女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作)   作:杭打折

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序章5です。
今回でキャロルの相部屋の相手が出てきます。



序章5

――IS学園の学生は入学に際し、学生寮への入寮を義務付けられる。

 

 私もそれに従い、割り振られた部屋番号が記された紙を見ながら学生寮の中を歩いていた。彼女の持つ用紙に記された部屋番号は1037――つまり、一年生寮の37号室ということになる。彼女は廊下の両側に備え付けられた扉のナンバープレートを確認しながら歩を進める。現在の位置は1020番台の部屋がある廊下、もう少し歩く必要があるらしい。各部屋はさしづめホテルの二人部屋のような作りになっている。デスクも二人分が繋がっている仕様。

 二人共用の机というのは少々不便そうだと内心で思いながら前を見ると、ある一室の前に人だかりができているのを見つけた。何が起こっているのかが気にならないわけではないので、野次馬たちの一人に混じって顔をのぞかせる。数多の女子達によって形成された群衆の中心にいたのは、今この学園中で最も関心の高まっている人物こと織斑一夏だった。彼は今1025号室の扉にすがるように張り付いている。しかも彼の顔の横辺りからは何か鋭利な棒のようなもの――形から察するに木刀だろう――が突き出していた。

 一体これはどういう状況なのだろうか、と考えてしまった私の反応は当然のものだろう。私は状況把握のために数秒の時間が欲しかったが織斑一夏はそれを許さなかった。

 

「キャロルいいところに!」

 

 言うが早いか彼は扉から離れると私のところに駆け寄ってきて口早に言葉を繰り出してきた。

 

「助けてくれ、キャロル」

「助けると言われましても……まあ、良いでしょう」

 

 どういった状況かの把握に努めたいのが正直なところだが、断り切れる状況ではないと思い承諾する。私からの了承を得た彼は安心したようにほっと息を吐いてから表情を引き締め、私の部屋の場所を訪ねてきた。

 

「部屋は何号室だ?」

「1037号室です」

「じゃあ部屋に匿ってくれ、頼む!」

 

 部屋に匿えとは、彼はいったい何をしたというのだろう。まさかとは思うが部屋を間違えてしまったのか? そこまでのことなら行動の前に説明を求めたいが彼の様子を見るにかなり焦っている様子だ。私はダメ元で聞いて見ることにした。

 

「説明を要求したいのですが」

「あー……部屋に行ってからでいいか?」

「……了解しました」

 

 やはりダメだったか。そう思い取り敢えず了承の言葉を口にした途端にぐいっと腕を引っ張られる。見ると織斑一夏が私の手を引いて走りはじめていた。この人混みの中で廊下を走ったら危ないのだが、織斑一夏が向かう方向に居る女子生徒達は様々な反応を示しながらも道をあけたのでぶつかることはなかった。進行方向は先程の会話から推察すると私の部屋のある1037号室。匿って欲しいというくらいの事態なのだから慌てるのは判るのだが、彼と私はだいぶ歩幅が違うので、手を引かれながら走るのは少々難がある。何度か転びそうになってしまい、そのたびにちょっと地面を蹴って姿勢を立て直すということをしながら1037号室へとたどり着き、急いで中へと入る。

 途中、野次馬らしき女子生徒達からの視線や黄色い歓声、羨やむような視線や声に晒されたが今は1037号室の中なので一応静かにはなっている。しかし、複数の人間の気配が扉の外から感じ取れるのは気にしたら負けというものだろう。

 

「それで織斑一夏さん、説明をおねがいします」

 

 変な走り方のせいで少し乱れた髪型とずれたメガネを直して織斑一夏にどうしてこうなったのかを尋ねる。彼が木刀を振りかざされるような状況といえば部屋を間違えたとかだが、さすがにあそこまでするだろうか。この学園の生徒達なら満更でもない反応を見せたりしそうなものだが。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ……」

 

 自分の記憶を整理をするように一息ついた織斑一夏は、私の方を見つめなおすと説明を始めた。

 

「俺は1025号室なんだがな、中に入ったら箒がいたんだ」

「篠ノ之箒さんがですか……」

 

