女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
バレンタインも過ぎましたね、皆さんはどのようにお過ごしでしたか?
私は家族以外の戦果は友達からのチロルチョコとキットカットです。もちろん、女友達ではありません(輿)。
一夏はきっとチョコレートをたくさんもらえるのでしょうね。もげろ(とっても羨ましいです!)。
今回は前回の身体測定から少し間を空けて当日です。
考えなおしてもやはり、当日までに書いておく内容がもう無かったので飛ばさせてもらいました。
後、今回はちょこっとACV要素があります。分かった人には御褒美としてゾディアックのNo.3から義理チョコが送られます。
※2/15 修正忘れの部分があったので一時的に非公開設定にして修正しました。
「お久しぶり、元気そうで何よりね」
「何をしに来られたのですか、生徒会長殿」
クラス代表戦当日の朝、私は微妙な気分で目の前の人物―――更識楯無に単刀直入に問いかけた。
本日の授業はクラス代表戦という行事のために全て休講になっている。当然ながら、私は織斑一夏の試合を観戦に行くつもりである。試合会場であるアリーナに向かおうと思って寮の入り口まで来たところで彼女に声を掛けられたといった状況である。彼女が私に何の用事があるのか、心当たりがないのが微妙な気分になっている原因だった。
更識楯無は私が織斑一夏にと交友を始めた辺りから私の事を探っているようである。学園上層部もしくは日本政府のどちらかからの依頼か、ロシアからの命令か……それとも或いはその全てか。いずれにしても、どれだけ調べても学園に登録した以上の情報を彼女が見つけられる筈も無い。そう言う相手には慎重になって、不明なままの現時点では私に直接仕掛けてくるような事はないと踏んでいたのだが、読み誤っただろうか。
「入学の際の書類に何か不備でも有りましたか?」
「いいえ、何もないわ。むしろ完璧なくらいだったわね、貴女の背後関係が一切不明という一点を除けば」
「誰にでも秘めておかなければならない情報というものが存在します」
更識楯無の目が細められる。彼女からしてみれば私が不確定要素の塊でしかないのだろう。事実、私という存在が世界の表側の住人かという事を聞かれれば否と返す他ない。
「貴女が何かを起こす切掛になるって予感がするの、私にはね」
「そのように申されましても……」
私は、自分から何かを引き起こしたり状況を変化させるつもりはない。そう言おうとした時に主任の言葉が脳裏をよぎった。主任の言葉が嘘でないなら、何かが起こる事は間違いない。何かが起こるという意味では彼女の勘も外れてはいないのだが、私に焦点を合わせるのは間違いである。私が行動を起こすのは何らかの事態が発生してからで、対応は常に後手である。一人の生徒でしかないので、これから起こるかもしれない事態に対して先制するような行動をとるのは不可能である。なので、警戒する際に焦点を合わせるとすれば学園全体かこのクラス代表戦という行事にするべきなのだ。
「クラス代表戦で何か起きる可能性は高いかもしれませんね、フィクションではありふれた展開です」
「ふーん……ならどんな事が起きるのか、予想も付いていたりするのかしら?」
「これは現実です。なので、これから先に起こる事を私が知っている筈もありません」
主任が何を企んでいるのか、主任が何を知っているのかなんて私には分からない。聞いてもあの調子ならば彼は答えないだろう。理由はきっと「そっちの方が面白いから」という、私には理解の出来ない思考だ。まあ行動理由が理解できないものであるから、どういった事態が待ち受けているかなんてのも予想するのは不可能なのだ。
「なら、貴女はどうするつもりかしら?」
「状況に応じて自分の果たすべき役割を果たすのみです」
迷いなく私は返答する。彼女がどんなに疑いを掛けたとしても、私が従い、果たすべき目的は唯一つしかない。織斑一夏の手助けになるように行動するというもの、それには当然危険から守るという意味も含まれているであろう。
「その役割がどんなものかは貴女の中にしかないわ。どうすれば貴女は私を信じさせてくれるのかしら?」
「私の立場から言わせてもらうと、目的を果たすにあたって貴女の存在は無視できるものです」
