IS〜HOLD OUT PLEASE!〜   作:帰灰燼

7 / 10
この話の時間軸は前話の舞台裏みたいな物だと思って下さい

それではどうぞ


番外編 START YOUR ENGINE!!(前編)

 

 

 

 

 

 

 

ーー動けーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

『嫌……お父さん……死んじゃやだ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー動けーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

『……嫌……助けて……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー動けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーきろって言ってんでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーちょぼらっ!?」

 

 

顔面に減り込んだ靴底の感触と衝撃により、少年は夢から引き戻された。

 

 

「ったく……おじいちゃんが呼んでたわよ、仕込みの手伝いしろって」

 

「いってえ……もうそんな時間かよ……」

 

 

少女の言葉に、ぼやきながらも身を起こす少年。

 

そんな少年に手を貸すと、少女も少年に付いて歩き出す。

 

 

(お兄……もしかして、まだあの日の事ーー)

 

 

だが、少女はその問いを口に出す事はしなかった。

 

先程、辛そうな顔で眠り続ける兄を目にしてしまったから。

 

 

(……お兄……)

 

 

 

 

 

 

 

 

2014年12月。

 

その日、世界は静止し、

 

崩壊する筈だった。

 

そしてーー

 

兄、〈五反田 弾(ごたんだ だん)〉。

 

妹、〈五反田 蘭(ごたんだ らん)〉。

 

彼等二人の日常も、またーー崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 

数時間後。

 

祖父の店の手伝いを終え、息抜きとばかりに街頭を歩く弾。

 

その表情は優れない。

 

理由は解っている。

 

先程の夢ーー五反田家の日常が崩壊した、あの光景の記憶を目の当たりにしたからだ。

 

 

「ーー割り切れる訳、ねえよな……俺も、あいつも……」

 

 

約5ヶ月程前。

 

クリスマス・イブの夜、突如世界規模で起こった物理的減速現象ーー〈重加速現象〉と名付けられたその現象と同時に引き起こされた、何者かによる大規模テロ。

 

重加速現象の中でも動けるその者達の破壊活動により、逃げる手段を奪われた多くの人々が犠牲となり、全世界で甚大な被害が齎された。

 

その犠牲者の中には、弾と蘭の父親も含まれていた。

 

弾達二人の眼前で、嬲り殺しにされたのだ。

 

それ以来、蘭は笑顔を失い、働き頭を喪った五反田家は母親も働きに出ざるを得なくなってしまった。

 

かく言う弾も高校に行かず働きに出るつもりだったのだが、祖父の〈五反田 厳(ごたんだ げん)〉に説得という名の鉄拳制裁を受け進学する事になった。

 

幸い、厳の経営する〈五反田食堂〉は近所でも評判が良く、普通に暮らして行く分には問題は無い。

 

それでも、年老いた祖父にばかり食い扶持で負担を掛けてしまうのは、正直心苦しい物がある。

 

まあ、齢八十を越えて未だ筋骨隆々の化け物爺にそんな事を言った日には間違いなく説教という名の拳が飛んでくるだろうが。

 

そういった事情もあいまって、弾は心の奥底に泥のような濁った気分を抱えたまま日々を過ごしていた。

 

だが、弾の憂鬱の原因はそれだけでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《やあ弾。 そろそろ、戦士になる決心は付いたかね?》

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、横手から掛けられた声。

 

弾が溜息と共にその方向に目を向けると、ボディ後部にスペアだろうか、タイヤを据え付けた奇妙なデザインのスポーツカーが止まっていた。

 

 

「あのなあ、またあんたか?」

 

《ふむ……そろそろ、私と共に走り出す決心をしてくれると嬉しいのだが、その様子だとまだ乗り気では無いようだね》

 

「ったり前だろ! 誰だか知らねえけど、姿も見せねえで一方的に勧誘してくる奴を誰が信用するってんだ!」

 

 

乱暴にスポーツカーのドアを開け放つ弾。

 

だが、スポーツカーの中には誰も居なかった。

 

 

「ったく、毎度毎度スピーカー越しにうざってえ勧誘してきやがって……大体、何で俺なんだよ? 俺は見ての通り、ヤル気の無え只の腑抜けだぞ?」

 

 

その問いに、事も無げに答える声。

 

 

《君は超人だ。 只、エンジンの掛け方を忘れているだけだ》

 

「エンジンの、掛け方……」

 

 

何か琴線に触れる物があったのか、謎の声の言葉を反芻する弾。

 

と、その耳に不機嫌そうな声が飛び込んでくる。

 

 

「ちょっとお兄、そんなとこで何やってんのよ。 ーー何このヘンテコな車、お兄の車?」

 

「んな訳無えだろ、俺まだ15だぞ? 」

 

 

背後からの声の主ーー蘭の問いに、呆れ顔で答える弾。

 

だが、横手から弾の発言を否定する声が飛ぶ。

 

 

《いや、この〈トライドロン〉は間違いなく君の物だ。 関係各所にも話は付いている》

 

「はあ? 関係各所って、あんた一体何者だよ?」

 

《私なら、既に君の目の前に居るのだがね》

 

「は? 目の前ってーー」

 

 

見ると、ダッシュボードに妙なメーターが据え付けられている。

 

