女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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戦闘描写は難しいですね。
もっと速くに仕上げれるかと思ってたんですが、一週間もかかってしまいました。


序章10

 青い雨が自分に向けて降り注ぐ。

 レーザーの色や攻撃の精度という違いはあるが、それでも慣れた光景に確かな手応えを感じていた。避ける事ができている。現在でも被弾は不意打ちじみていた初撃の一回だけで、それ以降は全て回避かブレードで弾くなどしている。

 キャロルにしてもらった訓練のおかげだ。舞い上がりそうになる気持ちを律し、状況は依然として自分が不利な状況が継続する事を再認識する。

 こちらは被弾しているが、敵機は攻撃すら受けていない。それは白式の武装構成のせいだ。

 試合開始と同時に回避機動を取ってアリーナの外周を駆け、装備を確認した。しかし表示されたのは近接ブレードの一振りのみ。システム上のバグかと思って何度もやり直したり、処理落ちがしているのかと辺りを付けてずっと待ってたりもしたのだが一向に表示されない。

 現実は非情かつ冷酷であり、武装はブレードの一振りしかないのだと認めざるを得なかった。

 ライフルさえあれば、ビット達に攻撃を全て任せて自らは手出しをせずに高みを決めているセシリア・オルコットに一発くらいは当ててやれるのだが。されるがままの状況の歯がゆさに地団駄を踏みたくなるが足を止める事は許されない。

 ブレードなんて近づかなければ攻撃すら出来ない。一歩離れるだけで当たらなくなってしまうような武器だ。敵は違う。アリーナ内の空間は全て、彼女の有効射程範囲内。少しでも足を止めれば蜂の巣にされてしまう。

 自分には射撃武器が存在しないという事にセシリア・オルコットも気づいているだろう。自分よりも場慣れしている人間なのだからそれくらい当然だ。

 その証拠に彼女は徹底してアウトレンジを維持し続け、俺を近づかせようともしない。高嶺の花という言葉が一瞬頭に浮かぶが、すぐに違うと認識を改める。高嶺の花というには近い。手が届かないというわけではない。届かせられる。

 手段はある。しかし現状では博打にすぎるもので、メリットよりもデメリットの方が大きい。つまり――――

 

「こっちが圧倒的不利ってことだよな!」

 

 冷静さを保っている頭を使って戦力分析を終えると、織斑一夏は敵のビットから放たれたレーザーの3つを避けて1つをブレードで弾きながら戦略を立てる。

 

 ブレードを投擲しての牽制。命中率が期待できず、投擲したブレードを回収できるとは思えない。

 

 敵のビットを一機ずつ破壊していく。黙ってセシリアが見過ごすとは思えないし困難極まる所業である。

 

 ビットがエネルギー回復をするために本体に戻るまで耐える。ブルー・ティアーズが無い状態でのセシリア・オルコットがどれほど戦えるかが未知数。

 しかし、これが最も現実的な戦略だろう。

 ならばビットが本体に戻る瞬間を狙い突撃を仕掛け、一撃を叩き込む。敵の格闘戦能力も不明であるため最初の突撃はそれの確認も最優先の目的にする。

 

 行動方針は決まった。あとは実行に移すだけで、それを悩んでいるような時間は無い。

 

「ちょこまかと、鬱陶しいですわね!!」

 

 仕留める事が出来ない事にもどかしさを感じているのだろう、セシリアの言葉に苛立ちがにじみ出ていた。

 彼女の叱咤により攻撃の激しさは増し、自分の処理能力の限界を超えた一発が装甲を掠める。シールドエネルギーが減少する。被害は極軽微、戦闘行動に支障はなし。

 

「っく……!!」

 

 攻撃が激化し、すこしずつだがダメージが蓄積していく。ビットのエネルギーは有限。

 しかし攻撃を激しくした代償として狙いは先程よりも甘くなっているし、4基のレーザー砲による弾幕は脅威だが長くは続かない筈だ。

 落ち着いて回避機動を絶やさねば回避していく事も不可能じゃない。自らに言い聞かせ回避に全神経を集中。キャロルに教えられた数多くの戦闘機動の中から最適な物を選び、組み合わせ、それらを駆使して嵐を凌ぐ。