 幼馴染とはいえ、同室にするというのはどうなのかと思うのだが……しかし、彼女が篠ノ之束の妹という理由があるので不思議ではない。自らの身内、この場合は言葉通りの意味ではなく篠ノ之束が身内と定めた人間だ。彼女が身内に対して甘いというのは関係者の間では有名な話だ。篠ノ之束に対する交渉材料として使えると考えるような輩も居るのだ。資料によれば彼女は幾度かそう言う目に遭いそうになったことがあるというし、それを防ぐためにIS学園への入学が可能になる前は住居を転々とさせられてたらしい。

 織斑一夏と篠ノ之箒という二人の重要人物が互いに面識が有り、それなりに親密な仲だというのなら一つの部屋にまとめる事で護衛をしやすくするという考えはむしろ妥当かもしれない。

 

「箒のやつはいきなり木刀を持ちだしたりしてきてな、マジで死ぬかと思ったぜ」

「それは……何はともあれ、ご無事で何よりです」

 

 ただ、護衛以前に彼に命の危機があったというのは、守る側も彼も含めて笑えない話だが。

 

「つまり、自分の部屋に入ったらシャワーを浴びていた篠ノ之箒さんと遭遇。相部屋だとわかった瞬間に凶器を持ちだして襲いかかってきたので室外に逃げたは良いが女子生徒に囲まれ本能的に危険を感じた貴方が私に助けを求めた……これでよろしいでしょうか?」

「凶器ってお前……まあ確かに木刀は凶器だけど」

 

 彼から聞いた話をまとめて確認を取る。どうやら概ねその通りらしい。何か言いたいことが少し有りそうな態度だがその辺は流させて頂く。

 

「……キャロル、聞きたい事がある」

「どうぞ」

 

 状況把握を終えると織斑一夏から話を切り出してくる。状況把握を終えた私には特に用事も無かったので拒むこともなく私はそれに応じた。

 

「やっぱりさ、キャロルも俺がクラス代表になるのは無理だと思ってるのか?」

「可能か不可能か、という問ならば可能でしょう。私は無理だとは考えていません」

 

 そう、彼がクラス代表になるというのは不可能ではない。というのも、あの選出方法自体がクラスメートに推薦されたという事実さえあれば誰でもクラス代表になることは出来るからだ。彼の質問は前提から間違っているのだが、私の返答で織斑一夏もそれに気づいたようだ。頭の回転はそれなりに早いらしい。

 

「いや、そういう意味じゃないんだ。俺が聞きたいのはキャロルも俺に代表候補生は出来ないと思ってるのかっていうことだ」

 

 彼は質問を訂正をする。そんなことを私に聞いてどうするんだと思うが、その目つきが真剣な眼差しだというのは出会って初日の私にも理解する事ができた。元からその気はないが、返答をごまかすことは出来ないだろう。

 

「不明です」

「は?」

「不明と言いました。私には貴方のデータがありません。どういった機体を使うのか? どのような戦術を得意とするのか? また、能力に関するデータも貴方のIS適性がBである以上は持っていません。判断材料に不足している状態のため、一般的な常識と当てはめてHRでの回答とさせていただきました。ご理解いただけましたか?」

 

 長くなったが、私が言いたいのは彼の実力を含めた部分について不明すぎるので判断しかねているという、ただそれだけの理由にすぎない。

 

「じゃあ、キャロルは俺が出来ないと思ってるわけじゃないんだな?」

「それについては現在判断を下す事ができませんが、微小でも可能性はあるかと」

「ならいい。いやぁ、良かったよ。キャロルが俺には不可能だって思ってないことを知って安心した」

 

 だというのに、考えを聞いた織斑一夏は何故か嬉しそうな様子だった。言い終えた彼は真面目な表情になって私の目をまっすぐに見つめる。

 あれはきっと何かを頼む前の表情なのだろう。同じものを1025号室の前でも見たのを思い出しながら私は彼から言いだすのを待った。

 

「キャロル。俺にISについて教えてほしい」

 

 私の予感は的中だった。彼は私にISについて教えてほしいという。代表候補生であるセシリア・オルコットと戦うのだからその知識不足はどうにかして補わなければならない。稼働時間を含む操縦経験など、どうしようもない部分があるが知識ならば一週間もあれば最低限から応用部分まで覚えさせることは出来る。しかし、彼は一つ大事なことを忘れいているのではないだろうか。

 

「私は貴方が代表となることに反対の立場をとっています。それなのに私に教えを請うのですか?」

 

