せーはいせんそー   作:鎌鼬

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ふぁーすとこんたくと・3

 

 

「あぁ……あぁ……そうだ、一時的に封鎖してくれれば良い。アサシンのサーヴァントが宝具で直してくれるらしいのでな……そのように頼む」

 

 

教会で電話をかけているのは聖杯戦争の監督役として選ばれた老年の神父言峰璃正。電話の相手は聖杯戦争のパックアップを務めるスタッフと呼ばれている集団。神秘は秘匿しなければならないのでスタッフが聖杯戦争で出来た痕跡を消去したり、テロなどと偽って誤魔化しているのだ。

 

 

その隣で椅子に座り目を瞑っているのは言峰綺礼。彼はアサシンと視界共有をして、宝具でひいこら言いながらコンテナ置き場を直しているアサシンの姿を想像して口角を持ち上げていた。

 

 

「コンテナ置き場についてはこれで良し……だが綺礼よ、分かっているな?」

「……はい、虚偽の申告をしたことに関するペナルティーですね?」

 

 

綺礼は表向きでは先日敗れたアサシンのマスターとして教会に保護されていた。が、今日の戦闘でアサシンの生存が明るみに出てしまった。綺礼とアーチャーのマスターである遠坂時臣、そして監督役であるはずの璃正は手を組んでいた。公平であることを歌っているのにだ。そこで璃正が決めたのはすべて綺礼の独断で行ったことにしてしまうこと。虚偽の申告をしたということで教会からペナルティーを与えれば他のマスターからの糾弾を逃れることが出来る。

 

 

綺礼もその考えに至っていたらしく、アサシンとの視界共有を切り椅子から立ち上がった。そして令呪の刻まれている右手を璃正に差し出す。璃正が綺礼の右手に手を翳し、何やら聖書の一文らしき言葉を呟くと綺礼の令呪が一画減っていた。

 

 

「アサシンのマスター言峰綺礼、虚偽の申告をしたペナルティーとして令呪一画を剥奪する」

「分かりました。それではアサシンが戻り次第、私は時臣師の元に向かいます」

「うむ、あの戦闘を見られていればどの陣営もアサシンとアーチャーの同盟を考えるだろう。良かったでは無いか、これで堂々と遠坂邸に出入りする事が出来るぞ」

「全くです。師は確かに魔術師としては優秀ですがどうも戦術という物を理解していない。分からないと言ってくれればよろしいのですが見栄なのか中途半端な作戦を練ってしたり顔されると……」

「ストップだ綺礼、それ以上はいけない」

 

 

一応でも師に当たり、同盟相手でもある時臣の事をディスっている綺礼を璃正は止める。綺礼は不満げだがそれでも口を止めてくれた。

 

 

綺礼の本性はどうしようも無い畜生である。人の不幸を悦び、苦しむ様を見て愉しむという腐りきった性根。綺礼がそれを自覚したのはたった二年とはいえ連れ添っていた妻を亡くした時だった。霊媒体質のせいで骨と皮だけになり、苦しみ抜いて死んだ妻を見て綺礼は自分が殺したかったと無意識の内に呟いた。そして自分がどうしようも無い畜生であることを知ってしまった。

 

 

己の性根を知ってしまった綺礼は悩みに悩み、それを璃正に告発した。自分は悪徳を知ってしまったと、苦しみながら生きた妻を汚してしまったと、涙を流して告げたのだ。それをすべて聞いた璃正は綺礼の顔面を殴り、そして抱き締めた。

 

 

確かに、綺礼の性根は彼らの信じる道においては悪徳と蔑まれる物である。最初の殴打はそんな悪徳を知ってしまった者を罰するための物。だが、それが息子の性根と知ってなお、親は子を拒絶する事が出来るだろうか?その答えは千差万別であるが璃正の答えは否だった。老いた身でようやく授かった愛しい我が子、その性根を今まで知る事が出来なかった自分こそが悪であると璃正は涙と共に謝罪をした。

 

 

