I S×GARO   作:navaho

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第捌話「踏み切り」

放課後

鈴を見送ってからセシリアは、急ぐように第三アリーナへ向かっていった。

理由は言うまでもなく、自身が思いを寄せる男性 織斑一夏の元へ一刻も早く行きたかったからだ。

(ずるいですわ。篠乃之さんも凰さんも……ですが、ワタクシも負けてばかりではありませんっ!!!)

先ほどの鈴の話を聞いて焦り、彼女は少しでも一夏と触れ合い、彼を知りたかった。

初めてかもしれない感情に任せるがままに彼女は走る。セシリアに鈴の警告は、届いていない。

一夏が抱えている”闇”を知ることは、彼女の日常が崩壊し今までどおりに過ごす事が叶わなくなる事を知らない……

それでもセシリアは、一夏を想う事ができるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、第三アリーナでは、既に一夏が蒼牙を展開して飛行訓練を行っていた。

接近戦を主体としているだけに、高速戦闘を得意としている。六枚に翼を使い、アリーナを舞う姿は華麗の一言に尽きる。

雪片を振るい、弓を使って的を射るという訓練をひたすら繰り返していた。

「おい、一夏。これって、ゲームって奴か?」

「一応は、訓練の一環だけれど……確かにそれに近いな」

訓練の内容を見て、ヴリルが思わず口走ったのに一夏が言葉を返す。

ISの活躍の場は、ルールにのっとった競技で競われる。見ようによってはゲーム、もしくはショーに近い。

「最強の兵器だと世間では言われているが、こうしてみると何かのファッションか、スポーツの道具にしか見えんな」

ヴリルは、IS学園の生徒と話す機会はないが一夏越しに見てみるとISは兵器というよりも、女性にとって何かのステータスに抑えられているように思えたのだった。

「これを皆が見たら、何と思うかな?」

一夏はISの競技について、仲間である他の魔戒騎士はどう思うだろうかと考えるのだった。黄金騎士辺りは”興味はない”の一言で済ましてしまいそうだ。

今は、セシリアとの訓練を約束をしているので彼女が来るまで待つことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

一夏の様子をアリーナの客席から一人の女生徒が見ていた。

少し垂れ目の可愛らしい顔立ちの少し袖の長いIS学園の制服を着ている。

 

 

 

 

 

 

布仏 本音

すごいな。おりむー、専用機も凄いけど、心身ともに強いおりむーには、憧れるな~。

やっぱり、お姉さんが織斑先生だからかな。だから強いのかな、私とは違うんだよね。

私にもお姉ちゃんが居るけど、お姉ちゃんの妹としては凄く情けない。

私のお姉ちゃんは凄く優秀だ。専用機持ちほどではないけど、何事もテキパキとこなす。

それに比べて私は、のんびりしていて、悪く言えばトロイ。

おりむーは、お姉さんの事をどう思っているのかな?

世界的に有名な、雲の上の人と一緒に居て、辛くはなかったのかな~。

優秀なお姉さんと比べられることを……

かんちゃんも私と同じように辛い、いや、かんちゃんの方がもっと辛い思いをしてた……

だって、かんちゃんは”更識楯無の妹”としか見られていなかったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本音がそう思っていると、いつの間にかピットからセシリアのブルー・ティアーズが飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは奇妙な空間だった。様々な線路が無尽蔵に引かれ、あちこちに墓標のごとく警笛を鳴らす踏切が存在していた。

あたり一面を警笛が鳴らされ、赤く点滅するランプによりそこに迷い込んだ”人間”の不安な表情を照らす。

「な、なによっ……何なのよっ!!!ここはっ!!!!」

自分は先ほどまでショッピングを楽しみ、これから家路に着くためのモノレールに乗った途端にこの奇妙な場所に迷い込んでしまったのだ。

線路の上に佇む彼女を見下ろす影が対向車線の線路から歩いてくる。

「おやおや、お嬢さん。あなたも一線を越えられますか?」

対向車線から歩いてきたのは、駅長の制服を着た初老の男であった。

「一線って何よっ!!!私が何したって言うのよっ!!?!」

イラついていたためか、女性は八つ当たりをするように男に食って掛かった。

「それより、此処は何処よっ!!?!どうやったら、出られるのよっ!!?!」

「フム、君はここに来て引き返すというのかね?ならば、選ぶがいいさ、ここから引き返す道かこの先の一線を越える道かを」

「何よっ!?!それ、ふざけてんじゃないわよっ!!!役に立たないのならっ、あんたがやってきた道を辿れば戻れるんでしょうがっ!!!!」

女性は鼻息を荒くして、男を押しのけて道を進む。

「おや、お嬢さん?そちらへ行かれるのですか…そちらを越えては、あなたは戻れませんよ」

その言葉が届くはずもなく、女性は奇妙に交差した線路の上に来ていた。

「何よ此処は?どこに帰り道が……」

その瞬間、女性は前を見た。そこで、奇妙な形をした機械とも生き物とともいえないものを見てしまった。

「きゃあああああああああああああああああああっ!!!!!」

辺り一帯に蒸気が立ち込め、女性の身体が霧散するようにして消えていった………

「だから言ったのに……あなたは戻れないって……」

いつの間にかその場にたたずんでいた車掌の瞳に魔界文字が浮かび上がった。

「まあ、どのみち、戻すつもりはなかったがね」

意地の悪い笑みを浮かべて、彼はその場にたたずんでいた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園 食堂

「……一夏。お前、その量を食べるのか?」

箒は信じられないモノを見るかのように、目を丸くしていた。

「うん。此処のところは、多めに摂っておかないと身体が持たないんだ」

一夏の持っているトレイには、大盛りのご飯とかなりの量のおかずが載せられていた。

食が細いかと思われていた一夏だが、朝はきっちりと取る為にかなりの量を食べる。

「朝は、一日の基本だ。これぐらいは普通だと思うけど……」

「す、凄いね、織斑君。さすがは、男の子?かな……」

「……この量であのスタイルをどう維持できるの?」

「………女の敵め」

「くっ、私なんか、量を減らさないと体重が増えちゃうのに……」

一夏のトレイを見て、女生徒達はそれぞれの言葉を吐いた。

一夏のスタイルの良さは、既に広まっており、”女の敵”と認知されている。あの織斑千冬よりも細いという話も………

一夏の姿は、女が男装をしている感じでかなり倒錯的である。声もハスキーな千冬と比べると、かなり女らしい。千冬の声のほうが聞こえようによっては男に思えるかもしれない……

