私を襲っていた怪物に対して、聞けば酷いことを言っていたけど、その通りだと思う。

 

「オマエ……ワシの飯の邪魔を……」

 

電柱には、まるでヤモリのように張り付いた老人いや、怪物が居た。

 

「ヴリル。聞かなくてもアレは、ホラーだよな」

 

「当たり前だろ。あんな、トカゲみたいなジジイが居てたまるか」

 

私から見たら、この場をどうすればいいのか分からない状況なのだけれど、この二人?はまるでコンビニに行くかのような気軽さだった。

 

「バァ嗚呼嗚呼ああっ!!!」

 

奇声を上げながら、両手を鎌状にして闘牙にホラーは切りかかってきた。

 

「気色悪い声を上げるな。これ以上、一夏を怯えさせるなよ」

 

闘牙は切りかかってきたホラーに対し、その鎌を往なし懐に入り込んだと同時に強烈な拳の一撃を浴びせ、さらに顎を蹴り上げ、顔面に強烈な回し蹴りを浴びせた。

 

声を上げる暇もないのか、ホラーは黒い血ともいえない体液を吐きながら仰向けに倒れてしまった。

 

「……………」

 

老人に何てことをと誰かが言うかもしれないけれど、この場合はそうともいえなかった。何故なら、老人の姿は仮のものであり、直ぐに本性を現したのだから……

 

「キシャアア嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

 

身体が避けたと同時に髑髏とトカゲと人間をあわせたかのような怪物 ホラーの本性を私はこの時、初めて見た。

 

「やっぱりこいつか……リローサ…子供を喰らうのが好きな……最悪な野郎だ」

 

「確かにな……意図的に子供ばかり狙うのも許せん。さっさとこいつを片付けるか」

 

闘牙はいつの間にか持っていた大きな弓矢を掲げ、円を描いたと同時に光と共に蒼い狼を模した鎧を身につけていた……

 

黄金の瞳を持つ蒼い狼がホラー リローサと対峙したと同時に駆け出した。

 

「魔戒騎士如きが、人間が、ワシの飯を取り上げるな!!!!!」

 

「お前達ホラーの言い分は分かるし、ある程度筋は通っているな。だが、俺達人間はそれを、はいそうですかと納得するほど物分りはよくないんでね」

 

屁理屈っぽいことを言って反論する闘牙は、話し方こそはおちゃらけているけれど、その声色は真剣なモノだった。

 

弓 魔戒弓の刃で首元を切りつけた。首元から血を出しながら電柱から電柱へ飛び上がるが、闘牙は弓を引き矢でこれを打ちぬいた。

 

打ち抜かれたホラーは、そのまま落下し倒れる。

 

「ぶぅあっ!?!……」

 

顔を上げたと同時に矢で射抜かれ、黒い霧となって消滅した………

 

ホラーが倒されたと同時に闘牙も鎧を解除し、私の元に駆け寄ってきた。

 

はっきり言って、何がどうなっているのか分からなかった。あの怪物ホラーはなんだったのか?闘牙は一体何者なのかが……

 

私の疑問に対し、闘牙は……

 

「色々聞きたいことがあるみたいだが、今は何も聞くな。出来れば、この事は忘れた方が良い………」

 

そう言って、闘牙は私に”忘却の術”を掛けようとした。魔戒騎士とホラーの戦いは、決して知られてはならないことの為、遭遇してしまった一般人の記憶を消してしまうのだ。

 

「待って!!私に何をするの?」

 

「一夏、この事は誰にも知られちゃいけないことだ。明日になれば、もう気にも留めなくなる。だから……」

 

「私は、闘牙の事を気にしなくなるなんて嫌だよ!!!絶対に嫌だ!!!!」

 

本能的に私は察していたのかもしれない。闘牙と会っても、彼を何とも思わなくなってしまうことに……そう成ってしまうことが嫌だった……

 

恐ろしい怪物から護ってくれた彼に、私は無意識のうちに”親”を感じていたのかもしれない。

 

私は、両親を覚えていないというよりも知らなかったから、それを無意識に感じた彼の事を忘れてしまうのを拒んでしまったのだ。

 

「……でもな……って、普通は強引にでもやるんだが……子供にこう言われるのは初めてだから……罪悪感というか、何と言うか……」

 

そんな私の事を察してか、闘牙はいきなり悩み始めてしまった……さっきまで凄く騎士らしかったのに、急に優柔不断になってしまったのだ。

 

「闘牙……おまえな……やるなら、やれ!!!その辺をはっきりさせろよ!!!毎回、毎回物事をややこしくしやがって……」

 

「そう言うなヴリル。色々と考えることがあるから俺は選べないんだ。昔から変わらない俺の性分ってことにしておいてくれ」

 

ヴリルの言葉を察するにこの人は、何かあると直ぐに悩んでしまい、中々物事を決められない人なんだと改めて思った……

 

優柔不断と言えばそれまでだけれど、この人は色んなことを一生懸命に考え、その人達にとって最善の方法をいつも考えているんだと……

 

「一夏が無事なのは大事だが、親としては里子の方も少し気になる」

 

闘牙は私の横に視線をやり、改めて私は蘭を落としてしまった事に気づいた。鉢は割れていないが、土が撒け、茎と葉が少し折れている。

 

「この場合はな…こうしてやるといい…折れた茎は……」

 

いつの間にか持っていた布と糸で蘭のケアを行う彼は、先ほどの戦いとは正反対の穏やかな表情をしていた……

 

結局、私は闘牙の事を忘れずに済み、ここから深く関わるようになった………

 

 

 

 

 

 

 

彼の言うように、その晩、花を見た姉さんは久々に笑ってくれた………

 

 

 

 