そして彼らは苦悩した。確かに宗教家としての璃正は綺礼の性根を正さねばならないが家族としての璃正はようやく自分というものに意味を見出した綺礼の性根を変えるようなことをしたくなかったのだ。そこでーーー綺礼の所属している代行者に目を付けた。異端討伐の殺人部隊と揶揄されるそこで綺礼は異端者を甚振る事で己の欲を満たしていた。

 

 

そんな時に、綺礼の手に令呪が現れた。それは冬木の地で行われる聖杯戦争の参加権。万能の願望機である聖杯など綺礼には不要な物だった。なので璃正に連絡して令呪の引き取りを頼もうとしたが璃正から待ったを掛けられた。なんでも璃正の知人に聖杯戦争を開始した子孫がいるらしく、何処からか綺礼が令呪を宿したことを聞きつけて同盟を組みたいと言っているそうだ。

 

 

その申し出は聖堂教会の組織からしても嬉しいものだった。冬木の聖杯は神の御子の聖遺物である聖杯とはまったく別物の願望機だとはすでに知られている。たが放置するにしては危険過ぎるし、異端として排除しようにしても教会と反する組織である魔術協会との衝突が避けられなくなってしまう。そこで聖堂教会は目的がはっきりしている物ーーーすなわち遠坂に聖杯を取らせることにしたのだ。

 

 

こうして綺礼は聖堂教会から辞令を受けて魔術協会へと転属して遠坂時臣の弟子となった。

 

 

そして璃正が監督役として配属され、時臣曰く万全の布陣で聖杯戦争にへと望んだわけであるが……

 

 

「やはり、あのバーサーカーかね?」

「えぇ、サーヴァントはこちらよりも上の存在だと知っていましたがアレは化物としか言いようが無いです」

 

 

綺礼の頭の中にあるのはアサシンの剣、ランサーの槍、キャスターの魔術や中国拳法を受けながらも戦い続けたバーサーカーの姿。アサシンならば殺しきれるとのことで、それはバーサーカーのあの反応を見る限り本当なのだろう。しかしそのためにはアサシンの使用回数の定められているスキルを使わなければならない。

 

 

それでも……あのバーサーカーが倒されて、屈服させられている姿を思うと笑いを堪えられなかった。

 

 

「フフッ……フフフフ……」

「ただいまーっと……うわ、マスターがまた邪悪な笑みを浮かべてる……」

「いつもの事だよ。それよりもご苦労だった、紅茶でも淹れよう。そこに掛けて待っていなさい」

「あ、いただきまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

冬木ハイアットホテル三十二階、高級ホテルとして用意された部屋の一室では全身煤だらけの金髪オールバックの男性がソファーに身体を預けて一息ついていた。彼はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。その顔は青白くなっており、冬だというのに大量の汗をかいている。

 

 

「どうだったかね?初めての殺し合いの感想は」

 

 

そんなケイネスの顔にタオルをかけたのはコンテナ置き場にいたサーヴァントの一騎であるランサー。彼は冷蔵庫から出したであろう缶ビールを器用に片手で開けながらケイネスに尋ねた。

 

 

「……これが……聖杯戦争か……」

「イメージしていた物と違っていたかね?名前に戦争と付いているのに君はこの戦いをルールの定められた決闘だと勘違いしていたな。それを鑑みれば今日の一戦は価値のあるものだったと言える」

 

 

ケイネスは魔術協会に所属している名門出身の魔術師、時計塔において降霊科(ユリフィス)随一の神童と謳われていた。そう呼ばれるだけの実力と才能があった。魔術師としてのプライドがあった。だが、それは所詮時計塔の中だけだと思い知らされた。

 

 

ケイネスの脳裏に思い浮かぶのはバーサーカー。クレーンを蹴り飛ばし、あろうことか停泊していた船を投げ飛ばすという常識など知らぬ存知ぬと言わんばかりの戦い、それはまさしく天災と呼べる災害だった。一秒後に死が訪れてもおかしく無い時間。それを目の当たりにした瞬間、ケイネスの中で何かが砕ける音がした。

 

 

クレーンの時はケイネスがいる地点まで被害は及ばなかったが船を投げ飛ばした時の被害はケイネスの礼装で防ぐことが出来たがランサーが来るまで一歩も動くことが出来なかったのだ。

