女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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一章3

「オルフィレウスさん、ちょっとよろしくって?」

「何でしょうか」

 

 私がセシリア・オルコットに呼び出されたのは、今日の授業が全て終了した後の事だった。

 織斑一夏ではなく、私だけに用があるというのは少々珍しい事だ。入学当初の織斑一夏への心象を問われた時くらいのものではなかっただろうか。此処では話しにくいという彼女に連れられて、私たちは廊下の隅へ行く。

 

「箒さんと何かあったりしませんでした?」

「私が、何故?」

「昼食時に早退すると言った彼女の表情、やはり引っ掛かりますの」

 

 確かに、あれだけ口論した後で急に気分が悪くなったというのは少し引っかかる部分がある。

 

そして眼前の彼女は何か確信を持っているような表情さえ浮かべている。

 私に聞くまでも無く彼女は何らかの結論を出しており、この会話は単純な確認作業とでもいうのか。腹を明かさない彼女に「何が引っかかるのか」と問うも「いえ、別に」とはぐらかされてしまった。

 思わせぶりな態度の裏では何を考えているのやら。私は彼女にそれとなく探りを入れてみるが、のらりくらりとかわされる。それだけならば良いのだが、何かをやらせたいらしく期待するような視線をこちらに送ってきている。

 埒があかない。彼女の思惑で動くことは本意では無いが、状況を変える為の一手として私から切り出す他あるまい。

 

「セシリア・オルコットさん」

「何かしら?」

「"一夏さんの訓練に関して"、提案があるようなら仰ってください」

 

 我が意を得たりと微笑むセシリア・オルコット。

 

「では僭越ながら……今日の訓練、パートナー同士の物にしませんこと?」

「別に、私は構いませんが……」

「では、決まりですわね!」

 

 いちいち面倒なことをさせるなという思いを込めてセシリア・オルコットに視線を送るが、柳に風と受け流される。

 彼女の言いたいことはつまり「篠ノ之箒がおかしいのは貴女が原因だから、貴女が解決しろ」という事なのだろう。だが、決まりだと言って上品に笑うセシリア・オルコットの顔は別の目的もあると言っているが。

 

「篠ノ之箒さんが私を嫌っているのは御存知でしょうに……」

「そう言わないでくださいな。パートナー同士で手を取り合うのは大事ですわよ?」

 

  そう言って笑うセシリア・オルコットはとても良い感じの笑顔を浮かべている。

 織斑一夏との時間を絶対に取りたいというわけでもないのだ。だから、織斑一夏の今日の訓練を任せて篠ノ之箒の問題に首を突っ込む事に対しても、問題といえるような問題はない。

 一日だけでも、私が引き受けたことを他人に任せる事に無責任さを感じる。その分も合わせて、明日の訓練は少しだけ密度を上げたものにしよう。

 

「それに、そうした方が良い結果になると思うのです」

「そうですか」

 

 付け加えるように続けられた言葉。何が本音で、建前は何なのか。それは、私にはどうでも良い事だった。

 

 

 

 

 

 そんな会話があったのが少し前の事。提案を却下するだけの理由もない私は今現在、篠ノ之箒を探しているのだが見つからない。

 1025号室、学食、トイレ、保健室―――学園内の施設を回ってみたが篠ノ之箒の影さえも見当たらない。

 織斑一夏に連絡先を聞き出そうと思って電話をかけたが、既にセシリア・オルコットと訓練中のようで応答はない。そうなると私は独力で彼女の居場所を考える必要があるということで、彼女が行きそうな場所を再び洗い出す。

 

「そうなると、やはり後は一つでしょうか……」

 

 彼女の所属している剣道部の道場。体調不良を理由に早退したというので候補から除外していた場所だ。セシリア・オルコットにパートナー同士の訓練と言われた時点で、彼女が本当に体調不良ではないと思ってはいたが。

 彼女が虚偽申告を行ったにしろ、それで私が被害を被るという訳でもあるまい。故に、気にする必要はない。

 何にせよ篠ノ之箒がそこにいるかもしれない可能性があるのだから、足を運んでみる価値はあるだろう。

 

