I S×GARO   作:navaho

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久々の投稿です。かなり間を空けてしましまして申し訳ございませんでした。


第弐拾参話 「開 幕」

二日前……

 

IS学園でのタッグトーナメント開催に向けて周辺地域は厳戒態勢であった。

 

街の電光掲示板には、IS学園絡みの記事が掲載され、その影響により警察組織による周囲の警戒が行われていた。

 

テロを警戒してか不審なモノを隠せないよう普段は気楽に使用しているゴミ箱もタッグトーナメントが終了するまでは使えないようになっている。

 

さらには、普段は気にも留めないであろう路上のゴミに対しても積極的に集めていた。

 

この様子に対し様々な交通機関の利用客も当初は戸惑いの色を浮かべたが、一日も経たないうちにそれすらも感じなくなっていった。

 

<いよいよ、二日後にIS学園でタッグトーナメントが開始されます。これに合わせて各国の政府関係者が日本に来日されています>

 

繁華街の巨大なセンタービルに備え付けられた巨大なエキビションモニターより、報道番組のキャスター達がタッグトーナメントについて説明と紹介をしている。

 

その報道番組に視線を向ける青年が一人 短く切り込んだ赤い髪と男臭さを感じさせる顎鬚を結わえている。彼の名は 五反田 弾。

 

彼の隣には、彼よりも少し背の高い青年 御手洗 数馬が居た。

 

「………タッグトーナメントか…毎年、やっているけど今年の盛り上がりは異様だな」

 

普段からある程度ニュースを見ている数馬は昨年と比べて、今回のIS学園でのイベントの盛り上がりように舌を巻いた。

 

今年の盛り上がりの原因は、自分たちがよく知る”友人 織斑一夏”が現れた為ではないかと……

 

世界初の男性のIS適正者。今年の春先はその話題で持ちきりだった。マスコミも一夏の後を追ったりとしていたが、その一夏はそれらに関わることが煩わしかったのか一ヶ月程、姿を晦ませていた。

 

それとなく話題を弾に振りまいてみるが、彼は数馬の話題に対して仏頂面でエキビションモニターより視線を反らした。

 

<確認には至ってはおりませんが、篠ノ之 束博士がIS学園に来たと言う情報もありますが……これは、博士にどういう考えがあっての事でしょうか?>

 

<そうですね。おそらくは、ISにおける何故、女性にしか起動できないのかという事へのアプローチではないでしょうか?今では、大きな活動を行っていませんが、今も男性のIS適正者の調査は継続されていますからね>

 

一人目がいるのなら、二人目もというのだが、その二人目は未だに発見が出来ていない。

 

「それは当然だろう…だって一夏は……」

 

「そういう滅多なことは言うなよ。一夏にも迷惑が掛かるぞ」

 

勝手な憶測を立てる画面の自称 評論家達に対し弾は反論するように応えるが、数馬はそれを嗜める。

 

「分かってる………だけどな、もし……ISが無かったらって……」

 

「でも実際にはもうあるんだから、仕方ないだろ。それに一夏だってそのことを悲観していないのに、本人の人生を勝手にお前が決めていいわけじゃないだろ」

 

何処かで願わずには居られない。自分に特別な力があれば、理不尽な運命に晒されている”彼女”を救えるのではないかと……

 

何度妄想しても、それは叶わないし、決して訪れることの無い奇跡なのだ。仮に自分が一夏と同じ魔戒騎士になったところでもどうにもならないだろう。

 

数馬にとって、一夏は気心が知れた友人の一人である。最初に会ったときは、女顔の男という認識であったが、実は容姿の通り女であったが、男でもあるという複雑な事情を持っていた。

 

「じゃあ、数馬。お前は、何とかしてあげたいと思わないのか?」

 

「そりゃあ、何かできれば良いかもしれないけど、俺達が出張ったところで何の助けになるんだ?一夏の負担になるだけなら、ありがた迷惑なことはしない方がいい」

 

だからこそ、弾はボクシングを続けている。先日、プロテストにも合格し、試合にも出ていて順調に勝ち星を挙げている。

 

それでも、人知れず世界の闇と戦っている”彼女達”からしてみれば、些細なことだった。

 

