なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

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今回で冒険者終了。



クエストの報酬~冒険者編~2

「いやぁ、某、殿達に仕えることが出来て光栄で御座るよ」

 

人より二回りはデカいジャンガリアンハムスター、元【森の賢王】が、髭をひくつかせながらそう言った。

現在二つの荷馬車を、エ・ランテルへ向けて引かせているが、行きより早く帰れそうだとたっちは喜ぶ。

 

 

「すまないな、ハムスケ。エ・ランテルへと帰ったら充分休憩をしてくれ」

「この程度朝飯前で御座るよ。それより、次の分かれ道はどっちで御座るか?」

「あぁ、右の方へ行ってくれ」

 

 

ガラガラと音を立てながら、荷馬車が移動する。

荷馬車で座っていたモモが、【メッセージ】で話した。

 

「(森の賢王というからどんなのと思いきや、まさかハムスターとは)」

「(まぁ、可愛いから良いんじゃないですか? モフモフしてて気持ちいいし)」

「(いや、そこは選考基準じゃないですけど……)」

 

上機嫌でいるアンは、現在ハムスケの背中側をモフモフと楽しんでいた。

嫌がるかと思ったが、尻尾がフリフリとリズミカルに動いており、特に問題はなさそうだ。

 

 

「(まぁ、賢王とかいうわりには頭良さそうじゃないですけどね)」

「(ルプスレギナと同レベルじゃないことを祈るのみです)」

 

と、ルプスレギナが聞いたらショックを受けることを話していると、荷馬車が止まった。

見ると、エ・ランテルの門付近に到着していた。

 

 

「流石は【森の賢王】、あっという間に着きましたね……」

「これだけの荷物がありながらあの速度だったのである。普通の馬ならまだ着かないのである」

 

 

【漆黒の剣】の二人が、そんなことを言いながら荷馬車を降りる。

ンフィーレアが乗っている荷馬車へと移動すると、こちらに向いていった。

 

 

「それでは、僕達はこれから積み荷を下ろしてきますので、先にギルドの方で魔獣の登録をどうぞ」

 

 

簡単に言うと、そんだけ凄い魔獣を使役してるんだから、凱旋がてら自慢してこい。という意味である。

 

 

【漆黒の剣】と二手に別れた後で、ある問題が発生した。それは――

 

 

「凱旋って言うなら、誰かがハムスケ背中に乗るんですかね」

 

 

というモモの一言だった。

 

 

「たっちさん、リーダーとしてバシッと決めちゃって下さい」

「いえいえ、ウールさんのような美女が乗った方が、絵になるというものでしょう」

「モモ君、ハムスケに乗りたいって?仕方ないなぁ」

「やめて?!抱えて乗せようとしないで!俺子供じゃないから!オッサンがメリーゴーランド乗るだけだから!」

 

「と、殿達。某には乗りたくないで御座るか……」

 

ギャーギャーワイワイと騒いでいると、ある異変に気付いた。

 

一人足りない。

 

「やぁろぅ(アン)……、逃げやがったな……」

 

テヘペロ♪ としているであろう彼女の顔が、三人の脳裏に浮かんでいた。

 

〰〰〰

 

「わざわざありがとうございます。積み荷を下ろし終わったら、果実水でもどうぞ」

 

ンフィーレアの言葉に、【漆黒の剣】一同から喜びの声が上がる。

 

「本当?やったぜ」

 

追加でもう一人だが。

 

「って、アンちゃん?! どうしたの、迷子にでもなった?」

「違うよー。アン、ンフィーレアさんのお手伝いしてあげようと思って、着いてきたの」

 

えへへ、と笑う彼女に、仕方ないなぁと一同は苦笑いをする。

また後で合流するし、その時にでも引き渡せば良いだろうと納得した。

 

「なら、この薬草を持っていってくれるか?ンフィーレアさんについて行ってくれ」

「はーい」

 

ルクルットから手渡された、薬草をいれた小さな壺を持って、隣にきたニニャと共に運んでいく。

カンテラでこちらを照らすンフィーレアが、すぐに目に入った。

 

が。

 

「だ、誰ですか、あなた」

 

「誰って、お姉さんを待たせといて言うことがそれだけ?キミ、そんなんじゃ女の子にモテないよ」

 

