女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
「あら」
「どうも」
病室へと向かう途中の廊下。私は偶然、同じ角を曲がろうとしているセシリア・オルコットと遭遇した。
「こんなところで何を?」
「一夏さんの様子を、と思いまして」
「そう言えば、先程までいらっしゃいませんでしたわね。先程お見舞いした時は、既に一夏さんも意識が回復してましたわよ」
聞けば、私が電話をしに行ったのとそれほど間をおかずに彼の意識は回復していたらしい。
彼女は織斑一夏の様子を一度見に行ったらしいが、気になるのでもう一度見に行くところとの事だ。目的地が同じなので自然と一緒に行くという流れになり、私と彼女は共に廊下を歩く。
私はふと、先の襲撃事件で彼女に言った事を思い出す。彼女には織斑一夏と鳳鈴音の両名を連れて脱出という役割を、碌な説明もしないまま一方的に指示をしてしまった。彼女が、それに従ってくれた事に感謝の意を伝えねばなるまい。
「忘れるところでした……本日は一夏さんと鳳鈴音さんの迅速な救助、お見事でした。二人とも無事に脱出できたのは、貴女のおかげです」
「私達が無事にアリーナから離脱できたのは、貴女が迎撃をしてくれたからですわ」
そう言えば、彼女はずいぶんと変わったように思う。入学当初での彼女の様子と比べて、少し素直な性格になったような気もするのだ。比較対象が入学からのごくわずかな短期間しか接していない時の印象なので、こっちが素である可能性の方が高いが。
「一夏さんは、二機目の件については既に?」
「ええ」
私の問いにセシリア・オルコットは頷く。
「隠す事もないと、織斑先生がすぐに伝えてらしたようですわ。先程会った時は、その一件について真っ先に聞かれましたもの」
確かに、隠すような事ではない。ならば、私が彼に会った時に改めて伝える必要はないという事だ。
「それで、何とお答えに?」
「概要だけ、お伝えした程度ですわ。わたくしは、お二人を連れて撤退しただけですもの」
彼女の言い方に引っ掛かりを覚える。彼女からしたら、今回の一件について不満な部分があるのかもしれない。パッと見た限りでは普段通りという様子だが、先程の言葉には少し含みがあるように感じられた。
「そうですか、では詳細は私の方から申し伝えます」
「ええ……そういえば、オルフィレウスさんは身体の方は大丈夫ですの?」
「何も問題ありません。ISの防御機構が上手く働いてくれたようですから」
衝撃力に優れた大口径弾を生身で受けたなら身体がバラバラにされてしまったかもしれないが、ISの優れた防御機構のおかげで何事もない。一応、と戦闘後にブラックバードを使って自分に対しての検査を掛けてみたが何事もなく平穏無事という結果だった。
「それなら安心しましたわ」
「御心配、感謝します」
「別に、感謝されるような事ではありませんわ」
心配してくれたのだろう。感謝の言葉を伝えると同時に、セシリア・オルコットへと軽く会釈をする。彼女は少し気恥ずかしそうな様子で視線を逸らしながら言う。
「それにしても、皆さん少し気を張り詰めているように見えますね」
「事件の後、と言われれば当然なのでしょうけれど。昨日までよりも浮ついているように見えますわね」
口にはしなかったが、それについては私も同感だった。
学園内の雰囲気はどうにも、ピリピリとしている様子よりも浮ついた雰囲気の方が感じられる。特に、新入生達にその傾向は多い。今まで特別な訓練を受けて来たとはいえ、今までずっと安全な環境に居た彼女達だ。今日のような事は初めてなのかもしれない。仕方ないのかもしれないが、少し不安を覚える。
「わたくしたちがしっかりしないと、いけませんわね」
「ええ、そうですね」
セシリア・オルコットの言葉に頷き、同意を示す。当事者であり、またISの専用機持ちという世界でも限られた存在である自分達が毅然とした態度であるべきだと彼女は言いたいのだ。他の生徒達が不安を抱いている状況でも、私達の行動でいくらかはその感情が拭えるのかもしれないとすれば、やるべきだ。
「では、私も少し溌溂とした雰囲気で行きましょうか」
「それはそれで不安になるので、止めてくださいまし」
「何故です」
無論、理由など分かっている。セシリア・オルコットは、微かに笑みを零していた。
