「なるほど…、わざわざ北へとねえ…」
「そうなんですよー、ここら辺に冬にも関わらず花が咲く場所があると小耳に挟んだ物で…」
「私もよ、雪降る夜に広がる花畑…、聞いただけでも心躍るわ」
「まったくです。冬の風情といえば雪、火鉢、あとは僅かばかりの獣ぐらいのもの…。とかく色彩が少ないですから、余計にですね」
「ええ。それに今の季節は花が少ないから見るだけでも一苦労」
「はは、違いない…。おい、今柄。お前なんでさっきから喋らないんだ?」
「…喋らないんじゃないくて、喋れないんです」
「そんな。折角なのだから一緒にお話しましょう? イマエさん?」
どうして…。どうしてこんなことに。
「すいません、幽香さん。なんだかこいつ今日は機嫌悪いみたいです。私の顔を立ててどうか許してあげてください」
「それはそれは…、目的地について少しは気分が優れてほしいものだわ」
「ええ、本当。・・・こうして話しているだけでも興味が惹かれますよ」
「それは私も」
「気が合いますな」
「みたいねえ」
どうして、こんな化物と一緒に旅することになったんだ…!!!
⇔
「んで?そこのそいつの胸に顔面から突っ込んで、介抱されて、なっさけない姿を晒した挙句助けを乞うた、と。そして甘い蜜月を私のすぐ横で過ごしていたと。そういうことですか?」
「そうなんだが、ええと、どこから突っ込めばいいんだ?」
「どこでもどうぞ?全て虎穴ではありますが」
呆れたように眉間にしわを寄せるこの表情を見るのも何度目だろうか。こういう顔を阿一様がする時は決まって私がなにかやらかした時だ。間違って、門の壁をぶち抜いてしまったとか、同僚の自信を一人残らずたたきつぶしてしまった時とか。だから私の表情も自然と決まってくる。誤魔化すような笑顔を浮かべながらただやり過ごすのがいつもだった。
今回は、そういうわけにはいかないけどね。結構怒ってるし。
ここは以前、というか昨日聞き込みをしていた村の村長の家の中だ。すでに家主は畑仕事か、それとも子供たちの相手か。家を空けており、ここにはいない。
「生きて帰って来れたんだからいいじゃないか。それにこれからのことも考えたらこっちのほうが得策だろう?」
「それ、まかり間違っても私を放り出した阿一様が言っていい言葉じゃないですよね?」
「うぐ…」
「確かに後者はその通りですよ。この足じゃ流石に万全とはいかない。今回のような事態も有りうるでしょう。それでも、私はあのように何も言わずに引き受けた。それを仇で返すとはどういうことでしょうか?」
「仇って、お前…。そこまで言うか?」
「言いますとも。言わなきゃやってられないんですこの複雑な心境を分かってくれますかむしろ分かれこの朴念仁」
日が次第に上り始めた。もうそろそろ旅を再開してもいいだろう。足の傷の塩梅は、まあ、どうにかなった。正直詳細は知らない。起きた時にはすでに処置が施されていた状態だったので、どうしてこうなったのかはわからなかったが、文句はない。しかし、健康体というわけにもいかない。やはり力めば痛いし、力も入らない。だが、今は特にそこに触れる必要はない。
とはいうものの、これからの旅路に不安があるという阿一様の気持ちもわかる。私だって今回のことは予想外だった。ここまでキツイものになるとは思わなかったのだ。だから、それも、まあ、それでも信じて欲しいというのが臣下としての本心だが、これはわがままなので、不安に思っているというのもまだ耐えられる。
問題は、その後。
「いいじゃないか。せっかく一緒に、と言ってくれてるんだから。袖触れ合うも多生の縁って言うし」
「誰かと行くのが反対だって言ってるんじゃないんです! 問題はそうじゃなくて!」
「そうじゃなくて?」
「どうして! この女となんですか!」
「なんだ、嫉妬か?」
「違います!」
問題は、この歩く無差別凶器みたいなこの緑髪の女と一緒に旅をしなければならないってことだ。
いや、だってね?私、こいつに一回殺されかけてるのよ?もう、殺。死だよ、死。殺意を撒き散らしながら襲われてるのよ?いくら鈍いからってそりゃないって。
どうしてここにいるのとか、どうして私を殺そうとしたのとか、聞きたいことはそりゃもう天よりもうず高く積めるほどあるけども、一旦それを蹴り飛ばしたとして。なんで付いてくるって話になってるの?