奥へと続く扉から現れたソレは、今のンフィーレアの家には明らかな異物だった。

 

 

「どうした?!」

「ンフィーレアさん、下がって!」

「距離を取るのである!」

 

 

空気の異変を感じ取ったのか、ペテル、ルクルット、ダインが武器を構えて女性とンフィーレアの間に割り込む。

その様子を見て、女性は楽しそうに身を震わせた。

 

「んっふふ、楽しくなってきた。……アタシの名前はクレマンティーヌ、よろしくねぇ」

 

そう名乗ると同時に、腰に付けたスティレットを抜く、その動作に【漆黒の剣】に緊張が走った。

 

「ニニャ、ガキ共連れて逃げろや!こっちは俺達が時間稼ぐからよ!」

「そうです!そして、冒険者組合にいるたっちさん達を呼んできて下さい!」

 

己の武器を構え、簡単なフォーメーションを組む三人。ンフィーレアとニニャの二人が恐怖と混乱で動けないでいると、入り口のドアが開いた。

 

「クレマンティーヌ、いつまで時間を掛けるんだ。さっさとせぬか」

 

ローブを纏った魔術師風の男が、そのドアから顔を覗かせる。

挟み撃ちの形にされた【漆黒の剣】に、クレマンティーヌが言った。

 

 

「大人しくそこのンフィーレア君を渡してくれれば、楽に殺してあげ――」

 

最後まで語られず、クレマンティーヌは体を即座にしゃがみこませる、その場所を凄まじい速度で拳が通過した。

小柄なアンが、その見た目とは大いに違う身体能力でクレマンティーヌに肉薄していた。

 

「皆さん、ここでは分が悪い、逃げましょう。【集団全能力強化】」

「てめぇ魔術師か!【能力向上】」

 

アンが唱えた魔法を見て、クレマンティーヌはすぐさま武技を発動させる。

【集団全能力強化】によって能力が上がった【漆黒の剣】は、逃げ道確保の為カジットを排除せんと肉薄した。

 

 

「くっ……、クレマンティーヌ、この際ここで儀式をしてしまえ!」

 

「チッ……、どけよクソガキぃ!」

 

スティレットを構えたクレマンティーヌが、アンへと素早く接近する。

スティレットの一撃が来ると、カウンターで拳を叩き込む算段をしていたアンは、目を見開いた。

 

「(あれ、狙いは私じゃない……?)っ、ンフィーレア君!」

 

「【能力超向上】、もらったぁ!」

 

気付いたのが遅かった。スティレットをこちらへ目眩ましに突き出したクレマンティーヌは、そのままンフィーレアの元へと接近していた。

 

【能力超向上】によって速度も尋常じゃなく上がったクレマンティーヌに、近くにいたニニャも反応出来ていなかった。

 

 

ズブリ、とクレマンティーヌの指先が、ンフィーレアの両目にめり込む。

 

薬師店から聞こえる少年の悲痛な叫び声は、外にいる誰の耳にも届かなかった。

 

〰〰〰

 

「はぁ~……、やっと終わった」

 

ギルドの組合から出てきたたっちの一言目はそれだった。

ハムスケに写真代をけちった為、似顔絵を書くために時間が掛かったのだ。

 

「では、ンフィーレアのところへ行きましょうか」

「えぇ、今餡ころさんに連絡を――っと、ナイスタイミング…………えぇっ?!」

 

突然驚きの声を上げたモモに、ウールが問う。

 

「どうしました?」

 

「餡ころさんから……、ンフィーレアが誘拐されたと」

 

 

「ごめんなさい。油断してました」

 

宿屋に戻ってすぐ、餡ころは三人に頭を下げた。

普段の元気も鳴りを潜め、落ち込んだ様子でシュンとしている。

 

聞けば、クレマンティーヌという女にンフィーレアが抵抗力を奪われた後、【叡者の額冠】というユグドラシルでは存在しない魔法アイテムを使用され、そのまま逃げられたらしい。

 

「いえ、他の者も庇いながらということで、死んだものも居なかったし良かったじゃないですか」

 

「そうですよ。とりあえず、【漆黒の剣】の皆さんにリィジー・バレアレに連絡してもらってますし、こっちも出来ることをしましょう」

 

