女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
すみませんでした、「ぞでぃ☆あっく~輝く12の星座たち~」をやってました。
因みに私のお気に入りはNo5です。砂砲でパシュパシュしてビクンビクンッさせるのが好きです。
一章1
暗い部屋の中、女が笑っていた。
「~~~~♪」
曲になってない適当に音を配置しただけの歌を口ずさむ。その調子は彼女が空間投影されたコンソールを操作する指の動きと同期している。長い電子音が彼女の作業を終えたのだという事を伝える。
「よーし……出来た! この子の事を気に入ってくれるかなぁ……んふふ」
彼女は眼前に鎮座する黒い巨体を見上げる。その巨体は人型というには些かバランスを欠いているが人を模しているものだった。
目と思しきものはあるがそこに光はなく、沈黙しているその姿からは生命らしき鼓動が一切感じられない。
「それじゃあ飛び入り参加の舞踏会。まずはみんなにご挨拶ってことで!」
――起動。
女に見送られ、黒い巨人は研究所より飛び立った。黒い排煙を吐き出しながら向かう目的地は日本―――IS学園。
飛翔――旋回、加速を行い、静止からの急降下。何よりも速く鋭角な機動は生物では有り得ず、それまでの速度を一瞬で殺して静止するのは戦闘機では為し得ない。それを証明するように、空中で一瞬だけ静止した姿は、彼女を見上げる者には鳥と人の融合体のように見えた。
目で追うことすら許されない速度、ハイパーセンサーでやっと知覚できる世界に彼女は居た。ましてやそれが彼女にとっての通常戦闘であるという。敵として対峙した者にとってはたまったものではないだろう。
「っ……」
そして今、彼女と敵として対峙している者は苦虫を噛み潰したような表情で一方的な防戦を強いられている。
彼の名は織斑一夏。世界で唯一ISを起動させる事が可能な男性であり、つい先日にクラス代表としての立場を勝ち取った学生。織斑一夏の駆る機体「白式」は機動性に優れ、また近接戦闘特化という非常に偏った仕様の機体である。白式の得意とするのは高機動を駆使しての近接戦闘。使用者である彼もそれを分かっているのだが――
「掠りもしやがらねえ……!」
今繰り広げている戦闘は高機動での近接格闘戦。自分の得意とする分野でありながらも一方的に攻めこまれ、反撃すら許されない現状。織斑一夏の内心は穏やかではない。どうすればいいという思考は焦りという加速器を受けて空回りし、どうしようもないという結果のみを出し続ける。
その解答を払うように振るった雪片も空を切リ、背後からの無慈悲な蹴撃が彼の機体を揺さぶる。
「がぁっ……!」
コンマ数秒前までは前方から来ていたのに背後から――それに驚く暇は与えられず、敵機撃破を目的とした彼女は次の攻撃行動へと移る。
文字通り空中より地面へと蹴り飛ばされた白式に、あろうことか追い付いてもう一度蹴り落とす。
更なる加速を与えられた白式――織斑一夏は、搭載されているPICによる減速も間に合わず、受け身を取る事さえ出来ないままアリーナの砂地の上にたたきつけられる。ISのシールドによって肉体的損傷はなく衝撃も砂地の地面のおかげで軽減されている。しかし、軽減されたということは彼の受けた影響はゼロではない。そして、その幾分か緩くなったとはいえISの制御を超えた衝撃は、織斑一夏の戦闘状態への復帰をわずかコンマ数秒ながら遅らせる。高機動戦闘に分類されるこの戦いにおいて、そのコンマ数秒は致命的だった。
「参りました……」
流れ作業のように雪片と自らの首に手を当てられた織斑一夏に、もはや為す術は無い。敗北を認め、完膚なきまでに自分を制圧した存在を見上げるしか無かった。
降伏を示す言葉を聞いた彼女――キャロル・オルフィレウスは織斑一夏の上から浮くように離れ、一歩分の距離を開けて地面の上へ降りる。
「制圧完了……怪我などはありませんね?」
そして、つい先程まで容赦なく攻撃を繰り出していた者らしくない、体の状態を心配するような質問を行う。
「問題なし……足とかはちょっと痛むけどな」
「痛みがあり……ですか。では今日はこれくらいで止めておくとしましょう」
「もう少し行けるぞ、俺は」
「痛みというのは肉体からの危険信号です。無視しての戦闘訓練は危険かと」
「それはそうなんだが…………ああ、悔しいくらいお前の言うとおりだ、従う」
返答を聞き、装甲を纏ったままキャロルは判断を下す。キャロルに何も出来ないまま負けてしまったのが悔しいようで少しの反抗をするが、正論を並べた彼女に返す言葉が見つからず諦めて大人しく従った。
