女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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序章14

 漆黒の海に、数多の星が生まれては消えてゆく。

 それは、正義を掲げた戦士たちの駆るISと、輝かしい正義さえも打ち砕き蹂躙せんと迫る宇宙からの侵略者達の戦う光だ。

 現在、人類は最終防衛ラインたるこの宙域で激戦を繰り広げていた。そして戦況は、人類の圧倒的不利。

 それもそのはずだ。そもそも互いの戦力差が開きすぎている。IS一機と敵機動兵器の性能を比べたらISが勝るが、それを掻き消すだけの戦力を侵略者は持っていた。

 主力たるISについていける機動兵器が存在しない今、人類は希望の光が潰えてゆく様子を指をくわえてみる事しか出来なかった。

 肉食昆虫を彷彿とさせる凶悪の外見の敵機動兵器達に一機、また一機と少女の命と共にISが落とされていく。

 一機ずつ確実に重要な戦力を失っていく人類。数の暴力で圧倒する侵略者達、その中心に一際巨大な。

 

『クハハハハッ!! 貴様ら人類の足掻きなど、銀河の総支配者たる吾等には無駄である!』

 

 突如として戦場の全域に響き渡った哄笑。その声の主を、防衛軍の司令官は怨敵として記憶していた。

 あの日見た憎々しい顔を忘れもしない、彼こそがこの侵略者達を束ねる統制官。

 

『生命体として劣等種たる貴様らは、此処で滅びるが良い!!』

 

 しかし、今の司令官に何が出来るわけでもない。彼は出来る事は全てした。今の彼に出来るのは、その成果が実る事を祈ることだけである。

 

「司令、敵旗艦に熱源反応……これは、例の光が来ます!」

「全艦緊急回避、主砲の射線から退避せよ!」

 

 雲霞のごとく蠢いている敵軍の中心に座する大型母船、その先端に光が集中していた。

 これにも見覚えがある。開戦と同時に主力艦隊の3割を跡形も無く消滅させた破壊の光。今これを撃たれては、何とか踏みとどまっている戦線が全て崩壊するだろう。

 回避などしてどうなるという。あれを回避するためには防衛ラインを崩さねばならない。そうなれば、彼らは傷跡に群がる蛆のように殺到し、数時間も経たない内に防衛軍は壊滅するだろう。

 しかし、だからといって黙ってこの光に焼きつくされろと命令することは司令官として絶対に出来ない。司令官の職業とは部下に死んでこいと命令事だが、無駄死にしろと切り捨てることではない。

 どれだけ絶望的でも最後まで諦めてなるものか。

 神を信じてはいないが、今この瞬間は神でも悪魔でも仏でも魔王でも構わない。人類を救うために、一つでも良いから奇跡を起こしてくれ。

 果たしてその願いが届いたのか。

 主砲が放たれんとした瞬間、その光は勢いを増して膨れ上がって破裂した。

 制御を失った超高濃度のエネルギーは旗艦の護衛についていた機動兵器達と敵艦の数多くを焼き払っていた。

 

『なにぃ――っ!?』

 

 敵の統制官の声がこの時初めて、想定外の事態に狼狽えた。

 何が起きたのかを理解する前に、更なる異常事態が彼等の目の前に発現する。

 

 遥か彼方より飛来した光線の雨が敵機動兵器たちを一掃していく。

 

 宇宙を泳ぐ鯨のように巨大な敵戦艦の腹をレーザーが突き破る。

 

 飛来した方角には神々しい光の翼を背から伸ばした人型のシルエットと、それに付き従い、別々の色彩を放つ3つの守護星。

 

『何故だ……何故、貴様らが生きている! 貴様らは火星と共に消滅したはずではなかったのか!?』

 

 統制官の口ぶりに先程までの余裕はなかった。それが示すのは二つの事実。

 一つは、侵略者達にとっての脅威がこの場に出現したという事。

 そしてもう一つは、現れた"彼ら"こそ、人類の希望の光であるという事。

 

「俺達人類を甘く見るなって事だ、統制官。貴様らの侵略も此処で終わりだ!」

 

 5つの星を従えた人影は静かに、しかし宇宙全体に響き渡る声で銀河の総支配者を名乗る侵略者へと逆襲する。

 

「ああ、貴様らのような傍迷惑な輩は私達が責任を持ってこの宇宙より焼却処分してくれるとも」

 

 言葉を続けたのは炎を思わせる雰囲気の女性。無重力空間で靡く紅蓮の髪、それに合わせたような真紅の装甲が光を放つと同時にどういう魔法か現れた炎が戦場に破壊の嵐を巻き起こす。

 

「私も同感です。私達の生きる権利を貴方達みたいな傲慢な輩に奪わせてたまるもんですか!」

 

