I S×GARO   作:navaho

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第漆話「凰鈴音」

 

二日前

とある町の中華料理店は、久々に賑わっていた。営業時間は既に過ぎているのだが、今、数週間ぶりに”家族”が帰ってきたのだ。

「ただいまっ!!!お父さんっ!!!」

「おおっ、鈴っ!!!よく帰ってきたっ!!!!」

久々の娘の帰りに父は、思いっきりその身体を抱きしめた。

「鈴。私からも言わせて、お帰りなさい」

いつの間にか、母もまた娘の姿を笑顔で迎えていた。

「うんっ!!!お母さん。ただいまっ!!!!」

一家団欒の雰囲気で鈴は、数週間ぶりに父と母の料理を楽しんだ。

「鈴、やっぱり世の中は大変か?」

「うん、それなりにね。だけど、アタシは一人じゃないから……烈花さんにシグト、それに”この子達”も居るしね」

鈴の言葉に合わせるように肩の上に宙に浮かぶ魚が現れた。魔戒魚と呼ばれる生物である。

魔戒魚は、部屋の隅においてある大きな旅行用のスーツケース程の大きさの”モノ”の周りを舞いだした。合わせる様に、それは変形し、二脚の竜?”号竜”へと姿を変える。

大きさは、”ダチョウ”程もありでかい。その姿に、両親は大いに驚く。娘が”魔戒法師”を目指してからは驚くことの連続だ。

「こら、”ヴォルト”いきなり変形しないの。戻りなさい」

変形した”号竜”を嗜めると、鈴の言葉に合わせて号竜はスーツケースの姿に戻った。

「驚いたわね。お魚ちゃんは知っているけど、そっちの子ははじめて見るわね」

母は、スーツケースを見てそう呟いた。

「うん、この子は号竜っていうの、名前は”ヴォルト”。私の新しい”仲間”よ」

鈴の言葉に喜ぶようにスーツケースの中心にある”魔獣の核”が点滅する。鈴の言葉が分かっているようだ。

その様子に、父と母は、内心穏やかであった。

「鈴がこうして笑ってくれるのはいいものだな」

「ええ、これも一夏君と魔戒騎士さん達のおかげですね。あなた」

「ああ、そうだな。鈴も彼らのように”護りし者”として、誰かを救っていくんだろうな」

 

 

 

 

 

 

鈴の父

一年前、俺の家族は”崩壊”の危機に陥っていた。理由は、妻の故郷である”中国”より、娘を引き渡せといわれた。

国家が総力を挙げ、作り上げた”IS”のために……。鈴には、何も話さずに、”離婚”の話を進めていたが、鈴の幼馴染である”織斑一夏”が

”鈴の為なら、どうして離婚なんてするんだっ!!!!鈴の気持ちを聞いたのかっ!!!!”

”ただ、相手がどうしようもないからって、初めから諦めるなんて、私は認め、いや許さないっ!!!!!」

今、思えば事情も知らない他人が良くここまでいえたものだ。だが、織斑一夏が言った事は事実だった。娘は…鈴は……

”ここは私の家よっ!!!!何で、お父さんとお母さんが別れなくちゃいけないの!!!!ここから居なくなるなんて嫌よっ!!!!”

その言葉に、俺は娘のために戦わなくてはと思った。一家を護れなくて何が父だ。妻を、娘を悲しませるなんて…そんな情けないことをしてたまるかと……

何とかして、俺はたくさんの人の協力を経て離婚をすることなく、国から家族を護れたのだ。

あの時は、信じられないことが立て続けに起こった。鈴の幼馴染の一夏君は、”魔戒騎士”という戦士で、ホラーという魔獣と戦い続けているというからだ。

俺もこの目で見るまでは、信じられなかった。聞けば、あのホラーはISですら倒すことができないという。その圧倒的な存在に、立ち向かう彼らに背を押されて、俺も戦うことを決めたのだ。

一夏君もこれまでにない強大なホラーとの戦いの最中だったのに、鈴の事を気にかけていてくれたことは本当に感謝しきれない。

”俺もさ、家族が居たんだ。血は繋がらなかったけど、あの人は紛れもなく俺の父さんだった”

”だからさあ、俺は、理不尽な理由で家族が居なくなるのも、奪われるのも嫌なんだよ”

