あっ、あけましておめでとうございます
こんな拙い作品ですが、今年もよろしくお願いします
◇
一週間後。
第三アリーナで一年一組のクラス代表を掛けた試合か行われた。
その結果はーー
「あれだけの大口を叩いておいてこのザマとはな。 何か申し開きはあるか、ん?」
「いえ、言い訳のしようもございません、ちふ……織斑先生」
ーー自らの武装によるエネルギー切れで惜敗。
そのような、まるでギャグ漫画のような敗北を喫した本人は、ピット内にて学年主任の冷たい視線に晒されながら眼前に正座していた。
「ま、まあまあ織斑先生。 織斑君も凄かったじゃないですか。 とても数週間前に初めてISに乗った子とは思えない動きでしたよ?」
「山田君、気遣いは無用だ。 大体、浮かれて対戦相手の隠し玉を受けるなど笑い話にもならん。 貴様があそこまで善戦出来たのは、機体の性能に過ぎん。 それは理解しているな、織斑?」
「はい、織斑先生の仰る通りです」
自分でもとんだ醜態を晒したと自覚しているのか、コンクリートの床に平服するしか無い一夏。
優がピットに入った時に目に付いたのは、そんな光景だった、
「何やってんですか、織斑先生……初試合だったんですから労いの言葉くらい掛けてあげましょうよ」
「無用だ。 こいつは甘い顔をするとすぐ浮かれるからな。 二ノ宮先生も見ただろう」
「まあ、確かにあれはちょっと迂闊だとは思いますけど……それより、俺からもちょっといいですか?」
そう言って、返事を待たず一夏の前にしゃがみ込む優。
「な、何ですか二ノ宮先生?」
戸惑う一夏に対し、優は両肩に手を置くと真剣そのものの顔でこう告げた。
「悪い事は言わない。 あのISは即刻開発元に返せ。 あんなのに乗ってたら人生破滅するぞ」
「なっ……そ、それってどういう事ですか!?」
突然の忠告に思わず面喰らう一夏。
「考えても見ろ。 最後のあの攻撃、相手のシールドを無視してなかったか?」
「そういえば、シールドバリアを切り裂いてたような……け、けど専用機って言っても公式競技用なんですし、相手に怪我させるような装備なんて積まないでしょ?」
その言葉に反論したのは、学年主任だった。
「いやーー一つだけある。 私が現役時代に乗っていた機体の
「絶対防御……って、確かシールドバリアを貫通するような攻撃に対して大量のエネルギーを消費して威力を相殺する機能でしたっけ?」
「そうだ。 言うなれば、人殺しの兵器を撃ち合う「戦闘」を「格闘技」として成立する為の安全装置のような物だと思えばいい」
学年主任がそこまで言った時、一夏が何かに勘付いたように顔を上げる。
「ちょっと待ってくれ千冬姉! 絶対防御を切り裂くって、それってひょっとしてとんでもなくマズくないか!?」
その問いに、学年主任は一夏ーーいや、一夏の腕に装着された
「貴様の言う通りだ。 その点では、貴様のつまらんミスに感謝すべきだろうな。 何せ、あの場面で試合終了のブザーが鳴っていなかった場合、下手をすればオルコットは貴様に両断されていただろうからな」
その言葉に、一夏は目に見えて青褪める。
「……確かに、白式は倉持技研に返却した方が良いだろう。 初心者が扱うには色んな意味で危険過ぎる」
「で、ですね……でも、返却するにしたって先方が納得するでしょうか?」
不安気な山田先生の言葉に、優は固い表情を崩す事無く返す。
「返却に応じなくても、せめてその単一仕様能力だけでも封印しとかないと危なくて仕方ないでしょ。 このまま使い続けて下手に他国の代表候補辺りに重傷を負わせようものなら、所属国に賠償として何を要求されるかわかったものじゃないですし、怪我させた織斑の方も一生モノのトラウマになりかねませんよ」
その言葉に、一夏は学年主任に向かってブンブンと首を縦に振る。
「……わかった。 倉持技研には私から話を付ける。 それまで白式はとりあえず私が預かろう」
弟の様子に呆れ顔で溜息を吐きながらも、一夏から白式を受け取る学年主任。
「織斑。 専用機の件に決着が付くまでの間、貴様には練習機の優先使用権を与えておく。 万が一白式をそのまま使う事になった時の事を考え、機動訓練だけはしっかり熟しておけ。 以上、解散!」
