女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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序章
序章1


「えー……織斑一夏です、よろしくお願いします」

 

 ひどく短く、簡単な自己紹介。クラスの半数近くが机からずり落ちる程の状況を作った彼の名は”織斑一夏”という。端的であった彼自身の自己紹介では不足であろうから、少しだけ詳しい紹介をこの場でしようと思う。

 彼は織斑一夏。このクラスで一番の注目を浴びている”男子”だ。現在の織斑家の家族構成は彼と姉のみ。両親は行方不明、恋人及び配偶者は無し。交友関係は平均並みで学力は進学に問題が無いほどには高い。そして何よりも特筆すべきは、ここIS学園における唯一の男子生徒であるということ。

 そう、彼は世界で唯一ISを起動させることが出来る男性なのだ。

 

「……以上です」

 

 だから、周囲の生徒が自己紹介に対して抱いていた期待も当然といえるだろう。

 人は往々にして、特別な人間に大なり小なりの理想を抱くものなのだ。しかし、少なくとも織斑一夏は普通に分類される人間だろう。

 この視点の持ち主は彼を直接見てそう感じていた。

 

「キャロル・オルフィレウスさーん」

「はい」

 

 織斑一夏に続いて呼ばれた名前の少女は返事し、立ち上がる。彼女がこの視点の持ち主であり、これから始まる物語の主人公である。

 彼女の声音には一切の感情が無い、事務的なものだった。だからだろう。クラスの生徒の大半はそれだけでこの後の自己紹介がなくても、彼女の大まかな性質を推し量ることが出来ていた。

 それほどまでに彼女の声音は、ある種の異質さが極まっていたのだ。

 

「企業所属、キャロル・オルフィレウスと申します、お見知り置きを」

「えっと……それだけ、ですか?」

「申し訳ございません。ですが、語ることもありませんので」

 

 織斑一夏に比べたら長いが、それでもやっぱり短い自己紹介にこのクラスの副担任――山田真耶が苦笑交じりに確認を行う。しかし帰ってきたのは今後の抱負や挨拶、意気込みといったものではなく、やはり事務的な肯定の返事だった。

 丁寧ではあるが淡々としたその喋り方は、ゆらぎを一切感じさせない機械音声のようですらある。

 彼女の放ったただの謝罪と説明。言葉数は少なくともクラス全体がキャロルの雰囲気に呑まれていた。だが、どこにでも例外はいる。このクラスの中でただ一人呑まれてない人間がいる。

 

「オルフィレウス。つい先程そこの男子生徒にも言ったことだが、まともな自己紹介ができんのか?」

 

 織斑千冬――世界最強の称号たるブリュンヒルデ。その最初の人であり、織斑一夏の実の姉。

 

「織斑先生、先程も申し上げたことですが私には自己紹介に値する情報はありません。ご容赦ください」

 

 若干不機嫌そうにそう述べる彼女の視線を何食わぬ顔で受け流しながらキャロルは微笑んだ。行われたやり取りはひどく穏やか。言葉遣いだけを見ればキャロルに問題はないが、言っている内容はは反抗的。

 二人は少しの間見つめ合い、無言の攻防にも似たやり取りを行っていた。

 

「……まあいいだろう、座れ」

「恐れ入ります」

 

 折れたのは千冬だった。現在はHRの時間であり、キャロル一人に時間をかけてはHRの時間内に連絡を終わらせることが出来ない可能性も出てくる。

 フン、と息を吐いてから千冬はキャロルに着席を許可した。

 キャロルは慇懃無礼に一礼し、口元に微笑をたたえたまま腰を下ろす。

 しばしの沈黙、二人の会話はクラスの雰囲気を変えていた。主に悪い方向に。そんな空気の中、この場の司会進行を務めるはずの真耶はひどく居づらそうにしながら、せめてもの気休めに苦笑を浮かべていた。

 クラス全員が彼女に同情に似た感情を抱いた瞬間だった。

 

「え、えーと……」

「次の者、そうだお前の順番だ。起立し自己紹介をしろ」

 

 健気にも真耶は場の仕切り直しを図るが、それは重ねられた千冬の言葉によって無意味となる。

 

「あ、はいっ!」

 

