せーはいせんそー   作:鎌鼬

11 / 12
さーどいんぱくと・1

 

 

「おじ……さん……?」

「……」

 

 

間桐雁夜が命を亡くし、バーサーカーであった八神時雨が理性を取り戻した翌日の朝。時雨は死体になった雁夜を間桐邸に連れ帰っていた。聖杯戦争で命を捨てる覚悟をしていた雁夜だったが幸か不幸か死体だけは綺麗に残っていたので家族である彼らに弔って貰おうと時雨が運んだのだ。

 

 

鶴野は黙って雁夜を見つめているが桜は声を震わせていた。目元には涙が溜まっていて、今にも溢れそうだ。

 

 

「……昨日の夜、セイバーに奇襲をかけられて逃走。その後逃げた先の森で更に襲われて雁夜は刻印虫に身体を喰われて死んだ。その間際で俺の理性を戻してくれたんだ。幸いなことに死体は残ってたから連れて帰った、必ず弔ってくれ」

「うそ……嘘だよね……おじさん……また明日話そうって……約束してたのに……お母さんとお姉ちゃんのところに戻してくれるって言ってたのに……」

 

 

そして桜は雁夜の死体に縋り付いて泣き出した。涙を流し、鼻水を垂らし、声にならない声をあげながら雁夜の死を悲しんでいた。

 

 

それを邪魔するのは無粋だと思い、時雨は気配を消して物音を立てずに部屋の外に出る。

 

 

「……」

「……殴りたいなら殴れ。雁夜が死んだ原因は俺にあるからな」

 

 

時雨がそう言った瞬間、時雨の後をつけて外に出ていた鶴野がサイレンサー付きの銃を向けて引き金を引いた。サーヴァントである時雨なら銃弾程度容易く躱せるのだが敢えてそれをせず、甘んじて受け止める。マガジンの弾を全て撃ち尽くし、鶴野は銃を投げ捨てて時雨の顔面を殴り抜いた。

 

 

「……悪い」

「謝るな、俺が悪いんだから」

 

 

鶴野自身、時雨が悪く無い事など分かっている。だが頭でそれを理解していても心が納得してくれない。だから銃を撃ち、顔を殴った。

 

 

銃で撃たれて顔を殴られたというのに時雨は堪えた様子を欠片も見せない。不完全な受肉をしたとはいえ時雨はサーヴァント、神秘の込められていない攻撃では時雨に害を与える事など出来ない。だが、時雨は例えサーヴァントでなくとも鶴野の攻撃を受けるつもりだった。それが雁夜を勝たせるという誓いを守れなかった自分への罰なのだから。

 

 

だからこそ、時雨は己の心の内で鉄の誓いを立てる。自分を呼び出した雁夜の望みを叶えると。

 

 

「鶴野、桜を連れて冬木から出とけ。最悪人質とかやられかねん」

「無関係、って訳にもいかないからな」

「正直お前ら死なせたら雁夜に会わせる顔が無い。詳しく言えばお前ら人質に取られて自害しろとか言われたら令呪無しでも腹切る所存」

「分かった、早い内に用意して出る事にする。この家に残した物は好きに使ってくれて構わないぞ」

「そいつはありがたい。最悪何処かのホテルでも借りるか廃墟暮らしを始めるつもりだったからな」

 

 

先程まで銃を撃ち、撃たれていたと思えない会話が二人の間で成り立っている。

 

 

そんな時、部屋の中から桜が出てきた。

 

 

「ねぇ……バーサーカー……貴方のせいでおじさん死んじゃったの……?」

「……あぁ、俺のせいだ。俺が悪い。俺が雁夜を殺した」

「っ!!返して!!返してよぉ!!おじさんを……!!おじさんを返してよぉ!!」

 

 

時雨の言葉に桜は突然激昂して時雨のことを叩き出す。だが悲しい事に身長差で膝しか叩くことが出来ず、子供の力では痛みを与えるほどに強くは殴れなかった。

 

 

「許さない……!!貴方を絶対に許さない……!!」

「あぁ、恨め嫌え憎悪しろ。お前から大切な人を奪ったのはこの俺だからな」

 

 

憎しみの籠った目で睨む桜にそう言って時雨は桜の首筋を軽く叩いて気を失わせた。崩れる桜を鶴野が抱き止めて抱え上げる。

 

 

「……お前、嫌われ役になるつもりか?」

「まごう事なき事実だよ。俺がいなかったら雁夜は死ななかったかもしれない。俺がいたから雁夜は死んだ。そうだその通りだ、だからお前は悪く無い、俺が悪いんだよ」

 

 

時雨は雁夜の死んだ原因は全て自分にあると桜に刷り込ませた。雁夜が聖杯戦争に参加する原因となったのは桜の存在だと本人に気付かせないために。

 

 