「でさ……それって弾の傲慢な思い込みじゃねえのか?前までは、自分に誇れるものが欲しいってボクシング頑張ってって、幸先がいいから調子に乗っているようにしか思えないぞ。今のお前は……」

 

「っ!?!………」

 

数馬の言葉に弾は、自分自身はあまりにもチッポケな存在であることを改めて思うしかなかった。だが、同時にどんなに必死にあがいたところでも僅か一歩しか進めない結果に焦りすら憶える。

 

この焦りは以前にも覚えがあった。一夏が女でもあると知り、さらに魔戒騎士という存在であることに対し、”彼女”を自分の手で護ろうとしたことだった。

 

さらには、一夏をホラーが闊歩する闇の世界へ巻き込んだのは、姉の千冬であることも知り、あろうことかその千冬に対し噛み付いてしまった。

 

当然のことながら、一夏には呆れられ、さらには、味方になってくれるはずだった家族からは……

 

”馬鹿野郎!!!女が一人、子供を育てるのがどれだけ、大変なのか、分かってんのか!!!!”

 

祖父には顔がはれ上がるほど殴られた。それこそ、独りよがりな自分の考えで、二人の家族を壊そうとし、さらには、護ろうと考えていた”彼女”を傷つけてしまったのだ。

 

あの過ちを繰り返す事が無いように、自分に誇れるモノをとして……始めたことだった。自分を叱ってくれた祖父の言葉を知るためにも……

 

「俺からしてみれば、弾は凄いと思うよ。俺なんか、周りに調子を合わせて没個性をアピールして取り柄しかないしな。それに一夏だって……」

 

”私も姉さんも他の人よりもたくさん剣をふっていただけだ。それ以上のことは知らない”

 

魔戒騎士として一人立ちした一夏、ISでの世界最強の座を掴み取った千冬との共通点。二人は、それぞれの目的の為に人よりも多く剣を振っただけであった。

 

それなりに訓練を積んで来たが、根本的には基本を徹底して繰り返していただけ、ただそれだけのことなのだ。

 

「……………」

 

「気にする暇があったら、手足を只管動かすぐらいしかできないよな。まあ、一夏って俺達が思うほど自分の事を不幸だとは思っていないんだろ?」

 

一夏は、今の自分は一人ではないと二人に話したことがあった。以前よりも姉の千冬とはずっと家族に成れたとも言っているし、頼りになる魔戒騎士の仲間も居て、彼らとは切磋琢磨、お互いに腕を磨いていると……

 

「……アイツは少しお人好しが過ぎるんだよ」

 

そのまま立ち去ろうとする弾に対し、数馬は

 

「やれやれ、あんまり素直じゃないよな~~弾も」

 

今はほとんど見ない頑固な職人気質の日本男子な友人に対して、数馬は苦笑を浮かべながら彼の後に続くのだった。

 

そんな中、銀髪の眼帯をつけた少女が大きな包を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女 ラウラ・ボーデヴィッヒは、先ほど購入した”品物”を思い出してか頬が緩んでいた。

 

(これは素晴らしいものだ。私が織斑一夏を下した暁には教官に……いや、これを携えた私を見てもらいたい)

 

ラウラは、かつて指導を行ってくれた初代 ブリュンヒルデ 織斑千冬に並々ならぬ憧れ、いや崇拝に近い感情を抱いている。

 

”力”こそ絶対。”敵”を圧倒し、二度と立ち上がれぬように捻じ伏せる。それこそが最強であり、ラウラが千冬に求める理想であった。

 

数日前の外出の際にとある骨董店で見つけたその”品物”は日本独特の刀でありながら、目玉を思わせる怪しい装飾品をつけたものだった。

 

鞘は曇った白であり、柄の装飾は蛇を思わせるものと柄の先端にはこの品物最大の特徴である”目玉”が存在していた。

 

一目見たときから、この”品物”をラウラは気に入り、本日思い切って購入に至ったのだった。だが、この期間はIS学園周辺では、テロや騒動の原因になりかねないものを規制しており、

 

当然のことながらラウラの持っているものも規制の対象である。事実、IS学園では篠ノ之 箒も真剣を所持しているが、状況が状況の為教員に預けてあった。

 

さらには、一夏も魔戒弓を学園の自室ではなく、然るべき所に預けなければならなかった。とはいってもソウルメタルを扱える存在は学園内には居ない。

 