 そして、炎に続くのは一筋の雷光。超新星爆発もかくやという大火力を何とか逃れた敵の機動兵器達を宇宙に咲く炎の花へと変えていく。

 

「だから、もう少しだけがんばろう。皆に私達の力を貸すから、皆も私達に力を貸して」

 

 優しい日溜まりを感じさせる声が、宇宙に一筋の風を吹かせる。それは前へと進むものの背を優しく後押しする追い風であり、同胞達を礼賛する命の息吹。

 活動限界間際であった各所のIS達が息を吹き返す。それだけではない、先程以上の戦闘力を発揮して未来を切り開くために猛っている。

 

『馬鹿な、ありえん……貴様らのような劣等種が……!』

 

 あれほど絶望的であった戦況が、ただの4人の人類の力で覆された。

 それが統制官の心を狂わせる。劣等種の分際で同族達の大事な命を一瞬にしてゴミのように奪った4つの影にその憎悪が向けられる。

 

『劣等種があああああああっ―――――よくもおおおおおおおお!!!!!!!!』

 

 真空を震わせる憤怒の声と共に、侵略者達の母船が真の姿を現す。

 それは宇宙に現れた一つの巨大な巨大龍。

 あらゆるものを喰らい、貪り尽くす意志を感じさせる醜悪な外見。命を喰らうものでありながら、生命の鼓動を感じさせない無機質な甲殻。

 吾等の同族以外は全て無価値、塵屑の命であると断じる彼等は、間違いなく全宇宙に存在する生命の敵である。

 

「黙れ。お前達のように他者を脅かす事しか出来ないような生命は、絶対に存在してはならなないんだ」

 

 あらゆる生物に根源的な恐怖をいだかせるようなその存在と真っ向から対峙し、それでも尚立ち向かうのは一人の青年。

 彼は何処にでも居る一人の学生だった。試験と成績に苦悩し、先の分からない未来に少しの不安を感じてはいたが、それでも充実した日々を過ごしていた。

 彼は元々、戦いに生きるようなん人間ではなかった。平和を、日常を、自分に関わる全ての人を愛していた。大事にしたいと思っていた。

 しかし、彼は正義を愛する心を持っていた。守りたいもののために覚悟を決めるだけの勇気も持っていた。

 彼は愛する日常と平和、そして自分に関わる全ての人の為に覚悟を決め、この場に立っているのだ。

 覚悟の先に立つ者である以上、怖気づいて後戻りする事は誰よりも彼自身が許さない。

 

「俺が終らせてやる。この戦いも、お前達が作ってきた悲劇もな」

 

 彼は鋼の拳を握りしめる。高まる戦意に呼応するように彼の背負う光の翼が輝きを増す。

 それを前にしても、統制官の発する意思は変わらない。

 ああ、なんて愚かなのだろうか。やはり劣等種は劣悪な思考しか持たないらしい。そんな汚らわしいものが吾等と同じ宇宙に住んでいいはずがない。

 その意思を受けた鋼鉄の巨大龍は、眼前の羽虫を潰す為に両翼を広げ、その内側に隠された百を上回る砲門を向ける。

 

『塵も残さずに消滅しろ、人間!!』

 

 圧倒的質量差から来る優位性を感じているのだろう。統制官の声は邪悪な悦びに歪んでいた。

 全ての砲門が唸りを上げる。

 惑星一つならば容易に消し飛ばすだけの火力は全て、人類を守るべく立ち上がった一人の青年に向けられている。

 しかしそれを受けて尚、彼は引く気配を見せない。

 

 何故なら、惑星を破壊するだけの敵を相手にする程度の覚悟はとっくの昔に決めているから。

 

 何故なら、単純な力程度で俺達の心は砕けないから。

 

 迫り来る漆黒の破壊光を前にして、彼は両手で持った機械剣に全ての力を込めていく。注ぎ込んだ力は既に自分の引き出せる限界値を超えていた。

 それはつまり、この場にいる仲間達全ての力が自らへと集められている事の証明。

 

 自分一人で立ち向かっているのではないという実感が、勝利への確信を強くする。

 生きるために、人類の未来を切り開く為に彼は自らが崩れても構わないという最後の覚悟を決め、機械龍へ自ら向かっていく。

 瞬間的に最高速度へと到達し、一筋の流星となる。

 

「行くぞおッ!」  

 

 鋭い決意と凄まじい気勢でそう叫んだ彼の今までの戦いや日常の光景と、大切な友人、家族、恋人たちの笑顔が――――

 

 

 

 ――――盛大なBGMと共にスクリーンに大きく映しだされていた。

 

 

 

 

 

「最後の怒涛の展開には圧倒されたな」

「そうですね。私も思わず唖然としました」

 

