女オリ主による原作介入モノ(非転生、女オリ主、習作) 作:杭打折
※申し訳ありません。投稿ミスで番外のところに入ってしまってました。以後、気をつけます
「なんだこれ」
織斑一夏の第一声である。彼の目前にはコンテナをそのまま持ってきたような巨大な金属の箱があった。織斑一夏はそれをしげしげと眺めてから私の方へと視線を向けて答えを待つ。
「VRシミュレーターです」
「VRシミュレーター?」
VR、つまりバーチャルリアリティーというものに馴染みがないのか織斑一夏は私の解答に首をかしげる。
VRとは使用者が体験可能な仮想現実の事である。今回、私が企業に発注した品はISの訓練用シミュレーターである。研究機関や各国に配備されているISのコアの数には限りがある。そういう状況を鑑みたあらゆるISに関連する機関が、制限なくISの習熟訓練を行う為に開発を要求されているものだ。更にシミュレーターで行われた戦闘のデータを記録する事も可能。これを用いる事がISの操縦者教育の効率は格段に良くなる。
今はまだ高価かつ、膨大な演算量を処理する為に高性能のCPUを必要とするなどといった問題が有り使い勝手は良くない。なので教材として大きく普及してはいないが、近い内に改善されて国際的に出回るようになるだろう。
余談だがシミュレーターかなりの大きさであり、これの置き場を確保するために新たな貸し倉庫の申請をしなくてはならなくなった。学生課の受付係の方に少し変な目で見られたのは非常によく記憶している。
「設定した環境を使用者が擬似的に体験できるという機械です。少し昔に、コンピューターの創りだした仮想空間に人類全体が接続して生活を行っているという世界観の映画がありますね、それと同じようなものです。ただし、ダメージのフィードバックといった現象は起こりませんのでご安心ください」
「あの主人公が空飛んだり銃弾止めたりするやつか。キャロルって映画とか見るのか?」
「人並みには……ですが、最近は見てませんね」
映画は面白そうだったり他人に薦められたものであれば見る。ただ、最近はブラックバードの調整といった事柄に時間を取られていたので見ていない。
「じゃあ今度一緒に見に行かないか? ISについて教えてもらったお礼ってことでさ、俺の奢りだ」
「良いでしょう。ですが、織斑一夏さんが負けたら私が奢りますので」
賭け事として成立していない条件のような気がするが、本人もそれでよさそうなので構わないだろう。私は織斑一夏の提案を受け入れる。
まあ、先のことよりも目前に迫っている代表決定戦の事だけに意識を向けた方がいいような気もするのだがこれくらいは構わないだろう。
「それなら尚更負けらんないな。男が女におごられるなんて情けないだろ」
今の世の中だと、男性が女性のお金で食事などサービスを得ているという光景は珍しいものではないのだが、織斑一夏はそれを良くは思っていないようだ。
だが、それ自体は織斑一夏の訓練に関係の無い情報なので記憶の片隅に置いておく事に済ませる。
「では、今日の分を開始しましょうか」
私は雑談を打ち切り、本日の訓練を開始する。今日は木曜日。発注は火曜日であるから2日で届いたことになる。主任の仕事の速さに感心するが、感謝の電話は送らないでおこうと心に決める。
今日の訓練内容は先程説明をしたシミュレーターを使ったものだ。織斑一夏にはこれを使ってISがどういうものかを体験し、経験を積んでもらう。山田先生や織斑先生の講義も十分に役に立つものだとは思うが、ISの操縦方法は操縦者のイメージに頼る部分が多いので、実際に使ってみないとわからないものもある。訓練機の貸出も考えたのだが、織斑一夏の専用機が来ると聞いて廃案にした。ISのコアには個性というものが有り、専用機が手に入る事が確定しているのならば彼が他のISのコアと接触する機会は少なくしたい。
因みに、肝心の専用機は未だに到着していない。新たに機体を開発しているのではなく、お蔵入りになった機体を彼用に調整していると聞く。少々時間がかかり過ぎだが待つしかない。