 

 

それから私と闘牙との関わりが始まった………

 

彼の自宅は私達の家より少しはなれたところにあるが、私はほとんどの時間をここで過ごすようになって行った。

 

このときの私は、闘牙を生意気にも呼び捨てにしていた。考えてみれば、私は姉さんの弟であり妹でもあるからだろうと思う。

 

基本的に姉さんは誰これ構わず呼び捨てにしていた事を箒のお父さんに怒られたことがあったと聞いたことがある。

 

……そんな私を闘牙はいつも”しょうがないな”と言わんばかりに苦笑していた。

 

「おい、闘牙。一夏に舐められているんじゃないのか?一夏……一応、言っとくがな。人を呼び捨てにするのは…あまり良くないぞ」

 

「珍しいな、ヴリル。お前がこういう小言をいうなんて……」

 

「だからよ。お前がいつまでもそういう甘ちゃんだから俺が姑臭くなっちまうんだよ」

 

「闘牙って……甘ちゃんなの?」

 

「そうだ。こいつは普段からこういう奴だから…優男だって言われるんだぜ。ていうか、一夏。闘牙を呼び捨てにするな」

 

「止してくれ……そいつは大河に散々言われてきたんだから……別に呼び捨てでも俺は気にしないんだがな……」

 

事あるごとに”優男”と言われていて辟易していたのは幼い私にも良くわかった。闘牙という勇ましい名前なのだが、性格ははっきり言えば優柔不断な感じが強かったからだ。

 

悪く言えば”ちゃらんぽらん”な……

 

「だったら、それなりに威厳を出してくれよ。お前、今年で……」

 

「それを言うな。俺だって気にしているんだから……大河の息子の鋼牙が後を継いだのを見たら嫌でも自分が年配者と思い知らされる。」

 

二人のやり取りを見ると、私は、普段は頼りないけれどやる時はやる友人を小言を言いながらも付き合う友人という感じを受けていた。

 

本当の意味で私は知っている。この人が誰よりも強い”人”であることを・・・・・・・・・

 

「最近、妙に肩が凝りやすくなったな~~。やっぱ、俺もおじさんの仲間入りをしているってのか」

 

前言撤回。この人は、やっぱり頼りないかもしれない………

 

「ねえ、闘牙。私に闘牙の戦いを教えて」

 

あの夜、私は彼に憧れを抱いていた。ちっぽけで弱い私を護ってくれた彼のように強くなりたいと願うようになっていた。

 

「ぁうん?俺と一夏は、こういう関わりだけで良いと思うんだが…態々こんな物騒な特技を持っても何にもならんぞ」

 

闘牙は”魔戒弓”を弄びながら、私に釘を刺してくれた。”魔戒騎士には成らん方が良いぞ。そっちの方がずっと良い人生”が歩めるといわんばかりに……

 

「でも闘牙は私を護ってくれた。私も姉さんを支えられる、護れる力が欲しい。闘牙なら私を強く出来るよね」

 

私はあの夜の戦いを憶えている。あの荒々しい蒼い狼の強さを……決して怯まずに脅威と戦い、私を護ってくれた強さを……

 

何よりも何もできない私自身が嫌だった……姉さん一人に重荷を背負わせてしまった私自身が……時折、私を見ては心配するように悩んでいる姿を見るのが……

 

私を見て、闘牙は少し考え込むように視線を向けて屈み込んで……

 

「一夏、護るってのはただ相手をぶちのめすだけじゃない。誰かの傍に居てあげるだけで良い……だけどな、傷つけられた相手のこともちゃんと考えられるようにならないとな……」

 

闘牙は少しだけ、目を細めて。

 

「ただがむしゃらに前に進むのは良いが、時々振り返って自分の周りもみないと、何処かで独りよがりな我侭を通しているかもしれない。そうだとしたら、護りたい者も結局は護れない」

 

彼は私以外に誰かを想うような目をしていた。その誰かは私は分からないけれど、闘牙にとっては決して忘れてはならない存在なのは、間違いない………

 

「一夏がどうあろうとするかは、一夏自身が決めることだな。だけど、俺の言う事だけは忘れないでくれ」

 

 

 

 

 

 

「どうあろうとお前はお前だ。それに正解も間違いもない」

 

 

 

 

 

それから、私は姉さんに内緒で闘牙に師事を請うようになった。だけど、闘牙は遊びの延長線で私に稽古をつけていた……

 

何処かで飽きればと心の奥底で思っていたかもしれないけれど、私はそれに反発するように闘牙に何度も噛み付いた……

 

顔を真っ赤にして”真面目にやってよ!!!”と怒鳴ったことも一度や二度ではなかった……

 

”わかった、わかった。そう怒るな、ちゃんと教えるから……”

 

怒った私は意外と怖いとヴリルに教えられたけれど、闘牙も私が怒るとかなり慌てていたのは、そういうことなのだろうか?

 

その闘牙は、怒ろうとしても中々怒れない人だから、怒っている姿は私も片手で数えるぐらいしか知らない……

 

 

 

 

”俺は進んで誰かを罵倒したくない!!!!だけど、お前に一夏を託すわけにはいかん!!!!!!”

 

 

 

”闘牙!!私、絶対に魔戒騎士になる!!闘牙の称号も継ぐ!!!教えてもらった力を、誰かの希望を照らせるように使いたい!!!”

 

 

 

 

ドイツから先に日本に戻って本格的に、いやより厳しい稽古に臨んでいた日々。唐突に私は闘牙と二度と会うことが出来なくなってしまった………

 

 

今でも憶えているあの禍々しい黒い刃を思わせる右腕を……闘牙の命を奪ったあの黄色い獣の目を……私は生涯 忘れることはない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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