ウルベルトとたっちの二人が餡ころを慰めている間に、モモンガは捜索の準備をしていた。

この町の地図を宿屋のカウンターで借り、それをテーブルに広げる。

 

「餡ころさん、ンフィーレアに、【マーキング】はしてますよね」

「えぇ、急だったので簡単な物ですが……、反応ありますか?」

「これからしますので分かりませんが……、【マーキング】してるならそれの跡が残るはずです」

 

モモンガが魔法を行使し、次々に羊皮紙を消化していく。

ンフィーレアに付けた【マーキング】は、町の隅にある墓地を表示していた。

 

「さて、それでは顔合わせと行きましょうか」

 

〰〰〰

 

「おぉ、お前さん達が【漆黒の剣】が言っておった者達か!」

 

突然聞こえたその声に、たっち達四人は振り返る。

そこには、一人の老婆、リィジー・バレアレの姿があった。

 

「何でも、腕が立つ者達というではないか。頼む、今はこれだけしか出せないが、孫のンフィーレアを助け出してはくれないか」

 

懐から布袋を取り出すと、それをウールへと差し出した。

金額にして、金貨百枚。ぽんと出せる値段ではないが、それだけリィジーの覚悟が見れた。

ならば、今が好都合だな。と近くにいたモモが口を挟む。

 

「我々は、そんなものより他の物を必要としているんだ、リィジー・バレアレ」

「な、なんじゃ。……お主、本当に子供か?」

 

その身体から突如醸す雰囲気に、リィジーはたじろぐ。だが、モモの目から発する只者ではない気配に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「何を、欲しいのじゃ?」

「俺達が望むものは、お前とお前の孫、ンフィーレアのこれからの人生、その全てだ」

「こ、殺すのか?」

「バカいえ、ならわざわざ助ける必要もないだろ。お前達の持つ、【ポーション】製作のスキルを、俺達の為に行使しろ。その為の施設も、金も、望むもの全てを用意してやる」

 

モモが懐から取り出した【ポーション】を、リィジーへと手渡す。それを見たリィジーは、驚きで目を見開いた。

以前、ンフィーレアを誘い出すために使ったユグドラシル産の赤い【ポーション】だ、これを適当な冒険者に鑑定に行かせたところ、簡単にンフィーレア達は食いついた。

 

「こ、これは……。まさか、お前達が所有していた物だったとは」

「あぁ、そして、これからはお前達が作っていく【ポーション】だ。……どうする、この手を取るか、振り払うか?」

 

ゆっくりと差し出されたモモの手を、リィジーは少しだけ見つめた後、力強く握った。

 

「孫を、頼む」

 

「契約成立だな。……安心しろ、我らは約束を違えない」

 

「……そういえば、名は?主らのチーム名はなんという」

 

足早に去る中で、モモがこちらを振り向いた。

ニヤリと、全てを嘲笑うように笑う。

 

「我らの名は、【アインズ・ウール・ゴウン】。いずれこの世の全てを馳せる名だ、覚えておけ」

 

【アインズ・ウール・ゴウン】

 

かつてユグドラシルにおいて悪名を轟かせたギルド名が、形を変えて再臨する。

 

 

 

「冒険者はまだ来ないのか?!」

 

墓地の監視にあたっている兵士の一人が、そう怒鳴った。

普段はアンデッドの出現がほとんどない墓地だが、今夜は違った。

 

「■■■■■■――!!」

「ひぃッ?!」

 

眼下から人垣のような物を形成するアンデッドの群れに、同僚の一人が悲鳴を上げる。

その中でも一際大きなアンデッドが、舌の様なものを伸ばして絡み付いてきた。

 

「い、イヤだぁ!死にたくない、死にたくないぃ!」

 

バタバタと暴れる兵士、側に居た兵士が何も出来ずガタガタ震えていたとき、一本の剣が到来した。

ヒュッと音を立てたソレは、その巨体なアンデッドへと突き刺さる。

 

「ふむ、【集合する死体の巨人】か、中々に面倒なのがいるな」

「数だけワラワラと居るようなものだけですけどね。どうします、範囲魔法で吹き飛ばしますか?」

「それだと目立ちすぎでしょう。ある程度数を減らしながら、中央突破で敵を引き付けますよ」

「了解です。なら、先行はたっちさん、お願いできますか?」

「任されました」

 

