「死ぬかと思った死ぬかと思った……!!」
令呪の命令によって切嗣の元に強制的に転移されたキャスターは車の中にいた。運転席には舞弥、助手席にはアイリスフィール、後部座席には銃を持った切嗣が座っている。
「感覚共有をしていがよく生きていられたな」
「元バーサーカーが本気じゃなかったからですよ。もし本気だったら宝具出す前に殺られてました。あの人多分生前は相手が本気を出す前に殺すタイプの人間ですよ」
息を整えているキャスターに切嗣は窓を開けて離れていくアインツベルンの森を警戒しながら話しかける。
今回のバーサーカーの強襲は切嗣にとって予想外のことだった。魔術師用に現代兵器によるブービートラップを仕掛けているがそれはあくまで人間を対象にした物。間違ってもサーヴァント相手に効果のある代物ではない。
そして雁夜が令呪を使って時雨の理性を取り戻させたのと同時に切嗣はアインツベルン城を破棄して逃げることを決めた。それは英断だったといえる。もしあのまま城に立て籠もって時雨が城を標的にして襲われていたら逃げれる保証はなかった。拠点を失うという損失はあるものの予備の拠点は幾つか確保してあるし、キャスターも健在なのでまだ立て直しが効く状況だった。
「それにしても令呪を使って受肉させるか……アイリ、そんなことは出来るのか?」
「……出来なくは無いと思うわ。でもきっとその受肉は完全なものじゃ無いはずよ。多分魔力の精製が出来ないとか、そんな不完全な受肉じゃないかしら?」
「そうか……」
時雨の受肉が不完全なものだったとわかったものの切嗣の顔は晴れない。何故なら現状況でマスターのいないサーヴァントが一騎野放しになっているから。マスターのいないサーヴァントは魔力を得るために魂喰らいをして魔力を得ようとするだろう。そうなれば一般人への被害が出て最悪聖杯戦争が中止になる可能性が出るからだ。
そのためになんとか時雨を排除しようと考えていた切嗣の目の前には雨の様にアインツベルンの森に降りそそぐ魔力弾。恐らくアーチャーがバーサーカーを攻撃しているのだろうと切嗣は判断した。そして次に巨大な魔力弾が放たれる。魔術として組み立てられていない純粋な魔力を叩きつける攻撃は対魔力持ちでもそこそこの手傷を負うだろうと切嗣は判断した。
そして、その魔力弾は突如として二つに分かれて霧散して消えた。
「死ぬかと思った死ぬかと思った……!!」
アサシンが転移した先は遠坂邸の屋上、そこにはマスターの綺礼と時臣、そして制服ではなく赤い鎧を身に纏ったアーチャーの姿があった。
「アサシンさん、大丈夫ですか?」
「狂ってた時の方がマシってどんな化け物だよ……!!」
「そうか……師よ、やはりここであのバーサーカーは叩くべきです」
「そうだね綺礼、マスターがいなくなった今ならばあのバーサーカーを倒すのは難しい話では無いだろう。アーチャー」
「了解です」
アーチャーが手をアインツベルンの森に向けて差し出すと魔力弾が放たれた。さっきまでの魔力弾が狙撃だとするなら今の魔力弾は散弾、点では無く面を攻撃することで相手の行動を制限して削る攻撃だ。
狙いはバーサーカーである時雨の魔力切れ。アサシンを通して綺礼から時雨の狂化の解除と受肉したことを聞かされているが、時臣はその受肉が不完成なものであることを看破し、魔力が切れれば消滅するだろうと判断したからだ。
アサシンの転移の理由はこの広範囲攻撃から避難させるためでもある。例えアサシンでもこれだけの広範囲で攻撃されれば被弾して消耗するだろう。初日から濃いから忘れているかもしれないがまだ聖杯戦争が開始されてから二日、盤面としては序盤も良いとこだ。そんな早い段階でアサシンを消耗させる理由は無い。
魔力の散弾がアインツベルンの森の時雨がいる一帯に降りそそぐ。アインツベルンからこのことで敵視されるだろうがアサシンからの情報でアインツベルンも時雨のことを警戒していたので倒すのなら見逃してくれるだろうと時臣は判断する。
豪雨の様に降りそそぐ魔力弾。時臣や綺礼があそこにいたら多少の誤差はあるだろうが死を覚悟する程の量。だが、それだけの攻撃をしているというのにアーチャーの顔色は良いものではなかった。
「どうかしたかね?」
「……避けられています、それも踊ってるみたいに……あ、本当に踊り始めました」
「……は?」
アーチャーからの報告を聞いて時臣は唖然とする。アレだけの攻撃をされているというのに踊るというふざけたことをする時雨が信じられなかったから。だが時臣以外はあれだけの攻撃をされてなお時雨には踊れるだけの余裕があると判断する。