彼が一夏君を迎えに来た時に、彼こと”涼邑 零”と話したが、彼もまた理不尽な理由で家族を、愛する者を奪われたらしい。だけど、彼には”家族”がただ一人残っており、”家族”が居る限り戦い続けると……

だから俺も、家族を護り続けようと誓った。彼らのように戦えなくても俺は俺の戦いを…鈴がいつでも帰ってこられるように……

 

 

 

 

 

 

鈴の母

この子には、本当に驚かされるわ。普通の女の子だったのに、この一年で見違えるほどになったわ。まだまだ、半人前だというけど、私からしては、もう十分すぎるほど……

自分の信念の元、闇の中に身を捧げる事は、親として”納得”はできないけれど、この子の意思は固い。

鈴は、魔戒法師になると言ったのだ。

”アタシは、一夏を支えられる魔戒法師に、いえ、一夏達みたいに誰かを護る、護りし者になりたいっ!!!”

そう言った鈴の決意は固かった。いつの間にか、一人の”女”の目をしていたから……

私達は鈴の意思を尊重することにした。夫も戸惑っていたけど、鈴は自身の歩むべき道を見出し、そこに進もうとしている。その背中を見送るのは”親”として、当然のことだ。

鈴は必ず戻ると言って、時々顔を出しに戻ってきてくれている………

 

 

 

 

 

 

 

 

一家の住む料理店に二人の影が近づく。一人は人の良さそうな青年 シグトともう一人は凛とした長身の女性 烈花である。 

「烈花。鈴に何を言いにいくんだ?」

「何も言わん。鈴には、まだまだ教え足りんが、俺は、こいつを渡しに行くだけだ」

烈花は手のひらに一匹の魔戒魚を乗せた。二人は、賑やかな声が響く中華料理店の戸に手を掛けた。

「夜分、遅く尋ねてきてすまんっ!!!ここに凰鈴音は居るかっ!!!!」

烈花が堂々と声を上げた。この声に反応するように奥から慌しい鈴の声が聞こえてきた。

「れ、烈花さんっ!?!!ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!!今、開けますからっ!!!!」

慌しく戸をあけた鈴に烈花は一発、拳を浴びせた。

「っぁッ!!!」

声にならない悲鳴を上げて、鈴はいつにもまして理不尽な一撃を呪った。

「まったく、もう少し堂々と構えろっ!!そんな事で一人前には成れんぞっ!!!」

いつにも増して厳しい師の言葉。

「まあまあ、烈花もそのぐらいにしとけよ」

「シグト、甘やかしては鈴のためには成らん」

師は、自分を”一人前”にするまでは、ずっとこの調子なのではと思う鈴であった。

「あの~、魔戒法師の方ですか?もしかして、鈴の師匠の方?」

三人の様子に対し、鈴の母が尋ねてきた。

「ああ、この未熟者をモノにするために、師匠をやっている」

「そうですか、どうぞ、中へ」

「いや、用事は直ぐに済む。ここで構わない」

烈花は、鈴に視線を合わせる様に屈み、

「鈴、お前に渡すものがある。こいつをお前に渡したい」

鈴がモノを言う前に、烈花は一本の”笛”を手渡した。

「烈花さん。これ……」

「これは、俺がお前に伝えた”モノ”だ」

それは、師である烈花が愛用していた”笛”であった。

「鈴、けっして無茶をするな。お前が俺の力を必要とするなら、呼べ。必ず駆けつける」

「……烈花さん」

「お前は、まだまだ半人前だ。だが、その一途な”心”だけを決して忘れるな。そして、一人ではないことを……」

烈花は、伝えるべきことを伝え背を向けシグトを伴って去っていった。

鈴は、師である烈花の背を見送ると同時に、笛を口につけ、師が奏でていた曲を吹く。

”英霊達への鎮魂”を………

師がくたくたになった自分を労るように奏でていた、あの何処か切なくも心に響く旋律を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年一組 教室