従うという言葉を聞くとキャロルは自分達の戦闘終了を見計らって近寄って来た二つの機影へと意識を向ける
「というわけですが、御二方もそれに異論はありませんか?」
「ええ、わたくしは構いませんわ」
一人はセシリア・オルコット。
「……ああ」
そしてもう一人は篠ノ之箒。
前者は上機嫌に、後者はプラスマイナスゼロになるどころかマイナスに偏るほど不機嫌に肯定する。それを見てキャロルは内心でやれやれと嘆息する。そんな態度でも肯定の返事が返ってきたので、次に取る行動を確定させて無言で実行に動く。
キャロル、一夏、箒、セシリアの順に四人はPICを稼働させ、それぞれの機体を操ってアリーナのピットへと帰還する。
帰還した先で専用機持ちである三人は自機を待機形態に戻し、そうでない箒はハンガーへ訓練機の打鉄を鎮座させてからISを降りる。
各自で訓練後のストレッチを済ませるとピットの中央へ集まり、輪を囲むように腰を下ろして話し合いを始める。
「チーム分けですが、戦力を均等にするという目的を重要視するのであれば私とセシリア・オルコットさん、一夏さんと篠ノ之箒さんは別の組みに分けるのが良いかと」
「そうですわね……確かに、わたくしとキャロルさんが組んでは条件が対等ではありませんもの」
「待て! 私がお前達よりも弱いなど――――」
「はあ……お気持ちは分かりますけど、私情は抑えてくださいな」
自分達を放置して進められた決定に箒は抗議の声を上げる。発言こそ実力を下に見られた事に対する物であったが、本意がそことは別に在った。それに気づいたセシリアはある程度の理解を示しながらも諫める。
「だ、だが……!」
「これは訓練で、遊びじゃありませんわ」
「…………」
「篠ノ之箒さん、そこまで拘るというのなら理由を聞かせてください。考慮するに値すると判断すれば反映させます」
なおも反抗しようとする箒をセシリアが諌め、事情があるのならとキャロルが問いかける。彼女の理由――すなわち隠している本意を聞くことはこの場においてある意味最も有効な手段だが、それを見ていたセシリアは表情が引きつりそうになるのを堪える。
「ぐ、ぬぅ…………」
効果は覿面、と言ってもいいだろう。箒の本意とは一夏と一緒に肩を並べて戦いたいというもの。ぶつかり合って鎬を削り合い、共に高め合うのも彼女にとっては非常に魅力的ではあるのだが、そこには"二人きり"でという前提がつく。彼女の抱く気持ちで最も強いのは、恋の相手である織斑一夏と"二人"で何かをしたいというものだ。
だがやはり、この質問は場が悪い。何故なら此処には箒が恋をしている真っ最中の一夏が居るのだ。本人を目の前にして箒が堂々と答えれるわけがない。故に箒は、そんな禁じ手を使ってきたキャロルを睨む以上の抵抗は出来なかった。まあ、言えたとしてもキャロルがそれを受け入れたかは別の話なのだが。
何にせよ、今回は箒が理由を言わなかったので言ったらどういう結果になるのかは闇の中だ。
「なあキャロル、俺の方から要望があるんだが聞いてもらっても良いか?」
「どうぞ」
……と、女三人がそんな事をしている間無言で何かを考えていた織斑一夏が此処で話に入ってくる。この場を取り仕切っているキャロルは、彼から訓練内容への要望が出されることは滅多に無いので耳を傾ける。
「俺とキャロルは別にしてほしい」
「理由を」
「俺は格闘特化、セシリアは射撃特化。つまり、お互いがやることがはっきりしている方が合わせやすいだろう?」
その言葉を受けたキャロルは少し考える素振りを見せ、それから無言で眼鏡の奥の瞳を向ける。レンズ越しに自らの思考を見透かされた気分になった一夏は肩を竦め、溜息と共に自分の本当の理由を告げる。
「……っていうのは建前で、何も出来ずにキャロルに負けたのが悔しいから次は勝つ」
「成程、そういう事情でしたら。では私と篠ノ之箒さん、一夏さんとセシリア・オルコットさんの組み合わせでよろしいですか?」
先程したのと同じような問いを投げられた二人は各々の反応を示す。
「ええ、ありませんわ」
若干複雑そうな表情で異論は無いと答えるセシリア・オルコット。
「異論はない……」
先程の20割増しで不機嫌オーラを放出させている篠ノ之箒。
態度では共に含む所がありそうな彼女らではあるが、表立った反論が無いのだから後から文句を言おうとも遅い。決める時に意見をしないのであれば、後から言われても基本的には考慮しないのがキャロルのやり方である。基本的な行動方針であるため、状況の変化やより適した手段が見つかった時は、現状を生かしつつそれに適応する手段を取る。
