ひとまず突いてみよう。そうしよう。
その小さな体の隣に座り込み、服の上から人差し指で恐る恐るその子の体をを突いてみた。
しかし、何かの動きらしい動きはないし、指先から伝わる温度は驚くほど冷たかった。
こんな肩を露出しているような服装で、しかも雪を体に積もらせるぐらいずっと倒れていたとするなら、まあ、当然ちゃあ当然。そうなると、これは仏さんってことで見ていたほうがいいのだろう。
でも、いくら死体とは言え、せっかくこんなに綺麗なままの状態なのに、このまま野ざらしっていうんじゃいくらなんでも報われない。ましてやこんなに小さな子供。飢えか、病気か、死んだ理由はなんであれ、大人のそれよりも情を惹かれてしまうなー。やっぱり、こうして見つけちゃった以上は供養してあげたい。
にしてもなんだってこんなところで倒れてるかなー。行き倒れ、かなあ?やっぱり。飢えで死ぬのが当たり前ってのも考えものだよ…。
ま、考えことは後だね。いったん移動させよう。どこに埋めるかまではまだ考えていないけど、私みたいにつまづく人がいたらこの子にとってもつまづかれた子にとっても良くないし。いくらこんなに荒んでいる世の中でも、それぐらいでいたほうが良い。
1度、その体を覆っていた雪を取り払い、どこかに運ぼうさせようと屈んで彼女を抱き上げた。
すると、胸元のあたりまで抱き上げたところで、私の体温に反応するかのようにその死体だと思っていた体は腕の中で身をよじらせた。
「うぇぇぇ!?」
流石に驚き、抱き上げたその体を地面に放り出して、高速で雪道を後ずさってしまった。
思わず腰を抜かしそうになったよ。え、なに、死んでるじゃないの? ひょっとしてまだ生きてるの? 現在絶賛生存中ってこと? 嘘でしょ?
後ずさった後のやや引き気味の体勢のまま、しばらくの間固まる。頭の中で色々考える。
抱き上げられた彼女が驚いて反応するのもわかるけど、そんなところで動かれたら私だって驚くよ、というか生きてるなら生きてる素振りをもう少しぐらいしてくれてもいいじゃん?え?死体に対して何を言ってるんだってって?いやいや、この死体、生きてるし。待て待て待て待て。生きてる死体ってなによ、薄気味悪いよ、まだ妖のほうがましだよ。死体なんだから死体らしくしていてよ。あれ、でも死体らしくするってどゆこと?
頭の中が四方八方へ行ったり来たりしたまま、私も固まっていると、動くものがなくなり、自然と周囲は静まった。そうして、意識せずに耳を澄ませたところでそれは聞こえた。
地面に投げ出され、またしても冷たい雪に包まれたその子が上げるのは今にも消えそうな弱々しいうめき声。
その時になって私は今の状況を再認識した。
うん、生きてる。虫の息だけど、確かにこの子は生きてる。
もしかしたらこの子が今まで出会ったこともないような妖怪かもしてないとか、この死にかけた様子が実は演技で、こんな寒い夜の中周りに山賊やら盗賊やらが潜んでるかも知れないとか。私はあれこれ考えていたけど。
それでも目の前の子供は生きてる。今にも消えそうな灯火を必死に燃やしてる。とても辛そうに。
たったそれだけで、潮が引くように余計な雑念が消えて、1番大切な私の意思だけが残った。
助けよう。今ならきっとまだ間に合う。
それだけがはっきりした。
私は足元にあった酒をひったくるように掴み、その子供を背負って自宅へと走った。
*
背中の子を降ろすのも焦れったくて、片足で家の玄関を強引にこじ開ける。
なにやら外の方で何かが崩れる音がしたけど気にしない。そんなことは後にすればいい。
それよりもこの子の体を温めることに専念すべきだ。家に着いたからといって子供の体調が好転したわけではないんだから。変なのに時間食われたし急がないと。
一度、部屋の壁にその子を降ろしてもたれかけさせ、自分の薪取ってくる。次に持ってきた薪を囲炉裏に並べて火を起こすと、今まで暗かった部屋が一気に明るくなった。そして、室内が暖めながらござを引き、その子の濡れ切った服をいったん脱がせる。だいぶ緩いが代わりの服を着せてから上着と着物を被せ、その子をゴザの上に寝かせた。
それで……、次はどうしよう? 寝かせて、部屋を暖めるのはいいけど……。私はどうすれば?
それからその子を温める方法というのが思いつかず、囲炉裏の火を少しでも大きくしようと息をさらに吹きかけてみたり、それも終わると忙しなく家の中をうろうろしたりして、その子が回復するのをひたすら待った。しかし、その子が目を覚ますことはなかった。
試しにござの隣に座って左手を自身の額に、右手をその子の額に置いてみる。外で倒れていた時に比べればかなり温かくなっていたが、それでも人肌とは思えないほど冷たかった。
少し怖くなったため、一応口元ににも手をかざしてみたところ、微かだがまだ息があるのがわかった。とりあえず胸をなでおろしたが、このままだとまだ危ないのかもしれない。
あぐらをかいて腕を組み、ただでさえ使わない頭をひねって何か思いつかないか必死に考える。
他に温める方法、体を温める方法……。今からこの子を風呂に入れるのは? いや、火元は囲炉裏の火を使えばいいにしても、人が入れるような大きさで、なおかつ水を貯められるような容器なんて家にはないし、鉄からそんなものを技術なんてのも私はもちろん持っちゃいない。
じゃあお酒を飲ませるのはどうだろう? 酒を飲ませれば体は火照ってくるし、もしかしたら目を覚ますかもしれないか? いやいや、流石にここまで幼い子供に飲ませるのはまずいだろうし、何よりも量が心もとない。
えーっと、それなら…………。それなら………‥。
と、そこで止まった。まっさらで、その次が何も出てこない。
元より私は考え事が得意ではない。だからすぐ目に付いた温まりそうなものや、すぐに考えつくことばかりをしていた。となればいずれやれることが見つからなくなるのは明白だった。
火は付けたし、服は一度脱がして着替えさせたし、着物も被せた。これ以上温めるにはどうすればいいだろうか。この部屋の中にあるもので使えそうなものはあらかた使い尽くしたし、後は回復するのを願って待つだけなんだけど……。
と、そこでついに耐え切れなくなってあくびが出た。今日は朝から働いていたおかげで、いつも以上に疲れている。まだ日が落ちてからさほど過ぎていないが、それでも眠いもんは眠い。明日は一応まるまる1日分休みということなので、仕事に備えて早く寝る必要はないが、どうにもこの眠気には勝てそうになかった。
家にあるござはひとつしかないし、壁にでも寄りかかって寝よう。ああ、でも酒も少し飲みたいし、多少酒盛りしてから寝たほうが寝るとき寒くないか……。
その時、私は閃いた。
「私とこの子が寝ればいいんだっ!」
冬コミは参加できないので、冬コミ4日目(通販漁り)に参加することにします…。