女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
感想をくださった方ありがとうございます。これを励みにして頑張って行きます。
篠ノ之箒は焦っていた。当然だが、彼女の焦りには理由がある。それは織斑一夏に関することで、乙女的に火急を要する事態だった。
(何なのだあいつは、一夏とあんなに親しげに話して。羨まし……じゃない、一夏もあんな素性の知れん奴に簡単に気を許すなんてどうかしている)
彼女は織斑一夏の幼馴染であり、家族ぐるみの付き合い――その頃から一夏の両親は居なかったが――すらあった仲だ。それだけなら一夏を心配して一喜一憂する幼馴染という枠に収まるのだが、彼女の場合はそこに厄介な要素が一つ付随していた。
何を隠そう、篠ノ之箒は恋する乙女なのだ。織斑一夏は彼女にとって現在進行中の初恋の相手であり、それ故に彼に関する事柄で箒は冷静さを失う傾向にあった。
そんな箒が織斑一夏以上に考えている相手は同じクラスのキャロル・オルフィレウス。
彼女の自己紹介における千冬や真耶に対する態度というのは、目上の人間に対しては敬意を以って接するべきという考えを持っている箒にとっては受け入れがたいものだった。
そんな事情もあって第一印象が悪かった人間が、今度は想い人と親しげに会話をしている。話をしていただけならまだしも、彼女は一夏に対して必要以上に親切にしている。そんな姿は色目を使っているように見えてしまった。
箒の視点で――という前置きはつくが、二人の様子を見ていた箒が不機嫌になるのも無理はない話だ。
キャロルが自分と同じように、一夏に行為に近い感情を抱いているのかはわからない。だが、箒にはこれ以上の遅れは許されないのだ。
「……ちょっといいか」
そう考えた以上は行動に移す。篠ノ之箒は真っ直ぐな人間なのだ。
一時間目の授業が終了した。どうやら先程のメモ用紙に記したページをちゃんと見たのか、織斑一夏は授業の内容が何もわからないという状況を避けれたらしい。それでもやはり他に比べて遅れをとっている事には間違いがないので個人での勉強が必要だろう。
そんな彼はつい先程、篠ノ之箒に廊下に呼び出された。篠ノ之箒のまとう雰囲気がどこか実戦に臨む前に似た緊張感を纏っているような気がした。幼馴染に話しかけるだけでそんなに気張るものだろうか、と思いはしたが何らかの事情があるのだろう。
二人が教室の外へと歩いて行くのを見送った私は、一人の女子生徒に話しかけられた。記憶を探り、名前を思い返す――イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
「ちょっとよろしいかしら?」
「私でしょうか?」
「あら、貴女以外に話す相手が居るとでも?」
彼女は名家の出身だという言葉に違わぬ、尊大な態度を取っている。さてどうするか……雰囲気としては、私に興味を持って話しかけたという様子ではない。
「居ないでしょうね。しかし私に話しかけたと断定するに足る判断材料が不足していたものですから、確認を取らせて頂きました」
「あら、表情に比べて口はよく動くのですね」
「それはどうも。それで、どのような御要件でしょうか?」
二三の言葉を交わし、やはり彼女は私に興味を持っていないのだと確信する。私に興味が無いのであれば、彼女の狙いはやはり――
「あの男、貴方から見てどう思うか聞かせて頂ける?」
織斑一夏、他には考えられない。
「どう、とは質問の意図が不明ですね。もう少し何を聞きたいのか、具体的に仰ってください」
セシリア・オルコットの目が細まり、浴びせられる視線が変わった。興味が無い相手に向けるものから若干の威圧を与えるようなものへと。
「確かに、下々の者には思考が追いつかなかったかもしれませんわね。わたくしは親切ですから、教えて差し上げますわ。わたくしが聞きたいのは、あの男がこの場に相応しいかという事」
「つまり、貴方は彼がこの場にふさわしくないと思っていると」