「では、今日はこれで終わりにしましょうか。互いに打ち合わせなども必要でしょうし」
キャロルはその言葉で締めくくり、この場の解散を告げる。
それぞれが、一時とはいえ互いのパートナーとなる者へと意識を向ける。
「では篠ノ之箒さん。よろしくお願いします」
「ああ……」
一時とはいえ戦闘で肩を並べる相手なのだから行動に支障のないようにある程度の関係を築く。キャロルの考えていたのはそんなところなのだが、今までの印象もあって警戒心を強めている箒からの反応はよろしくなかった。
セシリア・オルコットと織斑一夏、篠ノ之箒とキャロル・オルフィレウス。奇妙な組み合わせが誕生したとして暫くの間一年一組を騒がせるのだが、それはまた少し先の話になる。
夜。宵闇が空を支配する時間。
すっかり暗くなってしまったと内心で思いながら、キャロルは歩みを進めていた。
彼女がは夜間の外出を行なっているのは個人的な用事があるからだった。その用事というのは、彼女の所属している放送委員会の仕事だ。放送部とは違い、裏方の機材の点検がメインである彼女らの仕事は主に放課後に行われることが多かった。因みにこの委員会、裏方であるためスポットライトも当たることはなく、所属する人間は非常に少ないし知名度はそれ以上に低い。過去に二年間放送部に所属していたにもかかわらず放送委員会の存在を知らなかった生徒も居るとか。
IS学園における委員会とは基本的にボランティア活動のようなもので、必要だと思った生徒達が自主的に集まってやっている活動だ。誰かに言われた訳でもないから、誰かが見向きをすることも少ない。個人個人が好き勝手に世話を焼いているようなものだから当然だろう。あれば便利、という評価が関の山である。中にはそれについて不平を言うものも出てきそうなものだが、そう言った輩は自分から活動から離れていくものだ。残るのは行動自体に自らの内で何らかの価値を見出している人間だけ。そして評価を求めないから知名度は上がることがないまま活動を行う。つまり、内部で完結しているのだ。
そんな事を考えていると目的地に到着する。私が目指していたのは第二アリーナ、今度のクラス代表戦で一年生が使用する会場だ。
どうやら事前に通信機器関連のメンテナンスを行うようにという学園側からの依頼があり、放送委員会からキャロルが派遣された。依頼内容には夜間に済ませてほしいという妙な注文まで付いていたが、頼まれた以上はやるのが彼女らだ。変な注文だと思うもそれ以上はない――のだが、キャロルの直感は裏があると告げていた。
「しかし、新入生にこんな仕事を割り振るとは…………」
最低限の、夜道を歩く程度の警戒を行いながら第二アリーナの通信室へ入り、機材の確認やメンテナンスを行いながらそう呟く。自分の能力的には何も問題ない。学園設備の修復"程度"なら授業を聞きながらでも出来る。能力の確認は所属願いを届け、受理された時に済ませているから能力的には問題のない分担なのだが、行事で実際に使われる施設設備の点検というのは委員会の新入りに割り振る仕事ではない。
「まあ、それも貴女の手回しの一つだというのならば説明がつきます」
今手をつけている機材への作業が一段落着くところまで来ると手を止め、キャロルは一人の筈の空間でよくわからないことを呟く。その言葉には妙な確信と、問い詰めるような響きが含まれていた。
夜間のアリーナの通信室、普通であればこんな所に人が居るはずも無いが、しかし―――
「何時から気付いていたの?」
元より彼女が此処に来ている事が普通ではない。ならば、彼女の言葉に応じる誰かが居ても可笑しくはない。
部屋の暗闇から、ゆらりと姿を表したのは更識楯無。キャロルもある程度の資料と情報を得ていて、この学園では知らない人は居ないであろうという人物だった。
彼女は笑みを浮かべる口元を隠すように扇子を展開。扇の部分には驚嘆と書かれているが、態度からはそんなものを微塵も感じさせない。それが若干ながらキャロルの警戒心を沸き起こらせた。
「生徒会長殿、私は貴女の監視が及ぶような行動は一切取っていなかったと考えているのですが?」
「という事は私に監視されないように意識して居たってこと?」
クスクスと楽しげな笑い声を漏らして更識楯無はキャロルを見つめる。その目はチェシャ猫のように細められ、反応を楽しんでいるのが分かる。
「…………」
だがキャロルは言葉を返さず、無言で歩み寄る。コツコツと時計のようなリズムで刻まれる歩みに乱れはなく、キャロルの雰囲気からは一切の殺気や敵意が感じられない。だがその程度、暗殺者や暗部に所属するものであれば容易に為せる。