来ないのならと織斑一夏の専用機のデータ開示を要請したのだが、倉持技研と日本政府が出し渋っているようでこちらの手元に確保できていない。何らかのストップがかかっているのかは分からないが、用意できないものに何時までも固執していても仕方がないので手持ちの情報で済ませるしかない。
今日の訓練は手元にあるデータの少なさを解決するための目的もある。織斑一夏の能力データをシミュレーターで取りながら経験を蓄積させる、一石二鳥だ。
「なんで二つ有るんだ?」
私たちの目の前には二台のシミュレーターが存在する。織斑一夏が使用するだけなら一台だけで良いのだが、流石に仮想空間内に一人だけ放り込むというのも不親切な話だ。まず最初は二人で仮想空間に入り、最終的に織斑一夏に一人で訓練内容を行なってもらいそれをモニタするという形式を取る予定だ。それを説明すると織斑一夏は納得したという返事を返してシミュレーターの中へと入る。
「使い方は機器のアナウンスに従ってください。設定はこちらでしておきますので、数値などは変更せずに起動をおねがいします」
シミュレーター内に備え付けられた通信用のインカムを用いて織斑一夏に操作手順などの説明を行う。何らかの事態があった場合即応できるように通信機はつなげたままにしておくと、隣のシミュレーターからは「おお……!」とか「うおおおおお!」といった声が聞こえてきた。少し耳に響いたので音量を調整するつまみを操作して聞こえてくる小さくする。
『コントローラーを装着してください』
シミュレーターのOSを起動。 アナウンスに従ってヘルメット型のコントローラーを装着する。
内側を照らしていた照明が消えてディスプレイの画面以外の光が無くなる。目の前に浮かび上がるように映しだされたキーボードを操作して訓練を行う環境の数値を入力。重力は地球と、大気は地球のものと同レベルに設定して空間を作成。
コントローラーのバイザー型のスクリーンを下ろすと目の前に広がる景色が変わった。快晴の空、眼下には障害物として設置した市街地が存在している。設定通りの空間が広がっているのを確認すると一度バイザーを上げて、織斑一夏の使用しているシミュレーターの状況をモニターしているディスプレイに表示された数値を確認する。どれも正常値を示していて変わった事は無さそうだ。
視線を前面の映像に戻して使用機体の選択に移る。互いの機体を第二世代”打鉄”に設定。この選択は織斑一夏の専用機と同じ倉持技研の開発であるから少しでも近い可能性のあるものを用意しておこうという考えからだ。
武装は格闘戦用に大型実体ブレード、近距離戦闘用にハンドガン。主兵装としてライフルを選択しておく。必要最低限の武装となっているが、豊富な武装を持たせて最初から使い切るなんてものは普通の人間には出来ない。用意しておくのはこれだけで、リクエストや状況を見て少しずつ追加していく予定だ。
全ての設定を終えると、PICによって気圧を局所的に操作することで再現されたISの装甲が自分の身体に装着されて一つになっていく感覚が身体全体を支配する。それが収まった頃に再びバイザーを下ろして周囲を見回すと、ちょうど右側に織斑一夏が居るのを発見した。
「織斑一夏さん。調子はどうですか?」
「今のところ気分が悪いとかそういうのはないな」
少し捻るように身体を動かしてから彼は答える。特に違和感なく身体を動かしている様子に感覚的な問題は無さそうだと判断すると、早速飛行訓練に移る。
メインスラスターを噴かして100mほど離れた場所まで移動してから織斑一夏の方を向き、通信で指示を出す。
「ここまで移動してください」
『分かった』
返事が帰ってくると同時、織斑一夏は空中で足を踏み出していた。
『………うぉおおおおおお!?』
空中で歩こうとすればどうなるのか。答えは考えるまでもない。
素っ頓狂な声を上げながら落ちていく織斑一夏を遠目に眺めていた。
「歩くなんて考えたら落ちるだけですよ」
「はい……」
織斑一夏が落下を開始して少しした後、瞬時加速を行なって落下進路へと割り込んで確保した。先程の事から自由飛行は彼にはまだ早いと考えて、今は補助付きの飛行をすることにしている。
つまり、織斑一夏の手を引きながら飛んでいるのだが、泳げない人の手を引っ張ってバタ足の練習をさせる様子に見えなくもない。
