女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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二章9

「――以上が、彼女の専用機打鉄弐式を取り巻く状況にあります」

 

 私は織斑一夏に打鉄弐式の状況を語り終える。

 試作機の建造段階までいっていたが、開発は難航していたこと。

 織斑一夏の登場によって、彼の専用機が優先されたこと。

 そしてその試作機の登場者が、更識簪であるということ。 

 それらを聞いた織斑一夏は困惑したような顔つきを浮かべるが、少しして意を決したように私を見つめる。

 

「キャロル、俺は――」

「謝る、もしくは償うなどと仰るのであればそれは大きな勘違いです」

 

 織斑一夏が口を開きかけるが、それ以上の先を紡ぐ前に私が割り込み封じ込める。出鼻をくじかれ、驚いたような表情を浮かべている彼は、困惑を露わにしていた。

 

「俺のせいで迷惑をかけたってことなら、俺がどうにかするのが筋ってもんじゃないのか?」

「では聞きますが、何に対して償うというのです?凍結の意向を示したのは日本政府、受理して決定したのは倉持技研……一夏さんの意志が介在した部分はありますか?」

「それは……」

「貴方は何もしていないのです。その貴方が、彼女に対して負うべき責任は皆無かと」

 

 俺が、俺がと言って前に出ようとする姿は好ましくもあるが、しかしながら余計なものまで背負い込むことになる。

 打鉄弐式の件において、彼が負うべき責任など私が知る限りどこにもない。確かに、織斑一夏はきっかけになったが、しかし、それだけだ。

 

「だから、それは俺がISを動かしたのが原因で……」

「そうですが、そうではありません。ご存知の通り、ISに纏わる事業は高度に政治的な意向を含んでいます」

 

 彼の言葉を遮り、その言葉を明確に否定するべく織斑一夏に事態を動かす力はない。

 

「一夏さん個人ではどうすることもできなかったでしょう」

 

 彼はある程度優秀だが、あくまでも個でしか無い。対して打鉄弐式の開発凍結を決めたのは倉持技研と政府――日本という国家と言い換えても良い。

 現在の世界において国家とは人類種が成し得る形態のうち最上位に位置する。その総意を個の力でどうにかするなど不可能である。

 そのようなことができる存在がいるのだとすれば、それは篠ノ之束のような例外くらいなものだ。

 

「キャロル?」

「……失礼しました。つまり、倉持技研にも日本政府にも、一夏さん以外の部分で抱えている利害関係というものがあります。打鉄弐式の開発凍結は利害関係の中で繰り広げられた闘争の結果であり、一夏さんの白式にリソースを割くというのはあくまでもその理由の一つでしかありません」

 

 織斑一夏の声で、別の方向へと逸れかけていた思考を本筋へと戻す。

 最先端技術を持つ倉持技研。そこで研究されるのは国防の要ともなるIS。国家予算もかなりの量が注ぎ込まれている。

 しかし倉持技研は最新型の開発に苦戦している。すると、芳しくない成果に目をつけた勢力が問題として吊るし上げる。

 研究のために予算の投資は継続しなくてはならない。しかし他国に何歩も遅れを取っている以上、開発継続という口実では予算を引き出すことも難しい。

 そこで現れたのが織斑一夏である。

 彼の専用機を用意するという名目で倉持技研は難を逃れ、今も国家からの支援を受けることができているというわけだ。

 

「けどなあ、俺の件がなければ凍結はしなかったかもしれないだろ?」

「どうだろうね」

 

 確かに織斑一夏のいう可能性もゼロではない、そう言おうとしたが、私よりも先に答えたのはシャルル·デュノアだった。彼を見れば、つい口を挟んでしまったというような顔をしていて、私の方を見て詫びるように苦笑していた。どうぞ、と無言で促すと彼は続きを語り始めた。

 

「この業界、他国に遅れを取ることに対してすごい厳しいんだよね。今、最先端は第三世代だけど、アジア圏において中国が日本より先に第三世代を発表してる。そのせいでの焦りっていうのはあると思う」

「中国の第三世代っていうと、鈴の甲龍か」

「しかも、中国は他国への輸出も計画してるって話だよ。わざわざご丁寧に、第二世代の打鉄とラファールを全てにおいて上回るなんて謳い文句までつけてさ」

 

 安定性は確かに高いけど、と彼は小さく付け加える。

 織斑一夏は感心したように聞き入っていたが、疑問を感じたのか眉を寄せる。シャルル·デュノアはそこで一旦話を区切り、織斑一夏が質問を挟める間を置いた。

 

「なんで比較対象が第二世代なんだ? そんなの、他の第三世代と比べればいい話だろ」

「それは売り込む先が第二世代機体を使ってるからだよ。それに、今の第三世代は扱いが特殊な機体が多いからね……輸出向けじゃないんだ。輸入する国が欲しいのは実験用の機体ではなく実戦配備できる、安定した基礎スペックだから」