◇
一時間後。
優は校舎裏で一息吐いていた。
「ったく、倉持の奴等も何考えてんだ。 スピード全振りの機体に使用しただけでエネルギーバカ食いする武装持ちってどう考えても初心者に渡す機体じゃないだろ。 ……もしかして倉持の奴等、データ取り名目で失敗作押し付けたんじゃないだろうな?」
一夏に渡されたISのあまりの酷さに、他人事ながら愚痴が止まらない様子の優。
煙草を持つ手にも思わず力が入る。
その時。
「……あれ? 二ノ宮先生?」
突如横手から掛かった声に振り向くと、そこには優の受け持つ二組の生徒が立っていた。
名前は確かーー
「野崎? どうした、こんな所で」
「先生こそ、こんな所で休憩なんて珍しいですね」
〈
二組のクラス代表に選ばれる程の優等生だが、周囲からは人当たりは良いものの少々気弱な一面も見受けられる少女として認識されている。
「そりゃまあ、俺だって人間だからな。 おっと、煙いだろ」
そう言って吸っていた煙草を消そうとするが、それより先に秋穂に止められる。
「大丈夫ですよ、煙草の匂いって嫌いじゃないんです。 そういえば、先生って煙草を嗜むんですね。 ちょっと意外です」
「まあ、年頃の女子の真っ只中で吸う訳にもいかないしな。 結構ヘビースモーカーなんだよ俺」
実際、周囲にに年頃の女子が居る環境という事もあって現在はなるべく控えているものの、以前までは一日に箱の半分は消費していたくらいには愛煙家だったりする。
尤も、彼の双子の妹である優子は優の愛用するマイルドセブン以上に吸い味のきついハイライトを一日一箱空にするヘビースモーカーなのだが。
「そういえば、ここには良く来るのか?」
「ええ、ここって滅多に人が来ないので、良く一人で読書する時に訪れてるんです」
「そうか、邪魔してしまったかな」
「いえ、お気になさらず」
そう答えると、野崎は小脇に抱えていた小説らしき本を読み始める。
「……織斑君、凄かったですね」
ふと、本に視線を落としたままポツリと呟く野崎。
「ん? ああ、あの試合か。 けど、あれって殆ど運任せみたいなもんだろ」
「ですが、最後のあの挙動は専用機の性能を考えても凄いですよ。私だったら絶対途中で堕とされてます」
「そんなもんかね……」
野崎の呟きに、煙と共に曖昧な返事を吐き出す。
「……才能って、残酷ですよね」
「へ?」
「私、こう見えても事前の適性検査でB判定を出したんです」
「へえ、適性Bなら中々のものじゃないか」
「検査官の人にもそう言われました。 それで、将来IS関連の仕事に就ければ生活も安定するし、お母さんにも楽をさせてあげられるかな、って……そう思って、この学園を受けたんです。 実技試験でもいい所まで行けましたし、先生からも筋が良いって褒められて、これなら何とかやっていけるかなって思ったんですけど……」
そこまで言って、顔を伏せる野崎。
「で、織斑の試合を目の当たりにして意気消沈って訳か? あのなあ、オルコットは数年前から英才教育を受けてるし、織斑だってISは初心者でも剣道なら全国大会に出れるレベルだぞ。 この前まで一般人だった野崎とはそもそもの経験値が違うんだから比べられる訳無いだろ」
「ですが……」
「元々のスタートラインが違うんだから、スタート直後で差が付くのは当たり前だろ。 けどな、途中で「追い抜けない」なんて誰が決めたんだ?」
その言葉に、野崎は弾かれたように顔を上げる。
「俺さ、高校の時空手で日本一になった事があるんだけど……空手を始めたのって「中学に入って」からだぜ?」
そう言って、野崎に笑い掛ける優。
「それに、昔から言うだろ?「駄目で元々」って。 だからさ、やるだけやってみようぜ」
その言葉に、苦笑気味ではあるものの笑みを浮かべながら答える野崎。
「駄目で元々って……色々台無しですよ、二ノ宮先生」
「あ、やっぱり?」
「でも……ちょっと気が楽になりました。 そうですよね、何事もやってみなければわからないんです。 織斑君だってあそこまでやれたんです、私だって!」
そう言うと、気合を入れて立ち上がる。