故に、楯無は此処で自分に手を出す気か――可能性は極めて低いがゼロではない。一切の揺らぎが無いキャロルの姿に言い知れぬ不気味さを感じた楯無は僅かに気を引き締める。
キャロルと楯無の距離が詰まる。互いに手を伸ばせば容易に急所を突くことが可能で、それを分かっているからこそ膠着状態が生まれる。先に動けばカウンターを繰り出されて負けるからだ。
時間にすれば数秒見つめ合い、先の動いたのはキャロルだった。
徐に上げられた手は十分に目で追える程度の速さしかない。故に、そこへの警戒が楯無の身体をわずか一瞬だけ固めさせる。
自らの失態に気づいた楯無は、咄嗟に身構えようとするが、キャロルの腕は既に彼女の頬に触れるかの距離までまで迫っていて――
「気が利かない人ですね……」
平坦な口調で紡がれた言葉と共に楯無の顔を通りすぎて、彼女の後ろにあった室内灯のスイッチを入れていた。
「は、え……ああ、ごめんなさい」
自分の勘違いと空回り、状況を正しく理解した楯無は普段は絶対に店ない狼狽っぷりをでキャロルに謝る。
その姿を見てもキャロルの表情に一切の変化はない。明るくなった室内で別の機材へと手をつけ始めている彼女はまるで楯無など居ないかのように振舞っていた。
「あのー……」
「要件があるなら話してください」
取り残された気分になった楯無は引き気味にキャロルへ話しかける。先も言ったが、この程度は片手間で済ませることが出来る作業なのだ。本来ならば重要人物である更識楯無に対しての意識を向けることが正しい選択なのかもしれないが、彼女の中での優先順位はギリギリで委員会の仕事が勝っていた。
キャロルは関わりの少ない人間には、基本的に鏡のような対応をする。普通に接してきた人間には普通に接する。逆に、ろくでもない奴にはろくでもない対応をするということだ。
そして、彼女の中では夜間に仕事を入れるように根回しして自分を監視、もしくはそれに類すると疑われかねない接し方をしてきた人間は普通というカテゴリには分類されなかった。
「はあ……分かったわ。私が此処に貴女が来るように仕向けたのは聞きたかった事があったのよね」
「どんなことです?」
作業の手は止めず意識も眼前の機械へと向けたまま、思考のリソースの一部を楯無に向けながら口を動かす。それを見て器用な奴だと楯無は内心でぼやいてから言葉を続けた。
「貴女の所属のことよ。調べさせてもらったけど入学時の資料にも所属する組織にも企業、貴女のクラスの人にも聞いてみれば企業所属。一見して有りそうなプロフィールだから見落としてたけど考えてみれば可笑しいのよ」
「と、言いますと?」
キャロルの態度に変化はない。それは彼女のバレるはずがないという自信からか、それとも彼女が無罪であるからか。楯無はそれを見定めるために、自分の推察を話していく。
「企業という組織の規模は単体では国家とは比べ物にならないほど小さい。そして、ISのコアの数は基本的に国家もしくは組織の規模に比例して割り振られている」
それはIS学園に通うもの、更にいうとISの関係者であれば常識だ。
ISという物自体が未完成であり研究段階の技術。ならば規模の大きな国家に多く割り振ることで研究を進めてもらい、小国は大国のもたらす技術進歩の恩恵を享受する。
言ったとおり、企業という組織の規模は国家に比べれば極めて小さい。そして国家から支援を受けている都合から一定の成果を上げ続けなければコアを没収され、最悪倒産する。故に、自由にさせておくようなコアは原則として存在しない。
「国際委員会のデータベースものぞかせてもらったわ。登録されている操縦者にオルフィレウスとブラックバードなんて名前はなかった」
そこを怪しんだ更識楯無は彼女について調べた。結果は何もわからず仕舞い。更識の情報網をもってしても掴むことの出来なかった存在。だから、今の楯無には本人に直接聞くことしか手立ては残っていなかった。
「貴女は何者なの?」
前置きを終わりにして、楯無はいつもの迂遠な態度や思わせぶりな言動をやめて直球で尋ねる。口元を隠すのを止めた楯無は、状況によってはISを展開する覚悟さえも決め、眼前の不明瞭な存在へと敵意を向ける。訓練を受けた軍人であっても怯ませるような圧力を持ったそれを受けるキャロルは、しかし何の反応も見せずに世間話をするように対応していた。
「知ることが出来なかったというのであれば、貴女にはその質問をする権限が無いということ」
いつのまにか作業をする手を止めていたキャロルは言葉を続ける。
