宇宙暦0067、6月3日その日アーレンベルグ家には多くの人が集まっていた、彼らが集まってきた理由はアーレンベルグ家の長男ジュン・アーレンベルグの10歳の誕生日を祝うために親類や両親の友人がやってきたのだ。
自分の誕生日を祝うと言う事で控え室にいるジュンは子供の体と言うのは時間経過が思いの外に早く感じる物だと、そしてジオン貴族と言う物がこんなにも旧体然とした、所謂社交界デビューを祝うためにここまでするのかと、面倒だなどと考えて母と共に少し華美な衣装を纏い呼ばれるのを待っていた。
「はぁ、面倒くさい、何で僕がこんな格好をしなきゃなんですか?もう少し落ち着いた衣装がいいのですが…」
そう母親に語りかけるが、母親であるキャスリン・アーレンベルグはジュンの気苦労を知らずかニコニコとしていた。
「ジュンちゃんは、私に似て可愛く育ったのですからそのくらいが丁度いいんですよ。さっきもほらアリナに褒められたじゃありませんか、だからほら笑顔ですよ笑顔、ね?」
そう語りかけるキャスリンとドアの脇に佇むメイド長のアリナを見てため息を付くジュン。
「もうこれで……いいです…」
観念したのかそう、つぶやき椅子に座り直すとドアが開き父が入ってきて、ジュンに語りかけてきた。
「ジュン…その服は母さんの趣味か?似合ってはいるがどうもこれは…」
「父さんは分かってくれます?僕が何度もう少し地味なのをと言っても…」
アーレンベルグ家では男二人の発言力は比較的弱いものだった、父であるライン・アーレンベルグ、旧姓はライン・イノウエである、要はアーレンベルグへ婿入りした形と成るのだ。
因みに当主は母親であるキャスリン・アーレンベルグである。
「ま、まぁいい、似合っていることは似合っているしな…、ジュンそろそろ時間だぞ、それに流石に陛下は来ないがキシリア閣下とガルマ様が御見えだ、お前もガルマ様とは何度かお会いしているだろう?ご挨拶はしっかりしておくんだぞ、それとホールのお客様にもな、よしそれではついて来い」
そう踵を返し歩き出す父の背を追いながらこの世の終わりかと思うほどの憂鬱そうな表情を顔に貼り付たジュンが続いていく。
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「えー、お集まりの皆様、本日は我が息子ジュンの10歳の誕生記念パーティーにご参加下さり誠に有難うございます、私からは堅苦しい挨拶を抜きにして息子からの皆様へのご挨拶と共にこの祝いの席を始めさせたいと思います」
そう言ってラインはマイクを手放してジュンにマイクを渡し少し離れた場所へと移動する。
「えーと…ジュン・アーレンベルグ…です、今日は僕の誕生…日にお祝いに来てくださって…誠に…有難うございます、これから先ジオン公国を支える…礎である…貴族としての自覚を……もって公国に奉仕して行きたいと思います…その際に先達の皆様の…ご助言、ご助力賜りたく…。そして最後ですが…本日はお集まり頂き誠に有難うございます……それではパーティーの方をお楽しみください…」
『どうにか言えたか?だめ?会場が静かすぎるんだけど…』
その後一斉にホールの至るところから拍手が起きる。
「素晴らしいスピーチだ」「文官として栄達できる才能があるな」「いやあの子は武官として才花を開かせるでしょうな」等の声が聞こえてくるが今のジュンにはどうでもいい話だった、今は早くこの場から立ち去りたいと言う一心が彼を支配していた。
しかし会場の声も一様に社交辞令と言うわけでもない、ジオン貴族の社交デビューの挨拶と言うと子供一人で考えなければ行けないのだ、何故そうなったかは歴史の浅いジオン貴族のその他の者も分かりはしないが、そう言う通例があった、大抵は挨拶と簡単な自己紹介と所信表明等で済ませるものだが子供の考えた言葉、親が少し助言した所で程度は知れている物だった、それを躓きながらであれ、少し声が小さいであれ、比較的まともな文面でのスピーチをしたジュンに世辞を言うのも頷ける話だった。
それを知らないジュンは一人で考えさせれられた、拙いスピーチを強要された事を一種の通過儀礼と考えていた、もちろん通過儀礼であるのは間違いでは無いが、ホールに居る客人たちの反応を少し取り違えているジュンだった。
「うん、さすが私の息子だ、良いスピーチだったぞジュン」
そう言ってジュンの頭を撫でる父に早く部屋に戻りたいと告げるジュンだったが今は父に手を引かれて歩かされている。
