女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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この感じだ! 戦争だ!
我らにはそれが必要だ!


あ、今回はキャロりんの出番無いです。

「馬鹿な……」


一章8

 第一アリーナ、織斑一夏と凰鈴音による戦闘は今まさに始まろうとしていた。ピットからカタパルト射出され、アリーナの空へ上がった両機は同高度まで上がって初期位置につく。公式戦において初期位置は高度と相対距離、そしてアリーナ中央からの距離によって定められている。

 その距離というのは遠距離攻撃型の機体に合わせたものとされており、例としてあげるならばブルー・ティアーズの持つスターライトMk2のような装備が真価を発揮する距離だ。今回の場合、織斑一夏と凰鈴音のISの装備に該当するものはないので開幕早々に先制攻撃というようなことは起こりえない。

 お互いにそれは理解しているからだろう、遠くに見える敵手の姿を視界から外すようなことはないが、張り詰めた雰囲気はどちらにも無かった。

 ピピピ、という電子音。プライベートチャネルで通信回線が開かれた事を示す音だ。周波数帯を確認する、有視界通信と呼ばれる相手を直接視界に捉えた状態で行うものだった。試合が始まるというこの状況で通信を行ってくるのは一人しか居ない。

 

『今謝るんなら、死ぬほど恥をかいてもらうくらいで許してあげてもいいわよ』

「冗談はよせよ、鈴」

 

 ISによって強化された視覚で凰鈴音の表情を見る。彼女は挑発的な笑みを浮かべており、予想通りの返答だと言っているようだった。

 

『あんたって昔から負けず嫌いだものね』

「まあ、否定はしないけどよ。負けず嫌いなのはお前もだろうが」

『たしかにそうね。特に、あんたに負けるのは気に食わないわ』

「どういう意味だよ、それ」

『こっちの話』

 

 織斑一夏と凰鈴音は現在進行形で喧嘩中という状態だ。つい先ほどまでは廊下で顔を合わせれば互いに睨み合うくらいの状態だったのだが、不思議なことに今は落ち着いて会話をすることができた。ISによって興奮状態に陥らないように脳内物質が制御されている結果なのだが、二人にとってそれはどうでもいいことだった。

 重要なのは久しぶりに二人きりで、落ち着いた会話が可能であるということなのだ。それがこうして戦う直前になってしまったのは、我が事ながら情けないと内心で苦笑する。

 

「この機会に聞いておくけどさ」

『何よ?』

「お前、なんで国家代表候補生なんかになったんだ?」

『んー……ナイショ、一夏には教えてあげない』

「俺はてっきり、お前は親父さんの後を継いで料理人になるもんだと思ってたよ」

 

 凰鈴音は中学時代、時折語って聞かせてくれたものである。自分はいつか父親の経営している料理屋を受け継ぐのだと。その時は自分を従業員として終身雇用してもいい、と冗談を交えて話してくれたりもした。その時は「俺が仕事クビになったら頼むよ」だなんて冗談を返してどつかれたこともある。

 そういう思い出があったから、凰鈴音がISの操縦者となって自らの前に表れたのは織斑一夏にとって予想だにしていなかったことだったのだ。

 凰鈴音はその言葉を受けて、至極冷静な口調で織斑一夏の予想もしてなかった言葉を口にする。

 

『そう言えば言ってなかったわね。私の両親、離婚したのよ』

「――――は?」

 

 思わず踏み抜いた会話の地雷にさすがの織斑一夏も硬直、思考が停止する。

 

『離婚よ、り・こ・ん。貴方と私は今日から赤の他人ですっていうあれの事。もしかして分からないの?』

 

 そんな事はない、離婚の言葉くらいちゃんと知っている。小学生だって分かるような知識だ。

 だが、織斑一夏が聞きたかったのはそういうことじゃない。遊びに行った時も、夕食をごちそうになった時も彼女の両親は仲睦まじい夫婦という感じだった。離婚をする要素なんて何処にも無いように思えたから。

 