 1秒が10秒にも感じれる。しかし体感時間が伸びても敵はそれに合わせてはくれない。突撃時の為にわずかでも多くシールドを残す為に避ける。飛び出したくなるのを堪え、ブレードで防ぐ。

 避ける、防ぐ。二種類を上手く使いこなさなければこの嵐を乗り切る事はできない。かつてないほどの神経を使い、時に大胆、或いは繊細に機体を動かす。

 耐える。

 耐える。

 耐える。

 耐えて――――漸くこちらにターンが回ってくる。

 

 嵐を乗り越えた先の僅かな凪。時間は有限、一秒たりとも無駄にする事はしないだろう。

 

「行くぞ、白式!」

 

 自らの愛機に命令を送る。後退していくブルー・ティアーズに追従するように全速前進。肩に担ぐようにブレードを構え、すれ違いざまに袈裟懸けに振り下ろす。

 

「無粋ね。そんな荒い誘いでなびく女性は居なくてよ?」

 

 しかし、俺が到着する直前にビット達の回収を終え身を翻したセシリアによって空振りに終わる。そして背後からは嘲笑と共に警告文が送られる。

 

《    警告

 敵にロックされています》

 

 背筋が粟立ち、考える前に身体が動く。直後、先程まで俺が居た空間を青い光が奔った。

 

「今のを躱すとは、猿にしてはやりますわね」

「動物的な勘ってやつのお陰だな」

「まあ、野蛮」

「獣らしく食いつかせてもらおうか!」

 

 何も面白く無い会話だが互いに笑いあい、次の瞬間牙を剥く。セシリアのレーザーライフルを下方に潜り込むことによって回避、上昇を行い射撃の姿勢のままでいるセシリアにブレードを叩きこむ。

 命中する――が、浅い!

 

「なるほど。それなりの実力はあるようで……」

 

 俺と反対方向に機体を動かしたことでダメージを軽減すると同時に格闘の間合いから逃れたセシリア・オルコットの技量には、不本意だが感服するしかない。

 しかし、彼女に届かないわけではない事が分かった。運動性能や加速性能といった格闘の間合いに持ち込むための要素はこちらが勝っている。セシリア自身の技量のせいで回避されてしまったが、近接武装を展開しなかった事から装備されていないか使用できない状況だったのだと推測。

 苦々しい口調が聞こえてくるが、こちらが優勢になったわけではないので調子には乗らないように気をつける。

 セシリアのレーザーライフルはブルー・ティアーズよりも威力が高いが、連射性能はそこまで高くないので幾らかは避けやすい。

 

「ですが、たかだか一週間程度でわたくしを超えられるとは思わないことね!」

 

 セシリアは、自機を後退させつつ構えた大型ライフルからレーザーを照射してくる。狙いはわかっている。ビット達へのエネルギー補給が完了するまで少しでも時間を稼ぐためだ。

 改めて言うがこちらは近接武装しかない。攻撃するためには敵との距離が僅かである必要性が生じる。敵機と己が離れていた場合こちらはその間合いまで接近しなければならない。

 離れてしまえば攻撃は当たらないのだから敵は当然のように互いの距離を稼ぐ。セシリアの機体は射撃武装が主体なのだから距離が離れている事が更に重要になってくる。

 しかしそれは互いの速度差が僅かである場合の話だ。白式とブルー・ティアーズの速度差は白式の方が圧倒的に上。そしてエネルギー補給を行なっている今、ブルー・ティアーズは激しい機動を取ることは出来ない。距離を詰める事自体はそう困難ではない。

 だから、セシリアは距離ではなく時間を稼ぐ。白式のブレードを当てるためには接近する必要があり、瞬間移動なんて便利な物は持っていないから近づくにも僅かだが時間がかかる。距離を詰めるところにレーザーを放って牽制し、後退することで到達まで長引かせる。

 

「っく――――!」

 

 そして、後退し続ける事がこちらの斬撃の威力を著しく低下させる。何度か攻撃を当ててはいるが軽い手応えしか残らず、墜とすには至らない。

 セシリアが後退するよりも速く、後退という姿勢が意味を成さない程の一撃を。

 そう、手段はあるのだ。しかしこれ何度も使う事は出来ないし、制御が出来るかという不安が己の決断を踏みとどまらせる。

 迷う時間などないということはわかっている。しかし、負けることが出来ないからこそ、使うことを躊躇してしまう。

 