キャロル・オルフィレウスが与えられた役割に従うだけであれば更識楯無に警戒されるという事は障害にならない。彼女が警戒している内容と私がやるべき役割は全く違う方向性を持った行動であるからだ。
先程も言ったことだが、彼の学園生活の手助けをするという役割は拡大解釈をすれば護衛としての役割を含んでいると受け取ることも出来る。
なので、彼に危害を加える者などは結果的に私の敵になると言っても良い。つまり、この学園の防衛を担っている更識楯無とは利害が一致する事こそあれ、敵対するような事態にはならないと断言できる。
「人を見る目には自信があったのだけれどね……どうしても貴女を相手にしているときは空回りしかしないのよ」
「若さゆえの過ちというものではないのでしょうか?」
「そう言われると、何も返せないわね」
更識楯無はそう言って苦笑する。更識家の当主という唯一無二の立場に居るのは事実だが、彼女は未だ高等学校にして二年生に相当する程度の年齢なのもまた事実。まあ、更識楯無以下の年齢である私がそれについての指摘を行うとのはどうなのだろうという思いはあるが、聞こえないふりをする。
「……ねえキャロルちゃん」
「なんでしょうか」
「生徒会に入ってみない? 今ならお茶とケーキの特典付きよ」
「お断りします」
利害が一致していると互いに認識したとはいっても、彼女にとって私が不確定要素の塊であるのには変わりない。私のことを探っても成果が上がらないのならば手元においておこうという目論見からの誘いなのだろう。
だが、私にはこれを受諾するメリット、それに加えて時間的な余裕がない。放課後に行っていた織斑一夏との特訓は今日で一区切りだが、代表戦の後は更識簪のISの調整の手伝いを行わなくてはならない。今の私には、生徒会活動に参加しているような時間を作ることは出来ない。作れたとしても彼女の誘いを受けたことはないだろうと思うが。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「時間がありません。明日からは貴女の妹……更識簪さんのISの調整のお手伝いもしなければなりませんから」
「ああ、簪ちゃんの……え、今なんて?」
「更識簪さんのISの調整を手伝うという約束を本人と」
更識楯無は驚きの混じった表情を浮かべ、私に聞き返す。私が更識簪の手伝いをするというのは彼女の耳にも入ってなかったらしい。
私はそれに少し驚くが、考えてみれば織斑先生は他人に話して回るような性格ではないし、私と更識簪もまた同様。ならば、彼女が知らなかったのも仕方がない事かもしれない。
「簪ちゃんの……ねえ、私も何か手伝いたいんだけど」
「私には判断しかねます」
だが恐らくは……いや確実に断られるだろう。更識簪をよく知ってる訳ではないが、身内であってもこの件についての関与を嫌がるような気がする。
「元々これは彼女が自分だけの問題として定めた事です。私には、その申し出を受諾する権限がありません」
「それなら、貴女から簪ちゃんに言ってくれない?」
「理由がありません」
「そこは私が上手く言いくるめるから」
「私は言いくるめられませんよ」
「あぁん、いけずぅ……」
がくんと肩を落とし、あからさまに落ち込む更識楯無。まあ、こちらの同情を誘おうという魂胆なのは分かっているので乗らないが。
「…………」
「無駄です、更識簪さんに直接言ってください」
「……ガードも硬いわね、別方向から攻めさせて貰おうかしら」
更識楯無は残念そうにため息を吐くと、おもむろに開いた扇子で口元を隠す。扇には「不撓」の二文字があるが、この状況から何をするつもりなのかは大体の予想がつく。更識簪に直接話をするというのならば良いが、第三者を挟んで間接的に接触を持とうとするのは逆効果にしかならないだろうと思う。
だが、私は彼女にそれを言う事はしなかい。言ってしまったら私は彼女とかかわり合い、この件について何らかの行動を取らなくてはならなくなる。私には彼女にそこまでするつもりはない。
「さっきも言ったけれど私は諦めないわ。けれど、今日は時間も押してきてるし私はそろそろ失礼させてもらうわね。今度はもっと楽しくお話しましょ?」
「諦めが肝心という言葉もあります。それでは、またいずれ」
私の言葉を聞くと更識楯無はくるりと身を翻し、二年生の代表戦会場である第二アリーナの方角へと向かう。私はそれに軽い会釈をしてから自らの向かうべき場所へ歩を進める。会話の時間は数分ほどでそれほど経っていなかった。これなら予定の時間に遅れることもなく到着できるだろう。