 

 結果は、当たりだった。

 剣道場の隅で黙々と素振り用の木刀を振り続ける姿は、一心不乱というわけではなく集中力といった物が散漫な印象を受ける。

 彼女の事をよく知っている訳ではないが、らしくないとそう思う。他人から見た印象はその人の本性とは乖離した物が殆どではあるが、こればかりは確信が持てた。

 靴を脱ぎ、靴下も脱いでから裸足で道場に上がる。裸足になったのは此処が道場だから。靴下で歩くのは場の雰囲気に馴染むまい。

 ひんやりとした木の床の感触を足裏に感じながら篠ノ之箒に歩み寄る。

 

「オルフィレウスか?」

 

 声が届く。視線を此方に向けてないことから気配を読んだのか。

 

「はい。よく分かりましたね」

「お前の雰囲気は独特だからな。なんとなくだが、分かった」

 

 会話に不自由しない程度の距離で近づくのをやめ、彼女と言葉を交わす。口調に変化はなく、また様子を見るに体調不良という訳でも無さそうだ。ただ、いつもと違うのは普段よりも落ち着いている事と言葉に敵意のような物が混じっていないことだった。

 

「体調不良ではなかったのですか?」

「仮病だ」

 

 そう問いかけると、彼女は包み隠さずに仮病と認めた。やはり虚偽申告だったらしい、先程も言ったように気にしないが。

 

「お前はどうして此処に来たんだ?」

「篠ノ之箒さんを探した結果です」

「お前がか?」

「はい」

 

 返答を聞いた篠ノ之箒は素振りをやめて此方に振り向く。

 彼女の瞳には驚愕の色が見て分かるくらいに浮かんでいた。私が彼女を探しに来たというのはそんなに意外なことだろうか。

 

「何か企んでるのか?」

 

 おまけに疑われる始末、心外である。彼女が冗談を言っているような雰囲気でもない事がまた、納得行かない一つの要因である。

 

「何も。失礼な人ですね、私がそのような人間とでも?」

「いや、お前は私のことが嫌いだろう?」

「普段から敵意を向ける人の言葉とは思えません」

 

 むぅ、と唸って篠ノ之箒は口元をへの字に曲げた。竹刀を抱えるように腕を組んで難しい表情のまま目を閉じ、十数秒ほど無言を貫いてから目を開けていた。

 

「……お前が私を探していた目的は?」

 

 まあ、彼女が私の事を好きかどうかなんて、返答がどっちであっても私のやることに影響しないものだ。良好な関係を築ければ最良と考えているが、不可能ならそれでいいと思っているのだし。

 

「訓練です。セシリア・オルコットさんとの話し合いの結果で、今日はパートナー同士の訓練で決まりましたから」

「ああ、成程……」

 

 納得したように口元を引き攣らせて、篠ノ之箒は悔しそうにチッと舌打ちをした。舌打ちをするが、それだけだった。普段の篠ノ之箒なら、慌てて織斑一夏達の居るアリーナへと走っていくような気もしたのだが、その予想は外れていたらしい。

 

「まあいいか……オルフィレウス、少し立合をしてみないか?」

「私がですか? 生憎と剣道の経験は無いのですが……」

 

 相懸かり稽古――剣道の練習方法の一つで、実際の試合のように隙を見つけて技を打ち込んでいく稽古のことだ。だが、篠ノ之箒は剣道の有段者で、全国大会で優勝するほどの腕前。私とでは相手にならないと思う。

 

「剣道でなくても良いのなら、お受けします」

「ああ、構わん……むしろ私としてもそちらの方が有難い。しかし、武器は木刀と制限させてもらう」

「了解しました。防具は?」

「寸止めで良いだろう」

 

 使用装備は竹刀、防具は無し。寸止めという前提で行うのなら、下手に防具を付けて重りになるよりは上等だろう。

 私は彼女の提示した条件を受け入れる事にして用意をする。剣道着と木刀は部の予備の物を借りる事にした。

 

