女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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途中ですが、区切りのいいところまでかけたので投稿します。



序章13

「………………」

 

 手持ち無沙汰に空を見上げる。空の色は青、雲ひとつ無い快晴。外出にはもってこいの日和とかなんとか。

 待ち合わせ場所のモノレールの改札前で現在時刻を確認。短針が9、長針は2と3の間を指している。

 予定した時間は九時。つまり、織斑一夏は遅刻していた。

 

 

 

 結局、織斑一夏がやってきたのは更に数分経ってからだった。

 

「すまんキャロル、遅れた……!」

 

 私の前にたった織斑一夏は息を切らして、私の前に立つ。様子から見るにかなり慌てて来たようだ。

 

「問題ありません。どうぞ、お使いください」

 

 遅れてきた事自体に問題は無い。もともと遅れても大丈夫なようにという目的もあって少し早めの集合時間にしたのだから。

 ただし、汗だくかつ息を切らした状態でモノレールに乗られても目立つので少し休ませてから行ったほうがいいだろう。

 

「あのー……キャロルさん?」

 

 休憩するために駅のホームのベンチに並んで腰を下ろす。しばらく私のハンカチを使って汗を拭いていた織斑一夏だったが、唐突にバツの悪そうな表情を浮かべて声を掛けてきた。

 

「何でしょう?」

「あのさ……遅れたことについて怒ってたりするのか?」

 

 どうしてそう思ったのだろうか。普段通りにしているつもりだったのでそれが少し意外である。

 確かに彼が来るまでの時間、特に何もせずに時間を過ごしていたというのには少し勿体無い事をしたと思わないでもない。

 

「別に、怒ってなどいませんが。ただし、18分弱の時間を無為に過ごすことになったことについて何も思ってないわけではないので」

「その含みの有る言い方怖いな!?」

「そうでしたか?」

 

 何がいいだろうか。少し考えていくつか候補を上げ、その中から選ぼうとするが変に言うよりも気にしてないということを伝えた方が効果はあるだろう。

 

「実際、気にしてませんよ私は」

「んー……だったらいいんだけどさ」

 

 この一週間でだが、なんとなく彼との話の仕方が分かってきた気がする。

 織斑一夏は基本的に額面通りの意味で言葉を受け取るから、織斑一夏に何かを伝えたい時はストレートに伝えたほうが伝わりやすいということだ。

 

「そろそろ行くか」

「そうですね」

 

 10分程の時間が経って織斑一夏の息も整ってきた頃にやってきたモノレールに乗車する。車内はそこそこに混んでいるが、空席はまばらに見えるくらいだ。

 互いに座れるだけの場所は見当たらないので、互いに立っていることにする。

 

 IS学園はメガフロートと呼ばれる類の人工島である。ただしこれは日本と陸続きに作られては居らず、学園と日本を行き来する手段はモノレールに限られている。飛行機や船を使って学園に来ることも可能ではあるが、特殊な事情がある場合に限られている。

 因みに、このモノレールは学園の人間は無料で使うことが出来るが、改札を通る際にIDの提示が必要である。因みに、IDはこれを失くしたら織斑先生を代表とした生徒指導の先生達による説教と、罰として一週間の外出禁止処分が待っている。

 

「しっかし、今日もいい天気でよかったな」

「そうですね。予報通りであれば、天候が崩れるといった心配も無さそうです 」

 

 車窓から見える海の景色を見た織斑一夏が言う。海は空と陽の光を反射して青く輝いている。

 織斑一夏は隣であくびをしている。春の陽気に誘われでもしたのだろうか。

 

「空席もあるのですし座席に腰を下ろしては?」

「いや、キャロルが座らないなら俺も立っている」

「そうですか」

 

 こちらを気にする必要など無いのに律儀な性格だ。

 話すことも無いので自然と会話はなくなり、互いに車窓の外に広がる先程と何も変わらない景色に目を向ける。

 日本に到着するまであと十数分、窓から見えるのはずっと同じ景色だったが不思議と飽きることはなかった。

 

 

 

 

「一週間ぶりくらいだっていうだけなのに、この辺に来るのも久しぶりな気がするな」

 

 駅を出て、映画館に向かうべく街のメインストリートを歩いている途中で織斑一夏がそんな事を口にした。

 そういえば彼の足は立ち止まる事なく一つの方向に向かって動き続けている。様子も現在位置をしっかりと把握しているようで、この街に慣れているといった雰囲気だ。

 IS学園に来る前はこの辺りによく来ていたのだろうか。

 

