今は昔   作:何某

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別に色恋ものじゃないんですけどね?始まるときはだいたい唐突ですよね(´・∀・` )








11話:朝に曲がり角で人にぶつかって出会うみたいなお話。

「蝦夷…ですか?」

「それは蔑称だろうに。まあそうだけどさ」

 

 

 

 萃香の見送りを受けたあと、いつもどおり屋敷の前の雪かきをしていたとき、作業する私を見ながら阿一様はそういった。

 蝦夷ねえ…、今私のいるこの地域でも限りなく蝦夷に近い。曖昧だからわからないがこの地域も蝦夷に含まれてしまいそう場所であるので、行くのは容易い。

 問題なのはそんなことじゃなくて…。

 

 

 

「そんなところいってどうするって言うんですか?別に都の人たちほど偏見を持っているわけじゃないですけど、安全な地域でもないでしょう?」

「もちろん、それは重々承知だ」

「あの、この前の話じゃないですけど、本当に立場理解してます?」

「言わずもがな。それでも行ってみたいんだよ」

「…それはまた、なぜ?」

 

 

 

 嫌な予感がする。だがここで話を切るのもおかしいし、個人的にどうしてそこまでこだわるのか気になった。

 阿一様はやや神妙な面持ちで答えた。

 

 

 

「冬にできる花畑…って噂を耳にしたんだ」

「…冬なのに、花畑?」

「そうなんだよ、冬って言ったら不毛の季節であり蓄える季節。普通に考えて咲き誇る花畑なんかできる訳がないんだが…、どうやらあちらの地方にはそんな幻想的な場所があるらしい」

「ほ~…、それは想像もつかないですね。どんな花が咲いてるんでしょうか?」

「見かけたやつはいたって普通な農民だったそうな。花の種類なんてわからんだろうよ」

 

 

 

 そりゃまたきな臭い。キツネかタヌキにでも化かされたのではないか。…なんて言ったところでこの人は聞かないんだろうなあ。

 ここまで聞いた時点で私はもうどうでもよくなっている。苦労なく見れるなら喜んで引き受けただろうが、蝦夷にあるともなれば具体的にどの地方にあるにしても、ここを離れる必要が出てくる。それはめんどくさい。

 でも、この人はこれを初めて聞いた時、きっと目を輝かせて聞いていたのだろう。

 その証拠に作業に戻ろうとする私の方を掴み、強引に引き戻してからまた話し続けた。

 

 

 

「ま、そんなことはどうだっていいんだ。噂の真偽を確かめに行くこと自体に意味がある。結果なんてのは二の次三の次だ」

「なら、阿一様がわざわざ行く必要はないのでは?」

「何を言っている今柄。この眼で見て、この肌で感じることが確かめるってことだ。耳から入った人づてなぞアテにはならんよ」

「阿一様がそうでも、私はそれで十分なのですが。少なくとも私はその言葉を信じてますから」

「すまないな、僕はそれじゃ納得できない」

「・・・どうしても、とおっしゃるのですか?私はこの屋敷を守る任をほかの誰でもないあなたから承っているのですが」

「その本人が頼んでいるんだから、受けるのが筋じゃないのか?」

「そうそうすぐに任を変えられてしまっては私の忠義が揺るぎまする。阿一様がそれほどに不安定であったら、私はいったい何を信じればいいのでしょう?」

「簡単な話だ、お前を信じる俺を信じろ!」

「そうですか。だが断る」

「ぐぬぬ…」

「似合わない言い方で言い切っても嫌なもんは嫌ですよ」

 

 

 

 してやったり。豪快に断ってやった。雪かきの邪魔をされてうんざりしてたし、萃香のこともある。以前のように付き合いでそうホイホイとついていける様な気持ちにはなれなかった。やーい、やーい。ざまーみろ。

 で、なんで阿一様は笑ってるの? さっき悔しがってたじゃん、なんでそんなニヤニヤしてるの? え?

 

 

 

「何を?」

「…え?」

「断るのはわかった。じゃあお前は何を断るっていうんだ?」

「そりゃ、阿一様の頼みですけど…」

「僕は、いつ、お前に、何を、頼んだ?」

「………」

「だよなあ。まだ何も言ってないもんな。今日は。一言だって『僕について来い』だなんて俺は言ってない」

 

 

 

 ダラダラと冷や汗が流れ始めた。

 あぁー・・・、この人は、こういう話し方をする人だった。完璧に忘れてたよ。教養のある人ってのはみんな困難なのかねえ。

 阿一様は自分から話を持ちかける時にはもう相手にどう話すかいつも決めている。どこで落とすかまで決めているらしい。つまり、こういった話をしている時点で相手がどう動き、話そうととほぼ間違いなく首を縦に振るしかなくなっている。そうでなくても、親しい私との会話ならどう持っていくかなど容易いのかもしれないけれど。

 意地の悪い表情だ。阿一様はまるで教えるかのように話し続けた。

 