 私はクラスのHRで、彼と反対の立場をとった。私が彼の要求を受けてもまともに教えず、セシリア・オルコットの勝利を盤石にしようと目論むといった事は考えないのだろうか。

 

「わかってるさ。だけどキャロルにしか頼めないんだ。箒には帰りの時に頼んだけど断られたし、セシリアには泣いて土下座する気も無いしな」

 

 それで私に白羽の矢が立てられたということか。今の一夏には私以外の生徒に頼もうとしたが断られ、もう一人はそういう関係にはない相手。他に選択肢がないから私に頼む。その理屈はわかるが、出会って初日で随分と信用されているのだなと私は思った。

 

「それにキャロルは結構ISに詳しそうだしさ。作ってもらったカンペ、あれのおかげで今日の授業も大体わかったし」

 

 カンペが解りやすかったのは知識の無い人でも解るように作ったのだから当然だ。知識があれば誰にでも作れるものなのだし、今日の授業でやった内容は基礎中の基礎。IS学園の入学試験に合格出来るだけの知識がある人間なら全員できると思うが。

 

「だからこのとおりだ、頼む!!」

「……了解しました。貴方に出来る限りの事を教えましょう」

 

 織斑一夏は頭の前で両手を合わせて拝むような格好で頼み込んできた。なぜ自分の意見に反する無駄な事をしなければならないのか、と思わないこともないがもとより私に彼の要求を拒む事は出来ない。それが私がここに居る意味なのだし、私のやることなのだ。

 

「ですが条件があります」

「条件?」

 

 公言した自分の意見と反対の行動を取ることに対して不満は残るが、彼にISの知識を教育することにはメリットがある。彼のISの訓練や成長を近くで見ている事が出来るなら後に行わなければならない見極めも容易に出来る。

 そしてこういう言い方は好きではないが、彼のIS操縦を見ることで得られる情報もある。世界で唯一の男性操縦者というのは一研究者として好奇心をくすぐられるものがあるのだ。

 しかし利益の有無を計算したとしても絶対に外せない条件というものがある。それが満たせないようでは私が彼にISの知識を与える事は出来ない。

 

「私がこの一週間で貴方を勝たせます。だから貴方も勝利を約束してください。それが条件です」

 

 条件と称して放った、HRでの織斑一夏に勝るとも劣らない私の大言に織斑一夏は笑みを浮かべ、

 

「何だそんなことかよ」

 

 それ以上の大言で、私に応えた。

 

「楽勝だぜ、俺は絶対に負けねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そのころの篠ノ之箒はというと、ようさく道場着に着替えを済ませ一夏と向き合う心構えを終えたところだった。予想だにしなかった場所で会ってしまった事で少々取り乱してしまったが、今はようやく少しだけ落ち着いた。

 

「私と同室だと……何を考えてるんだ一夏は……」

 

 まさかあいつから同室になるなら私とがいいとでも言ったのか? だとしたら……

 

「ええい、情けないぞ篠ノ之箒……私がそんなのでは、一夏を支えることなど出来ないではないか」

 

 恋する乙女の思考へと走りそうになった自分を叱責して表情を引き締める。その表情は他人には不機嫌だと勘違いされるものだが、本人はいたって真面目なので気づいていない。

 箒は引き締まった表情のまま扉の前に立ち、やけに静かなことにむむと首をかしげる。扉の向こうは誰も居ないかのようにしんと静まり返っている。しかし人の気配は感じるのでちゃんと居るのだろう。

 

「……正座でもしているのか?」

 

 扉の前で正座し、自らの過ちを戒めながら許しを待つ。一夏がそれをやっている様子を想像した箒が僅かに赤くなる。些か古風な彼女の思考は誤った方向へと想像を働かせていた。 

 

「入れ」

 

 意識せずに緩んでしまった表情を再度引き締めた箒は扉を開く。バンッという大きな音とともに蝶番が外れたような感触があったが篠ノ之箒は気にしない。

 ちなみに、IS学園寮の設備を破損した場合は原則として自費で弁償するという寮則がある。

 

「篠ノ之。教師の前で学園の設備を破壊するとはいい度胸だな」

「ち、千冬さん!?」

「織斑先生と呼べ」

 

