「ジュン様、燃料がもうすぐ底を尽きます…」
そのアリナの言葉を聞きながらジュンはクルーザーの操舵席にて苦い顔をして計器を眺めていた。
「さっきの哨戒艦のせいでかなり迂回したからな、強制退去させるなら燃料の融通くらいしてくれてもいいのに」
そう呟くが、相手もそれが出来ないことくらいジュンも承知だった。
それはジュン達がサイド2を出発してから1日と少し経った時だった、ジュン達の乗るスペースクルーザーは連邦軍の哨戒艦にばったりと出くわしてしまったのだ。
哨戒艦は訓練航行中だったのかデブリの間を縫うように航行しており、ジュン達が気付いた時には相手から完全に補足されていた、その後連邦艦から通信で航行目的などを聞かれ、望遠撮影目的で撮影ポイントまで航行中と返答し、事なきを得たがジュン達が突き抜けようとしたデブリ帯はデブリの量は多くはなかったが連邦艦曰く訓練用機雷等が未回収のまま浮遊している可能性があり連邦IFFの無い艦は民間船でも触雷の可能性があると言われ転舵を余儀なくされた。
そのお陰で、デブリ帯その物を迂回したため総燃料の2割ほど無駄に消費してしまったのだ。
「今ならまだ引き返せますがどう致しますか?」
「…………アリナさん、もし漂流なんて事になったらどうなります?」
「もし燃料ギリギリまで目的地を目指した場合、最後の最後に転舵しサイド2へ向かい最大一度船速でエンジンを掛ければ3日ほどでサイド2へ到着できます、ですがそれは件のデブリ帯を突き抜けた場合ですから、慣性航行中ですので舵の効きもかなり悪くなっていると思いますので最悪の場合デブリ、若しくは連邦軍の機雷に触雷する可能があります」
「ですよね、この際機雷は置いておくとしても、デブリを避けきれる自信が無い、ってか8割方無理だね」
「ジュン様、そろそろ安全転進限界地点に到着します」
『どうする?俺一人ならこのまま突っ込んでも良かったかも知れない、でも今はアリナさんがいる、彼女まで危険に晒すわけにも……ん?レーダーに反応?当初の転進ラインギリギリの所に熱源反応?』
ジュンが見つけた熱源は現在地点からかなり離れた当初の航行予定での安全転進地点の詳細があると思われる場所からサイド2へ直線移動した地点にあった、デブリも何も無い地点に1つだけ不自然な熱源が。
『この熱源はもしかしたら、例の迎え?確かな答えは無いけど、どういう訳かあそこに行けば何かが起こる気がする…行く…か』
「アリナさん!済まない付き合って貰えませんか?今から完全慣性航行にて当初の転進ライン地点に確認した熱源まで移動、その後熱源を確認した結果何もなかったら、転進し出来るだけサイド2首都バンチへ近づく…こんな出た所任せな考えですが……」
「分かりました、私はジュン様のお世話を旦那様から言い遣っていますので、ジュン様のお考えのままに、それにジュン様は何か多少なりとも考えがあるようですので、敢えて私が言うようなことは御座いません」
「有り難う…」
其処でジュンとアリナの会話は一度途切れ、その後は熱源方向へ艦首を向け最大船速まで加速し慣性航行に入るまで二人は黙々と作業をこなして行った。
―――――
慣性航行で熱源に向かって進むこと18時間、艦のレーダーに捉えられた熱源が巡洋艦クラスの艦船の物だと途中で判明していた、光学観測装置は設備が整っておらずもう少し近づかねばハッキリとしなかったが、ジュンは最初に熱源を捉えられた事を父に感謝していた。
と言うのも、このクルーザは燃料と物資備蓄容量が多いと言う宣伝文句で売りだされた物で光学装置やレーダー装置などは通常のクルーザーと同一であの時点ではこれだけ離れた地点の熱源など到底発見できるものではなかった、それを発見せしめたのは父が引渡し時点で改装を依頼し簡易的ではある物の中型の宙域調査船くらすの探査設備を整えて置いてくれた事で熱源の感知を可能としていた。