制服越しからも分かる身体の細さに、女生徒達は溜息をつくしかなかった。それを見て箒は、

「あの身体の何処に、この量がはいるのだ?」

「何言ってんのよ。ちゃんと食べないと、この先きついわよ」

続いてきた鈴もかなりの量を採っていた。朝から豚骨ラーメンとチャーハン大盛りである。

「こいつもこいつで……」

この小さな身体の何処に納めるつもりだろうかと疑問に思う箒だった。

「ねえ、おりむー。一緒に良いかな?」

そこへ少し間延びした声が挟んできた。布仏本音である。

「構わないよ。布仏さん。おりむーって?」

「あ、おりむー。私のことを知ってたんだ。織斑君よりもおりむーの方は馴染み易いと思って……もしかして嫌だった?」

「……別に構わないよ。私自身、そういう風に呼ばれたことはなかったので、少し戸惑ってしまっただけだ」

少し不安な表情を見せた本音を安心させるように一夏は笑みを浮かべて応えた。

「一夏、あんたも笑うようになったわね。少し前までは、アタシや身内以外に笑い掛けるなんて、そうそう無かったのに……」

鈴が一夏と本音のやり取りを見て、驚いていた。一年前の一夏は、少し殺気立っていて人を寄せ付けず、このように笑いかけるのは考えられなかったからだ。

「鈴。一年も経てば私も変わるよ、四六時中気を張るよりも、こういう時ぐらいは穏やかに居たいからね」

「ふ~~ん。何だか、零さんみたいな事を言うのね。そういえば、千冬さんと喧嘩をしていた時は、一時的に一緒に住んでたのよね」

一年前に自分の家族を救ってくれた恩人の事を感慨深く鈴は思い返した。生真面目で愛想の無い魔戒騎士の中では珍しく笑みを絶やさない銀牙騎士 涼邑 零。

鈴はあれから彼とは会っては居ないが、今日も何処かで護りし者として剣を振るっているだろう。

「一緒に住んでただとっ!!?!一夏っ!!!!貴様っ!!!男と同棲していたのかっ!!?!!」

二人の会話を誤解したのか、箒が青ざめた表情で叫んだ。

(ま、まさか…一夏は、そっちの気があるというのか?)

鈴の言っていた事はこのことなのかと箒は、絶望したような表情だった。

「………箒。零さんとは、そういう関係じゃないよ。私は、これでも”男性”だから…気にするなら”女性”にしたい……」

「そ、そうか…よ、良かった。お前は見た目がそれだからな」

(…一夏。あんたは女でもあるんでしょ。その台詞は、少し危ないわよっ!!)

インターセックスの一夏は、男でも女でもあるので恋愛をすれば同性であり、異性であるというなんともややこしいことになるのだ。

「お、おりむー。どうして、お姉さんと喧嘩をしたの?」

「ああ、うまくは話せないが。意見がかみ合わなくなって、私の方から飛び出してしまったんだ」

「な、なにっ!?千冬さんと喧嘩しただけに飽き足らず飛び出したっ!?!お前は、何をしていたんだっ!?!」

「えぇっ、飛び出したって!?!どういうこと!?!」

古くから千冬と一夏の関係を知っている箒は、二人が喧嘩する事はないというぐらいの仲のよさを知っていたが、そんなことになっていたとはと驚いてしまった。

一方の本音も千冬と一夏の仲の良さは、普段の二人の振る舞いを見ればよく分かっていたが、まさかそこまでの大喧嘩をしていたとは思わなかったのだ。

「これは、私自身のことだから話すことはできないけど、姉さんにとって、私のやろうとしていたことが許容できなかったんだ」

「そうよね。千冬さんって、かなり過保護だしね」

鈴が一夏の言葉に付け加えるように口を挟んだ。

「千冬さんが許容できないこととは、一体なんだ?」

箒は、重要となるその辺を聞き出そうと質問をするが

「すまないけど箒。こればかりは言えないし、箒を関わらせたくない」

「な、なんだと……」

思わず声を上げそうになるが、一夏が箒の知らない”怖い目”を向けてきたのだ。本音は、位置の関係で見えなかったが……

「そうなんだ、おりむー。お姉さんの事、どう思うの?だって、お姉さんは、凄く優秀で有名なんだよ。そのことで何か言われなかったの?」

「そうだね。姉さんの弟だからって色々言われたこともあるけど、私自身を大切にしてくれる姉さんをその事で、文句も言えなかった。

ISに関わってから、滅多に家に帰ってはこられなくて、私も寂しかったけれど、姉さんはもっと寂しがっていたかな」

「えぇっ!?!織斑先生って、寂しがり屋なのっ!?」

「姉さんは、ああ見えて誰かに構って欲しいと思っているところがあるし、一人で居ると用も無いのに私に電話かメールをしてくることもあるしね」

一夏は、千冬と瓜二つなその顔に千冬自身が絶対に人に見せることの無い笑みを浮かべて

「姉さんは、雲の上の人かもしれないけれど私にとってはたった一人の姉で、私しか知らない可愛い一面も知っているから、姉と比べられても怒るに怒れなかったかな」

「……そうなんだ。おりむーは、ねえ、もし『いつまで食べているつもりだっ!!!食事は迅速に効率よく摂れっ!!!』

ここで、一年の寮長である千冬の声が響き渡った。気がつけば、かなり話し込んでいたようだ。

食堂に居る面々の食事を取るスピードが上がる。

「遅れたものは、グランド十週だっ!!!」

「大変だよ。ここのグランドは一周がすごーーーーーーーくあるから」

本音もいつもののんびりとした雰囲気を廃して、急いで食事を取る。

「まったく、もう少しゆっくりさせてよ。食事ぐらい」

あの厳しい烈花でも食事ぐらいは、ゆっくりさせてくれたぞと言いたかったが、何も言えずに鈴も急いで平らげるのだった。

一夏も一夏で食事を終わらせ、急いで授業へと向かう。

そんな一夏たちに視線を向ける千冬は少しばかり晴れやかであった。

(ふふふ、一夏。その微笑みは間違いなく私似だ。もっと笑えよ)

普段から強面であることは、千冬はよく理解している。偶に笑えば、お地蔵さんのようだと石の様に硬い笑みだと言われる。

一夏の笑みは、まさしく自分の理想としているモノだ。血の繋がった弟?の微笑み=姉である自分の微笑み。

「偶には、私も笑ってみるか」

その後、授業で生徒達に微笑んだのだが、逆に気味悪がられてしまい(特に真耶)、内心落ち込んだのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

何だ、何だ?一夏の奴……、私に何も言わないとは、関わることじゃないとか、お前は私を拒むのか?

