女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
「まだか……」
セシリア・オルコットとの試合当日。第一アリーナのAピットにて織斑一夏は腕を組みながら少し焦るように言葉を漏らす。
「まだだな」
篠ノ之箒もそう言って、未だに私達だけのピットを見回す。ピットの中の照明は最低限しか灯っておらず、薄暗い様子が先行きを表しているかのようだった。
「まだですね」
かく言う私も少しの焦りを感じている。こちらを驚かせるためのサプライズか何かかと疑いたくなるような事態が起こっているのだ。
セシリア・オルコットとの試合の予定時刻まであと僅か。アリーナを独占して使用出来るのはHRの時間だけなので、試合の準備を可能な限り手早く済ませて決着を付けなければならないのだが肝心の準備すら始めることが出来ていない。
それは何故か?
「キャロル、なんか知らないか?」
「いえ。私の方でも情報開示を申請しましたが、拒否されてしまったので何も」
織斑一夏の専用機が未だに到着していないのだ。
前日になっても到着する兆しがなかったので機体情報を見せてもらえないかと織斑先生に頼みに行ったのだが、何故かそれも却下されてしまった。教員側にもそう言う対応をするように指示が出されているようで珍しく申し訳なさそうな雰囲気を漂わせている織斑先生が印象的だった。
「箒は?」
「わ、私が知るわけ無いだろ……」
最後の望みを託すように織斑一夏は篠ノ之箒にも同じ事を尋ねるが、当然の反応を返される。土曜と日曜は訓練の様子を見に来ていた篠ノ之箒だったが、彼女も専用機が到着していないという事に戸惑っているような様子を見せていた。
「この様子だと最適化処理の時間すらないですね……」
「最適化処理ってそんなに時間がかかるのか」
「はい。個人によって上下しますが、最低でも20分……長いと1時間程度かかる事もあります」
最適化処理とはISが使用者を自分に登録する行程の最終段階を指す言葉だ。これを終えることによってISの内部機構と外装は使用者に最適化され、唯一無二の専用機として出来上がる。当然、ソフトとハードを同時に書き換えるこの行程はISの処理能力の大半を使う。ISはそれ自体で一般人が作れるようなコンピューターとはかけ離れた性能の演算機という一面も持っている。
それほどの性能があっても1時間程度はかかるのだから、最適化処理に必要な情報量は推して知るべしだ。
「まじかよ……」
最適化処理を済ませたISとそうでないISでは扱いやすさが全くといっていいほど違う。
自分の体型に合わせてオーダーメイドしたスーツと市販されている状態のままのスーツで例えると分かりやすいだろう。
織斑一夏の表情が始めて曇る。こちらで解決出来る事ならば此処で何か言って思考を切り替えさせるのだが、こればかりはどうしようもない事なのでかけてやる言葉がない。
「「「…………」」」
私を含む三人が沈黙し、ピット内の空気が張り詰める。
「お、織斑くん、織斑くん、織斑くんっ!!」
織斑一夏を呼びながら山田先生が掛けてくる。慌てているようで危なっかしい走り方をしている。そのまま行けば自分の足に躓いて転びそうだと思ったが、そこまで天然ではないらしい
転ばずに私たちのところまで来た山田先生は顔を真赤にしながら息を切らして両膝に手をついて呼吸を整えていた。
「来ました……来ました、来ましたっ! 早く、準備してくださいっ!」
「山田先生、落ち着いてください」
ぜえぜえと息を切らして途切れ途切れに言う山田先生だが、唐突な登場と主語を欠いた言葉で意志の疎通が成立していない。そんな状況を見かねてか織斑一夏が山田先生をなだめるように声を掛ける。
「はい、深呼吸」
「はいっ……すぅー……」
「はい、そこで止めて」
「っ…………」
織斑一夏の指示に素直に従い、山田先生は肺にたっぷりの空気を吸った状態で息を止める。その状態を維持するのは結構苦しいと思うのだが山田先生は無駄な粘りを見せ、顔を真赤にしながら織斑一夏から息を吐く許可が出るのを待つ。目も少し潤んで来ている。
「…………」
「……っぶはあ! 長いですよ!?」
我慢できなくなった山田先生は、半泣きになった目で咎めるような視線を送りながら、織斑一夏に非難の声を上げる。
「目上の人間は敬え。この馬鹿者が」
そして、山田先生とは少し遅れてピットへとやってきていた織斑先生が彼の頭頂部に出世簿による打撃を与えた。乾いた小気味良い音が反響し、織斑一夏が蹲る。
「千冬姉……!」
様子から察するに不意打ちだったのだろう。そのせいで痛みも増しているようで彼は頭を抑えながら織斑先生を見上げる。
「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね」