 織斑一夏の知人が経営するという食堂へと向かう道中、私達は先程見た映画の感想を話し合っていた。

 思い返すと、確かに最後の流れは怒涛の流れは私も予想外だった。悪い意味で予想外だったという事だが。

 先ほど見た映画だが、私なりの評価をするなら勧善懲悪物としてみるなら良く、戦争映画や成長を描く物語としては不合格といったところだ。

 まず一つ目に主人公が力を得た経緯の描写が足りないこと。先ほど聞いた織斑一夏の感想によると「原作だと最終決戦に至るまでの期間がちゃんと描かれている」らしい。

 そこはストーリーの展開上、外してはならない部分だろうと思うのだが……尺の関係でつめ込まなくてはならなかったのだろうとして不本意ではあるが納得しておく。

 ただし最終決戦でいきなり現れた主人公たちが敵軍を一掃し、敵の統制官の操る巨大戦闘機械をものの数分で破壊してしまったのは、どう理由をつけても納得のできない部分ではあった。その点を指摘してみると織斑一夏も苦笑を返して曖昧な返事を返していたので、彼も似たような事を思っていたらしい。

 まあ、傑作や名作という評価は出来ないが一度見てみる価値はあった。織斑一夏に誘われなければ絶対に見なかったのでその点については良かったといえる。

 

「たぶん、あれだけじゃ絶対に話が全部わからないと思うからなあ……」

「推測できる部分はありましたが、明確な描写が無かったので私も話を理解したとは言えないでしょうね」

 

 私達の出した結論は、原作を読んでいれば楽しめる映画というもの。

 劇場版しか見ていない私は、あの作品の全体から見て極僅かしか楽しめてないという事だ。

 

「そうだ。俺の家に原作もあるから今日行った時に貸してやるよ」

「ありがとうございます、一夏さん」

 

 渡りに船というような織斑一夏からの提案を受ける。今日彼の家に行く事になった事が此処でプラスに作用した。

 楽しめてない部分を補えるのなら私にそれを拒む理由などない。借りずに書店や通信販売で購入しても良いが、それは彼から原作を借りてからでも判断するのには遅くはないだろう。

 

 

 

 

 

 

「よっし、着いたな」

「五反田食堂……日本の大衆食堂というのはこういった雰囲気なのですか?」

 

 五反田食堂、聞いていた通りの店名である。

 外観から感じたのは"周囲を見ても違和感がない"という印象だった。住宅街の中などにレストランや食堂といった建築物があれば目立つ。それを感じないという事は、この五反田食堂が辺り一帯に住んでいる住民の生活に受け入れられているという事だ。

 

「いい雰囲気ですね」

「だろ?」

 

 彼の知り合いが経営しているからなのだろう。私の褒め言葉に織斑一夏は嬉しそうに言って引き戸に手をかけた。

 ガラガラと、車輪がレールの上を滑っていく音を聞きながら彼に続いて店の中へ一歩踏み出す。 

 一般的とはこういうものを言うのだろう。日本の大衆食堂の知識はないが、店の中を見た私はそんな事を思っていた。

 空いているテーブル席へ腰掛ける。壁に掛けられた木板や張り紙が品書きらしい。

 

「おまえ、一夏か?」

 

 五反田食堂名物 業火野菜炒め。勢いのある活字を眺めながら何にするか考えを巡らせていると、一人の男性が織斑一夏の名前を口にした。

 メニューを決める為に動かしていた思考を止めて声のした方を見る。五反田食堂と大きくプリントされているエプロンを着た、彼と同年代と思われる男性が居た。

 

「よう弾、久しぶり……っつっても、直接会うのは一ヶ月ぶりくらいだけどな」

 

 どうやら彼は弾という名前らしい。織斑一夏が気軽に挨拶を返している様子から見るに、ある程度以上に親しい関係にあるようだ。映画を観る前にした話と照らし合わせるに、この弾という青年が中学時代の友人なのだろう。

 

「おう久しぶり、元気してた、か…………」

 

 彼の視線が私を向く。信じられないものを見たように、まるで天変地異の前兆を目の当たりにしたような表情で硬直した。

 

「………………」

「何か?」

「お…………」

 

 呆然とした表情で小さく開かれた口からようやく音が発せられる。しかしそれは意味を成さないただの一言だった。

 ダンという少年の様子から察するに、彼は何らかの異常事態に思考が追いついていない。かれこれ一分ほどの時間を使って、漸く再起動を果たしたダン少年は、織斑一夏へガバっと顔を向ける。

 

「お前、一夏じゃねえな!」

「はァ!?」

 