「成程、意外に動きやすいのですね」

 それに、思っていたよりも軽い。初めて着る剣道着の感覚に慣れる為に軽く身体を動かした私の感想はそれだった。

 数回木刀を振るう。空を切る音は次第に鈍く、高くなってきて、手に馴染んできているのが分かる。

 

「ところでオルフィレウス、お前の持っているそれなんだが……」

「軽いですね。存外に」

「……そうか」

「どうしました?」

 

 反応が変だと思い、問いかける。彼女は少し言いにくそうに、というか信じがたいものを見るような目つき。

 

「それは素振り用の木刀だ。片手で振るうようなものじゃない」

「…………」

「…………」

「どれを使えば良いのでしょうか?」

「こっちだ」

 

 渡されたのは、先程まで使用していたのよりも細身でより日本刀に近い形状。鍔の近くを持ち、数回振るって感覚を掴む。

 確かに先程のよりも軽い。こちらの方が圧倒的に扱いやすいだろう。

 

「お待たせしました」

「よし、始めるぞ」

 

 軽い準備運動を終えて、篠ノ之箒と私は向かい合う。

 確か、こうするのだったか――剣道などに関する知識の中から引っ張って来た作法や所作に従って一礼。抜刀して、木刀を構える。

 

「「…………」」

 

 始めの合図は無い。剣先を向けあった瞬間が始まりである。

 関節を伸ばさぬように、心で緊張を保ちながら適度に弛緩させて。

 まずは、互いに静かにせめぎ合う。木刀の先が触れ合うか触れ合わないかのギリギリの距離を保つ。篠ノ之箒の構えは、一言で表せば完璧だ。まるで教科書を見ているようだと錯覚する。

 そして、完璧であるから一切の隙がない。不用意に攻め込もうものなら直ちに迎撃されるのは目に見えている。

 私が未だに攻め込まれていないのは、彼女の初動を読んで、対策をしているからに過ぎない。

 距離を変えず、傍目には膠着状態に映るだろうが実際は私が守勢に回っている。

 

 劣勢――だが、負けてはいない。

 焦る必要は皆無。篠ノ之箒に勝利する手段は存在する。

 

 少しずつ、私から彼女との距離を詰めて行く。

 

 木刀の先端が触れ合う――まだだ。

 

 後少し、ゆっくりとした足捌きで一足一刀の間合いへと。

 

 切っ先が――――

 

「はああああっ!!」

 

 交わった。

 

 それとほぼ同時に、篠ノ之箒は裂帛の気合と共に木刀を振るう。

 振り上げと振り下ろしの動作は一呼吸で行われ、そこに割り込む隙や余裕はどちらにもない。

 

 一刀両断――正しくその言葉がふさわしい一撃。

 受けとめる事は上策ではないだろう。受け止められたら、一瞬とはいえその衝撃で動きは必ず止まる。後の先の代表的な一つである返し技は、この場において悪手意外の何者もない。ならば、私がやることは唯一つ。

 

 

「…………」 

「ちぃ――――っ!」

 

 体捌きで繰り出された木刀を躱し、振りぬいた直後を狙って木刀を振るう。咄嗟に返した木刀で弾かれはしたが、無茶な挙動を行った篠ノ之箒は既に死に体。互いに振れば当たる間合いに居る今、それは致命的な隙になるはずだった。

 視界の端で捉えていた彼女の左手が、柄を強く握るのを見て間合いを取る。コンマ数秒前まで私が居た場所を篠ノ之箒の木刀が通過した。

 

「反応するか……完全に獲ったと思ったのだが」

「ギリギリでした。一瞬でも遅ければ、首を切られていましたよ」

 

 篠ノ之箒の体は、あれだけの挙動をしたにも関わらずまだ死んでいなかった。

 

(左の足を軸にして、円の中で右を動かす)

 

 篠ノ之箒を中心とした円形の内側は、言うなれば彼女の絶対防御圏だ。迂闊にその範囲内に入ろうものなら、間断無く放たれる攻撃に飲まれて圧倒されるだろう。

 

