なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

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気付けば年越し間近でした。



へいわのひとこま

第九階層、円卓の間(臨時会議室)には、11人からなる日本人の男女が集まっていた。

それぞれは全員が若く、二十~三十代がほとんどだろうという見た目だ。

 

 

「――さて、第二回目の会議ですが、始めに言っておくことが幾つか」

 

リーダーらしき男の言葉に、全員が声の方を向く。

 

「一つ目、喧嘩をするなとは言いません、出来るだけ冷静に、議論という形でお願いします」

「異論はありません」

「私もありません」

 

男の言葉に反応した二人が、心当たりがあるのだろう、口々に謝った。

喧嘩は何も生まない、会議では冷静に議論を交わすべきだ。

 

 

「二つ目、姉弟喧嘩はこの場で行ってください。勝手に会議室から離れないように」

「異論無し。その代わり血が飛ぶかもしれないので先に謝っときます」

「ちょっと待って、ねぇちゃん。それは姉弟喧嘩の領域を越えてる」

「許可……しましょう」

「しないで?!」

 

姉弟なのだろう、男の言葉に反応した二人は、そう会話していた。

男が女性の言葉を肯定したのは決して怖かったからではない。彼がその女性を大切な仲間だと思っているからこその肯定だ。

冷や汗が止まらないが、決してびびっているからではない

 

 

 

「三つ目、るし★ふぁーさん、喋るな」

「異議有りぃ‼」

「異議を却下します」

「「「異論無し」」」

 

当然の結果だ、とでも言いたげな空気に、るし★ふぁーと呼ばれた男はテーブルに手をついて立ち上がった。

 

「ちょっと、モモンガさん。それはあんまりでしょ!」

「本気で言ってるんですか?」

 

「へ?」

「本気で言ってるんですか?」

 

「…………」

「本気で、言ってるんですか?」

 

「まぁ、喋るなは冗談ですが……。僕たちの発言で過剰に反応する者(NPC)も居るので、ほどほどにお願いします」

 

何か思い当たる節があるのか、るし★ふぁーは静かに椅子へと座った。

モモンガと呼ばれた男が、皆が意識をこちらに向けているのを確認してから口を開こうしたその時。

 

 

「モモンガ様。お食事の用意が出来ました。」

「え、早……。し、しばし待て!」

 

豪勢な作りの扉から聞こえたのは、プレアデスの一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの声だった。

他にも複数の気配がすることから、他のメイドも連れてきているのだろう。

 

 

「料理頼んだのって10分くらい前じゃなかった?」

「そうですね。会議の後に届くと思ったんだけどなぁ」

「兎に角、さっさと変化を解除しましょう」

「りょうかーい」

 

各々が、手首に装着している腕輪のような物を取り外すと、グニャリと姿が歪み、元の異形の姿へと戻った。

 

「いやー、ゴミレアがこんな所で役に立つとは、人生何があるか分からないなぁ」

「元人ですけどね、俺達」

 

そんなことを言いながら、課金アイテムであるそれを懐へとしまう。皆が落ち着いた所で、外へと声を掛けた。

 

 

「お飲み物はどうされますか、ワイン等をお持ちしましょうか?」

「いいや、水で充分だ。酒は夜に楽しむとしよう」

「かしこまりました」

 

料理が次々と運ばれる中で、プレアデスの一人、ソリュシャン・イプシロンがモモンガへと訊ねていた。

ナザリックの酒にも興味があるが、変化で人に化けた場合の飲食に問題がないか確かめるだけなので、酒は必要ない。

 

 

「……ねぇ、ユリ。この料理とかは10分くらいで出来たの?」

「料理関連に関しては料理長と副料理長がほとんどを担当しておりますので分かりませんが、料理長はやけに張りきって料理しておりました」

「そ、そうなんだ……」

「……申し訳ありません。何か不備が御座いましたか?」

「え、いやいや。大丈夫大丈夫!」

 

 

 

 

「ルプーちゃーん。果実水ちょーだい」

「かしこまりました、ぶくぶく茶釜様」

「いつも通りで良いよ。ルプーちゃんのキャラ好きな方だし」

「……そうっすか? いやー、至高の御身に愛されるだなんて罪な女っすねェッ?!」

「ルプスレギナ、無駄口叩いてないで御奉仕しなきゃ駄目でしょ?」

「い、痛いっす。ユリ姉ぇ……」

 

 

 

 

「ナーベラル、この料理はどんなものだ?」

「はっ。此方はこのスープに、ライスか今からお持ちするパン生地を浸してお召し上がりいただくよう、料理長から聞いております」

「ふむ、カレーに似た香りがするな」

「カレー……、で、ございますか?」

「あぁ、いや。美味しそうだと思ってな。楽しみだ」

「ありがとうございます。料理長にも、そのように伝えておきます」

 

 

 

各々の好みや、必要な料理の配膳を終えると、プレアデスのメンバーは円卓の間を去って行った。

ただ、閉じていく扉の端に、コキュートスの配下である昆虫型のモンスターか立っていたので、変化したあとに派手に騒ぎを起こすのは不味いだろう。

人間の姿をしていては、余計な混乱を招きそうだ。

 

 

 

「モモンガさん。冷めるのも勿体ないし、食べませんか?」

「そうですね、たっちさん。それでは皆さん、食べましょうか」

 

今回ここに並べたものは、外の世界で執事頭のセバスが仕入れてきた情報を元に作った料理だ。

 

まずはこの世界の人間が食べている物を理解することで、この周辺の主な物流や食の文化を学び、いち早く人間の生活に溶け込めるようにする。

 

それが、人間の料理を食べようとすることを否定的なアルベドやデミウルゴスを納得させた理由だった。

 

「(俺的には、ナザリックの豪勢な料理より、こんな感じの料理の方が胃にピッタリなんだよなぁ)」

 

野菜や肉がふんだんに入っているスープを一口食べる。じわりと口の中に広がる旨味を感じながら、ゆっくりと味わう。

 

ナザリック特製の料理も美味しいのだが、舌が肥えていない身からすれば、こういう庶民料理の方が美味しく感じるのだ。

 

「(さて、これが終われば次は情報収集の段取りか……)」

 

はっきり言ってこの世界は未知数だ。他のユグドラシルプレイヤーがいるかもしれないし、居たら居たで戦闘になるようなことにはしたくない。

 

 

「(まぁでも、まずはゆっくり味わうかな。こんな人数で食事するなんて、本当に久方ぶりだ)」

 

顔を上げて食卓を見渡せば、ギルドメンバーの皆が和気藹々として食事をしている。

普段は一人で味気ないご飯を食べることが多かった身からすれば、こんなに楽しい食事はそれこそ初めてかもしれない

 

 

 

これから起こる苦労や楽しみはそれこそ無限大。

 

だが、今はその事には考えず、この楽しい食事を楽しもうと考えたモモンガだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。料理長さーん。至高の方々、料理大絶賛してましたよ」

「~~ッ‼」

「……おぉ。なんかすごいっす、作業のスピードが速くなってるっす!」

「気持ちは充分に分かるわ。……ところで、料理の時間が早かったようだけど、どうやって作ったの?」

「……。」

「へぇ、食材を食べ頃にまで一瞬で煮込める魔法の圧力鍋……。よく分からないけど、凄そうね」

「……本格的に家事スキルでも手にいれようかしら」

「ユリ姉ぇはクソ真面目っすね……」

 

 

 

 


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