「我々は企業。お答えできるのはそれだけです」
「我々? 他にも居るということかしら?」
「貴女には質問をする権限が無いと言ったはずです」
楯無に返されるのは、徹底した秘匿の姿勢。それは操作に対してエラーを返す機械のようでもあったが、機械とは違うのはキャロルが感情を持った人間であるということだ。通常であれば何処かに付け入る隙もあるはずなのだが――――
「駄目ね……」
キャロルには見事なまでにそれが無かった。楯無は彼女への追求を諦めることにし、別の手段による対処を行うことを決める。
その対処というのはすなわち彼女を監視し、何らかの行動を起こしたら即座に対応するというもの。キャロルもそうされることはすでに想定の内であるらしく、どうぞご自由にといった対応だ。
「そうだ、一ついい忘れていた事があります」
「何かしら?」
と、此処でキャロルが楯無へと話しかけ、楯無はそれに反応を示す。今まで答えることは無いという態度を徹底していたのだから言い忘れるも何も無いだろうと思いながら見つめる。
「私は、一夏さんへの害と為る予定はありません」
「学園ではなく個人にと?」
「はい」
キャロルは楯無の言葉を迷わずに肯定、そして言葉を続ける。
「彼がIS学園に所属する限り、IS学園という組織に害を為すような意思はありません。その点のみは信じていただければ幸いです」
織斑一夏の所属する組織であるなら自分は敵対しない。この場において初めて伝えられたキャロル本人の意思。
何も答えるつもりはない。しかし害を及ぼす気はないのは信じてほしい。都合の良すぎる話だと笑われてしまう内容だが、キャロルはそれを本気で言っていた。
「信じられないわ。信じろと言う怪しい人ほど裏切るもの」
「そうですか、残念です」
それは真実、キャロルが本気で口にした発言だった。しかし、当然ながら学園の防衛を担っている楯無には受け入れられるはずもない。
「貴女が何かしたら、すぐに手を打てるようにしておくから」
つまり、お前のことは常に監視しているからなという事のアピール。牽制の意味も含まれているそれは、キャロルの行動を阻害するものではなかった。楯無なりに譲歩したというわけではなく、表立ったことよりも陰ながらの行動を得意とする更識なりの判断である。
「あ、そうそう」
しばらくして、思い出したような口調で楯無がキャロルに話しかけた。
「代表戦、頑張ってって織斑くんに伝えておいて」
先程までの話題とは方向が真逆に近いほど違う内容。楯無は別に何も考えずに言っているが、言われたキャロルから見ると一つ思うところがあった。
「訓練中になにか企んでるような言い方ですね」
「あら、そんな事は無いわよ」
どういう手品なのか、一度閉じて再び開かれた扇子の扇には無実と書かれていた。開かれた扇によって口元は隠され、真意を予測することは難しい。キャロルはそれをつまらなそうに見ると此処で思ったことを問いかける。
「その程度の事、私を介さなくても自分で言えば良いのでは?」
「ふっふっふ……今はまだ会長さんが織斑くんの前に姿を現す時ではないのだよ」
何を企んでるのやら、怪しい笑みを浮かべるIS学園生徒会長を見てキャロルは内心でそう呟きながら操作パネルを閉じた。
「そうですか。では、伝えておきます」
キャロルが返事をする頃、既に更識楯無の姿はその場からなくなっていた。
霧のように、掴みどころの無い実体こそが彼女。それを考えて、更識楯無の在り方では分かり合える人間は少ないのだろうと思っていた。キャロル自身も大概な在り方を作っているが、それはそれである。
「そんな事だから……いえ、止めておきましょうか」
こんな夜間に仕事を入れられた事とその理由が自分とこんな実のない話をするためであった事への意趣返しにと、キャロルはそう呟こうとするが止める。普段の在り方に戻るべくキャロルは未だに自分を見ている存在が居ることを気にせずに自分のやるべき事を遂行する。仕組んだ者が居たとしても、自分の置いている立場に与えられた仕事という時点でそれを果たすことに何の変化もない。彼女は慣れた手つきで正確に作業をしていく。
そこでふと、どうして意趣返しの皮肉などという自分に似合わない行動をしようとしたのかの理由を考えて、答えに辿り着く。
「だいぶ、毒されているという訳でしょうか」
毒されている――負の捉え方のほうが強いような言い方をしながら彼女の口元は苦笑の笑みを作っていた。不可思議なことにそこに嫌悪というような悪感情はない。むしろ楽しんでいるようにさえ見えるだろう。