「セシリア·オルコットさんと凰鈴音さんの機体を比較して、どちらが使いやすいかを考えていただければわかりやすいかと」

「なんとなく、わかった……」

 

 全方位攻撃を可能とする代わりに特別な適性を必要とするブルー·ティアーズと、派手さは無いが不可視の射角無制限の砲弾というわかりやすい強みのある甲龍。身近に比較対象がいるので例として挙げてみたところイメージがついたのか、織斑一夏は納得したように頷いた。

 

「つまり、鈴の使ってる機体がシェアを塗り替えるかもしれないってことか」

「そういうこと。まあ実際は開発中な部分はあるんだろうけど、実用を意識した完成度は随一ってところかな」 

「アメリカも同様のコンセプトの機体を開発していますが、対外輸出の意向を見せていないこともそれに拍車を掛けています」

 

 なるほどなあと呟いた織斑一夏は何度か頷きながらも考え込むような仕草を見せ、シャルル・デュノアに問いかける。

 

「大体わかってきたけど、なんで俺の機体を優先するんだ? 急がなきゃいけないならなおさら、打鉄弐式は作らなきゃいけないだろ?」

「一夏さん、貴方の機体が第何世代か思い出してください」

「……ああ、そう言えばそうだったな」

 

 織斑一夏は納得したように、なるほどなあと呟いた。言葉は納得した風ではあるのだが、表情は晴れていない。喉に小骨がつっかかっているような、後味の悪さのようなものを感じてる様子でいる。

 

「完成品があるならそれでいいってことか……」

「白式は単一仕様能力も発現しています。その上での判断なのでしょう」

 

 もともと、専用機などの最終的な目標は単一仕様能力を発現して漸く手が伸ばせるような領域である。そのデータから得られるノウハウを機体の設計に組み込むことで得られる他国に対するアドバンテージについては言わずもがな。

 取り巻く事情はあらかた説明した。聞き手であった織斑一夏は大きく息を吸い込んでからゆっくりと吐き出してから私を見る。

 

「俺の機体が選ばれた事の理由はよく分かったよ。俺の手の届かない場所で色々起きてるみたいなのも、とりあえず把握した」

 

 だが、と言葉を続ける織斑一夏の瞳はこちらを貫きそうなほどまっすぐなものである。どうしたらこんな目を出来るのか、私にはわからない。

 

「俺が手を貸したいと思うのは、直接迷惑をかけたとか、そういうのだけが理由じゃない。困ってる人が居るなら助けたい。手が届く場所に居るなら、手を差し伸べたい。俺はそれが正しい事だと思ってるから、正しい事をしたいと思うのは間違いじゃないだろ?」

「そうですね、良き人の考え方であるかと言われれば肯定以外の回答はできません」

 

 頑として譲らない織斑一夏の対応に、私から引き下がるように言っても意味がないことを悟る。

 

「……含みのある言い方だな」

「これ以上は私が何を言っても仕方がない、という話です」

「そういうつもりじゃ無いんだけどな……」

 

 織斑一夏は苦笑いをしながら頬を掻く。私も嫌な言い方になってしまったことを自省して肩の力を抜く。

 

「なあキャロル、取り次いでくれたりとかは……」

「しても構いません。ただ、先ほどの反応を見れば想像がつくのでは?」

「だよなあ……」

 

 織斑一夏は頑固だ。しかし、それに負けないほどに更識簪も頑なだ。

 私の場合は状況とタイミング、そして織斑千冬という強制力があったから関わることが出来たようなものだ。 

 

「まあ、やってみるさ」

 

 何処か大丈夫という自信があるような、悪く言えば楽観的な様子で織斑一夏は宣言した。

 

 

 

 

 その次の日から、織斑一夏の攻勢が始まった。

 

「工具とか散らかってたからさ、掃除と工具の整理しといたぜ――」

「勝手に触らないで……」

 

「おつかれさん、晩飯まだだろ?売店でおにぎり買ってきたけど――」

「いらない……」

 

 そう、始まったのである。

 

「何か俺にも手伝えることがあれば――」

「帰って」

 

 始まった、のだが……

 

 

「取り付く島が……無い……ッ!」

 

 何日か後の朝食時、織斑一夏は食堂のテーブルに顔面を突っ伏しながら嘆きの声をあげていた。

 度重なる拒絶に流石の織斑一夏も攻めあぐねているらしい。

 彼は、他人の懐に入るのが上手いのだ。私は人付き合いが良い方ではない。そんな私でも彼と関わるのが苦にならないのはら織斑一夏のそういうところが影響しているのだと思う。

