なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

9 / 28
カルネ村編始まります。将軍エンリ様万歳\(^o^)/


正義の味方~カルネ村編~1

「おぉっと、こ、こうですかね」

「あ、惜しい! でもやり方としては近いかも?」

 

 

 

第九階層にある執務室では、やまいことぶくぶく茶釜が【遠隔視の鏡】の操作に夢中になって取り組んでいた。

 

1メートル程の鏡に向かって、手を縦横にスライドしたり、ぐるぐると回したり……。一見パントマイムをしているかのようだが、本人達はいたって真面目である。

 

 

「お、ぉぉお?! で、出来ましたよ!」

「スゴいじゃんやまいこさん!」

 

 

そのまま一時間。

視点の移動、引いたり、拡大したり等のコツを掴んだ女子二人は、キャッキャとはしゃいでいた。

その姿が異形の者でなかったなら、きっと微笑ましくあっただろう。

 

 

 

「おめでとうございます。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様」

 

 

「あ、セバス」

「やっほー」

 

 

パチパチと軽めの拍手と共に現れたのはセバスだった。後ろに紅茶のティーポットが乗ったカートがある。

作業が一段落行ったから、休憩でもどう?と言いたいのだろう。

 

 

「ロイヤルミルクティー頼めるかな?」

「私レモンティーに蜂蜜たっぷり垂らしたのお願い」

 

「かしこまりました。すぐに準備致します」

 

 

綺麗に一礼し、カチャカチャと紅茶の準備を始めたセバスを眺めていると、【遠隔視の鏡】で遊んでいたぶくぶく茶釜が声を上げた。

 

 

「どうかしたんですか?」

「いや、これ……」

 

 

ぶくぶく茶釜が指を指した方には、鎧を着た兵士が、村の中で人を追い回している光景だった。

何かの祭かと思ったが、兵士が持っているその武器と、血だらけで倒れている人を見て、その考えも吹っ飛んだ。

 

「……何でかな。普通なら気分が悪くなりそうなのに、全然なんともない」

「私もだよ。……多分、この身体になった影響じゃないかな」

「…………異形種、か」

 

そのまま眺めていると、一人の男性が、娘であろう女の子二人を庇って兵士へと組み付いた。

だが、特に時間を稼げる訳でもなく、すぐに切り殺されてしまった。

 

『――――‼』

 

「ぁ……」

 

かろうじて逃げた女の子二人も、すぐさま追い付かれる、姉であろう女の子が、必死の形相で兵士のヘルムを殴り飛ばした。

 

「あ、ヤバい。この女の子殺される」

 

隣で見ていたぶくぶく茶釜がそう声を上げた。見れば、背中から切りつけられ、今まさにとどめの一刺しが入れられる寸前だった。

 

 

 

 

「え、ちょ、やまいこさん?! 待って‼」

「やまいこ様?! なりません、お待ち下さい‼」

 

 

「【ゲート】起動」

 

 

後ろで何か言っているのが聞こえたが、やまいこにとってはそれどころではなかった。

 

空間に【ゲート】の発動に生じる歪みができ、迷うことなくその中に足を踏み入れる。

 

 

 

 

やまいこの尊敬する一人の人物の言葉が、心の中で響いていた。

 

自分の所属するギルド【アインズ・ウール・ゴウン】の創設理由の一つ。

 

“困っている人が居れば、助けるのは当たり前”

 

それを、この世界でも証明してみせる。

 

ユグドラシルプレイヤー、やまいこ

 

彼女の生涯初めての実践が、始まる。

 

 

 

はっきり言って、自分の身に何が起きているのか、私、エンリ・エモットは理解できて居なかった。

突然村に来た兵士に襲われ、母が剣で斬られるのを何も出来ず、ただ見ていることしか出来なかった。

 

「エンリ、ネムを連れて逃げろ‼」

 

父にそう怒鳴られた時、初めて身体が自由に動いた。震えている妹のネムを連れて、村の外れまで逃げだした。

 

だが、ネムはまだ幼い。ある程度は距離を稼げたが、特に意味も出せず、すぐに追い付かれた。

 

 

「ったく、手こずらせやがって、このガキ」

「さっさと殺せよ。殺害人数で負けてんぞ。俺たち」

「そうだな。っと、まずはちいせぇのから殺そうぜ、また逃げられたら厄介だ」

 

 

ちいせぇの。という声に、ネムの事だとすぐに分かった。

私の中の警鐘が鳴り響く、それを行うには、何の躊躇いもなかった。

 

 

「アアァァア‼」

 

「ぐぅっ?!」

 

 

今まで一度も出したことない声を上げて、私はネムの腕を掴んでいる兵士の頭を殴り飛ばした。

頭と言っても、防具であるヘルムを殴り飛ばしたくらいだ。それどころか、手がぐしゃぐしゃになったのが分かる。

痛みはない。それよりも頭が沸騰したようにグラグラとしており、自分がどうにかなりそうだった。

 

 

「このガキぃ‼」

 

「ははっ、だっせぇ。……さっさと行こうぜ、隊長がお呼びだ」

 

「そうだな……、死ね、ガキ」

 

 

背中を数度切りつけられ、地面へと蹴り転がされた。

兵士は剣を構えて、こちらへと向かってくる。

 

「お、おねぇちゃん……」

「大丈夫だよ、ネム。……もう一度、私がアイツらを押さえるから、その隙に逃げて」

「い、嫌だよ‼ おねぇちゃんが居ないと嫌だ‼」

 

恐怖から泣き出した妹を守るため、庇うようにして身を丸める。

すぐにでも痛みがくると思ったのに、いつまでたっても来なかった。

 

 

 

 

 

「な、何だ。ありゃあ……」

「し、知らん。……、何か来るぞ」

 

 

顔を上げると、兵士が得体の知れない物を見る目で、私の後ろを指差していた。

ゆっくりと振り返ると、何もない空間に、ぽっかりと黒い穴が開いている。

その穴の中から、人影が一つ、ゆっくりと出てきた。

 

 

 

黒い髪をした、この辺りでは見たことない風体。そして、見たこともないくらいの美人だった。

 

 

「間に合ったようだね。良かった……」

 

 

穴から出てきた彼女は、私の事を確認すると近寄ってきた。親し気な雰囲気に、何処かで出会ったかと記憶を辿る。

 

 

「もう大丈夫だよ。安心して、アナタ達のことは、私が守るから」

 

 

笑顔でそう言った女性を見て、胸の中に何かがストンと落ちて、次第に落ち着きだした自分がいた。

ズキズキと痛みだした背中の傷のせいか、自然と涙が溢れだした。慌てて手で顔を覆うが、嗚咽も出てきて、自分が今情けない顔をしているのが分かる。

 

「こんな無抵抗の子供二人に、大の大人が二人掛かりで殺そうとするなんて……」

 

女性はそう言ってゆっくりと立ち上がり、兵士の方へと向くと言った。

 

「道徳は担当外の教科なんだけど」

 

「おいで、特別授業してあげる」

 

その目は、はっきりと怒りで染まっていた。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。