「なんでだよ? おばさんもおじさんもあんなに仲が良かったじゃねえか!?」

『そんなの、あたしが知るわけ無いじゃない』

 

 そう言われればそのとおりである。織斑一夏は黙って凰鈴音の言葉の続きを聞くことにした。

 

『離婚自体はだいぶ前から決まってらしいわ。でも、あたしがそれなりに成長するまでは……っていう話だったみたい。変に気を使ってくれちゃってさぁ、そんな気の使い方するなら最初から別れなければいいのにね』

「…………」

 

 凰鈴音の態度はひどくあっさりとしたものだった。普通ならもう少し取り乱すところなんじゃないのか、とか織斑一夏の方が考えて逆に心配になるくらい落ち着いたものだった。

 そして、織斑一夏の頭の中には一つの考えが浮かび上がる。

 

「だからなのか?」

『何が?』

「両親が離婚したから、お前は代表候補生になったのか?

 

 片親になって生活が困窮し、それを助けるために――――

 

『違うわよ』

 

 という、織斑一夏の中で浮かび上がっていたストーリーは一言で否定された。

 

『あたしが候補生になったのはもっと別の理由。あの人達なんかより、ずっと大事な理由よ』

 

 凰鈴音は言葉を続ける。織斑一夏には分からない。家族よりも大事なのだというその理由、織斑一夏は家族というものはとても大事なのだと思っている。それは幼少期に両親に捨てられた事、唯一残された姉が苦労しながらも見守って育ててくれた事に根付くものであり、ある意味では織斑一夏だけの感情である。

 人にはそれぞれ根付くものがあり、それぞれ違うものだ。根付いたものが違えば、そこから生まれてくるものもまた違ってくる。織斑一夏もそれは理屈では知っていたが、心の底から理解できるほど大人ではなかった。

 だから、織斑一夏は困惑する。見た目も変わってなかったから中身も同じだと思っていたはずの幼馴染が、全く別の何かに見えてきてしまう。

 

「お前は変わったな……」

『そうね。変わったかもしれないわ』

 

 凰鈴音は静かに肯定。確かに自分は変わったのかもしれないと頷く。

 

『それでも、あたしは昔と変わってないわ。絶対にね』

 

 凰鈴音は確かに変わったかもしれないが、変わってはいないと断言する。前後関係が滅茶苦茶な彼女の発言に織斑一夏は凰鈴音という人間を見失いかける。

 

『話してもわからないわよ。あんたの鈍い頭じゃあ多分理解できないだろうし』

「お前なあ……」

 

 見失ったかと思えば、昔と同じような口調で毒を吐きながらまた現れる。

 

『難しいことじゃないわ。ほら日本のことわざにあるじゃない"三日会わざれば刮目して見よ"ってね』

「そりゃ男子の話だろ」

『女子だって同じよ。そう言うところで変に区別する悪い癖は昔のままね』

 

 むしろ、女子は三日どころか一瞬の内に何もかもが変わってしまう事が有るのだから男子よりもタチが悪いだろうと凰鈴音は言葉にせずに考える。

 

『……そろそろ試合よ。あたしが変わったかどうかはこれからじっくり、あんたの身体に直接教えてあげるから』

 

 堂々巡りになりそうな会話を切り上げて、凰鈴音は二つの青竜刀を連結させた形状の武装――双天牙月――をくるくると回すような動作の後に構える。

 

『あんたはおとなしく、あたしのサンドバッグになってなさい!!』

「誰がなるかよ」

 

 織斑一夏はグチャグチャに乱れた思考を切り捨てて雪片弐型を展開、篠ノ之流の構えをとる。突くことも切ることも、払うことも出来る篠ノ之流剣術の全ての基礎となる姿勢。それは織斑一夏が思考を完全に戦闘に対するものへ切り替えたことを意味していた。

 

『そうそう、さっきまで真面目な空気だった所悪いけど』

「あ?」

『あたし、あんたが約束を忘れた事に関しては許すつもり無いから』

「げぇ、まだ覚えてやがったのか。さっきの空気で流されておけよ……」

『それはそれ、これはこれよ』

 

