なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

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おいでよ、ナザリック城

凄い。

エンリは語彙が少ない自分を恥じた。

 

 

「すっごーい、お城みたい‼」

 

 

隣では妹のネムが目をキラキラさせて見上げていた。

 

圧倒的な迫力を誇るその外観は、エンリが今まで見た中でも一番の迫力のものだった。

 

 

ガッシリとした構造は三階くらいまでの高さがあり、屋根には悪魔を象った石像が四体、四方に設置されている。

 

 

その周囲では、モノクロ状にタイルが張っており、入り口へと繋がる道は、煉瓦で通路が出来ていた。

 

 

その全体を囲むように、石垣のように外壁が作られており、門には蒼い炎を灯した大きな杯が、両端に備えられていた。

 

 

外に一歩出ると、その周囲を囲むように堀が三重にも掘られている。中には水が張られ、見たこともない綺麗な花が浮かんでいた。

 

 

 

「お待ちしておりました。カルネ村のエンリ・エモット様、妹のネム様で御座いますか?」

 

いつの間に居たのか、一人の女性メイドが門の付近に立っていた。

驚きを隠せず、恐る恐る、エンリは返答をする。

 

「は、はい。カルネ村から来たエンリです。こっちは、妹のネムです」

「初めまして……、やまいこさん?」

 

ネムの言葉に、エンリはマジマジと女性を見つめる。

ネムの言葉通り、服装や雰囲気は全く違うが、確かにやまいこに似ていた。

 

「……やまいこ様は私のご主人であり、このナザリック地下大墳墓における頂点の一人で御座います。私はユリ・アルファ、こちらでメイドをしている者です」

 

間違えるな。直接言われはしなかったが、目線はそう言っていた。

慌てて謝ると、ユリは優しく微笑んで門を開けた。

 

 

「それでは、中へ御入りください。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様方が、首を長くしてお待ちしております」

 

あ、ほんとに此処であってたんだ。

開いていく門を見ながら、エンリは今更ながらそう思っていた。

 

 

 

「久しぶり、二人とも」

 

よくわからないうちに案内された場所には、やまいこと茶釜が居た。

一生を掛けてもここまで揃えきれないほどの調度品に包まれたその部屋に、エンリは一瞬入るのを躊躇った。

 

意を決して入ると、エンリの家に入りきらないくらいの広さのテーブルに、二人の他にもう一人男性が座っている。

 

「やまいこさん、茶釜さん、お久しぶりです」

「久しぶりです!」

 

今にも駆け出そうとするネムを押さえつけていると、それを見た二人が言う。

 

「元気そうで良かったよ」

「久しぶりだね、あの後は何もなかった?」

 

挨拶もほどほどに、やまいこがそう訊ねてきた。

 

あの後のカルネ村は、兵士の追撃なども考えられていたが、兵士はおろか、魔物の姿すらもなかった。

不気味な程の静寂に、何かの前触れかとも思ったが、至って平和だった。

 

 

「えぇ、何事もなく過ごせました。……えぇと、そちらの方は?」

「あぁ、こっちは、私たちのリーダーである、モモンガさん」

 

モモンガと言われた男性はこちらの事を見ると、笑顔を浮かべた。

やまいこ達と同じ黒髪で、この辺りでは見たこともない風体の美形。

同じ地方の出身なのかな、とエンリは感じていた。

 

「初めまして、ナザリック地下大墳墓の主をしています。モモンガです」

「あ、は、初めまして、カルネ村に住むエンリ・エモットと申します。この度は、お招き頂きありがとうございます」

「いやいや、我が友人であるやまいこさんと茶釜さんの友人だ。構うことはないよ、ここに居る間はゆっくりしていってくれ」

 

不思議と人を落ち着かせるその声音に、エンリは自然と聞き入れていた。

隣にいた筈のネムが、いつの間にかモモンガに近づいていたことを知るのは、すぐのことだった。

 

 

「ねぇねぇ、ここのお城、ぜーんぶモモンガさんが作ったの?」

「……、いや、私だけではない。そこに居るやまいこさんや、茶釜さん、その他居る私の友人達で作り上げた場所だ」

「へぇ~。こんなに凄い場所を作れるなんて、モモンガさんの友逹は凄い人なんだ!」

「……あぁ。やまいこさんと茶釜さんの凄さは、先日君も見ただろう?」

「うん! えっとね、凄かったんだよ、兵士の一人をね、思いっきりぶっ飛ばしてたの!」

「あはは、そうかそうか! それで、他にはあったかい?」

「うん、他にはね――」

 

 

身振り手振りで興奮した様子で話すネムの話に、モモンガは笑って聞いている。

止めたほうが良いか、と二人に視線を送ったが、二人は手を横に振った。

 