(ちっ、平和ボケした連中が一端のガード気取りか……)

 

内心、日本の警官達を罵りながら、ラウラは駅から離れ、駅の拡張工事を行っている場所へと足早に移動した。

 

IS学園ならともかく、ここで没収されてしまったら二度と帰ってこないかもしれない。

 

当然、自分の容姿と抱えている品物を目立つためここで職質を掛けられる。事実、数人の警察官が自分を見ており、こちらへ向かってくるのだ。

 

代表候補生、もしくはドイツの軍人であることを明かせばよいかもしれないが、それを抜きにしても”品物”は見過ごすことは出来ない。

 

時刻は日が暮れており、普段は建築用機材が騒々しいこの場所は今は、今日の日程を終え不気味なほど静かだった。対角線上にあるアウトバーンの上から降り注ぐライトをバックにラウラはISを展開させた。

 

彼女は手馴れたように”品物”を粒子化しISのスロットに仕舞うのだった。その後、何事も無かったようにラウラは、駅へと足早に向かっていった。

 

だが、彼女は気がつかなかった。沈黙する建築機材、車両の影から”闇の住人”が覗いていたことに……

 

「ムドー様も随分とお遊びが過ぎるようね」

 

黒いスーツを纏った女性、ケイと無表情な 男性 コウイチの二人が何か含んだような笑みを浮かべていた。

 

嘲りというよりも、自分たちが使える主のあまりの遊び好きに…そして……

 

「私達が死んでも変わりはいくらでもある。ムドー様は遊戯の為なら如何なるものを犠牲にしても構わない」

 

独白のように語るケイに対し、コウイチは何も語らない。ただ真っ直ぐにケイを見つめるだけである。

 

「そうだろうなっ!!!!ワシに対し、面白いという理由だけで眷属にしおったからな!!!!!」

 

二人に怒鳴りように一人の少年が影から躍り出た。少年は黒髪の堀の深い顔立ちの外国人であった。だが、少年というには、彼の雰囲気はそれではなかった。

 

「貴方の計画したアレはどうですか?ガウス・コゥル中佐……」

 

ケイの視線は、ラウラが去っていた後に視線を向けていた。話題を変えたかったのだ。このガウスという男は、色々と厄介だったのだ。

 

その厄介さはケイが人間であった時から知っていた。”ドイツの狂人 ガウス コゥル”は、悪名として有名だった。

 

「ハハハハ。冗談がきついではないか、小娘。お前と違い、ワシには経験があり、知恵もあるのだ。それに口を出すのは何事か」

 

笑って応えているが、その目は怒りの色を浮かべていた。自分よりも立場が上でもないのに、同等の立場で居るとは何事かと怒っていた。

 

「あの計画は、若造共に潰されたが、今回のムドーには感謝をしておる。このワシに若さを与えてくれたのだからな」

 

そう、この少年……いや、ガウス・コゥルは齢 78の老人であった。ドイツ軍では勇猛果敢であり、それでいて、敵に対し容赦なく、邪魔な者はおろか、味方ですら勝利の為に犠牲にしてきたのだ。

 

「ムドーなど、切欠に過ぎん。ワシのこの才能があれば国家は、安泰であり、平和なのだ。それなのに、あの若造は、ワシを事故に見せかけて暗殺しようとしたわ!!」

 

怒りに取り付かれたようにガウスの体が変化していく。それは、ドイツのなまはげを思わせる”クランプス”の姿に酷似していた。

 

「別に貴方のことなど、どうでもいいわ。ムドー様は私達がどう動くかを期待してみている」

 

「だから、なんじゃと言うんじゃ!!!!ワシはな、あの物の怪を楽しませるためにこんな化け物の身に落としたのではない!!!!」

 

クランプスの醜悪な顔から少年の顔へと変化していく。まるで人間であった頃に執着するように……

 

「だからこそ、やるのじゃ!!!ワシの栄光!!!!”レッドキャップ”の復活じゃ!!!!」

 

部隊役者のようにガウスが両腕を掲げると同時に巨大な照明と共に数十人の兵隊達が整列を組んでいた。

 

ドイツの悪名高き”レッドキャップ”。それは、敵味方関係なく犠牲を強い、守るべきものは無く、必要であれば、自国の街にすら火を放った無法者達……

 

