女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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二章10

「何なの……本当に、何なの……断ってるんだから、早く折れてよ……」

「……」

 

 寮の部屋、ベッドに突っ伏した更識簪はぶつぶつとうわ言のように繰り返している。

 別で見たことがあるようなそんな様子に、更識簪と織斑一夏は存外と似た者同士なのかもしれないという考えが過る。

 織斑一夏が宣言をしてから数日が経った。彼は何度拒絶されても未だに折れず、私たちが放課後に作業をする際にはほぼ必ずと言っていいほど顔を出しては何かさせてくれ、手伝えることはあるか、と更識簪に問いかけていた。

 入学してから今まで、これほど疲れている様子を見せたのは初めてかもしれない。

 

「お疲れのところ申し訳ありませんが、火器管制プログラムの件についてご相談を」

「ん……」

 

 しかし、それでも、打鉄弐式の件について話題を出せば、むくりと身体を起こして聞く姿勢に入るのは流石である。

 

「火器管制プログラムに修正を加えましたが、現状ではFCSの並列処理能力が山嵐の要求する水準に達していません」

 

 打鉄弐式という機体の用いる第三世代武装は『山嵐』と言う。自律稼働型誘導弾頭――イメージインターフェースを介して操縦者の思考とリンクし、操縦者の攻撃の意思を反映させることで標的を弾頭側が自動で選択し飽和攻撃により破壊する。平たく言えば、ブルー・ティアーズのビットのミサイル版だ。

 メリットはBT兵器ほど高い空間認識能力を必要とせず、操縦者への負荷が軽いこと。

 デメリットは高い並列演算能力が機体側に要求されること。

 そして現在、ネックとなっているのはその並列演算能力だった。

 

「プログラム側でカバーすることは……?」 

「頭打ちに近いのが現状です。これ以上チューニングしても劇的な効果は見込めないかと」

 

 既に当初のプログラムから別物と呼べる程度には改修を施している。そこから更にと言うのであればもう一から作ったほうが早い。

 

「ISコアの演算リソースを回すのは……?」

「機動制御に影響が出ます。現状だと、足が酷く鈍る」

「そう、よね……」

 

 更識簪は動きの少ない表情を僅かに強張らせながら沈黙する。解決策を導き出そうと思考を巡らせて居るのだろう。

 

「私から提示できる案は2つです」

「聞かせて……」

「一つ目は、FCSの性能を向上。具体的に言えば、より性能の良い品に交換することですね」

 

 解決策その1。スペックが足りないのなら足りるものと交換すれば良い。

 

「無理……一から作ったとしても間に合わないし、それに……」

 

 提案はしたが、更識簪の返答には私も同感だった。第三世代インターフェースに対応したFCSを今から調達するとなれば間違いなく特注品になる。設計から完成までに時間がかかるし、間に合ったとしても懐事情が立ちはだかる。国家代表候補生といえど、一個人で動かせるようなものではない。

 企業のリソースを私が動かして調達することは可能ではある。しかし、主任が篠ノ之束と関わっているという事実がそれを躊躇わせた。何かヘンな物を仕込まれたりしては、たまったものではない。

 

「二つ目は、機動制御のプログラムの改良です」

「機動制御……でも、それはもうやって……」

 

 私が言わんとしていることを察したのだろう。更識簪はより一層表情をこわばらせる。私へと向けられる紅梅色の瞳は私を咎めるように、その色を昏くした。

 

 

 

 

 第二アリーナ。昼は授業や自主トレーニングで賑わうこの場所も、夜になれば静けさに包まれる。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは密かに忍び込み、そこで本国から送られてきた調査結果に目を通していた。

 

「キャロル・オルフィレウス……企業所属のIS開発者であり、操縦者。経歴に不審な点はなし、か……」

 

 彼女が手にする端末に映し出されているのは、キャロルの身辺調査の結果だった。

 そこに記されている経歴は、IS操縦者であれば至って普通のものだった。不審な点は何一つなく、潔白だ。

 その潔白さこそに対してラウラ・ボーデヴィッヒは不信感を抱いていた。

 

――あいつは、唯一人あの場で動いてみせた。

 

 思い出すのは転入初日。ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑一夏の頬を平手打ちしようとした時のことだ。