「一夏さんっ!!!昨日のパーティー、どうして抜け出したんですかっ!!!」

「そうだよ、織斑君っ!!酷いよっ!!!」

「そうだよ~~」

セシリアと数人の女子が一夏に詰め寄っていた。理由は言うまでもなく、パーティーの主役の内の一人が途中で何処かに行ってしまった事による憤りである。

「すまないセシリア。少し用事ができたもので、行かなければならなかったんだ」

一夏は、予め考えておいた言い訳を頭に浮かべた。

「用事って、何ですの?」

セシリアの言葉に一夏は、ある人物の”名前”を出す。

「篠乃之博士から、蒼牙のデータを確認させろって催促があって……」

「まあ、篠乃之博士が……もう少し融通を利かせられませんの?」

「私自身の報告が遅れてしまったのが原因だ。私の身から出た錆だよ」

「まあ、一夏さんもうっかりしてますわね。しっかりしてくださいませ」

一夏の言葉にセシリアは納得の意を示した。噂に聞くと一夏は篠乃之博士の直属となっており、調査のために専用機を持っているのだ。

これに関しては、皆は”それなら仕方がない”と言わんばかりに納得してしまった。もう少しだけ融通ぐらいはともと思ってしまった。

だが、そんな一夏に対して、箒はすこし胡散臭いものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人からの催促?違うだろ、あの人は、呼び出すんじゃなくて自分からやってくる。

なあ、一夏。お前は、何故、私達に嘘をつく?

あの変な赤い封筒と千冬さんのうろたえよう、そしてお前の変わりよう……

何がどうなっているんだ?それにあの人から教えてもらった番号もいつの間にか消えていた。

絶対に掛けることはないと思うから、消えてても問題はないが……

何を私に隠しているんだ?一夏……それにあの人も何を考えて………

昔から良く分からなかったあの人だが、今になっても良く分からない………

 

 

 

 

 

 

 

職員室

ここに一人の転校生 凰鈴音と一組担任の織斑千冬の二人が対峙していた。

「………お前が転校生か?凰」

千冬は少し目を鋭くして、鈴に言葉を掛けた。鈴はそんな千冬に対して

「そうよ、千冬さん、じゃなくて織斑先生」

余裕なのか笑みすら浮かべている。大抵の生徒は自分の睨みには、萎縮するのに、それが通用しないことに少しだけ、千冬は心のうちで毒を吐いた。

「何故?今になって転校してきた。お前はISが嫌いではなかったのではないか?」

「織斑先生。アタシに尋問するつもり?そうよ、ISは嫌いよ、大嫌いよっ!!!」

鈴は、わざと聞こえるように声を大きくした。これには、他の先生達も驚く。ISの嫌いな人間が学園に何のようがあるのかと……

「ISが嫌いなお前が、ここに何のようだ?それに”アレ”はここには、現れん」

「”アレ”は、ここの”陰我”からは出ていないわ。今のところ……だけど、昨日は此処を目指して、直ぐ近くまで来たわ」

昨晩の戦いは、一般人の目撃者こそはいなかったが、何かしらの痕跡は残っていた。千冬は、忌々しそうに表情をゆがめた。

(……まったく、どうしてホラーはここを目指した。何故だ……)

この学園まで近づいてきたホラーに対して、怒りを覚える千冬であった。

「最近になって、ますます増えているわ。何かの前兆かも……」

鈴は、ISによる陰我とは言わなかったが、此処のところホラーが増えていることだけを伝えた。

「分かった。だが、あまりここで騒ぎは起こすなよ。収拾が大変だからな……」

「それ、一夏にも言ったの?」

その言葉に千冬の顔に陰が差した。鈴は、彼女が一年前よりはマシになったが、あまり変わっていないのを察した。

(千冬さん、まだ諦めていないんだ。一夏は一夏の意思で決めたのに、それをまだ他の道があるって……)