 篠ノ之箒の頭に衝撃が走った。今出席簿は手元に無いため拳骨の一撃、箒は頭を抑えて踞った。目の端に涙を浮かべながら痛みに堪えている姿はどことなく庇護欲をそそる可愛らしいもので、織斑一夏も彼女への印象を改めそうなものだが肝心の織斑一夏は現在部屋に居ない。

 

「すみません、織斑先生……どうして此処に?」

「織斑に用事があってきたのだが、居るか?」

 

 一夏は居るかという千冬の問いに箒は一度部屋の中を振り返って、やはり居ないという事を確認してから千冬の方へと視線を戻した。

 

「いえ……廊下に居ませんでしたか?」

「いや、私が来た時には既に居なかったぞ。だが廊下とはどういうことだ?」

「あ、いや……それは……」

 

 千冬が一夏の事を大事にしているという事を知っている箒は思わず口ごもる。ついさっき一夏に木刀で殴りかかって部屋から締め出した、なんて答えることが出来るわけもない。

 言いづらそうにしている箒の様子を見た千冬は一息、大きなため息をついた。幼い頃だけだったが織斑家と篠ノ之家は一緒の時間を過ごしていたし、千冬も弟の事をよく知っている。事情を察することくらいはたやすい。

 

「はあ……まあ構わん。お前たちの事だからおおよその事は察したが、相部屋になったのだから仲良くしろ。これは命令だ」

「ですが、その……私達は年頃の男女です。何か間違いが起こるような事があっては……」

 

 箒の言った事はもっともな正論だが、それを聞いた千冬はニヤリと意地悪な笑みを浮かべて、皮肉げに言った。

 

「あいつに限ってそれはありえん。お前もよくわかっていると思うが」

「それは……そうなのですが……」

 

 箒も実感していたが織斑一夏のあの様子は昔からずっと変わっていなかった。特に恋愛面に関して飛び抜けて鈍感なところなんて成長した様子が微塵もない。一夏に恋をしている箒としては少しくらい成長してほしいところだったが、同時に変わっていない様子の一夏に対して少しばかりの安心感を感じているのもまた事実だった。

 

「お前には迷惑をかけるがこれは一時的な措置だから我慢してほしい。どうしても困ったことがあれば相談に乗る」

 

 困ったように俯いた箒にかけた言葉は教師ではなく、織斑千冬としてのものだった。

 

「ありがとうございます、千冬さん」

 

 その視線から千冬が自分の事も心配してくれているのを感じ取った箒は、不器用だがとても優しいもう一人の自分の姉に頼もしさと嬉しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 匿い始めてからしばらくして、外から感じる女子生徒達の気配も引き始めてきた。寮則で定められた門限も近くなっているにもかかわらず私と同部屋の人間はまだ来ていない。織斑一夏が自室に居るとなればそれなりに騒がれるだろうことは間違いない。そして、今日は学園生活初日。初日から唯一の男子生徒を自分の部屋へ連れ込んだというので印象がかなり悪い。だから、今は少しだけ同部屋の人間が来ていない事が有難い。だが、門限が近いという事はどんな事情があるにせよ帰ってくるのは確定ということだ。そろそろ帰ってもらわないと少々困ったことになるから聞いてみる事にした。

 

「織斑一夏さん、いつまで匿っていればよろしいのでしょうか?」

「ん? あー、そろそろ良いだろ。箒も落ち着いてるだろうし…………たぶん」

 

 自信無さげに織斑一夏は最後に一言付け足して立ち上がる。そこまで自信がない返事をするほど篠ノ之箒は怒っているのだろうか。話を聞く限りでは風呂あがりの姿を見た、というのが理由らしいのだがバスタオルならある程度の部分は隠せている。彼女が怒った理由がそれだけではない気がするのは私だけだろうか。

 覚悟を決めるように深呼吸した織斑一夏は座っていた椅子から立ち上がる。

 

「ではまた明日、教室でお会いしましょう」

「匿ってくれて助かったぜ、キャロル」

「お気になさらず、織斑一夏さん」

 

 私はただ要求に応じただけであって礼など必要は無い。そう言おうと思ったのだが、感謝されたのだからそこに水を差すような真似をする必要は無いので素直に受け取ることにした。

 織斑一夏は部屋から出る前に私の方へと振り向いて、

 

