I S×GARO   作:navaho

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第伍話「クラス代表決定戦」

 

 

セシリア・オルコット

織斑一夏。この世界で唯一のISを操縦できる男性。女性にのみ許された”力”を扱えるとは、不愉快ですわ。

それに男なんて、力に媚びるだけの卑しい生き物。このISが出る前は、男尊女卑で、腕力にものを言わせていたようですが、今やISにひれ伏している。

ISを扱える女性の中でも上の立場にある専用機持ちであるワタクシに対して、怯みもしない。

クラス代表には、ならないがワタクシに勝つつもりでいるあの生意気な男には、制裁が必要ですわ。このブルーティアーズで………

男なんて、所詮はワタクシの前にひれ伏すしかないんですわ………あの人のように……

威厳も誇りも無かったあの人のように………

”××××××?セシリア”

あの人が昔、ワタクシに何かを言っていたようですが、そんなこと、忘れましたわ。覚えていても、ワタクシにとって、どうでもいいことですから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス代表戦が行われる三日目の日もまだ上がらぬ早朝、一夏は学園から少し離れた場所で魔戒弓を振るっていた。

日課の鍛錬である。魔戒弓で大きく弧を描き、時には大きく振りかぶる。

「一夏…せいが出るな。あの生意気な小娘には、後れを取るなよ」

ヴリルが一夏に生意気な小娘こと、セシリア・オルコットとの戦いについて言う。

「言われるまでもないよ、ヴリル。オルコットの”陰我”は、この私が必ず断ち切るさ」

「あぁ~~、お前もとんだお人よしだな。あんな小娘のことにまで気を配ることなんざ……」

「ヴリル。私はただ、魔戒騎士としての務めを果たす。ここに”陰我”を生む要素があれば、それを封印、消滅させるのが私の使命だ」

一夏は、鍛錬を終わらせ、寮へと戻っていった。

「まったく、お前って奴は本当に生真面目な奴だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

第三アリーナは、これまでにない熱狂に包まれていた。

理由は言うまでも無く、世界初の男性のIS操縦者 織斑一夏の姿を見ようと言うこと。その一夏とイギリスの代表候補生セシリア・オルコットとの試合を見るためである。

ピットに向かう一夏は、IS学園の制服、一夏のIS用のスーツは、ダイバースーツのようなものである。

身体のラインがそのまま出ており、首から下で出ている肌は無い。胸のところにはプレートと小さな機器のようなものがある。

プレートの内側には、ヴリルを収納するスペースが存在する。

「束さんには感謝だな。しかし、顔を出せないのは不満だ」

視界が見えないわけではないが、本人は顔を出してISの乗り心地を体験したいらしい。

「ヴリル。お前は、何をしたいんだ?」

「何って、ここにいる内は勉強だろう。これも勉強だな」

もしかしたら、自分以上にこの学園生活を楽しんでいるのではないかと思う一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第三アリーナ・Aピットに着いた一夏を迎えたのは、姉の千冬、真耶、箒の三人であった。

「着たか、織斑。まだ確認はしていなかったが、お前の専用機を見せてもらうぞ」

教師として千冬は、一夏にISを展開するように促す。

「織斑君って、スタイルが良いんですね」

真耶がこの場で関係の無いことを言う。箒は、一夏の姿を見て顔を赤くして視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

戦いの前に一夏に激を飛ばしたかったのだが………できなかった。

現れたのは、身体のラインにピッタリとしたスーツを着た一夏だった。一夏に私は見惚れてしまった。

華奢だとは思っていたが、奴の身体は”男”のものではなかった。完璧な”女”のラインだったのだ。

肩幅は私よりはあるが、長身なために目立っておらず、ウエストも括れている。私よりも細いかもしれん……

あれだけの”力”がこの身体の何処にあるのだ。あの細腕に……あの華奢な身体に………

私は、目の前の一夏が眩しくて顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、Bピットではセシリアが自身のIS ブルー・ティアーズを展開しアリーナ上空に現れた。

彼女が展開したISは、青を基調としたドレスのようなデザインであり、彼女自身の美しさを全面的に押し出すものだった。

ISは女性のみが動かすことができるため、このように操縦者の美しさを押し出す要素が強いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