 それだけに、懐を隙間なく閉じているような相手だと、その特色が発揮されないのかもしれない。

 

「想定の範囲内ですね」

「うぉお、ご友人……厳しい言葉を……」

 

 様子がおかしくなりかけている織斑一夏の事は一旦流して、カップに口をつけて食後のコーヒーを啜る。

 

「何よ、一夏はその簪って子にご執心なわけ?」

「ご執心って、俺はなぁ……」

「はい」

「キャロルまで……」

「ふうん……」

 

 同席していた凰鈴音は不機嫌そうに口元を曲げながら、織斑一夏を見つめる。

 

「そんな事より、あんた大丈夫なの?」

「大丈夫って、何がだよ」

 

 呆れたと言わんばかりにため息を吐きながら大げさに額に手を当てる凰鈴音は、若干前のめりに身を乗り出す

 

「学年別トーナメントよ、トーナメント!今年はタッグ形式だって話じゃない?」

 

 学年別トーナメント――恒例行事として行われる、トーナメント形式の模擬戦だ。今年は例年と異なりタッグ形式らしいが、クラス代表対抗戦での事件が影響してるのは明らかだ。

 すると、そこで凰鈴音が唐突にこちらを向く。

 

「キャロル、あんたは誰と組むの?」

「同室の方と組む予定です」

「っしゃあ!ナイス!同室のヤツ!」

 

 私の返答を聞き大袈裟にガッツポーズを取る凰鈴音。よく分からないが、私が同室の生徒と組むのがそんなに嬉しかったのだろうか。

 

「え、そうなのか?」

 

 そういえば、織斑一夏にも話してなかったなと思い出す。

 私は更識簪とタッグに出るという約束をしていた。

 

「機体が間に合えば、ですが」

 

 勿論、それは打鉄弐式を実戦レベルまで持っていく事が前提条件だが。出来なければ辞退するつもりだ。辞退したら、まあその分の補修をしなければならないだろう。

 これには開発に追込をかけるためという目的に加えて、更識簪から余裕を奪うためでもある。

 

「何の話ししてるのか分からないけど良いわ。キャロルが組まないっていうことなら……」

 

 凰鈴音は話題の流れを引き戻し、それから織斑一夏へと向き直る。一度言葉を区切って深呼吸したあと、勢いをつけて口を開く。

 

「一夏、あんた私と組みなさい!」

「悪い、鈴。俺もうシャルルと組むって約束したんだ」

「はぁあっ!?」

 

 絶叫。そして脱力した様子で力なく崩れ落ちる凰鈴音。ぼふりとクッションから空気が抜ける音が、何とも哀れであった。

 

「まあ、良いわ……シャルルって男でしょ……じゃあ何の問題もないじゃない……他の奴と組まれるより安心だと思いなさい鈴音……」

 

 そのまま俯き、ボソボソ聞き取りにくい声で呟き始める姿に私と織斑一夏は顔を見合わせる。

 どうしたらいい?と問いかけてくるような視線に私はそっと目を伏せ、コーヒーを啜る。苦い。

 

「ど、どうしたんだよ鈴……体調でも悪いのか?」

 

 覚悟を決めた織斑一夏が恐る恐る声をかけた。凰鈴音は無言のままギロリと睨み、勢いよく立ち上がる。

 

「本番……本番では叩き潰してやるから!私と組まなかったこと後悔させてあげる!ごちそうさまでした!」

 

 そして織斑一夏へと人差し指を向け、宣戦布告。そしてそのままの勢いで、空になった食器が乗せられたトレーを持って歩み去る。

 

「なあキャロル……俺まずい事言ったか……?」

「さあ、どうでしょうか」

 

 肩をいからせながら歩いていく凰鈴音の背中を視線で追うと、私達からそう遠くない場所に座っていたラウラ・ボーデヴィッヒの真紅の瞳と目が合った。

 少しの間見つめ合い、ラウラ・ボーデヴィッヒの方から視線を外す。彼女はそのまま食堂から立ち去った。

 私達の話を聞いていたのだろうか。

 

「……あいつと何かあったのか?」

 

 織斑一夏も私の視線の先に気づいた様子で、心配そうに聞いてくる。

 思い出されるのは先日のやり取り。織斑千冬の名前を出したことで彼女と一悶着起こしかけた事だ。

 

「いえ、何も」

 

 しかし、転入初日のことを考えれば、彼女が意識しているのは私よりも織斑一夏であろう。

 目の前から湧き上がる懸念事項の多さに嘆息しつつ啜ったコーヒーは、さっきよりも更に苦かった。

 

 




ISの12巻から7年前というのを見て完結したら書くとか思ってたのを思い出したので、昔のPCから書きかけのデータを発掘して投稿
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