「ええ、そうですわ! あのような自覚の足りない男が、世界で唯一たるこの学舎に居るなんて納得いきません。そんな男がこのわたくしを差し置いて持て囃されて浮かれている様子なんて気分が悪くなりますわ」
情熱的に語るセシリア・オルコット。彼女は成程、今までの一夏の様子が納得行かなかったのだろう。言いたいことはわからないでもない。彼はISを操縦出来る男性という、今現在では世界で唯一の特例なのだ。そう言った特別な存在には義務や周囲からの期待といった様々な要素が勝手に付いてくるものだから。だが、当の織斑一夏はそれを自覚していない。それが彼女は気に入らなかったのだろう。
しかし、それを私に告げるのは筋違いだ。私が彼の自覚の有無について何か出来るとは思っていないし、しようとも考えていない。そんなものは織斑一夏がやるべきことで他人がどうのこうのと説教をして分かるようなものじゃない。自覚は自分でしか抱くことが出来ないのだ。
「だいたい男なんて――」
「それで、貴女は私にそれを言ってどうなさるおつもりで? この場には織斑一夏は勿論のこと、織斑先生も山田先生も居ません。此処でご高説頂いた所で、貴女がのぞむような展開にはならないでしょう」
「だから、わたくしが言いたいのは……!」
「申し訳ありませんが、私は陰口に付き合う趣味は無いので。他をあたってもらえると助かります」
「…………」
言葉を遮り私は会話を打ち切るつもりで、反論さえ許さないように勢い良く思った事を順序立てて言葉にした。それだけなのだがセシリア・オルコットは何やら思うところでもあったのか、先程まで存在していた彼女の勢いは何処かへと消えていた。
「そうですわね……ええ、貴女の言う通りですわ。貴女に言ったところで何にもならない」
「……」
「この場に居ない人間を貶すのは卑賤な行い、そんな分かりきった当たり前の事をつい忘れていましたわ」
直前までとは別人のように静かになったセシリア・オルコットは、私を澄んだブルーの瞳で見つめる。
そこに含められた感情が変わっている事に気づくのに時間はかからなかった。些細な変化ではない。有象無象に向けるものから、相手として認識した目に変わっている。私としては余り嬉しくない変化だ。
「キャロル・オルフィレウス……貴女の名前、覚えておきます」
セシリア・オルコットは一言、私に告げて自分の席へと戻っていく。彼女の背から視線を離すと、先程まで外にいた織斑一夏が教室に戻ってきた。セシリアが去って肩を下ろし嘆息したところにちょうどのタイミングだった。
「キャロル、何してんだ?」
「いえ、何も」
そうしていたのを見られた私に織斑一夏が何をしていたのかと問いかけられた。彼の事で話をしていた、というにしても内容が内容であるため言わずにはぐらかす。セシリアのあの調子であれば近いうちに彼に対しての行動を取ると予想している。それ故の判断だ。
「次の授業はこのページを参照すれば良いかと」
「おう、わざわざ有り難うな」
サラサラとペンを走らせてページをメモ用紙に書き出す。次の授業は先程のようにはいくまいと考えて彼が廊下に行っている間に作っておいた専門用語を例えなどを絡めた簡単なリストと一緒に差し出した。織斑一夏は嬉しそうに笑いながら私の差し出したそれらを受け取った。
「お気になさらず。私が好きでやっていることですから」
「いやいや、さっきの授業もキャロルのお陰でなんとなくだけど分かったしさ」
「そうですか。でしたら、こちらとしても教えた意味があったというものです」
本当にわかったのだろうかと思いながら会話を続ける。IS学園はISという事にのみ特化した専門学校だ。その授業は必然的に専門用語が多くなるし、他では学ぶことが出来ないような内容の話も出てくる。それ故に事前学習がかなり重要になってくるのだが、授業前に読んだくらいで授業を理解できたのなら、彼は天才と呼べるタイプの人間だろう。
もしそうだとしたら、彼がISを扱うことが出来るという事実も相まって織斑千冬の弟だから、という言葉だけでは説明できない何かを感じさせる。少し彼のことを調べてみる必要があるかもしれない。