 

 

「あれが……英霊の戦いだというのか……」

「あれは控えめに言っても規格外な方だ、正直生きていることが信じられん。見ろ、手が震えてる」

「英霊の癖して怖いのか?」

「あぁ怖いさ……英霊とは言っても元は唯の人間だ。知っていると思うが私が魔王討伐に参加しなかった理由は面倒半分、恐怖半分だぞ?」

 

 

ランサーがそう言ったのにケイネスは心当たりがあった。ランサーは平行世界の元々は平凡な日本人だった。しかし異世界召喚と呼ばれる現象で異世界に呼び出された。そしてそこで目覚めた魔術の才能でランサーは名の知れた魔術師となり、現れた魔王の討伐を国から言い渡された。だが、ランサーはそれを断った。理由はさっきランサーが言った通りなのだろう。

 

 

「それでも……参加したのだろう?一体どうして……」

「……さぁ、どうしてだったかな?それよりもケイネス、今なら引き返せるぞ。まぁその為にはアサシンが死んだと虚偽申告したマスターのいる教会に訪れなければならんのだがな」

 

 

ランサーが分かりやすい誤魔化しをしたが今のケイネスの問題はそこだろう。ランサーから見てケイネスは心が折れているのが分かる。その事を分かっているケイネスだからその誤魔化しを訂正しなかった。

 

 

「……ランサー、お前は私がこの戦いを生き残れないと思うか?」

「さてな、これは戦争だ。武人として名を轟かせている兵士があっさりと死ぬことがあれば未熟な新兵が無傷で生き残ることもある。お前がどちらなのかは聖杯戦争が終わるまで分からんよ」

 

 

それを聞いたケイネスは少しの間沈黙し、突然立ち上がった。そして驚いているランサーを尻目にケイネスはシャワールームへと入る。出てきた時にはケイネスの顔と髪は濡れていた。

 

 

「ランサー、計画の練り直しだ」

「……どうやら、決意は固まったみたいだな」

「ふん、少し驚いていただけだ」

 

 

濡れた髪を掻き上げながらそう言うケイネスを見てランサーは笑っていた。確かに、ケイネスは聖杯戦争の実態を知らなかった。それ故に心が折れた。だが、ここにいるケイネスは聖杯戦争の実態を知り再起した。ランサーから見てもさっきまでのケイネスよりも生き残る確率が上がったことがわかった。

 

 

「先の戦い、ランサーはどう考えた?」

「ふむ……キャスターは相性から大丈夫だと思うがそれはキャスターは他の手を隠していない場合だな。互いに宝具を見せていないしあると思って間違い無いだろう」

「なるほど……現段階で得られているのはキャスターとアサシンの情報だけ……」

「バーサーカーは?」

「正しく規格外だな。筋力、耐久、敏捷、すべてがEXだった」

 

 

ケイネスが看破したバーサーカーのステータス、それは近接戦において必要と思われるステータスがすべて測定不能の域に達しているとのことだった。

 

 

「……ランサー、今日はもう休め。疲れている今ではマトモな考えは出てこないだろうからな」

「ならそうさせてもらうが……ケイネスも休んでおけ。思っているよりも疲労しているだろうからな」

「言われるまでもなく分かっている」

 

 

口が悪いように思えるかもしれないがランサーはケイネスのことを嫌っていないし、ケイネスもランサーのことを嫌っていない。これがこの陣営の形なのだ。

 

 

ランサーはビールを空けると霊体化して姿を消し、ケイネスは寝室に向かい明かりを消す。

 

 

再起した神童は、この聖杯戦争を生き残ることができるだろうか?

 

 

 





アサシン陣営、綺礼覚醒済み。ただし璃正パパとの話し合いにより、異端を虐めることで愉悦してます。
ペナルティーについては軽いかな?と思ったり。でも実質二度しか使えない命令権の内の一つを奪っているわけですから妥当だと思うんですけどね。

ランサー陣営、ケイネス先生覚醒。心が折れてからランサーの挑発に近い言葉で立ち直ります。
ランサーは魔王討伐という名の戦争経験者なので先達としてケイネスにアドバイスした感じですね。

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