 あれは完全な不意打ちのはずだった。

 卑怯者と言われようと構わなかった。IS操縦者であるというのならば、常在戦場の心意気であらねばならないからだ。不意打ちされる方が悪い。

 他の生徒達も温室育ち独特の気の抜けた顔ばかり。自分のことを止められるとすれば織斑教官以外にはあり得ないと考えていた。

 しかし、キャロルはラウラを妨害してみせた。その事実はラウラに警戒心というものを抱かせた。

 

――奴は、あの男を排除するにあたっての障害となる。

 

 故に、本国の部下たちを通じて調査を行わせたのだが結果は何もわからなかった。

 

「確かめてみるか……」

 

 自身の目に勝るものはない。静観を保っていたラウラが行動を始める。

 

 

『これより、打鉄弐式の起動試験を開始します。簪さん、起動シークエンスを開始してください』

「了解……」

 

 OS起動。

 エネルギー残量を確認――100%

 コア出力良好、演算速度に問題なし。

 センサーチェック……感度良好。

 火器管制システムオールグリーン。

 自己診断プログラムを起動。

 対複合装甲薙刀『夢現』――振動刃機能に異常なし。

 荷電粒子砲『春雷』――左右砲門異常なし。

 対IS用独立稼働型誘導弾発射筒『山嵐』――一番から八番まで稼働正常。

 

 打鉄弐式、起動準備完了。

 

「打鉄弐式、起動……!」

 

 更識簪は空中に投影されたディスプレイの中央に表示されたボタンをタッチする。

 打鉄弐式に火が入り、待機状態から稼働状態へと移行する。

 

「っ……」

 

 知覚領域が広がっていく。自身とISがリンクした瞬間特融の感覚に高揚感を覚える。

 ようやくここまで漕ぎつくことが出来た。

 姉のように独力で完成させることが出来なくなったのは残念ではあるが、しかし、という気持ちも同時に芽生えてきていることを自覚していた。

 

 通信機の向こう側にいるルームメイトへと思いを巡らせる。

 

 彼女が関わるようになったのは成り行きだった。それも、織斑先生に命令されて仕方なくという形である。

 きっと本意ではなかったはずだ。だから少しすれば、今まで出会った人達がそうだったように、彼女も途中で離れていくと思っていた。

 

「でも、違った……」

 

 彼女は今も真剣に関わってくれている。そしてどのように改修を行うか、開発を行うかで意見を出し合い、一緒に作り上げようとしてくれている。

 それがうれしかったし、何より楽しい。

 その影響もあって、以前に抱いていた「姉のように第三世代機を完成させる」という目標は、変わり始めていた。

 今の簪が抱いている目標は、友人であるキャロルと協力して打鉄弐式を完成させるというものだ。

 

『此方でも起動を確認しました。スラスターの動作チェックをお願いします』

「問題ない……」

 

 だから、更識簪は、彼女が昨夜出してきた提案にうなずくことが出来なかった。

 

「だから、証明する……」

 

 私たちはやり遂げられるのだということを。

 

『射出タイミングを打鉄弐式に譲渡……初飛行、どうぞお気を付けて』

「打鉄弐式、行きます……!」

 

 ブザー音と共に電磁カタパルトが急加速を行う。電磁カタパルトにより加速し射出された打鉄弐式はアリーナの空へと飛翔した。

 

 機体全体にかかるGをPICで掌握する。

 

「っ……!」

 

 機体の片側が不意に重くなるような感覚を覚え、マニュアル操作で制御して姿勢を持ち直す。

 早々に失速からの墜落なんてことにならなくて良かったと、安堵のため息をつく。

 キャロルのシミュレータを借りて何度も試してはいたが実際に飛ばすとなると、やはり勝手が違ってくるところがある。

 アリーナの外周を何周か回り、飛行が安定してきたたところでキャロルからの通信が入る。

 

『ビーコンを展開します。表示されたルートに従って飛行してください』

「分かった……」

 

 視界に重ねるように展開されたHUDに表示が追加され、アリーナ空域に展開されたビーコンがサーキットを描き出す。

 簪は打鉄弐式を十分に加速させたあと、開始地点のビーコンを通過して飛行試験を開始する。

 直進や旋回といった単純なものに始まり、やがてはPICの急制動を絡めた慣性偏向機動など、次第に難易度を上げていく。

 