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 何の変哲もない夜の挨拶を告げ、私は彼に同じ言葉を返す。織斑一夏はそれを聞いて満足したのかそのまま1037号室を出て行った。

 

 

 

 織斑一夏が居なくなり一人になった部屋で、私は備え付けられていたティーパックで紅茶を淹れていた。こういう物があるあたり本当にホテルのようだ。

 ちゃんと顔合わせくらいは初日に済ませておこうという思いから同室の人間が来るのを待っているのだが、その人物は一向に来る気配というものを見せない。寮の門限まであと数分、時間を過ぎても来ないようなら寮の管理人に確認を取らないといけないなと思いながら淹れた紅茶を一口。味も香りも上々、満足の行く出来にリラックスをする。

 思えば今日一日でいろいろな人と話をした。織斑千冬、更識楯無、織斑一夏。いずれも今の世界情勢の中心になっている人物達だ。

 研究者という職業上、こういった面々と直接会う機会は殆ど無い。私の所属する企業は閉鎖的で、しかも企業外からの要求がある事は少ないから尚更だ。日記を書いてみるのもいいかもしれない。

 思い立ったが吉日。私は端末を入力モードで起動する。紙媒体で記す事も考えたが手元に日記帳がなく、そしてわざわざ購買へ買いに行く必要も無いとして端末に残すことにした。

 

「…………」

 

 日付を記し、今日あった出来事を書き記していく。内容は端的で他人から見ればつまらないものだろうが、人に見せる予定は無いから問題ない。

 空間投影型のディスプレイに表示されていく文字列の誤字確認を文字入力と同時進行でこなしながら指を休ませることなく動かし続ける。パネルを入力する際のキータッチ音が静かな室内によく響いた。

 日記を書き終え、まだ湯気の立ち上るティーカップを持ち上げて残っていた紅茶を飲み干す。

 陶器同士の接触する音と同時にドアノブを捻る音が聞こえた。どうやら同部屋の生徒の到着らしい。私は扉の方へと意識を向け、その生徒の姿に奇妙な縁もあるものだという思いを胸に抱いていた。

 

「あ……」

「これは……先ほどぶりです」

 

 意識を向けた先にいたのは、数時間前に学食で相席となった生徒だった。彼女は私の姿を見て、驚いたように眼鏡――携帯型ディスプレイとおもわれる――の向こうの目を丸くしながら言葉を失っている。

 

「相部屋となりましたキャロル・オルフィレウスです。以後、よろしくお願いします」

「更識簪……よろしく」

 

 更識簪。そういえば入学前の資料にこの生徒に該当する人間が居たのを思い出した。日本の代表候補生で純国産ISの新型機”打鉄弐式”の試験操縦者。クラスが違うとして資料を完全に記憶しておかなかった事が悔やまれる。

 

「更識というとやはり?」

「あの人は私の姉……でも、私は違うから……」

 

 更識なんていう苗字がかぶることなどありえない。容姿からしても蒼銀の髪色や輪郭などから鑑みるにやはり更識楯無の姉妹もしくは親戚筋だろう。

 確認という意味で投げかけた問に帰ってきたのは肯定と、有りもしない期待への否定の言葉。返された言葉に小さくない嫌悪感がにじみ出ているのを私は感じた。

 

「そうですか。ではベッドの割り振りを決めましょうか」

 

 だが、私には関係のないことだ。彼女達が姉妹でどういう関係にあるかという事は同じ部屋で暮らす事に何の関わりもない事だ。なので、私は気にせずに用件を済ませることにした。

 

「寝られるなら、どちらでも構わないわ……」

「了解しました。確認ですが、貴女が帰る時間はいつもこれくらいになりますか?」

 更識簪は私の問にコクリと、頭を僅かに上下に動かして頷いた。今日くらいの帰りが続くというのなら、私が先に寝てしまった時など入口側を使ってもらった方が互いにとって良いかもしれない。

 

「……ええ」

「では私が窓際を、更識簪さんは入口側を使うということで」 

 

 彼女がいつもこれくらいになるというので、私は窓際のベッドを使わせてもらうことにした。更識簪はとくに何を言うことも無く、私の決定を受け入れた。

 他に決めることも無い私は更識簪から意識を外して、空いた時間を活用するために企業から明日送られてくる機体の装備を保管するため、貸し倉庫を申請する書類を作り始めた。

 