「時間切れですわね。行きなさい、ティアーズ」

 

 時間が切れる、攻守交代。

 4つの砲門が一斉に自分を向き、接近していた状態から距離を取る事で回避。

 

「くそ、このままじゃ……」

 

 焦りを口にするも状況が好転するような策は浮かばない。

 長い、長い守備の時間が再び始まった。

 

 

 

 

 

「今のは惜しいですね……」

「ほう。オルコットも中々やるじゃないか」

「ああ、何をやっている。そこで逃すな馬鹿者!」

 

 上から順に山田先生、織斑先生の言葉である。

 会話や解説をするでもなく、各々好き勝手に観戦をしているのだが篠ノ之箒のお陰で賑やかだ。

 画面内の織斑一夏の様子は悪くない。いやむしろ、彼は思っていた以上にセシリアと闘うことができているといってもいいだろう。

 しかし、期待以上の成果を出している様子に高揚は覚えない。状況は織斑一夏に好都合に働いたものとそうでないものがあり、総体としては悪い状況に働いている。

 一週間の訓練で分かったことだが、織斑一夏には武装を多く持たせるよりは武装を格闘に限定して使わせる方が効果はある。しかし、実際に闘うのと理想は違う。どんなに格闘が得意な人間の操る機体でも最低限の射撃武器は必要である。ハンドガンもしくはショットガン、これが片方あるだけでも戦略の幅が大きく広がる。ISの速度や迎撃能力はこの数年間で大きく発達している。織斑千冬が現役だった黎明期とは比べ物にならないほどに、だ。

 機体が高速化し、光学兵器や対シールド能力の強化された銃火器が普及している現在において、近接武装だけという構成は自分の首を締める行為でしかないのだ。

 そして、肝心の織斑一夏の専用機である白式はその自殺行為の真っ只中を全力疾走しているといっても良い。

 確かに私は織斑一夏の専用機が格闘能力の高い機体であることを望んでいたが、それにしてもこれは行き過ぎである。

 

「あの機体が気に入らないか?」

「気に入らないというわけではありません。実験的すぎる、とは感じていますが」

 

 織斑先生に話しかけられる。織斑一夏の専用機、白式。その名前には聞き覚えがあった。

 倉持技研の開発していた第三世代の実験機。第一形態の状態でも単一仕様能力を発動可能にするという目的で設計されているが、その実験は失敗に終わったと聞いている。

 そんな欠陥機がどうして、未だ解体もされずに倉持技研の倉庫の中で眠っていたのかは不明だが、そこは置いておこう。

 機体のスペックを見る限り近接戦闘に特化した純粋な格闘タイプで、機動性と加速性能については申し分ないが装甲は控えめである。同じ格闘型でも堅牢な装甲を特徴にしていた打鉄とは近接格闘での扱い方は異なってくる。織斑一夏がその違いを把握してくれるか心配なのだが、動きを見る限りでは問題無さそうだ。

 

「成程、お前はあれを知っているというわけか」

「資料程度にですが。織斑先生は?」

 

 そう言った織斑先生の口調に少しの懐かしむような色が混ざっていることに気付く。彼女は元国家代表で、当時の専用機"暮桜"の整備その他は倉持技研が担当していた。開発に何らかの形で関わっていても不思議ではない。

 

「まあな。あれについてはお前より詳しい事は間違いない」

「そうですか」

 

 曖昧な解答は、私に詳細を知る権限が無いという事の表れだろう。返事を返し、互いに会話を終えて画面に集中する。

 まだビット達のエネルギーは十分にあるらしく、後退する気配は感じられない。

 

「オルフィレウス。お前は一夏にISについての教えを乞われたらしいな」

「はい」

 

 少しすると、思い出したように織斑先生が話しかけてくる。

 

「勉学に励むことが学生達の義務であるから自主学習はおおいに奨励されている。義務を果たすのは構わんが、少しくらい教師に話を通せ」

 