それに凰が、私の知らないことを知っているのがイラつく。

これでは、凰に先を越されてしまうじゃないか。私は、まだ一夏に思いを伝え切れていないのに……

あいつは返事待ちでと言っていた。一夏が私以外の誰かと一緒になるのは嫌だ。

今までもずっと一夏を想ってきたんだ。あの頃からずっと……ずっと………凰よりもずっと前から………

分かっているが一夏は、私に対して恋愛という感情を抱いては居ない。一夏が私に抱いているのは、友情に近い親愛だ。

だけど、私は一夏と一緒になりたい。だから、この想いを告げて、一夏と………

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園 整備課

学園にあるISを整備し調節する施設の一角に一人の女生徒が、一心不乱に最新式の空間ディスプレイに移る映像を見入っていた。

映像は、数日前に行われた一組のクラス代表決定戦である。そこに映る赤い鬣を持った蒼い狼のバイザーをつけたIS 蒼牙のデータを自身のISと比較していたのだった。

長方形の眼鏡を掛けた女生徒の名は、更識 簪。ISの日本代表候補生である。専用のISは、打鉄弐式。

 

 

 

 

 

 

 

すごい…おそらくは接近使用であるが、遠距離と近距離の切り替えが早く、相性の悪い遠距離攻撃を主体とするIS相手にも遅れを取っていない。

使っている武器は雪片。かつて”ブリュンヒルデ”織斑千冬が持っていた”唯一の武器”。その弟の織斑一夏が使っている。

この戦闘スタイル、技量を見る限り国家代表とも互角に渡り合えるかもしれない。

……やっぱり姉が優秀なら、弟も優秀なの?私と違い………

私の姉は、更識楯無。この学園の二年生であり、生徒会長、そして唯一の国家代表だ。

一歳上で私を遥かに上回る才能を持った姉だ。いつも私よりも遥かな先を行き、周りの期待に応えていった。それに比べて私は、周りの期待に応えられずに”どうして、あなたは姉と違うの”と期待を裏切ってしまった。

勉強、武術に関しても優秀な成績を収め、さらにはISの作成すら自ら行ってしまった。私にはできない事ばかり………

織斑一夏は、男性であるためISに触れる機会などなかったはずなのに、選び抜かれた代表候補生を倒してしまった。

いくら、あのブリュンヒルデを姉に持つからといって、できることじゃない。やっぱり、優秀な姉には優秀な弟でなければならないのだろうか?

もし、私に織斑一夏のような”才能”があれば……きっと、”楯無の妹”じゃなくて、更識簪としてみてくれただろう。

現に織斑一夏は、世界で唯一の男性のIS操縦者、”ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟ではなく、”織斑一夏”として認められているのだから……

四組の教室でも噂はよく聞く。”生真面目で勤勉家”、”男?というよりも寧ろ女”、”女の敵”、”プロポーションは、姉よりも優れている”。

とよく分からないが、彼はこの学園の話題によく上がる。ISの操縦もそうだが、織斑一夏の”美貌”があがることが多い。それは男としてどうなんだろうか……

遠めにしか見たことがないが、織斑先生に瓜二つの外見だというのは知っている………

一度、話してみたい……優秀すぎる姉を持つ者同士で…………

 

 

 

 

 

 

放課後

一夏と鈴は学園の周囲を回っていた。ある一定の間隔で赤い符を目立たないところに貼り付けていく。これは、学園にホラーが入ってこれないようにする為の策である。

「一夏、何なのよ此処は。下手すれば陰我のゲートになりそうなのばっかじゃないの」

一夏と鈴が学園を散策するたびに見つけたものを見ては、封印を行ったが、その数がかなり多いのだ。

「ヴリルも言っていたけど、此処には陰我の要素がかなり多い。姉さんは、ここにホラーは現れないと考えていたみたいだけど……」

「そうね、アタシも言われたわよ。ここには、アレは現れないって……でも、直ぐ近くまで来ていたのよね」

二人は、IS学園の向こうに見える都市に目をやった。あの都市には多くの陰我が存在しているのだ。

「まったくだぜ。あの”白騎士事件”でISの”力”が証明されてから、こんだけ経っているのに、今までIS学園に現れなかったのが不思議だったんだぜ」

ヴリルが二人に同意するように口を挟んだ。

「”白騎士事件”ね。何で、あんなことをやったのかしら……あんな事をしなくても他に道はあったはずなのに……」

鈴は、自身の家族を滅茶苦茶にした原因である”ISがしでかした事件”に対して吐き捨てた。本来は、宇宙での活動を目的としたパワードスーツなのに…それを兵器としての”力”を見せ付けたことに対して……

 

 

 

 

 

 

 

白騎士事件

IS発表から1カ月後に起きた事件。日本を射程範囲内とするミサイル基地のコンピューターが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが発射される。

その約半数をIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦艦などの軍事兵器を撃破した事件。

この時の死者は皆無だった。この事件以降、ISの関心が高まることとなる

 

 

 

 

 

 

 

「あんな事を起こさなければ、ここまでホラーも多くは出てこなかったはずなのよね~」

”女尊男卑”による陰我。ISの力によって齎されたモノ。その陰我も様々な形が存在しているが、これによって、ホラーが大量に現れるようになった。

思い上がった女性の虚栄心、その女性へ復讐するためにホラーの呼びかけに応える男性、理不尽な理由で家族を奪われた者などの心の陰に付け込みやすくなっている。

「千冬さんも篠乃之博士も、思い上がりすぎよ。あの時ISの力で、何でもできるみたいに考えていたのかしら」

「鈴」

「あの白騎士事件は、世間じゃ謎だって言ってるけど、魔戒法師や番犬所は、事件の犯人が誰か分かっているわよ」

鈴は、再び符を貼り付けてから、次の場所へ足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

白騎士事件。アレは、束さんがISを発表してから一ヵ月後に起こった事件。日本に向けられたミサイルを最初のIS 白騎士が迎撃したというもの……

その白騎士の正体は謎に包まれているが、私は開発者の束さんから聞いている。白騎士の操縦者は姉さんだということを……

発表したISは、そのあまりに突飛な発想ゆえに世間に受け入れられなかった。当然、束さんは腹を立てたが、それで世間の認識が変わるわけではないので、ISを放り出して別のものを作ろうとしたらしい。

だが、放り出したISに目をつけた人が居た。その人が姉さんだった。姉さんは、束さんに”計画”を持ちかけた。それこそが”白騎士事件”の大元のシナリオだ。

”ちーちゃんが、ISで白騎士事件を起こしたのは、私利私欲のためじゃないんだよ。全ては、いっくんが傷つかないようにって……”