「織斑一夏さんはこの辺りによく来るのですか?」

「まあ、そんなところかな。俺の家がこの近くなんだよ」

 

 成程、そういう事なら彼の様子にも納得である。行き慣れている場所というのなら、用意しておいた地図も必要にはならないだろう。

 現地を知っている人間というのはどんな時でも頼りになるものだ。

 

「なんだったら映画の後にでも来るか?」

「織斑一夏さんの家にですか?」

「ああ。どっちにしろ俺は一回家に帰って片付けをしなくちゃならないからな、そのついでみたいな感じだ」

 

 織斑一夏がIS学園に入学してからニ週間。話によると入学する少し前からホテルへと移されていたらしいので実質三間から四週間程は家を留守にしていたということになる。

 確かに、どれだけ綺麗にしていても埃といったものはすぐに蓄積してしまうので掃除が必要になるのだろう。彼は片付けと言った事が少し引っかかるが、掃除というのなら人手が必要になることがあるかもしれない。一応、一緒に行って必要そうならば手伝おう。今日は映画を彼の奢りで観に行くのだからそれの礼という意味でも手伝いをしたって構わないはずだ。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 そう言う理由で私は彼の誘いを受けることにする。

 映画を彼のお金で観に行く事は賭けの結果だが、それくらいはしても別にいいだろう。

 

「そんなら昼もどっかで食べてくか」

 

 確かに、午後は彼の家に行くというのならそれがいい。映画も二時間程度はあるだろうから、映画が終わってからだと少し遅めの昼にになる。

 何かを食べたいかという希望も特にないので、この辺りの知識のある織斑一夏に選択は任せるのが適切だろう。

 

「それが良いでしょう。織斑一夏さんの中で評価の高い店はありますか?」

「そうだな……知り合いのやってる店で一つあるぞ。食堂なんだが、そこでもいいか?」

 

 織斑一夏は少し考えるように腕を組む。場所を選ぶのにはそんなに時間がかからなかったようで、すぐにこちらへ顔を向けると足は止めずに聞いてくる。

 

「はい、構いません。どのような場所ですか?」

 

 街の景色を見るのを止めて会話を続ける。街自体は何の変わりもない普通の都会で特に目を引くような建物も店もないものだから、織斑一夏との会話のほうが時間を無為にしない。

 彼に付いていくために歩幅一つ分程開けていた距離を詰めて隣に行く。

 

「五反田食堂っていうんだけどな、中学の頃の同級生の爺さんのやってる店で安くて美味いんだ」

「学生には持って来いの場所というわけですね」

「でも、厳さん――同級生の爺さんの名前な――が、『安くても絶対に美味いもんを食わせるんだ!』って拘ってるから味の方は心配しなくていいぜ」

 

 自分の知り合いの事を話す織斑一夏の表情はとても楽しそうだった。入学初日からのニ週間、これほどまでに楽しそうな表情を見たのは身内の会話になった時の事だ。

 その時に私の身内として話題に出したのは主任であるのだが、過去の話を聞いた織斑一夏は「面白い人なんだな」と言っていた。第三者視点からするとそう思えるだけだろう。当事者である私には貴重では合ったが二度と経験したくない過去として記憶されているので彼の評価は間違いである。

 

「そうだ。たまにはキャロルについて教えてくれないか?」

「私について、ですか?」

 

 予想外の言葉に、足を止めて問いかける。織斑一夏も足を止めてこちらを向く。

 

「俺って意外とキャロルのこと知らないし、やっぱ互いのことを知り合うのって大事だろ?」

「確かに、そうですが……」

 

 私はすぐには返答を返さず思考し、一つの問いを投げかけてみる。

 

「織斑一夏さんは私の事を知りたいと?」

 

 私の役割において彼が私の事を知る必要性は認められないが、教えない必要性も無い。どちらを選んでも私の役割に対しての影響は無視出来る程度だろう。

 どちらでもいいことなのだから、私は彼に選択権を委ねる。

 

「俺はキャロルの事をもっと知りたいぞ。これから三年間同じクラスで過ごすんだし、IS学園で初めて出来た友達だからな」

 

