◇
「ふーん、彼が「あの子」が選んだ子か」
校舎の屋上、転落防止用の柵の上に、青いエプロンドレスの上に白衣を羽織ったピンク髪の女性が腰掛けている。
「ちょーっと頼りない感じだけど、芯は強そうだし……ま、いっか。 「あの子」の目を信じてみよっと」
その言葉と共に懐からバイクのマフラーを模した何かを取り出すと、躊躇う事無く眼下へと放り投げる。
「後は君次第だよ、ヒーロー君」
そう言って笑みを浮かべる女性の頭の上で、メカニカルなウサギ耳が揺れた。
◇
「っと!? ……何だこれ?」
突如目の前に何かが落ちてくる。
拾い上げてみると、それはバイクのマフラーのようなデザインをしていた。
《PARA-RIRA!》
クラクションと共にポケットから飛び出すと、光のレールを展開し優の腰の周りを周回するミニカー。
「……付けろ、って事か?」
《PARA-RIRA!》
半信半疑といった感じながら、ミニカーの指示(?)に従いマフラーーいや、バックルを腰に当てる。
すると、自動的にベルトが展開し、優の腰に巻きついた。
「ベルトだったのか……おっと」
優の見ている前で、バックルがひとりでに展開。
アイドリング音にも似たサウンドを鳴らし始めた。
「これ、どうすればいいんだ?」
首を傾げる優の手に、ミニカーが飛び込んでくる。
「もしかして……こうか?」
《Signal-bike!》
展開したバックルのスロットにミニカーをセットすると、軽快なボイスと共にサウンドが暴走族のクラクションを思わせるミュージックに切り替わる。
「何だかわからないけど……やってみるしかないか!」
半ばヤケといった風情ながらも、優は展開したスロットをバックルに押し込んだ。
《Rider!!》
《ーーマッハ!!》
◇
少女は恐怖に震えていた。
「ふむ……中々イキのいい奴だ」
逃げたくとも身体が動かない。
「これなら俺の「パーツ」に相応しい」
叫びたくとも声が出ない。
「さあ、俺と来て貰おうか」
ただ、自分目掛け怪物の手が伸ばされるのを、絶望と共に見せつけられるしか出来ずーー
「ーー何処のカントリーボーイだよお前」
「何? ーーぐおっ!?」
振り向く間も無く、横手から吹き飛ばされる怪物。
『えーーきゃっ!?」
何が起こったのか理解する間も無く、少女の身体が自由を取り戻す。
《マガール!》
声のした方を見ると、肩口にバイクを模した青いミニカーが止まっていた。
「えっと……これは、貴方が?」
《マガール!》
「マガール」としか喋れないようだが、どうやら肯定しているようだ。
「そうですか。 ありがとうございます」
《マガール!》
「気にするな」と言われているようで、少女の顔に思わず苦笑が浮かぶ。
と、少女の前に誰かの背中が立ちはだかる。
「ったく……女の子のナンパの仕方も知らないのかよ」
呆れ気味に吐き捨てるその人影は、一言で言えば非常に「白かった」。
全身は身体の中心に赤いラインの走るライダースーツのような純白の衣装に覆われ、
右肩にはタイヤのようなアーマーが目を引き、
フルフェイスヘルメットの奥には、コバルトブルーの複眼が輝いていた。
その姿はーー正に「ヒーロー」だった。
「貴様……何者だ!」
その問いに、白い人影は苛立ち気味に答える。
「俺だって知りたいよ! ったく、何の因果でこんなヘンテコな格好しなきゃならないんだよ……」
どうやら、人影は自らの格好を気に入っていないようだ。
「悪いけど、マッハで終わらせる!」
その言葉と共に、人影は怪物に向かって駆け出した。
「人間風情が……笑わせるな!」
嘲りの言葉と共に拳を繰り出す怪物。
だが、その一撃は人影の左手に受け流されーー
「はっ!」