ISはオーバーテクノロジーの塊ではあるが、精密機械だという一点において世に溢れる他の機械と変わったところは何もない。整備のミスで簡単に不具合が生じてしまったり、予想外の動作を起こしてしまう。ISには自己修復機能や自分自身に対するメンテナンス機能も搭載されているが完全とは言い難い。結局のところ、最後は人がチェックを行わなければならないのが現状である。
「体調の方はどうですか?」
「絶好調」
ISの他にも操縦者の体調も重要である。私は、パネルを操作して白式のエネルギー分配、各種推進装置の稼動状態を確認しながら織斑一夏へと問いかける。返ってきた答えは「問題なし」、それも一応メモしておく。白式に搭載されたメディカルチェックの結果も血圧、心拍数共に良好値を示しているので大丈夫そうだ。
「それは何より……白式の方も問題無し、システムの方も良好ですね」
以前、彼の白式にインストールした修正プログラムが悪影響を及ぼしている様子もない。代表候補戦の時に比べて機体パフォーマンスは向上しているだろう。
チェック項目を一つ完了すると、確認済みを報告する書類へと名前を記す。これはIS学園のみならず、ISを使った競技試合の前にかならず行わなければならない手順だ。IS競技は安全性が確立されていると公言されているが、それは機体のシールドや絶対防御などの防御機能や各部の装置が正常に稼働する状態の話である。シールドの状態に何らかの不具合があればシールドを貫通して、実弾が操縦者を傷つける事があるしスラスターの不具合が起これば空中で爆散するという危険性もある。
こういった事故を未然に防ぐために、試合前には必ず専門的な知識を持つ人間が最終確認を行う事が国際ルールで規定されている。最終確認者というのは、万が一競技の最中に事故が起こった場合は全責任を負わなければならないというかなり責任の重い立場にある。なお、最終確認を行う人物は操縦者側から希望を出す事も可能だ。有名な話を例としてあげるなら、第一回世界大会にて織斑先生が篠ノ之束を整備士として指名したという事くらいか。
そういうわけで、本来ならば学園のスタッフか整備課の学生が行う予定だった作業を私がやっている。最終確認作業を行うには、一級整備士としての国家資格が必要なのだが、それに相当するものを私は持っていたので問題はない。
「一夏さん」
「どうした?」
またひとつ項目を終え、報告書へと完了の記載をしながら彼へと話しかける。手を握ったり開いたりしていた織斑一夏は私の方を向いて怪訝そうな表情を浮かべていた。
「白式はいい機体です。小回りも効きますし、速度も出る」
「ああ、俺も今じゃあこの機体でよかったと思ってるよ」
互いに銃火器があれば完璧なのだが、ということは口にしない。無い物ねだりをしてもしょうがない。戦いが目の前に迫っている今、そんな事を考えている余裕もないというのもある。
「戦うときに重要なのは、自分が勝っている部分を相手に押し付ける事です」
高速で空を飛び回る相手に銃を持たずに挑むというのはそれだけで大きなハンデを背負っているのと同じだ。白式は速く、PICによる機体制御能力も高いおかげで高速で移動していても旋回半径もかなり小さい。一発逆転の零落白夜による最大火力も凄まじく、当たればほぼ確実に敵は墜ちる。
「刀の理合、遠距離攻撃に対する対処方法、戦術と知識……貴方なら有効に活用できるでしょう。一夏さんの戦闘センスは目をみはるものがあります」
それぞれ篠ノ之箒、セシリア・オルコット、そして私が教えたものだ私達が教えた技術や知識を正しく用いれば勝算は十二分にある。今はもう私にできることは何もない。一度アリーナの空へ舞い上がってしまえば、後は織斑一夏次第なのだ。
「心配するな。俺はそんなに信用できないか?」
「そのようなことはありません」
彼の言葉に首を横に振りながらも私は暫くの間、無言で考えていた。信用はしているが不安が残るというこの矛盾しているような感覚が自分にも説明できずに少しの困惑を覚える。
不安とは言ったが、代表戦に臨むにあたって彼の実力を疑問視しているという意味ではない。私がこんな感情を抱いているのは主任の言っていた、「何かが起こる」という言葉があるからだ。ただの嘘やからかいだと断じる事は簡単だが、主任は嘘で人を不安にさせて楽しむような可愛らしい性格ではない。むしろ危機や危険を予め教えておき、どんな反応をするのかを見て楽しむ面倒くさいタイプの性格だ。彼が何の情報を掴んだのか……或いは何を企んでいるかは、未だに何も起こっていない状態なので分からないが、少なくとも厄介な事態が発生するのは間違いがない。