「二ノ宮先生、ありがとうございます。 私、自分に出来る事を、やるだけやってみます!」
「ああ、やってみろ。 俺だって日本一になれたんだ、野崎だってきっとやれるさ」
「はい!」
その返事を最後に、野崎は校舎へと去っていった。
「……まあ、その時の決勝で無茶したせいで二度と右手で拳を握れなくなったんだけどな」
野崎が曲がり角の向こうに消えたのを確認し、寂し気につぶやく優。
「けどまあ、こうして教師らしい真似が出来るんなら、右手の犠牲も無駄にはならなかったのかもな。 さて、俺もそろそろ戻るーー」
その時、優の台詞を遮るかの如く世界が「減速」した。
『な……っ!? な、んだ、これ!?』
優の疑問に答えるかの如く、スーツのポケットに入れていたスマホから警報が鳴り響く。
『この警報……まさか、これが〈どんより〉!?』
どんより。
正式名称は〈重加速現象〉。
意識はそのままに、自分の身体を含めた周囲の全てが「減速」する感覚に襲われる現象の事を指し、とある研究家により「意識だけが加速しているようだ」という理由で名付けられた。
数ヶ月前、世界規模でこの現象が起き、多大な被害が発生した事から、人々はこの現象を「自分達の身体が重くなる」ようだという事でどんよりと名付け、恐れてきた。
今では、データ通信関係のみは重加速の影響を受けない事が判明しており、重加速現象の発生とその範囲を測定する「どんよりチェッカー」なる無料スマホアプリまで普及している程だ。
当然、優のスマホにもインストール済みであり、その警報が作動しているという事は、現在起こっているこの現象は重加速だという事になる。
そして、この重加速現象にはもう一つの噂がある。
それはーー
『ーーまずい! 確か、どんよりって
脳裏に浮かんだ可能性に、慌てて校舎に向かおうとする優。
だが、意識に身体の動きが付いて行かず、その場から動くのもままならない。
『くそっ、こんな時に……!』
焦りばかりが募る。
何せ、最近起こってえる重加速現象は範囲こそそれ程広くは無いものの、優の居る場所には先程まで野崎が座っていたのだ。
下手をすれば野崎が巻き込まれていても可笑しくは無く、そして、もし怪物の噂が本当ならーー
『くそっ……動け……動けよ……』
『動けええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』
《ーーPARA-RIRA!!》
『へっ? ーーうわあっ!?」
クラクションのような音が聞こえたーーそう思った瞬間。
優の身体は前方に投げ出され、思い切り地面に倒れ込んだ。
「ぶっ!? ……あ、あれ?」
したたかに打った鼻をさすりながら立ち上がる優。
その身からは、先程までの重圧は綺麗さっぱり消えていた。
重加速現象自体が解消されていないのは、周囲の木々の揺れ等が未だにスローのままである事から推察出来る。
なら、何故自分だけがーーそこまで考えた時、顔を押さえている右手に何かを握っている事に気付く。
「何だこれ……ミニカー? いや、バイクか?」
それは、バイクを模した白いミニカーだった。
「こんなの持ってたっけ……」
思わず首を傾げる優。
すると。
《PARA-RIRA!》
「うわっ!?」
突如手の中のミニカーからクラクションが鳴り響き、思わず放り投げてしまう。
その瞬間、優の身体にまたしても重加速現象の重圧が襲い掛かりーー
《PARA-RIRA!》
ミニカーが投げ出された優の手に器用に着地した瞬間、嘘の様に消失した。
「っと! ……もしかして、お前が?」
《PARA-RIRA!》
返事代わりにクラクションを鳴らすミニカー。
どうやら、これが言葉の代わりらしい。
「こいつ、一体…って、そんな事より!」
大事な事を思い出したかのように、スーツからスマホを取り出し起動させる。
「どんよりチェッカー」を確認する為だ。
「……やっぱり! 発生原は野崎の向かった方だ!」
それだけ確認すると、優はミニカーをポケットに押し込み走り出した。
次回は戦闘回の予定です
更新速度が早くもどんより……
次回も気長にお待ちください