突然現れたその四人組は、そう言うと監視台へと上がってきた。

その中の一人、たっちと呼ばれた男が、兵士へと告げる。

 

「これからこの中に入って、この騒動の首謀者を捕らえます。その後で、他の冒険者に入るよう指示して貰えますか?」

「え、は、入る?!この中に?!危険だぞ!」

「先程の光景を見たでしょう。大丈夫ですから」

「しかし、カッパークラスの冒険者が……」

 

兵士のその言葉に、たっちの隣にいた女性が口を挟む。

 

「悪いが、私たちはこれでもアダマンタイトクラスはあると自負している。それに、危険だからと尻込みするのは冒険者じゃないだろう?」

 

「そういうことです。じゃあ、行きますよ!」

 

たっちの号令に、四人組はそれぞれアンデッドの群れに飛び込んだ。

中には子供の姿もあった。凄惨な光景になるのでは、と兵士は目をつぶったが、聞こえてきたのは地響きにも似た衝撃音。

 

どんな魔法、武技を使ったのかと想像させるその光景は、大量のアンデッドが着地地点を中心にバラバラに吹き飛んでいるというものだった。

――見間違いでなければ、それはただ地面を思い切り殴り付けたような、そんな雰囲気を放っていた。

 

「さーて、数も多いし、一気にやりますよ!【死者の軍勢】なら、そのうち上位アンデッドも来ますからね!」

「私はそれはそれで面白いと思いますが……、ま、良いでしょう」

 

そんな会話を聞いて、兵士の膝はガクガクと震え、そして崩れるように膝をついた。

 

俺は今、神話の誕生を垣間見ているのか?

 

夢ともいえるその光景に、兵士はぼんやりとそう考えていた。

 

 

「――誰だ、お前達は」

 

墓地のなかにある奉納殿付近に、カジットの姿はあった。周囲には同じようなローブを纏った者が数名存在し、カジットを守るように立っている。

 

「【アインズ・ウール・ゴウン】だよ。カジットさん?」

 

現れた四人組の一人の子供、アンがカジットを睨み付ける。

アンを見たカジットが何か言う前に、奉納殿から躍り出た者がいた。

 

「見付けたぞぉ、クソガキ。さっきはよくも邪魔してくれやがってよぉ」

 

怒り狂っているソレは、クレマンティーヌだった。身に付けているローブを取り払うと、その下の装備が露になる。

身に付けているビキニアーマーには、冒険者の代表的な持ち物であるプレートが、狩猟品として無数に貼り付けられていた。

 

「このクレマンティーヌ様に恥かかせやがって、てめぇをなぶり殺した後に、そのプレートもコレクションにしてやるよ!」

 

「そう……。なら、ウールさん、モモ。そっちのカジットは任せるよ。たっちさんと私で、クレマンティーヌを担当するから」

 

そう言うと、スタスタと別の開けた場所へと歩いていく。それにたっちとクレマンティーヌが続いた。

 

「チッ……、クレマンティーヌの奴め、計画を失敗する気か」

「安心しろ。俺達が来た以上、お前達の計画など水の泡だ」

「ほざけ!貴様等、奴を殺――」

 

カジットが周りの部下に発破をかける前に、目の前を稲光が覆った。慌てて防御魔法で防御するも、多少の火傷を負う。

 

「――おや、死ななかったようですね。意外としぶとい」

「いや、ウールさん目的分かってますよね?!消し炭にしたらダメですよ?!」

 

こちらを睨み付けるカジットを無視して、言い合いを始める二人に、カジットの中で何かがキレた。

懐から取り出した【死の宝珠】を掲げ、魔法を発動する。

 

「馬鹿が。出でよ、【骨の竜】!」

 

大量の人骨で形成されたソレが二体、地中と上空から現れた。

そのモンスターの名前に、二人が表情を変える。

 

「【骨の竜】、か。また面倒臭いモンスターを……」

「二体居ますし、一人一体ずつって事で」

「いや……、どうでしょう。タイムアタック方式でしませんか?」

「……フレンドリーファイアーは解禁されてますから、範囲魔法は止めてくださいよ?」

「…………、運が良ければ、当たりませんよ」

「おいコラ」

 