鈴も千冬にとって、一夏がとても大切な存在で護ろうとしているのは理解している。そして、あまりにも愛しすぎていることを………

空気が重くなる前に話を切り上げ、鈴は一年一組への転入が決まったのであった。

(一夏も一夏で、千冬さんには甘いんだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年一組

「え~と、今日はなんと転校生を紹介します」

真耶が、SHRで明るく声を上げるが、クラスメイトの乗りはあまり良くない。

一夏は、誰が来たのかは察しがついていたが

「山田先生。気を落とさないでください」

「ああ、織斑君だけです。私の味方は……」

少し涙目の真耶に少しだけ、一夏は引きつった笑みを浮かべた。

この先生は、生徒に舐められているのではないかと思ってしまうのは、自分だけだろうかと一夏は思った。

「凰鈴音さん。入ってきてください」

気を取り直して、真耶が呼びかけると教室に小柄な女生徒が入ってきた。

「こんにちはー、皆さん。凰鈴音です。よろしくねっ!!!」

明るい声と共に自己紹介をした鈴であった。少女の様子に一夏も、自分の知る鈴だと思い、自然と笑みが浮かんだ。

「一夏は、正面ね。先生、一夏の隣、良いですか?」

「えっ、凰さんは、織斑君を知っているんですか?二人は、知り合いですか?」

真耶が、親しそうに一夏に声を掛けた鈴に対して問いかけた。ここで一夏が声を上げる。

「はい。鈴とは、小学校の頃からの知り合いです」

「そうなんで「待てっ!!!!そんな話は聞いていないぞっ!!!」

箒が真耶の言葉を切るように声を上げた。激情しているのか、目が釣りあがっている。

「騒ぐなっ、篠乃之」

「っ!?!」

いつの間にか傍まで来ていた千冬の拳により、箒は沈黙せざる終えなかった。

何故か開いていた隣の席に座る鈴に対して、箒はただ不機嫌に睨むしかなかった。

「一夏、一年ぶりだけど、よろしくね」

「ああ、私のほうこそ、よろしく頼むよ。鈴」

あまりに親しげな様子にクラス全体が衝撃を受けたように目を丸くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

一夏さんっ!!!誰ですの?その人はっ!!!!幼馴染は篠乃之さんだけでは、ないのですかっ!!?!

それに一年ぶりだなんて……どういう関係か、はっきりさせてくださいませっ!!!!一夏さんっ!!!!!

なんですの?知り合いだからって少し、慣れ慣れしすぎますわ。

一夏さんも一夏さんで、何だか嬉しそうですし…何だか、ムカつきますわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SHRが終わった途端、一夏に詰め寄る箒とセシリアは

「一夏さんっ!!!!その人は、一体誰ですのっ!!!!」

「そうだぞっ!!!!一夏、説明をしろっ!!!!!!」

まるで怒髪、天を付かんばかりに怒っている。そんな二人を鈴は少しだけ、呆れた視線を向けた。

(……そんなにアタシと一夏が仲がいいのが気に入らないのかな?)

そんな鈴の横で一夏が応える。

「私の幼馴染だよ」

一夏の言葉に箒は、

「私は、こんな奴は知らんぞっ!!!!」

と反論をするが、

「箒が引っ越した後に知り合ったから、会わなかったのは当然だよ」

「まあ、あんたが知らないのは無理もないわ、ファースト」

火花を散らすかと思えば、鈴はやんわりと視線で返している。この余裕が少しムカついた箒とセシリアだった。

「少し、前後してしまったけど、紹介するね。鈴、この子達が、私の幼馴染の箒とクラスメイトのセシリア」

「私が篠乃之箒だ」

「ワタクシがセシリア・オルコットですわ」

二人の様子にまるで鈴を牽制するように一夏は見えた。何故かは、分からないと思いたいが……

「さっきも言ったけど、凰鈴音よ。よろしくね、二人とも」

二人に対して、やんわりと言葉を返すのだった。やっぱり、この余裕が少しムカついた二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

一夏は、更衣室で自身の専用のスーツに着替えていた。

一夏のISのスーツは、ダイバースーツのようなものであり、それそのものが一種の戦闘スーツでもある。

ピッタリとしたラインは、ISを操縦した時の意思を伝達しやすいようにするためだ。

当然のことながら制服を脱ぐ。制服を脱ぐとピッタリとした黒いシャツが現れ、それを脱ぐと小振りな女性の乳房が姿を現した。

女でもある一夏だが、基本は男で通しているため、自身の胸をこうして隠しているのだ。姉からは、形が崩れないよう下着を付けるように言われているが……

「箒と一緒だった頃は、あまり気にしなかったのに……」

自分の身体の変化について、一夏は少しだけ考えた。自分が、男でも女でもないことは幼い頃から分かっていた。

男のように活発でもなかったし、かといって女のように話好きでもなかった。そして、男女の恋愛というのが、よく分からないことも……

”織斑君って、変だよっ!!!男の子なのに、女の子みたいだしっ!!!”

”それって、気持ちが悪いよっ!!!!”