一人、高揚するガウスに対し、ケイの内心は冷ややかであった。

 

(……老害め…過去の栄行に寄りかかり、今の時代では害悪にしかならないか……)

 

それ故に現在の政府により粛清された。IS学園には、これまでにない災厄が降りかかるであろうとケイは内心、学園関係者に同情するのだったが、

 

その災厄の片棒を担いでいる自分がそう思うことがおこがましく思え、その考えを放棄するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本のとある場所……

 

重要保護プログラムにより、政府は篠ノ之束の関係者 父、母、妹はその存在を保護するために、離れ離れになり、あの日、篠ノ之束が失踪した時から家族が団欒を囲むことすらなかった。

 

そこは寂れた漁村であり道のいたるところに陸に揚げられた錆付いた漁船が佇み、疎らにある家屋は昭和を思わせるほど古いものであり、かつては賑わったであろう面影がいくつも散見していた。

 

一人の男が自宅より離れたコンビニエンスストアで酒のパックを購入していた。

 

「ありがとうございました」

 

「………………」

 

愛想よく笑う少し年のいったふくよかな女性を一度も見ることなく男 篠ノ之 柳韻は自動ドアの向こうへと出て行った。

 

篠ノ之 柳韻 

 

篠ノ之 束 篠ノ之 箒の父親であり、かつて一夏達が住んでいた神社では剣道をしており、さらにはそこでは神主をしていた。

 

今ではそれらも行うことなく、ただ怠惰に過ごし服装も少し小汚い白いシャツとプラスチックのサンダルであり、かつて天才である娘を人に紹介するために上等のスーツを着込んでいたが、今ではそれも手元には無い。

 

「これが……俺のやったことか……」

 

”女尊男卑”……篠ノ之 束が開発したIS”インフィニット・ストラトス”の力に魅入られた権力者により歪められた世界。

 

これまでの常識を打ち壊し、新たな常識を付きたてた。これは、喜ぶべきことであるが、柳韻にとっては自分の犯した大罪であった。

 

記録映像で見た”白騎士”による剣技は、どうみても自分が教えていた剣であり、剣士は自分が推していた優秀な彼女。

 

素晴らしい才能を持つ二人が何故、このようなことをしたのかと問いただしたかった。ただ、分かったのは、彼女達に”白騎士事件”を引き起こした下地を作ったのは、間違いなく自分であることだった。

 

素晴らしい才能を世の人達の為に役立て、それでいてその才能こそが娘を幸せにすると信じて、教育し、自分も努力をした。だが、それは独りよがりの理想の押し付けだったのだ。

 

そのことを思い知らされたのは、三年前に離れ離れになった妻からの手紙で……

 

”もうアナタの理想と束に振り回されるのに疲れました。アナタとは二度と会うことも無いでしょう。さようなら、柳韻さん”

 

政府関係によれば、彼女は既に別の戸籍を入手し、新たな人生を歩んでいるという。贈った結婚指輪も返され、今は何処においているかすら分からなくなってしまった。

 

だからこそ、酒を飲まずには居られなかった。かつては酒に溺れることだけはないと豪語していたが、今はどうだろうか?忌むべき堕落した自分……これが自分の現実だった。

 

「………篠ノ之 柳韻。随分と印象が変わっているな」

 

気がつくとそこには、政府関係者の一人である南雲夏彦が立っていた。上等のスーツを着ているが、ネクタイはせずその態度は慇懃無礼である。

 

「君か?俺には用は無いはずだ!!!」

 

また、何か嫌な物を伝えにきたのかと柳韻は彼を罵った。

 

「また何を言われるのが嫌だと?別にお前の気持などどうでもいい。アンタの身柄がどうしても必要なんだ。政府はな……」

 

「くっ!?!君たちは、それでも……」

 

「それでも人間かと?まあ、一応はそうだが、政府が一々お前達の我侭を聞き入れてやることが政治だと思っているなら、その考えを改めるんだな」

 

いつの間にか、柳韻の周りにはサングラスを付けた黒服たちが居り、彼の両腕を強引に掴みあげ、拘束した。

 

「まあ、博士がアンタに愛情を持っているかは知らんが、使えるのなら一応は無いよりはマシだからな」

 