(更に、此方の木刀を弾く動作と振り上げを同時に行った、と……)

 

 それだけでなく、私が踏み込む前までの攻勢は自分の領域に引きこむためのブラフ。攻防一体を体現した彼女の技量を内申で称賛しながら、攻略法を考える。

 此方の攻撃半径と篠ノ之箒のそれを比べると、体格や身長の差から篠ノ之箒に軍配が上がる。つまり、此方が戦うためには彼女の領域に踏み込まねばならないということ。

 しかし、先程試したような戦い方では彼女の防御を崩せない。自分の持ちうる知識と経験から、篠ノ之箒を突き崩すための方法を模索する。

 

「どうした。来ないのか?」

 

 篠ノ之箒は口元に不敵な笑みを浮かべて挑発をしてくる。此方を焦らせる事が目的か……攻めこまねば勝てぬのは事実。ならば――――

 

「当然、征きます」

 

 数多の奇手定石を打ち捨てて、敢えて踏み込むという最悪手を。しかし、この場において最善だと思う一手を選択する。

 

「む……?」

 

 私の返答に意表を突かれたらしく篠ノ之箒の瞳が円く開かれるが、すぐに鋭さが戻る。私の反応を見て油断ではなく、警戒を選択したらしい。これで少しは油断してくれればやりやすかったのだが、過ぎたことを思っても仕方あるまい。

 一挙手一投足を見逃すまいと射抜くような視線で此方を視る篠ノ之箒に、此方も同じように視線を返す。

 双方共に正眼の構え。先程私が攻め込んだ時と全く同じ状況だ。

 

「…………」

 

 踏み込む。躊躇いは捨てて、一切の迷いなく彼女の構築する防御圏内へ身を投じる。

 速度では勝てない。手数でも勝てない――――ならば、最高効率によって齎される結果をこの手に掴むのみ。

 一瞬の間も空けずに篠ノ之箒の木刀が振り下ろされた。剣の軌道の直下にある我が身を顧みずに、更に深くへと潜り込む。

 

 そして――――

 

 

「………………」

 

 一方は、私の頬を掠めて道場の木目に切っ先を。

 

「馬鹿な…………」

 

 一方は驚愕の表情を浮かべる篠ノ之箒の左腕を打ち据える寸前で停止していた。

 

 

 

 

 

 

「オルフィレウス、お前は剣術の経験があったのか?」

「知識程度には」

「さっきのあれは、一刀流剣術に通ずる物があった。普通、知識程度で出来るものでもないのだが……」

「出来てしまいましたね」

「お前は……いや、もういい」

 

 呆れたように……いや、諦めたという方が正しいか。篠ノ之箒は溜息を吐いて脱力していた。

 私が使った技は単純に効率のみを求めた剣術とも言えないようなものだ。即席の太刀筋と体捌きであり、剣術のように歴史を積み重ねた名のあるものでもない。彼女からの追求が無いのでそこまでの説明はしなかったが。

 しかし、剣術の動きを再現するのは見たことがあるものならば、別に難しくはない。達人の技を誰でも扱えるように発達したのが武術、覚える段階から特殊な能力が必要な物を武術とは言わない。

 

「飲むか?」

「頂きます」

 

 篠ノ之箒から差し出されたスポーツドリンクを受け取って口に含む。人肌ほどの温度の中身が、先程の稽古で消耗をした身体に染み渡るのが心地よい。

 礼を言って彼女にボトルを返す。受け取った篠ノ之箒は再び一口飲んでからキャップを閉めた。

 

「知識だけで出来たことについては、もう何も言わん」

 

 しばしの休息をとっていると、篠ノ之箒が唐突に口を開いた。

 

「それよりも、お前が剣術についての知識があったのに驚いたぞ」

「空手術、剣術、柔術……歴史ある戦い方の術理は、色々と参考になりますから」

「つまり、お前は剣術以外の武術の知識もあるという事か……?」

「そうなりますね」

 