”それに、あそこまで派手にやっちゃったのは、束さんが調子にのりすぎちゃったから……”

全ては、私 織斑一夏の為だった。白騎士事件が起こる前に私は、姉さんに……

”この前、女の子に気持ち悪いって言われちゃった”

”どうしてだろう、好きってのがよくわからない”

”ねえさん、ワタシって気持ち悪いかな?女の子と男の子の好きがよく分からない”

ただ何も言わずに姉さんは私を抱きしめてくれた。気丈な姉さんが少しだけ泣いていたのを今も覚えている。

”何を言う……私にはお前しか居ないんだ。大丈夫だ一夏。私がお前を護ってやる。絶対に、世界にお前を傷つけさせはしない”

だからこそ姉は”力”を求めた。最強であるために……何より私を護るために………そして、踏み越えてはならない一線を越えてしまった………

白騎士の名前は、姉さんが付けた。何色にも染まらない唯一の色。私という男女どちらでもない IS”インターセックス”の私を護る”名前”として……

この話を聞いて、真っ先に思ったのは”余計なお世話だ”と言いたかった。別に私は、姉に最強になってもらいたいと思わなかった。ただ、傍に居てくれるだけで……よかったのに………

ISを得た姉さんは、夢中になれるものを見つけて少しだけ嬉しそうだった。私は、幼いながら姉さんが苦労しているのは分かっていた。

そんな姉さんが辛いことを忘れられるのならと……姉さんが傍に居られなくなるのは寂しかったが、私はそれでも良かった………

その頃、私は師匠の言う”護りし者”としての生き方に憧れを抱き、今に至っている。

姉さんは、私に魔戒騎士を辞めて欲しいと事あるごとに言っている。私は辞めるつもりはない。

私のこの手は、姉さんと違って多くの血に塗れている。ホラーに憑依した人間を狩ることは、その人の命を絶つことだから……

人々を護るためとはいえ、罪を犯している事は事実だ。だけど、私は”魔戒騎士”だ。護りし者、闇を照らす希望の光とならなければならない。

たとえ、心を、友を……愛を全てを失おうとも………この”信念”だけは捨ててはならないのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方の駅にはたくさんの人達が居た。帰宅時のラッシュなのか、皆が皆周りを鬱陶しそうにしていた。

「ったく、これだからこの時間は嫌なんだよ」

一人のサラリーマン風の男が苛立つように目の前に来た列車の窓越しから車内を見た。車内は、やはり人で溢れ返っており、乗車することは困難であった。

<申し訳ありません。ただいま、人身事故の影響でダイヤルが乱れています。お急ぎのお客様には申し訳ございませんが、今しばらくお待ちください>

聞こえてきたアナウンスに男は、軽く舌打ちをした。この時間は、特に混む時間である。それで、遅れれば暫くは乗れないし、乗れても降りる駅で降りられるわけではない。

苛立った男は、駅のホームから離れた。ここにいるのが嫌になったからである。

男は駅の中の喫煙所で時間を潰そうと考えていたが……

「おやおや、また人身事故ですか。最近、多いですね、このご時世は」

いつの間にか自分の真横に駅長と思わしき人物が立っていたのだ。

「あぁ、そんな話は良いんだよっ。早く動かしてくれ、言い訳はいいからさっ!!」

苛立ちをぶつけることができた男は、駅長に食ってかかるが、駅長はやんわりとした態度で

「ええ、あなたにこの一線を越えられる覚悟がございましたら、ぜひこちらの路線をお勧めしようと思ったんですが、よろしいでしょうか?」

「なにっ!?動いているのかっ!?」

「はい。私のコネで一般には知られていない路線ですよ。この一線をあなたは、越える覚悟はありますか?」

気が付くと駅には、男と駅長以外の者は誰ひとりとしていなかった。駅長は、男の正面に立ち、足もとを指さす。

「ここが、踏み越えるべき一戦です。どうですか、越えられますか?」

「ああ、何でもいい。早くしてくれっ!!!」

もったいぶるように語る駅長に男は、話を詳しく聞かずに”その一線”を越えてしまった。

「ようこそ、こちらの”世界”へ」

駅長の目に”魔界文字”が浮かび上がったと同時に口から大量の蒸気が噴き出された。

「な、何なんだっ!!?!う、うわあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

口から吹き出された蒸気は、一瞬にして男を包み込み、霧散するように肉体が散ってしまったのだ。

再び景色は、ラッシュでごった返す駅の風景に戻ってしまった。駅長は、先ほど正面に立っていた男が持っていた鞄を一瞥して、人混みの中へ紛れてしまった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 日曜日

一夏は、自身の所属する西の番犬所に足を運んでいた。現世とは違う異界である此処は一般人が決して立ち入ることのできない。

『一夏、ここ最近は苦労を掛けますね』

白い衣を纏った若い男が一夏に労いの言葉を掛ける。

「いえ、特に支障はありません」

『そうですか、お前がISを動かしてから他の番犬所はお前の追放をも叫んでいましたが、我々はできる限り、お前のサポートを行うつもりです』

「こちらこそ、苦労を掛けます」

一夏も頭を垂れ神官に言葉を返した。

「東西南北の番犬所が揉めるのは、仕方ない。最初は、あんたも一夏をいい目で見なかったのに、変わるものだな」

ヴリルが、労いの言葉を掛ける神官に少し皮肉の言葉を掛けた。

「ヴリル、口が過ぎるぞ」

『その魔道具の言葉は事実だ。一夏、お前の騎士としての覚悟と振る舞いは、まさに魔戒騎士として相応しいもの、それを認めなくて何とする』

「あなたには、手を煩わせてばかりです」

『東に移った”あの男”と比べれば、あなたの方が品があります』

この西に所属していた”あの男”こと、涼邑 零。かつて西に居た頃は、数々の掟を破り、番犬所を困らせていた問題児だった……腕が立っていた分、扱いが厄介でもあった………

そんな男でも一夏にとっては頼りになる先輩であるが………

『それと、またIS学園周辺に近づこうとしているホラーが現れました』

神官は、一夏に指令書を手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日、簪と本音は久しぶりにショッピングを楽しんでいた。