幼い頃、好きだといった女子が居たが、その好きがよく分からなかった。あの子は、どうなったかは知らないけれど…自分のことなど覚えては居ないだろう。

「お前も厄介な星の元に生まれたのは、俺も良く分かっている。だが、お前は、お前だ」

ヴリルが、一夏の心情について声を上げた。女でもある一夏を気遣ってか、正面を向かずに顔を後ろに向けている。

「分かっているよ、ヴリル。また、誰かに”気持ち悪い”と言われるのかと思うと、少しだけ、気が弱くなってしまう」

珍しく弱気な一夏であった。普段は、それなりに堂々としているが、男女の恋愛となると一夏は非常に”弱い”のである。

一夏の脳裏に、自分の体のことを知らない箒とセシリアの顔が浮かんだ。そして、自身の事を姉と同じくらいに知る鈴の顔も………

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

私は、男女の恋愛が良く分からない。それは、私自身がどちらでもない心と身体をもっているからだろうか。

中学の頃は、修行中と魔戒騎士に成ったばかりだったから特にそういった話はなかった。私自身が少し殺気立っていたから、鈴と弾以外に誰も近づこうとはしなかった。

弾とは、女に絡まれていたのを助けたのがきっかけだった。私のことを”女”と思っていて、学校で男子用の制服を着ていた私を見て酷く驚いていた。女でもあるので間違いではないのだけど……

鈴は、私がIS”中性”であることを知っている。きっかけは、中学に上がる前に私の胸を鈴が面白半分に触ってくれたことだった。

あの時の私は、酷く心を乱してしまった。修行中じゃ、こんなことはなかったのにと思うぐらいに……

姉が家に居ないので、師匠の下にいってしまった。

”一夏、俺は男だから、こういう事にはあまり役には立てんと思うが、鈴と向き合ってみるのが一番だな。誤魔化したら、それだけお前が辛い思いをするからな”

師匠の言葉通り、翌日、鈴に私の”身体”の事を打ち明けた。鈴は驚いたが、直に笑顔で

”別に悪いことじゃないわよ。一夏は、一夏じゃない。たとえ、男でも女でもね”

私を受け入れてくれた。それ以来、私が女でもあることが分かると、女としての話題を持ちかけるようになった。

服であったり、歌、時には化粧すら教えてくれた。まあ、私がさせられていたのだが……

一年前、私の不始末で迷惑をかけたが、それでも鈴は私のことを受け入れ、支えようとしてくれていた。

魔戒法師になるため、閑岱へ旅立つ日に

”一夏、アタシはあんたのことが好き。この好きは、友達としてじゃない。恋愛でアンタが好きなの”

”あんたが恋愛がよくわからないのに、こんな事を言って、困らせたいわけじゃない。もし、あんたが恋愛を理解して、アタシ以外の誰かを好きになっても、アタシの想いを忘れないで”

あの言葉に私は応えられるだろうか?いや、今は応えられない。私は…まだ、何も分かっていないのだから………

こんな半端な気持ちで、鈴の想いに応えても、傷つけるだけだから………

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、午前最後の授業は、ISの基本機動を行う授業が始まろうとしていた。

ただ、ここに一人だけ服装の違うものが居た。凰鈴音である。一人だけ、ジャージ。

IS学園の実習用のIS用スーツを買っているのだが、まだ届いていないのである。

一人だけ浮いている鈴を箒とセシリアがジト目で見ていた……

 

 

 

 

 

 

さっきから、アタシを箒って子が見ている。何か聞きたいことがありそうだけど……一夏との関係ね。

あの外人もそんな感じね。あいつに惚れるなんてね……

箒って子は、知らないかもしれないけど、一夏はあんたの事を本当に大切に思っていたのよ。

それが、恋愛かどうかと言われると少し違うけどね。

一夏は男でも女でもある”中性”だ。この”女尊男卑”中、女で居るほうが良かったのに、一夏は、男で居た。

その理由を聞くと、私よりも前に出会った”女の子”といつか再会するためだと……

”私と箒は、いつか必ず再会すると約束をした。再会したとき、私が”女”だったら、箒を驚かせてしまう”

その外見でそんな事を言っても全然説得力なんてないわよと言ってやった。

六年も経てば、忘れると思うけど、一夏と箒はお互いに忘れなかったから、案外両思いかもと思っちゃった。

でも、二人は互いにまだ歩み寄れない。一夏の事を聞いて、どう思うかな?もし、”気持ち悪い”なんて、言ったら、アタシがぶっ飛ばしてやるんだからねっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

