女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
二時限目終了後、次の授業のためにカンニングペーパーの作成に勤しんでいると、つい先程聞いたばかりの声が前の席から聞こえてきた。早いなと思いつつ私は顔を上げしも声の主であるセシリア・オルコットと織斑一夏の会話に意識を向けた。
「訊いてます? お返事は?」
「……ああ、訊いてるけど。どういう用件だ?」
「まあ!なんですのその、お返事は」
その反応はどうだろうか。これでも初対面なのだから互いに失礼のないように接するというのが立場の有る人間というものだ。仮にも代表候補生を名乗る以上は、そう言った辺りの心得も必要だと思っているのだがイギリスでは違うのだろうか。
織斑一夏の方の返事が良いわけではないのだが高圧的に出てきたのはセシリア・オルコットなのだから、彼を責める事は出来ないだろう。
「わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」
「…………」
「っ…………」
セシリア・オルコットの発言に内心で苦笑をする。彼女の発言は要約するとこうだ『たかだか男のくせに調子に乗るな』。今の世の中が女性上位の社会となっている事は否定しないが、それはISを使用出来るのが女性のみであるという前提があるから成り立っているもの。織斑一夏は世界でただ一人の男性でISを使用出来る人間なのだ。国家毎に十数人の代表候補生の一人程度と希少価値は比べることすら出来ない。
そして俗的な考え方としてだが、クラスメート全員に聞けばセシリア・オルコットに話しかけられるよりも織斑一夏に話しかけられるほうが光栄と答えるだろう。
つまり、彼女はこのクラスから一人だけ浮いている。クラス全員からの非難するような視線がセシリア・オルコットへと集中する。彼女はそれに気づいていない。それだけならばいいのだが、何故かその視線の一部が私に向けられていることにも気づいた。その視線の主を盗み見る。その女子生徒は私と目があった事に気づくと「止めなさいよ」と言うようにジェスチャーで示してきた。
面倒な、何故私がと思うのだが同じような視線は次第に増えていく。
ここで我関せずを通してもいいのだが、クラス全体への印象操作という目的も含めて考えるとここで何らかの行動を起こすのも悪くはない。利益と不利益。その二つを比較し、私は利益を取ることを選んだ。
「…… 少々よろしいでしょうか?」
「あら、オルフィレウスさん。わたくしは今、この男と話をしているのですけれど」
会話の途中で割り込んだ私に、邪魔をするなというセシリア・オルコットからの視線が向けられる。しかし私はこれに関わると決めたのだから、引くつもりは一切ない。
「申し訳ありません。ですが、彼はこの男ではなく織斑一夏という名前があります、イギリス代表候補生殿」
「それが今、何の関係があるのかしら?」
セシリア・オルコットは私の方を向き、何を言いたいのかと問いかけてきた。
「彼と貴女は初対面。そうでなくとも貴女は英国の代表候補生であり、皆が貴女を見て英国がどういった国かを判断します。それ相応の態度というものがあるのでは?」
彼女は代表候補生であるということにプライドを持っている。ならば、怒らせるのも静かにさせるのも代表候補生についての話題を繰り出せばそれなりの効果は見込めるはずだ。
予想通り、彼女はムスッとした表情で黙り込んだ。それを確認し、何とかなったかと嘆息しながら自分の席に戻ろうとするが、織斑一夏に呼び止められた。
「キャロル、質問してもいいか?」
「どうぞ、織斑一夏さん」
わざわざこの場でする質問とは一体何なのだ。私は少しばかり嫌な予感を覚えながらも織斑一夏に応じる。
彼はサンキューと一言告げてから、大真面目な表情になる。私はどんな質問がくるのかと少しばかり気構えて、
「代表候補生って、何?」
あっさりと今の状況を全部覆した織斑一夏の言葉に全てが停止する。流れる沈黙、織斑一夏の一言で私の仲裁は無駄になり、私はセシリア・オルコットを止める事を諦めていた。
「あ、あ、あ、あ、貴方は本気でおっしゃっていますの!? 代表候補生はISの操縦者を目指すものなら知っていて当然の事。その意味もわからないなんて、本当に貴方は何なんですの!?」