鋭い正拳突きが怪物の腹に突き刺さった。
「せいっ!」
更に、深く踏み込んでの肘打ち、
「おりゃぁー!!」
離れた所に上段蹴りが怪物の側頭部を蹴り飛ばした。
「げふっ!?」
なす術無く吹き飛ばされる怪物を尻目に、空手の物と思しき構えを取る人影。
「へえ……結構強いんだな、これ」
「ぐっ……調子に乗るな!」
立ち上がるや否や、今度は怪物が人影に飛びかかる。
「っと!」
「フン! ハアッ!」
どうやら怪物もボクシングを会得しているようで、手数で人影を押していく。
「くっ! っ、うわっ!!」
捌き切れず、強烈な一撃に殴り飛ばされる人影。
「ってて……ん?」
人影がふと目線を下げると、バックル上部のボタンが点滅していた。
「こうか?」
《マッハ!》
人影がボタンを押すと、音声と共にバックル内部に炎のようなエフェクトが巻き起こる。
「何をやろうと無駄だ!」
再度襲い掛かる怪物。
だが、
「はっ! せいっ! よっと!」
怪物のラッシュに対し、今度は互角に渡り合っている。
《マッハ!》
人影がボタンを押す度に、挙動の速度が上がっていく。
そして、
「おりゃああああああ!!」
「ぐごごごごごごご!!?」
「せいやぁーーー!!」
連続突きからの背後回し蹴りが、怪物の胸部に巨大な亀裂を刻むと共に後方へと吹き飛ばした。
「やった!」
素人目に見ても会心の一撃に、見ていた少女も思わずガッツポーズを取る。
「馬鹿な……人間如きに、この俺が……!?」
ダメージを受け動けない怪物に、人影が歩み寄る。
「さて、そろそろトドメを……う、っぐ!?」
その時、突如人影が膝を付く。
「マジかよ……時間制限付きなんて聞いてないぞ……」
少女が知る由も無いが、この時人影のヘルメット内部のモニターには
《バイタルレベル:危険域に突入。 変身強制解除まで2:24》
というメッセージが表示されていた。
「どうやら、貴様のパワードスーツは反動が大きいようだな。 借りを返すと言いたい所だが……今日の所は退かせて貰う!」
怪物もダメージを無視出来ないらしく、校舎の向こうへと走り去っていく。
「いけない、逃げられる!」
少女が焦りの声を上げる。
その時、少女の手元からミニカーが飛び立ち、人影に向かって光のレールを上を駆け抜ける。
《マガール!》
「へ? ……今度は青いバイクかよ?」
《マガール!》
「もしかして、こいつと交換しろってのか? ……ああもう、こうなりゃヤケだ!」
バックルから白いミニカーを取り出し、入れ替わりに青いミニカーをセットする。
《シグナルコウカン!》
《マガール!》
すると、無地だった右肩のタイヤホイールに道路標識のような模様が浮かび上がる。
同時に、右手にタイヤと銃を合わせたような武器が出現した。
「あれは……銃、でしょうか?」
《カクサーン!》
《トマーレ!》
いつの間にか増えていたミニカー達と共にその様子を見守る少女。
「こんなのあるなら最初から出せよ! もうあいつ向こう行っちまっただろ!」
《PARA-RIRA!》
思わず文句を言うが、問題無いとばかりに返事(?)を返すミニカー。
「「マガール」って言ってたよな……もしかして……」
とりあえず銃を向けて引き金を引く。
《シューター!》
だが、音声と共に発射された光弾の軌道は曲がり角の向こうまでは届かないーー
《マガール!》
ーーそう思われた瞬間、光弾の軌道が「曲がる」。
「ぐあっ!?」
曲がり角の向こうから悲鳴が上がる。
「やっぱりか! なら、こいつで!」
《シューター!》
今度は四発程連射すると同時に、バックルのボタンを素早く四回叩く。
《キュウニ! マガール!》