 

 

「ってことは僕はお前のその言葉を何に対する返答だと思うと思う?」

「………」

「黙ってたってわからないぞ?」

「沈黙は金、です」

「残念、黙ってたらむしろ金がなくなるんだよなあ。ということで、この場でお前を解任にするか」

「え、ちょ、そこまで話を戻すんですか!?」

「当然。僕がお前に頼んだ頼みごとで返答をもらってないのはそれだけだぞ?」

「えぇー……、にしたってそれを引き合いに出しますか」

「ずるいと思うか?」

「もちろん」

「傍から見れば五十歩百歩」

「うぐっ…」

「さあさあさあさあ、路頭を彷徨うか旅路を彷徨うか。選べるものなら選んでみな?」

「…旅路を彷徨うって言葉はおかしくないですか?」

「比喩、暗喩、隠喩を使って詠ってばかりの昼行灯達のものにくらべればそんなのは些細なことだよ」

「わけがわからないです。…もう、行けばいいんでしょう?行けば」

「うん、結構結構♪ その返事が聞きたかったんだ」

「その返事以外聞かないだけでは」

「え? なんだって」

「ほら…、言わんこっちゃない」

「さて、なんのことやら。僕にはさっぱりだな」

 

 

 

 額に手を当てて呆れてもも、阿一様はただケタケタと笑うばかり。この大げさな仕草も、どうやら暖簾に腕押しだったようだ。

 

 

 

「で。出立はいつなんです?急ぎなんですか?」

「まあ、今の作業がひと段落ついたらすぐにここを発つつもりだ。言われた翌々日にはいつでも行けるように準備していてくれ」

「それって目処とか立っていないんですか?」

「う~ん、何とも言えんな。まあ、多少キリが悪くとも冬が終わってしまっては意味がない。雪が溶け出す前には確実に発つ」

「了解です、あまり無理をなさらないでくださいね?」

「おう。今柄も準備だけは怠るなよ」

 

 

 

 あー、萃香をどうしようかなあ。いや、というよりどう話そうかなあ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな会話をしたのが確か数週間前のお話。

 萃香ともややあったものの、私が折れる形で萃香を残していくこととなった。心配はあるが、こうなってはしかたない、と思い切り、阿一様についていった。

 旅自体は比較的順調だった。天候にも恵まれ、足止めを食らう事なく北へ北へと進んでいく。

 ささいな問題が起きたのは旅の中頃、とある村で話を聞いていた時だった。

 

 

 

「う~~~ん、すまんのう。そんな話はここらではとんと聞かんなあ」

「そうですか…、分かりました、もう結構です。お時間を頂きありがとうございます」

「いやいや、気にせんでええよ。あんた達にもこれからの旅の幸運を」

「ええ、あなたにも良い日々を」

 

 

 

 それだけ言うと、阿一様は農作業へと出かけていくおじいさんに手を振って見送った。私はというとその様子を眺めながら民家の柱にもたれかかっていた。

 話によるとどうやらあの人がこの村の村長ということらしい。だいぶ年をとっていたがまだまだ現役、となるとこの村の情報も彼が知らなければまず他の人も知らぬだろう。

 

 

 

「こりゃ当てが外れたなあ。あの人も知らないともなると…、どうしたものやら」

「ですね。ここまで間借りした村でもそういった話はなかったみたいですし」

「雲行きが怪しくなってきたか」

「天候も含めて、ですね」

 

 

 

 見上げてみると重苦しい雲が今にもこぼれ落ちてしまいそうなほど暗く垂れこめている。最近こんな空模様が多い気がする。これも蝦夷特有の気候ということなのだろうか?どことなく陰鬱な気分にさせられる。

 

 

 

「しばらくはどちらも様子見だな。諦めるにはさすがにまだ早そうだし、もう少し進んでみよう」

「なかったらどうします?」

「ずいぶん後ろ向きな意見だな?」

「楽観主義もいいですが、現実も時には見なくてはなりませんから」

「そりゃそうだ。………ま、ある程度のところで見切りはつけなきゃまずいだろう。次の村と、その次の村で何もなかったなら素直に引き返すとしよう」

「了解です、今日はこれからどうします?」

「ここを出る。まだ日は高いし、留まるには時間が惜しい」

「今夜も野宿ですかねえ」

「山小屋が見つかることを祈るんだな」

「ちょいとそこのお二人さん、よろしいですかい?」

 

 

 

 ん?と振り向いた先には小柄な人物が立っていた。農作業する村人たちと似たような格好をしながら背中を丸く曲げ、前髪を押さえつけて覆い隠すように手ぬぐいで縛り上げている。

 村人たちは皆農作業へと出かけてしまったようだった。おかげで周りにはもう誰もいない。ってことは私たちのことか。

 それを察した阿一様が答えた。

 

 

 