忠告はしておくべきだろう。此処で情報を抱えたまま彼を危険な目に合わせるというのは、私の役割に反する行動である。
「一夏さん」
「ん?」
「今日の試合、くれぐれも気を付けて下さい」
「鈴の奴かなり本気だったからなあ……まあ、大怪我するようなことはないだろ。そこのところの加減まで忘れるとは思えないしな」
「いえ、そうではなく……」
一度言葉を止める。本当に彼に話すべきなのかと自問する。彼に話したとしてもその事態が彼の手に余るものだったとしたら、話さなくても何も変わらないのではないか。むしろ、話したせいで彼が自分で片付けてやると考えてその身を危険にさらす事になるのではないか。もしそうなったとしたら、自らの役割を果たすどころの話ではなくなる。
ならば話さずにしておいて、なにか起こったとしても私が何とかすればいいのではないか。もし私の手に余る事態だったとしたら―――例えそれでも私が片付ければ問題はない。
「なんでもありません。今の言葉は忘れて下さい」
「そうか……?」
結論から言うと、私は彼に話しておかないことにした。代表戦を控えた織斑一夏に余計な不安を抱え込ませる必要はない。
「詳細は未だ不明です。分かっているのはそれが只事では済まないという一つのみ」
「事件ねえ……」
半信半疑と言った様子の織斑一夏、当然の反応だ。突然「今日の大会には危険があるので気をつけて下さい」なんて言われても信じようがない。だが、それでいいのだ。完全に不意打ちだった場合、思考停止して急な事態に対処できずに負傷する可能性は極めて高い。ほんの少しでも思考の片隅に置いておくだけでも、いざという時の冷静さは変わってくる。逆に、私の言葉を信じきって彼の思考がそれに囚われてしまえば肝心の代表戦が台無しになるかもしれない。なので、実際は半信半疑ではなく三信七擬くらいがちょうどいいと思う。
「今のは話半分、嫌な予感がする程度で聞いてもらうのが宜しいかと」
「ん、分かった」
遠回しに彼にとっての優先順位は代表戦が第一であるとも伝える。織斑一夏はそれを理解したようで、それ以上のことは聞いてこなかった。
「終わりましたよ、これで戦闘準備完了です」
機体の全項目の最終確認を終える。見落としがないか何度か確認をし、戦闘準備完了を告げる。
「では、説明の方をさせて頂きます」
「頼む」
白式を待機形態へと戻した織斑一夏と向かい合い、今さっき済ませた最終確認の項目
説明を行っていく。彼は既に制服からISを操縦するためのスーツに着替えを済ませていた。もともと人の見栄えを良くするような設計がされている制服とは違ってボディラインが一目で分かるほどに浮き出ている。
「そういえば、一ヶ月前に比べて身体つきも良くなってますね」
「ありがとう。まあ、あれだけ鍛えられればな」
そう言って篠ノ之箒の訓練を思い出したのか、彼は苦笑を浮かべる。確かにあの訓練は過酷だろう。隣で監督したこともあったのだが、限界ギリギリという言葉を体現するような訓練内容に何度か口を出すくらいにはハードな内容とだけ言っておく。
「お陰で雪片を振るうときのブレが減りましたから、効果はあったのでしょう」
「まあな。体力の方もついたし、結果としてみれば悪くない」
今なら力こぶも簡単に出来そうだと織斑一夏は笑う。私は彼に身体を冷やさないようにとコートを渡し、彼はそれを受け取って袖を通す。
「しかし、この中って案外冷えるもんだな……外は割りと暖かかったから中に入った時は驚いたよ」
「内側と外側を完全に遮断するような設計ですからね。夏場でも此処は冷えますよ」
「そこまでする必要があるのか?」
「事故対策のために必要だとか」
アリーナという施設の特性上、外部からの衝撃に強いのは当然だ。
「内部からの衝撃に強いのは暴発事故やISの暴走事故が起こった時への備えです」
万が一の事故というものがある。内部でISの機体が暴走状態に陥った場合、隔離して施設内に閉じ込めるなどの目的も存在している。シミュレーションや計算上では内部での戦闘を行っても耐え切るだけの耐久性を持っているらしい。実際に内部での戦闘が行われた記録は存在しないので、本当かどうなのかは知らない。