ワタクシの専用機 ブルー・ティアーズ。我が祖国イギリスが開発した最新鋭の第三世代のIS。

世界の中でも僅かしか、開発の目処が立っていないこの第三世代のISであれば、負けるはずがありませんわ。

あの男のISは、どういうものかは情報が入りませんでしたが、篠乃之博士の妹と剣道をして、それに勝ったと言う噂ぐらい。

おそらくは、接近戦を挑んでくるでしょう。ですが、このブルー・ティアーズは遠距離射撃型。

近づくことができなければ、何もせずに落とせますわ。

ワタクシに口答えしたことを後悔させてあげますわ。それに誰が、代表に相応しい実力を持つかを分からせてあげますわっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

セシリアのISは、一組のクラスメイト達の姿を捉えていた。

彼女らは自分にクラス代表になってほしくないようだが、ここで”力”を示せば、認めざる得ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

Aピット

「オルコットは既に出たか…私も行く。蒼牙っ!!!」

左手のブレスレットを掲げると同時に、待機状態にあった蒼牙が展開する。

その姿は、蒼を基調とした鎧を全身に纏い、背中には、六枚の羽がマントのような状態で待機している。顔の上半分を覆うのは狼を模したバイザー。

誰もが目を引くのは、バイザーの後部に取り付けられた赤い長髪を思わせる”エネルギーアキュメーター”

赤の鬣を持つ蒼い狼。その姿に、千冬は少しだけ頬を引きつらせた

「………束の奴め。私がそのデザインが嫌いなことを知ってのことだろうな」

蒼牙の姿は、一夏が魔戒騎士として鎧を召還し纏った姿に酷似しているのだ。違いは鬣を持っているぐらいである。

"さすがに、いっくんの鎧の造詣は束さんには、まねできないね”

とある男に完璧な造詣と絶賛された”魔戒騎士の鎧”。束もまた、騎士達の鎧の造詣を絶賛している。

「……箒、行ってくる」

一夏は、自分に視線を向ける箒に声を掛ける。

「あ、ああ。必ず、勝って来い」

バイザーのために、一夏の表情は隠れているが口元が笑っているのを箒は見た。前を見据えると同時に、背中の左右合わせて六枚の羽を展開して、ピットを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットから飛び出した一夏は、アリーナの地表に着陸し前方に浮かぶISを展開したセシリアを見上げる。蒼と青がそれぞれ対峙する。

「最後のチャンスですわ」

優越感たっぷりに一夏を見下ろし、

「そう、このまま戦えば、ワタクシの勝利は自明の理。今ここで謝ると言うのでしたら、許して差し上げないこともなくってよ」

対する一夏は、相手がいつでも戦闘に入れる体勢になっていることを察していた。

「初めから私をISでいたぶるつもりの人間がその口を言うか。何処までも耳障りな口だな、オルコット」

「相変わらずの減らず口ですわね。あなたには、教育、いえ、仕置きが本当に必要ですわっ!!!!」

一夏の態度に青筋を浮かべながら、セシリアは射撃態勢に入り、一夏にロックオンを定めた。

「このまま。お別れですわっ!!!」

大型ライフル スターライト MKⅢより、一夏目掛けて高出力のビームを放った。

一直線に向かってくるビームを見据える一夏は、

「………来い、”雪片”」

右手にブレードを展開し、そのまま構え、踏み込むようにして迫ってきたビームを縦一文字で切り裂いた。

切り裂かれたビームは左右にそれ、そのままアリーナの地表で爆発を起こした。

後頭部の赤い鬣を揺らしながら、一夏はゆっくりと歩みを進め、雪片の切っ先をセシリアに向けた。

「……オルコット。来るなら、本気で来るんだ。私は、慢心して倒されるほど甘くは無いぞ」

「そうだぞ、小娘。一夏と蒼牙を舐めんなよ。生意気な口は、今から塞いでやる。一夏、ぶちのめしてやれ」

パイロットスーツ越しからヴリルが声を掛ける。ちなみにヴリルの声は、セシリアには聞こえていない。

「す、少しはやるようですわね。ですが、これならっ!!!!!!」

高出力ビームを切り裂かれるなど予想もしていなかったのか、セシリアは半ば驚いていた。

彼女は、自身のIS ブルー・ティアーズ最大の武器である 第三世代用 兵器 BT”ブルー・ティアーズ”を展開した。

「踊りなさいっ!!ワタクシ、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲でっ!!!!」

ビット型自立稼動兵器 BT”ブルー・ティアーズ”