「すぐに戻れる訳無いだろう、普段は人見知りしないくせに流石にこんな場所だとお前も歳相応の子供に見えるな、それに此処で部屋に戻ったらプレゼントをもらい損ねるかも知れんぞ?」
そう言って笑顔になるライン、彼自身自分の息子が10歳にしては聡明で周りと少しズレた子供だと思っていたため、このように歳相応の子供の様に恥ずかしがる姿をみて、少し嬉しく思っていた。
「今から少し挨拶周りをしなければならん、お前もこれから一人でやっていくんだ、今日のうちに慣れておきなさい」
そう言って父に連れられるジュンはその後数多くのジオン公国の著名人達と会話をさせられた。
その中でジュンが興味を抱いた人物が数人いた、最初に会話をしたのがキシリア・ザビそしてキシリアに連れられたガルマ・ザビの姿だキシリアとは形式上の挨拶を交わした後は父とキシリアが何やら軍の事で話を始めたのでガルマと子供同士で話をする。
挨拶も疎かに既に同い年と言う事もあり両者の親のお陰で既に面識のあったガルマはジュンに
「君の家に来るのは初めてだね、少し案内してくれないかい?あぁそれとプレゼントを開ける時は僕も同席していいかな?」
と言ってきたが、ジュンは
「少し待ってね、挨拶周りってやつをしなきゃらしいんだ、その後で遊ぼう」
とガルマに言い父とその場を後にした。
その後は幾つかのテーブルを周り多くの客人に挨拶をした、その中で
シン・マツナガと言う軍人と出会った、彼は後に白狼と言われるエースとなる男だが今はまだ若くジュンの知る容姿ではなくジュンに先程スピーチを褒めてプレゼントを態々手渡しで渡してくるような気の良さそうな青年だった、因みに余談ではあるが彼からのプレゼントはジオン系放送局でやっているアニメの主人公が指揮する宇宙戦艦の模型であった。
そして父親に連れられたレオ・ブラウアーと言うガンダム好きでも比較的マイナーな為に知られていないジオン貴族出身で後のエースパイロットとなる少年とも話をすることが出来た。
ジュンのガンダムと言う作品系統の記憶ではレオ・ブラウワーのブラウワー家は没落貴族として描かれていたはずだが、どうも今はまだ没落する前の様だ、没落した理由は分からないが、此処で出会えたのは何かの縁だろうか?とジュンは一人思っていた。
その後は恙無くパーティーは進行していき、別段嬉しくもないプレゼントに一喜一憂してみせたり、後ろについて回るガルマやレオの相手をしたりとジュンの精神はこの日かなり削られる事になるのだが、周りの大人達は知る由もない…。
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『この世界に来て10年…か、意外と早いもんだな、それに確実にこの世界は1年戦争へと向っている、ただ俺の知っているガンダムの世界と少し違う気もするんだよなぁ、自分自身良くわからない事が起こるし…』
ジュンの感じる違和感、それはジオンと言う国が歩むべき道、地球連邦と言う国が歩むべき道が大筋は合っているのだが、ふと横に目を向けると細部が色々と違うと言う事だ。
『一度整理してみるか』
そう考え、自室の机に置いたPCをタイピングしながらジュンは自分の知る情報を書き連ねていった。
[宇宙世紀0057年にジオン共和国として完全では無いもののジオン・ズム・ダイクンを首班として半独立宣言をする、この後すぐに連邦からの経済制裁が行われるも68年のダイクン暗殺まではジオン共和国として存在する。
その後デギン・ソド・ザビが政府首班にそして周りのダイクン派を排除したのちに自らを公王として即位させ、ジオンと言う国号をそのままに、ジオン公国とする。
大筋は今の時代も合っている、だがダイクンの死が早すぎる、67年の8月にダイクンは死去している。
そもそも私の知る歴史であっても、あれは本当に暗殺であったのだろうか、ダイクンの突然の体調不良とその死、そこから時代は急変する事になるがそれが暗殺であったのかは語られていない事であるため自分には分からないが、ただひとつ言えることがある、もしダイクン派がこのまま増長していた場合連邦との開戦は早まりジオンに勝ち目は万が一にも無かっただろう。
そしてこの世界でもダイクンは死に非交戦派のデギンが即位した。
細部は違えど歴史の大筋は変わらず、されどこのまま歪んだ道筋は何処にたどり着くのか?