 伝票を武器のように目前につきつけられた織斑一夏は素っ頓狂な声を上げる。いきなり偽物扱いされたのだから当然だ。

 ダン少年は牽制するように伝票を織斑一夏の鼻先につきつけたまま続ける。

 

「俺の知っている織斑一夏はなぁ……、休日に女の子と二人で繰り出すようなやつじゃねえんだよ!」

 

 彼の言っていることは、私の脳細胞達を総動員しても理解できない内容だった。表情を見ると、彼は完全に錯乱状態にあるという事がわかった。

 そういう状態の人には外界からの強い衝撃で意識を現実に引き戻すのが一番であるのだが……

 

「しかも何だ? 彼女居なくて女性にもモテない歴=年齢の俺に対するあてつけか? 畜生がッッ!」

 

 私は知らない人だし、話の矛先は織斑一夏に向いているようなので私は関わらないでおこう。

 

「俺はだまされないぞ! 騙されないぞお―――――ッ!」

「訳わかんねえこと言って客に絡んでんじゃねえぞ弾! 油売ってねえでとっとと注文持って来いっ!!」

 

 怨嗟の声が五反田食堂内に反響し、落雷のような怒声がそれをかき消すと同時にダン少年の後頭部に黒光する何かが直撃した。

 

「ぐげぇッ!?」

 

 踏み潰された蛙のような悲鳴を上げてダン少年の身体が跳ね上がり、見事に顔面から落下。これは死んだか?

 

「申し訳ありませんお客様、取り乱しました……ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 しかしダン少年はむくりと立ち上がり、先程まで武器のようにしていた伝票を正しく持って注文を聞いてくる。顔面から床に落ちたことで真っ赤になっている顔と、生まれたての子鹿のようにガクガクと震えている脚が痛ましい。

 しかしそれでも倒れないところは、食堂の従業員としてのプロ根性だろう。先程取り乱し錯乱状態にあった時点で台無しではあるが、それを指摘するのは目の前で頑張っている彼が哀れすぎる。

 

「弾……お前……」

 

 織斑一夏も同じ事を考えていたのだろう。目尻にうっすらと涙を浮かべながらダン少年の姿に打ち震えている。

 

「私は業火野菜炒め定食、飲み物は水で結構です」

「俺は天ぷら定食、飲み物は俺も水で」

「かしこまりました。ではごゆるりと……」

 

 注文を伝票に書き記し、ダン少年は綺麗に私達の前から立ち去ろうとする。その間際――

 

「弾……その口調、似合わないぞ」

「うっせえ!! こうでもしねえとやってられないんだよ!」

 

 泣くように言い捨て、ダン少年は厨房の奥へと消えていった。 

 

「すまん、キャロル。普段はあんな奴じゃないんだけどな」

「お構いなく。第一印象がああいう人、というだけですから」

 

 故に織斑一夏が気にする事はなく、それは先程の少年も同じだ。

 第一印象は確かに他人へのイメージを決定する重要な要素となるが、全てではない。先程の彼の態度も、普段からああではないという情報を加えれば"取り乱すと豹変する"という程度に落ち着く。

 

「ああ、うん……そうだな……」

 

 釈然としない様子の織斑一夏に、はてと首を捻る。私は変な事を言っただろうか。

 

「キャロル」

 

 いつになく真摯な織斑一夏の口調に、私も気を引き締める。

 

「弾には……あいつには、それは絶対に言うなよ」

「? 了解しました」

 

 理由の方はよくわからないが、彼の真剣な表情に思わず肯定の返事を返す。

 有無を言わさぬというようなその気迫には、織斑先生に似たものがあった。

 

 

 

 

「濃い目の味付け……しかし、味付けが主役となって自己主張をするのではなく、それはあくまでも野菜の甘味と旨味を更に引き出すための工夫。そして業火という名前の通り、大火力で一気に手早く加熱した事で野菜そのものの食感と、加熱調理を行ったことで得られる柔らかさを高いレベルで融合させている―――――――と、このような感じでよろしかったでしょうか?」

「おー……なんかそれっぽいな。野菜たちのエレクトリカルパレードとか言う表現もありじゃないか?」

「それではまるで、パレードのように幾つもの味が口の中に到来し、そして去っていくさまを現すかのようです。これとそれは違うのではないかと考えます。グルメリポーターという枠組みで考えるのなら、言葉と現実が乖離した表現は不適切かと」

「難しいな……」

「お前ら何やってんだよ……」

 

 正気を取り戻した弾少年は私達のやり取りを見てため息を吐きながらそう言った。店主である彼の祖父から私達がいる間の休憩を頂戴したらしい。料理を運んできた彼は以降、私達と席を共にしている。