その一夏が、最後にクラスメイト達の元へ小走りできた。

「すみません。少し、遅れました……」

一夏が来たと同時にクラスメイト全員が振り返り、その姿に全員が見惚れてしまった………

「なにっ?あのスタイルのよさ……」

「ほんとに男?」

「実は、女の子じゃないの?」

「織斑先生より、細いか…”バシッ!!”あべしっ!?!」

「あの綺麗なライン………私の寸胴と交換して欲しい……」

彼女のらの視線は、一夏のボディーライン全体を嘗め回すように向けられたのだった。

一夏は、女子達の視線に居心地の悪さを覚えていた。特に、自分の”脚”、”くびれ”、”胸”による視線は正直、恥ずかしいと感じていた。

「箒、羽織るものないかな。ちょっと………恥ずかしい」

「男の癖に何を恥ずかしがっているっ!!!普通、逆だろっ!!!!!」

一夏は顔を少し赤くして箒に頼るが、彼女は一夏を突き放した。これも”IS”によって、男女の価値観が歪んでしまったのではないかと、箒は思った。

(これが、最近の”草食系男子”というものなのか)

これが、いかつい男なら引いたが、見た目が女の一夏では、違和感がない。

「仕方ないわね。あんたは、肌を人前にさらすの、極端に嫌がるもんね」

鈴は、何処から持ってきたのかジャージの上着を一夏に手渡し、一夏はそれを羽織った。

「ありがとう、鈴」

ジャージを羽織る一夏に鈴は苦笑する。

(……一夏って、女でもあるんだけど、もしかしたら、アタシより女らしいところがあるかもって……一夏は女だから、変じゃないよね♪)

一方でセシリアは、頬を引きつらせて

「……一夏さん。あなたは、間違いなく”女の敵”です」

ここでも、敗北してしまったセシリアであった。自身のスタイルもそれほど悪くはないはずなのだが、一夏のそれと比べると見劣りがしてしまうのは、自他共に明らかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間もなくして千冬と真耶が生徒達の前に立ち、

「これより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、試しに飛んでみろ」

「わかりましたわ」

千冬に応えるようにして、セシリアは青いボディーが特徴的なブルー・ティアーズを展開する。

「………」

一夏は、左手首のブレスレットを掲げて蒼い狼の顔を持った蒼牙を展開した。

その時に、羽織っていたジャージが舞い、鈴の手元に戻った。

赤い鬣を靡かせるその姿は、威風堂々としたもので、近くで見るものに軽い威圧感を与える。

「織斑。そのバイザーは仕舞っておけ」

蒼牙の顔が気に入らないのか、口を出す千冬。今は、授業中なので、大人しく指示に従い、バイザーを仕舞うのだった。

現れたのは、姉そっくりの顔である。

「よし、飛べ」

その合図に合わせるように一夏は、地を蹴って跳び上がった。

「織斑っ!!!誰が地を蹴って跳べと言ったっ!!!!ちゃんと、飛行しろっ!!!」

千冬が教師として、厳しく指導する。

「……うっかりした」

「おいおい、しっかりしてくれよ。授業参観で見ているこっちの期待にも応えてくれよ」

一夏は一夏で、いつものように振舞ったことである。ヴリルは、ヴリルで少しだけ苦笑いをしていた。

「い、一夏さん。随分とユニークな飛び方をされるんですね……」

地を蹴って跳び上がるのをセシリアは、少し引きつりながら話しかけた。

「……まあ、いつものくせで……」

一夏も一夏でどう応えていいのか良くわからなかった。飛行をしなければ、話にもならないので、蒼牙の翼を展開して一気に飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いわね。一夏……めちゃくちゃ、上手いじゃん」