「そういう意味で言えば機材搬入トンネルや地下通路なども同様の強度が存在しますよ」
「そんなところまでか……随分徹底してるんだな」
ISの抱える事情を考えればこれでも足りないと考える事も出来るのだが、徹底して対策が取られているのは確かな事実だ。
私は手荷物や資料、最終確認に使用した機材をまとめて作業の後片付けを始める。使った機材などはそう多くはない、数分も経たぬ内に片付けは完了する。
「では私の方はデータを提出しなくてはならないので」
「おう。また頼んでもいいか?」
「喜んで」
最終確認程度の作業ならばいくらでも。そう思って返事を返し、私はアリーナのピットを後にする。
「お待たせしました。作業は完了しているので、入っても構いません」
「やっとか!」
「お疲れ様ですわ、オルフィレウスさん」
その際に、確認作業の間ずっと外で待機していた篠ノ之箒とセシリア・オルコットに声を掛ける。篠ノ之箒は嬉々とした様子で早歩きで織斑一夏の元へ向かい、セシリア・オルコットはこちらに労いの言葉を掛けてから篠ノ之箒と同じように小走りで織斑一夏の居る場所へと向かう。
それを見送って、私は現場監督である織斑先生の待つモニタールームへ向かうのであった。
「御苦労、確かに受け取ったぞ」
提出したデータを受け取り、不備が無い事を確認した織斑先生は私の肩を軽く叩いてくる。
「では、私はこれで」
「もうしばらくしたら試合が始まる。今から観戦席に戻ったら少し見逃すぞ?此処で見ていったらどうだ」
「宜しいので?」
「別に構わん」
退室して観戦席に向かおうとしたのだが呼び止められる。確かに今から行ったのでは見逃す部分が生まれる可能性もあるので素直に織斑先生の言葉に甘えることにした。
開会式が始まり、各クラス代表の紹介が行われている様子を眺める。それは一組から始まって、二組三組といった順に進んでいく。盛り上がりを見せるのは織斑一夏の時くらいかと思っていたが、予想に反してそういったことはなかった。どうやら全体を通して自分達の代表の応援が第一という雰囲気が通っているようで、自分のクラスの代表を一番に応援しているらしい……まあ、織斑一夏の時は黄色い歓声が上がったりしていたわけだが、仕方ないことだろう。
各クラスの代表が一同に介し、並んでアリーナの中央に立っている。それぞれが自分の駆る機体を展開した状態である。
そんな中でも目を惹くのは、数少ない専用機持ちである織斑一夏と凰鈴音。私の視線は凰鈴音の薄紅色の装甲を持つ中国の最新鋭機体に向けられていた。
「あの機体をどう見る?」
「データだけで語るのならば、現行機の中でもそれなりの性能を誇るのではないでしょうか」
それなりに、と評したのは甲龍の機体は基本性能を重視した機体であるということ。
甲龍の武装は少ない。あの機体が持っているのは第三世代装備の衝撃砲と青龍刀が各二つずつ、種類で数えればたったの二種類。構成のシンプルさで言えば白式に並ぶ。
だが、武装は乏しい代わりに機体の基本性能が優れている。性能の割り振り方や設計は近接よりのバランスタイプ。どちらも汎用性が高いことで知られている第二世代機の打鉄とラファール・リヴァイヴで言えば、打鉄に近い性能だ。
「拡張性も悪くなさそうですし、第三世代として海外への輸出を念頭においた設計かもしれませんね」
「中国は第二世代での失敗があるからな。そういった性能に寄ってしまうのは仕方ないだろうさ」
「あれはあれで悪くない機体だったので、個人的には残念ですが」
中国の第二世代であった"KARATA"。ISの中ではかなり珍しく地上での戦闘能力を重視した機体である。性能で言えば機体本体の格闘能力に優れ、特に蹴りの威力はすさまじい中量級の機体だ。特異的な脚部装甲は可変機構があり、盾のように展開する事も可能だったりした。
独自開発の近接戦闘用OSにより、中国武術や拳法。更には柔道や空手などを完全に再現して戦術に組み込むことが可能だとかで一部マニアの心をくすぐった。
だが地上戦を重視しすぎたせいで空戦能力は低く、武術を戦闘に組み込む為に作った近接戦闘特化型OSの不調、複雑な可変機構やギミックのせいで整備も非常に困難という問題を解決する前に実際に配備してしまったり、大会中に機体が故障するという後にも先にも例を見ない珍事件まで引き起こした第二世代ISの発展を語る上では欠かせない機体だ。
