「……」
冬木の河川敷に設置されている排水口、それを遡っていった奥にある貯水槽に少女のように見える少年が一人でいた。魔術で投影して映し出している映像は昨夜行われたコンテナ置き場での戦闘。少年はサーヴァントたちの戦いを見ながらも注視しているのは規格外としか呼べないステータスと桁外れの再生能力を持っているバーサーカー。
「こいつがいれば……」
少年は悪巧みを思い付いたような笑みを浮かべながら映像の中に映るバーサーカーを見る。
彼そこが今回の聖杯戦争でまだ姿を見せていない最後のサーヴァント。最優のクラスであると言われているセイバーだった。
サーヴァントであるものの、彼の側にはマスターと呼べる者はいない。彼のマスターはサイコパスで、連続殺人犯だった。正規の魔術師でも無く、ただ魔術回路を持っていただけの殺人鬼を聖杯は数合わせの為にマスターにし、セイバーを召喚させた。
セイバーが呼び出された時に見た光景は返り血を浴びながら惚けているマスターの殺人鬼、ロープで縛られて恐怖で震えている少年、そして解体されている少年の家族と思わしき人間たちの死体だった。
それを見たセイバーは殺人鬼を気絶させ、生前に習得していた魔術で少年からその日の記憶を消す。そして警察を呼び出して殺人鬼を逮捕させた。
殺人鬼の持っていた令呪は一画を残してセイバーが回収している。殺人鬼はマスターであることも知らず、ただセイバーに魔力を送るだけの存在になっている。
セイバーには叶えたい願いがあった。その為ならば、どんな非道な手でも行う覚悟を持っている。そこで目を付けたのはバーサーカー。あのサーヴァントの命令権を奪えばこの聖杯戦争には勝利したも同然だ。
既にバーサーカーのマスターの居場所は捕捉してあるし、セイバーにはそれが出来るだけの技術もある。後は楽にバーサーカーを手に入れるか少し苦労してバーサーカーを手に入れるかの違いでしかなかった。
「……行こう」
時刻は午後十一時、動くには丁度いい時間帯だ。浮かんでいた映像を消してセイバーは霊体化する。向かう先は御三家の一つに数えられている間桐邸。
聖杯戦争に勝利する為に、セイバーは動き出した。
間桐邸の地下室、一族からは蟲蔵と呼ばれていた部屋で一人の男が死にかけていた。頭髪は白く染まり、顔面の半分を壊死させ、身体の自由が利かない状態になりながら生きているのは間桐雁夜、昨夜に圧倒的な
彼は元は真っ当な魔術師では無い。間桐の魔術に憎悪し、家を出奔したが幼馴染の娘が間桐の養子になったと聞いてこの家に戻って来たのだ。そしてその娘を救う為に憎悪していた間桐の魔術に身を堕とし、急造でマスターとなったのだ。
「雁夜、生きているか?」
「……生きてるよ」
蟲蔵に一人の男がやって来る。彼は間桐鶴野、雁夜の実兄にして現間桐家の当主でもある。彼の手には皿に盛られたスープがある。急造の魔術師である雁夜の身体はほとんど死にかけている。その事を気遣って液体であるが栄養の取れるものを持って来たのだ。
「ほら飯だ、無理かもしれないが入れておけ。でないと聖杯戦争が終わるまで持たないぞ」
「分かってるよ……」
雁夜はそう言いながら床に置かれたスープをスプーンで掬おうとするが、スプーンを落としてしまう。スプーンを持てる程の握力が無いのだ。
「……雁夜、このままじゃお前、聖杯戦争が終わる前に死ぬぞ」
「……そうだな」
「兄としては死なないで欲しいんだけどな。桜もお前に懐いてる。俺としてはバーサーカーを自害させて身体の治療をして欲しいんだが……」
「それは出来ない」
「だろうな」
間を置かずに返された返事に分かっていたのか鶴野は肩をすくめる。始めは娘ーーー桜を救う為に聖杯戦争に参加した雁夜だったが今では別の望みがある事を鶴野は知っているからだ。