数秒の停止の後、復活したセシリア・オルコットが顔を真っ赤にしてまくし立てる。織斑一夏の机に両手を叩きつけて身を乗り出すほどの勢いだ。
「知らないものは知らないんだ、仕方ないだろう」
出来ない人間にやれと言っても仕方ないのと同じように知らない人間にその意味などを尋ねてもどうしようも無いというのは分かる。なら何故知っていないのかという事になるのだが、その責任は私にある。授業の内容には関わらないだろうと推測していたため、彼のカンニングペーパーに書いておかなかったのだ。とりあえず、説明くらいはしておかないといけないだろう。
「代表候補生とは、IS操縦者の最精鋭たる国家代表の候補生たちの事を指します。ISを扱うにあたって必要となる格闘、射撃だけでなくあらゆる訓練を積んだ彼女らは個人としてとても高い能力を有しています。選ばれるためには国内で行われる大会や模擬戦等で優秀な成績を収める必要もありますので、実力がなければなれない立場です」
「あー……つまり、選りすぐりってことか?」
「そう! エリートなのですわ!」
セシリア・オルコットはついさっきまでの剣幕も収まり、得意げな様子で胸を張っていた。そしてそのまま指先をピシっと一夏へと向けて言葉を続ける。
「そしてわたくしは専用機持ち。わたくしのような選ばれた人間と同じクラスというだけでも、貴方の一生分の幸運を使い果たすような奇跡なのよ。そういう現実を理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
棒読みな口調で一夏は言う。それではセシリア・オルコットを怒らせようとしているようにしか思えないが、素でやっている辺りなんとも言いがたい。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこのIS学園に入れましたね。世界で唯一、男でISを操縦できる聞いてましたから、どれほど知的な方かと思っていましたけれど、期待はずれですわね」
「俺に何か期待されても困るんだが」
うんざりしたような表情で告げる織斑一夏。政治的な配慮で暫定的にこの学園で入れられ、勝手な期待を抱かれるという立場に同情はする。実際に今の彼に対して何かを期待しても何も出来ないのだが。
ただし、セシリア・オルコットはそれもお構いなしに彼の言葉が気に入らなかったようで、蔑むような目とともに鼻で笑った。
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような能力の低い方にも豊富な知識を分け与えてさし上げてもよろしくてよ?」
「いや、キャロルに聞くから必要ないぜ」
即答した織斑一夏。授業に関する手助けをしたのだから、こういう事を言われるのは予想していたのだが、わざわざ方に腕を回してから言う必要は無いだろう。
「あらそう、残念ですわね。入試で唯一、教官を倒したこのわたくしからの指導を受けられる機会なんて他に無いでしょうに」
セシリアは入試の模擬戦闘で教官を倒したらしい。それなら彼女には一定以上の能力が有ると考えていいだろう。入試の模擬戦闘に関しては特別推薦枠でねじ込まれた私には関係が無かった事なのですっかり忘れてしまっていた。
「入試ってあれか? ISを動かして戦うやつ?」
「それ以外に入試はありませんわ」
一応、筆記試験も有るのだが彼女は国家代表候補生ということもあって免除されたのかもしれない。織斑一夏に関しては言うまでもない。
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は……?」
「…………」
織斑一夏は嘘を言っているのかと思ったが、その様子から嘘を言っているようには見えない。もし彼の言葉が本当で、初回の起動でそこまで出来るというのなら、彼はかなりの素質があるだろう。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
さすがにそれは無いだろう。唯一の男子生徒が教官を倒したというのならば結構な噂になっているはずだ。
「あなた! あなたも教官を倒したっていうの!?」
「うん、まあ。たぶん」
「たぶんって、どういう意味かしら!? はっきりしてくださる!?」
セシリアがもっともな反応をする。まあ、こんな曖昧な返答をされたらプライドの高いセシリア・オルコットのことだ。こういう反応をしても不思議ではない。