大筋が変わらないのであればデギン公王は息子ギレンの暴走を止められ無いだろう、私見ではあるが彼は身内に優しすぎたのだ、息子を疎ましく思いながらもそれを止める事が出来なかったデギン、最後は独自に連邦との降伏会談に向かうい連邦艦隊との合流時を狙われ息子ギレンの手によってコロニーレーザーの光に焼かれる。
後は自分自身の感じる違和感、年齢を重ねる毎に色々な事が分かるようになっていた、最初ソレに気付いたのは何歳の頃だっただろうか、父の襟章を見て即座に少佐だと気付いた事があった、モビルスーツや戦闘兵器に興味があって覚えて入るが、階級章まで知識として蓄えた記憶はない。
最後に最近自分を呼ぶ声の様な物を感じる、これは一体何なのだろうか?分からない事が多すぎる、後数年は様子を見る他にないだろう。]
そう自身のPCに書き連ねながら思考するジュンであったが考えは上手く纏まらない、情報が足りなすぎるのだ、もしこの世界の歴史がジュンの知る物と同一であれば気にしなかっただろう、精々ジオンを勝たせようだとか戦争に出ないためにはどうすればいいかとしか考えなかっただろう。
子供の身で調べられる情報は限られてくる、しかもそれが一般市民が知るよしも無い事柄であれば尚更だ、いくら貴族と言えど10歳の少年にできる事は少ないのだ。
「まーどうにかなるだろ、ウチはどうやら世渡りは上手らしいしなぁ」
そう呟き、PCの電源を落とし就寝しようとベッドへと向かう、その時彼は自分が書いたレポートが非常に簡素な物であるにしても見る者が見たら驚愕する内容であることに気づかずそのまま保存してしまっていた。
その夜息子の書いている日記を読むために自分のPCを立ち上げたライン、彼は息子と約束をして毎日1行でもいいから日記を書かせていたのだ、そのかわり毎日休まず書けたら毎月1度はある程度のお願いを聞いてきた。
最近だとモビルポッドの操縦マニュアルだとか小型スペースクルーザーの教本だとかをねだる息子に男の子なのだな、と思いながら入門用の分り易い物から選んで送っていた。
そして息子のPCから書かれたであろう日記を開く、そこには他愛の無い事が書いてあった、今日の誕生パーティーでは疲れただのガルマ様やブラウワー家のご子息と共に遊んだだのだ。だがふと違う階層に目にしたこと無いテキストファイルを見つける。
そこには題名が読み取れないテキストファイルが1つだけ存在した。
「これは…漢字?中世期の中国や日本で使われた言語か、子供らしいなそんな言語をタイトルにするとは」
そう苦笑しながらテキストファイルを開いたラインは驚愕する、テキストの内容が全て自身の知らない言語で書かれていたのだ、てっきりタイトルだけかと思っていたらテキストファイル全てが同一の言語で書かれていたのだ。
この時代には翻訳ソフトなどは無い、地球もジオンも同じく世界標準語を喋る、訛りはあれど文章であれば理解できないことはない。
なのにラインにはこのテキストファイルが全く読めなかったこれは本当に息子が書いたものか?と疑ったが、テキストファイルは息子のPCから繋がる記憶媒体に保存されていた、家族用のそれにアクセス出来るのはラインと息子、そして妻であるキャスリン以外にはいないのだ。
ラインはそのテキストを一度プリントアウトして後日中世期の言語の辞書でも手に入れて読もうと机の中にしまっておいた。
ソレが息子ジュンの、そしてライン自身、ひいてはアーレンベルグ家全体に及ぼす影響はその時考えもついていなかった。
文字数が5000に届かない…、会話文や戦闘描写とかで今後は増やせそうですが導入部の今はすくなってしまいました、申し訳ありません。
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