 つまり、それらもある程度の再現が可能という事に繋がる。自分に出来るか否かを考えてから肯定の言葉を返すと、篠ノ之箒は露骨に顔をしかめていた。

 言いたいことは分かる。彼女は武道家、今まで積んできた修練を無駄のように思っているのだろう。だが、出来てしまうのだから私には何も言えない。

 

「だが、それだけの知識があっても扱い切れそうにもないな」

「否定はしません」

 

 確かに幾つもの武術の知識を持っていて、それの再現が可能とは言っても、実際のISの戦闘で応用が可能なのはこの中の極僅か。歩法や足捌きなんて飛んでいるISを扱う際には欠片も役に立たない。狭い閉所でならば可能性はあるが、ISの戦いは空が主な舞台である以上、役に立たないことのほうが圧倒的に多い。

 

「効率的ではないな」

「それは考え方次第でしょう」

 

 知識を詰め込んだ結果、優れた物を作れたり、優れた結果を出せるならそれは無駄ではない筈。それに、武術の定石やパターンを知っていたからこそ今日の立合で篠ノ之箒に私は勝つ事が出来たのだ。

 

「さて、この後はどうしますか?」

「今日は終わりにしたい。考えたいこともあるからな……」

 

 篠ノ之箒は重い溜息を吐いてから立ち上がった。

 そういえば彼女に変調の理由を聞いていないが、聞けるような流れでもないので黙って更衣室へ行く。

 

「そう言えば道着はどうすれば良いでしょうか?」

「そうだな……洗濯でもして返してくれると助かる」

 

 更衣室へ行く途中、使用した道着について尋ねてみると即座に答えが返された。

 洗って返せとのことだが注意点とかはあるのだろうか。袴はまだしも、上着の方は洗濯機で洗ったら縮んでしまいそうな気がする。

 

「手洗いが一番だが……最近の物は普通に洗濯機で洗えるのも多いからな。どちらでも良いだろ」

「了解しました」

 

 では、洗濯機で片付けるとしようか。

 更衣室にて道着を脱いで学生服に着替えようとした時に、自分の肩口の一部が薄い藍色に染まっている事に気付く。

 

「………………」

 

 私は何も言わず、選択の方法を洗濯機ではなく手洗いに変更した。

 

 

 

 

 

 

――――こいつは一体何者なのだろうか。

 

 篠ノ之箒は、上着を持って何かを考えている様子の同級生を見て考える。

 教えることが上手なのは職業柄身につくスキルなのかもしれない。しかし、研究者という非戦闘員であると主張する癖に異常に戦いの腕が立つのはどういうことか。しかも、それがISを用いた戦闘だけでなく生身の戦いに於いても適用されるのは説明がつかない。

 一夏から聞いたことだが、キャロル・オルフィレウスという人間は極力無駄を省く性質らしい。データ収集に必要だったからとISの技能を持つのはまだ理解できなくもない。しかし、生身での身体能力はそうではないのだから必要以上に身体を鍛えていないはず。

 彼女の言った「記憶で再現しただけ」というのが本当なら、彼女はそれを可能にするだけの身体能力をもとから備えているということになる。

 

「反則だろう、それは……」

 

 そんなのはずるい――それが篠ノ之箒が彼女に対して思ったことだ。

 近頃の世の中では公平であるのが正しいと言われているが、そんなのは有り得ない。何故なら人は生まれながらに違うから。生まれた時から違うのだから、公平になんてなれないのだ。

 全て平等、公平なんて見方はそれこそ自分の姉のように常識や世の中から外れた人間の持つ思考だろう。

 

「随分な物言いですね。普通の人間ですよ、私は」

 

 淡々と自分に返された言葉に、内心ではそんなわけあるかと不平を漏らす。こんなヤツが普通だというのなら私は劣等の部類に入ってしまうではないか。

 視線には自然と敵意が篭っていた。今まで抱いたことがないほどの強さで、きっと正当な理由で篠ノ之箒はキャロルを睨む。

 

「いつもの目つきに戻りましたね、篠ノ之箒さん」

 

