◆
「ぐ……っ!」
弾に近づくなり、首を掴んで吊るし上げる怪物。
体格の良い弾の体躯が、片手一本で軽々と浮き上がる。
『弾!! ちっくしょう、上手く動けねえ!!』
現八郎が怪物に向かって銃を向けようとするが、重加速の中では満足に動きも取れない。
『お兄!!』
蘭の悲痛な叫びが響く。
その時。
《いかん! シフトカーズ、集合!》
ベルトの呼び掛けに応じるかの如く、小さなクラクション音が鳴り響く。
『な、何だ!?ーーうわっ!?』
疑問に思う間も無く弾を掴んでいた腕に紫色の何かが直撃し、地面へと放り出される弾。
「ぐっ……何者だ!」
怪物が振り向くと、炎に包まれた何物かが既に眼前にまで迫っていた。
「ぐわっ!? ーーいでえええっ!?」
顔面に一撃を喰らい尻餅を付いた場所には、全身からトゲを生やした緑色の何かが待っていた。
「お、おのれっ!!」
激昂した怪物が手から光弾を放つが、怪物に攻撃を仕掛けた何物かは器用に攻撃を躱しながら再度怪物に迫る。
「くっ……あの仮面ライダーの仲間か! 覚えていろ!」
その言葉を残し、怪物は足元に光弾を撃ち込むと、発生した土煙の中に消えた。
『……っと! 何だったんだあの化け物……ベルトさん、もしかしてあいつがーー」
《Exactly!! 奴こそがロイミュード。恐るべき人類の敵だ。 そしてーー》
ベルトの言葉を受け、怪物を撃退した者達ーー掌サイズのカラフルなミニカーだった。
《彼等の名はシフトカー。 ロイミュードと戦う、味方だよ》
「味方って、あんたのか?」
《いやーー君のだよ》
そう言って、ベルトは自らのディスプレイに笑顔を映し出した。
◆
一時間後。
「ここは?」
《ドライブピット。 ロイミュードと闘う為の拠点さ》
ベルトの案内で現八郎やりんな、蘭と共に訪れた場所は、自動車教習所の地下に広がる近代的な空間だった。
「ちょーっと狭っくるしい場所だけど、あいつらに対抗する為の設備は一通り揃ってるよ。 この子達もその一つなんだよ」
りんなの言葉と共に、ドライブピットの奥から無数のミニカー達が現れる。
「でもベルトさん、さっきもこの子達だけであの怪物を追い払ってたでしょ。 わざわざお兄が〈戦士〉として闘う必要なんてあるの?」
その問いに答えたのは、りんなだった。
「ちょっとこの映像を見てくれるかな?」
そう言って空中に映し出したディスプレイには、黒いスーツに身を包んだ人物が先程の怪物を倒す映像が映っていた。
「ロイミュードってのはかなりしぶとくてね、外側のボディをぶっ壊しても中身が無事なら何度でも再生しちゃうんだよ。 ほら、これこれ」
りんなが指差した部分を良く見ると、数字の「029」を模した銀色の塊が燃え盛る残骸の中から浮かび上がり飛び去っていく所だった。
「この〈コア〉も相当頑丈でね、特別な自壊プログラムを送り込まないと破壊出来ないのさ。 で、そのプログラムを攻撃に乗せて放つ事が出来るのがーー」
「我々の開発した〈戦士〉という訳だ」
「本当はこの映像に映ってる〈プロトドライブ〉にもプログラムを乗せてあったんだけど、未完成でコアを破壊するまではいかなかったんだよね。 それにーー」
りんなの言葉を引き継ぐかのように現八郎が語り出す。
「俺たち警察じゃあいつらと戦えねえ。 あいつらの引き起こすどんよりの中じゃ、ロクに動く事も出来ねえからな。 けど〈戦士〉なら、どんよりの中でも動けるんだ」
悔し気に吐き捨てる現八郎。
その言葉を引き継ぎ、専用の移動式スタンドに安置されたベルトが弾の眼前に移動する。
《勝手な話だという事は百も承知だ。 だが、今奴等と戦えるのは君しか居ないんだ。 どうか引き受けてくれないか?》
その問いに、弾はすぐに答える事は出来なかった。
「……悪い。 少しだけ時間をくれ」
《いいとも。 出来れば色良い返事を期待しているよ》
ベルトの言葉を背に、ドライブピットを後にする弾。
「……ねえ、ベルトさん。 本当にお兄以外にいないの?」
蘭の問いに、ベルトはディスプレイに悲し気な顔を映しながら答える。
《蘭……君が兄を巻き込みたく無い気持ちも分かる。 だが……》
その言葉に、蘭は俯きながらドライブピットを出ていった。
「……まあ、蘭の気持ちもわかるぜ。 俺だってもし自分のガキがあんな化け物と戦わなきゃならねえって事になったら平静じゃいられねえよ」
現八郎のその言葉に、りんなは先程までとは打って変わって神妙な面持ちで応える。
「それでも、今は彼に頼るしか無いんだよ。 もう「彼」はいないんだ」
その言葉に、彼女の足元のシフトカー達がクラクションを鳴らした。
◆
数分後、とある街頭。
「ねえ、お兄。 本当にあのベルトさんの言う〈戦士〉? になるつもり?」