「……貴女、専用機

持ちなの?」

「はい。到着はまだですが、明日には」

「そう……」

 

 更識簪の声音に少しの羨望と焦燥が混じる。

 彼女の専用機”打鉄弐式”の開発元は倉持技研だが、世界唯一の男性操縦者に与える機体の完成を優先するという日本政府並びに国際IS委員会からの命令によって打鉄弐式の開発は一時中断。更に織斑一夏の機体の調整やデータ解析に開発班の多くが割かれてしまった事による人員不足、白式の修理に用いるパーツの生産や技術の解析の為の資金に”打鉄弐式”に充てられていた開発資金が割かれてしまうという二重の悲劇によって開発再開の目処は立っていないと聞くが原因はその辺りだろうと思う。倉持技研から開発元をどこか他の企業に変更すれば問題の一つは開発するというのに、日本政府がそれをしようとしないのは体面が悪いからだろう。

 そういえば、遠くヨーロッパのフランスも似たような状況だったということを思い出す。日本には”織斑一夏”という広告塔や彼の出現による資金人材不足という理由が有るが、あちらの場合は単純な技術不足な分、日本よりも問題は深刻だろう。

 私がそんなことを考えている間、更識簪も私の事をじっと見つめながら何かを考えているようだった。

 

「キャロル・オルフィレウス……国家代表候補生にはそんな名前は無かった……」

「私は、企業の所属ですので」

「そう、企業……」

 

 企業所属と聞いた更識簪からの視線が少しだけ厳しくなった気がする。彼女も更識、企業という単語に引っかかりを覚えているのは流石だろう。

 だが、厳しくなった視線も次の瞬間には無味乾燥としたものになった。

 

「私には……関係のないことね……」

「ご理解いただけて感謝します」

 

 こちらに油断を誘うための嘘かとも思ったが、暗い彼女の瞳を見て真実なのだと考えを改める。

 頭首ではないとは言え更識の名を持つものに相応しくないその言動は私にとっては有難いものだった。暗部の人間が目を光らせている生活なんて想像しただけで気分が悪いもので、私としては御免被りたい。

 今ので話は終わったと思ったのだが彼女はそうではなかったようで、私を見つめながら今度は違う問をしてきた。

 

「企業なら……やっぱりISに詳しいの……?」

「他人に誇れる程度には詳しいと、自分ではそう考えています」

 

 これは事実だ。ISに詳しいかと聞かれれば詳しいに決まっている。そうでなければ企業でISの研究は出来ない。私の言葉を聞いた更識簪は短く「そう」と、呟くように言うととシャワールームへと行った。

 

 更識簪がいったいどういう人物なのかは分かりかねるが、今の会話で分かった事はあった。

 

 ”更識簪は更識ではない”

 

 暗部やそれに属する人間全員が持っている「目」というのを彼女は持っていない。予め言っておくが私もそんなものは持っていない。

 そういう「目」を持っている人間は一言で言えばちぐはぐだ。更識楯無のように背反するような性格をいくつも自分に貼り付けて自分の本来の姿は決して見せない。

 だが、更識簪から自分の内側を隠そうとする気配を感じない。さっきまでの様子が彼女の素なのだろうし、捉えるべき芯があるというのもしっかりと感じ取る事ができた。

 

「まあ、それも私には関係のないことですが……」

 

 だが、そう思った所で私には無関係な事象だ。更識簪が更識であろうとなかろうと、先程までのが素の性格でもそうでなくても私のやることは変わらず、そこに彼女という要素が入り込む事は無いだろう。

 

「さて、彼女が上がる前に終わらせますか」

 

 私は再び端末とにらみ合って機体データの整理を開始する。この作業が終わった後は織斑一夏にやらせるトレーニングメニューを考えないといけない。同居人が居るので制限時間付きだが、今から手を動かしていけばそこまではかからないだろう。シャワーを浴びる時間も残るはずだ。

 気持ちを引き締めて作業を再開した。住人が二人になった1037号室は、相変わらずキータッチ音が無機質によく響いた。




遅くなって申し訳ありませんでした。
今週はちょっと筆の進みが遅く、どんどんと文章量が増えて普段よりも内容も投稿までの期間も長いものになってしまいました。
各話ごとの文字数に差が多いというのは余り良くないように感じるので安定させたいなと思っています。
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