 それを確認するための問いに、彼は迷わずに頷く。

 友達、私は彼にそう認識されているらしい。

 限定的に二週間程行動を共にしていたが、彼が私をどう思っているのかについて知る機会は、実は今回が初であったりもする。

 それをわざわざ知る必要が無いと判断したから興味を持たなかったからなのだが。

 友達――互いに心を許し合い、対等に交わっている人物。一緒に遊んだり会話をする親しい人。友人とも言い換える事ができるというもの――というのを、私は知識のみで知っている。

 私は幼い頃から同年代の人とは付き合いがなかった。今までの人生の大半を企業での研究に費やしてきたから、今までそういう機会が無かった。

 つまり、織斑一夏は私にとって初めての友人ということだ。

 

「ああでも、無理には聞かないぜ。これから知っていける事のほうが多いだろうし」

 

 そんな事を考えていたのでしばらく無言の間が空いていたのだが、織斑一夏はそれを私が嫌がってるからだと思ったらしい。

 

「私のことを話すというのが嫌というわけではありません。ただ、そのような事を言われたことが初めてだったものですから」

「そうだったのか。じゃあ、教えてくれるのか?」

 

 織斑一夏が意外だとでも言いたげな表情で問いかけてくる。無論、聞かれた事は解答可能であれば隠さずに答えるつもりだ。

 

「個人情報の開示について何も問題はありません、織斑一夏さん」

「よし……あ、それと前から気になってたんだけどその呼び方は疲れないか?」

 

 呼び方に関しては癖や性分といった部分なので疲れるということはない。しかし、それを指摘してくるというのだから気にしているという事だろう。

 特にこの呼び方を通すことにこだわりのようなものがあるわけでもないので彼の要望を受け入れる。

 

「疲れるというわけではありませんが。では、どのような呼び方がよろしいですか?」

「普通に呼び捨てとか、そんなので良いぞ」

 

 普通に、か。今までが私にとっての普通だったので難しい注文だ。

 代表、代表殿、男性操縦者殿。

 普段通りの呼び方となるとこういうものになるのだが、確実に話の趣旨に合っていない筈だ。

 私の普通ではなく世間一般で言う普通の呼び方。そういう条件の中で呼び方の候補を考える。

 

「では、これからは一夏さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

 中でも一番無難と考えれるものを選択し、織斑一夏に確認を取る。

 

「おう。そっちのほうが堅苦しくなくて良いな」

「ではそのように」

 

 反応を見る限り、この呼び方を使うことで問題は無さそうだ。

 新しい呼び方を決めると織斑一夏は身体の向きを変えて、止まっていた足を再び動かし始める。

 私個人への情報への追求はない。返答に詰まった私への気遣いだろう。

 恐らく、上司に対人関係の能力が不十分などと評されている私だが、彼が知りたいと思っている事に変化がないことは分かる。一月近く接してきたのだから、それくらいの技能は付いていて然るべきだろう。

 

「一夏さん。先程の話についてですが……」

「教えてくれるのか?」

 

 織斑一夏へと追いついて先程の位置に戻る。会話の始点を一度リセットし、今度はこちらから切り出す。

 

「はい。個人的なこと、という前提は付けさせて頂きますが」

「大丈夫だ。俺は、キャロルの事しか興味が無いからな」

 

 それは、私の所属とか肩書きではなく個人としての情報に興味があるという意味なのだろうが――

 

「…………」

「どうしたんだ? ため息なんてついて」

「なんでもありません。質問をどうぞ、知りたいことに答えますので」

 

 誤解を招く言い方だ。しかも本人は無自覚というところがまたタチが悪い。

 いつか見た日本の映画に出てくる結婚詐欺師の手口に似たようなものがあったと思い出し、いつかそういう部分で苦労する日が来るのだろうと半ば確信する。

 

「キャロルって何処の国の出身なんだ?」

「ドイツです。ただ、現在は国籍を返還しているのでドイツ国民という訳ではありませんが」

 

 ドイツに居たのは出生から数年程度らしいので思い出や思い入れといったものは全くといっていい程無い。

 

「今は何処に住んでるんだ?」

「研究所が住居の役割も兼ねているのでそこに」

 

 研究所兼宿舎ではなく、割り振られた部屋に睡眠スペースがついているような作りをイメージしてもらえると実際の物に近い想像ができるだろう。

 因みに個人の好みに内装を変える事も許可はされているが必要性を感じないので私は初期の仕様のままにしている。

 