「うおー!すげえなあ!あれで初飛行ってホントかよ!?」

「ほんと、凄いね。初代打鉄から機動性を上げたって話は聞いてたけど……」

 

 その姿をアリーナのカタパルト射出口から見上げる者が二人いた。織斑一夏とシャルル・デュノアである。

 彼等は偶然、キャロルと簪がアリーナへと向かっているのを見かけ、その後を追って此処に来ていた。

 織斑一夏は飛行している打鉄弐式の姿を見て、純粋に興奮した様子ではしゃいでいる。

 シャルルも一夏と同様に思う気持ちはあった。今自分達の頭上で複雑なマニューバを演じて見せている機体性能は、倉持技研が公表していたスペックよりも更に上に見える。

 だが、シャルルの観察眼はそれとは別のものを見抜いていた。

 

――時折、ほんの少しだけど機体の制御に遅れが出来るタイミングがある。

 

 機体に制動をかけるタイミング、減速度合い。どれも問題にはならないレベルではあるが、前者は僅かに早く後者は僅かに甘い。操縦者に起因するものか、機体によるものか、此処からは判別つかないが余り良い傾向とは言えない。

 歓声を上げている織斑一夏の傍で、シャルルは一抹の不安を抱いていた。

 

 

 

 更識簪は、シャルル・デュノアが見抜いた違和感を誰よりも強く、その身を以て感じていた。

 

――機体が、重い……!

 

 特に、直線軌道から頭を起こす際や、PICを絡めた際の反応が悪い。

 しかし此処で止める訳には行かない。このアリーナには織斑一夏も来ている。

 自分達の打鉄弐式が十分に完成している姿を見せつければ、彼も無理に関わろうとはしなくなる筈である。

 

『簪さん、逸り過ぎです』

「そんなこと、無い……っ!」

 

 キャロルからの通信が入る。彼女の言う通りだと冷静な自分が語りかけてくるが、更識簪の感情的な部分がそれを振り払う。

 

「あと、一つだけ……!」

 

 まだ、最後のマニューバが残っている。最後にそれだけでも達成しておきたい。

 最大加速上昇からアリーナの頂点スレスレでクルビットを行い反転、急降下してアリーナ中央へタッチダウン。

 簪にとっても経験がない速度域での挑戦だが、出来るはずと自分に言い聞かせ、打鉄弐式を加速させる。

 HUDに表示された高度計の数値が急上昇していく。それに注視し、アリーナの天井のバリアが展開されている高度に到達するギリギリまで速度を保つ。

 

「今……っ!」

 

 若干の反応の悪さを見越して早めに制動をかける。簪の読み通りゼロコンマ数ミリ秒遅れて打鉄弐式は更識簪の指示に従う。PICを最大出力で作動させ慣性偏向と絡めてその場でクルビット。

 背中から圧してくる強烈なGを気合とPICで強引に抑え込み、急速に反転した視界から青空が消え、アリーナの地面を捉える。

 

「えっ……?」

 

 その瞬間、更識簪は自らが強大な力に捕まった事を本能的に感じ取った。

 その力の名は重力。

 一瞬の浮遊感の後、制御を外れた打鉄弐式が地面へと向けて急加速を開始する。

 

 墜落。

 

 その二文字が簪の脳裏を過る。

 シールドを最大展開させて衝撃に備える。

 加速する視界と迫る地面。襲いかかるであろう衝撃を覚悟して目を閉じて――

 

「間に合ええええっ!」

 

 叫ぶ声が聞こえ、そして覚悟していたはずの墜落の衝撃は来なかった。それよりもずっと穏やかな、何かしっかりとしたものに自分が受け止められたような感触。

 続けて何回かバウンドするような衝撃が伝わった後、それは直接的なものではなかった。

 地面を削るような音が聞こえた後に動きが止まった。何が起こったのか理解できなかった更識簪は目を開けて、言葉を失った。

 

「痛てて……」

 

 そこには痛みにこらえている様子の織斑一夏の顔があった。先ほどまでの出来事と合わせて考えれば、そこから導き出される答えは一つだった

 