他にも伝説はあるのだが、結果だけ見れば失敗作である。これを反省した中国は第三世代機体を安定性と稼働率に優れた機体にしたのだろう。
「それ以外にも、彼らとしては第三世代の標準機としての立場を獲得したいのもあるのでしょうね」
「日本の第三世代機体である打鉄弐式の開発が停滞している今を狙って、か」
「妥当な手段でしょうね。主導して開発を行っていた倉持技研は今は織斑一夏のデータ取りを優先して居ますから、開発再開は希望的観測で数ヶ月……妥当なところで一年後でしょう」
ちなみに、織斑一夏がどの国家に所属するかは協議中であり、日本国ではない。この時点で織斑一夏の調査やデータ取りを日本が行う必要はないのだが、日本はあえて国際委員会からの要求を飲む形で倉持技研を担当に割り当てた。本来ならば委員会からの日本に対する嫌がらせ行為でしかないのだが、日本政府は特に反対することもなくおとなしく受け入れたという。
「これだけ見れば彼への補助を日本政府が行う事にメリットが感じられません。実に不可解です」
「そうだな……まあ、彼らなりに将来のリターンを期待してのものではないのかな?」
「無理でしょう。将来も何もかも、委員会は一夏さんの全てを抑えるつもりですから」
三年もあればどれだけ紛糾した議会でも一応の決着がつくと予想できる。恐らく、織斑一夏は学園を卒業したら自由国籍を与えられて要人保護という名目でIS委員会の管理下に置かれる。当然ながら保護というのはただの名目で、実際のところはモルモット生活だろう。
余談だが、各国は織斑一夏を自国へ取り込む事を既にあきらめている傾向にある。なぜなら、各国との競争に競り勝って織斑一夏を自国に取り込んだ場合、世界中の国々が一致団結して圧力をかけてくるからだ。最悪の場合、自国vs世界中の国全てという構図になってしまう。そんな構図でまともな戦争を行えるだけの力を持っている国は今の世界に存在しない。一昔前までは最強を誇っていた米国も、自国の保有数以上のISを敵に回して勝てるだけの力はないのだ。戦線を構築されたとしても、ISはそれをいともたやすく突破して市街地を焦土に変えるだけである。
今の世界においてISは、個人によって制御が可能な戦略兵器というべきものだ。そんなものを互いが保有している状態で戦争の火種を新たに抱えようという国や政治家は今はまだ現れてはいないし、これから先も同様だろうと思う。もしそんな存在がいるとしたら、世界を滅茶苦茶にしてしまいたいと願うような狂った何者かだろう。
「何にしてもそうするのが一番平和な解決策にはなるでしょうね、一夏さん個人を犠牲にするという結果にはなりますが」
「それを私の目の前で口にするとは中々いい度胸じゃないか?」
織斑先生の視線がこちらへ向けられる。家族思いで知られている彼女だ、今の言葉が織斑千冬個人にとって絶対に受け入れがたいものなのは容易に想像ができる。
だがこれは単純に政治だけの話でもない。世界の人々の思考は大体がこんなものなのだ。
自分とその周囲にさえ火の粉が降り掛からなければ、何処かの誰かの犠牲はしょうがない。自分達が平和という安寧を享受するためならば、自分の生活とは関わりのない一人の人間の自由や将来、幸福が奪われるのには目をつむる。
「貴女もそれは理解しているでしょう。ブリュンヒルデという頂点から世界を見下ろした貴女ならば」
「…………」
織斑千冬から返される言葉は、ない。しかし、向けられたままの彼女の瞳は私の言葉を肯定するものだった。
「同様に見下ろした人達を私は知っています、貴女がそうするよりも前に世界を高い場所から見下ろした人間を」
私は言葉を続けた。世界の頂点に上り詰めた人間はなにも織斑千冬だけではない。そういう天才たちは皆、揃って嘲笑を浮かべていた。その表情は諦観であったり、喜悦であったりした。高い視点を持ってしまうと、今まで自分の周りに隠されて見えなかったものまで明瞭に見えてきてしまう。その中には自分が見たくないもの、存在を否定してきたものも多く存在している。多く総じて他の全てを見下ろすようになる。結局のところ、自分の上に何も存在しないというのは人が自らの可能性を広げる要因にはなりえない。
「お前の言う通り思うところは幾つもある。らしくもない考えを持った時期もあったが、思い知らされることがあってな。私は今のまま、一人の教師として暮らしたいと思ってるよ」