 因みに今のやり取りは織斑一夏が五反田食堂に置かれたテレビでやっていたグルメリポート番組のリポーターを見て、私に真似をしてくれと言ってきたからである。

 別に拒む理由もなかったので承諾し、やってみただけである。

 

「んで、お前とキャロルさんは映画を見に来た帰りに昼飯を食べに寄ったってことか?」

「はい」

「そうなるな」

 

 五反田弾の言うとおりである。私は織斑一夏と一緒に映画を見て、その後に昼食を取りにここに来た。

 

「それでこの後は一夏の家に行くと」

「はい」

「おう、その通りだ」

「こいつら……」

 

 五反田弾は、ほとほと呆れ果てたと肩を竦めて大きなため息を吐く。私と織斑一夏は互いに見合わせ、互いに彼の態度の理由が分かっていないという事実を確認する。

 

「お前だって俺の家に来たことあるだろ。キャロルが来るのと何の違いがあるんだ?」

「同感です。私達は外出のついでに一夏さんの家に行くのですが、此処へ来るのと中継点を辿るという意味では途中のコンビニエンスストアに立ち寄るという事と大差ないのでは?」

「俺が間違ってるのか……いや、こいつらがおかしいだけだ、絶対に……」

 

 ぶつぶつと呟きながら五反田弾は眼尻を押さえ、揉んでいる。呟きを拾うと、私達がおかしいなどと言ってくれてはいるが、何もおかしいところはないだろう。

 当事者である私達の互いの認識が食い違っていないのは、織斑一夏の態度と発言から予想がつく。

 

「そんなことよりもさ、高校の方はどうだよ?」

「あ? んなの、中学と大して変わんねーよ。まあ特に仲の良かった友人達はいつの間にかどっかいっちまったけどな」

「悪かったな……だけど俺だって、好きでIS学園に入ったわけじゃないんだぞ」

 

 恐らく、彼等は互いに同じ学校へと進学する約束をしていたのだろう。遠回しに放たれた五反田弾の嫌味に、慣れたもんだと返す織斑一夏。

 二人の会話に私は蚊帳の外だが、静かに食事に専念できるというメリットを享受しているので文句はない。

 

「キャロルさんよ、こいつ学校でどんな生活を送ってんだ? やっぱ、女の子に囲まれてキャーキャー言われてるみたいなハーレム生活?」

「んなわけ有るか、阿呆」

「同年代女子に囲まれているという点で会話を進めるとして、ある意味でその表現は間違っていないでしょうね」

「なんだと……この野郎!」

「うお!? 何するんだよ、弾!」

 

 怨嗟の声と共に放たれた右ストレートを織斑一夏は身を屈めてかわす。

 

「世の男性全ての怨嗟をお前にぶつけたくなった……もう一回行くから今度は避けるなよ」

「いや、訳わかんねえし」

 

 織斑一夏の呟きに内心で同意しながら、サービスと言って渡された烏龍茶を飲む。

 事前に得ていた情報を修正する。五反田弾という少年は随分と愉快な性格しているようだ。

 

「つうかなあ……なんつーか、今日蘭が当番の日じゃなくて本当に良かった。お前達の姿を見たら卒倒しかねない」

「まさか、蘭ちゃん、何か病気にでもかかったのか?」

「ああ……重度な心の病にな」

 

 五反田弾はジトッと湿った目で織斑一夏を見る。織斑一夏はその目つきに気付かず、そのランという人物の事を心配していた。

 

「マジか……学校のほうが落ち着いたら見舞いに行くよ」

「どうせ悪化するだけだから、あんまり気にすんな」

「そ、そうか……」

 

 二人の会話を聞き流しながら私は食後の時間を過ごす。友人同士の会話を邪魔しては悪いので、私はテレビを見ることにした。

 液晶画面の中ではグルメリポーターとゲストが料理の紹介をしている。食後なので惹かれる要素はなく、興味のある内容でもなかった。

 目線をテレビに向けたまま意識のリソースを思考へと割り振る。退屈なので、今後の事を考える事にしたからだ。

 見事に代表へと選出された織斑一夏だが、課題は残っている。

 織斑一夏に施した教育は対セシリア・オルコット、対ブルー・ティアーズにのみ重点をおいた内容である。今回勝つことが出来たのは敵との相性が良かったからだ。彼女は前線ではなく後方で味方を支援するタイプである。

 また、これは試合後に判明したことなのだが、セシリア・オルコットはBT兵器を使用している際は他の行動を一切取る事ができなくなるらしい。

 つまり、彼女と彼女の機体が得意とする戦い方は一対一では殆ど役に立たないという事だ。敵を押しとどめ、彼女を守ることが出来る優秀な前衛が居れば素晴らしい能力を発揮するのだろうが、代表決定戦と代表候補戦は共に一対一の戦いだ。セシリア・オルコットが代表になったとしても、本領の三分の一も発揮できずに終わっていただろう。