そんな表情をしていたのも一瞬、キャロル・オルフィレウスへと戻った彼女は最後の業務を果たすべく報告書の作成を開始した。
「これで終わり。業務は完了、と」
報告書の作成にそれ程の時間はかからなかった。単に異常なしという言葉を並べておくだけの簡単な仕事だったのでそれも当然だが。
最後の業務を終えた私は第二アリーナを後にする。施錠と戸締りを済ませ、来た時と同じように電灯の照らす夜道を一人で歩く。
既に時計の針は寮の門限を過ぎているのを表しており、事前に届出を出しておいた事が幸いしたと再認識。因みに、IS学園寮の寮則の一項目に、考慮すべき事情なくして寮の門限を破った者への罰則を与えるというものがある。入学してから一週間程の間は守らない生徒も多かったようだが、今ではそんな事を考える生徒は一人としていない。それというのも、一年生の寮監は言わずと知れた織斑千冬。彼女は規則を破る者に対してとても重い罰則を与える事で有名だ。聞いた所によると、彼女の与える罰則というのは門限を破った人物に限定して門限を早める。その状態から更に門限を破った場合はもっと早める。以下、繰り返しというような内容だ。厳重な監視体制も敷かれるというのだからこれを打ち破ることは現実として不可能。結果として、今では門限を破る生徒は一人もいなくなった。
そういう経緯から人っ子一人居ない夜道を通って学生寮へと向かっている途中、とぼとぼと歩いている人影を見つけた。その特徴的な髪色は私が毎日目にしているもので、また彼女の背負っている雰囲気からは負のオーラを感じられた。
彼女も私の気配に気づいたのだろう。私の方を振り向いて、その常に俯きがちな顔に驚愕の色を多分に含ませて目を円くしている。
相部屋という以外に接点が無く普段から世間話さえもしないような私達だったが、この場でいつものように不干渉を通すという選択肢は無かった。それは、いつものようにするのは少々気まずいという単純な理由からだった。
「こんばんは」
「……こんばんは」
最低限の挨拶だけは済ませておこうという考えの下、互いに夜の挨拶を交わす。後ほど部屋で会うというのを考えると些か奇妙なやり取りだが、これ以上の事をする気も無いのでそれで終わりである。
「では、私はこれで」
「ま、待って……!」
そう考えて居たのは私だけだったようで、そのままさっさと寮へ向かおうとしたところを更識簪に呼び止められた。
それを無視する理由も無いので、何の用かという意志を込めた視線を送り、彼女の返答を待つ。
「あの……あなたも、今日は遅いの……?」
「そんなところです」
見れば分かるでしょうにとは言わないでおく。私の肯定の返事を聞いた更識簪は安堵したような表情、理由は不明。
「だったら……」
そこで一度言葉を区切ッタ更識簪は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、私を上目遣いと呼ばれるやり方で見上げる。
「一緒に寮まで行かない……?」
「構いません」
理由は分からない。ただし、拒否する理由が無いので私はそれを受け入れることにする。相部屋なので、最低限の付き合いをしておくのも大事だと考えたのもある。
「…………」
そんな理由なので寮に向かう間も互いに無言。
元々、私達が出会った場所と学生寮に距離があったわけではないので数分程の時間で寮に到着する。
「あ…………」
学生寮に到着した私達は、その前に佇む人物を見て更識簪が声を漏らす。
「随分と遅いお帰りだな。オルフィレウスに更識」
寮の入り口を閉ざす番人として、織斑千冬がそこに立ちはだかっていた。私達の姿を確認した織斑先生は、整った容姿の口元に獰猛とも言える笑みを浮かべながら
「夜分のお勤めご苦労さまです、織斑先生」
彼女の雰囲気に呑まれたのか、更識簪は私の背に隠れてしまっていた。身長差的に差がないのであまり隠れられていないのだが。自分の後ろで織斑先生から隠れているつもりの更識簪の存在を意識して、これが彼女の言っていた対策なのだろうかと考えるが即座に違うだろうと断定。更識楯無との関係は良くないというのは確定情報として得ている。それがダミーだという可能性もあるのだが、いくらなんでもタイミングが良すぎる。逆にこれもタイミングが良すぎるとして疑いを掛けても構わないのだが、そんな事をして
いたらキリがない。なので、彼女は裏がないという仮定をする。
「オルフィレウスは届出が出されているな、行っていい」
私の方を見て織斑先生は行ってよしと頷き、次に私の後ろへと視線を送る。