 凰鈴音はニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、互いの準備が完了したのを見計らったように試合開始のブザーが鳴り響く。

 織斑一夏と凰鈴音はほとんど同時に機体を前方へと走らせた。

 

 近接特化型の白式にとって、開始と同時にどれだけ互いの距離を詰められるかというのは序盤における立ち回りを左右する最も重要な段階である。格闘戦を得意とする機体が勝利する為にはどのようにして距離を詰めるかということにかかっている。

 これが出来なければ自分の不利なレンジで戦い続ける事となり、結果的に苦しい戦いを強いられてしまう。ましてや射撃武器を持たない白式など、一方的になぶり殺される――つい先程凰鈴音が口にしたように、サンドバッグになるだろう。

 白式の加速性能や旋回能力といった機動に関する性能は第三世代の中でも上位に入るものだ。機体の反応も良いため、一度食いつかれたら同じ機動性能に特化した機体でなければ逃げ切る事はできないだろう。だが、それは少し考えれば誰でも分かるような基本中の基本の話。格闘特化の機体の機動性や運動性能が高いなんて常識である。

 数年の訓練で代表候補生へと登りつめる程の実力を持つ鳳鈴音がそれを知らないというのは、まずありえない話だった。

 凰鈴音は互いの距離がある程度まで近づくと上昇を開始、白式の頭を押さえるように位置取る。白式はこれを追って上昇を開始するが、それを黙って見ている凰鈴音ではない。

 

「この甲龍の攻撃、避けれるものなら避けてみなさい!」

 

 雪片弐型を握る手に、自然と力が篭もる。織斑一夏は敵の遠距離攻撃に対して反撃の方法を持たない。盾の一つでも持っていれば楽なのだがそれもない。手に有るのは雪片弐型唯一つ。

 回避機動を取ればつい先程まで縮めた敵機との距離は開いてしまう。故に、彼は最低限の身のこなしで回避を行いながら、実弾系の攻撃であれば手に持つ雪片弐型で凌ぐというつもりだった。

 織斑一夏の遠距離攻撃に対して対処する能力はセシリア・オルコットとの訓練を通して代表決定戦の時とは比べ物にならない程高まっている。敵機の背部に浮遊する非固定部位に砲門らしきものを確認すると射線を予測するべくそこへ意識を集中させ――――

 

「っがぁ!?」

 

 意識を集中させた瞬間に、織斑一夏は衝撃を受ける。被弾を示すインジケータが表示され織斑一夏が攻撃を受けている事を表していた。

 

 甲龍(ヤツ)はいつ、俺に攻撃をした!?

 

 織斑一夏は凰鈴音から一瞬足りとも目を離さなかった。故に、攻撃の予兆があれば見逃すはずもない。しかし現実はその思考を裏切り、真正面からの不意打ちを受けている。

 何かが自分の居た場所を通り抜けた事を、ISのハイパーセンサーによって知覚する。しかし、知覚しても何が起こっているのかは一切不明、対処法さえも分からない。現状を一言で表せば手詰まりだ。

 

「よく避けたじゃない。あのまま終わらせるつもりだったんだけど、思ってたよりやるようね」

「これでもクラス代表だ。IS学園での立場で言えばお前と同等なんだぜ? 下に見てると痛い目見るぞ」

「あっ、そう。じゃあこんなのはどうかしら?」

 

 織斑一夏の虚勢にも、凰鈴音は余裕綽々といった口調で返す。その口調や様子は気に入らないものだったが織斑一夏にはそれを気にするだけの余裕は与えられていない。

 凰鈴音が腕を大きく広げると同時に織斑一夏は後退。何が来るのかは不明だが、何かが来るのは間違いない。予想通り、白式のアラートは自機が甲龍からのレーダー照射が続いている事を知らせてくる。織斑一夏は足を止めずにバレルロールなどの機動を駆使して、軸線をずらして敵からの砲撃を回避していく。

 