 私が語ったのは全て終わってから判明した情報から導き出された結果論にすぎない。長くなったが言いたい事をまとめると、次は今回のようには行かないという事だ。

 織斑一夏は確かに天性の素質を持っているが、まだ初心者の域は抜けていない。戦い方に関しても直感や反射に頼っている部分が多く見られ、少し工夫をするだけで簡単に崩されてしまう。

 経験という土台がしっかりとしていないのは彼に与えられている課題の一つだ。私が彼の面倒を見ている間は、充実させる予定だ。

 

「メールでも言ってたけどやっぱ羨ましいな……だってお前、女子と同室になったんだろ?」

「変な憧れを抱いているようだから言っておくけど、着替えには気を使わなきゃいけないし見たら竹刀で襲い掛かってくるしで結構たいへんだぞ」

「お前は何処の漫画の主人公だ……出会いも豊富なんだろうなあ、妬ましい」

 

 次に、クラス代表戦で戦うことになる各クラスの代表の存在について考える。

 現在、一学年における専用機持ちは一組と四組のみ。

 因みに、一年四組の専用機持ちは私のルームメイトの更識簪だ。情報によると彼女も代表に選ばれてしまったらしいのだが、専用機である"打鉄弐式"の開発は現在も停止中。つまり、専用機が無い状態なので欠席するという噂が濃厚だ。まあ、出場するしろしないにしろ、今回戦う相手ではないのでそれほど気にしなくてもいいだろう。

 例年通りの選出方法で行くと、織斑一夏が今回の代表戦で戦うのは二組の代表らしい。

 一年二組のクラス代表の名前は"ジャンナ・ゴールディング"。随分な自信家で、入学試験では教官を老害と罵ったいう噂がある。

 得意とするのは一撃離脱戦法。専用機持ちでも代表候補生でもないが、試験では教官相手に善戦。結果として測定された適性は"B"との事。

 数値だけを考えるなら、総合的に織斑一夏が有利だ。一撃離脱戦法を取ろうとしても白式の機動力なら追従することが可能。機動性で勝っている上に、敵から近づいてきてくれるというのだから織斑一夏も自分の距離に引き込みやすくなるだろう。

 思っていたよりも障害は少なかった事に肩の力を抜く。

 男二人の様子を見ると、彼等の会話も終わりに近づいてるらしい。今は、次にいつ会うかについての約束をしている。

 

「さてと……キャロル、そろそろ行くか?」

「はい、行きましょうか」

 

 織斑一夏に声を掛けられて立ち上がる。五反田弾も仕事に戻らなければならないようだが、祖父の「ダチくらい見送れ」という言葉で一緒に戸口の外まで見送りをしてくれた。

 料金は奢りではなく、自分が食べた分を自分で払った。その時に、いいタイミングだと思ったので先程の映画館での飲み物とポップコーンの立替分を織斑一夏に返そうとしたのだが断られた。「あれくらい気にするな」という事らしいのだが、私としては何らかの形で返したいのでしっかりと記録しておく。

 

「一夏も、キャロルさんもまた来いよ。爺ちゃんが今度はもっとサービスしてやるってさ」

 

 五反田弾が別れ際に言う。

 

「ありがとうございます、ではまた」

「そりゃ有難いな。楽しみにしてるぜ」

 

 私たちはそれぞれに別れの言葉を告げて五反田食堂を後にする。此処へ来た時と同じように織斑一夏の隣へ行き、案内に従って彼の自宅へと向かう。

 

「そういえば織斑先生は今日は学園に?」

「そうみたいだな。職員会議が入ってるって言ってたよ。今度のクラス代表対抗戦で会議が増えてるってメールで愚痴ってた」

「織斑先生がメールでする愚痴ですか。想像がつきませんね」

 

 どんな文章なのだろう。少し気になるが、織斑先生の名誉という面で内容に関しては触れてはならない気がする。

 

「はは……学園では厳しいけど、私生活では結構だらしなかったりするからな」

 

 それは普段の織斑先生からは考えにくい評価だった。しかし、公私を使い分けるというのは程度に差はあれど、誰でもやっている事だ。私も含めて。なので、大して驚くこともなくすんなりと受け入れられた。

 

「よし到着。ここが俺の家だ」

 

 歩くこと十数分。一軒家の前に到着する。織斑と書かれた表札が掛けられているそこは、間違いなく織斑一夏の自宅である。

 織斑宅は道中で見た住宅街の家と比べ、何ら変わりのない普通の家だった。外観から内部の広さを推測するとだいたい5人は暮らせそうな広さだ。

 

「おじゃまします」

 