「えーと、落ち着けよ。な?」
「ふざけないでくださいな! これが落ち着いてなんて――」
セシリアの言葉に熱がこもる。ヒートアップし続けるセシリアの勢いはもはや何を言っても意味が無いのではないだろうかというほどだった。だが、そんな凄まじい勢いも容赦なく割り込んだ無機質なチャイムの音によって強制的に中断させられた。
「っ……! またあとで来ますわ。逃げないことね! よくって!?」
一方的だが言い争いにも似た雰囲気になったというのに、彼女はまた織斑一夏のところに来るつもりらしい。彼女も少し変わっているのかもしれない。
「織斑一夏さん、そろそろ肩から手を離して頂けると助かります」
「ん? ああ、悪い悪い」
彼女を見送った後、肩に置かれていた手を離すように彼に言うと、作っておいたカンニングペーパーを差し出す。
「次の授業の分です。作っておいたのでお使いください」
「サンキュー、キャロルと一緒のクラスになれて良かったよ」
「ありがとうございます、織斑一夏さん」
そう言った織斑一夏の笑顔を見ながら私は言葉を返し、織斑先生の出席簿による一撃を回避するべく自分の座席へと戻った。
授業が全て終わり、解散前に行われるHR。朝のHRでは時間が足りずに出来なかったクラスの役職や日直の分担などの話が行われていた。
日直は名簿順に一日交代。掃除当番は座席の列毎に週で交代という事が決まり、今度はクラスにおける役職を決めるという話になった。
「さて、それでは再来週に行われるクラス代表対抗戦に出場するものを決めてもらう」
織斑先生が教卓に立ち、クラス全体に聞こえる声でそう言った。
「織斑先生、クラス代表っていうのは何ですか?」
一人の生徒が挙手をして、クラス代表とは何かという事について質問をする。織斑先生は腕を組んで背筋を伸ばし、クラス全員へと説明を始める。
「クラス代表とは、文字通りクラスの代表のことだ。再来週に行われる代表対抗戦だけでなく生徒会の会議、委員会への出席。要するにクラス長と考えてくれて構わない。そう言った役割をするのがクラス代表だ」
成程、悪く言えばクラスの雑用係というわけか。しかし、こういうリーダーというのが好きそうな人間がこのクラスに一人いるのだから彼女に任せてしまえば一瞬で会議の内容は終わるだろう。
そう思った私は、好きそうな人間であるセシリア・オルコットを盗み見る。思った通り、自分の席にふんぞり返った様子で織斑先生の話を聞いていた。どうやら、私の予想に間違いはなかったらしい。
「自薦他薦は問わない、誰かいないか?」
織斑先生の言葉を聞き、それならばわざわざ会議に関わる必要は無さそうだと考える。少しの時間になるだろうが何を考えていようか。
「はい、織斑くんがいいと思います!」
いや、待て。
「私もそれがいいと思います。織斑くんを推薦します」
「お、俺!?」
何故そうなる?
織斑一夏は素人。それは今日の授業やHRでの様子を見ていたクラスの全員ならわかっているはずだ。
織斑千冬の実弟だから何とかなると期待して? 有り得なくはないが、私は確証もない理由で他人の印象を決定するのは愚行だと考えている。
遊び半分、興味本位で推薦をした? だとしたら、私は彼女たちを軽蔑しよう。
「他に居ないのか? 居ないなら無投票当選だぞ」
この事態にも冷静に場を取り仕切る織斑先生は、いったい何を考えているのだろう。その様子からは何も読み取ることは出来ないが、このまま他に候補者がいなければ織斑一夏を代表に決めるつもりだというのはよく伝わってきた。
「ちょっと待ってくれ。俺はそんなのやらな――」
「辞退は認めん。クラス代表という名目である以上、クラスの者に選ばれてしまったのだから結果として受け止めろ」
織斑先生の考えを把握する。要するに指名権は誰にでもあるが指名される権利も全員に有り、クラス代表なのだからクラスメートに選ばれた者はそれに応えなくてはならない。
「そんな……」
織斑先生の容赦無い発言に絶句する織斑一夏。彼を気の毒に思う気持ちが無いわけではないが、私はそれ以上に思うところがあったため挙手をした。
「織斑先生、発言の許可を」
「オルフィレウス、許可する」
発言の許可を得た私は立ち上がリ、この場を取り仕切る織斑先生の目を見つめる。やはり、彼女の目からは考えが読み取れない。
「私は彼がクラス代表となることに反対です」
「理由を言ってみろ、オルフィレウス」