どことなくげっそりとした表情で力なく返事をした織斑一夏に先程の件についての講義を行う。
「ISは操縦者のイメージに従って動作します。歩くという足場が有る事前提の動作をイメージしてしまうと先程のように落ちます」
「すみませんでした……」
因みに彼のミスは一般的なものだ。ISの操縦の初心者はまだ地上での生活での感覚が抜けきっていない事が多く、空中に飛び上がる事ができない場合が多いのだ。軍や研究機関では足が付かないほど深いプールを使い、足場のない空間の感覚に慣れさせるという訓練もされている。ただ私達には時間がないので、織斑一夏には「イメージの浮かべ方を間違えるとどうなるか」を手っ取り早く体験してもらった。現実味を重視して作られたシミュレーターであるから、実際に落ちていく気分を味わえただろう。
「高速で飛行する際には空気抵抗を軽減するためにシールドを適した形状に変更する事が最適です」
「シールドって形が変わるのか?」
「はい」
補助飛行をしながら解説を行う。彼はげっそりとした表情から一変して質問をしてくる。
「だけど眼に見えないんだろ。そんなものをどうやってイメージすればいいんだ?」
「……分かりました、それではこうしましょう」
織斑一夏の言葉はもっともなものだ。目に見える物や見たことのあるものならイメージしやすいだろうが、そうでないものの形状をイメージしろと言われても難しいかもしれない。
私は織斑一夏から片手を離し、パネルを操作して設定を変更する。織斑一夏のハイパーセンサーに偏光フィルターをかける。今の織斑一夏には私が自分の後方へと円錐状に形成しているシールドが、半透明なシルエットとして見えている筈だ。
「…………」
織斑一夏は飛行することも忘れたように私の後方へとじっと視線を向けている。急な変更だったので驚いているのかとも思ったが、違う。
「……わかりましたか?」
「ああ。これがシールドなんだな」
織斑一夏は実際に見て、さっき私の言った事を学習していたのだろう。今の織斑一夏の目は、シールドがどういうものかの芯をしっかりと捉えているように思える。
そろそろ補助飛行がなくても飛べる頃合いかもしれない。説明している間にも飛行に使っている推進力の出処が私だけでないのを感じていた。それは時間を追う毎に少しずつ強くなっていて、織斑一夏はこうしている間にも飛行することの感覚を掴んでいるらしい。相変わらず、ふざけた成長速度である。
「では、合図と共に手を離すので単独飛行をしてください」
「おう」
織斑一夏からの了承を受けてカウントダウンを開始する。
「3……2……1……」
ゼロをカウントする直前の一瞬、繋いでいる手から感じる圧力が強くなった。
「 0 」
織斑一夏の手を少しだけ強く握り返してから力を抜く。飛行の邪魔にならないように左方向へと避けて少しの距離を取り、織斑一夏の姿を探す。
周囲を見回して織斑機を確認しようとするが、居ない。
まさか失速して墜落したのだろうか?
レーダーを確認。
織斑機の位置――
『よっしゃあ!! キャロル、見てるか!?』
――上空、およそ100m。
「はい。貴方が単独飛行しているのを確認しました。おめでとうございます」
織斑一夏の喜びはしゃぐ声が顔つきで伝えられる。視界外から消えたのは急上昇を行なっていたからか。墜落を心配した意味がなくなった事で嘆息する。
『キャロルも一緒に飛ぼうぜ。自由に飛べるのってかなり気持ちいいな!』
「はしゃぎ過ぎです」
子供のような喜び方をする織斑一夏の様子が通信で送られてくる。思わずそれに苦笑を漏らしながら高度を合わせ、隣り合い飛行する。先程の私が見失う程の加速は一体何なのかを聞きたいとも思ったが、今はそれよりも飛行が成功したことを喜ばせておくべきだろう。
「暫くはこのまま飛行を続けます。送信したルート情報に従って飛んでください」
「分かった」
私が設定したルートで飛行を行う。途中でいくつかの空戦機動を解説付きで見せていく。旋回機動にループ、ヨーヨー……エトセトラ。織斑一夏は私の教えた機動をすぐにとは行かないが、常人を超えた物覚えの良さで学習していく。その様子には空恐ろしいものを感じるばかりだ。