病室まで到着し、セシリア・オルコット、私の順で中へと入った。
先程も見た病室の様子には変化こそないが、其処には先客が居た。
「げっ!」
「お、キャロルにセシリアか」
開いた扉に反応し、此方へと振り向いた鳳鈴音と織斑一夏。言うまでもなく鳳鈴音が先に声を発した方である。彼女は私達を見るなり気まずそうに、表情をひきつらせていた。そんな様子とは対照的に、織斑一夏は元気そうな様子を見せてくれた。一つ、懸念していた要素が消えた。
「鈴音さーん? 抜け駆けは厳禁というお話だったはずでは?」
「あ、あはははは……ってか、それを言うならアンタだって抜け駆けしようとしたんじゃないの!?」
「あら、わたくしはオルフィレウスさんの付添ですから。抜け駆けとは言えませんわね」
すたすた、と早歩きで病室内に入ったセシリア・オルコットは鳳鈴音の胸元に人差し指を突き立て、問い詰める。抜け駆けなど私の把握していない単語が飛び交っているが、どうやら、私の知らないところで色々と話があったらしい。一先ず私は無関係なので会話には入らずに、織斑一夏の寝ているベッドの隣へと向かい見舞いの言葉を掛ける事にした。
「御身体の方は如何ですか?」
「いつも箒たちに扱かれてた御蔭で、もうピンピンしてるぜ。ま、明日になったら完全復帰できるだろ」
「それは何よりです。お元気そうで安心しました」
織斑一夏の元気そうな様子を見て安心する。彼が経験した初の実戦という事で、精神面でのダメージを負っていないか心配だったが、杞憂に終わった。
彼は、包帯に巻かれている腕を持ち上げ力こぶを作るように見せてくる。見たところ動きに問題は無く、後遺症もなさそうだ。
「ところで、話は変わるんだが……」
「なんでしょうか?」
織斑一夏は視線を私からずらし、背後で未だにやり取りを続けているセシリア・オルコットと鳳鈴音の二人へと向けた。彼が何を言いたいのか、だいたいわかった。
「そろそろあの二人、止めた方が良いよな」
「……そうですね」
個室とはいえ、これ以上病室で騒がれるのもあまりよろしくない。仕方ないので、私が二人の仲裁に入る事になった。織斑一夏の場合、今までの経験から入って来るなと跳ね返される可能性が高いのだ。
「お二人とも、此処は病室です。お静かに」
ナースコールを片手に、二人へ見せるようにしながら説得を行う。彼女等は声をかけると同時に私へと視線を向けるが、手に持っている物を見て意図を察したのか、大人しく従ってくれた。
「それではお二人も此方へ、本日の件についての話があります」
ナースコールを置き、私はセシリア・オルコットと鳳鈴音の両名を織斑一夏のベッドの近くへと来るように促す。今日の一件について、という事で大人しく従ってくれた二人だったが、やはりその間には良好というような関係では無く、牽制し合うような雰囲気が漂っている。
先が思いやられる状況に内心で嘆息しながらも、このままでは埒があかないので話を進める事とした。
「まず、本日襲撃してきた敵機ですが私と、お二方の交戦した個体とでは、機体外見以外にもいくつかの差異がみられました」
「俺達はあの黒いやつと戦った後は気を失っちまったから、よく分からないんだよな。キャロルの方はどんな相手だったんだ?」
「少々お待ちください……今すぐ出しますので」
織斑一夏の要望に応えるべく端末を操作する。入力を意味する短い電子音が連続した後、ブラックバードに記憶した戦闘中での記録映像が空中に投影される。
「白いな」
「私達のは黒だったわね。それに見た目も、こっちの方が機械じみてる」
外見的な特徴から二人は口にし始める。それに合わせ、どうにか確保した黒い敵機の方の静止画像を投影し、両方の機体を並べて映す。
「確かに。一夏さん達が対峙した機体は、全身装甲を採用しているISと外見的な類似点がありました。ですが、次の未確認機に関しては人型でしたが、一目で無人機と分かります」
「別系統の機体……と考えた方が良さそうですわね。外見的特徴だけで語ってしまって良いかは判りませんけれど、両方の機体に類似する点は少なすぎますわ」
セシリア・オルコットの言った通りだろうというのは、私の見解でもある。この二機はそれぞれ製作者が別に存在していると思われる。それは機体の外見的特徴だけでなく、武器や動いているときの様子からも言える事だった。