「ああ、この女の人の声、おりむーに似てるっ!!」

「ねえ、本音。織斑一夏って、セイ●ーの声なの?」

立ち寄ったアニメショップで流されているアニメに出ているキャラクターの声が、”織斑一夏”と似ているようだ。

「うん、凄く似ているよ。男の子の声じゃないんだ」

男として、それはどうなの?と簪は思った。

「それにおりむーは、凄く優しいんだ。セシリアさんに酷いことを言われたのに、それを笑って許したんだよ」

「そうなの…」

簪は、本音が織斑一夏に夢中になっている事を感じた。それは憧れから来ることに………

「この前の授業で、ISで地面を蹴って跳んだんだ。そしたら、織斑先生に怒られたんだ」

常におりむーはと話す親友に対して、簪は織斑一夏に益々興味を抱いた。

男性のIS操縦者ではなく、一人の人間としてどのような人物で何を思っているのかを純粋に知りたいと思うのだった………

二人は、その後、本音の趣味である着ぐるみの専門店へ行ったり、簪の趣味である特撮ヒーロー関係のショップを巡ったりと楽しい時間を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園へ戻るべく、簪と本音は、モノレールを待っていた。

<線路で事故が発生しました。ただいま、運転を見合わせています>

駅の構内でアナウンスが響いてから、すでに三十分が経過した。直ぐに立て直しがされるであろうと考えていたが一向に改善される様子がない。

「かんちゃん、モノレール遅いね」

簪も本音と同じことを思いつつ、モノレールを待つ。

「おやおや、IS学園の方ですか?まもなく、列車がきますのでもう少しだけお待ちください」

二人の背後に人のよさそうな笑みを浮かべた駅長と思わしき男が立っていた。

「えぇ、まだ掛かるんじゃ……」

本音が言い切る前に、列車が目の前に到着した。

「どうぞ、こちらへ……」

促す駅長に対して、本音と簪は何も疑わずにモノレールに乗り込んだ。

それと同時に、動き出した。だがこの時、二人は気が付かなかった。駅で待っているのは自分たち以外にも居て、その人達がこのモノレールに乗らなかったことに……

二人の姿は突然、消失したかのように駅から消え去ってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

IS学園の屋上で千冬と箒の二人が対峙していた。箒から千冬に話したいことがあって此処に、来てもらったのだ。

「織斑先生、いえ、千冬さん。この六年の間に一夏に何があったんですか?」

不安な表情を浮かべ、千冬に尋ねる箒。対する千冬も一夏の事を思い少しだけ辛そうな表情を見せた。

「ああ、お前も薄々違和感に気づいていたんだな。確かに今の一夏は、お前の知っている記憶とは違う」

「それは一体なんですかっ!?!私にできることがあればっ!!?!」

今の一夏の事を少しでも知りたいといわんばかりに声を上げるが………

「悪いが、お前にできることは何も無い。私や束ですら、”力”が及ばない場所に一夏は居るのだぞ」

「なっ!?!あなたですら及ばないとは、どういうことですかっ!?!!」

「篠ノ之 、私を買いかぶりすぎだ。私を上回る”力”など、吐いて捨てるほど存在する」

千冬の脳裏に一年前の光景が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬

鎧を召還し、奇術師を思わせる異形との戦いの最中、私は一夏を助けようと戦いの中に割り込み

”姉さんっ!!?!!”

ISの絶対防御をも貫通する攻撃に私は、成すすべも無く叩きつけられたのだ。

”一夏、一旦鎧を解除しろっ!!!!このままじゃ不味い!!!!!”

不届きモノが悲鳴のように叫んだ。一夏は、それを聞き入れることなく異形を睨みつけるように立っていた。

”うわああああああああああああああっ!!!!!!!!!!”

一夏の鎧が変化したのだ。大きく盛り上がり、巨大な獣を思わせる姿に……

”ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!”

夜に咆哮する獣が一夏とは思えなかった。鎧越しに見た一夏は………

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、何もできなかったことを千冬は今も嘆いていた。世界最強のブリュンヒルデの称号も何も役に立たなかった。ISも……

ホラーには何もかもが通用しない。ISですらも滅ぼすことが叶わない。例え第六世代を越えても……

「……千冬さん。どうしたんですか?」

拳を握り、震えている千冬に対して箒は戸惑っていた。

「いや、なんでもない。、篠ノ之 悪いことは言わない。一夏の事をお前が好いているのは知っている。だが、一夏に深く踏み込むな」

「………それは、何故ですか?私では、力不足といいたいのですかっ!?!」

「それを言うなら、私も力不足だ。一夏が関わっている闇は知ってはならないんだ」

その言葉に千冬は、噛み締めるように言う。ホラーと魔戒騎士の世界は、多少は裏の世界の事情を知る千冬ですら恐れるもっとも深い闇の世界なのだ。

おそらくは、他の者達も恐れ関わることを避けている。IS委員会を悩ませている”亡霊”ですらも………

「篠ノ之 、一夏の闇には踏み込むな。踏み込んだら、お前は今まで通りにはいかなくなるぞ。私や束のように……」

千冬のいつになく真剣な目に箒は何も言えなくなった……

「それと夜はなるべく出歩くなよ」

背を向け、千冬は屋上から去っていった。その背を箒はただ見る以外に何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬

我ながら、悪役に徹しきれないな。篠乃之には可愛そうだが、お前が闇の世界を知ってしまえば……

何もできない自分自身に苛立ち、間違いを犯してしまうかもしれない。

そうなってしまえば、一夏を再び危険な目にあわせてしまう。今夜もホラー狩りに行くだろう。

相手は、IS学園を目指しているわけではなく周辺をうろついているらしい。まったく、どうしてIS学園に近づいてくるのだ。

腹立たしいが、私にできることは一夏を想う少女を闇の世界に近づけないようにするぐらいだ。それが一夏を想う心を否定してもだ………

一番は、一夏が魔戒騎士を辞め、ISにも関わらずに日常を生きて欲しいこと………

この学園に来ればと……淡い期待すら抱いていたが、それは裏切られてしまった…………

もうすぐ夜が来る……ホラーと魔戒騎士達の時間が始まる……また、私の家族が手の届かないところに………

以前、私は一夏に”お前達、魔戒騎士はいつも親しいものを悲しませているのか”と問い詰めたことがあった。

一夏は”必ず戻る。だから信じてほしい”と言う。これは、あいつが目標とする黄金騎士の言葉であり、その黄金騎士にも愛する者がいる。

その者は、ただ一途に黄金騎士の無事を祈り、会えるときには会えると言っているらしい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏はIS学園周辺の駅にホラーの気配を感じ鈴と共に来ていた。

「くそっ、二人ほど自分の結界の中に招き入れやがった」

「結界か……今、相手は何処に居る?」

「さあな、結界事態がややこしいからな。今日中に探せるか……」

ヴリルの言葉に一夏は、少しだけ口元を歪めた。

「一夏、ちょっと……」

鈴が一夏の袖を引っ張る。この場から移動したいようだ。

「鈴、何か分かったの?」

「ここじゃ、あの子が目立つからこっちに……」

鈴と共に一夏は、駅から少し離れた公園に来た。

「この子が、ホラーの気配を感じているわ」

鈴が連れている魔戒魚が身体を震わせて応える。

「でかしたぞっ!!!」

ヴリルの言葉に気を良くした魔戒魚は宙を撥ね、二人をホラーの居場所まで案内するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノレールに乗り込んだはずであったが、何故か古びた列車の車両の中に二人は居たのだ……