「更識簪。貴様は何故門限を破った? 理由があるなら言ってみろ」
「そ、それは…………」
織斑先生の強い口調と威圧感に萎縮した様子の更識簪。彼女は口ごもって、理由を口にする様子は一向にない。
因みに私が此処に残っている理由は、更識簪が私の制服の裾を掴んで離さないおかげで立ち去る事が出来ないのだ。
「ほう……」
それを見て、織斑先生は面白そうに目を細めて声を漏らした。猛烈に嫌な予感を感じながら「織斑先生もこういう表情をするのか」と、のんきな事を考えていた。
「オルフィレウス。何か事情を知っているのなら答えろ」
「何故私に?」
「お前達は同室だ。それに現にこうして同時に帰って来ている、ならば状況を知る者であると考えるのは妥当ではないのか?」
ニヤリと不敵な笑いを浮かべている織斑先生の言った事は確かに理屈が通っているが、私は今回の件について
「知りませんよ。私と彼女は相部屋以上の関係ではないので」
「ほう……そうなのか、更識?」
コクリと、更識簪は織斑先生の言葉に頷いた。織斑先生は腕を組んで少し考えるような素振りを見せ、たっぷり十数秒の時間を使ってからどのような処分を下すか決めたようだった。
「まず更識簪。今回は厳重注意処分で済ましておくが、次はないぞ」
「は……はい……」
まず、とはどういう意味だろうか。私は
「次にオルフィレウスだが――」
「何故私も処分を下されるのでしょうか?」
処分を織斑先生が言い切る前に割り込んで説明の要求をする。割り込んだのは少々品が無いと思うが、織斑先生が説明を省略しているのだから文句は言わせない。
「お前の場合は別件での寮則違反だ。寮則第九項を言ってみろ」
「ルームメイトの困難には進んで協力すること。まるで織斑先生は彼女の事情を知っていたかのように聞こえますが」
頭の中から情報を引き出し、織斑先生の指示に従い第九項の文面を口に出す。
私は更識簪が困難に面しているのを知らなかった。必要以上に関わるつもりがなかったというのが理由だが、それは我々の勝手な事情。客観的に見ればそれが通用しないことくらいは理解しているが、可能であれば面倒事を回避したかったのでせめてもの抵抗にと織斑先生に遠回しに言葉を繰り出してみる。
「寮の生徒の状況を把握していない寮監が何処に居る。お前は阿呆か」
だが、そんな試みも堂々とした態度で叩き落された。こうまで言われると逆に言い返す気も起きなくなるというもので、背後に感じる更識簪の雰囲気も苦笑している用に感じられた。
分かりきっていたことだったが、これ以上の反抗は無駄であると悟って、出来る限り大きな溜息を吐くことで気持ちに片を付ける。
「……つまり、同室の生徒の状況を把握していないお前が悪いと、そういうことでしょうか?」
「早い話がそういうことだ。理解が早くて助かるよ、オルフィレウス」
反抗しても良いが従え、入学初日に織斑先生の言った事をぼんやりと思い出す。彼女は反抗し続けたとしても最終的には従わせるのだろうが。
「了解しました。それがルームメイトとしての義務であるというのであれば、全うするのみです」
「え……あの……」
私が答えると背中から声が出てくる。戸惑ったような声はこの話し合いで置いてきぼりを食らっている更識簪のものであった。織斑先生はおずおずと私の背中から顔を出している更識簪にとても笑顔を向ける。
「良かったな更識。オルフィレウスが全力でお前をサポートしてくれるらしい」
「あ、いえ……だから……」
「遠慮などはするな。ほら、こいつも望む所だと言っている。他人からの好意は素直に受け取ったほうが身のためだぞ」
途中から押し売りセールスの脅しになってると思う。そして私は好意を持って織斑先生の処分に従うわけではないのだが、それを言ったら矛先が私に向くので胸の内に秘めておく。
「でも……これは私の問題ですし……」
「更識。自分の問題だと言い張るのならば一度もミスをするな。今日貴様が門限を破るという失態を犯した時点でこの問題はその場に居た我々の間で共有されたものになっている。これは既にお前だけの問題ではない、分かるか?」
「…………」
更識簪は無言を返す。私越しに更識簪と見つめ合っている織斑先生は溜息を吐いた。やれやれと頭を振っている表情が、私にはすり減り、くたびれた刃物のように見えていた。
「所詮人が一人で出来る事など限られている。他より多く出来て全能感に浸っている奴もいるが、そんなもの思春期のはしかだ。妄想程度に収めておかなければ馬鹿を見るぞ」
「世界最強(あなた)が言っても、説得力がない…………」