「研究所っていうのはどのへんにあるんだ?」

「申し訳ありません。それは守秘義務に反するので解答が不可能です」

「あー……すまん、キャロルにも立場とかあるもんな」

「いえ、こちらの都合ですのでお気になさらず」

 

 秘密研究所という彼の表現は当たらずとも遠からずといったところだ。所在に関しては勿論のこと、研究内容や扱っている技術は秘中の秘になっている。

 いずれも世に出回る事が予定されている優れた物だが、便利だからといって簡単に流出させれるものではない。

 それに、この日本にも"人の口に戸は立てられぬ"という諺があるように誰かに教えるということはテレビのCMとして放送するのと同じだ。何処で誰が聞いているのかがわからない。

 守るべき秘密は言葉は勿論のこと何の形にも残さない事が一番の秘匿方法なのだから。

 言ったとおり、これは織斑一夏ではなくこちらの都合だから彼が謝る程のことでもない。

 

「しっかし研究所住まいって事は家族とかとはどうしてるんだ?」

「家族は……」

「は?」

 

 呆気にとられたような表情でこちらを振り向いた。聞き取れなかったのだろうか、もう一度、私は同じ言葉を彼に告げる。

 

「居ませんよ」

「………………」

 

 両親に始まり、兄弟姉妹から祖父祖母親類縁者に至るまで。キャロル・オルフィレウスの家族という物は存在していない。

 そう言えば、織斑姉弟は両親に捨てられたという過去を持っていたのだったか。

 私の場合は自ら家族との離別を行った

 私の返答を耳にして言葉を失っている織斑一夏の様子からそれを思い出す。

 

「すまん……」

 

 私の解答をどのように解釈したのかは不明だが、与えられた謝罪は私には意味のないものだ。

 何故ならば家族が存在しないことも、私にとっては数多くある情報の一つというだけでしかない。

 

 血縁者がこの世に一人も居ない。

 

 だから? それだけだろう。

 気がついた時から血縁者や近しい人物というものが居なかっただけ。それだけの過去だ。

 今の私は親類縁者という要素を含まずに出来上がっている。欲しいとも思わず無い現状に不満はないのだから、私には必要のなかったものなのだ。

 ただ彼はそうは思ってないようで、明らかに気を落としていた。同情や憐憫といった視線を浴びせるでもなく、純粋に悪いことをしたと思っているあたりが如何にも彼らしい。

 そして、そういう反応なら私としてもどうした方が良いのかが分かりやすい。

 

「だからといって、この事に対して気遣う必要はありません」

「言われるまでもないさ。俺はそんな迷惑な事はしない」

 

 彼の目は実感が篭っていた。恐らく、彼は幼少時代にそういった上から目線の優しさを与えられた経験があるのだろう。

 

「では、話の続きをしましょうか一夏さん」

「ああ。そうだな……休みの日は何をしているんだ?」

 

 彼の姿勢を好ましく思いながら、本当に気にしては居ないことを証明するべく、私達は先程の会話を再開する。

 彼からの質問は思ってたよりも多かった。質問の数で言えば両手の指で数えられる数を容易に上回った。どこからそれだけの質問が湧いて出てきたのかと不思議に思うほどだ。

 そして、一方的に進むものだと思っていたこの会話も進む内に互いに質問をし合うような形式へと変化していく。

 そういう流れになった事に深い理由はない。ただ、彼からの質問が余りに多かったので、質問を受けるだけでは帳尻が合わないと思ったということと、彼の事を知るいい機会だと思ったというだけだ。

 

 

 

 

 目的地への到着を以て、私達の間で行われていた一問一答を繰り返すという形式の会話も自然と終わる。

 

「チケットは高校生二人分で」

 

 私達は学生証を提示して高校生相当の身分であることを証明し、二人分のチケットを購入する。代金は約束通りに織斑一夏が負担することになっている。

 私は彼が財布から紙幣三枚を取り出して支払う様子を眺めていた。

 

「SF映画ですか……」

 

 私達がこれから見る予定の映画のポスターを見上げる。

 ポスターの中ではISらしき装甲を身に纏った男女達が、星海を背景にポーズを決めて立っていて、これがどういう作品なのかがパッと見で分かるようになっていた。

 

「どうかしたか?」

「いえ、この映画の原作が発表された頃は男性操縦者も夢物語とされていたのを思い出しまして」

 