その事を感謝しながらも、光学装置が限定的な物で未だ艦影がハッキリしないことにため息が出ていた。
「はぁ、俺が多分迎えだと思うんだけどな…連邦艦とか下手したらジオン艦だったらどうしようか…」
「迎え…ですか…、望遠にて艦影確認できるまで約20分程度かと思われます」
「分かった、その間に連邦艦だった場合の言い訳を考えておくよ…まぁミノフスキー粒子を撒いてないからジオンの艦では無さそうだけどさ」
そう言いながらもジュンは自分のだんだんと近づくに連れ前方にいる艦が連邦でもジオンでも無いと言う思いは確信に近いものへと変わりつつある。
「すこしコーヒーでも飲んで待つかな…アリナさんもいる?」
「あっ、それでしたら私がお淹れしますわ、ジュン様は其処でお待ち下さい」
「あぁ、いや手持ち無沙汰でね、自分で入れたい気分なんだ」
「分かりました、ではお願いします、出来ればミルクをお願いします」
分かったと頷いたジュンは二人分のコーヒーを淹れ、アリナへミルク入りを手渡し自分は船長席へと腰掛け、PDAにて小説を読み光学装置の感知距離までの時間を潰した。
―――――
「ジュン様、そろそろです」
「お、もうそんな時間か、頼むぞ…」
そう呟きながらジュンはPDAを傍らに置き、艦の光学装置を操作し始めた。
「……あれは」
「どうなさいましたか?」
「ムサイ…級?いや…後期型…か?」
「後期型…ですか?それはどう言う物でしょうか、私の情報ですと改修された艦はあるようですが全面改修や再設計艦の話は聞いたことがありませんが」
「間違いない、放熱板がある…、あぁ後期型ってのはムサイ級は分かりますよね、そのムサイを再設計した艦で主砲を3基から5基に、それでもってムサイの弱点だった対空能力の無さを補うために11基の120mm連装機関砲を装備した艦だ、ただ最大の特徴は攻撃力じゃなくてMSデッキにカタパルトを2基装備してる点です」
「本国の艦でしょうか、それにしては単艦で航行…特殊任務中の艦?」
「いや、今国で後期型なんて生産されてないよ…多分ね、それに通常のムサイとチベ、それにグワジンとかを生産するので手一杯のはず、そこにまだ実戦を経験してない艦の再設計もそうだけど行き成りそんな物を生産する余裕なんて無いはず」
「では先程仰っていた迎え…ですか?」
「だと良いんだけどね」
そう言いながらもジュンはこの時点で確信を持って前方の艦が迎えだと思っていた、なんら証拠は無いがあの艦に近づけば全てが変わる、そう根底から自分の価値が変わると確信していた。
「よし!慣性航行解除、あの艦に最大船速で近づく!その後相対速度を0にして艦を一度停止させます」
「分かりました」
ジュンの指示でアリナも作業に入る、ジュンは再度クルーザの軸を調整し前方のムサイ級後期型へと舵を取った。
―――――
ジュン達の乗るクルーザーが件のムサイ級へと近づくとムサイ級からコムサイが分離された。
「ジュン様、前方の艦からコムサイが分離、此方に近づいてきます」
「あぁ、この船はムサイ級に格納するには大きすぎるし、かと言って接舷用設備も無いし、どうしようか考えてた所だったけど、そう言えばコムって存在を忘れたよ、宇宙服に着替えたほうが良さそうだね」
「あのコムサイに乗り移ると言うことですか?」
そう言って此方に向かうコムサイを少々不審に思っているのかの様な声音でアリナはジュンに問いかけた。
「あぁそういうことだと思うんだけど、違うのかな…?」
その時クルーザの通信機へと通信が入ったそれは前方の艦から発せられた物でかなり微弱な電波で時代遅れの短波無線での文字通信だった。
アリナはジュンへとその通信を読み上げた。