 報告を忘れるなという事か。この点については反省しなくてはなるまい。今までのトレーニング内容は全てデータとして記録していたが、個人個人のやり取りとして学園にも企業にも提出はしていない。

 頼まれた立場とはいえ、訓練内容について報告の義務があるのは教える側である私で、怠っていたのも同じく私だ。

 授業との折り合いも考えてメニューは組んでいたが、教師としては織斑一夏がどの程度の知識や技術を得ているのか知っておきたいのだろう。織斑一夏は1年1組で最も授業進度が遅れている生徒なので、授業の方もある程度彼に合わせる必要がある。

 この一週間は織斑先生と山田先生には悪いことをしてしまった。

 

「申し訳ありません、織斑先生。後ほど提出します」

「構わん。以後、気をつけろ」

「了解しました」

 

 織斑先生に提出する報告書の作成を今夜の予定に組み込む。1時間もあれば作成できるが、そうなると今夜は寮監室へ行かなくてはならない。後で寮内の地図を見返すとしよう。

 

「ビットを使っている間、彼女は動けないようですね」

「ああ。オルコットの方もそれを巧みに隠してはいるが……さて、織斑はどういう反応を見せるか」

 

 織斑一夏が気づいているのかを動きからは読み取れないが、セシリア・オルコットは先程からビットを使っている時は動きを止め、攻撃もせずにいる。最初は油断か手加減のつもりなのかと思ったが、織斑一夏がセシリアの攻撃を回避し始めても変わらないので違うと考える。

 ブルー・ティアーズは操作に意識を集中しなければならない。セシリア・オルコットの操縦は中々のものではあるが、その為に機体の操縦に思考のリソースを割り振る事が出来ていないのだろう。自機との連携が強さの前提でもあるブルー・ティアーズなのだから今の彼女の使い方では本来の性能を発揮していない。

 そして何よりも、織斑一夏がセシリアが動けない事に気づけばほぼ確実に一撃を与えられ、彼女は迂闊にブルー・ティアーズの展開を出来なくなる。戦いの流れを得ることが出来るのだ。

 

「織斑くん、何かしかけるつもりですね」

 

 山田先生の言葉により全員がモニターへと集中する。

 織斑一夏の構えが変わっていた。両手で肩に担ぐような構え方から、脇構えへと。そして彼は自らセシリア・オルコットとの距離を保ったまま、縮める気配を見せない。

 

「成程……」

「知っているのか?」

 

 つぶやきを耳ざとく拾い上げた篠ノ之箒が若干気に入らなさそうに尋ねてくる。

 

「見ていればわかります」

 

 篠ノ之箒は私の言葉が不服である様子だが、画面へと視線を戻す。答えを待っていたのか織斑先生や山田先生が私の言葉に耳を傾けている気配を感じたが、答えが得られぬと知るとすぐに画面へと視線を移す。

 彼がやろうとしていることを私は知っている。些か早すぎる気はするが彼が決めたことならばそれでいい。

 私はそれを見届けるだけだ。

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは予想外に抵抗する織斑一夏に焦燥を抱いていた。

 油断はしていなかった。

 相手が男であるからと油断をしていたという気持ちは無い。

 全力で叩き潰すと心に誓っていた。

 織斑一夏がどれほど自己鍛錬を行おうとも実戦経験は皆無。一週間という時間に詰め込んでも自分が今まで鍛え上げてきた技量を超えることなど出来はしない。

 だが、目の前で展開する現実はそうではない。織斑一夏は近接武装しか持たずに自分と互角に渡り合っている。

 有り得ない話だ。どれほど優秀な教官が居て、どれほど高価な設備を備えて万全の状態で訓練をしても、素人を一週間程度で、授業時間も含めれば一日数時間の訓練で此処まで鍛えあげる事など出来ない。

 

「…………」

 

 故に、これは織斑一夏自身の持つ力である。

 織斑一夏は自分を遥かに上回る素質を持ち、それを現在進行形で開花させている。

 有り得ないと感情は否定するが、理性が現実だと肯定する。

 感情と理性が反発し合い、セシリアの心を乱す。手に持っているレーザーライフルの銃口が僅かにブレ始め、正確性を失う。

 もし、彼女が平凡であるならば此処で感情を優先し、冷静さを欠いた行動を取っていただろう。

 