 絶対原則としてISは女性にしか反応しない。ISが発表された当時からつい最近まではそう信じられていた。男性操縦者は夢のまた夢で架空の存在だったのだ。

 人間の遺伝子操作や機械化。或いはIS側の改造を行なって、合法非合法を問わずにあらゆる手段を通じて男性操縦者へのアプローチは掛けられていたが、それらの研究は全て頓挫している。

 表社会では未完だが、実は世に出ていないだけで開発されているという技術は意外にも多い。しかし、男性操縦者は如何なる国家も研究機関、組織も作り出すことが出来ずに研究は打ち切られている。いわば、本物の夢物語だったのだ。

 

「あー……確かに言われてみればそうだったな」

 

 かつての夢物語が現実となった存在である織斑一夏は、私の言葉に苦笑混じりの表情を浮かべて頬を掻く。

 

「ただ、俺だけが使えるっていう事には実感がわかないんだよな。何の問題もなく使えるからそれが普通だとか、他の人だって使えるんじゃないのかって思うこともある」

 

 彼の言いたい事は私も実感として感じることがある。

 ISを起動するのは女性であれば誰でも出来る事で、操縦とは違って特別な訓練が必要というわけでもない。 

 ISが女性と織斑一夏にしか反応しない理由の科学的に証明がないので誰にも解らない。

 中には織斑千冬の弟だからという曖昧な説もある。これが現在の最も有力な説なのだから、男性が使えない事と織斑一夏だけが使える事がどれだけ謎めいているのかが理解してもらえるだろう。

 

「そんなことより、キャロルは何を飲む?」

 

 まあ、彼はそんなことはどうでもいいらしく、財布を持ったままチケット売り場の横で営業しているフードコートの前に立っていた。メニューを私に差し出して注文を尋ねてくる。

 

「では、コーラを」

「それでいいのか?」

「はい」

「キャロルもそういうの飲むんだな。んじゃ、コーラ二つにポップコーンを一つ」

 

 織斑一夏もコーラにするらしい。彼は二人分の飲み物とポップコーンを従業員に注文して差し出された飲み物を受け取る。

 渡されたカップは二つ。持てるのは手に一つだから二つを受け取れば彼の両手がふさがる。なのでカラフルな厚紙で作られたポップコーンの器を私が持った。

 さり気なく代金を彼が支払っていたのだが、これは後ほど半分を彼に渡せば問題は無い。

 

「さてと、劇場は何処だっけ?」

「第一シアターのようですね」

 

 広い施設だが、各所に設置された案内によって迷うことはない。私達はそれに従って目的の映画が上映される第一シアターへと向かう。

 

「うお……」

「これは……」

 

 到着した先で目に入ったのは、家族連れや男女組、兄弟や友人同士或いは一人という様々な組み合わせの人グループからなる入場待ちの列であった。

 私達の見る映画だが、事前情報によると数年前にヒットした小説を映画化した作品らしい。らしいというのは、見る映画を選ぶ際に原作を知っているという彼から、面白いと薦められ、私はそれ以上の情報は持たずに来ているからだ。

 行動を起こす前に事前情報を集める事は常識ではあるが、こういう娯楽において事前情報を集めるのはある程度以上を超えると楽しみを損失する。ましてや、様々なレビューや俗にいうネタバレ情報等が転がっている時代なのだから、事前情報を収集する最中にそういった物に遭遇してしまう事があるかもしれない。いや、確実に遭遇するだろう。

 過去の経験からも、その確率は限りなく100に近い。だったら、最初から情報を持たないままで行ったほうが楽しむことが出来る。

 

 話は逸れたが、私がこの映画について知っているのは原作にベストセラー小説を持つということ。そういう理由から大いに期待されている映画作品だということだけだ。

 この映画館も全面的にこの作品を推しているようで、外壁には巨大な宣伝用の予告編が放映されたり、空間投影ディスプレイにはこの映画の広告が映し出されていた。

 当然というべきか見に来る人は多い。ましてや今日は日曜日なのだから、更に増えるだろう。

 よって私達は開場までの待ち時間をこの列に加わりながら待って過ごさなくてはならなくなる。

 列はとても長く、幅は劇場入り口から通路の半分近くを埋めるほど。いくら広い施設だからといってこれ程の人数を一つの劇場内に収容出来るのかと懸念しそうになるほど多い。

 