睨む柳韻に対し、南雲夏彦は彼の気持を汲むことなく次の仕事に取り掛かるのだった……

 

「次は、奴の妻か……彼女に関しては、政府も同情してか気を使っているのだな」

 

資料には、”二度と篠ノ之の関係者には関わらない”と言っている為、彼女に関してはノータッチと結論を出す。

 

(……仮に引っ張り出したとしてもどうにもならんか。むしろ、厄介事が付きまといそうだ)

 

今回の件では、頭の痛くなる問題がいくつか出ているため余計なことはしない方が良いと南雲夏彦は判断するのだった。

 

ここでは、あまり関係の無いことであるが篠ノ之 母は再婚し子供を設けており、平凡で幸せな毎日を送っているとのことである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグトーナメント当日  IS学園

 

この日、多くの政府関係者、さらには企業のトップが此処IS学園を訪れていた。一流の設備を誇るこの学園は各国のそれらと比類、もしくはそれ以上の設備を誇る。

 

各国のVIPに失礼が無いように清掃業者等を入れ、設備に不備がないように徹底的にチェックが行われていた。

 

学園の生徒達もこの日の為に制服をクリーニング、もしくは新調している者さえいる。少しでも自分を良く見せるために…身嗜みはその人を判断する最大の要素でもある。

 

それぞれが緊張した面持ちでタッグトーナメントの開催を待っていた。その中の企業関係者の席に一人の男が座っていた。

 

黄金騎士 牙狼の称号を持つ男 冴島 鋼牙である。彼の表の顔は冴島グループの会長であり、こういう公の場には度々顔を見せている。

 

鋼牙の視線はかなり厳しい。この学園に現れるであろう”ムドー”が何処に潜んでいるのか、分からない為である。

 

事実、このIS学園は人工の島に建設され、周囲は海で覆われ交通機関は一本のモノレールのみである。さらに、警備体制が徹底されており、魔戒騎士ですら容易に踏み込むことが難しい程である。

 

ザルバ曰く”全く、大したところだぜ。まるで要塞じゃねえか”

 

仮にムドーが派手に動いたら、直にでも分かるのだ。何か騒ぎがあれば、当然のことながら警戒態勢に移行され、侵入者はあっという間にその姿を白日の下に晒されてしまう。

 

だが、これほどの警戒態勢を持ってしても油断は出来ない。ホラーは人に心の闇を付いてくる。その闇は今、至る所に存在しているのだから………

 

そんな鋼牙の思惑をよそに開会式の時間が訪れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園が誇る競技用アリーナ備え付けの巨大なエキビションモニターに開会の挨拶を急遽参加した篠ノ之 束が映し出された。

 

その姿に参加した各国の代表、大使たちは思わず唸った。

 

なんとしても自分たちの側に引き込みたい……それは各国の”力”を確立させるためにはどうしても必要なのである。あわよくば、世界をリードできる地位が欲しかった。

 

ISの登場により、既存の兵器はその地位を著しく低下させている。そのため、各国の力の均衡が不安定になっているのだ。

 

さらに彼女のすぐ傍には、唯一の男性のIS適正者 織斑一夏の姿もあった。篠ノ之博士の直属という事で各国は手を出してはならないという取り決め、さらには各国に通じた”番犬所”も関わっているため直接タッチすることはできない。

 

だが、それらの制約を無視してでも自分達の側に引き入れたいのだ。特にここ最近のフランス、ドイツのIS学園へのアプローチは積極的である。

 

エキビションに映る姉の姿を箒は複雑な表情で見ていた。学園に来ていることは知っていたが、結局話すことなく今日に至っている。

 

<この度はIS学園での挨拶は……そうですね。こういう機会は大学以来ですから、私から言えることは……

 

かつて、私達よりもずっと前に生きていた人達は”空にこそ希望の大地がある”と信じていました。その過程で、宇宙へ行こうと多くの人達が挑戦してきました。

 

ISはその宇宙へ行く為に生まれてきました。宇宙へ行くことは、単なる娯楽ではなく、現在の人類の状況が宇宙へ行かなければならない段階にまできています。

 

人口の増加、資源の枯渇、環境問題と私達の行わなければならない事はたくさんあります。これは、私達の現状ではなく、これから生まれる新しい世代の子供達に何を残せるか。

 