並みの冒険者であれば、いや、アダマンタイトクラスの冒険者であっても逃げ出す者がいる【骨の竜】を前にして、軽口を叩く二人に、カジットは怒鳴った。

そうでもしないと、自分の今までの努力を馬鹿にされているような、そんな気分になったからだ。

 

「貴様等、【骨の竜】を前にその態度、ふざけているのか!」

「ふざけてなんていないさ、歴然とした力の差を理解できないのか?カジットとやら」

「なんだと……ッ?!やれ、【骨の竜】!」

 

二体の【骨の竜】を、モモとかいう子供へと殺到させる。

数秒後には、地面のクレーターに、潰れて煎餅のようになっているか、ミンチになっているかのどっちかだ。

 

が、【骨の竜】は、そもそも近付くことさえ出来なかった。

四肢を分断され、叫ぶ間もなく一瞬でバラバラにされた二体の【骨の竜】に、カジットはしばらく何が起こっているのか理解できなかった。

 

「え。え、……え?」

「なんだ。理解できないのか?」

 

モモが、その顔を愉悦に歪ませて言う。

 

「まずは第十位階魔法【時間停止】で時を止めた後、同じく第十位階魔法【現断】を【魔法遅延化】で複数発動させただけだが……。聞いているのか?」

「……何か、聞いてないですね。ていうかモモさん、【時間停止】使うとか卑怯でしょ!」

「範囲魔法で開幕ぶっぱしようとしたあなたが言うな!」

 

 

ギャーギャーとカジットをそっちのけで騒ぐ彼等に、最早カジットは何も言えなかった。

それだけ次元の違う出来事に、脳が処理できていないのだ。

 

カジットが意識をはっきりと取り戻したのは、己の持つ【死の宝珠】を奪われたと気付いてだった。

 

「なっ、か、返せ!」

「ダメだ。これは【死の軍勢】に使う魔法アイテムだろう、没収だ」

「お前は取り合えず、向こうの相手をしてやれ」

 

ウールに首もとをガシリと掴まれ、思い切り投げ飛ばされた。

数秒空を舞った後、地面へと叩き付けられる。

 

ふらつく頭を抑えて立ち上がると、目の前に無数のアンデッドが近付いていた。

苦痛と生者への憎しみや恨みを露にするソレらを見て、カジットは後退りする。

声にならない悲鳴を上げるも、その肩を別の何かに掴まれた。怯えながらも振り向くと、そこには別のアンデッド。

 

「い、嫌だ。ワシはまだ死ねん!まだやらねばならぬことがあるのだ!」

 

魔法を使用し、付近にいたアンデッドを吹き飛ばす。最早コントロール出来なくなったアンデッドの軍勢は、カジットの事を敵としか認識していなかった。

 

「やめろっ、来るな、来るなっ!」

 

カジットの脳裏に、不意に思い浮かぶ。自らの目的、あの日救えたはずの母親を、生き返らせるという目的。

死の間際に見る走馬灯だと認識して、カジットは必死に頭を振った。

 

生きたいなら立て、コイツらの足は遅くない、走りながら魔法を使用し、門から脱出する。

 

カジットの願いとは裏腹に、足は全く立とうとする気配すらしなかった。役割を忘れたように、プルプルと震えるだけである。

 

「あ、あ……ぁ。お、おか――」

 

カジットが最後に見た景色は、愛しい母親――ではなく。

 

こちらに嬉々としてかぶりついてくるアンデッドの姿だった。

 

 

「んー、あの武技っての、結構厄介だなぁ」

「なら交代しませんか?私も興味があるんですよ、彼女程の実力者、そう居ないでしょうし」

「えぇー。たっちさん結構大暴れしてるのに……。ま、良いですけど」

 

ぶつくさ言いながらその場を退いたアンに、たっちが苦笑いしながら登場する。

その様子に、クレマンティーヌは舌打ちして言った。

 

「おいおい、余裕ならそのまま戦いなよ、何強者ぶって勝手に退場してんだ、クソガキ」

 

「クソガキクソガキってうるさいなぁ。それしか言えないの?それとも弱い者虐めしか出来ない奴の頭は、皺一つ無い単細胞なのかな」

 

「――んだと、オイ。もっかい言ってみろよ」

 

「だってそうじゃん。アンタの狩猟品、カッパーのプレートがほとんどじゃないの?そんなの弱い奴虐めて、自分強ぇって言ってるその辺の雑魚と一緒って言ってんのよ、クレマンティーヌちゃん?」