「まさか、こんなに人が集まるなんてな」

「原作はベストセラー。俳優も有名所を起用して宣伝も各方面へと万全を期した国家事業ともなれば、こうもなるでしょう。ただ」

 

 この映画はただの映画ではない。

 世間という枠を超えて世界的に広がっているISブームに火を点け、さらに加速させるためのプロジェクト。その成果の一つなのだ。

 

「これだけの短期間で知れ渡っているというのですから、その点に関しては驚いてます」

 

 ISはまだ発表されてから10年も経っていない若い機械だ。歴史で言えば戦闘機の10分の1にも及ばないが、それでも世界中に認知されているというのは単純に目新しいからというだけの理由ではないのだろう。

 原因は二つ考えられる。

 

 一つ目は、今では"白騎士事件"などと呼ばれている世界ではじめてISが表舞台に立った時の衝撃。

 空を黒く埋め尽くしている弾道ミサイルを一瞬で消し去り、青空を取り戻した光景は今でも鮮明に記憶として思い返すことが出来る。

 

 二つ目は、人の性質的な部分に関わってくる。

 いつの時代も人は強い物、優れたものに憧れる。データとして叩き出した数値を眺め、それを上昇させていくのを夢見ている。それは成績や日常に限ったことではない。道具や武器に至るまで同じ事が言える。

 これを人の獣性の現れだとか、人間心理の奥深く、根源に刻み込まれた闘争本能からくるものなどとうそぶくつもりはない。そもそもとして、こういう感情は悪ではない。科学者の立場からすればどそれは正しいと、好ましくさえ思う。

 今よりももっと先を、より良い機能を目指して人の物質文明は発展を続けてきた。より良い物を求める感情を否定するのなら、その人は科学の恩恵を享受する権利はないだろう。

 

「今度は何を考えてるんだ?」

 

 織斑一夏に声を掛けられて思考を中断、隣に立っている彼を見上げる。両手に花ならぬ両手に紙コップを持った彼は苦笑混じりに私のことを見下ろしていた。

 

「ISの認知度の高さと人間の物質文明についてです」

「また小難しいことを……」

「単純な内容ですよ。結論から言えば、人間がより良いものを求めた結果として科学技術が発展してきたというだけの事です」

 

 如何にも難しい事をと、半ば呆れの混じった表情を浮かべた彼に単純化した内容を伝える。私の考えていたのは言葉に表してしまえばそんなことだ。別段難しいことでもない。

 だが、私の返答を聞いた彼は苦笑を更に深めた。どうやら、彼の言いたいのはそういうことではないらしい。

 

「今日みたいな休日くらい、肩の力を抜いたらどうだ?」

「…………」

 

 織斑一夏にそう言われて黙考する。確かに私の行動の根本に企業の業務を全うするという考えがある。それに気付いての発言か、それを確かめるために彼の目を見る。

 しかし予想に反して織斑一夏の目はいつもと変わらなかった。私をまっすぐに見つめてくるそこに、険しさや非難するような色は見当たらず、拍子抜けするくらい見慣れた物だった。

 だからだろうか、私も今は彼に合わせても良いのではないかと思い、この場では企業の役割を絡めるべきではないという事を理解する。

 

「では今日くらいは、そのようにさせて頂きます」

 

 なので、今日は彼の言葉に甘えて個人的な時間として今を過ごさせてもらおう。

 企業の任務はどうしたという声が聞こえてきそうだが、私の仕事は織斑一夏のIS学園における生活を補助すること。企業の任務は彼のプライベートにまで入り込むような物ではなく、もし私生活に介入するというのならそれは諜報活動と変わりはない。

 

「っ……何を?」

 

 突然、頬に感じた冷感に思考を中断して現状を確認。視界の隅に僅かに映り込むカラフルな色合いと織斑一夏の手が頬の近くへと伸ばされていることからコップを頬に当てられたのだと理解する。

 

「また難しいこと考えてただろ、キャロル」

「…………」

 

 彼の言葉を否定できない。話の流れからして彼の言う難しいこととはつまり、私が何かと行動の理屈をつけようと思考している事を指している。

 個人的な時間にまでこれであるから、企業の立場というものが深くまで自分の精神にまで染み付いている事を実感せざるを得ない。

 いわゆる、職業病というやつなのだろう。だから指摘された今もこう考えてしまっているわけで――

 

