今は昔   作:何某

11 / 15





更新遅くなりましたが、特になにかしていたわけではなく、ダラダラしていたらこうなってしまっただけです_(:3 」∠)_







10話:日常と非日常の境目。

「ふあぁ~~あ」

「今日で何回目のあくびだ?お前」

「100回ぐらいですかねー…」

 

 

 

 視界がフラフラしている。さっきから頭の中はグワングワンしてるしあくびもさっき言ったとおり止まらない。ついでに言えば体もだるくてたまらん。まぶたに至っては先程からひっきりなしに上へ下へとせわしなく往復し続けていた。

 とどのつまり、私はいま眠かった。それも、ものすごーく。

 

 

 

「わざわざ数えてるのか?」

「まあ、ここで突っ立ってからの分は」

「暇なんだな…、なら門番なんていらないんじゃないか?」

「んなことはないと思いますよー…、たぶん」

「のんきだなあ」

「用もなしに敷地をフラつくあなたほどじゃないかと」

「地主の息子だって暇なんだよ」

「よく言いますよ」

 

 

 

 やっぱり食えない人だ。そもそも暇なわけがない。こんな僻地にいながら都から御声がかかるほどの秀才なのだから。油を売る暇があれば書物の1項でもめくっていそうなものだよ。

 

 

 

「残念、僕はそんなに固い人間ではないし、ましてや本の虫でもない」

「…せっかくだから訊かせてもらいますけど。それは何に対する返答ですか?」

「お前が今考えていたことに対する答えだ。おおかた、暇なわけがないって方を考えてたんだろ?」

「はあ、そんな話し方だからこんな僻地に送られるんじゃないですか?阿一様」

「だと思う?こういう話し方だから僕はあそこを離れたんだよ、今柄」

 

 

 

 ああもう、ああ言えばこう言う。まったくもってやりづらくてかなわない。しかも頭がいいのにこんな気安い態度だ。余計に掴みにくい。

 もっとふんぞり返っていればもっと接しやすいものを。優れた人ほど隅に、クズほど甘い蜜を啜ってるというのは納得いかないよ。

 とまあ、私があれこれ考えたところで何も変わりゃしなけど。

 

 

 

「んで、どうかしましたか?何か私に御用でも?」

「うわ、ひどい。何か用がなければ来ちゃいけないのか?」

「当たり前でしょう。あなた一人死ぬだけで路頭に迷う人がこの屋敷に何人いると思ってるんですか」

「ざっと30前後はいそうだな、出入りも含めればもっとか?」

「結構です。それだけわかってれば」

「だから?」

「それ、わかってて訊いてるでしょう?あんた」

「なんのことやらさっぱりだな」

 

 

 

 腹立つわー、ニヤニヤしくさってこの人は。他所でやってくんないかなー、そりゃ暇つぶしにはなるけどさ。自業自得とは言え、門番なんて暇だし。

 

 

 

「阿一様みたいな方が考えなしにあまりフラフラされると守る側としては困るんですよ。それだけ大事なんですから」

「そりゃ身重だ。少し身に余る」

「わかってくれたなら僥倖なんですが」

「わかっている上でこうしてるんだ、悪いね」

「さっきの言葉は嘘ですか?」

「いや、話のつながりが見えなかったもんでね。何がわかってるかを訊いてるのかがわからなかった」

 

 

 

 ねえ、処す?こいつ処す?むしろ斬り殺す?いいよね?私がやっちゃっても許されるよね?神が許さなくても私が許すからもうよくね?

 眠気も相まって正直いつも以上に沸点が低いのが自分でもわかった。二日酔い気味だし、頭もまったく回ってない。そりゃ怒りで拳の一つも握りしめようってもんだ。

 脱力気味についた吐息は全身からいろんなものを絞り出していくみたいだ。突っ立ってるだけよりもこの人の相手の方が疲れるかも知れない。

 

 

 

「悪かったよ、意地悪してごめん。だからそうむくれないでくれ。更にいじりたくなる」

「この鬼!鬼畜!馬に蹴られて死ねっ!」

「ま、気を許せるのが今柄だけだからな。多少は許してくれ」

「…そう言われたら言い返せないじゃないですかー」

 

 

 

 こちらが甘く見せたらすぐに調子づいて本当、色々とめんどくさい人。しかし、ただめんどくさい人なだけでなく、面倒事まで抱えてる人だからなー。私の場合、ほぼ棚からぼた餅ぐらいの感覚でここに転がり込んだけど、相手からしたら、案外そうでもないのかもしれない。

 

 

 

「拾われの身だもんな?飼い犬が主様を噛むわけにゃいかんよなー」

「拾われた割には雑な扱いばかり受けましたけどね」

「おかげで一度もしっぽのひとつも振ってくれないよな」

「当たり前でしょう、恩もありますが日頃の鬱憤もあるので」

「はて、後者には心当たりがないのだが。如何でか」

「実践してあげましょうか?なんならこの場で」

「いや、いい。だからその振り上げた石と右手を下ろしてくれ。ある意味斬られるよりも怖いから。それ凶器だから」

「そうおっしゃるなら中へと移られたらいかがですか?そうすれば安全ですから」

 

 

 

 掴んだ石を狙ったところに投げ捨て、強めに門をたたく。実際に襲うわけには行かないが、怒りの態度を取るくらいはいいだろう。

 表情は笑顔でも、ここまで険悪な空気を出せば阿一様も何か察してくれた。軽く手だけ振るとようやく門の中へと大人しく入ってくれた。

 私は門の中へと入ってく阿一様を背中で見送った。

 

 

 

 「さってー、残りも頑張りますかねー」

 

 

 