機体の名前の由来にもなった4機のピットは、一夏に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットでは、蒼牙が展開した武器を見て千冬、真耶は驚いていた。

「せ、先輩。あれって、雪片ですよね」

「……ああ、束の奴め。一夏も一夏だ……私に対する当て付けか?二人して……」

言葉こそは、憎まれ口だったが口調は穏やかだった。まさか、ここで自分が愛用していた武器を家族が使うとは予想をしていなかった。

千冬も知っているが、一夏は魔戒弓という剣と弓の機能が一緒になった武器を使う。故にISでの戦闘もそれに準ずる物と考えていた。

(魔戒騎士ならば、ISが相手でも遅れは取らんと思っていたが、一夏を見る限り、その通りか……)

仮に一夏がISを展開していなくても、ISと互角以上に戦えたのではと千冬は思う。

弟である一夏が強いのは、姉としては嬉しいが、その強さがどのようにして得られたかを思うと素直には喜べない。

本来ならば、ISにも関わらせたくなかったのだ。それどころか、一夏はISが抱える闇以上に深い闇の世界に身を置いている。

だが千冬も今は、ISで一夏が如何にしてセシリアに勝利するかが気になっていた。そして、一夏がセシリアに何を見ているのかを……

(凄い、これなら勝てるぞっ!!一夏っ!!!)

箒は、自身の想像を大きく越える強さを持った一夏に対して驚きと同時に憧れを抱いた。

(私もいつかは、一夏のように強くなりたい)

 

 

 

 

 

 

 

 

展開されたブルー・ティアーズは、一夏を取り囲み、一斉にレーザーを放つ。

放たれたレーザーを上空へ飛び上がることで回避し、すぐに自身の兵装である”弓”を出現させ、ビーム状の矢をセシリアめがけて放つ。

「くっ!!?!!」

ブルー・ティアーズの操作に思考を取られていたためか、あるいは、一夏の異常なまでの早い反撃に対して虚を付かれた。

急いで回避するものの、矢はそのまま肩の部分に当たり、ダメージを受けてしまった。

焦ったセシリアに対して、一夏は冷静そのもの。セシリアが回避行動した時に、足元に見えるブルー・ティアーズを一瞥した。

ブルー・ティアーズは停止している。だが、すぐに一夏を追跡する。

「なるほどな、こいつらと本体は同時には動けないと言うわけか!!!」

ヴリルが”わかったぞ”と言わんばかりに叫んだ。一夏は、ヴリルに言われるまでも無く察していたが………

「言われるまでもない。このまま、攻めさせて貰う」

一夏は、”弓”を収納し、雪片に切り替えて足元から頭上に現れた四機のブルー・ティアーズを見た。

空間のあらゆる場所から放たれるレーザーを回避するのは、並大抵のことではないが、一夏にとっては造作も無かった。

攻撃をあえて撃たせて、撃った後にできる隙を狙い、手近にいるブルー・ティアーズを薙ぎ払うかのように両断し破壊した。

「……まずは一機」

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

な、なんですの!?!!この男はっ!!!ワタクシのブルー・ティアーズを簡単に破壊するなんて……

こんなこと、今までにもなかったですわ。イギリスでの訓練では、ブルー・ティアーズの前ではどんなものでも数分も持たずに倒されたと言うのに……

本当に、ISを数時間ほど展開させただけですの?軽く見ても、国家代表候補生に匹敵する”実力”ですわ。

ですが、これ以上やらせませんわっ!!!!!男に、負けるなんて、これ以上の恥はありませんわっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアは、残った三機のブルー・ティアーズを戻しライフルによる射撃に切り替えた。一夏とセシリアの距離はかなり離れている。