「織斑君、傷が……!」

「そんなことより、大丈夫だったか……?」

「あ……」

 

 何故、どうしてと困惑していると、真剣な顔で自分のことを心配そうに覗き込んできた。立て続けに畳みかけてくる状況に追いつけずどぎまぎとしてしまいながらも、思考を落ち着かせるために機体ダメージの確認を行う。

 

「姿勢制御でエラーが起こってる……けど、大きなダメージはない……」

「そうか……簪さんも、大事な機体も傷つかなくて良かった」

 

 ほっと安堵したように肩の力を抜くのを見て更識簪の中ではどうして、という気持ちが沸き上がる。

 自分は彼のことを有無を言わさずに拒絶していた。それなのになぜ、身を挺してまで助けてくれたのかと。

 

「どう、して――」

「何をしているかと見に来れば、良いものが見れた」

 

 刹那、アリーナの中の空気が張り詰める。

 IS――ドイツの第三世代機「シュヴァルツェア・レーゲン」を展開したラウラ・ボーデヴィッヒが二人のことを見下ろしていた。

 

「ラウラ……」

 

 織斑一夏にとって、今この場で出会いたくない相手ナンバー2だった。ナンバー1はもちろん織斑千冬である。

 

「奴はいないのか……まあいい」

 

 ラウラは周囲を見回すようにしてから小さく呟く。てっきり自分のことをまた侮蔑しに来たのだと思っていた織斑一夏はその呟きを聞いて、彼女の目的が自分以外にあったことに驚きを覚えて、何をしに来たのかという疑問を強く抱く。

 

「人探しなら手伝ってやってもいいぜ?」

「貴様のような輩の手を借りるくらいなら、猫の手を借りた方が幾らか役に立つ」

 

 軽蔑の色を隠しもせず、織斑一夏の挑発じみた申し出を切って捨てるラウラ・ボーデヴィッヒ。しかし、と言葉を区切り、彼女はその深紅の瞳を織斑一夏の腕の中にいる更識簪へと向けた。

 

「日本も落ちぶれたものだな。このような欠陥機体を持て囃して第三世代機とは……所詮極東の島国、一握りの天才以外は有象無象に過ぎないということか」

「お前……」

 

 織斑一夏は自分が侮蔑されることも侮辱されることも、腹は立つがまあ許容することはできた。優秀すぎる姉と比較されることには慣れていた。だが、自分の目の前で他人を侮辱されることは許せなかった。

 

「言っていい事と悪い事もわからないのかよ」

「なんだ、事実だろう?」

 

 織斑一夏の怒気を受けて尚、ラウラ・ボーデヴィッヒは挑発的な笑みを浮かべて嘲り笑う。

 言葉が過ぎるという事ならば、丸く収める道もあった。だがこれはわかっていて言っている反応だ。それを見せつけられて、黙って見過ごしておけるほど織斑一夏は我慢強くなかった。

 

「簪さんに謝れ、ラウラ」

「断る、と言ったら?」

 

 その問いは明確な拒否。謝る気など一切ないという意思表示。

 

「力づくでも、謝らせる」

 

 受け止めたままだった更識簪をそっと降ろし、織斑一夏は言葉に怒気を帯びさせながら一歩前に出る。

 

「織斑君、やめて……私はいいから……」

「下がっててくれ簪さん。これは俺が許せないからやるんだ」

 

 ただならぬ気配を感じて更識簪は止めに入る。だが、スイッチが入ってしまっている織斑一夏には焼け石に水だった。

 

「良い度胸だ、織斑一夏……丁度いい、貴様ともケリをつけておかなければならなかったからな!」

 

 ラウラはリボルバーカノンの照準を織斑一夏の一歩手前の地面に狙いを定め、放つ。ラウラなりの手袋の代わりだった。

 

「ラウラ!」

 

 地面に砲弾が着弾するのと同時、織斑一夏は勢いのまま飛び出した。




発掘投稿その2。
お前の苦労をここ最近だけどずっと見ていたぞなゴールデンワンサマー。
転入初日に妨害されたけどそろそろドイツのみんなも不安よな、ラウラ、動きます。
前回が超絶久々の投稿だというのに反響をいただけて感謝感激です。

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