「…………」
しかし、そのように感じながらも教える事が楽しくなってきている自分が居る。教えられる側が優秀だと、教える事が快感になると言うがそれはこういう気持ちなのだろう。障害物をかわしながら規定コースのタイムトライアルに挑んでいる織斑一夏の様子を見ながら考えていた。
織斑一夏が最高タイムを更新しなくなってきた頃、織斑一夏に一旦休憩を挟む事を伝えてシミュレーターから出る。シミュレーターの椅子は快適と言えるすわり心地ではないため、少しだけ硬くなった身体を解すように肩や手首を動かしていると織斑一夏もシミュレーターから出てきた。
「お疲れ様でした織斑一夏さん」
声をかけ、あらかじめ用意しておいたスポーツドリンクを渡して水分補給をさせる。一時間強はシミュレーター内にこもっていたので喉が乾いていたらしく、織斑一夏は美味しそうにそれを飲んでいた。
「ふぅ~……生き返る……」
まったりとした口調で全身を脱力させながら言う様子が少し老けて見えたのは言わないでおく。
「筋はいいと思います。後は、状況に応じて使い分ける事を覚えれば実戦で使えるレベルになるでしょう」
「動かす感覚はつかめてきた。実際のISもあんな感じで動かせるのか?」
手に残る感触を再確認するように手の平を閉じたり開いたりしていた織斑一夏だったが、少し怪訝そうな表情で問いかけてくる。
シミュレーターの操縦系は実機と同じ物を採用しているから感覚自体は同じのままで動かせる。そう答えると彼は「分かった」と言ってスポーツドリンクをボトルの半分くらいになるまで一気に飲む。
私も少し喉の渇きを感じたので自分の分のスポーツドリンクを少し飲んで喉の渇きを潤す。
「キャロル、次は何をするんだ?」
「今度は空間にターゲットを設置するのでそれを武装を使って破壊してもらう戦闘を想定したメニューをこなして頂きます」
「戦闘か……」
何を考えているのかわからない静かな口調でつぶやくと、彼はボトルの口を締めて立ち上がった。
「もう少し休んでも構いませんよ?」
訓練再開を予定していた時間にはまだ早い為、織斑一夏にもうしばらく休む事を提案するが彼は首を横に振った。
「時間がないんだ、詰めていった方がいいだろ? 俺は体力には自信があんだ、まだ行けるさ」
織斑一夏はそう言って立ち上がり、シミュレーターへと向かう。私もシミュレーターへと入り、今度はオペレートモードとして起動する。
『キャロル、何処だ?』
内部スクリーンに映しだされている仮想空間内を見ると、織斑一夏が周囲を見回していた。言葉から察するに私を探しているらしく、織斑一夏は辺りをキョロキョロと見廻している。今回はヘルメット型のコントローラーは使用せずにインカムを装着し、通信を入れる。
「聞こえますか? 今回はオペレーターとして貴方のサポートをさせて頂きます」
『つまり、俺一人で飛ぶって事か?』
「はい。貴方が今回想定するべきのは1対1の戦闘ですから、単独での行動を経験するほうがいいでしょう」
単独で行う戦闘と複数で行う戦闘は考えることが違う。因みに、後者のほうが考える事が多くなるので難しい。
「ターゲットをそちらの前方に出しますので破壊してください」
『武器は?』
「お好きなもので構いません。ですが、今回はあくまでも武器の使用感覚をつかむ事が目的です。その点をお忘れなきように」
『オーケー。そういうことなら好きにやらせてもらうぜ』
そう言い切った織斑一夏は手元に武装を展開する。
「近接ブレードですか。ライフルを選ぶかと思っていましたが」
『刀は使ったことがあるからな、少しは馴染みのある武器を使ったほうがいいかと思ってな』
「賢明な判断です」
大型の片刃の剣を展開したのを確認してから織斑一夏の前方に複数のターゲットドローンを出現させる。織斑一夏は打鉄のブレードを両手で構えて睨みつける。
「訓練開始、標的を全て破壊してください」
開始の合図を下すと織斑一夏は前方へと加速して標的との距離を一気に詰め、ブレードの重厚な刃で最初のドローンを破壊する。刀を使ったことが有るという言葉は嘘ではないらしく、少し硬いものの理に適った動きをしていた。
「剣術の心得でも有るのですか?」