更識簪の言葉は、客観的に見れば誰しもが思うことであろうと理解できる。世界最強の称号を獲得し、現役を引退して尚その影を全世界の人間に強く焼き付けている織斑千冬。やろうと思えば何でも出来る存在のくせに個人の限界を諭すな、と。
故に思うのだ。彼女の言葉が痛いほど理解できる私はどういう分類に入るのだろうか、と。
異常者であるか平常者か、恐らくは後者。私は普通の人間である。個性という差異はあってもそれは計算結果の誤差程度でしかなく、結局のところは社会を構成する枠組みに含まれた単一にすぎないのだと。そうして自己完結した証明は、誰の保証を得るでもなく私の中の固定概念として定着する。
「貴様らはまだ若いからな。理解出来んかもしれないが、成長するというのはそういうことだ。自分の限界を知るのが成長の第一段階ということ、それを忘れるな」
「…………」
故に、私の心情に変化はなかった。この会話の前後を通して考える内容こそあれ、結論は全て私の中で出されているものばかり。結論の出ている問題をいくら考えても返されるのは同じ解答だけ。
「話は終わりでしょうか?」
以上から此処で時間を使っても私は得るものがないと判断する。私の背から顔を出して織斑先生を見ている更識簪の様子を見るに、彼女もこの会話においてこれ以上何かを得る事はできないだろう。織斑先生に話の終わりを問いかけという形式で催促する。
「説教はこれくらいだ。私の言ったこともいずれ分かるだろうさ」
「…………」
「おやすみなさい、織斑先生」
「よく寝ろよ、お前達」
催促が受け入れられると織斑先生へ会釈程度に一礼。更識簪は織斑先生を睨むように見上げながら私の背中に張り付いている。
「更識簪さん」
私の呼びかけにも更識簪は無言を返し、しばらくしてようやく私の背中から離れてくれた。ふっと背中が軽くなるのを感じると、私は足を再び動かし寮内の自室へ向けた移動を開始する。
「ねえ……一つ、いい……?」
「何です?」
寮の廊下を移動していく途中、いつの間にか隣まで来て並ぶように歩いていた更識簪が見上げてくる。
「私……サポートなんて、要らないから……」
「つまり一人で出来ると?」
更識簪は頷く。どうやら大層な頑固者らしく、この問題について他者が関わるという事を断固として拒みたいらしい。しかし、こちらにも立場というものがある。織斑先生が彼女を厳重注意処分程度に収めたのは何らかの事情があっての事であり、私はそれに介入しろと命じられた。織斑一夏の訓練に篠ノ之箒との連携、やることがただでさえ多いというのに此処で追加されるのは迷惑だし、それを無視出来るのならばしたい。したいのだが、織斑先生の命令は絶対というのが一組の不文律である。
「では事情を聞きましょう。貴女が今何をしているのか、それを聞いた上で判断します。織斑先生が言われた通り、私を巻き込んだ時点で貴女だけの問題ではありません」
「……分かった。話だけなら、する……」
仕方なくといった様子で頷いた更識簪を見て、私が彼女とかかわり合いを持つ原因となったのが彼女の姉だったのを思い出す。
「姉妹同士、変な所で似てるんですかね……」
今日の夜は彼女らに振り回されたのを思い出し、つい言葉を漏らす。
幸いにもそれは更識簪には聞こえなかったらしく、彼女はベッドに倒れこんでピクリとも動かずに居た。自分からベッドに飛び込んでいったので倒れたというわけではないだろうから心配はしない。
「一応、寝ないでくださいよ?」
「わかってる……」
今から話をしようと思っているので此処で寝て逃げられないように予め手を打っておく。
不服そうな返答があったので先手を打っておいて良かったと内心で自分を評価しながら話の途中で飲む紅茶の用意をする。
出来栄えはよし、学園に来た当初と比べていい具合に紅茶を淹れられるようになったと思い、それをテーブルへと運ぶ。
私の動きに気づいた更識簪もベッドから起き上がり、自分の側の椅子へと腰を下ろして私を待つ。一歩ごとに厄介事へ近づいていくのを感じながら、私は自分の能力で処理出来る内容であるようにと、淡く願っていた。
※後書きと言う名の説明
・当二次創作における更識簪は、まだ学園の行事がこなされてないという事もあってまだ織斑一夏に対してそこまでの悪感情は抱いてない設定です。あと怖がり
・初登場で黒幕臭ぷんぷんだったあの人は皆好きだよね、私も好きです
・楯無はキャロりんから漂う刺客臭に目を付けてます
こんな感じです。
第一章は1巻の後半部分にあたるわけですが、此処から展開も原作とは違ってきます。拙いストーリーになるかとおもいますが、読んでいただければ幸いです。