これを利用して遠距離から狙おうというものである。照準を一夏にあわせ、引き金を引く。フルオートにより連続でビームが発射される。

発射されたビームに対して、一夏は素早く回避し、一夏も遠距離用の”弓”に切り替え、自分を狙っているライフルの銃口目掛けてエネルギー状の矢を放った。

放たれた矢は一直線にセシリアの持つライフルの銃口を傷つけ、発射寸前だったエネルギーを暴発させ、破壊した。

破壊されたライフルは、セシリアの手から離れアリーナの地表へ落下する。

「っ!!?!」

歯を噛み締め、セシリアは三機のブルー・ティアーズを一夏に再び差し向ける。

迫ってくるブルー・ティアーズは、一夏による矢を警戒し、一直線には行かずに上下左右に展開するが、一夏はその中の一機に狙いを定めて矢を放つ。

ここで一機に気を取られた隙に、もう一機で攻撃するのがブルー・ティアーズの基本戦術であるが、一夏はそれに嵌ることなく自身を攻撃するブルー・ティアーズに対して、雪片で切り伏せた。

同じく近くに展開していた残りのブルー・ティアーズを立て続けに、切り捨てた。

「お前は、ISの”力”に過信しすぎだ。その”力”が全てではない」

一夏は、ISの戦闘能力の高さは理解しているが、これを傘にして他を押さえつけることに対して反感を持っている。

女尊男卑に対しての”陰我”。力による支配、力のみが強さではない。”力”のみが、全てを思い通りにできるわけが無い。

「セシリア・オルコット。お前の”陰我”、この私がここで断ち切るっ!!!」

狼を模したバイザー越しに一夏は、ただセシリアのみを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイザー越しに感じる強い意志をセシリアは、確かに感じていた。四機のブルーティアーズはすべて破壊され、さらにはライフルもない。

近接戦闘の兵装はあるのだが、一夏相手では勝ち目は無い。バイザーで確認することはできないが、見入ってしまうほどの強い瞳をしているのだろう。

あの人とは違う。記憶の中のある人物が持っていなかったものを持っている一夏にセシリアは、魅せられていた。

「……一か八かは、分かりませんが、あの方には一矢を報いたいですわ」

一夏は、決定打を打つために必ず接近してくる。その時が唯一のチャンスだ。ほとんど使うことは無かったが、近接用兵装であるショートブレードを展開した。

だが、セシリアは一夏を待つつもりは無かった。そして、自身が嫌悪する男性に対する心境もまた変わっていた。

”××××だい?セシリア”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

オルコットが近接武装を展開した。主力である武器がやられたからだろうか?いや、違う。先ほどの傲慢な雰囲気は無い。

自分の”間違い”に気がついたように見える。何か大切なことを思い出したことで……

仕掛けるつもりだ。蒼牙もブルー・ティアーズの背部分にあるミサイルを確認している。

気になることがあったので、蒼牙にサーチをさせたら確認を取ることができた。

仕掛けるつもりだろう。なら、私もそれに応えよう。

「一夏、”瞬時加速”を使うつもりか?」

「ああ、そのつもりだ」

「弓でやったほうが早いんじゃねえのか?」

「いや、雪片でやる。オルコットも覚悟を決めて、私に一矢を報いる気だ」

「それに応えるつもりか。いいね、さすがは”男の子”」

「……うるさい。無駄口を叩くな」

 

 

 

 

 

 

 

セシリアは、ショートブレードを構え、一夏に向かっていく。

この展開にはアリーナ全体が驚いた。遠距離を基本とするセシリアがまさか接近戦を挑んでくるとは……

高速で接近してくるセシリアに対し、一夏も応えるように間合いを詰めるべく動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

あの方も、ワタクシに応えてくれましたわ。ワタクシがあなたに一矢を報いる可能性があるならば、この残されたブルー・ティアーズのみですわっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

蒼と青が互いに向かっていき、激突する。振りかぶるブレードに対して、セシリアは

「掛かりましたわねっ!!!!!ブルー・ティアーズは四機だけではなくってよっ!!!!!」

背部分に取り付けられた実弾タイプのブルーティアーズを展開し、攻撃を加える。

一夏は怯むことなく、そのまま”瞬時加速”を行いミサイル二機を雪片で両断し、そのまま勢いを落とすことなくセシリアを切り付けた。

そのエネルギーは凄まじく、まさに一撃必殺の威力でセシリアのエネルギーを0にした。

「試合終了 勝者っ!!!織斑一夏っ!!!!!」

アリーナに勝利者の名を告げるアナウンスが響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

Aピット

真耶は、先ほどの試合内容を見て驚いていた。

「凄いです。あの一瞬で……織斑君は、本当にISを一ヶ月動かしていただけなんですか?」

「ああ、ISの起動時間に関してはオルコットに及ばないが、あいつはそれ以上に、私達の”想像を絶するモノ”を相手取っていた。他のブルー・ティアーズについても予想ができていたんだろう」