「よく避けるじゃない。"龍咆"は砲身も砲弾も、見えないのが特徴だっていうのに」

「それがそいつの名前って訳か。何で今、わざわざ俺にそんな事を話したんだ?」

「目に見えないってわかった所であんたに対処する方法はないでしょ?」

 

 つまり、織斑一夏は完全にナメられているのだ。一夏からしてみれば非常に気に入らないが、今の彼は織斑一夏であると同時に一人の操縦者。自分が敵機に対して遥かに劣っていることを事実の一端として受け入れる。

 

「はあああっ!」

 

 回避に専念している内に織斑一夏は甲龍の接近を許してしまう。上段から振り下ろされた青竜刀を受け流すが、凰鈴音はくるりと回って連結した青龍刀のもう一方の刃で連続した攻撃を繰り出してくる。姿勢的にも回避は不可能、咄嗟に右足の装甲の厚い部分で受け止める。

 ダメージ合計126。白式のシールドエネルギー総量は600であるから、あと4回同じ攻撃を受けたら負ける計算に成なる。最も、今以上のダメージを叩き出す事も可能とかんがえられるから実際はそれよりも少ないだろう。

 だが、この状況は自分にとってそう悪いものでもない。ダメージは大きいが、装甲の厚い部分で受け止めたお陰で凰鈴音の攻撃は一旦止まり、更に近接格闘を行える距離まで近づいている。相手から飛び込んできてくれたのだから、有り難くその距離を有効活用させてもらう。

 足で押さえた甲龍の青竜刀を踏み台にして、今度は此方が相手の頭上を取る。そこで姿勢の上下を反転、急降下しながら同時に雪片での一撃を加える。

 頭上と背後を一手の内に奪い取り、重力も乗せた重い一撃。同レベルの相手ならば間違いなく有効打となっていた攻撃ではあるが、操縦者としてどちらが優れているのかは言わずもがな。凰鈴音は双天牙月の広い刀身を盾のようにして織斑一夏の一撃を防いでいた。

 

「やるな、鈴」

「あんたもね」

 

 余裕の態度は崩さないが、織斑一夏の実力をある程度認めたのか口調は変わっている。言葉を交わしながらも戦闘は継続している。織斑一夏が青龍刀のリーチから離れた直後に銀色が彼の眼前を薙ぐ。

 一瞬でも距離を離すのが遅れていたら間違いなく直撃していただろう。自分の得意とするレンジに入っても凰鈴音は油断のならない相手であることを理解する。

 白式が警報を鳴らす。織斑一夏は考えるよりも先に機体に回避を行う。

 

「背後にも撃てるのかよ!?」

「龍咆の射角は無制限ッ!」

 

 何て理不尽だ、と織斑一夏は内心で愚痴を零す。射角が無制限ということは死角がないということ。

 手持ちではない機体に固定されているタイプの砲というものには必ず射角に限界があると考えていた一夏は、自分の予想が甘かった事を直撃の衝撃と一緒に思い知らされる。

 凰鈴音の衝撃砲はすさまじい衝撃力で白式と、白式を装備している織斑一夏を地面へと叩き落とす。

 

「っくぅ……結構効くな」

 

 被弾した箇所からおもいっきり平手打ちを食らった後のような痛みを感じながら機体状況を確認。シールドエネルギーへの被害はそこまでではない。だがこれは幸運とは言えはなかった。敵の龍咆という武器は、単純な攻撃力よりもその高い衝撃力からくる操縦者への影響へのダメージが大きいらしい。

 普通ならば喪失するであろう意識も、ISの操縦者保護機能によって護られているのが不幸中の幸いだった。衝撃砲を受け、墜落しても織斑一夏の意識は何とか保たれていた。

 このまま地面に寝ていたいと訴える肉体に鞭をうって起き上がり、追撃として繰り出される不可視の砲弾から逃げるようにアリーナの大地を駆ける。

 

「このままじゃあジリ貧だな……」

 

 この状況が長引けば鈴の攻撃によって残りのシールドエネルギーと体力を削りきられてしまうのも時間の問題だ。織斑一夏は回復してきた思考を働かせ、現状を打開する方法を考える。