二時間目の授業は特に何もなかった。しいて言うならば織斑一夏が織斑先生に出席簿で叩かれ、山田先生を困惑させて織斑先生に出席簿で叩かれるというこの短時間で見慣れた光景が繰り広げられていたくらいだ。
ちなみに、頭を叩くと脳細胞が死滅すると言われるがこれは古い脳細胞に当てはまる事で、新しい脳細胞は巷で騒がれているほど死なない。ただし、脳に衝撃を与える事で電気信号のやりとりが正常に働かなくなることもあるのだ。まあ、脳細胞云々がどうという話は関係なく頭を叩くのは良くないということだ。
「ISが機体の周囲に展開されているシールドは、ISのコアから生成されている素粒子による安定した還流を用いることで高い防御力を実現しています」
そして、現在はISの基本的な機能に関する講義内容になっている。山田先生の声は聞き取りやすく、説明も丁寧。用語の意味がわかっている状態の織斑一夏なら、その理解力で講義の内容を理解することは出来るだろう。
「しかし、当然ながら最新技術を用いればこのシールドを突破し操縦者へとダメージを与える事が出来る装備や兵器も存在します。こういったものは国際規定違反とされ、全面的に使用が禁止されています」
山田先生の説明を聞きながら私は以前に企業で開発した装備にそういったものがあったのを思い出す。例として一つを挙げると、限界以上に収束率を高め、絶対防御を無視出来るほどの出力の攻撃で操縦者を葬りISの無力化を目的とした一撃必殺のレーザーライフルがある。これは発振機の寿命が極端に短く、数発撃ったらもう使えなくなるという分かりやすい欠陥が存在している。そこでふと、教室の黒板の端で腕を組みながら山田先生の授業を見守っている織斑先生――初代ブリュンヒルデの代名詞とも言える近接ブレード”雪片”について一つ、退屈しのぎに考察を行う。
雪片は単一使用能力との組み合わせを前提としており、自らのシールドエネルギーも消費することで敵機のシールドを薄紙のように切り裂くほどの出力を持ったレーザーブレードを形成するという装備だ。
この装備の開発資料などは倉持技研のトップシークレットとして扱われているため詳細を知ることは出来ないが、防御用の機能を攻撃用に転換して運用するという点において第四世代のコンセプトである、装備の換装なしでの全領域及び全局面展開運用能力に近い事から、第一世代型である暮桜には第四世代の技術が使われていたのだろうと推測する。
これが彼女の強さの秘密の一つだったのだろう。武装以外にも技術が使用されていたのかは不明だが、そうでない可能性はかなり高いものだと思われる。第一回モンド・グロッソが開催された当時、篠ノ之束は既に第四世代の開発が可能だったということだろう
。もしそうだとしたら、暮桜は現在でも現役で戦える性能を持っているだろうと私は考えている。
暮桜のコアは織斑千冬が引退した後はどこへ行ったかわからなくなっているが、案外この学園が切り札として保有している可能性も否定出来ない。このIS学園は新型機だけでなく訓練機も存在し、それでいてそれらを運用するものには学生が多いとなればそれくらいの事はしていて然るべきである。
私はおもむろに上げようとした手を止めて、下ろした。頭の頂点部分に強い衝撃が走った。
「確かに、結構響きますね……」
「オルフィレウス、余計なことを考えながら授業とは随分と余裕だな」
怪訝そうな視線を向けながら織斑先生は出席簿を振り下ろした状態でそう言った。
「申し訳ありません、織斑先生。今後気をつけます」
鈍痛の残る頭を下げて自らの失敗を詫びる。しばし無言で私を見つめた後、織斑先生は視線を一般生徒に向けるそれへと戻し、先程までいた自分の位置へと戻っていった。
少なくとも授業はまじめに聞いているような様子を見せておく必要があるだろう。私は自分にそう言い聞かせ、苦笑しながら授業を再開した山田先生の話へと意識を向けることにした。
このSSでは、今後も暮桜にしたように私なりの解釈などを含めていきますが、矛盾点などあれば教えてもらえると幸いです。