「……ドライグ」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
「ドラゴンショット」
十度のBoostという機械じみた音声の後に巨大な魔力弾が放たれた。その魔力は量だけで言えば大魔術の領域に達している。
「アーチャー!?」
「あの踊りにイラっとしてやりました、反省も後悔もしていません」
そう言い切ったアーチャーの顔は実に清々しいものだった。どんな踊りを踊っていたのか知らないがあのアーチャーがイラついたと聞いて相当ウザい踊りを踊ったのだろうとアサシンは思った。
時臣の頭の中にあるのはあの魔力弾の着弾によって出来る被害。多少ならば教会が隠蔽してくれるが余りにも大きすぎると隠し切れずに最悪ペナルティーを与えられるかもしれないのだ。ちなみにその時綺礼はまたこき使われるだろうアサシンの姿を想像して愉悦っていた。アサシンの背中に言いようのない寒気が走る。
だが、時臣が心配していた事態にはならなかった。アーチャーが放った魔力弾、それが着弾寸前で真っ二つに両断されて霧散したからだ。
「なっ!?」
『イッセー!!避けろ!!』
それに驚くアーチャーに鎧から慌てた様な声が聞こえる。アーチャーがその声に従い半身ほどその場から退いた瞬間に、アーチャーの鎧に傷が刻まれた。
「嘘、でしょ……」
『俺も嘘と思いたいが事実だ……信じられん、本当に人間なのか、あの男は……』
「い、一体何が!?」
「……
「ーーーな」
時臣はそれだけ声を出してフリーズした。それはそうだろう、ここからアインツベルンの森にいる時雨との距離は十数キロは優に開いている。それなのにあの魔力弾を切りながらアーチャーに届かせるなど、神業を超えた魔技と言うしかなかった。
『……一つ報告がある。あの男から受けた鎧の傷が直らん……あいつの持っている武器が龍殺しの可能性がある』
「ドライグ、大丈夫ですか?」
『あぁ、この程度ならなんら支障は無い』
アーチャーは鎧に刻まれた傷を撫でながら時雨を観察した。持っている武器は日本刀、それで龍殺しと言われれば幾つか候補が挙がるが蒼い炎を出すとなると無くなってしまう。
そしてその時に時雨が動いた。何やら上を指差して口を動かしている。口の動きから何とか何を言っていたかをアーチャーは知ることが出来た。
「……お仕置きだ、降れい神の杖、裁きを受けよ、ロッズフロムゴッド?」
「っ!?アーチャー!!上だ!!」
先に気が付いたのはアサシン。その言葉に続く様に上空からシャレにならない程の圧迫感が近づいて来るのを感じた。鷹の眼と称されるアーチャーの視力がその圧迫感の正体を捉える。
それは棒状の金属、衛星軌道上から放たれたそれは音速の十倍の速度で遠坂邸ーーー正確にはアーチャー目掛けて落ちていた。
「っ!!アルビオン!!」
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』
その脅威を悟ったアーチャーは先程まで纏っていた赤い鎧では無く白い鎧を身に纏い、落ちてくる金属に向けて手を伸ばした。
『Half Dimension!!』
赤い鎧と同じように機械じみた音声が聞こえ、金属の体積が半減する。だが、それでも神の杖は止まらない。
「まだーーー!!」
『Half Dimension!』
二度目の半減、それと同時にアーチャーに神の杖が落ちてきた。伸ばした手でそれを受け止め、さらに背中にあるブースターを全力で吹かして神の杖の威力に対抗する。神の杖が止まった時には遠坂邸の屋上が廃屋かと見間違う程に荒れていたがこれだけの被害で納められたことを喜ぶべきだろう。あれがそのまま落ちていたら最低でも遠坂邸を中心に数キロに被害が出ていたはずだ。
「はぁはぁ……」
アーチャーは冷や汗をかきながらこれだけの被害で納められたことを安堵しつつ、時雨の恐ろしさを脳裏に刻み込んだ。
キャスター陣営
このままここにいたら巻き添えを食らうと切嗣が判断してバーサーカーから時雨様になった時点でアインツベルンの城から脱出、森から出てからキャスターを呼び出した。
アーチャー&アサシン陣営
ハサンダンス&ニートダンスでイラっとしたアーチャーの手によって巨大魔力弾を放つものの時雨様によって一刀両断され、鎧に傷を付けられる。その後時雨様はお仕置きと称して神の杖を投下した模様。おしおきとはいったい……
時雨様式ロッズ・フロム・ゴッド
降れい神の杖!!裁きを受けよ!!ロッズ・フロォム・・・・ゴォ↑ォォ↓ッド!!!
そろそろ分かる方にはアーチャーの正体がバレそうになってますね。
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