ふと気になって注目しているとーー

 

 

《ーーようやく気が付いたようだね》

 

 

その言葉と共に、メーター中央のディスプレイにモトクロスヘルメットを思わせる絵が浮かんだ。

 

 

「ここから声が出てたのか! てか……何だこの変なメーター?」

 

 

そう言って、弾がメーターに手を掛けた、その時。

 

 

《ーー変なメーターとは心外だね》

 

 

その言葉と共に、弾の手から飛び出したメーターは、車内を飛び回ると弾の腰に取り付く。

 

側面から飛び出したシートベルトでしっかりと自らを固定すると、得意気な声で告げた。

 

 

《君は私がスピーカー越しに話していると思っていたようだが……残念だったね、私は「ベルト」だ》

 

「べ、ベルト!? てか、離れろこの野郎!!」

 

 

必死にベルトと名乗る謎のメーターを外そうとするが、弾が渾身の力を込めてもビクともしない。

 

そんな様子を、蘭は複雑そうな表情で睨み付けていた。

 

その時。

 

 

「ーー何だ、お前が博士の言ってた「戦士」って奴か?」

 

 

その声に顔を上げると、

 

 

「って、現さん?」

 

「お? 何だ、弾じゃねえか」

 

 

其処に居たのは、いかにも現場主義の刑事といった風貌の男性だった。

 

彼の名は〈追田 現八郎(おった げんぱちろう)〉。

 

弾とは、父親の死により荒れていた頃に知り合い、今では愛称で呼ぶ程の仲となっている。

 

 

「って、この車もしかして現さんのか?」

 

「いや、違うけどよ……っと、ちょっと待て」

 

 

そう言うと、車内に据え付けられた無線からの連絡に耳を傾ける。

 

 

「ーー事件か?」

 

「そのようだな。 ちょうどいい、ちょっと付き合え」

 

 

弾の問いに頷くと、現八郎も車内に乗り込んできた。

 

 

「付き合えって、素人を現場に連れてっていいのかよ?」

 

「こっちにも事情があるんだよ。 それに、お前にも損は無いはずだぜ? 何せーーお前の親父さんの仇討ちに繋がるかも知れねえんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、事件現場。

 

 

「……何だこれ……鉄像か?」

 

 

其処にあったのは、恐怖の表情を浮かべて転がる無数の金属製の彫像だった。

 

 

「只の像じゃねえ。 体温もあるし脈もある、呼吸だってしてる。 つまりーーこの像は生きてるって事だ」

 

「生きてるって……それじゃまるで、この像が元は人間だったって言ってるようなもんじゃねえか」

 

「その通りだよ。 ーーこいつらは全員、鉄の塊にされた被害者なんだよ。 やったのはーー」

 

 

 

 

 

 

 

「ーー〈ロイミュード〉。 だよねー、現さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

現八郎の言葉を引き継ぐように現れたのは、エプロンドレスの上からダボダボの白衣を纏い、ピンクのロングヘアにメカニカルなウサ耳を着けた、常人の感性ならまず人前に出るのが憚られる姿の若い女性だった。

 

 

「何だ、博士も来てたのかよ」

 

「ふふーん、ロイミュード絡みの事件なのに、重加速の権威のりんなさんが出向かない訳が無いのだよ」

 

「重加速?」

 

 

蘭のその呟きに、自分をりんなと呼んだその女性は子供のような笑みを浮かべたまま答える。

 

 

「君たちには〈どんより〉と言った方が馴染みがあるかな? ほら、感覚は普通なのに身体がゆっくりとしか動かなくなるあれの事だよ」

 

「どんより、か……」

 

 

呟く弾の視線の先には、我が子を庇う態勢のまま共に鉄の塊と化した母親の姿があった。

 

 

《ーー見たまえ、弾。 これが奴等のやり口だ。恐るべき人類の敵、ロイミュード……奴等に対抗出来るのは、「戦士」のみ。 そうーー君だけだ》

 

 

ベルトのその言葉に、弾は答える事が出来なかった。

 

何故ならーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーブォン!!

 

 

 

 

 

 

 

「ーーっ!?』

 

 

突如、身体の動きが鈍くなる感覚に襲われたからだ。

 

 

『これーーもしかして、どんより!?』

 

『これがかぁぁぁ!?』

 

 

自分達を襲う減速現象に、蘭も現八郎も必死にもがく事しか出来ない。

 

 

『ーーおい! あんた……って、そういえばあんた名前何だったっけ?』

 

《言ったろう? 私は、「ベルト」だ》

 

『じゃあ、ベルトさん! もしかして、このどんよりもあんたの言う「ロイミュード」って奴等の仕業か!?』

 

Exactly(その通り)!! そら、お出ましだ!》

 

 

その言葉に、ゆっくりと視線を背後へと向ける弾。

 

其処にはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……イキの良さそうな奴だな。 貴様なら俺のパーツに相応しい。 さあーー俺と来て貰うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コブラと頭蓋骨を合わせたような金属製の怪物が、重加速現象の中を平然と歩み寄ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、いう訳でドライブ(予定)は弾でした
となると、チェイサーは誰にしようか……


因みに、番外編は中編も合わせて三話で〆る予定です
……筆が横滑りしなければですが

次回お楽しみに
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