 知識から他人の家に入るときの挨拶を引き出し、それに従った行動を取る。

 

「急だったからあんまりもてなせないけど、コーヒーと緑茶どっちがいい?」

「緑茶でおねがいします」

 

 普段だったらコーヒーを飲むのだが、折角だから普段は飲まない緑茶を経験してみることにする。織斑一夏は短く返事を返してくると、台所に立ってお湯を沸かし始める。

 壁にかけられた絵や、窓から庭と思しき場所の芝生を見る。手入れが行き届いているのは織斑千冬か織斑一夏の手によるものだろうか。

 

「良い家ですね。庭も綺麗にされていますし、内装もシンプルなのがまた」

「ありがとう。まあでも、最近帰ってなかったから隅とかは結構埃とかがたまってるんだけどな」

 

 そう言われ、部屋の角やテーブルの脚元などを見てみる。なるほど、意識をしてみればうっすらと溜まっているのが分かる。

 私だったらまだ気にしないレベルなので生活に対する意識の差を見て、彼のそういう所は凄いと思える。同じようにするかどうかは別として、参考にすべき部分は大いにあるだろう。

 

「はい、どうぞ」

 

 湯気と心地良い香りを立てている湯のみが静かな音を立てて置かれる。

 

「ありがとうございます、一夏さん」

「どういたしまして」

 

 感謝の言葉を伝え、湯のみにそっと手を添える。程よい温度、火傷しない熱さで用意されたそれを口元へ運ぶとゆっくりと口にする。

 心地良い僅かな苦味が口の中に広がる。美味しい。コーヒーのようにそれ自体から漂う香りを楽しむのではなく、その味と一緒に風味と香りを感じる事に奥深さがある。

 

「とても美味しいです」

「そりゃ良かった」

 

 感想を聞くと、向かいに座って彼も緑茶を飲み始める。

 

「見たところ手際も良かったですし、慣れているのですか?」

「来客や、間食を食べる時に茶を出すのはもっぱら俺が担当だったからな」

 

 心なしかいつもよりものんびりとした口調で彼は懐かしむように言う。その様子は、まるで日向に当たってまどろんでいる老爺のようであった。そんな雰囲気につられて、こちらも妙にのんびりとした気持ちになってくる。

 織斑一夏にお茶のおかわりを貰い、再びほうと息をつく。

 

「さてと……俺は片付けと荷物まとめるんだけど、キャロルはテレビでも見てゆっくりしててくれ」

 

 私の様子を確認した織斑一夏は立ち上がる。此処に来た彼の目的である掃除と荷物のまとめ作業に移るようだ。

 

「何かお手伝いできる事はありませんか?」

「いや、でも……」

 

 織斑一夏は少し悩むように腕を組む。色々と借りを返したい私は彼の決断を後押しするために言葉を続ける。

 

「駄目でしょうか? 互いに損をする提案ではないと思うのですが」

 

 織斑一夏に与えられた分をそれに見合う何かで返そうという思いは私の都合。単純に私の気持ちの上で安定しないというだけですべきという程重要な物ではない。学園での私であれば、必然性に欠如した行動として何もしなかっただろう。

 しかし今は私の好きなようにする日で、いつものようにという考え方も、従うつもりがないので通じない。今の私は、自分がやりたいからやる。彼を手伝いたい理由があるから手伝おうと言っているのだ。

 

「分かった……じゃあ、掃除機をお願いできるか?」

「了解しました。場所に関連しての指示はありますか?」

「特に無いけど、千冬姉の部屋と俺の部屋は自分でやるからこの部屋と廊下だけにしておいてくれ」

 

 その指示に再度、了解の返事を返す。彼に案内された場所で掃除機を授受。

 ヘッドをパワーノズルに交換する。そして掃除機のコードをコンセントに接続してから電源を確保する。

 行動範囲を確認、コード長である約5mを半径としてその領域内に存在するゴミを対象にした排除行動を開始する。

 

「………………」

 

 フローリングの板目にそって掃除機をかけていく。見落としに気をつけながら埃達を一箇所へと追い詰めるように掃除機をかけていく。

 一階での作業を終えると次は二階の廊下へと移動。電源を探して、見つけたコンセントに電源プラグを差し込んだと同時に近くの部屋から織斑一夏が出てくる。

 

「居たのか。進み具合はどうだ?」

「順調です。追加のオーダーがあれば承りますが、いかが致しましょう?」

 

 作業に終わりが見えてきたので織斑一夏に他にやることはあるかを尋ねておく。しかし彼は少し考えてから、口を開く。

 

「キッチンからゴミ袋を……それも一番の大きいやつを一つ頼む」

「了解しました」

 