 

「ぶっ殺す」

 

「さっきからそう言ってるけど、まだピンピンしてますよー♪口だけの強者(笑)なのかな」

 

「(女性って怖い)」

 

アンの挑発に、クレマンティーヌの顔に青筋が浮かんだ。さっきまでの余裕ぶった雰囲気は無くなり、殺気を振り撒いている。

 

「上等だぁ……。何処の馬の骨だか知らねぇが、元漆黒聖典であるこのクレマンティーヌ様に喧嘩売ったんだ、生きて帰れると思うなよぉ!」

 

漆黒聖典。

 

その言葉に、たっちとアンが急変した。さっきまでの余裕な雰囲気は、真面目な表情へと変化する。

 

「漆黒聖典。スレイン法国の最重要案件でしたっけ」

「えぇ。“プレイヤー”の情報にいち早くたどり着く為の最重要案件です」

 

淡々と話す目の前の二人に、クレマンティーヌは本能的に危険を感じ取った。

今までのどんな修羅場よりもヤバイ、このままじゃ死ぬ、と感じ取る。

幸いに、【能力超向上】を使用中であったため、二人が話している間に背を向けて走り出した。

 

が。

 

空間に突如現れた黒い穴、その穴からぬっと出てきた手に、クレマンティーヌは捕獲される。

 

「ご苦労。急に済まないな、シャルティア」

 

「お疲れ。ナイスタイミング」

 

シャルティアと呼ばれたその女子は、その綺麗な銀髪をなびかせて礼をした。

 

「いえ、至高の方々の命令とあらば、どんな時であろうとも遂行するのが我らの役目でありんすから。……それで、この女はどうするでありんすか?」

 

「ニューロニストの所へと連れていけ。その女から取れる情報は、我々ナザリックにおいて最重要案件だ。くれぐれも殺すなと伝えろ」

 

「畏まりました。それでは連れていきますので、お先に失礼するでありんす」

 

シャルティアはそう言うと、クレマンティーヌを引きずって連れていく。クレマンティーヌはバタバタと暴れ、シャルティアを殴ったり、蹴り飛ばしたりしていた。

別にそれでよろけたりすることはないのだが、自分の宝物と言ってもいい服を汚されて、シャルティアに青筋が浮かぶ。

 

「たっち・みー様、この女の四肢を引きちぎっても?」

「引きちぎるのはダメだ。【血の狂乱】で暴走するだろ、お前。へし折るくらいにしておけ」

「……分かりました」

 

言葉と同時に、メギョッとくぐもった異音が、クレマンティーヌの体内からした。

口をシャルティアによって鷲掴みにされたため、叫び声が出ないクレマンティーヌの目元に、痛みで涙が浮かぶ。

 

「さて、行くでありんすよ」

 

片手で軽々と運ばれる自分を見て、クレマンティーヌは今度こそ気を失った。

 

 

「……、何者だ。お前」

 

ウールが奉納殿へと向かった後、モモへと声を掛ける存在があった。

手元にある【死の宝珠】だ。

 

「私の手先となれ。世界に死を振り撒け、世界に破滅をもたらせ、世界に絶望を――」

 

「やかましい」

 

【絶望のオーラ】を無意識に発動したモモに、【死の宝珠】はその洗脳を止めた。

この存在には自分の支配が効かないと認識すると共に、この存在は自分より遥かに格上の存在と知ったからだ。

 

「……先ほどの無礼をお許し下さい。死の王よ」

「なんだ、急に大人しくなったな」

「貴方様と私の格差を、今更ながら知ったからであります。私の持つ破滅の力、どうかお役に立てますでしょうか」

「不要だ。お前の力なんぞ要らん」

 

即答したモモに、【死の宝珠】はあまりの展開に唖然とする。

今まで自分を手にいれた者は、嬉々としてその力を振り回す者が多かったからだ。

 

「俺はな、今のこの生活に満足してるんだ、これ以上ないくらいな。だから、別に世界征服なんて馬鹿げたことは考えちゃいない」

 

まぁ、俺一人だけならどうなるか分からんが。とモモは呟いて、

 

「別にお前が何をしようが知ったこっちゃないが、お前が破滅し、絶望させようとした中には、俺の仲間の大切な物があったんだ」

 