腕を組んだまま肩を竦め、苦笑しながら織斑千冬はそう言った。
「世界は放っておいてはくれませんよ?」
「それでも、私は織斑千冬としてやりたいことをやる。難しい理屈ではあるまい」
生きたいように生きて、死にたいように死ぬ。単純な理屈だが、世界の何割の人間がこの理屈を通すことが出来るのだろう。自分のやりたくないことでもやらなくてはならない、そういう考えによって社会は構成されているのだ。
生きたいように生きるという理屈、それにしたがって社会の中で生活する。それを実現させている時点で織斑千冬は特別な存在であり、それが織斑千冬を織斑千冬たらしめている所以なのかもしれない。
「理解は出来ます。しかし、それは私には受け入れ難いものかと」
そういう生き方自体を否定はしない。しないのだが、私に限って言えば絶対に在り得ない。性格がどうのという話ではなく、私という個人を形成する自己の根底に触れる問題なのだ。
性格的には似合いそうな主任だが、彼もその生き方を選ぶことはないだろう。好き勝手に場を乱すような事はするし面白そうだという理由で人に厄介事を押し付けてくるが、彼は結構な数の制約に縛られながら過ごしている。
「そうか。だがまあ、お前にもいつか理解できると思うぞ」
「どういう意味です?」
「深い意味は無い、ただ……」
何故、受け入れられないものを理解できるというのか。私が自らで否定しているその生き方を何故、受け入れる事が出来るというのか。その答えを求め織斑千冬の事を見つめる。織斑千冬が何を考えているのかを読み取ることは出来なかった。私はまだ、目の前の彼女の思考をトレースできるほど織斑千冬の事を知らない。
一度言葉を探すように区切った織斑千冬は、しばらくしてそれが見つかったのか視線を上げて私の事を見つめる。
「私がお前を見てそう直感した。それだけのことだ」
「答えになってません」
「悪いな、上手く説明できそうもない」
織斑先生は苦笑しながら肩をすくめる。ごまかしたというか、はぐらかされたというか。とりあえず、そう言った雰囲気を感じたのは気のせいではないだろう。何故そうしたのかは分からないが、彼女が自分から言い出さないなら無理に聞く必要もないと判断して私達は会話を終わりにする。
お互いに無理に会話を切り出すような性格ではないので、話す内容がなくなれば言葉も無くなってくる。モニタールーム内には、各種機材の稼働する音だけが残った。
さて、今まで触れなかった事だがこの部屋には居たもう一人の人物がいる。山田先生だ。彼女は普段のゆるい雰囲気とは正反対の至極真面目な様子だ。私達の会話をしている間も黙々と作業を続けていたのだが、それが今ようやく終わったらしい。山田先生はようやく一息つけるといったように一息ついてから織斑先生の方へと振り向いて報告を行った。
「織斑先生、カメラとマイクチェック完了しました。もう始めますか?」
「いや、まだだ。次はシールドの安全チェックを行っておけ」
「ええー……また点検ですか?」
また、という言葉から察するに何度か同じやり取りが繰り返されているのだろう。休めるといった表情から一変、山田先生は涙目になりながら織斑先生へ不満の声を上げる。
「そう言うな……生徒の安全のためだ、しっかり頼むぞ」
「それは、そうですけど。やっぱり織斑君が心配なん……痛たたたたっ!!ごめんなさい、冗談ですっ!」
織斑先生は無言で山田先生の側頭部をグリグリと圧迫する攻撃――――俗にいうウメボシを決めていた。実際にそれをやられたことはないのだが、目の前で本気で泣きそうになってあうあうと声を上げている山田先生を見るに、かなり痛そうである。少しは手加減をしてあげましょうよ、織斑先生。
「……コーヒーでも用意しましょうか」
「気が利くな、濃い目で頼む」
「畏まりました」
すがるような視線で見てくる山田先生をスルーして私は給湯室へ向かう。山田先生は気の毒だが、身内ネタで織斑先生をいじるというのは自殺行為として有名である。因みに、今のところ身内ネタでいじって織斑先生にお仕置きされたことがあるのは山田先生以外に居ない。確かに山田先生は可哀想だと思うが、自業自得なのである。
私は山田先生の可愛らしい悲鳴に心の中で手を合わせ、早足で給湯室へと向かうのであった。
誤字脱字。ここをこうしたほうがいい……などの点がありましたら感想で教えて貰えると嬉しいです。
普通の感想もお待ちしております。