それにバーサーカーは間桐の呪縛から解放してくれた恩人でもある。
それはバーサーカーが召喚された直後、蟲蔵で行われたサーヴァントの召喚には雁夜と鶴野、それに実質的に間桐の実験を握っている間桐臓硯がいた。雁夜はその身に植え付けられた刻印虫が己の肉を喰らう激痛に耐えながら願ったのだ。
あの子を救いたい。己の愛した女の愛し子であるあの子を救いたい。その為ならこの命など惜しくないと。
その思いに応えるように召喚されたバーサーカーは呼び出されて即座に臓硯を殺した。五百年の永き時を生き、他人の肉体を奪いながら生き長らえる妖怪をまるで塵でも払うかのように容易く殺した。そしてバーサーカーは間桐臓硯だった残骸を貪った。その時は何をしているのか分からなかったが今なら臓硯の残骸から魔力を補給していたのだろうと理解できる。
妖怪を容易く殺し、その残骸を貪ったバーサーカーは唖然としている雁夜の前に立ち、膝を着いて頭を垂れた。バーサーカーとして呼ばれた筈なのに忠誠を誓っているかのような態度を取ったのだ。それを見て雁夜は意識を失った。
そしてサーヴァントと契約したことで出来た繋がりから断片的にバーサーカーのことを知る事が出来た。
この世界とは別の世界に産まれ、人としての底辺でゴミを貪り泥水を啜りながら生き、そして魔女と呼ばれる女に拾われた。
愛していた、大事だと思った母を正義を謳う組織に殺されかけて殺し、怒り狂ったその憎悪。
死に果てたはずなのに転生し、そこで得た新しい繋がり。
その繋がりさえも、身勝手な魔術師によって奪われかけた。
ーーー正義?そんなものになるつもりなど無いし、正義を語るつもりも無い。俺にとって家族は世界よりも大切で愛おしい存在なのだ。 家族が世界を殺す毒となって世界から排除されるというのなら、俺は世界を殺し家族を守ろう。
まさに狂的としか言えなかったその生き様。だが雁夜はその生き様に共感してしまった。バーサーカーの誓いが、目も眩む程に眩しかったのだ。
バーサーカーの記憶を見て、目覚めた雁夜は考えた。桜を間桐の家から解き放つことは出来た。だがそれを作り出した原因である桜の肉親、遠坂時臣をどうするのかと。どんな理由があったとしても間桐に桜を養子に出した時点で雁夜の中では大罪である。
だから決めたのだ。この魔術師たちの狂った宴を、徹底的に壊してやる事を。
「聖杯戦争その物の消滅、ねぇ」
「サーヴァントを全部殺し尽くして聖杯に自壊を願う。それが駄目だとしてもバーサーカーに聖杯を壊させれば良い」
「ふーん……ま、俺は聖杯戦争に関わるつもりは無い。臓硯が死んだところで間桐を存続させ無いと慎二や桜を養えないからな」
雁夜に食べさせて空になった皿を持ち上げて鶴野は言う。間桐臓硯と言う間桐の家の呪縛とも言える妖怪は死んだが間桐の家そのものが潰えた訳ではないのだ。今は留学という名目で冬木から避難させている実子の慎二と、臓硯の呪縛から解放された養子の桜の二人を育てるという親としての義務が鶴野にはある。だから鶴野は聖杯戦争に参加しない。ここで死んで、二人を残すわけにはいかないから。
雁夜はその事に気付きながら苦笑いをして蟲蔵から出て行く鶴野を見送る。そしてバーサーカーに供給する魔力を作る為に横になろうとした時に新たな来訪者の存在に気付いた。
「おじさん……」
「桜ちゃん」
その正体は桜、間桐の魔術に適応させる為に臓硯によって蟲に陵辱されていた少女である。彼女にとってこの蟲蔵はトラウマその物であると言っても過言では無い。だと言うのに彼女は雁夜の事を気にかけて蟲蔵に足を運んだのだ。
「おじさん、大丈夫?」