ピット内が先程とは違った意味で沈黙する。場の空気から取り残されている私と篠ノ之箒は同時にため息を漏らす。
「それで、一夏の専用機の方はどうなんですか?」
「これ以上到着が送れるようなら今日の試合は中止にしてください。時間がありません」
篠ノ之箒の言葉に続ける形で進言すると、織斑先生の視線がこちらへと向く。
「その点ならば問題ない。ついさっき届いたところだ」
問題は大有りなのだが、ここで口答えする時間も惜しいので何も言わないでおく。私は彼等の輪には入らずに端末を起動して用意しておいたプログラムを開く。
「織斑、すぐに準備を開始しろ。時間は常に有限だ。一分一秒足りとも無駄にするな、本番で物にしろ」
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」
「「「早く!」」」
三人が織斑一夏を促す声が聞きながら端末の操作を最短で終わらせて4人の元に戻ると同時に、金属によるロックが外れる音が響いて重苦しい駆動音を響かせながら、頑丈そうな分厚い扉が開く。
「これが……」
「はい! 織斑くんの専用機、『白式』です!」
開かれた扉の向こう。そこには、文字通り純白のISが何も言わずに自らの操縦者を待っていた。
織斑一夏は呆けたように白式を見つめ、心ここにあらずという表現がにあう表情を浮かべていた。
「何をぼさっとしている。すぐに装着しろ、時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。出来なければ負けるだけだ、覚悟をしておけ」
「……あれ?」
織斑先生の言葉で我に返った織斑一夏は装甲に触れる。感触を確かめるかのような動作だったが、期待していた結果が出なかったらしく怪訝そうな声を上げる。それを視界の隅に捉えながら私も行動を開始する。
「オルフィレウス、何をしている?」
「いえ。少々お手伝いをしようかと」
「時間を――――」
怪しんでいるようで織斑先生が強い口調で私を止めようとするが、私は気にせずに作業を進める。
「かけませんよ、すでに終わりましたから。後は彼ら次第です」
織斑先生からの視線が厳しくなるのを感じるが、作業を終えたので篠ノ之箒の隣へ行き、彼女とともに織斑一夏の行為を眺める。
「説明は試合後に聞こう。一夏、ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな?」
「ああ、いつもどおりだ」
シミュレーターでの経験を思い出しているのか、織斑一夏は身体を動かしながら細部のチェックを行なっていく。
感覚的な部分に問題は無いらしく織斑一夏は満足気に口元に笑みを浮かべた。いつもどおりという言葉に織斑先生は疑問符を浮かべていたが、問題が発生していないようなので気にしないことにしたようだ。
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「ああ、勝ってこい」
全ての動作確認を終えた織斑一夏は篠ノ之箒と言葉を交わし、次に、私の方へと意識を向ける。こちらを向いてはいないので殆ど勘のようなものだが、確かに彼から視線を感じたのだ。
「キャロル」
「はい」
「今度の日曜日、予定を空けとけよ」
映画を彼の奢りで観に行くという約束をしたことを思い出す。白式の到着が遅れるというトラブルもあったが、モチベーションの方に問題は無さそうだ。
「了解しました。戦果を期待しています」
言われるまでもない。もともと土曜日曜に予定が入るような関係の人間は学園には居ない。だからこそ、彼には約束を守ってもらう必要がある。
私達は彼の邪魔にならない後方に立って飛び立つ背中を見送る。ふとこの一週間を思い返し、こうして出撃する姿を見送るのは始めてだという事に気づく。同時にシミュレーターを使用することはあっても、彼だけが使用するということはなかった。
彼は今日、本当の意味で初の単独飛行を行うことになる。しかし、今の彼は一週間前の何も知らない素人ではない。飛ぶことを覚えて戦い方を知った彼は、今や一人のIS操縦者だ。
未熟で荒削りなところはあるが、身に秘めた可能性は今まで見てきたどんな人間よりも高い。私はこの一週間、自分が提供できる最高レベルの教育を施したつもりだ。彼との約束における私の役目は勝たせる事であり、勝つために必要な要素を揃える事にある。
そして、今はもう私に出来る事はない。強いていうならば彼をアリーナの戦場へと送り出す事くらいだろう。
リニア駆動特有の金属が震えるような独特の高い音が鳴るとカタパルトが加速、織斑一夏をピットからアリーナの空へと押し出していく。
「オルフィレウス」
「何でしょう?」