私達は真剣に取り組まなければなりません。こんな話を此処でしても今回のタッグトーナメントを行う学生の方には少し戸惑うかもしれませんが、今は目の前の事に集中してください。

 

あなた方のステージはここIS学園だけではなく、まだ先にもあります。いつか辿りつくそこを見据えて、このトーナメントを頑張ってください>

 

篠ノ之 束の宣言より、タッグトーナメントは開催され、学園側が外部から呼び寄せた楽団による演奏と同時にIS学園全体が一気に沸いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欧州で行われる”モンド・グロッソ”を思わせる盛り上がりと熱気に一夏は、かつて姉に招待された”第二回 モンド・グロッソ”の記憶が脳裏をかすめた。

 

(あの頃の私は、何もわからない世間知らずで、一人ではどうにもできないほど弱かった)

 

一夏にとっては、自分自身の出発点の一つでもある”出来事”。あの時の自分は、今は少しはマシになったが、男女どちらでもない身体と心に揺らされていた。

 

そんな自分の存在が姉を追い詰め、

 

”一夏に何をした!!!!!”

 

”ち、違うんだ……わ、私はただ……”

 

巨大な力を振るい、目の前の障害を打破し、敵対するものは容赦なく叩き潰す。はたして、それでよいのだろうか?

 

千冬は一夏を護るためなら敵対、傷つけるものを許さないだろう。だが、一夏はそのように護られることに対し……

 

(例え、姉が究極の力を得て、誰も寄せ付けないほどの力を持っても私は、そんな姉さんに護られたくはないだろう)

 

あの”出来事”と”白騎士事件”の真相は、自分の存在が彼女を追い詰めてしまったのは、一夏が責任を感じる必要性はないのだが、そう思わずにはいられないほど一夏は優しすぎた。

 

だからこそ、一夏は求めた。”力”ではなく、”強さ”を……

 

(もう二度と姉さんを追い詰めるようなことはしたくない。姉さんは、私の為に身を削ることをしなくていいように……)

 

想いとは裏腹に、世界で唯一の男性のIS適正者である自分に対し、IS委員会とやり取りをしていることに申し訳なさを感じつつも、姉が駆け抜けたであろう空に決意を固めて、大会に望であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、開会式には出ず、IS学園全体を覆っている魔道具”四聖”の付近に一人の生徒が佇んでいた。ラウラ・ボーデヴィッヒである。

 

「まったく、どいつもこいつも浮かれおって……あんな奴らの為に力を振るわねばならないのか?どこもかしこも……これでは……」

 

赤い目はこれまでにない程の苛立ちと怒りの色が存在していた。理由は、言うまでも無く彼女の思い描く”IS”と”力の象徴である教官”がこのような場所に居ることなど許せなかったからだ。

 

ドイツ軍人として、様々な戦闘技術を叩き込まれ、それ相応の覚悟と心構えも身に着けたはずだったが、ある時、ISの適正を上げる為に行った実験により、全てを失い、自分の存在意義を失ってしまった。

 

それを助けてくれたのが千冬だった。彼女の力に希望を見出し、また、落ちこぼれから此処まで導いてくれたことに恩を感じていた。故に彼女に近づきたかった。特別になりたかった……

 

”織斑 一夏”

 

千冬の唯一の肉親であり、特別な存在。自分が、ラウラ・ボーデヴィッヒが欲してやまない居場所……

 

誰も彼もが自分を見捨てて、暗い闇の中に突き落とされた自分を助けてくれたあの人の特別になりたい。自分だけを見て欲しい。自分と一緒に来て欲しい、傍に居てほしい。

 

「だからこそ、私は織斑一夏を認めない。必ずこの手で……教官の目を覚まさせてやる。貴方の居るべき場所は、私と共に戦場を……」

 

戦う者である千冬は、その身を削って戦う姿こそ美しい。他者を圧倒し、徹底的に叩き潰す。それこそが力であり、最強なのだ。

 

自分もまた、戦うために生み出された”デザイン・ベイビー”故にそれ以外の存在理由を知らなかった……

 

自分の苛立ちを発散すべく、ラウラは粒子格納していた”刀”を取り出し、居合いで魔道具”四聖”を叩ききった。

 

「フン、妙な教師が居たが、こんな物を学園に置くなど、何を考えているのだ」

 