 まず、凰鈴音の視線から逃れる必要がある。射角に制限がないのなら、敵機にロックオンをさせてはならないからだ。

 次に、敵機が自らを見つけ出すよりも早くに接近しなければならない。どんな角度から攻めても相手に見つかっていたら衝撃砲に迎撃されるだけである。

 最後に、敵を一撃で倒さなければならないがこれが一番簡単だ。自分には雪片弐型と零落白夜によるバリアー無効化攻撃を持っているのだから。

 この三つの段階を、最短で行わなくてはならない。織斑一夏に提示された条件は困難極まるものであったが、白式ならば可能である。

 

「白式は性能面での要求を全て満たしている。これが成功するかどうかは俺次第って訳か……」

 

 苦笑しながら呟くと白式の機動を変えて、織斑一夏は飛び上がる。

 自らの得意とする瞬時加速。瞬時加速を用いれば視線を外すことも不可能ではない。しかし、視線を外せるのは一秒もない時間であり、接近に用いた場合はあと一歩の所で迎撃されるのがオチだ。

 そして、瞬時加速を用いた奇襲攻撃と視線外しが通用するのは一度だけだろう。奇襲とは相手の慮外を突くから成功するもので、何回使っても敵を倒すことが出来る必殺技ではない。

 飛び上がろうとした一夏を地表に抑えこむために放たれた衝撃砲を機体をロールさせることで回避する。凰鈴音の視線を自分から外すためにも、仕掛けるその瞬間まで一定以上の速度を出すことは出来ない。 

 

「まだ追ってくるか、まばたきくらいしろっての!」

 

 凰鈴音の攻撃を躱しながらでは視線を振り切ることは不可能である。鳴り続けるアラート音に悪態をつきながら機体を旋回。

 地面から飛び上がって十数秒、未だに状況は打開せず。織斑一夏の思考に少しずつ焦りが生まれてくる。残っている冷静な部分も、焦りがこれ以上大きくなるよりも早くに決着を付けるべきと告げている。

 精神的に追い詰められてたのを感じた織斑一夏は最後の手段に出る事を決める。白式と一緒に脳内でのシミュレートを行い、数%の確率で成功という結果を算出したところで即座に実行に移す。

 織斑一夏はその場で急旋回を行った後、凰鈴音に向かって正面からの突撃を敢行した。

 

「なっ、馬鹿なの!?」

 

 そうして織斑一夏が取ったのは、手段を見た凰鈴音が驚愕し、思わず声に出して彼の正気を疑ってしまうほどの愚策であった。

 確かに不意を突くにはもってこいの手段だったのは認めざるを得ない。死角のない砲台に真正面から突っ込んでいくなんて、まともな人間が考えるわけがないのだから。

 そして、凰鈴音が驚愕の言葉を口にするだけの余裕は残されているのだから成功するはずもない。一瞬の驚愕は、所詮は一瞬のものでしかない。次の瞬間には凰鈴音は織斑一夏へ衝撃砲を放つ用意を完了している。

 

 焦りに負けたか。

 

 凰鈴音はそんな事を考えながら心の中で小さくため息を吐いた。

 そのような機動で照準を外すなどあり得ない。速度で振り切るでもなく、ただ方向転換をしただけなのだから当然であろう。

 この戦いが織斑一夏が冷静さを失って無謀な突撃を仕掛けて終わることを残念に思ったからだ。

 甲龍の衝撃砲は両肩に左右一門ずつ装備されているタイプの兵器だ。そういった兵器――戦闘機の両翼に装備された機関砲などが例に挙げられる――の発射口は正面を向いて装着されているわけではない。基本的には有効射程圏内の最も威力が出る一点に両翼の発射弾が集中するような角度をつけて設置されている。これを最適取付角度と呼ぶ。

 凰鈴音の甲龍もこれと同様で、標的との距離に応じた最適角度で放つようにをようにプログラミングされている。正面から接近する機体に対して速度の見積もりや最適角度を設定することは通常よりも難しい。

