IS 千の冬の物語   作:smsm

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学園篇スタートです。


第7話

(……IS学園に、こんな施設があったなんて…。)

 

川に飛び込み追手を撒くことに成功した凪は、凍え死にそうになりながらも、なんとか千冬と合流することが出来たのだった。冷えた身体を温めるために風呂に入った後、千冬に連れられてやってきたのが……IS学園の地下で、今はその中のこじんまりとした部屋にいた。

 

(……誰かの部屋なのか?)

 

凪が通された部屋には、ベットや机の他にも、空の本棚や電気スタンドまで置いてあった。しかしながら、ベット以外は新品と思われるものがほとんどで、誰かが『居た』ことはあっても、『住んで』いる形跡はなかった。

すると、

 

「お待たせしました。」

 

そう言って扉を開き部屋へ入って来たのは……初老の男女(夫婦だろうか?)と水色の髪をした女の子、それと織斑先生だった。

 

「い、いえいえ。そんなことはありません。」

「そうですか?……と、自己紹介がまだでしたね。私は学園長を務めています、轡 芳恵(よしえ)と申します。こちらが夫の十蔵と、学園で生徒会長を務めている、更識 刀奈さんです。それと…織斑先生のことはご存知でしたね?」

「ええ。御波 凪です。この度はこちらに保護していただき、ありがとうございます。」

 

芳恵と名乗る女性と十蔵という男性、更識という少女に礼をした凪であったが、ふとした疑問が頭に浮かんだ。

 

「……夫婦で学園に?」

「はい。といっても、表立って運営するのは私で、夫にはサポートしてもらっています。普段は用務員ですが。」

「普段は……と言いますと?」

「夫のほうが顔が広く、立場が強いのですよ。特に政治の面では。IS学園であるため建前上、私が学園長ではありますが。言うなれば、夫は裏の学園長だということです。」

 

なるほど、と凪は納得した顔を見せた。国際的に一つの国家のような立場にあるというIS学園を取り仕切るには、それなりの権力が必要となるのだろう。

すると、芳恵に続く形で夫である十蔵が発言する。

 

「限界は勿論ありますけれど、ね。特に今回のようなケースでは。」

「今回…もしかすると、既に他国から色々と言われているのでは?」

「その通りです。委員会に貴方の身柄を引き渡し、男がISを動かした原因を探れ、とのことです。もう一つ加えるなら、研究を行わずに身柄を寄越せという要求も来ています。」

 

…ん?と凪は首をかしげる。前者はともかく、後者は……自分の国で研究させろということだろうか。そう思っていた凪に、十蔵はいいえ、と首を振り

 

「女性権利団体ですよ。」

 

そう答えた。

 

「あー……確かにそんなこと言いそうですね、あの人たちは。…なら、殺害目的かな?」

「そうでしょうね。拷問付きかもしれませんよ?」

 

十蔵の言葉に心底嫌そうな顔をした凪に、芳恵が言葉をかける。

 

「……さて、これからは貴方の今後について話をしましょうか。」

「は、はい。」

「今のところ、貴方の将来の可能性は二つ。実験体の後に死体となるか、拷問の後に死体となるか、です。死体が見つかるかも怪しいところですが。」

「嫌すぎる未来予想図ですね……。」

 

この時点で凪は若干ながら人生に諦めを感じていたのだが、

 

「しかし、もう一つ可能性があります。」

「……へ?」

「ここで教師になれば良いのですよ。」

「……えっと、意味がよく…。」

「おや。ではもう一度。…御波 凪さん、IS学園で教師をやりませんか?」

「……ええええええええ!?」

 

思わぬ芳恵の提案に驚く凪。

 

全世界が承知の通り、IS学園は女子校である。勿論、一般的な女子校に男性教員がいないわけではない。実際(教員ではないが)十蔵も職員といえば、職員である。男性教員がいることに問題は無い。

しかし、

 

「私は教員免許を持っていませんよ?!」

 

凪は、教員免許を持っていない。

さらに、今から取るにしても(日本を例にするなら)、最低でも大学に編入し2年必要で、凪の場合は高卒で企業に入社したため大学も卒業していない。最終学歴を大卒にするか、通信制の大学で単位をとるか、である。どちらも取得には時間がかかる。各国がそれほどの時間を待ってくれるとは思えなかった。