「セシリア・オルコットさんの言うとおり、この二機の共通点は無人機であるという事以外には不明です。外見的にも類似点が少ない」
そして、自分は実際に対峙して戦ったから分かる事だが、間違いなく、敵は何らかの意思を持っていた。機械によって制御されている無人機であるにも関わらず。
「キャロルは何か知らないのか?」
「……何とも言い難いですね、あのような機体は初めて目にしましたから」
織斑一夏の問いかけに首を横に振る。彼はそうか、と言ってから考え込むように腕を組んで神妙な面持ちを浮かべる。
正直に言うと、思い当たるものが無いわけではない。篠ノ乃束が私に通信で言った事の筋も通る。可能性としてはかなり高い。だが、どうしても、私の知っているものとは形態が違い過ぎていた。全くの別物と言っても良いほどに。
「……そういえば、キャロルって確かISの装備開発とか設計をしてるんだっけ」
「はい。それがどうかしましたか?」
暫くの間が空き、私達織斑一夏に確認するような口調で話しかけられる。そういう話をした事もあったのを思い出しながら、私は織斑一夏の言葉を肯定した。
「無人機は有り得ないって話があったけどさ、技術者的視点から見たらどうなんだ?」
「何故、そのような事を?」
「なんていうか、キャロルは無人機って事にあんまり驚いてない気がしてさ」
成程、と内心で納得する。確かに織斑一夏の言うとおり、私は無人機が現れたという事に対して鳳鈴音や、セシリア・オルコットほど驚いては居なかった。それは篠ノ乃束が関わっているという事を知っているからだろう。それ以外の理由もないわけではないが。
ただ、余計な誤解を生まないようにするためにも彼の疑問については説明しておくべきだろうか。説明が余計な誤解を生む事もあるだろうが、織斑一夏に限ってそれは無い様に思えた。
「これでも一応、驚いてはいます」
「そうなのか」
「ですが、無人機に関しては手段さえ問わないのであれば可能と考えています」
少し迷ったが、結局説明をする事にした。グレーゾーンに踏み込む内容ではあるが、話さない事によって生まれる疑念のリスクの方が高いと判断したからだ。
今まで、織斑一夏に対して無条件に協力者というスタンスであった私がこのタイミングで解答を渋れば、織斑一夏はともかくとして他の二人に余計な疑念を抱かせる事になるかもしれない。
「これはあくまでも、私個人が客観的に見た場合の考えでしかない。その事をお忘れなきように」
「ああ、分かってる」
前提として、これから話す内容は私個人の考えである事を全員に伝える。他の二人にも目配せをし、二人が頷いたのを確認したところで私は話を始めた。
「ISは人間の女性にしか反応しない。逆を言えば、人間の女性と認識できるものを部品に用いれば良いという事になります」
「例えば?」
「人間女性の体組織、あるいは頭脳を培養。それをコンピューター部品とする……今聞かれてすぐ浮かぶものと言えばこれくらいでしょうか。まあ、実際に試したことが無いのでどうなるかは不明ですが」
「あまり気持ちのいい話では、ありませんわね……」
見ると他の二人も同じような反応だ。人体をパーツにして機械を動かすなど、お世辞にも正常な考えとは言えない。
「ですから、誰もやらないのでしょう」
ISを動かす為に必要とされる女性。その時点で、根本的な違いは無いとも思うが。今だって、個人個人に選択の余地があるとはいえ、ISを扱う事の出来る女性は部品だ。強力な兵器をコントロールするための装置でしかない。ISに選ばれているという時点で、その力関係がどれだけISに有利であるかなど、明確だ。
「あとは、実に空想科学的な発想ですが電脳化という方法も一つの手かとは思いますね」
「そこまで行くと、本当にサイバーパンク小説みたいだな」
そう言った織斑一夏は口元をへの字にし、若干の不快さをにじませる表情を浮かべていた。セシリア・オルコットも、鳳鈴音も似たような表情だった。
「ですから、まともじゃないという事ですよ」
三人にそう言って、私は話を終える。
私が話した事について結論を作るのであれば、三人の表情が一番の答えだろう。
世界で共通して有り得ないとされる存在に対する問いの答えがどんなものであったとしても、それは確実に、まともじゃないのだから。
いつもより早い投稿(二か月ぶり)。
すみません、もっと頑張ります。