 織斑一夏の白式は速度の出る機体だ。機体が速くなれば此方の持ち時間は少なくなるし、設定の難易度もあがる。織斑一夏は自分のミスを誘発できるとでも考えたのだろう――――だが、甘い。

 凰鈴音は自分の機体の弱点を誰よりも把握しているつもりだ。故に、本国ではそれを克服するように訓練を重ねてきた。正面から接近してくる的も、硬式野球のボール程度のサイズまでならば迎撃が可能である。

 織斑一夏の敗因は自分のことを見誤ったことにある。 残念だが、これが結末なのだと受け入れる。

 あとは、正直に真正面から突っ込んでくる敵機に龍咆を見舞うだけ。それだけで凰鈴音の勝利は確定する。幕引きの予感を感じながら、凰鈴音は躊躇うことなく発射の命令を愛機に下していた。

 

 

 凰鈴音の考えた事は正しかった。織斑一夏が今から左右に避けたとしても龍咆からは逃れられない。さらなる加速を加えたとしても既に不可視の砲弾は放たれており、回避は不可能。

 凰鈴音の感じた感覚は間違いなく戦いの幕引きが迫っている事を示すものである。

 だがそれは―――

 

「え……?」

 

 凰鈴音の勝利によって終わる幕引きとは限らない。

 龍咆より放たれた砲弾は何も居ない空間を貫いていた。織斑一夏が居た空間を通り抜け、射程の限界まで飛んで霧散していた。

 

「何処? っ直上!?」

 

 視界内に存在しない敵機の位置を把握するためにもレーダーを確認――敵機の位置、本機直上。

 凰鈴音は即座に見上げ、そこに太陽を背にして急降下してくる敵機を発見。敵機は既に攻撃態勢にある。

 

「っ……!」

 

 嵌められた――――凰鈴音は即座に自らの失策を悟る。同時に、焦りに任せて素直に上を見上げてしまった事を後悔した。

 ただ直上から降下してくるだけならば龍咆による迎撃が可能である。しかし、今の凰鈴音にそれは不可能だった。なぜならば、彼女は織斑一夏の背後から降り注ぐ太陽光を直接目にしてしまった。操縦者保護機能は働いて彼女の目を保護するがほんの少し、時間にしてコンマ数秒の間、直射日光を目にしてしまい、凰鈴音は一時的に視界を失う。そして、白式が到達する時間と凰鈴音の視界が回復する時間。どちらが勝っているかは、状況が表している。

 

 

 

 織斑一夏が行ったのは説明してしえばこうだ。

 瞬時加速を用いた上昇で凰鈴音の視線を外し、太陽を背にした位置で反転して急降下する。

 しかしこの戦法には問題があった。それは、上昇角度が緩かった場合、凰鈴音の視線を断つことは出来ないということ。

 つまり、織斑一夏は急角度で上昇しても直上を取れるほどの距離まで接近しなければならなかった。少しずつ接近していくのは凰鈴音に警戒されてしまうだろうし、地表で距離を詰めてから飛び上がるのでは上昇距離が足りなかった。

 織斑一夏はある程度まで距離を詰めながら高度を稼ぐ必要があった。そして彼は、それらを同時にこなすことが出来る突撃を、無謀とは知りながらも行ったのだ。

 もし、織斑一夏の無謀な突撃に一瞬も動じずに凰鈴音が迎撃を行っていれば織斑一夏は為す術も無く撃ち落されていただろう。

 もう一つ、凰鈴音は判断ミスをしている。それは織斑一夏に直上を取られた際に迎撃を考えてしまったことである。直上を取られた際にはまだ距離があった。もし、彼女が冷静な思考を持っていたのならばその場からの退避を選んだはずであるだった。

 

 突撃を始めた際に凰鈴音が一瞬でも驚愕したこと。その間に織斑一夏の接近を許してしまったこと――――そして、何よりも焦りに敗けたこと。

 

 それらの要因が重なって、織斑一夏は自らの勝利を確信する。だが――――

 

「警告!? 何処からだ!?」 

 