背を向けてラウラは、アリーナへと足を進めた。彼女は気がつかなかった。IS学園を覆っていた結界が崩れ、学園の対岸の都市の高層ビルからそれを察していた存在に……

 

IS学園側の魔戒関係者もまた、何者かに結界が破られたことを察していた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムドー様の読みは正しかったようね。計算しつくされた計画よりもその時々の勢いに任せたほうが、こちらの良いように動くこともあるなんて」

 

スーツ姿の女性 ケイは一般の人間では感知できない”結界”が綻んでいるのを見ていた。

 

その様子にガウスは、何故か誇らしげに笑みを浮かべていた。

 

「ハハハ、”使えない道具”も使いようじゃな」

 

ガウスの言葉にケイは訝しげな視線を寄せた。だが、その理由を直に察した。一般に知られているガウスの経歴を知っているのならば、彼の態度は納得できるのだ。

 

(そういえば、”ヴォーダン・オージェ”の計画発案者は彼だったわね)

 

愉快そうに傍で笑っているガウスを無視してか、ケイはそのまま背を向けて、待たせてあるコウイチの元へと向かうのだった。

 

「……使えない道具ね。私も貴方もムドー様を楽しませる玩具よ。そして遊び場は、IS学園」

 

意気揚々といく見た目少年の老人の若作りに付き合いに辟易しながら、ケイはムドーからの指示……いや、言葉が木霊した。

 

 

 

 

 

 

”お前達の好きにすれば良い。その為に力を与えたのだからな”

 

 

 

 

 

 

ムドーは、自ら行動を起こすことはない。ただ”楽しむ”だけである。故に眷属は自らの為に動かすことはない……

 

ただその行く末を楽しむだけであった……。どのような結末になろうとも自分が”人間”如きに負けるはずなどないのだ……

 

仮に挑むならば、それは愚の骨頂である。ムドーの力は、かの使徒ホラーと比類するのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉持技研が襲撃される前のドイツのとある病室に一人の老人が眠っていた。彼はの名は、ガウス コゥル。ドイツの過去の英雄であった。

 

病室には生命維持装置があり、規則的な機械音と心音図が表示されていく。白濁とした瞳の中に影が映りこむ……

 

”お主が、残虐なる知将 ガウスか?今は、見るに耐えない老いぼれか”

 

”なんじゃ、お前は?ワシを愚弄するつもりか?このドイツの英雄を!!!”

 

”フフフフフ、人間の分際でよくも大きな口が叩ける物だな?このムドーに、だが、お前が英雄だった頃違い、世の中は大きく変わっているのだぞ。当然のことながら、戦場のあり方もな”

 

”くっ、戦場を知らぬ、若造がワシに……英雄であるワシに!!!”

 

ムドーと名乗る影は、高笑いと共にガウスの精神に語り掛ける。さらに高笑いが響く。

 

”ならば、この若造のムドーに戦場を見せてみろ?我を楽しませてくれるのならば、再び戦場を駆け抜けることの出来る若さと力と駒を与えてやろう”

 

老いぼれ、傷ついたガウスは屈辱を感じながらもこの契約を交わしたのだった。全ては、色あせてしまった過去の栄光を再び取り戻すために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の感覚では表現するのが難しい人が作り出した空間の中にそれは居た。ムドーは、興味深そうにその空間の中を泳いでいた。

 

能で使われる”老人”の面の向こうにある赤い目を爛々と輝かせ……

 

”ハハハハハハハ、この小娘はそういう事だったのか?人の業、争いを望むそれはとうとう此処まできたか!!!!”

 

両腕を掲げて、ムドーは大きく笑った。それは愉快そうに、これ以上にない程に笑った。

 

”人の世の業。それを見届けさせ貰おうか?下僕達がこの愉快な祭りを興ざめにしないことだけを祈るとするか”

 

ムドーの脳裏に一つの光景が浮かんだ。それは、一年生主体で行われるトーナメントの第一試合……

 

 

 

   篠ノ之 箒      ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

           対   

 

   更 識 簪      シャルロット デュノア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中々、話が進まないというか筆が中々進まないのが現状です。
あと、最近引っ越しまして漸く、落ち着いてきましたのでちょくちょく投稿を再開したいと思います。

次回は、ISでの戦闘がメインになります。
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