織斑一夏が飛翔し、私達はピットへと残される。しばらくの間、黙って彼の飛び立った出口を見つめていると篠ノ之箒が私に話しかけてくる。珍しいことがあるものだと思いながら、私はそれに応じる。
「あいつは……一夏は、勝てるのか?」
「勝てるか否かという質問ならば、勝つ可能性はあります」
返答を聞いた篠ノ之箒は釈然としない表情を浮かべ、今度は質問を変えてくる。
「一夏は、勝つと思うか?」
「可能性は十分かと」
「そうか……」
今度は望んだ解答を得られて安堵するように肩の力を抜いていた。普段の様子から織斑一夏の事を嫌っているのだろうかと思ってた事はあったが、今日までの様子を見る限りそうではないらしい。
嫌っていないのならばどうして教室でのような態度を取るのかは不明のままだが、彼女も織斑一夏の勝利を望んでいる一人なのだろう。
「もう一つ良いか?」
会話はこれで終わりだと判断し、織斑先生達の居るモニタールームへ向かおうと篠ノ之箒に背を向けるが、その前に再び声をかけられ踏み出そうとした足を元の位置に戻す。
「……今度の日曜日に予定を空けとけとは、どういう意味だ?」
そう尋ねてきた篠ノ之箒は、先程の質問をした時とは違い、言葉に明らかな敵意が混じっていた。
何故そんなことを聞くのか。私は篠ノ之箒という人物が更にわからなくなる。
隠し立てする必要のないことではあるが、しかしこれは私と彼の間で交わした賭けのような約束だ。聞く必要が彼女にはない。
聞く必要がないのなら、逆説的に、私には答える必要がない。
「その質問には答える必要がありません」
「なっ……!?」
私は解答を丁重にお断りする。すると篠ノ之箒は眉間にシワを寄せた、いつもの表情に戻って私に敵意を放つ。
時計を見ると織斑一夏がアリーナへ出てから数分が経っていた。そろそろ試合も始まっている。生憎と私の今やるべき事は、モニタールームで彼の試合を観戦すること。その為に早く移動したい。
「では、私はこれで」
「ま、待てっ!!」
まだ何かあるというのだろうか。仕方ないので立ち止まり、彼女の言葉の続きを待つ。
「お前は、一夏とどういう関係なんだ!」
答える必要は無い事に変わりはないが、ここで答えなければ彼女は納得しないだろう。彼女は織斑一夏と私が関わることに特別な感情を抱いている。
幼馴染に近づいてきた正体不明の人物を警戒してなのか、それとも他に理由があるのか。どういった理由があるのかは分からないが、彼女にとって私は信用出来ない人物ということだけは間違いない。
その点に関しては私も自覚している。むしろ織斑一夏が無防備すぎるとも考えることはあるが、だからといって私がどうするというわけでもないのだ。
彼の学園生活を手助けしながら見定めること。
それが企業に所属する私に与えられた役割で、私はそれに忠実である事を通すだけ。
他の考えがあったとしても副産物もしくは付属してくるものだ。行動を決めるという点に置いては大した意味を持たない。
ただ勝つ勝たせる事を約束した、それだけの関係。篠ノ之箒に関わるようなものは何もない。
「その点について貴方にお話するような事は何も」
「本当にか?」
「信用出来ないのならば彼に確認してください。私達は何も無い、こればかりは紛れもない事実です」
「そうか……なら、いい」
織斑一夏の名前を出すと、篠ノ之箒は自分を落ち着かせているようにそう言う。納得しては居ないようだが、これで収まりはつくだろう。
「それでは、私はお先に失礼します」
私はこれ以上呼び止められても今は応じないと決め、篠ノ之箒へと背を向けたままモニタールームへの移動を開始する。
今度は呼び止められず、後方からもう一人の足音が聞こえてきた。それに少しだけ肩の力を抜き、これ以上の詮索がないことに安堵する。
「遅かったな、なにか問題でも発生したか?」
モニタールームに入ると、アリーナの様子が映し出されているモニターを見ていた織斑先生が顔をこちらへ向けて問いかけてくる。
「篠ノ之箒さんと話をしていただけです。何も問題はありません」
「そうか。既に始まっている、お前も見ておけ」
答えを聞いた織斑先生は視線をモニターの映像へと戻し、分かってたとでも言いたげな態度を見せる。
私は彼の戦いを見届ける為にこの場所に来ている。織斑先生に言われなくてもそうするつもりだ。
モニターの映像に全ての意識を注ぎ、情報を得ることに全神経を集中させる。
モニターには、織斑一夏がブレードを構えてセシリア・オルコットへと向かっていく様子が映し出されていた。
いよいよ代表候補戦の開幕です。
…………ごめんなさい。
今回で一夏とセシリアの戦いをしようと思っていたのですが区切りがいいのと、ここで区切らないと文章量が倍以上になるので投稿させてもらいました。
期待していた方がいたら申し訳ありません、次こそは戦闘に入るので。