今は昔   作:何某

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3話:YES ロリータ NO タッチ!!!

「暮らす……って? あんたと? 二人で?」

「そう。……萃香はどうかな?」

 

 

 

 言葉をまだ飲み込めていないらしい。何を言われたのかもわからなかったのか、萃香は目を丸くさせたままだった。

 

 私がこんな提案をしたのにもちろん理由がある。

 言葉にするのもなんだけど萃香には記憶がなくて、出ていった後の行くアテも無くて、これから生きてく糧すら持ってない。正直言ってまともに生活していくことすらかなり難しい状態だ。そんな状態でも、萃香にはこれからすることがあって、なにか目的を持っているというならそれを止めないつもりだった。けれども、もしも何もないっていうのならその話も違ってくる。

 

 元気になったから、はいお終い。あとは好きに生きてね、さようなら。――なんて言う気はさらさらない。保護したその時から裸一貫の萃香をそのまま外に追い出してしまうような鬼になったつもりはないのだ。

 それでも、萃香の返答次第だ。はたして。

 

 

 

「……どうもこうもないでしょ? わたしにはそれ以外に道はないし、受け入れるべきなんだと思う」

「本当? なら――」

「でもちょっと待って。こう言っちゃなんだけど、もしも一緒に住んだとして、明日の夜にでもあんたに寝首をかかれて殺されたりしたら、わたしはどうしたらいいんだ? せっかくあんたに拾ってもらった命だけど、そうなったらわたしはあんたを怨んでも怨みきれないよ」

「そんなこと言われたって、私が君を殺してもなんの利益もないんだけど……」

「もちろん、そんなことはわかってるさ、その通りだとも思う。あんたが損得で考えるような人なら、私をこうして連れ帰ることに意味なんてないんだからさ。

 でもわたしはあんたのことをよく知らないし、実はわたしが気がつかないだけでそういう得することがあるのかもしれないとも考えちゃう。ひょっとしたら、今の言葉だって嘘なんじゃないかって思ってしまうんだ。

 単にわたしが疑り深いだけなのかもしれないけど、いくら助けた恩人とはいえ、まだ会って数分。生まれたての小鹿じゃあるまいし、あんたの言うこと為すことなにもかもを信じろっていう方が無理だよ。ただでさえ物騒なんだし」

 

 

 まっすぐとこちらを見ながらぶれることなくはっきりと言い切ったその言葉は紛れもなく萃香の本心なのだろう。だが、そこまで言われると私は困るしかなかった。

 う~ん、言われてみると確かにそうかもしれない。むしろ萃香の言う通りだ。それが当たり前なのかもしれない。

 

 私は物事を深く考えたりしないからそんなことまでいちいち気にしない。だけど覚えていないとはいえ、昨日まで萃香は凍死寸前だったんだ。自分がどうなっていたのかもう話を聞いてしまった以上、それくらいの警戒心はあってしかるべきか。

 じゃあどうしよう? そんなことを言われても萃香が私を信じるに足る証拠なんてすぐには思いつかない。というか、そもそもそんなものがあるのかすら怪しい。彼女が私を信じるには私が彼女の敵じゃない、彼女のことを騙したりなんかしないっていう確約が必要になるけど・・・・・・。

 確約、確約…・・・。約束?

 そうしてない頭を捻りほじくり返して、ようやく1つの解決方法を思いついた。

 

 

 

「じゃあさ、こういうのはどうかな?」

「ん? 小指?」

「そう。指きりげんまん、って知らない?」

「いや、知っているけど……、それがなに?」

「だから約束。私は萃香に嘘をついたりなんかしないっていう約束。これが証拠。……だめかな?」

「……はあ?」

 

 

 

 うわあ、すごい顔。せっかく綺麗な顔立ちしてるのにかなり際どい表情してる。なんというか、今まで見たことのないものを初めて見るような目付きしてるよ。そんな目で見られたら何かに目覚めそうだ。こう、背筋のあたりからゾクゾクとしそう。いや、冗談だけど。

 相変わらず怪訝な顔をした萃香は眉を潜めながら言った。

 

 

 

「なあ、あんたってひょっとしなくても馬鹿ってやつなのか?」

「そ、そんなことはない。確かにちょっとばかし考えることは苦手だが、馬鹿になったつもりはないぞ。うん、たぶん」

「どうだか、怪しいもんだ」

「うっ……」

 

 

 

 幼子らしからぬ表情でこちらをみるあたり、なんというか、本気で思っているっぽい。………そんなにそう見えるかなあ、少しだけ凹むなあ………。

 私ががっくりと肩を落としていると、萃香はわたしに訊いてきた。

 

 

 

「……じゃあさ、なんであんたはわたしのことをを助けたんだ? こんな小娘が1人で道端で倒れていても、あんたが見捨てたところでなにも損はしないだろ? どうしてなんだ?」

「え、あー…、確かにね。それはそうなんだけど…」

 

 

 

 ジト目で見上げる萃香かわいい……。っと、そういうことじゃなくて、どうして私が萃香を助けたのかだっけ。

 難しいな。なんて言うべきかわからない。こういう時にすぐに答えが出せればいいんだけど、自分でもよくわかってないし。

 腕を組んで、唸りながらしばらくの間、自問自答してみた。

 どうして助けたの?→助けるつもりなかったし(死んでると思ってた)

 終了。終わり。

 …あれ。答えになってないぞ。

 初めの大前提としての行動理由が違っているのだから、答えにならないのは当たり前。だが、それを言ってしまえば間違いなく彼女に失礼だろう。死んでると思ったから助けたなんて言えるわけがない。なのでさらにもう少し考えてみる。

 