「うん、おじさんは元気だよ」
実際雁夜の身体はもう死にかけている。あと一週間も生きれたら良い方だろう。雁夜もその事に気付いているが桜に心配をさせたく無いと嘯く。
「桜ちゃん、心配しなくて良いんだよ。もう臓硯はいない、もう直ぐに葵さんや凛ちゃんにまた会えるから」
「ほんとうに?」
「本当だよ、今までにおじさんが嘘ついた事があったかい?」
「……ううん」
「だろ?だから心配しなくて良いんだ。ほら、もう遅いからもう寝よう。また明日話そう」
「分かった……お休みなさい」
「あぁ、おやすみ」
何度も振り返りながら蟲蔵から出て行く桜を雁夜は笑いながら見送る。そして桜が蟲蔵から出て行き、扉が閉められたのを確認した瞬間に雁夜は崩れ落ちた。本当なら桜と話できるだけの体力も無いのに気力だけで持ち堪えたのだ。
「(……バーサーカー)」
ラインによって可能となった念話で呼び掛けると蟲蔵の暗がりからバーサーカーが姿を現した。雁夜の指示が無い限り、バーサーカーは霊体化して魔力の消費を抑えようとしているらしい。本当に狂っているのか怪しくなるのだが少なくとも雁夜はバーサーカーの事を信頼していた。
「(俺は屑だ。間桐の家から逃げ出して、兄貴と桜ちゃんに全てを押し付けてしまった屑野郎だ。だけど……その屑でも、まだやれる事が残ってる。俺はこの聖杯戦争を終わらせる、そして聖杯戦争なんてものをこの冬木から完全に根絶させる。バーサーカーにも何か望みがあって呼び出されたのかもしれない。だけどそれが今の俺の願いなんだ……それでも、俺のことをマスターと言って従ってくれるか?)」
狂化して、理性の無いはずのバーサーカーに雁夜は話しかける。聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは基本的に何かしらの願いを持って呼び出されるのだ。だが、雁夜の願いはそのサーヴァントの願いを叶えさせないと言っているのと同じだ。バーサーカー以外のサーヴァントなら反逆されて殺されても文句は言えない。
だが、バーサーカーはそれを聞いて呼び出された日と同じ様に膝を着いて頭を垂れた。どんな願いであったとしても、この身はマスターに従うと言っているかの様に。
「あり、がと……」
それを見て雁夜は意識を失った。
「ん……」
雁夜が再び意識を取り戻す。時計を確認すれば時刻は午後の十一時、気絶したせいか身体の調子が若干良くなっている。
「……」
雁夜は死にかけている。そのせいか気配にやたらと敏感になっているところがあった。ラインを頼りにしなくても霊体化しているバーサーカーのおおよその場所は理解出来るし、蟲蔵に誰かが近づいているもの分かる。その雁夜の感覚が、この蟲蔵にバーサーカー意外のサーヴァントがいる事を教えていた。
「出てこいよ」
「ーーー分かりましたか?」
雁夜の声に応える様に、虚空から少女の様な少年、セイバーのサーヴァントが姿を現した。
セイバー陣営登場。
現在セイバーはマスター龍ちゃんだが令呪を奪い取って単なる魔力タンクとして利用しているだけ。龍ちゃんは逮捕されてブタ箱に入れられてます。
バーサーカー陣営。
臓硯はバーサーカーの召喚と同時にバーサーカーにモグモグされました。これで悪は滅びた……
おじさんはバーサーカーの記憶から聖杯戦争の根絶を願いにしています。聖杯戦争なんてものがあるから臓硯の様な化け物が、時臣のような魔術師が産まれてしまうんだ!!という若干錯乱した思考。
そしておじさん原作よりも瀕死な状態。そりゃあ馬鹿げた再生能力持つバーサーカーの魔力供給してたら死にかけるよ……なので原作のように下水道では無くて間桐家にヒッキー状態。
感想、評価をお待ちしています。