「えっと、今日は一泊してもらおうと思っているんだけど、大丈夫かな?」

「えぇ?!……だ、大丈夫なんですか?」

「うん。元々そのつもりだったんだ。もし急ぎの用があるなら、別に良いけど……」

 

エンリは正直に言って、このナザリックは自分にとって場違いな場所だと思っていた。

今いるこの部屋も、床に敷いている絨毯は靴で踏んでも良いのかと考えるほどに高級感漂っている。

回りにある展示品の様なものも、一つ壊せばどれだけの請求が来るか考えきれない。

 

自分一人ならば良いが、ネムが居たら何が起こるか、考えられる最悪な光景に、エンリは顔を青ざめた。

 

 

「ここにいる間は、さっきモモンガさんが言った通り何も気にしなくて良いよ?」

「で、ですが、ネムが迷惑をお掛けしたらと思うと……」

「あー、大丈夫だよ。別にその辺の物壊した所で、誰も怒らないし」

 

一個壊してみる?という茶釜の提案に、エンリは全力で首を横に振った。

 

 

「この日の為に、ご飯も美味しい物を用意したんだけど……。和食と洋食、どっちが良い?」

 

和食、洋食。どっちも聞きなれない単語にエンリが困惑していると、やまいこがメイドの一人を呼んだ。

二、三話すと、メニュー表の様なものを持ってきて、エンリの前に置く。

 

「本日のメニューは――」

 

挙げられた名称は、ほとんど聞いたことのない物だった。煮付け、などはスープの類いだろうかと思案する。

ただし、エンリの中で食いついたのは、デザートのメニューだった。

 

「デザートには、6種のアイスクリーム、季節のフルーツを使ったタルト、他にもマカロン等。食後のドリンクは、ホットチョコレート、コーヒー、紅茶を予定しております」

 

アイスクリームは聞いたことがあった。自分が汗水流して働いた給料を三回分以上払って食べられる甘味。

それが食べられるとなっては、エンリを止める鎖も、もはや蜘蛛の糸程度の強度しかなかった。

 

「――いただきます」

 

凄い。

改めて、自分の語彙の無さに恥じた瞬間だった。

 

 

「ぅわ~!」

 

眼前に広がる光景に、ネムは興奮しきっていた。

何もかもが見たことない物で出来ている、とネムは思っていた。

 

廊下に敷いている絨毯にせよ、壁などに掛かっている絵画や宝飾品の数々。

 

目に映るものが全て好奇心を掻き立てる物に、ネムの足は止まらなかった。

 

「ふふ、そんなに急がなくとも、まだまだ見る場所は有るぞ?」

「まだまだ有るの?」

「あぁ、ここナザリックはこの世の贅を極めたからな。まだ使うには早いが、浴場なども、後で使うが良い」

「よ、浴場ってなに?」

「む。風呂には入らないのか? ナザリックの浴場は広い。存分に楽しむが良い」

 

よく分からないが、とにかく広い風呂、とネムは理解した。この後に増えた楽しみに、ワクワクが増える。

 

「そうなんだ。楽しみ!」

「ははは。では次へと向かうとするか、次は……」

 

第六階層を飛ぶか?いや、しかし……。と悩みだしたモモンガ。

その時、通路の奥からやってきたその男に、ネムは声を上げた。

 

「は、初めまして!カルネ村から来た、ネム・エモットと言います。今日はお邪魔しております!」

「ん、あぁ、やまいこさん達のお客さんか。初めまして、私はたっち・みー。たっちと呼んでくれ」

 

良く言えました、と頭を撫でるたっちに、ネムは自然と笑顔になった。

 

「モモンガさん、ここで何を?」

「あぁ、たっちさん。このネムに、今ナザリック内部を案内していましてね、次は何処にしようかと思って」

「なら、第六階層なんてどうです?これからトレーニングがてら、軽く建御雷さんとスパーリングでもするんですが」

「なるほど……。ネム、行ってみるか?私たちの戦いが見れるかもだが」

「行く!」

 

二つ返事で即答したネムに、モモンガは満足そうに微笑んだ。

指輪を起動して一足先に行ったモモンガ達に、たっちはポツリと言う。

 

「確か、なんと言ったか……。ペロロンチーノさんが言ってたが。……そうだ」

 

ちょろイン。

 

たっちはモモンガの表情を思い出して、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は此処で何してるんだ、アルベド」

「止めないでください、ペロロンチーノ様!今私は、恋敵になるであろう女を見てるんです!」

「恋敵って……、あれは子供だぞ」

「子供だろうが何だろうが、女は女です。……あぁ、モモンガ様。そんな女にデレデレして……、もしやそういう性癖が?あぁ、どうしましょう、いっそアイテムで若返りの薬を探すとか?!」

「コイツはあれだな、ヒドインだ」


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