「認めるしかないようですわね……」

 

 しかし、セシリアは理性を優先した。目の前の光景を現実だと肯定し、ブレていた銃身を落ち着かせる。

 目の前の相手はたしかに敵だ。少なくとも代表候補生レベルの実力を有し、余裕を見せていれば敗北は必至。

 女として、セシリア・オルコットとして、何よりも英国国家代表候補生として。この戦いに絶対に負けることは許されない。

 敵は何かを企んでいるようだ。ならば、それを迎え撃つ。

 織斑一夏は近接格闘型。今までの様子から見る限り確実で、武装構成は現在展開しているブレードのみか、格闘専用の装備しかないと前提を立てて考える。

 敵が攻撃をするためには自分に接近をする必要がある。必然的に敵機はこちらへと接近する必要がある。

 だから、その隙こそ織斑一夏にとっての油断が生じるはずだ。自分は今までの戦闘で近接用装備を使用せず、身のこなしと立ち回りで対応している。敵も代表候補生と同等の能力があるとするならば、それに気づいているだろう。

 

「インターセプター……」

 

 確かに接近戦は苦手だが、今まで近接戦闘に持ち込まれてしまったことなんて数えきれないほど経験している。それらの記憶を組み合わせ、現状で最も有効な戦略を組み立てていく。

 敵を近づかせないために牽制射撃を行いながらじっくりとイメージを固め、登録された近接用装備を呼び出す。量子化された装備が展開される直前でそれを止め、保留状態として待機させる。

 

 この舞踏会の奏者は自分とブルーティアーズで、織斑一夏はそれに合わせて踊る演者である。

 誰がこの舞台の主であるのかを知らしめなければならない。

 代表候補生の実力というものを教育しなくてはならない。

 

 たかだか一週間程度で数年に渡る自分の鍛錬を否定させはしない。

 

 自分が専用機を得るまでどれだけ苦労したのかを織斑一夏は知らないだろう。

 どれだけ辛く苦しい訓練を乗り越えて来たのかなんて織斑一夏には分からないだろう。

 

 故に、勝利して知らしめる。

 地に伏せさせ、身体と精神に理解させる。セシリア・オルコットと織斑一夏のどちらが上で、どちらが下なのかを。

 

「さあ、おいでなさい。そして、私の手の平の上で踊りなさい」

 

 必勝を胸に近い、セシリア・オルコットは近寄られることを拒むようにトリガーを引きながら待ち続け――。

 

 

 

 

 

 来るべくして、その瞬間が訪れる。

 

 

 

 行けるか?

 

――前進しないものに勝利はない。

 

 俺にできるだろうか?

 

――俺以外の誰に出来る?

 

 俺以外に誰も出来ない。

 

 

 織斑一夏は自らに問いかける。自問自答の結果は言うまでもない。

 不安はある。自分がこれからやるのは土曜日曜で行った訓練でも成功回数は数えるほどしかなかった。

 しかしやらなくてはならない。

 セシリア・オルコットを倒すには、彼女が経験したことのない攻撃でなくてはならないのだ。

 これ以上長引かせればセシリア・オルコットは自分に当ててくるかもしれない。事実、乱れ始めていた射撃は正確性を取り戻して自分を射抜かんとしている。

 

 機体を制御、高機動による回避を打ち切って機首をブルー・ティアーズ――セシリア・オルコットへと向ける。

 セシリアより放たれたレーザーを身をかがめてかわし、ブースターにエネルギーを送り込み、全ての推進器の向きを後方へ。

 体感時間が引き伸ばされるように錯覚する。織斑一夏と白式が全てを置き去りにし、誰もそれに付いてくる事はできない。

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは何が起きたのかを理解できなかった。

 わかっている事といえば直感に従ってガードするように突き出したナイフは既にその役割を果たしたという、それだけだ。

 

「何……?」

 