 織斑一夏は少し考えてから、私に指示を出す。

 一番大きなゴミ袋が必要という事は余程多くのゴミが出ているのだろうか。織斑一夏の分担は彼の自室と織斑先生の部屋。そのどちらか――いや、織斑一夏が出てきた部屋はそれほどでもなかったように思う。

 つまり、残りの一室が問題だという事になるのだが、それがどちらの部屋なのかは消去法と事前情報から推測。彼が話していた事もあって部屋の主が誰であるかの予想をつけるのはそれほど難しくない作業だった。

 

「それじゃ、また後で」

「健闘をお祈りします」

 

 織斑一夏は残る一室へと消えていく。その時に開かれた扉の僅かな隙間から中を盗み見る。

 

「………………」

 

 それを見て、私は中の様子を表現するのを諦めると自らの作業に戻ることを選択した。

 あれはきっと、誰も知らないほうが良い物だ。

 

 

 

 

「ふぅ~……」

 

 空き缶やビンでいっぱいになったゴミ袋を持った織斑一夏が二階から下りてくる。その表情が疲れたように見えるのは気のせいではあるまい。

 

「どうぞ、一夏さん」

 

 ゴミ袋をキッチンの隅へと置いた彼がリビングに戻ってくると私は彼にお茶を出した。

 さっき彼が淹れている様子を見た記憶で再現したものなので味は保証できないが、飲める程度には収まっていると思う。

 

「ありがとうキャロル……ん、美味いな」

「ありがとうございます」

 

 世辞とはわかっているが、褒められる事に悪い気はしない。

 

「はあ……もう夕方か」

 

 彼による片付けは結局、こんな時間になるまで続いてしまっていた。

 時計の針を見ると長針と短針は時計を半分に切り分けており、それは私達が学園へと戻らなければならない時間であるという事でもあった。

 学園へと戻るモノレールは寮が門限になる時刻まで運行している。門限の時間まではまだ4時間程あるのだが、あと一時間もすれば学食で夕食を取ることはできなくなる。今ならまだ間に合うという時間だ。

 

「よし、そろそろ学園に戻るか」

「了解しました」

 

 織斑一夏学園に戻ろうと言う。私もそれがいいだろうと思うのでソファーから腰を上げる。

 使った湯のみなどの片付けを全て終らせ、持つものを持ってから玄関から外へ出る。春の夕暮れ時、空は朱くは染まらずにまだ青みがかかっている。

 空の色、それ自体は美しくもないが"綺麗"な夕焼け空の思わず目を細めてしまうような眩さもない。美しくもないが、その代わりに見つめ続ける事が出来るその色は私が好きな属性だった。

 

「お、一番星見つけた」 

 

 私につられて空を見始めた織斑一夏が、天上に輝く唯一つの光点を指差した。どうやら空の色を見ているだけでその中にある光を見落としていたらしく、全く気づかなかった。

 

「星か…………そういえば、IS学園にも屋上ってあったよな」

「はい。屋上の有無を聞くなんて、天体観測でもするつもりですか?」

「おう」

 

 星と屋上を関連性で結びつけるとしたら一つしか浮かばない。それが合っているのかを確認しようと思い聞いてみたのだが、私の推測は正しかったらしい。

 

「中学の頃に弾とかと天体観測をやったんだよ。それで、IS学園って結構夜空がよく見えるから、な?」

 

 そこで何故私に同意を求めるのか。彼の提案に、私が否定の返事をする理由が無いことくらい考えればすぐに分かるだろうにと思う。当然ながら私がする返答は「はい」の一つしかない。

 まあ尤も、その前に彼にはやることがある。それは……

 

「織斑先生に許可を取らなければなりませんね」

 

 寮監で、我々の担任でもある織斑先生に夜間の外出許可と学園屋上を使用する許可を貰うという事。

 

「ああ、そうだったな…………」

 

 私の言葉でそれを思い出したらしい。どのようにして許可を得るかについて、頭を悩ませ始めた。

 

「一人だと千冬姉が頷くかわからないから、キャロルも一緒に来てくれないか?」

「私が行っても結果は同じだと思いますが……まあ、良いでしょう」

 

 しばらくして彼の出した答えは私に助力を求めるというもの。

 正直なところ、私が一緒に行った所で何かをできるとは思わないのだが、別に構わない。友人という関係なのだから、それくらいの些事に付き合うのは吝かではない。

 私達は夕から夜へと移りゆく空の下、学園へと向かうための同じ道を進んでいった。




今回で漸く1巻の前半部分が終わりです。
次からは1巻後半部分。次からは箒とセシリアの出番も増やしたい……。
あと、お気に入り件数が500を超え、沢山の感想ありがとうございます。
これからもこの二次創作をよろしくお願いします。
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