私の言葉を聞いた織斑先生は、その口元に不敵な笑みを浮かべながら続きを促す。
「彼は素人です。ISの初起動から二月程度しか経っていないという人間に、他のクラス代表と渡り合えるほどの実力があるとは思えません」
そして言わなかったことだが、理由はまだある。可能性の一つとして彼がクラス代表としての実力が他クラスの代表たちに比べて圧倒的に劣っていたとしよう。彼がクラスの者達に恥晒しなどと蔑まれる結果になったとしよう。そうなった場合に誹りを受けるのは織斑一夏だけであり、彼を推薦した他のクラスメート達は被害者ぶった態度を取っているだけだろう。そういう光景はひどく不快だ、目にしたくない。
「なら、お前は代わりに誰がクラス代表になるという? 他に候補者が居ないのならばお前の意見も通せんぞ」
「他の候補は考えていますのでご安心を。実力的に問題がなく、信用できるだけの肩書きを持った生徒が居ます」
私は一度言葉を区切る。クラス全員の意識が私へと向けられた頃合いを見計らってから、私が考える候補の名前を口にした。
「イギリス代表候補生、セシリア・オルコット――彼女をクラス代表として推薦します」
「望むところですわ!」
威勢のいい一言とともにセシリア・オルコットが立ち上がった。
「クラス代表となるべきは相応しい実力を持つものが成るべき。ええまったく、その通りとしか言い様がありませんわ。だというのに、物珍しいからという理由だけであんな猿にされては困ります! わたくしがわざわざ、本国を離れてまでこのような辺鄙な島国に来ているというのもISの操縦技術の修練を行うため。サーカスをする気なんて毛頭ありませんわ!」
彼女は先程休み時間で見せた剣幕に勝るほどの勢いで口調を荒げる。さすがに猿やらサーカス云々に関しては同意しかねる――というか不要な発言だと思うが、それ以外には大方同意する。まあ、ISの操縦技術の習熟などといった正しい目的で来ていない私が他のクラスメート達にそれを求めている事に対して内心で自嘲を覚える。
「大体、文化としても後進的な国でくらさなくてはいけないことじたい、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
怒涛の勢いという言葉が似合うようなセシリア・オルコットの言葉に反応したのは、意外にも織斑一夏だった。
「イギリスだって大してお国自慢無いだろ。世界一まずい料理で何年連続覇者だよ」
「なっ……!?」
何故こうも織斑一夏は彼女を怒らせる事を言うのだろうか。先に文化を非難してきたのはセシリア・オルコットだが、それに応えてしまったのは織斑一夏だ。
「あっ、貴方、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
そのセリフはセシリア・オルコットが言えたことではないだろう。
「決闘ですわ!」
「おう、いいぜ。四の五の言うよりもわかりやすい」
宣戦の布告はいとも容易く、しかし明確な敵意を以て行われた。織斑一夏は一切の迷いなく、望むところとそれを受け取る。セシリア・オルコットと織斑一夏、両者が互いに互いを敵として認識し合った瞬間だった。
二人は睨み合う。視線と視線がぶつかり合う。それは敵を全力で排除する意志の表明であり、容赦や加減といった無粋な行いを許さないという契約。
「ハンデはどれくらいつける?」
「要りませんわ」
「だろうな」
「貴方こそ、ハンデがほしいならつけてあげてもよろしくてよ?」
「誰が要るかよ。負けた理由にされたら困るからな」
交わされる言葉は形式的なものでしか無い。セシリア・オルコットは自らの勝利を疑わず、織斑一夏は必倒の意志を持っている。常識的に考えれば織斑一夏に勝機はないが、いかなる事例にも例外はある。彼がそうでない人間ならばそれでいい。しかし彼が例外ならば私は、彼の事を見極めなければならない。
「決まったようだな。勝負は一週間後の月曜、HRの時間を用いて第一アリーナにて行う。織斑、オルコットの両名はコンディションの調整をしておけ。それでは、解散!」
全ては一週間後の第一アリーナで分かること。私は自分にそう言い聞かせながら、セシリア・オルコットに許しを請うことを薦めるために織斑一夏のところに集まりだした女子達の姿を眺めていた・
序章3です。
前回のように誤字があるかもしれませんが、気づいてくださった方は教えてくださると幸いです。