「ねえ、かんちゃん。此処、何処なの?」

本音は、親友である簪に問いかけた。その表情はとても不安げである。

「わからないわ。何処かの誰かが私達を誘拐したのかしら?」

確証はないが思い当たることはある。自身の生まれである更識家は、日本の暗部に所属している。故に他の暗部に関わる者から敵対されている。

このIS学園の裏の事情は姉が対応している。その姉に揺さぶりを掛けようと自分を”標的”にすることは、十分にあり得る話だ。

モノレールなのに、何処か昭和の雰囲気を放つ奇妙な列車の中に迷い込んでしまった。

乗客は誰ひとりとしておらず、照明器具もまばらで薄暗く、吊皮が不自然に揺れている。なにより、窓の向こうの景色が見えないのだ。

夜でも外の街灯は確認ができるのに、それが確認できないのは、はっきり言って異常だ。誘拐にしても、あまりにおかしすぎる。

簪自身も不安ではあるが、親友が一緒にいる以上取り乱してはならないという考えから、彼女自身が驚くぐらい冷静でいられた。

「はははははは、お譲さん達、別に誘拐と言うわけではないですよ。あなた方が、今の自分よりも進みたいと言うことから、この一線を越えられたのだよ」

突然、年齢のいった男の声が社内に響いた。いつの間にか自分達の前に立っていた。

「……っ!!?!」

「……おじさん。誰なの?」

簪は、現れた人物に対して驚きながらも警戒の色を浮かべた。先ほどまで居なかったのに、今まで居たかのような存在感を持つ人物に只ならぬモノを感じたからだ。

本音は、そんな簪の気持ちを察せず男に問いかけてしまった。

「先ほどお会いしたではありませんか、私は、先ほどの駅長であり、ここの列車の車掌だよ。お譲さん」

車掌は好意的な笑みを浮かべた。本音は、安堵の息をつくが、簪は彼女を庇うように前に立ち、

「だったら、この列車はどこへ向かっているんですか?他の人たちは何処に?」

少しばかり目を鋭くして、簪は車掌に問う。状況があまりにもおかしすぎるのだ、誰ひとりとしていない列車。突然現れた車掌など、考えれば考えるほどおかしい。

「ああ、他の者たちは私達が”食った”。皆、自ら”一線”を越えてしまったのだ、皆、日常には未練はなさそうだから、罪悪感は感じないがね」

「………食べた……食べたって、どういうことなの?車掌さん」

本音は、気味の悪いことを言う車掌に恐怖すら感じていた。彼女も気づき始めたが、この状況は明らかにおかしすぎるのだ。

「ふざけないでっ!!!!真面目に答えないと私にも考えがあるわっ!!!!!!」

簪は自身の専用機である打鉄弐式を展開させる。ISをここで勝手に使うものなら、重大な問題ではあるが、この状況を打開するには、これしかないと簪は考えたのだ。

「……ほう、ISか。となると君は、代表候補生かな?これは、そのまま食べるのは失礼だな」

先ほどの人のよさそうな笑みとは違う悪意を持った笑みに、簪は牽制と言わんばかりに近接用の武装であるナギナタを展開し、それを車掌に切りつけるのだが、

「おやおや、脅しで私を制することができると思うのかね?悪いが、その甘い考えは捨てたほうが賢明だよ」

車掌は、恐れることなくISの武装を素手でつかんだのだ。只の人間であるはずの彼はあろうことか力づくで武装を簪からもぎ取ったのだ。

「ええっ!?!!」

本音は、目の前で起こった光景に対して声をあげてしまった。それは簪も同じだった。ISの力は、人間はおろか既存の兵器を上回るものなのに、こんなことができる人間が存在するなどあり得ないからだ。

「”IS”の力では、私は、倒せないっ!!!!」

車掌はそのまま、ナギナタを砕いたのだ。ただ砕いたのではなく、奇妙にゆがみ、まるで粘土細工のようにボロボロに腐ったのだ。

「そ、そんなっ!?!なんでっ!?!」

驚きの声を上げる簪は、すぐに冷静さを取り戻し

「本音っ!!!早く逃げてっ!!!!

今、親友を護れるのは自分だけだと思い、簪は背中に搭載されている荷電粒子砲で再び牽制を図るが

「先ほども言ったが、牽制などと言う甘い考えはよした方がいい」

右手を正面に掲げると同時にすさまじい衝撃が簪を襲う。

「きゃあっ!!!!」

絶対防御すらすり抜け、はるか後方まで吹き飛ばすほどの衝撃だった。簪は倒れ、ISも解除されてしまった。

「か、かんちゃんっ!!!!」

急いで簪の元へ駆け寄ろうとする本音であるが、その行く手を阻むように車掌が彼女の肩を掴んだのだ。

「君には、まだ役目があるのだよ、お譲さん。君をまず最初に喰らい、あの娘に絶望を見せつけねばな」

車掌の力は凄まじく、一介の女子である本音では振りほどくことはできなかった。

「やっ、は、放してよっ!!」

「本音を放してっ!!!!!」

本音と簪の言葉を無視するように車掌は、口を開け、彼女を喰らおうとしたその時だった。

突然、車掌の正面に奇妙な文字を含んだ円が現れ、吹き飛ばしたのだ。本音はいきなりの事に唖然としてしまった。

何が起こったのかまったくわからなかったのだ。

「間一髪だったわね。ここの”結界”を探すのは苦労したわよ」

本音が振り返るとそこには、転校生の凰鈴音が大きな筆を携えて立っていた。背には大きな旅行カバンも……

「リンリン、どうして此処に?さっきのは、一体何?」

よくわからない事態に対して、本音が聞き出そうとするが……

「それは今、ここで言うべきことじゃない」

応えたのは、簪の隣に立っていた織斑一夏であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、とんだ邪魔が入ってくれたものだな。貴様、”魔戒騎士”か?」