そう言って、モモは目を閉じる。

脳裏に、まだ未熟だが成長の余地がある冒険者の姿が浮かんだ。

 

「俺は仲間を傷付けるものを絶対に許さない。それが神だろうと何だろうと、文句があるなら殺してみせよう」

 

両手で挟むように持った【死の宝珠】に、ゆっくりと力を入れていく。

その子供の手とは思えないほどの力に、【死の宝珠】から悲鳴が上がった。

 

「お、お待ちください、死の王よ!ならば、貴方様の望むようにさせてもらいます、だからどうか、お慈悲を……!」

「……。そうか、なら」

 

ガシャンと、ガラス製の物が壊れる音が響いた。パラパラとモモの手から、【死の宝珠】であった物が破片となってこぼれ落ちる。

 

「悪いが、俺のために死んでくれ。これが仲間達にとっても安心出来る選択だろうからな。……済まないな、俺は非常に我が儘なんだ」

 

地面に転がった破片を蹴り払うと、ウールが向かった奉納殿へと歩いていった。

 

 

 

「おぉ、それがミスリルのプレート……」

 

「へへーん、すごいでしょー♪」

 

後日、【漆黒の剣】と合流したたっち達は、新たに手にしたクラス、ミスリルプレートを、【漆黒の剣】へ報告していた。

宿屋の食事場で料理を運ばれるのを待つ間、アンが自慢気にプレートを見せびらかす。

 

「へっ、たっちさんが目茶苦茶頑張ったって落ちじゃないだろうなぁ」

「なんだと、このチャラ男ぉ!」

「はっはっは、ほらほら。料理が来たよ、食べようじゃないか」

 

湯気を立てながら運ばれるそれに、各々の口元が弛む。今日は【アインズ・ウール・ゴウン】の昇級を祝って、そして。

 

「それでは、バレアレ一家の新たな門出に、乾杯!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

――ナザリックに従事することになったバレアレ一家の、歓迎会も含めてである。

 

 

「はぁ、それにしても。僕らも早く、たっちさん達みたいに強くなりたいなぁ」

「心配しなくても、ペテルさん達は良いバランスのパーティーですよ。各々のスキルアップを目指して頑張れば、いずれはアダマンタイトも夢じゃないです」

「たっちさん……。俺達、絶対追い付きますからね、見ててくださいよ!」

「えぇ、待ってます」

 

 

 

「ねぇ、ウールちゃん、いやウールさん。これからはどうするつもりなんだい?」

「どうする、とは?」

「いや、アダマンタイト目指すんなら、色んな国を転々とすると思ってさ。その時に、少し頼みたいことがあるんだ」

「ちょ、ちょっとルクルット?!」

「ど、どうしました?ニニャさん」

突然慌て出したニニャに、ウールが困惑していると、ルクルットが言った。

「コイツ、貴族に拐われた姉貴がいるらしいんだけどさ、もし出先で暇な時があったら、探して欲しいんだ」

「……それくらいなら良いですよ。その方の名前は?」

「あ、えっと、ツアレニーニャ・ベイロンです。……無事でいてくれたら良いんですけど」

「分かりました。これからいく先々で、それとなく探ってみますよ」

「はい。……迷惑をおかけして、すみません」

 

 

「ほらほら、ンフィーレア君。もっと食べないと。そんな細い身体じゃあ、女の子は振り向かないぞ」

「えぇっ、ど、どうすれば」

「もっと男らしくシャキッとしないと。後は筋トレ!目指せパーフェクトボデー!」

「いや、そこまでいったら気持ち悪い」

 

昨夜あった出来事を振り払うかのように、彼等は盛り上がる。

 

旨い飯、旨い酒、楽しい仲間、それがあれば何処でも楽しめるのは、冒険者にとってはどの世界でも同じことらしい。

 

少なくとも、今騒ぎながら食事をしている彼等は、今ある幸せを噛み締めるように楽しんでいた。

 

 

 

 

 

一方、数時間野外にほったらかしにされたハムスケが拗ねたりするが、それはまた別の話。

 




次回からは新展開を予定しております。
基本虐殺はせず、勧善懲悪をモットーに健全なナザリックを目指しているので、そんな駄文をよろしくお願いいたします。

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