その問いに、弾は応える事が出来ないでいた。
確かに、戦う事は怖い。
だが、ベルトの誘いを拒む事も出来なかった。
その理由はーー
「まさかとは思うけど、ベルトさん達の「君しかいない」って言葉を間に受けてる訳じゃないよね?」
「……そんなんじゃねえよ」
そう言って、足を早める弾。
だが、あの言葉が弾の心に引っかかっているのもまた事実だった。
(俺しかいない、か……確かに、俺以外にもあの黒い戦士がいるんだから、無理に〈戦士〉になる必要なんて無いのかも知れねえけど……)
そんな事を考えながら、蘭と共に並木道を歩く弾。
その時。
「ーー!? どんより!?』
『お兄、あそこ! 前!』
突如発生した重加速の中、蘭の声に従い前に視線を向ける。
そこにはーー
『……ぁ……っ、が……!!』
先程の怪物に掴まれ、末端から金属に変わっていく男性の姿があった。
『あいつは! ーーっと!?」
怪物の姿を認識した直後、弾の身体が自由を取り戻す。
「何だ今の……って、お前いつの間に!」
見ると、弾の腰のベルトにいつの間にか金属製のホルダーが据え付けられており、オレンジ色のシフトカーがセットされていた。
「お前がいればどんよりの中でも動けるのか……だったら!」
言うや否や、怪物目掛け走り出す弾。
「お兄! いくら何でも無茶だよ!」
蘭が制止の声を上げるも、弾の足が止まる事は無い。
「やめろおおおおお!!」
走り込む勢いのまま怪物を蹴り飛ばす弾。
「ぐっ……邪魔をするな!」
だが、態勢を立て直した怪物の腕の一振りで容易く吹き飛ばされる。
「たかが人間が、重加速のハンデが無くなった程度で勝てると思うな! やれ!」
怪物の呼び掛けに応じ、何処からともなく蝙蝠と蜘蛛を模した二体の怪物が現れる。
「このっ、邪魔すんじゃねえ! うわっ!?」
二体掛かりの猛攻に翻弄され、コブラの怪物に近付く事が出来ない。
その間に、コブラの怪物は再び男性を手に掛けようとする。
(まずい、このままじゃ!)
弾の目の前で、苦悶の表情のまま彫像へと変わっていく男性。
その姿に、脳裏に映るとある光景がオーバーラップする。
降りしきる雨の中、スローモーションのように崩れ落ちる男。
『嫌……お父さん……死んじゃやだ……!』
少女の呼び掛けにも、その身体が動く事は無い。
そして、男を手に掛けた怪物達が少女に迫る。
『……嫌……助けて……!』
悲痛な声を上げる少女の腕が、光の線となって消えていく。
そして。
『助けて……お兄…………!』
(そうだ……思い出した!)
弾と蘭の父親が死んだ、あの運命の日。
父が殺された時も、蘭が助けを求めた時も、弾は目の前にいながら何も出来なかった。
その無力感こそが、弾の心の中に泥のように詰まっていたモノの正体だった。
もし、あの時自分の力で走り出す事が出来たのならーー
《走り出せるさ。 君には、その力がーー〈戦士ドライブ〉の力がある!》
その声と共に、弾に迫る怪物達が吹き飛ばされる。
「あれは……トライドロン!?」
怪物達を跳ね飛ばしたスーパーカーに目を向けると、開いた窓からベルトが飛び出してきた。
《弾! 今すぐ決断しろとは言わない! だが、今はとりあえず身を守る事を考えるんだ!》
手元に飛び込んできたベルトの言葉に、弾はベルトを腰に巻きつつ問い掛ける。
「ベルトさん……俺はどうすればいい?」
《まずはシフトブレスを身に付けるんだ!》
その言葉と共に、横手からメカニカルなデザインのブレスレットが突き出される。
それを持っていたのはーー
「ーー蘭! 何でお前が!?」
「説明は後! 早く!」
複雑な表情で弾の左腕にシフトブレスを巻き付ける蘭。
そして、ポケットの中から赤いシフトカーを取り出すと、ボディ後部を180度回転させて弾に手渡し、ベルトの左上部にあるツマミを捻る。
《ーー弾。 君はかつて大切な者を喪った。 だが今なら、救える。 私と仲間たちがいれば、この重加速の中でも誰よりも速く動ける。 それが〈戦士ドライブ〉だ!》
ベルトから響くアイドリング音の中、シフトカーをシフトブレスにセットする弾。
その視線が、怪物達へと向けられる。
(あの時、俺は何も出来なかった。 いやーー「出来なかった」んじゃない。 どんよりを理由にして、「やろうとしなかった」んだ)
弾の視界に、コブラの怪物の足元に身体の殆どが金属化したまま倒れる男性の姿が映る。
(けど、今は走る為の「力」がある。 あの人を救う事が出来る。 もう、力が無いなんて言い訳で逃げる事なんて出来ない。 だったらーーやるだけだ!)
「ーーもう、考えるのは止めた!」
《ーーDrive!! Type/speeeeed!!》
うーむ……ちょっとヘタレさせ過ぎたかな
次回挽回させよう
次回お楽しみに