 勝利する瞬間へ冷水を浴びせるように鳴り響いたアラート、その直後にアリーナをドーム状に覆うように展開されていたシールドを何かが突き破ってくる。その何かがビーム攻撃だと理解するのと同時にアリーナの地面に着弾、爆発を起こす。

 爆発の規模はおおきく、アリーナの地面を震わせる程のものであった。爆発を引き起こしたビームの出力の高さが如何程のものだったのかは想像に易い。

 

「一夏、何が起こったの!?」

「俺に分かるか! 分からんが、只事じゃない」

 

 状況の説明を求めて凰鈴音に一言投げつけて、自分は臨戦態勢のままもうもうと燃え上がるアリーナの中心部へと白式を向ける。先程まで織斑一夏と交戦状態にあった凰鈴音もこんな状況下では戦闘を継続するつもりはなく、甲龍を一夏と同じ方向へと向ける。

 

――ステージ中央に熱源。未確認ISと断定。ロックされています。

 

 織斑一夏は目の前に表示された警告文の意味を理解すると同時に回避行動を取る。甲龍の方も殆ど同じタイミングで回避行動を行っていたことから同様な状態にあったのだろう。煙の中から放たれた薄紅色の光―――数発ではなく弾幕と形容するのが相応しい―――を回避する。幸いにも、先程よりも出力は落とされているらしく観客席への被害のシールドを突破するほどの威力はないらしい。

 しかし、油断は出来ない状況にあるのは変わらない。未確認ISは、ISの攻撃を防ぐ為に展開されたシールドを突破し、それでも尚威力を失わないビームを放てる程の攻撃能力を持っているのだ。そしてその機体は自分達をロックしている。

 

「退避するわよ、一夏は今すぐにピットに戻って」

「お前はどうすんだよ!?」

 

 目がピンク色になったのかと思うほど凄まじい攻撃が止み、凰鈴音は織斑一夏に退避を命じる。

 

「あたしが時間を稼ぐから、先に行ってなさいよ!」

「女を置いて男が逃げられるわけ―――」

「あんたは近接武器しか持ってないでしょうが! そんなのであの弾幕の中に飛び込むつもり!?」

 

 確かに、遠距離攻撃の手段を持っていない織斑一夏と凰鈴音でどちらのほうが安全に時間稼ぎを出来るかなど議論する余地もない。織斑一夏は反論ができず、黙りこんでしまう。

 

「あたしだってあんな化物とまともにやりあうつもりはないわよ。こんな状況だから先生達がすぐにやってくる、それまで持ちこたえるくらいなら――――」

 

 凰鈴音はそこまで言って言葉を中断し、煙の中から放たれたビームを避ける。ビームは同時に織斑一夏にも放たれていたが、予め警戒を怠らなかった事もあって難なくかわしていた。

 

「敵さんも、逃すつもりはなさそうだぜ?」

「……そうみたいね」

 

 敵は逃すつもりが無いらしい。しかも二方向へ同時攻撃が可能という事は、背を向けて退避する事は危険である。それらの事を今の攻撃で理解し、諦めてため息を吐く。

 

「何よ、あいつ。見たことない機体だし……不気味ね」

 

 爆発によってアリーナの地面から舞い上がった砂埃がようやく晴れて来た時、爆発の中心にいるものを見て凰鈴音が小さく言葉を漏らした。言葉にこそ出さなかったが、織斑一夏も同様の感想を目の前の存在に対して抱いていた。

 

「……………」

 

 彼らの視線の先には、無言で佇む黒い異形が存在していた。




今回は早くに投稿できました、ホメテホメテ…………実は1章7の部分と同時進行で作っていたので、遅くなった理由でもあり早かった原因でもあります。

衝撃砲に関しては説明を省きました。だって原作と同じ流れにしかならないもの。

あと、鈴の家族が離婚したことについては此処で明かしました。原作でそこまで重要な雰囲気を出してなかったので、独自設定の礎となってもらいます。原作で鈴が操縦者になった理由とか書いてくれたら嬉しいんですがね、鈴が空気化してる現時点では難しいかな。
では次回もよろしくお願いします。


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