「それに憎まれ役や嫌われ役には慣れてるし」

「どんな人生送ってきてるんだよお前……」

「母親殺されて一文明が滅ぶ程に人間を殺した経験はあるな」

 

 

それだけ言うと時雨は崩れ落ちた蟲蔵の方に歩いていく。だが、鶴野はそんな時雨に向かって話しかけた。

 

 

「じゃあ、俺たちは出るが気を付けろよ?外は雨が降ってるみたいだから」

「……あぁ、本当だ。すっごい土砂降りだ。これはしばらく止みそうに無いな」

 

 

鶴野の言葉にそう返した時雨だったが窓から見える外は快晴、雨など一粒も降っていない。

 

 

「あぁ……くそ……早く止めよ……」

 

 

だが時雨の中では降っていたのだろう。彼の目からは透明な液体が溢れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシン、昨夜は御苦労だったな」

「本当疲れましたよ……」

 

 

冬木の商店街を歩くのは言峰綺礼とアサシン。綺礼は昨日のアサシンの労をねぎらうために食事に連れて来たのだ。昼間とはいえ聖杯戦争の最中であるが人目が多いのでサーヴァントや魔術師が襲う事はない。そして現段階で一番警戒すべき協力者である切嗣もアインツベルンの城を破棄したことで新たな拠点を探すか整備しているだろうから警戒する必要は無い。

 

 

「それで、なんてお店でしたっけ?」

「泰山、中華料理店だ。あそこの麻婆は絶品だ、食べることを勧める」

「泰山…麻婆…バッドエンド…ウッ!!頭が!!」

 

 

泰山と麻婆という言葉から何か感じるものがあったのかアサシンは顔を顰めて頭を抱える。綺礼はそんなアサシンに何やってんだコイツ?みたいな目で見ながら歩を進めた。

 

 

「着いたぞ」

「……なんか入り口の時点で足が竦んでるんですけど……」

「いらっしゃいアル〜」

「店主、二人だ」

 

 

泰山の店から何かを感じて足を止めているアサシンを無視して綺礼は扉を開く。何時もなら各々が食事しているはずの泰山の店内だったが今日ばかりは様子が違っていた。客らが立ち上がって店の奥の方を見ているのだ。

 

 

「スゲェ!!九皿目いったぞ!!」

「なんだよあいつ……味覚イかれてるのか?」

「味覚というよりも痛覚かも……」

「おい!!十皿目だ!!」

「店主、何があったのだ?」

「あ、キレイアルカ〜今奥のお客さんがチャレンジメニューに挑戦してるアル。三十分以内に麻婆十皿完食で賞金一万円アルヨ〜」

 

 

それはよくあるチャレンジメニューだった。しかしアサシンは気がつく。店の中は異様な辛さが鼻につく辣油の臭いが充満している事に。

 

 

「馬鹿な……この私でも五皿が限度だというのに……!!」

「え?劇薬?劇薬なのその麻婆って」

「お、お、おぉ……!!完食しやがったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

客たちが信じられないものでも見るかのような目でチャレンジメニューの麻婆を完食した人物を見ている。

 

 

「ヒャッハー!!これで賞金は俺の物だぁ!!」

 

 

喜びからかチャレンジメニューを完食した人物がテーブルに片足を乗せて上着をブンブンと振り回している。そしてアサシンはその人物の顔を見てしまった。

 

 

「……バーサーカー!?」

「ん?」

 

 

チャレンジメニューに挑戦していたのは昨夜戦ったばかりの元バーサーカーこと時雨だった。時雨は予想外過ぎて思わず声をあげてしまったアサシンを視界に捉える。

 

 

「すんませ〜ん、邪魔なんで退いてもらっていいっすか?」

「あぁ、済まなかったな」

「いえいえ……って、アサシン?」

 

 

そしてまだまだ続く。新たな来店者は白のワイシャツに白と金のジーンズを履いたライダーだった。その背後にはマスターのウェイバーに昨夜に呼び出されたユーシェと雫が現代風の服装で立っている。

 

 

これは偶然か、それとも必然か。泰山の店に三騎のサーヴァントが集まった。

 

 

 





時雨様の行動
雁夜の死体があったので夜が明けてから遺体を間桐に持ち帰る。そして桜に憎まれ口を叩いてわざと嫌われ役になった。前者は死体があるのなら弔ってもらうべきだという考えから、後者は雁夜の死んだ原因は全て時雨にあるのだと桜に刷り込ませるため。前者は説明しないが後者は桜が自分のせいで雁夜が死んだのだと思わせないようにする為。

時雨様の企み
蟲蔵跡地に行って何かをやって来たようです。

泰山
食すだけでバッドエンドを迎える麻婆が置いてある店。綺礼の行きつけでもある。


感想、評価をお待ちしています。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。