「なんですか?その想像を絶するものって?」

「山田君が気にすることは無い。アレは、ここには絶対に現れることはないのだから……」

その時の千冬は、何かに怯えているように見えた。それは、絶対に遭遇したくない何かに対して………

(……そうだ、ホラーはここには、現れない。現れてはならない)

一夏が関わっている闇については、悩むところだが、今は、クラス代表の事をどうするかが千冬の悩みだった。

「そんなことよりも、一夏はクラス代表を勝ってもやらんと言っていた。どうしようか、山田先生」

「ええっ、やっぱりそうですかっ!?!でも、やっぱり織斑君が代表になるべきじゃ……」

真耶個人としては、一夏に対する評価は高い。人格、戦闘能力共にクラスの代表としては十分だ。

「勝ってクラス代表になることは、オルコットのように力で押さえつけてしまうことと同じと一夏は言っている。あいつは、首を縦には振らんな」

「ええっ、じゃあ、誰がクラス代表をやるんですか?他のクラスは既に決まっているんですよ」

涙目の真耶に対し、千冬はあの一度決めたら梃子でも動くことの無い頑固者を思うと頭が痛くなった。

「ああ……一夏のことだから、何か考えがあると思うが……あいつの考えは私の想像の斜め横を行くからな」

ピットのディスプレイには、ブルー・ティアーズを解除し、気絶したセシリアを抱える蒼牙を展開している一夏の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、お前が勝つって信じていたぜ」

「…言ったろ、遅れを取るつもりは無いって…」

バイザーをつけている為、一夏の表情は隠れているので良く分からない。

「そこは、当然勝つと決まっているといえよ」

ヴリルもまた、顔を出していないので、外からは表情が分からない。

「ISで戦った感じはどうだ?」

「ああ、鎧とは違い少し頼りないけど……ソウルメタルと違い、このままでも人に触れられる」

「ああ、そうだな。鎧と違って、そこはいいところだ」

一夏の腕には、ISが解除されたセシリアの姿があった。ソウルメタルで作られた”鎧”は、特殊な性質ゆえに魔戒騎士以外の者が触れることはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aピットに戻った一夏は、待機していた医療班にセシリアを託し自身もまた、この場を後にすべく立ち去ろうと足を進めるが、

「織斑君……クラス代表のことなんですが……」

真耶が戸惑いながら一夏に声を掛ける。

「山田先生。勝ってもクラス代表になるつもりはないと言ったはずですが……」

「ですが、クラス代表はやっぱり織斑君がなるべきだと……」

真耶は、クラス代表になってくれないかと一夏に問うが、一夏からの返事は”ならない”。

「おいっ、一夏。お前は、国家代表候補生に勝ったんだぞ。これは、凄いことだ。誰もが認めざるえないことだぞ」

箒が、真耶に加勢する形で一夏に言葉を掛ける。彼女もまた、一夏のクラス代表就任を望んでいるようだ。

クラスメイトのほとんどが物珍しさから一夏を推したようだが、一夏の実力は本物である。これは事実なのだ。

千冬は、言葉を掛けないが本心では、クラス代表に就いてほしいと願っている。だが……

「オルコットを”力”でねじ伏せて、代表になったところで、彼女はこれからどうなる?」

一夏の意外な言葉に一同は、目を丸くした。

「一夏、オルコットが負けたのは、単にお前よりも弱かっただけだろう?これは、オルコットが望んだことだから、それからのことは”自業自得”ではないか…」

箒は、セシリアが自ら一夏に火の粉を振りかけて、それで返り討ちになったことは自業自得と言う。確かにその通りではある。

「織斑君の言いたいことは、分かりますが。オルコットさんは、少し行き過ぎた考えを持っていましたから、これを機に反省をしてくれれば……」

真耶もこれはセシリアにとっていい薬になったのではと思っている。

「たとえ、振りかかった火の粉を払うためでも、私は自分の言ったことは絶対に曲げるつもりは無い。それに……」

一夏は一呼吸入れて、三人を見据えた。

「オルコットをあのままにしていいわけが無い。確かに”力”を誇示して、それを強要した。本人の自業自得とはいえ、これからの周りは彼女をどうみるか、分からないわけではないだろう」

自らを実力者と称していたが、いざ、勝負をしてみれば圧倒的な大差で敗北したものに、周りは何を見るだろうか?