 指示を受けた生徒は慌てて立ち上がり、自己紹介を行う。その後に続いた自己紹介達は、名前の紹介から抱負を伝えるオーソドックスな構成による自己紹介の目的を達成するに値するもので、その後のHRはつつがなく行われた。

 ちなみに、真耶に司会進行の実権が返還されたのは残り数名になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 私、キャロル・オルフィレウスは本来ここにいるはずの人間ではない。

 自分は確かにISを扱っているがしかし、仕事を聞かれれば開発者サイドの人間だと答える。操縦者という立場はあくまで適性が高く、自分で実験をしたかったから手に入れたものに過ぎない。

 私がこの学園に入学したのは上からの任務を与えられたからだ。その任務というのも急なもので、つい数週間かそこら前に突然言い渡された。この件について、私は自分を適任者として推薦した主任を許すつもりはない。この仕事が終わった後にとことん仕返しをしてやる所存である。

 

「なあ、聞こえてるか?」

「……」

「おーい」

「……何でしょうか、織斑一夏さん」

 

 一人思考に没頭していたからか、私は自分に話しかけている存在が居ることに気づいていなかった。誰なのか、と考える必要はなかった。それというのも目の前に居る生徒の声が女性の発するものではなかったからである。話しかけているのは織斑一夏だった。

 様子から察するに少し前から何度も私に話しかけていたらしい。自分が気づかなかったことに何かしらの小言を言われるかと考えたがそんな様子は無さそうである。

 

「ああ良かった。ところで何か考え事をしていたみたいだけど、少しいいか?」

 

 何故私に話しかけたのか。浮かんだ疑問を解決するべく数瞬だけ黙考し、理由は不明という結論を得る。しかし、彼から話しかけられるというこの状況は自分としては好都合なので会話に応じた。

 

「もちろん。考えていたのは些細な事ですので……私に何の用でしょうか?」

 

 身長の関係で自然と見上げるように視線を彼に向け、問いかけた。

 気になるのは自分に話しかける用事とは一体何なのかだ。彼の好奇心を刺激するような事は今のところ取ってはいないはずだが。

 

「さっきのやり取りだけどさ、千冬姉のこと怖くなかったのか?」

 

 彼は身体を折り曲げ、内緒話をするように私の耳元でそう問いかけてきた。

 何というか、近い。

 異性に反応するような事は無いとはいえ、通常、初対面の相手に取るような距離感じゃないと思う。

 

「怖いかと聞かれれば、別に。話す内容を持たないのは事実でしたので」

「オルフィレウスさんって、結構肝が据わってるんだな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「いや、褒めてるんだよ」

 

 まあ、そうだろう。彼の様子を観察していればそれは分かる。彼は思っていることを素直に口にするタイプだ。皮肉などは無いと考えても良い。

 

「俺は織斑一夏。席が近くなったのも何かの縁だろうし、よろしくな」

 

 そう言って、彼の手が私に差し出された。自らも手を差し出し、握手をされて握り返す。彼の手の感触はスポーツや武術ではなく洗剤や水洗いの気配の方を感じさせた。

 

「キャロル・オルフィレウス。呼び方はお好きな様に決めて下さって構いません」

「じゃあキャロルって呼ばせてもらうよ」

「了解しました」

 

 そこでふと、周囲のざわめきが強くなってきている事に気がついた。やはりそうなるか――織斑一夏と私を外縁から見ている者達の声に意識を向け、自分の考えが正しかったことを悟る。

 彼女らは恐らく、織斑一夏に誰が最初に話しかけるかで牽制しあっていたのだろう。

 だが、周囲から容赦なく浴びせられる好奇の視線の中に1つだけ、他とは違うものを感じた。織斑一夏から目線を離し、感じる方向へと視線をずらす。

 

「…………」

 

 視線を向けてきているのは長い髪をポニーテールにした女子生徒。あれは確か”篠ノ之箒”。彼女と一瞬だけ目が合った。あちらはそれに気づいたようで私に向けていた視線をそらした。

 

「どうしたんだ?」

「――いえ、なんでも。それよりも織斑一夏さん。授業の方はどうでしたか?」

「ん? いやそれが全然でさ……内容が全くわからないんだよな」

「事前勉強などはなさらなかったと」

 