 

「そこはまあ、IS学園ですから。制度も違いますし。試験に合格したなら、ある程度は押し込めるでしょう。時間も一応、1年なら説得して用意できます。」

「勉強場所とか……。自分で言うのも何ですが独学で、たった1年で合格できるとは思えないのですが!?」

「座学なら此処で。ISの操縦などは生徒の使用時間外のアリーナで行っていただきます。講師としては……織斑先生と更識さんに任せようと思っています。とりあえず、織斑先生はこの1年は御波さんの専属教師をしてもらいます。私たち夫婦も教えるくらい可能ですし。」

「彼女も…ですか?」

 

そう言って刀奈という少女のほうを見る。目が合った彼女は、じっと凪の顔を見ていた。

 

「政治的な面もありますから、普通の教師では対応させにくいのですよ。」

「それなら、尚更ではないのですか?」

 

政治が関わるというなら、学生である彼女は教師以上に難しいのではないか。

そんな不安を感じていると、少女が口を開いた。

 

「……更識家は裏の世界にも通じているんです。そのような心配は無用ですよ。」

「裏って……。物騒な?その歳で?」

「物騒な、です。更識家は元々、日本の対暗部用暗部で今はIS学園に所属する組織なんです。私は、そこの次期頭首候補ですから。」

 

世界は広い、ということだろうか。創作でしか知らないような話に、凪は困惑している。

 

「が、学業は?学生なら勉強を疎かにするわけにもいかないだろう?」

「彼女は専用機持ちなんです。ですので、ISの技術も知識も十二分にありますし、その辺は私たちで調整しますから。」

 

轡夫妻と刀奈によって、疑問の悉くを解決されていく。「うぅん…。」と唸っているが、次が出てこない。

会話が一時的に止まると、今まで静観していた千冬が口を開いた。

 

「何を悩む必要がある?せっかくのチャンスなんだ。素直に貰っておいても損ではないだろう。」

「しかし、俺個人だけの話では、」

「お前個人の話だ、これは。お前が生きたいかどうか、というだけだろう?……私は、お前を助けたい。それでは、駄目か?」

「……。」

 

千冬はそう言って凪の目をじっと見つめる。轡たちは何も話さず、ただ成り行きを見守るだけだ。

 

「……………それでは、お願いしてもよろしいですか?」

「ああ、任せておけ。更識も良いな?」

「はい。勿論です。」

「……………決まったようですね。それなら、これをどうぞ。」

 

十蔵が机に物を重ねていく。それは……本である。しかも、分厚く、何十冊も重ねられている。

 

「え…と、これ全部……」

「はい。数学・英語・物理・化学・世界史の参考書と、わが校でも使われているIS基礎と応用の専門書です。座学ではこのくらい必要になりますね。」

「おぉう……。…『座学では』?」

「はい。あとはISの操縦に整備、身体も鍛えていただかないと。御波さんの場合は間違いなくISを教えることになるでしょうから、座学と操縦の基礎・応用は特に力を入れる必要がありますね。」

「世界史を狙ってたのですけど…。」

 

国語や日本史が無いのは、あらゆる国から生徒が来るからだろう。しかし、他の教科では駄目なのだろうか?

 

「貴方が必要とされているのはISを動かせる男性だからです。ならば、ISで他に価値を見出すしか各国を納得させることは難しいでしょう。それとも、今から何か研究でもして、ノーベル賞でも狙ってみますか?」

「……頑張り……ます。」

「ええ。それでは今日はもう遅いですから、ゆっくり休んでください。」

 

そう言い終えると轡夫婦は部屋を出ていった。

残ったのは凪と千冬、刀奈だけであったが……

 

「…………頑張りましょうね。御波さん。」

 

バタンッ

 

「…………まあ、頑張れ。明日は5時からトレーニングを開始するから、それまでには起きておいてくれ。」

 

バタンッ

 

そして、(凪以外)誰もいなくなった。

 

 

 

「やぁぁぁぁぁってやるよ!ていうか、やけくそだぁぁぁぁぁぁ!」

 

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