クラスの中には、セシリアに反感を持っていたものはそれなりに居た。あのままでは、確実に孤立してしまう。

「私は、オルコットの傲慢を叩きたかっただけで、彼女を貶めるために戦ったわけではない」

その言葉に二人は、それなら尚更、一夏が就くべきではと思う。だが、一夏はクラス代表にならない。それを曲げるつもりは無いのだ。

「私は、言った。オルコットの陰我を断ち切ると……」

一夏は、言葉を切りその場を後にするように立ち去った。これから、一夏が何をするのだろうか?

それが分かっているのは、姉である千冬 ただ一人。

(……一夏、お前は魔戒騎士として”陰我”を許すことはできないのだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室でセシリアは眠っていた。不意に、気配を感じ身体を起こすと入り口のところに腕組をし、壁に寄りかかっている一夏の姿があった。

「あ、あなたはっ!?!お、織斑さん、ど、どうしてここへ?」

目が覚めた途端に、出くわした意外な人物に対してセシリアは声を上げて驚いた。

「そうだね、話をしにきたと言っておくよ。セシリア・オルコットさん」

一夏の言葉にセシリアは、気が楽になるのを感じた。自分が罵倒し、オルコットと不快感を露にしていた人物が態々 さん を付けてくれたのだ。

「そ、そうですの。あ、あなたに、まず、謝らなければなりませんわ。申し訳ありませんでしたっ!!!!」

セシリアは頭を下げて一夏に謝罪を行う。

「いいよ、別に気にしては居ない。確かに、女が偉いと言われる中では、私の態度は生意気かもしれないが、それなりに意地があるから」

一夏は、それだけで十分だと言わんばかりに笑いかけた。これに対して、セシリアは自分が思っている以上に気を重くしないで良いと判断した。

「織斑さんは、とてもユニークなんですね。そうやって、ワタクシに言葉を掛けてくれるなんて……」

「ブラックジョークが売りのイギリスでも通用するかな?」

「ふふふ。ええ、織斑さんなら十分やっていけますわ」

三日前は険悪ともいえる関係だったが、今は和やかな雰囲気であった。対立の果てにISで試合をしていたもの同士とは思えないほどの……

「話だけど、私に、いや男性に対して、何故、オルコットさんは、あそこまで”嫌悪”を顕に?」

「ええ、話を聞いてくれますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

話を聞くと、彼女がイギリスの国家代表候補生になる数年前に、両親が列車事故で他界したという。

オルコットさんの母は女尊男卑以前より、たくさんの会社を経営した成功者であり、由緒正しき名門の貴族の出だった。

父親は婿養子として、結婚をしたが、由緒正しき名門貴族である妻に対する夫は人の顔色ばかり伺っており、幼い彼女からは情けない男として見られていた。

家庭でもほぼ別居に近い形でほとんど顔を合わすことがなく、事故の日に限って一緒だったという。

彼女の元には、莫大な財産が残された。それを狙う親戚を称するハイエナのような人間だけが群がってきたのだ。

いわゆる金の亡者だ。古今東西、金は人間を狂わす麻薬と言われる。当然、金銭に関する”陰我”も存在している。

前にも相手をしたことがあるが、気持ちの良いものではなかった。そんな人間に付きまとわれると気が立ち、そんな男ばかりでは男性に”嫌悪”を持つのはある意味当然だ。

”女尊男卑”に関する”陰我”もそうだが、金銭に関する”陰我”は、魔戒騎士の中でも一、二を争う忌々しいものだ。

親が残してくれた遺産を護るために、必死で勉強をし、その過程でISの適正値が高かったことで代表候補生としての訓練を経て、専用機 ブルー・ティアーズを任されるに至った。

だが、少しだけ気になることがある。幼少期から、男性に対しての不信感を持つ彼女が、男性である私と、仮に情けない男と正反対な存在であってもこのように和やかになれるだろうか?