 彼女の視線の理由を考えながら織斑一夏に問いかけると、苦笑交じりの言葉を返された。私はそれに少しばかりの呆れを感じ、思わず半目になりながらそう言った。

 

「入学が決まった生徒には参考書が配布されます……これです。貴方は持っていないのですか?」

 

 私が取り出した分厚い雑誌ほどはある参考書を彼は凝視する。本当に覚えていないのだろうか。事態が事態でもあるから、手違いで彼のもとには送られていないということは考えにくい。

 

「なんだそれ。俺はそんなの……あ」

 

 そこまで言った彼は言葉を切り、何かを思い出したのかポンと手をついた。

 

「電話帳と間違えて捨てた」

「愚かですね」

「ぐぅ」

 

 私の一言にそれなりのダメージを受けたらしい織斑一夏を傍目に見ながら、メモ用紙にペンを走らせる。記憶を頼りに基礎部分が載っているページ番号を記した用紙を渡す。

 

「付け焼刃程度にしかならないでしょうが、このページを参照すると良いでしょう。次の授業は乗りきれるはずです」

「お、おう……」

 

 面食らった――というよりも若干、困惑しているような様子。無理もないだろう。私のしていることは簡単にいえば彼に取り入ろうとするような内容であるし、事実そういった目的が皆無というわけではない。

 そこには私の任務が関わってくるのだが、その話はまたいずれしよう。それよりも今は、この目の前の彼を知ることを重要視する。

 

「キャロルって意外と親切なんだな」

「……は?」

「だってさ、俺とキャロルは今日初めて会っただろ? だから、初対面の相手にこんなことしてくれるキャロルは親切だ」

 

 この方は何を言い出すのでしょうか。予想だにしていなかった言葉に、反応が遅れた。私のしていることはどう考えても何か企んでる輩のする事だというのに、理解が出来ない。

 単純なのか皮肉なのか――やはり、皮肉という線は無いだろう。ならば残るは単純なだけという可能性だが、それだけでないような気がする。私が利益不利益を考えて彼に”親切”をしたという事の気配すら感じていない。

 

「成程、鈍感という事ですか」

 

 口にしたその考えは、成程、彼を表すにはピッタリの言葉だった。彼は鈍感な部分がある、しかもかなり重度の。

 

「鈍感って何がだ?」

「いえ、織斑一夏さんに対して抱いた感想です」

「おいおい、失礼なやつだな……」

 

 怪訝そうな表情で返された言葉に、私は自分の考えが正解だったと確信した。そして同時に、自分たちを取り巻いていたクラスメート達の間にざわめきが走ったのを感じ取る。

 

「全員に伝えて! 織斑一夏がキャロル・オルフィレウスのハートを射止めた!」

「あれだけ分かりやすいのに気づかないなんて……」

「これは……織斑先生と彼女の間で三角関係が形成!? 見逃せないわね……」

「オルフィレウスさんってクールな雰囲気だけど、意外と情熱的なのかな……」

 

 事実無根ではあるが、予想通りだし望んでいた展開でもある。これで私が彼に関わるような行動を取ることに対して大衆は疑いを持ちにくくなくなる。

 周囲に作らせた大義名分とでも呼ぼうか。自分が動きやすい状況を作る為には、まず最初にその他大勢が認める理由を作る事が一番だと経験から知っている。

 

「まあ良いでしょう。では織斑一夏さん、私は授業の用意をしますので、話の方はまた後ほど」

「おう、いろいろとサンキュー!」

 

 軽く会釈をし、私は彼との会話を終えた。

 今回の接触で得られた情報は大きい。周囲に目を付けられる結果となったことは私としては面倒ではあるが、利益を考えると帳消しに出来る。

 及第点、まずまずの所だと自己評価をした私は、篠ノ之箒の方向から刺すように鋭い視線を感じながら次の授業の時間の潰し方に頭を働かせていた。




初めまして、杭打折と言います。
遅筆なので更新は遅くなると思います。
ハーメルンでの投稿は初めてですので文章や設定などに至らぬ点など多数あると思いますが、指摘してくだされば幸いです。
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