 だがそれも、淡々とした口調でそんな事を言っているキャロルには効果は無いらしい。他の生徒達にするのと殆ど同じような視線を向けてくる彼女は、私の敵意を毛ほども気にしていない。それが、無性に腹がたった。

 

「やはり、私はお前のことが好きではないらしい」

「予想はしていました」

 

 嫌いだと、明確に言ってみるが彼女の態度は変わらない。言葉ではなくそれ以外の全てで眼中にないと告げてくる。

 

「だから、お前にだけは絶対に負けん」

 

 セシリア・オルコットも、あのセカンド幼馴染だという凰鈴音もでもなく。篠ノ之箒にとって打倒するべき存在は、キャロル・オルフィレウスなのだ。

 唯一の取り柄である剣技も、恋でも負けたままでは居られない。

 元々負けず嫌いな性格だ。宣戦をすることに精神面での苦労はしなかった。打ち倒したい明確な敵を得たことによって篠ノ之箒の感情は少しの盛り上がりを見せる。

 

「そうですか、お手柔らかにお願いします」

 

 だから、お高く止まって此方を見下ろしているこいつを、何時か引きずり下ろしてやろうと考えてしまう。

 それが彼女にとってどういう結果をもたらすのか、まだ誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 IS学園は都会の明かりから離れた場所にある。此処の地から見える星は都会よりも多いだろう。そうはいっても少し多い程度かそれよりも僅かに多いかだが。

 自室の窓から夜空を見上げる。今日の出来事をまとめる為に向かっていた机だが、もう書くことが無い。12時間弱の長時間がたった数行にまとめられてしまうことに、少しだけ勿体無いような気持ちを感じながら日記を閉じる。

 外して横に置いておいた眼鏡のレンズを拭く。曇りや汚れなど付かない製造方法で作られている。だが、布で軽く拭くだけで輝きを増したように見えるのだから、やはり汚れという物を防ぐことは出来ないということか。

 

「ちょっと、いいかしら……」

「何でしょう?」

 

 眼鏡を拭いてレンズの輝きを確認していると、更識簪より声を掛けられる。彼女から話してくるなど珍しいなと考えながら、眼鏡をかけ直して彼女を見る。

 私個人に用事があるようだ。彼女の手には私の所有物が持たれているが、それはおそらく話しかけるための切掛程度の役割くらいのものか。

 

「これ……見に行ったの……?」

 

 これ、という代名詞が指しているのは、以前に織斑一夏の奢りで観に行った例の映画だ。

 あの後に原作も読んでみたのだが、映画よりも話はよくできていた。しかしその内容は二時間程度のフィルムに収める事は不可能そうで、三部作だとかに分けようものなら各部が中途半端に終ってしまうという微妙なもの。映画化しないほうがいい作品というのが私の正直な感想だった。

 さて、話を戻そう。更識簪が話題の切掛として持ち出してきたのはその映画のパンフレット。本題が別にあるのだろうが一応、彼女の話に乗っておく。

 

「はい、行きました」

「どうだった……?」

「原作を知っているなら十分に楽しめる作品かと。ダイジェストのように見るほうが楽しいかもしれません」

「そう……」

 

 素直に答えると少しだけ複雑そうな表情をされた。

 

「どうしました?」

「別に、なんでもない……」

 少しだけ不機嫌そうな色が彼女の声に混じっているのを私は聞き逃さなかった。もしかしたら原作か映画のファンだったのかもしれないが、だからといって何かをするわけでもない。

 しばらく待っても本題を切り出さないので、私はベッドへと腰を下ろす。

 

「今日はもう寝るの…………?」

「はい。少々身体を動かしたので」

 

 今日の篠ノ之箒との立合で疲れたというのは事実だ。必要以上に神経を研ぎ澄ましてしまったせいだから、肉体の方はそこまででもない。

 やはりあまり真剣な立合というのはするものではないのだろう。なにせ、自分には真剣な戦いなど似合っていない。必要とあれば行うが、必要でないならしないほうがいいに決まっているのだ。