「前方の艦より短波文字通信です、内容は…コムサイへと移乗願うとの事です、あ、ちょっとお待ち下さい、もう一通来ました…………現時点よりジュン・アーレンベルグに全権限及び指揮権の移譲、どういう事でしょうか」
「は、ははは、あっはっははは、そこまでするなんて考えて無かったよ!俺に何をさせたいんだよ…何が出来るんだよ…、救える力が入るなら救おうなんて考えて此処まで来たけど一体向こうにどれだけの力が、戦力があるんだ?ジオン、それだけじゃないスペースノイドもアースノイドも全部救うなんて出来るのか?それだけの戦力…考えただけでも馬鹿らしい!!」
「あ、あのジュン様…」
「あぁ、ごめん……なぁアリナさん、一つ聞きたいんだけど良いかな?」
「なんでしょうか?」
「もしさ、スペースノイドとアースノイドが幸せになれる世界なんて作れると思う?」
「いいえ、残念ながら私には想像が出来ません…がある意味それを成したとしてもいずれはまた別の問題が起こるかと…」
「そうだね…エゴ…か」
「ですが、それでも今よりは良い未来と言うのはその先に存在する可能性は十分にあります、人間一人一人幸せの形と言う物は違いますが、今よりも多くの可能性を手に入れることの出来る世界があれば人はより良き方向へ進めるのでは無いでしょうか?」
「ハハッ、なんか父さんにも前同じ用なことを言われたよ……可能性…か、そうだね被害を、これから起こりうる人の可能性を消し去る行為を止める、それが俺の最初に望んだ事だったな、有り難うアリナさん」
「いいえ、差し出がましい事を言い申し訳ございません」
「いえ、アリナさんのお陰で目が覚めた…と言うより吹っ切れました、それより早く船外作業服に着替えましょう、もうあのコム与圧ハッチ開けて待ってますよ」
そう言ってジュンは船外作業服を収納スペースから取り出しアリナへ手渡しソレに袖を通しはじめた、アリナも手渡された作業服に着替え、着替え終わったジュンの後を置いコムサイへと向かっていった。
―――――
コムサイへと乗り込み与圧室中で与圧中に既にコムは移動を始め、物の数分でムサイへとドッキングを始めた。
そうしてコムサイの与圧室にいながら既に入ってきたハッチを開けるとムサイ級の艦内であった、そうして艦内へと入ったジュン達を待ち構えていたのは女性の声による艦内放送だった。
「艦橋にてお待ちしております」
そう一言だけ放送があった後は静かになった艦内、艦が移動を始めたのはエンジンが掛かったと思われる振動と音で分かったが、ジュンたちが艦橋へと向かうために途中で見つけた艦内図を頼りに艦内を移動していると、ジュンとアリナ両者共にこの艦の異常性に気づき始めていた。
「ジュ、ジュン様、これは…」
そこでジュン達が見たものは無人の艦内であった、今の今まで誰一人として乗員を見ていない、最少の人員で運用しているのかとも思ったがそれでも態々此処まで迎えにきて、そのうえ権限を移譲するとまで言った相手に艦内の案内も付けずに…。
ただただ艦が上げる音とジュン達の移動音のみが響く艦内を移動しジュンとアリナは艦橋へとたどり着いた。
「まさか此処までなんて…」
そうジュンが呟くがアリナは無言で艦橋内を見渡していた。
そうして居ると艦橋内の一つのモニターの電源が入り一人の女性が映った、その女性は美しい外見であったがどこか無機質な印象を与える物だった、そしてその女性が声を発した、と言っても映像に映る女性の口は動いて居らずジュンはその映像は仮の物であると直ぐに理解できた。
「お待ちしておりまた、漸く私の存在が意味を成せます」
「…どういう事でしょうか?自分を呼んだのは貴女でしょうか?」
「はい、ジュン・アーレンベルグ、私と共にこの世界に存在するイレギュラー、次元を超えた存在」
「次元を超えた…?っ!それよりもどうして俺がこの世界に来たのか貴女は分かるのでしょうか?」