 そう、何もわからないのだ。セシリア・オルコットは200時間以上ISを操縦し、公式非公式を問わずに数多くの戦闘を経験してきていた。

 知識は当然のことながら、これまでにその身に受けてきた技能や機体の能力の数はこの学園でもトップクラスに入るだろう。

 それだけの技術、経験を持ってしても織斑一夏が数秒前に為した事を理解できないのだ。

 故に彼女は防衛本能に従って、全火器を織斑一夏へと向ける。

 腰部でエネルギーチャージを行なっているブルーティアーズを本体とつなげたまま、ミサイルビットの砲門も惜しまずに動員。

 いつの間にか背後へと滞空していた織斑一夏の背中を照準器の中心に置く。

 

「――――!!」

 

 こちらの動きに気づいた織斑一夏。しかし、それを確認することもせず、ISに一斉発射の指示を下す。

 閃光と爆音。

 織斑一夏の居た場所を世界最強の兵器による最大火力が蹂躙した。

 

 

「一夏!!」

「織斑くん!!」

「…………」

 

 篠ノ之箒と山田先生の悲鳴にも似た叫びがモニタールームに響く。

 織斑一夏は爆煙に包まれたまま未だに姿を表さない。

 直前に放たれたのはセシリア・オルコットによる全火器一斉放火。あらゆる重戦車も一撃で破壊出来るであろう破壊力だ。ISを装備していたとしても無事だとは考えにくい。

 

「ふん、あの馬鹿め……」

 

 耳に入ってきた織斑先生の言葉に呆れとともに安堵が感じられる。

 何を見たのかは不明だ。しかし――

 

「機体に救われたな」

 

 織斑先生の言葉を聞く前から、私は心の何処かでそうなる事を信じていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 アリーナの空を白い閃光が疾走する。それが何なのかは言わずとも、誰もが理解をしていた。

 真の姿となった織斑一夏――白式は、先程よりも白さを増している装甲に陽の光を反射してその姿をこの場にいる全員へと焼き付ける。

 背部ユニットは先程までの無骨な三角形といったものから翼を連想させる形状へ。何よりも大きな変化は手に持っている武器だろう。

 彼の武器は片手剣のような形状から、打鉄のブレードのように大型なものに変化している。

 あの形状は野太刀、長巻きに分類されるものだ。何故ああなったのか、やはり打鉄を使わせて訓練を行わせたことが影響しているのだろう。

 

「しかし、早いな。まだ10分程度しか経っていないぞ」

 

 解せぬという表情で織斑先生が口にし、私に説明を求める視線を送ってくる。

 

「試合開始前に白式にダウンロードさせたプログラムでしょう。あれは織斑一夏の訓練における戦闘データなどを全て記録したものですので」

 

 シミュレーターに蓄積させた戦闘経験をデータベースより引き出し、出撃前の白式に読み込ませた。これにより白式は擬似的に経験値を得ることになり、織斑一夏への最適化を計算する時間と計算量を軽減できる。

 

「成程な」

 

 それを理解してか、織斑先生はそれ以上の説明を要求すること無く画面へと視線を戻した。

 私もそれに続いて試合の映像に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは自分の目の前に広がる事象が理解できなかった。

 絶対防御により傷はないだろうと思っていたが耐え切ったという事。そして何よりも理解し難いことが一つ。

 

「一次移行も行わずに戦っていたというんですの……!?」

 

 織斑一夏は機体の最適化すら行わずに自分と渡り合ってみせた。初期状態の機体のままで闘うということは、自らの身体のサイズに合わない鎧を着ている状態だ。普通、そんな状態で戦おうとは考えない。

 そんな状態で国家代表候補生と互角以上の戦いを見せたということが異常である。

 

「生憎と、俺達には時間がなかったからな」

 

 それほどの事を為した織斑一夏は、それ自体がどうとでもないような態度を見せる。それが奢らない彼の人柄なのだろう。しかしそれはセシリアにとって何の慰めにもなりはしない。

 初期状態のままの敵に圧倒されるという恥じるべき姿を衆目に晒した事は変わらない。

 

「これでようやく俺達は同じ舞台に立ったんだ。終らせようぜ、セシリア。今ならお前も満足してくれるだろ?」

 