 しかし今日の更識簪は妙に話しかけてくる。何かあったのだろうが、彼女から話しを切り出して来ない。だからと話を終えて眠ろうとすれば、彼女は話しかけてくる。一向に進まない会話に嫌気が差し、私から本題に入ってやることにした。

 

「何かあったのですか?」

「…………今日、担任の教員に呼び出された」

 

 問いかけてみると更識簪はポツリポツリと話し始める。わずかに口ごもっている事から、話すことにはあまり乗り気ではないらしい。別に気にすることでもないので、私は無言のまま続きをと促す。

 

「今の状態ではクラス代表戦には出られない……みたい……」

 

 しばらく愚痴のような不平のような言葉が続いて、漸く最も重要な部分が告げられた。

 今日から代表戦まであと僅か。国際大会準拠の代表戦レギュレーションに適しているかの検査まではもっと短い――というか、明後日だ。

 この検査の期日は絶対厳守で、それまでにこなせなかった場合は棄権扱いとされてしまう。

 更識簪がクラス担任に言われたのはその辺りの事で、彼女は棄権を余儀なくされたのだろう。

 

「あなたが手伝っていたら、変わったかしら……?」

「可能性は上がっていたでしょうね。」

「そう…………」

 

 平坦な声で無感情につぶやいた更識簪は何を考えているのか。しばし瞑目してから私と見つめ合うと、色の薄い唇を躊躇うように歪めてから、口を開いた。

 

「私の専用機が……織斑一夏の影響で開発凍結になった話は、知ってる……?」

「把握しています」

 

 そして再び数秒間の間が空いた。更識簪は再び、私に問いを投げかける。

 

「なら、私がこうなっているのは、彼のせいだと思う……?」

「私の意見を申し上げるのならば否かと」

「……どうして?」

 

 どうしてかと聞かれれば、答えは一つしか無い。

 答えないという選択肢はない。私個人の考えなど知られても何も困らないのだから答えるという選択肢は妥当なものだった。不快に思われないようなという気遣いはあまりない。立場において対等ならば、気にする必要も無いからだ。

 

「貴女が一人で作ることを決めたからです。貴女がどうしても専用機が欲しかったのなら、新型機の開発の必要性を政府に訴えるなり、別の技術研究所に頼るなりすればよかった」

 

 彼女の性でもある更識という一族は、日本の対暗部という一面に於いて公安以上に重要な役割を担っている。くわえて、更識簪は日本の国家代表候補生。その二つの立場を合わせれば相当な数のコネがある筈だ。

 それだけでなく現行するISの後継機ともなれば開発をしたがる研究所や、スポンサーになって出資したいがる関連企業も数多く居る筈。しかし、そうはしなかった。彼らの手を借りず、一人で造り上げると決めたのは更識簪個人の事情で選択。そう決めるだけの理由があったとしても、それは全て彼女の物なのだ。それを選んだ時点で責任の所在は更識簪にあり、織斑一夏に転嫁するべきではない。

「原因は一夏さんでも、現状を作ったのは貴女です」

 

 そう締めくくると、更識簪は感情の希薄な顔で見つめてくる。

 訂正しろと言っているように思える。訂正するつもりはないと態度で示す。

 

「はぁ……」 

 

 長い沈黙が私達の間を支配して、最終的に私から視線を外したのは更識簪。彼女はベッドの上に寝転がると天上を見つめながら溜息を吐き出す。

 

「やっぱり、貴女の事は嫌い…………手助けなんて、欲しくない」

「それでも約束は守ってもらいます」

「…………わかってる」

 

 不機嫌そうな呟きが口に出されると同時に隣のベッドのカーテンが勢い良く閉められる。

 その様子を見届けてから私もベッドに横になり、毛布をかぶって眠りについた。

 




色々と遅くなってしまいました。
今回の話は難産でした。二回くらい書きなおすことになったりと……一夏以外(主に箒)とキャロルはきっと相性が悪いのでしょう。キャロルの雰囲気を保ったまま絡ませるのは結構難しかったりしました。
ではまた次回もよろしくお願いします。

※見なおしてはいますが、変な部分や誤字などありましたら教えていただけると幸いです。
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