 そもそも生きてるなんて思わなかったから、助けるとかそういう話じゃなかったしな。じゃあ、死体を担いだ理由を言えばいいか?あなたを埋めようとしたんですって?生き埋めにしますっていうようなものだろ、それは。猟奇的すぎる。……ええい、ややこしいことはやめだ。言いたいことを話そう。あとは全部神頼み、成り行きに任せよう。

 

 

 

「ん~……、簡単に言えば自分のためかな」

「自分のため?」

「そう、自分のため。……最初言った通り、初めは生きてるなんて思ってなかったから、君を埋めようと思ってたんだ。こんな綺麗なままの骸を晒し続けたまま放っておくのはかわいそうだって思ったから。何もせず見て見ぬふりをして、自分を嫌いたくないっていう自己愛と安っぽい同情だよ、こんなご時世にも関わらずね、いやこんなご時世だからかもしれない」

「…………」

「ともかく、本当にそれだけ。悪いけど、助けた理由なんて偶然に偶然が重なっただけなんだ。私は萃香が考えてるほどきっと良い人じゃないし、悪い人でもない。中途半端な人なんだよ。

 きっと萃香が目を背けたくなるようなほど無残に死んでいたなら、私はそもそも関わろうとすらしなかっただろうし、かといって、見つけたときに萃香の生死に関わらず絶対に救おうと思って動いたわけでもない。どっちつかずなんだ。

 それでも、生きてる萃香は見捨てられなかった。萃香は生きていた。死の淵にいたようだけど、必死に生きようとしてた萃香をほうっておけなかった。

 たったそれだけなんだよ」

「……なにそれ」

「…………やっぱり信じられない?」

「そりゃね。結局、理由になってないし」

「うっ……」

 

 

 

 萃香は呆れたのか両手を軽く上げ、やれやれといった様子で干してあった自分の服の方へ歩いていた。

 自分より小さい子にこうもはっきり言われるなんだか情けなってくる。いや、だってどうしようもじゃん?うまく言葉にできてないのか、単純に自分がなんで助けたか自分でもよくわかってないのか、それすらも曖昧だし。とはいえ、結局のところ萃香の言う通り、理由にはなってないしなあ。

 

 言いたいことは言い切れたが、それは正しく彼女に伝わってはいない。一抹の申し訳なさと共にただ私は呆然と彼女の背中を眺めることしかできなかった。

 この様子だと萃香は出て行くのかな。すこし心配だけど、無理に止めていくわけにもいかないし仕方ない。……ちょっと嫌だけど。

 

 

 

「でも、あんたのその包み隠さない能天気さは認めるよ。今はそんなあんたを信用することにする」

「そりゃそうだよねー、自分だってよくわかっていないことを他人にわかってもらおうっていうこと自体がもう甘いもんねー。そんなんで納得してくれるわけがないよねー…………って、今なんて言った?」

「信用するって言ったのさ。あんたのことを」

「それ、本当?」

「……あんたがわたしを疑ってどうするのさ」

「それもそうか、ごめん。それじゃ」

「それじゃ……って、なに?これ」

「え、小指だけど?」

 

 

 

 そりゃ指の中で一番小さく細い指なのだから小指に決まっているだろう。それ以上でもそれ以下でもない。

 目をまん丸くさせながら視線が私の指と顔を行ったり来たり下かと思えば、不思議そうに訊いてきた。

 

 

 

「小指出してどうするのさ」

「指きりげんまんをするんだよ」

「するんだよ……って本気で言ってたの!?」

「え? むしろ本気じゃなかったの?」

「なんでそんな不思議そうな顔してるのさ!!だって、普通……。ああ、もう、わかった。すればいんだろすればっ!だからそんな目で見ないでよ!」

「うん、しよう。じゃあ小指出して」

 

 

 

 やっぱり見た目に反して中身はわりと大人みたいだね。恥ずかしいのか顔真っ赤にしてるよ、よく見たら目、少し潤んでるし。たかだかゆびきりげんまんなのにね。

 緩みそうになる口元を必死に抑えながら、それを隠す意も込めて少し強めに力を入れて小指を繋いだ。

 

 

 

「ゆーびきーりげーんまん、うっそつーいたらはーりせんぼんのーます、ゆーびきった!」

「……これからよろしく」

「うん、よろしくね。萃香」

「ところでさ、いい加減教えてくれない?」

「ん?なにを?」

 

 

 

 まだ若干顔赤らめたままの萃香が私に聞いてきた。

 いい加減って、なにか答え忘れていたっけ?訊かれたことには全部反応していたと思うんだけど。それともなにかとんでもないことを明かす前振り?

 まったく心当たりのなくただ首を捻るばかりの私に、萃香は呆れ気味ながら訊いてくれた。

 

 

 

「あんたの名前だよ、名前。わたしはまだあんたの名前すら知らないんだ。これからなんて呼べばいいかわからない」

「あれ?まだ私名乗ってなかったっけ?」

「うん。してない」

 

 

 

 ついうっかりしてた。昨日はあんな状態でバタバタしてたし、今朝だってまだ起きたばっかりだからそんなことにはまったく気が回ってなかった。なんとなくもうお互いに知り合い(?)みたいな気持ちでいました。はい。

 

 

 

「そっか、それじゃあ、改めて。

 私の名前は今柄。これからよろしくね、萃香」

「よろしく、今柄」

 

 

 

 そう言って私が差し出した右手を、萃香は笑って握り返してくれた。

 

 

 

 

 

 





正月に投稿しようと思いながら書いたはいいが、気がついたら正月が終わってしまい二日に二本連続投稿することになってしまった。
(古代ペルシア語においてあけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いしますという意味)


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