 そんなセシリアの内心を知ってか知らずか、今までのを戦いこそセシリア主導であったと認め、漸く対等の戦いが出来るのだと織斑一夏は告げる。

 彼は自分を、強敵として認めてくれている。取るに足らない道端の一つではない。自らの道程に立ちふさがる巨大な壁として、打倒すべき敵と認識してくれているのだ。

 ならば己はそれに答えなければならないだろう。ふがいない姿など、今度こそ見せることは出来ない。

 自然と愛銃を握る手に力がこもる。先程までとは違い、織斑一夏とこうして同じ舞台に立って舞い踊る事への喜びが沸き上がってくる。

 共に舞い踊るパートナーであるのなら、彼に相応しい相手でなくてはならないだろう。

 

「言ってくれますわね。男のくせに、生意気ですわ!」

 

 セシリア・オルコットは愛銃"スターライトmkⅢ"を肩越しに構え、織斑一夏を覗きこむ。

 彼は笑っていた。自然と自分の口元も釣り上がるのが分かる。

 楽しい。これほど心の湧き上がりなど今までに経験したことがない。叶うのならば、この瞬間が永遠であってほしい。

 貴方と一緒にこの大観衆の中、永遠に踊り続けたい。

 

「男だからって甘くみんじゃねえぞ、代表候補生!」

 

 だがその願いが叶うことは無い。

 

 彼は時間がないといった。それは、この戦いよりも遥か高みを目指している事の証だろう。

 彼は俺達といった。彼の言うパートナーとは、自分ではなく他の誰かなのだろう。

 あくまでも自分が彼にとって道程でしかないことがたまらなく悔しかったから、セシリアは彼に自らの存在を烙印するために銃を構える。

 

 織斑一夏が機首をこちらへと向け、形状の変わった近接格闘装備を脇に構える。

 

 来る――次に来るのは先程の技。ISの近接装備を破壊するほどの威力を見せたあの技だ。既にこちらに防ぐ術はなく、迎え撃つほか手段はない。

 セシリアは今までの戦闘経験及び学んできた知識と優れた頭脳を最大効率で回転させ、最善の方法を探りだす。

 こちらの認識を遥かに超えた打撃。超高速で最短距離を駆け抜ける他にそれをなし得る術はない。ならばその最短距離を駆け抜ける瞬間にスターライトmkⅢを放てば確実に命中するだろう。超高速の相手には回避不可能であり、ここに至るまでの戦闘でシールドエネルギーの残量は互いに僅か。

 この一撃で勝負が決まる。

 

 セシリアは操作をマニュアルへと移行。反動制御、浮遊状態の維持は全てブルー・ティアーズに任せて織斑一夏の技が始まるタイミングを掴むべく過去最高の域で精神を集中する。

 タイミングは一瞬。

 次はない一度きりの勝負。

 色彩も全て捨てる。ただ映像を見ることさえ出来ればそれで構わない。 

 グレーの世界でただ一つ変わらない白を見る。

 

 見続ける。

 

 そして――

 

「…………!」

 

 視認することは出来ないのだから殆ど勘だが、セシリアはそれこそが真であると直感する。何よりも信頼している経験が「撃て」と訴えかけてくる。

 セシリア・オルコットは迷わずそれに従い、トリガーを引く。

 大気をエネルギーが通り抜ける際に発する特有の電子音と共に青い光が織斑一夏の白へ迫る。

 

 取った!

 

 レーザーは直撃コースを辿る。不可避の一撃となった青いレーザーは、しかし、それ以上の威力を持った蒼に呑み込まれた。

 この期に及んで新しい能力。

 強力なエネルギーをより強力な一撃で打ち消す。今まで隠してたのか、一次移行を果たした事で新たに発現したのかは不明だが、そんなことはどうでも良い。

 先の射撃はこれまでの人生で最高だった。それすらも通用しなかった。互いに全力を出し尽くし、認め合った末の結果なのだから不満など何処にもない。

 

 清々しさを感じながら全てを見届け、純白が眼前と押し寄せてくるのを確認して、セシリア・オルコットは敗北した。




かなり長くなったので誤字があるかもしれません。
気づいた方がいたら教えてもらえると幸いです。

それと、この二次創作における雪片弐型は原作と形が違います。
原作よりも長くて、おっきいです。
作者の趣味と、白式がここの一夏に最適化した結果だと納得していただければ幸いです。
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