「キャロルらしいっちゃあキャロルらしいんだがな……」

 

 意識しようとも容易には直すことが出来ない、キャロル・オルフィレウスという個人の芯に触れる部分なのだろう。

 

「申し訳ありません、私はこういう性格ですので」

 

 理屈が感情よりも先走って物事を考える。

 私はそういう性格なのだと彼に胸を張って宣言をする。

 

「分かった。そういう事なら、そっちのままの方が良いよな」

 

 そうして私達は互いに見つめ合い、同時に苦笑ともつかぬ雰囲気で互いに笑みを浮かべる。

 これが楽しいという感情であるのを知らないほど、私の心は感情という知識に疎い訳ではない。

 一個人として、彼と話をするのは楽しいと思える部分がある。それは間違いない事実だ。

 端から見れば、互いに見つめ合って声も立てずに笑っているのだから、さぞ奇っ怪な光景に映ったかもしれない。私だったら、この人達は何をしているのだろうかと気味悪く思っているところだろう。

 

「列も動きませんし……これ、冷めてしまう前に食べませんか?」

 

 待っている間の雑談の種も尽きかけたので、手元で抱えていたポップコーンを食べることを提案する。

 

「そうするか……とは言っても、こんな状況じゃ食えないが」

 

 織斑一夏は同意を示すが、同時に、両手に紙コップを持っている状況を指して肩を竦めてみせる。確かに、彼の言っていることは間違いではない。片手にしろ両手にしろ、手を使わなければ食事を取ることは難しい。犬のように顔を近づければ食べる事は可能だろうが、選択としては論外である。

 だがしかし、両手がふさがっているのは織斑一夏"だけ"であるというのを彼は忘れている。両手を使えない状況にあるというのなら、使える人間が代わりにその役割を果たせばよいのだから。

 つまり、私は片手でポップコーンのカップを持っている。だから、もう片方を使うことが可能な状態にある。

 

「こうすれば問題はないでしょう」

 

 言葉で説明するよりも実際に行動した方が早い。そう考え、カップからポップコーンをひとつまみして彼の口元へそっと近づける。

 織斑一夏は少しだけ、驚いたように目を丸くする。目の前に差し出された真っ白なコーンとにらめっこすること数秒、彼は口を開けてそれを食べる。

 

「…………」

「御味の方は?」

 

 無言でコーンを咀嚼している彼に、私が作ったわけでも買った訳でも無いのだが感想を尋ねる。

 織斑一夏は何故そんなに時間を掛けるのかが不思議なほどゆっくりと口を動かして、ようやく飲み込んでから私に答える。

 

「すごく美味しいです」

「大げさな……」

 

 僅かに震える声で言われて疑問を抱く。確認するためにカップから一口分をつまんで口に運ぶ。仄かな塩味とコーン独特の鼻に抜けるような風味が口の中に広がり、歯にもくっつかず食感を残しながらゆっくりと崩れていく。

 確かに中々の出来だ。しかし、何処まで行っても普通のポップコーンである。簡単で一度に大量に作るという特徴もあるので工程や工夫で味に差が付きにくいというのもあるが、やはり普通止まりである。

 

「ああ、いや。そういう意味じゃなくてだな」

「大変長らくお待たせしましたー! 開場の時間になりましたので、列にお並びの方は押さずにゆっくりと入場してください!」

 

 慌てたように訂正しようとする彼の声を案内係の女性が遮り、直後に列が動き始める。

 彼は言おうとした言葉を飲み込むと、動き出した列に流されるように劇場内への移動を始める。私もその隣を歩き、チケットに記された番号の座席へと向かう。

 その途中で、織斑一夏に問いかける。

 

「結局、さっきはどういう意味だったのですか?」

「ああ、いや……何でもない。久しぶりに食べたポップコーンが美味かったっていうだけだ」

「そうですか」

 

 気恥ずかしそうに視線を逸らしながら彼は言う。久しぶりに食べたポップコーンに感動するという事は、彼はこれが好物なのだろうか? そう思い、歩きながらもう一口食べてみる。

 やはり、美味しいが何の変哲もない塩味のポップコーンだった。

 




そういえば、一夏や弾の実家って何処にあるんでしょうね。学園からの距離でもわかればいいんですが。
当初は自宅から通う予定であったことと、蘭と街中でばったり遭遇する事もあったのできっとIS学園からそう遠くは無いんだろうと思っています。
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