 背中で見送るなんてのは不敬以外の何者でもない。阿一様はきっと私に対して気取ることなるほぼ自然体で接してくれるだろうが、あくまで主従関係である以上、私自身一線を引かせてもらっている。だからそういった敬いをないがしろにするようなことはしたくない。

 そして、私が掴んだ石の状態。強めに投げ捨てたが、それでも勢いを相殺することはできなかったようだ。奥へと投げたはずなのに、門前の道に転がっている。深々と針のようなものが刺さったままで。

 

 

 

 「最近の妖怪どもの流りは不意討ちなのかな?昼間から襲ってるんじゃ、ちっとばかし我慢が足らないんじゃないかなー?」

 

 

 

 いつからかは分からないが、少なくとも会話途中からは間違いない。

 いるのは分かっている。ゆっくりと刃を抜く。それはある種意思表示でもあり、宣戦布告となる。

 どういう性質のやつだろうか。切って斬れないようなものだと困るのだが、まあ隠れて襲って来る時点でそれはないか。

 

 

 

「答えろよ、そこのお前」

 

 

 

 返事はない。代わりに飛んできたのは所狭しと並べられた無数の針だった。

 

 

 

「いい返事じゃん」

 

 

 

 

 ざっと見、針の太さは一番太いところで人の指と同程度。雪の禿げた土壌を無様に転がり打ち出された草むらの方を睨む。妖怪はすでに手前の木々へと移ったらしい、伸びた黒い動体が視界の橋に映る。

 地面を強く蹴り、足元の石を掴んで、強引に掘り起こす。第二射。今度は先ほどとは違い密度が薄い。しかし広範囲になっている。

 

 

 

「っつ!」

 

 

 

 面倒な。着込んでいた着物を一枚引きちぎって身を守る。1、2、3、…16本にも及ぶ針が勢いよく突き刺さっていく。どれも着物を突き破ったものの、そこで止まった。

 そのまま着物を地面に投げ捨てると、音を立てながら着物が溶け始めているのが見えた。

 うわあ…、厄介だな。ありゃどう見ても人の体でも溶けるでしょ。しかも刺さった先から溶けるんじゃないみたいだから、触れただけでも危険だね。

それに知恵もあるか。コイツならかすめるだけでも十分役割を果たせる。しかもばら撒く範囲もある程度自由が利くか。

 

 

 

「んで…次はどこに隠れた?おーい」

 

 

 

 しくった。防げたはいいがそれが邪魔だったせいで妖怪がどこに行ったかわからん。

 しかしあの勢いだともうすぐ目の前にまで来ているはずだ。上半分の木々か、それとも下半分の茂みのどこかか。そこからさらに左右で計4箇所。

 ゾクリと冷たい冷気が背筋から流れ込んでいった。

 上…、いや違う!

 

 

 

「ギャっひぇぇぇあぁああァァァ!!!」

「後ろかっ!」

 

 

 

 右に半歩体をずらして半身、直後極太の針が通過する。珍妙な顔をした妖怪の横っ面を手にした石で殴り飛ばす。

 ぐにゃりとした気持ちの悪い感覚が指先から伝わる。そして間髪おかずに石が妖怪の中へ引きずり込まれ始めた。その上、私の腕まで喰らわんと頭だけが伸びてくる。

 

 

 

「気色悪ッ!?」

 

 

 

 石を手放し後退するもこれでは追いつかれる。切れないことを承知で鞘が付いたまま、刀で妖怪の顎目掛けて打ち上げた。

 どうやら骨のようなものはあるらしい。硬質な何かにぶち当たる。弾かれそうになりながらも刀を自分の方へと引き寄せながらなんとか振り抜く。

 大きくのけぞった相手に深追いせずに距離をとり、すばやく鞘を掴んで抜き捨てた。

 例の毒のようなものは妖怪の血液か、あるいは口から出ているらしい。特に何の意匠も施されていない鞘の表面には白いマダラ模様が浮き上がっていた。

 

 

 

「ヒュぇびぃゃッああっ!」

「少しは休ませてっての…ッ!」

 

 

 

 恐れる様子は一切ない、間髪入れずに突っ込んでくる。体躯が思ったよりも小さくやりづらい。切り捨てようにも低すぎて体重が乗り切らず、かといって下手に蹴ろうものなら、毒が口から出ているというなら痛い目にあうのはこちらの方になってしまう。

 攻め手を欠いたのを察したのか、一気呵成、妖怪は大きく跳躍。すでに決めにかかっているらしい。両手を広げ、まるで蛇が獲物を丸呑みするかのように大口を開けてきた。

 

 

 

「こっのエテ公がっ!」

 

 

 

 

 喉元へと一直線に抜いた刀を突き刺した。そのまま刀で妖怪の頭蓋骨を引っ掛け、門に向けて投げ飛ばす。妖怪は壁へと突っ込むと一瞬大きく引き伸ばされ、そのまま黒いシミを門に残しながら下の方へとずり落ちていった。

 既に形は猿でも何でもない。液状の何かに人骨のようなものがまばらにあるだけの気持ち悪い何かへと変貌していた。

 これが大元ってことかね。まだ微妙に頭が動いてるけど…。

 

 

 

「ちビャあっグェッ。」

「うっさい。いい加減、やかましいわ」

 

 

 

 足でその頭蓋骨を踏み潰した。そこが少し溶けていたようだが、おかげでようやく静かになった。

 

 

 

 

「あー…。後片付けどうしよう…」

 

 

 

 溶け落ちた門(大きくくぼみが出来てる)とえぐれた周辺の土壌(門同様溶けてデコボコになっている)と…

 

 

 

「…へっくし! さむ…」

 

 

 

 あー、上着もか。風邪引くわ、こんなんじゃ。

 ひとまず、報告も兼ねて屋敷の中へと行くことにした。

 いつも通り、そんな日々。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。