すると、音声の通りに全ての光弾が急激にカーブし曲がり角の向こうへと吸い込まれーー
「ぎゃあああああ!!?」
爆発音と共に怪物の悲鳴が響き渡った。
「なるほどな。 つまり、お前はマッハだから「高速移動」、こいつはマガールだから軌道のカーブって事か。 大分わかってきたぜ」
《PARA-RIRA!》
納得したように頷く人影の眼前に、曲がり角から怪物がよろめき出てくる。
「き、貴様何をした……!?」
「さあな。 さて、俺もそろそろ限界だし……」
《シグナルコウカン!》
《マッハ!》
ミニカーを再度白いミニカーに替え、模様を元に戻す。
すると、再びバックルのスロットが自動的に展開する。
「こうか?」
ボタンが点滅しているのを見て、指示通りに押す。
《ヒッサツ!》
すると、バックルが出力を上げて鳴動し始める。
「なるほど、これが必殺技ね。 じゃあーー」
《フルスロットル!! マッハ!!》
スロットを押し込むと共に、バックルから七色の炎が吹き上がり人影を包む。
そして。
「せいやぁーーーーー!!!」
炎を纏った跳び蹴りが怪物に炸裂した。
「ぐあああああああっ!!」
スパークを上げながら吹き飛ぶ怪物。
そのまま背後の木に叩きつけられ、怪物は動きを止めた。
「ふうっ……何とかなったか」
一息つくと、人影はヘルメットのバイザーを上げる。
すると、ヘルメットから大量の蒸気が噴き出した。
「あー、疲れた……そうだ! 野崎、大丈夫か!?」
「え?」
人影からの問い掛けに、少女ーー野崎 秋穂は思わず間の抜けた声を上げる。
「怪我は無いか? 何処か打ったとか?」
「え、あ、はい、大丈夫ですけど……何処かでお会いしましたか?」
「へ? ……あ、変身してたの忘れてた」
そう言って、バックルからミニカーを取り出す。
《オツカーレ》
すると、その姿は瞬時に彼女の知る人物に変わった。
「に、二ノ宮先生!?」
「あー、まあ驚くよな……俺だって訳が分からないし」
困ったように頭を掻く優。
と、その背中に声が掛けられる。
「……ま、まさか、貴様は……」
「……〈仮面ライダー〉……?」
その言葉を残し、声の主ーー怪物は爆散した。
「仮面……ライダー?」
「さっきの先生の格好の事だと思いますが……」
今度こそ倒れた怪物の残した言葉に、優も野崎も首を傾げるしか無かった。
◇
同時刻、とある場所。
「うーん、システムが上手く働いてないみたいだね。 ほら、〈コア〉がまだ生きてるし」
青いエプロンドレスの女性がモニターを指差す。
そこには、怪物の爆発した跡から飛び立つ銀色の何かが写っていた。
『ふむ……まだ調整不足という事か。 〈りんな〉君、すまないが〈マッハドライバー〉の調整をお願い出来るかね?』
「任せて! 元々あれはこのりんなさんの作品だし、〈クリム〉さんは「彼」のスカウトがあるんでしょ?」
『うむ。 〈ロイミュード〉達の活動も再び活発化してきている今、〈戦士ドライブ〉の誕生を急がねばならない。 済まないが、暫くは〈戦士マッハ〉は君に任せ切りになってしまうが……』
その言葉に、りんなと呼ばれた女性はエプロンドレスを翻しながら笑いかける。
「問題ナッシング! クリムさんは泥舟に乗ったつもりで任せてくれればいいんだよ!」
『泥舟では沈んでしまうのだが……』
りんなの言葉に、クリムと呼ばれた「モノ」は苦笑気味に返事を返した。
「さーて、まずは「彼」に会いに行かないとね。 ついでに「ちーちゃん」と「いっくん」にも会っていきたいけど……」
心底楽しそうに呟くりんな。
その白衣の胸元に付けられた名札にはこう書かれていた。
「特殊状況下犯罪捜査課 客員研究員 沢神りんな」
沢神りんな……いったい誰なんだ……
次回もお楽しみに