制服に着いた汚れを払いながら車掌は、腰を上げて一夏に問う。

「ああ、そうだ。お前達を”狩る”ものだ」

「一夏、気をつけろ。こいつの名は、スチーム。性格の悪さで有名なホラーだ。少し厄介だぞ」

ヴリルが目の前にいるホラー スチームに対して解説する。

「性格が悪い?心外だな。私は日常に不満を持ち、一線を越えたいものだけを喰らう。他のホラーと違い、健全だとは思うのだが……」

「何を言う。お前のはっきりしない言い方では、そうは聞こえない」

一夏がスチームの言葉を否定する。否定されたスチームは、少しだけ頬を歪ませ

「くくく、随分な良いようだな。まあいい、食事の前に少しだけ運動をするのも悪くはない」

「その食事にありつくことは永遠にない」

魔戒弓を構えて、一夏はホラー スチームと対峙する。

 

 

 

 

 

 

「布仏さんとそっちの子。早くこの場から退散するわよ。一夏の邪魔にならないように……」

鈴は、二人にこの場から共に離れる事を促す。

「え、でもおりむーが」

一人、あの恐ろしい存在に一夏が戦うことに本音は不安を覚えていた。ISですら倒してしまう恐ろしい相手なのだ。

特に簪は、相手の恐ろしさを間近で接したために不安は本音の比ではなかった。

「大丈夫よ、一夏は必ず戻ってくるわ。絶対に勝つから」

「そんな根拠はどこにあるの?」

「根拠ね……それは、アタシが一夏の”強さ”を信じているからよ。魔戒騎士、ううん”護りし者”としての一夏を……」

鈴の目は、何よりも真剣であった。純粋に一夏を信じているのだ勝利することを………

彼女の真剣さに充てられた二人は、促されるようにこの車両から離れるのだった。

車両から飛び出した鈴の前に、自身の相棒である魔戒魚が現れた。

「ありがとう。出口までお願いね」

宙を舞う魚に対して、簪と本音は驚いたが、そんな状況ではないと察し鈴の護衛と案内の下、結界の外へと抜けたのだった………

 

 

 

 

 

「あの小娘達が無事で帰れると思っているのかね?思っているのなら……甘い」

スチームの言葉に一夏は

「私は、鈴を信じている。彼女は、私と共に戦う”魔戒法師”だから」

「くくく、ならばお前を倒し、絶望させてやろう!!!!!」

スチームは、一気に距離を詰めるべく駆けだし蒸気を纏った拳を一夏に叩きつける。

魔戒弓でこれを一夏は防御する。拳に籠っている蒸気の暑さが僅かだが伝わってくる。

「気をつけろ一夏。こいつに掴まれたらやばいっ!!!」

ヴリルがスチームの戦力を分析し、一夏に伝える。確かに掴まれたら火傷だけでは済まされないだろう。

その間にもスチームと一夏の攻防は続く。長身の身体を生かしたスチームの蹴りと拳は一夏の急所目がけて放たれるが、一夏はこれを魔戒弓でいなし、切りつける。

振われた刃をスチームは、蒸気を纏った手刀で受け止めてカウンターの浴びせる。

「くっ!?!」

カウンターが一夏の頬を僅かに掠め、蒸気の熱のためか頬が少しだけ赤くなる。火傷をしたためである。

「ハハハハ、少しは男らしくなったのではないか?」

スチームが一夏に対して余裕の言葉を吐く。対する一夏は、いつものように……

「私は、どちらでもない。だから、この顔に傷を付けられてもどうとは思わない」

内心、姉か鈴に知られたら怒られるだろうと思いながら、一夏は反撃のために距離を取り、矢を放った。

「おいおい、一夏。女が顔を傷つけられて、その台詞はないぞ」

「うるさいぞ、私はどちらでもない。だから別にどうということはない」

場違いな台詞を言うヴリルに怒りながらも一夏は、スチームに対し 立て続けに矢を放つ。

スチームは矢を徒手空拳で弾くが、時間差を置き虚を突くように放たれる矢にはさすがに反応しきれなかったのか、身体に受けるてしまった。

放たれた矢は、肩と左膝に突き刺さる。それを確認したうえで一夏は距離を詰め、刃で切りつける。

これを再び迎え撃とうとするモノの肩をやられ、うまく動かすことができずに反応が遅れてしまい、スチームは正面から鋭い斬撃を受けてしまった。

さらに追い打ちを掛けられるように一夏から強烈な拳が顔面に胸部に蹴りが加えられて、スチームは後方に倒れてしまった。

被っていた帽子も飛ばされ、一夏の足もとに落ちていた。

「はははははっ!!!!随分とやってくれるではないかっ!!!!さすがは、あの織斑千冬の弟、いや、妹か?」

「私の事を知っているのか?」

スチームは、痛む傷にうめきながらも言葉を続ける。

「ああ、あの女には本当に感謝している。お前と言う”存在”のために、この世界を我々が住みやすい場所に変えてくれたことを…そうそう、篠乃之博士にも感謝だな」

立ち上がったスチームはさらに

「それにしても皮肉なモノだ。お前のために世の中を変えた姉の成果をお前が否定するとは……」

「ああ、確かに姉さんは越えてはならない一線を越えてしまった。だけど、まだやり直せる」

一夏は、千冬が自身に言う”まだやり直せる”と言った言葉をそのまま自身が口にしたことに驚きながら……

「たとえ世界が醜く姿を変えたとしても、そこに愛する者、護りたい者が居るのならば、私たちは前に進める。どんなに辛くとも乗り越えられる」

一度変わってしまった世界は、二度と元には戻らない。だけど、それを悪い方向ではなく良い方向に持っていくことも可能なはずだ。

闇に包まれてもそれを切り裂く希望がある限りは………

「そうか……ならばそれを乗り越えてみるのだなっ!!!!!」

スチームは身体から蒸気を大量に吹き出したと同時に頭上へ勢いよく飛びあがった。車両の屋根を突き抜けた。

それを追うように一夏もスチームが開けた穴へ飛びあがった。

飛び上がったと同時に、強烈な熱を持つ鉄の塊が向かってきたのだ。それを魔戒弓でいなし、屋根に立ち、視線を前方に向けた。

そこにはホラーとしての姿に変化したスチームの姿があった。特長的な三角系の頭、目深に帽子をかぶった駅長と出っぷりとしたお腹と脚が特徴的で至る所から、配管が出ている。

生き物と言うよりもロボットと言った方が近い外見である。

スチームの手は、五指が異様なまでに長く太い。指と言うよりも五つの大砲としかいえない。蒸気が身体の配管から吹き出すと同時に五つの大砲から攻撃を仕掛けてきた。

そられの攻撃を避けるのは困難であうと判断したのか一夏は、鎧の召喚を行う。いつものように頭上に掲げるのではなく正面に円を描き、そこへ駆けだすと同時に鎧が装着された。

