今は昔   作:何某

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9話【side萃香】:世間話はたいてい下世話。

 

 

 

 

 ガチャガチャと台所近くの戸棚をいじくり回す。しかし、出てくるのは酒、酒、酒。唯一見つかったそれ以外の飲食物は床下に漬けてあった漬け物ぐらいだった。

 何なんだこの家は。お酒はやたら置いてあるくせにお茶葉のひとかけら置いてないんだ。

 むくれながらも、こればっかりはどうしようもない。仕方なく茶飲みに水を入れて相手のもとに置く。彼女はその様子から我が家の台所事情を勘違いしたのか苦笑いを浮かべながら受け取った。なぜか穴があれば入りたい気持ちになった。

 

 

 

「ふーん、にしても天狗、ねえ」

「ええ、正確に言うともうすこし長い名前になるんですが、まあとりあえずはそういうことでいいです」

「じゃあどうしようね。あんたのことはなんて呼べばいい?」

「普通に天狗、でいいですよ?」

「え?」

 

 

 

 さも当然そうに言うけど…、それって何かおかしいよね?あれ?

 

 

 

「いやさ、それってあんたの名前じゃないだろ?」

「まあ、そうですね」

「ってことはわたしがあんたのことを天狗って呼ぶのはかなり失礼なんじゃないか?」

「え? そうですかね?」

「違うの?」

「私たちが人に対して人間って呼ぶようなものですから失礼というほどのものではないと思うですけど……」

「そうかな? わたしが今柄に人間なんて呼ばれたらイラっとするよ?」

「あー、まあそれはそうでしょうね……」

 

 

 

 文はそんなわたしのストレートな物言いに苦笑いを浮かべなら同意していた。

 もしも、今柄にそんなことを言われたら反射的に手が出そうだ。あのひょろっとした体つきだともしかしたら殴っただけでどこか折れてしまうかもしれない。今度試してみようかな?付き合ってくれるとは思えないけど。

 

 

 

「とにかく。それなら、あんたを天狗と呼ぶのはもうやめよう。そのほうがきっと良い」

「そういうもんですかね?」

「そういうもんです、わたしの中では」

「はあ………」

 

 

 

 そんなに意外かなあ?普通だと思ってたんだけど、そういうもんでもないのかな?誰かと話した記憶ってのが一切ないからどうしたら分からないけど…。不安になってきた。

 

 

 

「どうしても嫌だっていうなら天狗って呼ぶけど…、どうする?」

「う~ん、別に大したことじゃないですし構わないですよ」

「そっか、なら良かった」

「(ホント、変なんですねえ。いやはや、これはおもしろくなりそうです)」

「おい、急に黙り込んでどうかしたのか?」

「あややややや、ちょっと考え事をしていただけですよ」

「ふーん、てんg……違った。えーっと」

「わたしの名前は射命丸 文。あやでいいですよ」

 

 

 

 気を使わせちゃった。気を付けないといけないね、あんまり悪い印象は与えたくないし。せっかくの客人なんだから。

 

 

 

「そっか。それにしてもあやはいろいろ大変なんだな」

「急にどうしたんですか?ちょっと言葉の意味がわからないんですけど…」

「だって今柄に会うためにこんな山奥に来たんだろ?しかも結局会えずじまいっていう追い打ち付き」

「ああ、そのことですか?気にしてなんかいませんよ、その損と秤の釣り合いが取れる程度の楽しみも今のところ取れてるので」

「へえ、じゃあその愉しみってのを話してくれよ。どんなにくだらないものでも構わないから」

 

 

 

 一体何だろうね?今柄に会うことで得られるものなんてあるとは思えないんだけど。むしろ関われば関わるだけダメ人間になりそうな雰囲気すらある気がする。

 文は少しだけ口ごもると、言いづらそうに口を開いた。

 

 

 

「ええっとー…、それはまだまずいです」

「なんで?」

「さっきとおんなじ事情ですかね…」

「話したら都合が悪いって?」

「そういうことです、全部片付いたらそれも話しますから、許してください…」

「うー、そっか」

 

 

 

 そこまで言うからには本当に言いづらいことなんだろう。後で話してくれるって言ってるしまあ、いいか。

 そうなってくると、なんだろうね。なんか話のタネになりそうなもの。

 

 

 

「それじゃあさ!今までのおもしろ話を聞かせてくれよ!」

「面白い話ですか?」

「別に私は構わないですけど……いいんですか?」

「なにが?」

「正直言って人から見たら悪趣味なものも少なからずありますよ?」

「うっ……、ま、まあいいよ。それはそれで、なにもせずに座してるよかよっぽど退屈しない」

「わかりました。それでも気分を害したなら行ってくださいね? そしたらやめて他のにしますから」

「もちろん、ありがとう文」

「お気になさらず。じゃあ、そうですねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハッ! そいつは滑稽だね! 結局一人で空回りしてただけじゃないか!」

「そうなんですよねえ、本人はいたって本気だからかえって馬鹿馬鹿しいというか」

 

 

 

 腹が痛い、ねじ切れてしまいそうだ。笑いすぎてどこかおかしくなったらしい。頬がさっきからずっとひくついたままだし。

 聞き始めこそ脅しのような言い方をされ若干引き気味になっていたものの、慣れてしまえばなんてことはなかった。それに文の話す話はどれも愉快なもので、嫌悪感もあっという間に薄れた。

 そんなこんなで小話も片手で指折り数え、折り返すほどになっていた。

 

 

 

「だね。そんな人がいるなんて世の中広いもんだ」

「ええ、まったくです」

「ねえ、次の話はなんだ?早く話してくれよ」

「そうですねー、それじゃ、少しおかしな歌人のお話でもしましょうか。……っと思いましたけど、もうそろそろ良い時間ですね」

「え?あー、そうだね」

「流石にお暇させてもらいます」

「それもそうか。これ以上引き止めるのも悪いしね……」

「すみません」

「いいんだ、仕方ないことだし」

 

 

 

 すでに日は傾き始めていて、もう少しすれば空も赤らんできそう。やはりこの季節の日の入りは早い、それともそう感じるほど聞き入ってたってことなんかな?

 でも、もう終わりか。なんだかあっけないような気すらする。…惜しいなあ、こんなにも時間が足りないと思うほど。

 

 

 

「大丈夫ですよ。またここに来ますから」

「本当に?」

「近いうちに、必ず」

「ホントの本当?」

「ホントの本当」

「ホントのホントの本当?」

「ホントのホントの本当ですよ。ってさっきもこれやったじゃないですか」

「ふふふ、そうだね」

 

 

 

 わかっていても合わせてくれるんだからやっぱり良いやつ。そいつがまた来ると言ってるんだから信じないわけには行かないか。

 

 

 

「そっか。じゃあ今日のところは我慢する。次を期待して待ってるよ、文」

「ええ、またおもしろい話を聞かせに伺いますよ」

「たのしみにしてる」

「それでは、萃香さん。また今度」

「気をつけてなー」

 

 

 

 

 






前話のタイトル間違えましたね。まだあやや出てないのになんでああなってしまったのか…(校正しないからではという意見はないものとします)


※1/31にお手伝いとしてコミティアにお邪魔させていただきます。作家(?)としては特に何も出しませんので楽しんできます。




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