『子供の頃に道場に通ってた事がある』
彼の動きは日本の剣術のものに似たものがあったためそう考えたのだが、道場に通っていたというのなら彼の身のこなしにも納得がいく。織斑一夏は手こずる様子もなく数分程度で全ての標的を破壊した。
『次はどうすればいい?』
「今度は同じ標的ですが、先程とは違って動きます。撃破数が一定に達すると同時に攻撃を開始するように設定しますので、気を抜かないように」
『分かった』
先程と同じターゲットドローンを出現させる。織斑一夏はそれを確認すると目標に向かって移動し、ブレードで両断しようとするが空振りをする。二度三度繰り返して同じような結果に終わる様子を見てアドバイスを与える。
「敵の動きを予測しなさい。近づけてもその場で振るうだけでは当たりません」
現在の彼の動体視力はハイパーセンサーによって強化されている。通常なら目視が困難な高速飛翔体も目で捉えて追うことが出来るはずだ。
アドバイスを受けた織斑一夏は接近したドローンに自機の動きを合わせ、横にブレードを振るう。一機撃破。
「少々時間をかけ過ぎです。今の貴方ならあと一瞬速くする事も可能だと思いますが」
『分かった、やってみる』
続いてもう一機撃破。一機目を撃破した時よりも手順に無駄がない。
「案外そつなくこなしますね。では残存目標の殲滅をおねがいします」
『おう!』
敵への追従の仕方を覚えた織斑一夏は速かった。順調にスコアを伸ばしていき、スコアの上昇速度も次第に上がっていく。
スコアが50を超え、事前に設定しておいた規定数に到達する。
ドローンがレーザーを放ち始め、動きも織斑一夏から逃げるようなものから追い立てるような攻撃的なものへと変化する。織斑一夏の打鉄は、予告なしに始まった攻撃の最初の一撃を受けて、思い出したようにレーザーを避けていく。
『キャロル、攻撃してくるなら言ってくれよ!』
「気を抜かないようにと私は言ったはずですが?」
『……結構、容赦無いな』
「ありがとうございます」
パターンを切り替えながらドローンは織斑一夏に向けて無数のレーザーによる雨を降らせていく。ドローン達は織斑一夏を包囲するべく飛び回っていくが、紙一重で織斑一夏はその包囲網から抜け出していく。
『そんな容赦の無いキャロルは、こういう状況だったらどうする?』
容赦の無いというのをわざわざいう辺り、少し子供っぽい反応だ。まあ、それも余裕のない彼の声音から虚勢にも似た行動である事がわかるので微笑ましい限りであるが。
今しがた言ったように、現在進行形で数の暴力というものを実感してもらっている織斑一夏に余裕は無い。ここで撃墜させても良いのだが、それでは私がオペレーターをやっている意味がなくなる。なので、そろそろオペレーターとしての業務を果たすとしよう。
「まずは回避して動きを掴み、その後に一機ずつ確実に潰していく。私ならそうします」
『この弾幕の中でそれは辛いんじゃないのか?』
織斑一夏が宙返りしてレーザーを回避、直撃こそしなかったが打鉄のスカートアーマーを掠める。
「先程教えた空戦機動を使ってください。組み合わせとその場に合わせたものを選択する必要がありますが、貴方ならば出来るはずです」
『…………分かった』
そう言った織斑一夏は私の言ったとおりに回避を続ける。先程よりも集中力が上がっているのか、回避率が急激に上がっていく。
やはり、彼は只者ではない。私は認識を改めると同時に、織斑一夏の理解し難い行動に画面に視線を釘付けにされる。
ドローン達は彼を囲むように動いていく、先程までは包囲から逃れるように行動していた織斑一夏だったが、今度はそれをする気配がない。それどころか、動きがどんどん少なくなっていくのだ。
最低限の動きで避けていくが、このままでは回避だけを続ける状況になる。私は忠告をしようと口を開くが、織斑一夏には何か目的があるのではないかと思って忠告の言葉から別のものに変える。
「囲まれましたか。どうするおつもりで?」
『考えがあるんだ。まあ、見てろ』
自信のある口調で織斑一夏は告げた。考えがあるのなら下手に口を出すこともない。彼の思うようにやらせる方が良いだろう。