「どうかいたしましたか?何か私たちにご用でも?」

「ええ、あなた様方はどうやら耳の早い御方達のようだ。かの秘密の花園を探しておられるのでしょう?」

「ええ、その通りです。私たちはその話に好奇心をくすぐられたもので。その光景を一目見てみたいと思いながらそこを目指してここまで旅をしてきたのです」

「それはそれは…、ご苦労様でございます。私も同じ同士でございます。それで見つけることは叶いそうでございましょうか?」

「…いやはや、お恥ずかしいことに話を訊けど訪ねど皆一様に返答は知らぬの意です。双手をあげてしまいたいところですよ」

「それでは、もう旅はやめてしまうおつもりで?」

「私事ですが、生来諦めの悪い性質でして。もう少しだけ粘ってみようかと今ツレと話していたところです」

「おお、いいことを聞きました。ならまだ間に合いそうです」

「間に合いそう、とは?」

「いえね、知ってるんですよ、その花園のありかをね」

「ほう…?本当ですか、それは」

「もちろんでございます。なんなら今からご案内して差し上げましょうか?」

「それは願ったり叶ったりですが…、今日中に行けそうなのでしょうか?」

「日が落ちる前にこの村まで戻って来れるような場所でございますよ。ただ、道筋が入り組んでおりますので話がひどく広まりづらいようですが」

「ふうむ…、どうする?」

「今更私に話を振らないでくださいよ、阿一様…」

 

 

 

 唐突な投げかけに困惑するしかない。今までこういった聞き取りは全部阿一様がやっていたこともあって、ほとんど話半分で聞いてなかったのも問題だった。

 でも、見つかるって言うならそれでいいんじゃないかな…?少し都合良すぎる気もするけれど、断る理由も見当たらない気がする。

 

 

 

「いいんじゃないですか?何か気がかりでも?」

「そうだな、強いて言えば入り組んだ道って言うからお前がはぐれてしまわないか心配でな」

「は?!今までそんなことになったこと一度だってないじゃないですか」

「と言いつつ、今柄だしなあ。もしかしたら」

「ないです。」

「絶対に?」

「当たり前じゃないですか」

「からの?」

「な  い  で  す  。」

「そりゃ残念」

「どういう意味ですかっ!?」

「あのー、お二方。それならよろしいということで…?」

「あ、すまない。気にせず、ぜひ案内してくれ」

「振っておきながらそれですか!?」

「かしこまりました、では早速行きましょう」

「をい」

 

 

 蚊帳の外は私だけらしい。両手を合わせて詫びる阿一様にむくれ面を向けながら、恭しくお辞儀をしたそのお婆さん(というには少し声が若すぎるか?)が呼び寄せる方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が山の表皮を舐めあげるように真っ赤に染めている。

 にも関わらず私たち一行は未だに目的地を目指して歩き続けていた。

 

 

 

「あのー、阿一様?」

「なんだ?」

「……一体いつになったら着くんです?もう日も落ちますけど?」

「奇遇だな、僕もそう思っていたところだ」

 

 

 

 既に村を出てからかなりの時間が過ぎた。もうそろそろ見切りをつけて足を止めたほうがいい時間帯である。だが返答はそんな言葉でしかなかった。

 しかし、むくれ顔をしながら腕を組み歩く阿一様のその返答で嘘をついているような様子は見えない。ただまったく態度通りの気分でもなさそうだった。むしろその逆のように見える。

 おかげで、何を考えているのかわからないのはいつものことだったが、今回は話にかけてそれらが私を困惑させていた。

 

 

 

「このままついて行っても大丈夫なんですか?」

「まあ、大丈夫か大丈夫じゃないかと言われれば大丈夫じゃないだろうな。今夜は雨になる」

「…それは言葉遊びのつもりですか?」

「まさか。額面通りの意味だよ。まあいつからかまでは正直わからないが」

「そうですか…」

 

 

 

 すると、目の前のお婆さんが足を止めた。

 念のため周りを見渡してみるがなんてことはない山奥の一角だ。花畑もなければ、花弁の一枚すらもない。どうみても話に聞いていた目的地ではなかった。

 

 

 

「いかがなされました?まだ例の目的地ではないようですが」

「いえいえ、少しばかりあなた方に伝えたいことがありまして…」

「ほう、それはこんな時間になりながらもまだ着かないこととなにか関係があるのでしょうか?」

「ええ、ありますとも。この後すぐにでもお見せできると思いますよ」

「…それはいささか信じがたい言葉ですな。証左は?」

「示しましょう」

 

 

 

 振り向くお婆さんはすでにおばあさんではなかった。

 伸びた爪が阿一様の喉元へと吸い込まれていく。

 

 

 

「今柄っ!」

「っ!」

「んな!?」

 

 

 

 三者三様、別々の反応をしつつもひときわ大きく目を見開かれていた目は刺し傷のように細まった黒点と、ひどく濁った飴色の瞳が見えた。

 

 

 

 

 

 

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