鈴は、蒼牙を展開し飛行する一夏を見てそう呟いた。蒼牙は一気にIS学園を見渡せる高さまで飛行し、風と戯れるように上下左右を舞う。

「………………」

箒は、あの遥か空の上を舞う一夏の居る場所と自分との位置がそれだけ離れているように思えた。

いや、もしかしたら自分と一夏は、交わることのない違う世界で生きているようにも………

そう思うと、少しだけ寂しく思えたが、自分と一夏はこれから始めればいいと思い、気を引き締めた。届かないのならば、あの場所へ届けばいいだけのことだからと……

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園上空

「皆は、いい印象は持っていないISだけど、空をこういう風に飛べるのは、凄く好きになれる」

「ああ、そうだな。なんで、こいつは女にしか動かせないのかね?」

「それを言うなら、ソウルメタルが男にしか扱えないことを言うのと同じだよ」

一夏は、蒼牙を見事に制御していた。ISの制御は、思考によるものでありイメージなのだ。

ISと少しだけ制御の方法が似ているのが魔戒騎士達が扱う”ソウルメタル”である。

これは、持ち主の心の在りようでその重さを変えるため、”ソウルメタルは、力でなく、心で扱え”という格言があるのだ。

ソウルメタルを扱うのは、かなり難しく、ほとんどの騎士が数年を掛けて、扱えるように師の元で学ぶのだ。

一夏もソウルメタルを操れるまでは、かなり苦労をしている。それこそ、語りつくせないほどの”努力”を行ってきたのだから……

そのソウルメタルと比べるとISの操縦はさほど難しくは無かったと言うのが、一夏の感想である。

「もう少しだけ、高く飛んでみたいけど……さすがに今は、難しいかな」

「まったくだ。こいつで、月まで行くんだろ、ジュール・ヴェルヌの世界だ。ほんとに大したもんだ、ISってのはよ」

一夏とヴリルは、遥か上空に存在するであろう”未知なる世界”に少しだけ思いを寄せた。

それだけに残念な思いもある。本来ならば、未知なる世界への翼と成るべき”IS”は、国家の武力として、さらには、女しか扱えない強大な力として”女尊男卑”の陰我を生み出した元凶となっている。

「いつかは、俺も行ってみてえな。宇宙によ」

魔道具初の宇宙飛行をしたいのだろうか?他の魔道具はどう思うだろう……

「い、一夏さん。お待ちになってくださいませ」

下を見るとセシリアが、息を切らすようにして自分に追いついてきた。

「ああ、すまない、セシリア。少し、飛ばしすぎた」

「ええ、良いものが見れましたから、構いませんわ」

「良い物?」

「いえ、ワタクシの勝手な感想ですので、一夏さんはお気になさらなくて良いですわ」

セシリアの言葉に一夏は首を傾げたが、彼女は微笑んで、それ以上のことは言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

ほんとうにISを二ヶ月ほど動かしただけですのかしら?遥か上空の雲に届くところまで飛ばれるなんて……

ワタクシだって、このブルー・ティアーズを専用機とするまで、それこそ語りつくせない努力をしてきましたわ。

あの方は、それを二ヶ月足らずとあそこまで”IS”を動かせるなんて……

上空を舞う一夏さんは、何処か楽しそうにも見えましたわ。まるで、空を舞う”天使”のように……

ワタクシは一夏さんを”騎士”と思いましたが、あのように空を舞う姿は、”天使”ですわ……

”騎士”は、身近のものを主を護るために己のみを捧げるといいますが、”天使”は、ワタクシ達とは違う世界を生きる生き物です。

一夏さんがもし、”天使”なら、ワタクシと一夏さんは住む場所が違う事を意味します。もしかしたら、そうなのかもと思ってしまいます……

今のこの距離が、ワタクシをそう思わせているのでしょうか?ワタクシは、一夏さんのことが知りたい。だから、傍に近づけるように、進まなくてはなりませんわっ!!!!

 

 

 

 

 

 

「一夏さん、ISで飛行するのは、楽しいですか?」

セシリアは、一夏に問いかけてみた。

「………こうやって空を飛べる感覚が凄く楽しいかな」

一夏は、本当に楽しかったのか、笑みを浮かべて応えた。その笑みが綺麗なのかセシリアは、少しだけ頬を赤くしてしまった。

「……あの、よろしければ一緒に訓練でもいかがですか?ワタクシも一夏さんのように接近戦と遠距離戦をうまくこなせるようになりたいので……」

セシリアの考えはもっともである。一夏の駆る蒼牙は、雪片を用いた接近戦と弓を用いた遠距離戦を主体としている。

遠距離での戦いを主体とするブルー・ティアーズも接近戦ができれば、戦術の幅は広がる。

「それなら、セシリア。私からもお願いをしたい。よろしくおねがいするよ」

「はいっ!よろこんで『一夏っ!!!!いつまで、遊んでいるっ!!!!早く降りてこんかっ!!!!!!』

いきなり通信回線に怒鳴り声が割り込んできた。

怒鳴り声の主は、箒である。地上ではインカムを強奪された真耶がオタオタとしていた。

遥か上空から離れた地上もISのハイパーセンサーを使えば、鮮明に見える。

『織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10センチだ』

「了解です。では、一夏さん、お先に」

千冬の指示に従い、セシリアは地上へ向かい、地表戦前で身を翻して、ピタリと地表10センチ離れたところで完全停止をする。

「さすがは、代表候補生ってところだな」

ヴリルがセシリアの技術に感心したように呟いた。

「それでは、私も続くとする」

「おおっ!!行って来いっ!!!」

続いて一夏が蒼牙の六枚の翼を展開して、地上へと向かう。こちらも難なく、地表10センチで停止した。

 