知り合いに私と同じ”体質”の知り合いが居るが、その知り合いは、男女共に嫌悪しており、仮に親切なものと接しても壁を作って拒絶してしまう。

父親が原因らしいが、それだけではないはずだろう。ISによる”女尊男卑”も関わっているかもしれない。

「オルコットさん。本当に父親はそこまで情けない人物だったの?」

「そうですわ。あの人は、いつも母の顔を伺ってばかりでしたわ」

父親の事については、はき捨てるように述べる。

「今のオルコットさんを見る限り、父親もオルコットさんが思うほど情けない人ではなかったと思うよ」

「ど、どういうことですかっ?今のワタクシとあの人が、どう関係してくると?」

「うん。私は”女尊男卑”に関する厄介ごとは何度も見たけど、徹底した考えの者は、何が何でも男を認めようとはしなかった」

脳裏に、それに関する”陰我”から出現したホラーの姿が浮かぶ。憑依された女は、自業自得で災難に遭い、それを男のせいにしていた。

「オルコットさんは、試合に負けたけど、私が勝ったのは、まぐれだと思う?」

「そ、そんなはずはありませんわっ!!!!織斑さんの力は本物ですっ!!!!」

「今の世の中だと、まぐれで勝ったとか言われるんだけど、オルコットさんは私をこうして認めている」

「それが、何故、あの人と?」

「オルコットさんは、何か忘れていることがあるんじゃないか?父親のことで……」

師の言葉が浮かぶ。あの言葉は、人の悲しい性質を言っていた。

”悲しいかな、人は嫌なことも忘れるが、愛されていたことも忘れちまうんだ”

「ワタクシが忘れていること?」

「オルコットさんは、父親の負の面ばかりが目立っていたけれど、私とこうして話ができているのは、負の面だけではない所もあったはずだ」

私の言葉に、オルコットさんは何かをふと思い出したように目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

母は、強い人でした。厳しくも温かい人でした。それは、過去形。もう何年も前に事故で父と共になくなってしまったのですから……

思えば、母と違い、父は情けない人でした。

婿養子で母の顔色を伺ってばかりで、幼いながら思っていました。”情けない男とは、結婚しない”と……

でも……本当に情けない人だったでしょうか?

”どうしたんだい?セシリア”

思い出してみれば、人の良さそうで腰の低い人でしたが、ワタクシが母に叱られ、庭の隅で泣いていた時、真っ先に声を掛けてくれたのはこの人だったではありませんか………

ワタクシが落ち着くまで、母との間を取り持ってくれたではありませんか…

鬱陶しがっていた母でしたが、なんだかんだ言って父を思っていたではないですか…

織斑さん。今、あなたの試合中の言葉の意味が理解できましたわ。

”力”が全てではない。あなたは、ワタクシの傲慢を指摘していたのですね。

ワタクシは、イギリスの代表候補生。最新鋭の第三世代 IS ブルー・ティアーズの専属操縦者。故にこの力に溺れていたのですね。

それなのに、ワタクシは……、ISという絶対の”力”に溺れ、それを他に強要した。溺れていたが故に優しかった父を貶め、忘れてしまった。

だからこそ、あなたはワタクシに不快感を抱き、他の方々もワタクシをクラス代表に推さなかったのが分かります。

思えば”女尊男卑”の考えなど、あまりに行き過ぎていて、間違った考えではありませんか。

かつての”男尊女卑”は、男の方々がその腕力にものを言わせていましたが、それをISの力を得たからと言ってワタクシ達が行っていいというわけではありませんわ。

「やっぱり、ただの情けない人ではなかったんだね」

「ええ、ワタクシは親不孝者ですわ。優しかった父親を忘れてしまうなんて…それどころか、貶めてしまって……」

「優しかった父親なら、今、オルコットさんが思い出してくれただけで満足してくれているんじゃないかな」

「そうです……織斑さん。よろしければ、ワタクシをセシリアと呼んでくれませんか?ワタクシも一夏さんと呼ばせていただいても」

「構わないよ、セシリア」

「ありがとうございます。一夏さん」

 

 

 

 

その後、間もなくして一夏は医務室を後にした。残ったセシリアは、一夏の事を考えていた。

(織斑一夏。あなたは、まるで”騎士”ですわ)

日本で言うと侍が当てはまりそうだが、セシリアが一夏に抱いたイメージは”騎士”だった。

誰かが間違いを犯そうものなら身を持って、その人のために剣すら握ると言う御伽噺にある存在。

故にもっと知りたい。あなたの事を……そして、あなたに近づきたい…………

 

 

 

 

 

 

 

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