緑の目を持った蒼い狼を模した騎士が、大きく変化した魔戒弓をスチームの攻撃にひるむことなく突き進み、肘ごと切り伏せた。

腕を失ったスチームは、バランスを崩しよろめくが、反対の腕で蒸気の力を上乗せした拳を一夏に叩きつけるものの、そのまま掴まれ逆にねじ伏せられてしまった。

「はあああああああっ!!!!!!」

一夏は渾身の力を込めた蹴りをスチームの大きく出た腹に加え、車両の屋根から落としたのだった。

屋根から落ちたスチームは、態勢を整えようとするのだが、迫ってきた一夏に大きく振りかぶった魔戒弓による斬撃により真っ二つに切り裂かれスチームはそのまま弾けるように消滅してしまった。

消滅したスチームに合わせるように結界が消え、どこか分からない古びた駅の構内に一夏は佇んでいた………

「なあ、一夏。本当はお前、顔を傷つけられて怒ってたんじゃないのか?」

ヴリルが改めて一夏に聞くが、一夏は無言のまま頬につけられた傷を抑えてこの場を後にするのだった………

その後、学園で鈴と合流し頬の傷を指摘されたのはいうまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、IS学園の中庭で一夏と鈴、本音と簪の二人が居た。

二人から一夏と鈴を誘い、この場に来ているのだ。

「ねえ、おりむー、昨日のアレは何だったの?」

「……………」

本音と簪は、昨夜の事を一夏に尋ねた。

「アレは、魔獣 ホラー。遥か古の時代より闇の潜んでいた魔獣。奴らは、人間の魂と肉体を食らうためにこの世界に現れる」

「昔から…ISができる前から居たの?」

簪の言葉に一夏はうなずく。

「そうよ、中国四千年の歴史よりも前から居たわよ」

鈴が応える。

「それ以上のことを知る必要はありませんわ」

そこへ本音が大人びた容姿の女生徒が現れた。一夏達を睨むように立つ。

「お、お姉ちゃん。」

「虚さん」

虚と呼ばれた女生徒は、本音と簪の二人に

「あなた達は、下がりなさい。これ以上”魔戒騎士”には関わってはなりません」

「それって、どういう……」

「質問は許しません、本音。あなたは知らないでいいの。昨日のことは悪い夢だと思いなさい」

虚は睨みを聞かせながら、一夏と鈴を見る。

「昨晩、妹と簪お嬢様を助けて頂いたことには感謝します。ですが、これ以上ここの生徒たちとは、関わらないでください」

言われなくても一夏と鈴は分かっていた。本来、自分たちはこちら側の人間ではないのだ。

自分たちが関わることで、闇の世界の存在を知ってしまう。

「分かっているよ。私たちがここでは、異物でしかないことは……」

一夏の言葉に鈴も同意するように頷いた。

「そうですか、本当ならあなた方の入学は反対だったのですが……関わらないようにと言っておくぐらいしか『虚。そういう訳にはいかないじゃない』

虚の言葉を遮るように第三者の声が響いた。

「会長……」

現れたのは、簪が大人びたような外見の女生徒だった。

「あなたは……」

「私の名は、更識楯無。ここの生徒会長よ、織斑 一夏さん。いえ、織斑 一夏君と言った方がいいわね」

楯無は、一夏に対して何かを含むように言う。これに対し、一夏は少し睨みを利かせるが

「うふふふふ、そう睨まないで。あなた、とっても可愛いんだから」

「男がそう言われても嬉しくはないよ、更識 楯無 生徒会長」

「更識?てことは、お前が番犬所が言ってた協力者か?」

ヴリルが会話に入ってくる。まさか、ここで更識の名を聞くとは思わなかったからだ。

「ええ、そうよ。もしかして、魔導具って奴?話には聞いていたけど、本当に喋るのね」

一夏は、胸からヴリルを取りだした。アクセサリーが喋るのを見て、鈴以外の面々が驚いていた。

「しゃ、しゃべった……」

「んなことは、どうでもいい。更識 楯無 生徒会長。まさか、おおっぴらにその名前を名乗ってるんじゃないだろうな?」

少し気になったのか、ヴリルが楯無に聞いてみた。

「ええ、そうよ。私の名前は更識楯無って、さっきから言ってるじゃない」

その言葉に一夏は……

「ヴリル、更識楯無は隠し名だったよね」

「……ああ、そのはずだったんだが……世の中、随分と変わった物なのかね~」

すっとぼけたようにように返すヴリルに一夏、鈴は呆れた視線を向けるのだった。

「ふふふ、その辺りはいいわ。お姉さん。あなたがちょっと気になってるのよ、織斑君」

楯無は、扇子を手にとって笑みを浮かべる。その笑みは、虚がよく知る楯無の悪癖ともいえるものだった。

「お嬢様。この場では、お控えください。魔戒騎士に面白半分に関わっては……」

「番犬所からの要請は受けるわ。だけど協力者として、あなたの実力が見たいわ。だから、あなたにISで勝負を申し込むわ。織斑君」

「お嬢様っ!!!!」

虚の言葉を無視するように飄々と一夏と話を進める楯無に苛立ちを覚えた。だが、虚は何も言えなかった。

番犬所からの要請は、断ることができない。

更識家は、日本の暗部に関わる影の一族である為に闇の世界には少なからずの関わりがある。

魔戒騎士を擁する”番犬所”とは、それなりにつながっているのだ。過去に前当主が黄金騎士とも交わったことがあるが、それはISができる前の事である。

「断ってはだめよ。男の子が売られた喧嘩を買わないのはどうかと思うわよ。女の子でも挑戦は受けるわ」

やはり一夏に対して含む言い方である。一夏は……

「分かった、そうまで言われたら受けないわけにはいかない。受けよう、その挑戦」

「良いわよ、それでこそ”男”だわ。勝負の日取りは後で連絡するから、それまで楽しみにしていてね」

軽く手を振って、楯無は虚を伴って去って行った……

その様子に一夏、鈴は、

「一夏……アタシ達、平和な学園生活を送れそうにないわね」

「ああ、そもそも私が此処に居る時点で、そんな物はなかったのかもしれない……」

二人の会話に、簪と本音は何も言うことができなかった。

分かってしまったのだ。自分たちが知らない世界があり、その世界で自分たちの力があまりに無力であることを……

 

 

 

それから間もなくして、一週間後に第一アリーナでの試合が伝えられた………

 

 




次回は、更識楯無との対決です。それでは、予告を!!

ぶつかり合う誇りと誇り。

学園最強を称する国家代表の”強さ”は半端じゃない。

次回!「更識 楯無」

霧を晴らす騎士の刃が導く蒼天をその目に焼き付けろ!!!!


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