 

 

 

 

放課後、授業が終わり、一夏と分かれた鈴は食堂に来ていた。箒とセシリアの二人と同席していた。

「凰。私達に何のようだ?お前から、誘ってくるとは……」

「そうですわ。ワタクシはこれから一夏さんと有意義な訓練の時間ですのよ」

セシリアの言葉に、箒は一瞬、青筋が立ったが、直ぐに気を取り直して鈴と向き合う。

「そうね。ぶっちゃけ、聞くけど、あんた達、一夏のことが好きなんでしょ?」

意外過ぎた言葉に対して、二人は顔を赤くして

「な、何を言うんだっ!!?!」

「そ、そうですわっ!!!?!!物事には順序がありますのよっ!!?!」

この反応を見て、やっぱりと思う鈴だった。一夏は何気にもてていた。

(そういえば、弾の奴も一夏が女でもあると知ってから妙に意識していたわね)

中学時代の友人もそうだが、近寄りがたい雰囲気を持つものの何気に優しかった一夏を意識するものは多かった。

事情を知らない男達から一夏は”高嶺の花”と呼ばれていた。意味、手が出せない。男だから……

「アタシは、好きよ。一年前に告白だってしたから……」

「なっ!!?!!」

「何ですってっ!!?!!」

鈴の言葉に箒とセシリアは、声を上げてしまった。近くに居た生徒たちも鈴に注目している。

「まあ、今は一夏の返事待ちよ。あいつを困らせたくないしね」

少しだけ笑みを浮かべた後、真剣な表情で箒とセシリアに向かい

「あんた達二人が一夏の事が好きだとしても、絶対にあいつを困らせないで。あんた達の都合で振り回して、傷つけるなら、絶対に許さないから……」

「な、何を言っているんだっ!!!わ、私は、幼馴染だ。一夏のことは誰よりも知っているんだぞっ!!!」

箒が鈴に反論する。それに対してセシリアは箒のように反論ができなかった。なぜなら、セシリアは一夏とまだ知り合ったばかりだから………

「そう…でも、今の一夏の事を知っている人は、アタシと千冬さんぐらいなものよ」

「な、何を言っているんだ。一夏は、私の幼馴染だっ!!!!あの頃のままだっ!!!!」

声を上げる箒に鈴は、本当に一夏に入れ込んでいるものだと感心してしまった。だが、二人は知らない。一夏が二人が知らない世界へ身を置いていることに………

「そうなら、もし一夏に普通とは違う違和感を感じても絶対に詮索しないことね。もし、それを詮索して、”絶望”をしてもアタシは一切手は出さないわ」

鈴は、思わず目に怒気をこめてしまった。この時、発せられた威圧感は一般人を軽く威圧するものだった。箒とセシリアも思わず、怯えてしまうほどに……

「アタシ程度にびびるようじゃ、一夏の傍には居られないし近づけないわよ。半端な想いなら、やめたほうがましよ」

そういって、鈴は席を立って二人から離れた。二人は、ただ呆然と鈴の背を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

二人とも、ずるいですわ!!!!ワタクシだけが置いてけぼりです!!!!!

知らないのなら、これから知ればいいだけのことですわっ!!!

あなた達と違って、スタートラインは遅いですが、絶対にワタクシ、セシリア・オルコットは負けませんわっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が私に対して、何かを悟らせたくないようだが、それは何なのだ?

一夏、絶対にお前からそれを聞き出してやる。凰、お前には絶対に負けないからなっ!!!!

 

 

 

 

 

 

この時も私はやはり六年前と変わらない餓鬼だった。一夏が何を行っているかなど、考えもしなかった。

一夏の事を考えずに、自分のわがままを通そうとしていたのだ。それに気づいてすら居なかった。

あの人と千冬さんすらが恐れる”闇”がこの世界に至る所に存在していたことを……

その”闇”がこのIS学園に迫ってきていることを…………

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