彼の思うままにやらせることにした私は何が起こるかを見逃すことがないように画面を見つめる。ドローンは不自然な動きを見せる織斑一夏を疑いもせずに取り囲み、銃口を向ける。
――――撃たれる。
私がそう確信した瞬間、織斑一夏は私の視界から消えた。
「織斑一夏さん、ライフルを使ってみての感想は?」
「苦手だな」
「ハンドガンは?」
「同じく苦手だ」
訓練終了後、私と織斑一夏は反省会を行なう。今日の訓練で分かった事はいくつかあったのだが、幾つかは余り良いとは思えない内容だった。
まず一つ目。織斑一夏は射撃センスがいいとはいえない。ブレードで一通りのシミュレーションを終えた後にライフルとハンドガンもそれぞれ使ってもらったのだが、命中率はお世辞にも良いとはいえないものだった。もともと、高速で飛翔する小型目標を狙う事自体が難易度の高い行為であり、自分も高速で動くのだから難易度は更に跳ね上がるのだから仕方ないことなのだが。
いずれにせよ彼の専用機がどういうものかは分からない現状では何とも言えないものだ。もしこれが射撃兵装が主体のISであった場合、セシリア・オルコットとの決闘において勝てる可能性がかなり少なくなるだろう。
「ではブレードは?」
「やっぱ経験がある分戦いやすかったな。もう少し軽いほうが俺としては戦いやすいけど」
もう一つは格闘センスの高さだ。彼は刀剣を使った経験があるからだと言ってはいるが、それだけではないだろう。敵の懐へ飛び込むだけの度胸も持ち合わせている。
もし彼の専用機が格闘主体の設計ならば、彼の勝率は格段に跳ね上がる。
先程の射撃センスの件も含めて運要素がかなり強くなってしまった事に不安さは残るが、倉持技研は日本を代表するIS操縦者の織斑千冬の影響もあって、近接格闘を重視した機体を多く開発しているので賭けとしては悪くないと思える。
「では、明日からはブレードを扱う訓練をしましょう」
「おう。だけどライフルとかハンドガンはいいのか?」
訓練の方向性が決まった。今後、織斑一夏には一対複数の状況を想定して近接格闘技能を高めてもらう。格闘は本人のセンスに左右される部分が多いが、覚える事自体は射撃よりも少ないので好都合だ。
「あれやこれやと多くに手を出して覚えることが出来なければ難しいですからね」
「確かにそうだが……」
織斑一夏のいいたいことも理解できるので最低限、もしくはそれ以上の事を教えるつもりではある。しかし、センスが無いならさっさと切り捨てて得意分野を伸ばす方が意味があるというのも事実だ。
そして、一つを伸ばすという事の意味はそれだけではない。
「格上を倒すためには中途半端な手札を多くするより、一枚の切り札を用意するほうが効果があります」
装甲車両や戦車を破壊する為に持つRPGなどがいい例だ。
どんな状況を想定するかでも変わってくる部分はあるが、信じるに足る切り札を一つ所持しているだけで勝利が見えてくる。彼の場合は、その切り札を格闘センスを活かして作り上げた方が良いだろうと私は考えた。
「ま、キャロルがそう言うなら俺は信じて従うさ」
「光栄です」
織斑一夏に言葉を返す。光栄だと言った言葉は嘘ではない。教える側として、相手の信頼を得ている事は誇れる事実だと認識している。
だが、今はそれを誇る事や嬉しいと思うこと以上に重要な事が目の前にある。織斑一夏とした「勝たせる」という約束。私はこの事実を自己満足で終らせるつもりはない、誇ったり喜ぶのは結果が出てからでも出来る事だ。
「明日の訓練では有効な戦術と技能を訓練します。今日の掴んだ感覚をくれぐれも忘れないようにしてください」
自戒にも似た事を自分に言い聞かせ、明日の訓練内容を織斑一夏に伝える。
「分かった。それじゃ、明日もよろしくな」
「はい。では、明日の教室で」
いつものように言葉をかわして織斑一夏と別れる。最近ではこのやり取りをするのが一日の終わりを告げる合図のようなものになっている。
私は織斑一夏が立ち去ってからシミュレーターの調整とデータの回収をするため、作業を開始した。
長いです。普段通りなら二回に分けたかもしれないくらいの文量になりました。
まあ長いからと話が進んだわけではないのですが(笑)
次こそは話が進みます!
……たぶん。