「いいえ、残念ながらその問いには答えられません…、私も何故この世界に存在するのか分かりません、ただ今分かることは、ワールドシグナルが関係すると思われます、そしては私はオリジナルの私ではない事、そしてこの世界はワールドシグナルが創りだした偽りの世界では無いと言う事も分かっています」
「ワールドシグナル…?それは一体何な…!?アプロディア?!」
「はい、私の名前はアプロディア、ジェネレーションシステムの統括存在です、やはり私の事を知っているのですね、ですが貴方の知るアプロディアと私は既に別の存在になっています、この世界に存在するジェネレーションシステムは本来の物とはかけ離れた性能です、そして私自身も…」
「それは…どういう意味でしょうか、ジェネレーションシステムと言ったら確かキャピタルと言うポイントにて各種兵器の生産、開発、設計、それと機体の改造やパイロットのスカウトが出来る…」
「はい、私もそう認識します、ですが今の私は統括精神として不完全な状態でありオリジナルのアプロディアと比べるとより機械的な部分が見られます、よって最上位命令者として同じく次元を超えやって来た貴方を求めました、そしてジェネレーションシステムですが…」
彼女の話を要約するとどうやら今のアプロディアは自我と言える物はあるものの、高度なAIと言うべき状況にあるとの事、そしてジェネレーションシステムだが、その性質が少々変わっており、生産はキャピタルではなく資源を要する、この際元の元素に寄るが量が必要であるが元素変えてを生み出せるとの事。
開発の変化はほぼ無いと言う事にジュンは安心したが、アプロディア曰く開発に必要な機体ポイントは撃破した兵器の鉄量に比例すると言う事が分かった、要するにガンダムを撃破するより、より鉄量の多いガンタンクを撃破したほうが機体ポイントが入手出来ると言う事だった、そしてそれはキャピタルにも言えるとの事。
そして設計に関しては、設計自体は出来るものの、かなり幅が狭くなっており急激な設計による強化が出来ないと言う事、例を挙げるとするなら、フェニックスガンダムとHi-νガンダムを元に∀ガンダムが出来るが、現状はその様な事は出来ないと言う事、そして何と設計元にして何が出来るのかもアプロディア自身も分からないと言う事。
最後にスカウトだが、アプロディア曰く多くの者が呼び出せないとの事、理由は分からないが呼べない世界の者が多数存在し、同じ世界でも呼べる者、呼べない者が居ると言う事が知らされた。
以上の事がアプロディア本人によりジュンに説明された。
「なるほど、それで今はその、ジェネレーションシステムがある要塞…拠点に向っていると言う事でしたね」
「はい、それと貴方をマスターとして認証しましたのでその様な言葉を使わずとも結構です」
「あ、あぁ分かった…あっ、それと俺の乗ってきたクルーザーはどうしたら?」
「それでしたら既に曳航していますが、問題ありましたか?」
「あ、い、いや…有り難う」
一体いつ曳航作業をしたのかと聞きそうになったがジュンはそれよりもアプロディアよりPDAに転送されたジェネレーションシステムとこれから向かう要塞の仕様書を読むのに頭のリソースのほぼ全てをつぎ込むことにしたのだった。
そしてジュンとアリナを乗せた艦は要塞、ジェネレーションシステムを内包した拠点へと向かって行く。
補足です、アプロディアにて操作される艦について。
無人艦の戦闘行動は可能です、ただ有人艦艇に比べると即応性で劣ります、臨機応変な行動も出来ませんが後方に控える分には射撃、MSの投入等の行為に問題はありません。
要はゲームでの雑魚艦って事ですね有人艦に勝てる見込みはかなり薄いですが現状であればジオンのムサイ級との一騎打ちであればいい勝負が出来るかもしれません、火力の優位性的な意味で。