じゃあ、一万歩譲ってそれにも目を瞑るとしましょう。なぜなにどうしてばっかじゃいつまでも子供と変わらないし? 私大人ですし。ええ、それぐらいの甲斐性ぐらいは私だってあるさ。だけどな、付いてくるっての自体は頑固拒否。絶対に許せない。
「ねえ、たしか、イマエとか言ったかしら?」
「…なんですか」
「どうしてそこまで頑なに私が付いてくることを拒むのかしら」
「喧嘩売ってるんですか?」
「いくら私でも死体に売る趣味はないわ」
そう言いながら彼女はゆっくりとこちらへと近づいて来る。息がかかるほど耳元に近づいて来ると囁いた。
「ここでこれ以上騒ぐようなら、殺すわよ?」
「………」
「別にいいのよ?私は、ヒトの1人や2人ぐらい。巻き込まれて死んでも気にしない」
「…それは」
「アナタのそのくだらない恐怖心とつまらない不安を天秤にかけて考えてみなさい? 今どうすると得策か」
意地でも通す気らしい。平坦な声色には間違いなく怒りが混じっていた。私の言葉を遮ってまで問いかけたのはその証拠だろう。
私が殺されるのは構わない。未練はあるがそうならざる負えないのであれば受け入れることぐらいは出来るつもりだ。だが、それは阿一様が安全になる確信があるときだけだ。この場において、こいつがあの時のように暴れようものなら、その確信は粉々に打ち砕かれてしまう。
こいつが本気で、いや、悪ふざけで今殺しに掛かられたとしても、阿一様はもちろん、私もこの足では生き延びることはできないだろう。
こいつはそういった類。ヒトじゃないのも間違いないだろう。そしてそれを口にすればどうなることか。
…ここは折れるしかなさそうだ。ここは嫌な感じしかしないし。
「はあ…、分かりました。でも阿一様。わかってますよね? 切り上げるときになったらきっちり切り上げますから」
「せっかく付き人が増えたんだぞ? それならもう少し伸ばしても…」
「泣きますよ?」
「それは脅迫なのか…?」
「どういうことかしら?」
「私たちの旅は少しばかり特殊でして。ある花園を目指して旅してるのです。して、そこは噂ばかりの場所で、詳しい位置については実はまだ知らないのです」
「ふうん。それで?」
「ここまで旅してきたはいいのですが、噂の影も尻尾も見えず幾日も過ぎてしまいました。なので、もう少し先、具体的には二つ先の村まで行って何も手がかりがなければあきらめて引き返そうと話していたのです」
「ま、それは見つからなければ、の話よね。なら気にするだけ無駄だわ。行きましょう」
「あ、待ってください! 幽香さん!」
一人立っていたそいつはスタスタと扉へと近づいていくと振り返ることなく出て行ってしまった。阿一様もそれを追いかけていくように外へと出ていく。
あー、頭痛いー。どうしてこんなのと…。
そこでひょっこりと扉から顔を出したそいつが私に言った。
「あ、そうそう。これからよろしくね? イマエさん?」
どうして…、こんなのと…。。。
⇔
そんなこんなでカカッっと数十日間。息の詰まるような平和な旅がなんとか続いていた。
阿一様は相変わらず呑気というか、特に幽香を気にする様子はない。普通に接してるといった感じだ。それなりに日数が経ってきているせいか打ち解けてきている風すらある。
一方、私はといえば。
「それで?どうしてイマエはずっと後ろの方のいるのかしら?」
「突然後ろから襲われたら怖いからだけど」
「でも、そこでは私たちと話しづらいわよ?」
「結構。あなたと話すことなんてなにもないから」
「私にはあるの。来なさい」
「嫌だ」
「何回目のやり取りだ?それ…」
はい。こんなのと相入れろとか無理無理。警戒心バリバリでむしろ近づいてくんじゃねえってぐらい。
3人で横一列に並ぶこともなく必ず一歩後ろ。昼を食べるときは間に机を挟む。寝るときは背中を見せぬよう警戒しながら。それぐらいずっと気を張り続けている。
そんな感じでここまで続けてきたが未だに幽香はボロを出さない。至って普通の同行者だった。装いも元より髪色さえ除けば目立ちはするが変人というには一歩足りないような風体だ。あからさまに動かなければ阿一様は間違いなく気がつかないだろう。
だが、ついてきたからにはなにか目的があるはずだ。どこかで絶対にこちらを悩ます提案か動きをしてくるはず。それは確定的に明らか。
「阿一、次の村まではどのくらいなのかしら?」
「最短で明々後日ぐらいには到着するらしいですが…、まあどうでしょうね」
「村人の足でその程度なら案外もう少し早く着けるかも知れないわね」
「どうして?」
「こちらは旅慣れしているようだし、休憩だってほとんど取っていないじゃない」
「そうですね。今柄、足、大丈夫そうか?」
「はい、まあ歩く分にはまだまだいけそうです」
「どうかしら?実はもう走れるぐらいまでには治ってきてるんじゃない?」
「それをあなたに言う必要はないんだけど? 幽香」
それをみた阿一様がため息を付き、私がまたしかめっ面をして、幽香が実に楽しそうに笑う。ずっとこんな調子だ。しかし、それもあともう少し。
幸いなことに一つ目の村ではなんの情報も得られなかった。そのときは阿一様も必死なのか、村人全員に聞き出すほどの念の入れようだったが見事空振り。どの人も見ないし聞かないし知りもしないといった具合だった。このまま行けばもしかしたら次の村もさして距離は離れていないようだし、幽香とおさらばするのもそう遠くないかもしれない。
「今日はそこの広場で休もう、いいな?二人とも」
「いいですよ、幽香が近くにいなければ」
「ええ、イマエが気を許してくれるならいいわよ」
「………はあ」
阿一様がため息をつく。
なんにしてもこの旅がこのまま何事もなく終わることをただ祈るばかりだった。その淡い期待は裏切られることとなるのだが、それはもう少し先のお話。
ゆうかりんともんぺりんが混ざって、カリスマがあったりなかったり。まあ、どっちも可愛いから好きなんですけどねッ!!!